一話 魔族特区 1
茜色に染まりかけた西の空から強烈な日差しが降り注いでいる。
「熱い…焼ける。焦げる。灰になる…」
午後のファミレス。その外にある建物の屋上にはある一人の女性がその男子高校生を見ていた。
「あの人が、お兄ちゃん?」
私はファミレスの中にいる兄、暁古城を監視していた。
「今、何時だ?」
「もうすぐ四時よ。あと三分二十二秒」
「…もうそんな時間なのかよ。明日の追試って朝九時からだっけか」
「今夜一睡もしなけりゃ、まだあと十七時間と三分あるぜ。間に合うか?」
同じテーブルに座っていたもう一人が、他人事のような気楽な声で訊いてきた。古城は沈黙。積み上げられた教科書を無表情にしばらく眺める。
「なあ…こないだから薄々気になってたんだが」
「ん?」
「なんで俺はこんなに大量の追試を受けなきゃいけねーんだろうな?」
自問するような古城の呟きを聞いて、友人二人が顔を上げた。
「__ってか、この追試の出題範囲ってこれ、広すぎだろ。こんなのまだ授業でもやってねーぞ。おまけに週七日補習ってどういうことだ。うちの教師たちは俺になんか恨みでもあるのか‼︎」
少年の悲痛な叫びを聞いて、友人たちは互いの顔を見合わせる。同じ学校の制服を着た男子と女子が各一名。彼らの表情には、何を今さら、と呆れたような感想が浮かんでいる。
「いや…そりゃ、あるわな。恨み」
シャーペンをくるくる回しながら答えたのは短髪をツンツンに逆立てて、ヘッドフォンを首にかけた男子生徒だった。矢瀬基樹というのが彼の名前だ。
「あんだけ毎日毎日、平然と授業をサボられたらねェ舐められてると思うわよね。フツー…おまけに夏休み前のテストも無断欠席だしィ?」
「だからあれは不可抗力なんだって、いろいろ事情があったんだよ。だいたい今の俺の体質に朝イチのテストはつらいって、あれほど言ってんのにあの担任は…」
「体質って何よ?古城って花粉症かなんかだっけ?」
「ああ、いや。つまり夜型っていうか、朝起きるのが苦手っつうか」
「それって体質の問題?吸血鬼でもあるまいし」
「だよな…はは」
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「あれ?確かお兄ちゃんって第四真祖、吸血鬼じゃなかったけ?もしかして誰にも教えてないのかな?」
綾花は古城達の会話を聴いて私はそう思った。
「というかお兄ちゃん、いくら吸血鬼で朝起きるのが大変と言ってもせめてテストの日ぐらいは頑張ろうよ」
「あ、少し聞いてなかった」
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「あー…もうこんな時間?んじゃ、あたし、行くね。バイトだわ」
「バイトって、あれか?人工島管理会社の…」
「そそっ。保安部のコンピュータの保守管理ってやつ。割がいいのさ」
「いつも思うんだが、あの見た目と性格で天才プログラマーってのは反則だよなあ。いまだに信じられんっつか…確かに成績はぶっちぎりでよかったんだが」
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「えっ、バイトで管理会社の保安に…確かあそこって一般人は入れないはずと聞いてたんだけど…」
ギガフロート、人工島管理会社の保安部のコンピュータのメンテナンスをするという一般の人では入れない場所、そしてあの見た目で天才プログラマーということに驚いた。
「…ん?あっいつの間にかもう一人もいない」
「あっお兄ちゃんが外に出て行った。追いかけよう」
そして綾花が古城を追いかけるためにビルの上から降りるとファミレスの正面。交差点の向こう側。そこには黒いギターケースを背負った同じ制服姿の女子生徒が古城を待ち構えていたかのように身じろぎもせずそこに立ちけていた。
「…あれは、もしかして私と同じ獅子王機関からの監視?」
それならと綾花は物陰に隠れ懐から監視用の式神を取り出し、その少女に式神を付けた。
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「_____にしても、この暑いのだけは勘弁してくれねぇかな、くそっ」
何気ない仕草でお兄ちゃんは後ろを確認した。
そして面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「尾けられてる……んだよな?」
お兄ちゃんから十五メートルほど離れた後方を、一人の少女が歩いている。ファミレスから出てきたときに見かけた、ベースギターのギグケースを背負った少女である。
彼女が着ているのは、浅葱のものと同じ、さっきお兄ちゃんと一緒にいた少女と同じ彩海学園の女子の制服である。
綺麗な顔立ちをしているが、どことなく人に慣れない野生のネコに似た雰囲気がある。短いスカートに慣れていないのか、ときたま動きが無防備で危なっかしい。
彼女はお兄ちゃんから一定の距離を保ったまま、歩調を合わせて歩いていた。
お兄ちゃんが立ち止まると彼女も足を止め、街路樹の後ろに隠れたりもする。かといって、声をかけてくる気配もない。
明らかに尾行している。しかも本人はお兄ちゃんに気づかれていないつもりらしい。
「…凪沙の知り合いか?」
「‥様子…見てみるかな」
お兄ちゃんはそう言って近くにあったショッピングモールに入っていった。
そしてそのままゲームセンターに向かっていった。
そして少女は明らかに動揺した様子で自分の姿を隠すことも忘れて店の前で動きを止め立ち尽くしていた。
そして少しするとお兄ちゃんが店から出てきた。
それと同時に彼女も意を決してゲームセンターに入ろうとしていた。
そしてそのままお兄ちゃんと彼女は店の前でばったり鉢合わせる。
二人はしばらくの間互いに無言で見つめ合う。
そして、先に反応したのはギターケース少女のほうだった。
「だ…第四真祖!」
「オゥ、ミディスピアーチェ!アウグーリ!」
「は?」
「ワタシ、通りすがりのイタリア人です。日本語、よくわかりません。アリヴェデルチ!グラッチェ!」
「な…?⁉︎待ってください、暁 古城!」
「誰だ、おまえ?」
「わたしは獅子王機関の剣巫です。獅子王機関三聖の名により、第四真祖であるあなたの監視のために派遣されて来ました」
⁉︎何をいきなり人がいるところで第四真祖の事を言うのよ!
