『弱め』な大黒柱   作:レスト00

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読者の皆様お久しぶりです。
引越しなどで、バタバタしていたので投稿遅れました。

それと、お気に入り登録が先日千人を超えました。
読者の皆様には本当に感謝を。






 

 

 唐突ではあるが、彼は甘味が好きだ。

 普段からの食事制限からストレスを全く感じないということはない。生まれた頃から、そういった離乳食に近いものしか食べてこなかったため、一般的な病人と比べ食事に対するストレスが多少なりとも少ないとは言え、似たようなものしか食べられないと言うのは十分にストレスとなった。

 その為、少量ではあるが時折食べることのできる水分を多く含んだ果物や、脂肪分が少なめの菓子類を彼が嗜好品として好きになるのは、人間として当たり前の帰結であった。

 そんな彼は今、予定通り娘とその友人と合流して――――いなかった。

 

「ほら、エニーシャ!このブリヌィも美味しいのよ!」

 

 今彼は、自身の身長よりも少し低い女の子から、ロシアのクレープのようなお菓子を手渡しで受け取っていた。

 

「カチューシャちゃん。確かに美味しいけど、僕はそんなに食べることができないんだ。ごめんね?」

 

「あ、え?そうなの?」

 

 現在彼は、ロシア料理を扱う飲食店にいた。

 事の発端は、娘たちを待っている途中にかかってきた電話である。その電話は彼の待ち人であるみほからであった。

 色々と彼の体調を聞いたりしたあと、みほはあることを切り出した。それは、黒森峰の黙って出て行った戦車道のメンバーに挨拶をしたいということ。

 それを聞いたとき、彼は当初その言葉の意味をうまく理解できなかった。

 だが、その言葉の理解が追いつくと同時に色々な懸念が彼の中に浮かび上がり始める。

 喉元まで出かかる言葉。

 その纏まっていない考えを口にする前にみほは言う。

 

「お父さんやお母さん、お姉ちゃんも勇気を出してここまで来てくれたから、私も勇気を出してみるね」

 

 その娘の言葉に、頭の中が真っ白になる。それと同時に、心配しすぎていた自分が気恥ずかしくなる。

 それを誤魔化すように、彼は親として一言返事をした。

 

「行っておいで」

 

 言葉少ないエールであるが、それは受け手次第で大きくも小さくもなる応援であった。

 その後、合流するまでもう少し待っていて欲しいことを伝えられ、彼は予定よりも長い時間待つことになったのだ。

 急にできた空き時間。その間どうしようと惚けていると、自然とその場の音が彼の耳に入ってくる。

 

「…………――――」

 

 彼が今いるのは、様々なウィンドウショップが並ぶショッピングモールの休憩所のような場所である。

 そこには休日なため、大人はもちろん子供の声や足音、そして笑い声や泣き声といった様々な音が溢れていた。

 彼は車椅子が邪魔にならないようにと、壁沿いにあるベンチに腰を下ろし、その車体をベンチの横に停めていた。送ってもらった新三郎に日当たりの良い場所まで連れてきてもらっていたため、長時間待つことになっても大丈夫と彼は根拠の薄い確信を抱く。

 その心地よい陽気と、様々に絡み合う音から彼が鼻歌を口遊むのにそんなに時間を必要としなかった。

 

「――――――――」

 

 同じベンチに座る子供が、地面に着かない足をぶらぶらと前後に振っている。

 それを主軸にリズムをとっていく。

 最初は幼い子供が好きそうなアップテンポの曲だったのが、緩やかにペースが落ちていく。

 穏やかな曲調となり、最終的には子守唄のようになる。

 そして、そんな中、彼の膝にぽてりと軽い感触が降ってくる。

 

「ん?」

 

 反射的に疑問の声を漏らしたため、曲がストップしてしまう。そこで気づく。

 どうやら、隣に座っていた子供が麗らかな日差しと、耳心地の良い歌で眠ってしまったようだ。その証拠に、膝に乗った感触は人の頭で、そこから寝息が聞こえていた。

 その休憩所にいた赤ん坊や泣いていた子供が、彼が歌い始