少し"話に"行きましょう。
「あー…悪ィ。人違いだわ。ほかを当たってくれ」
「え?人違い?え、え……?」
「…ま、待ってください!本当は人違いなんかじゃないですよね⁉︎」
「いや、監視とかそういうのはホント間に合ってるから。じゃあ、俺は急いでるんで」
そして古城はそのままショッピングモールの出口まで行き少女がついて来ないか確認するために振り返った。
そして、そこで目にした光景にぎょっと目を剥いた。
さっきのギターケース少女の行く手を遮るようにして、見知らぬ男の二人組が立っていた。
「_____ねえねえ、そこの彼女。どうしたの?逆ナン失敗?」
「退屈してるんなら、俺らと遊ぼうぜ。俺ら、給料出たばっかで金持ってるから_______」
風に乗って途切れ途切れに、男たちの声が聞こえてくる。
そして少女は冷ややかな態度で男たちを追い払おうとしたが、そのせいか、少々険悪な雰囲気になっていた。男の一人が荒っぽい声で怒鳴り、少女が刺々しい表情で言い返すのが見える。
「…いい歳こいて、中学生に手ェ出してんじゃねえよ……オッサンたち」
お高く止まってんじゃねぇ、というような意味の暴言を吐いて、男たちのどちらかが少女のスカートをめくったその時
「若雷っ____!」
「何やってるのよアホなの?」
ともう一人少女が飛び込み上手くその攻撃を上に向けさせた。
「えっ?」
「へっ?」
「ふぅ」
「い、いきなり何ですか貴女は、何故止めたんですか⁉︎」
「ん?そりゃあ、ただ単にスカートをめくっただけで吹き飛ばされるのを見てられなかったのと貴女と話すことがあったからよ」
「まぁ、取り敢えず彼を落ち着けなきゃ」
上に上げたといっても完璧に当てないようにすることはできなかったため獣人種の彼は吹き飛ばされてしまった。
「おまえ、攻魔師か____⁉︎」
そして男は色々なことが起こりすぎて混乱したのだろう。
恐怖と怒りに表情を歪ませ、魔族としての本性をあらわにする。真紅の瞳。そして牙。
「D種____!」
「____灼蹄!その女共をやっちまえ!」
「こんな街中で眷獣を使うなんて____!」
「はぁ、そこの吸血鬼さん。今すぐその眷獣を戻すなら何もせずに見逃してあげるけどどうする?」
「…はは、はははははは!」
「駄目ね、なら…」
少女は何かを呟きそして吸血鬼の隙をつき吸血鬼へ向かっていった。
「灼蹄!こっちの女をやれ!」
私は彼の懐に入り込み掌底を打つ。
「もう遅いわ。若雷っ!」
そして吸血鬼の男はそのまま獣人種の男の上に飛んでいった。
「ん?…うーん何があったんだっけ?」
そしてその衝撃で獣人種の男の目が覚めた。
「さてと貴女にも言うけど今すぐ逃げるのとその男みたいになるの、どっちがいい?」
「へ、…す、すみませんでしたぁ!」
男は攻撃された事を思い出したのか、青ざめた顔で謝ると気絶した仲間の身体を担いで走って行った。
「で、そこの二人も来てもらっていい?」
「あ、はい」
「え、何でだ?」
「あなたたちに話があるからよ」
「え、何の?」
「言ってもいいの?あなたの事についてよ」
「はぁ、わかった。行けばいいんだろ」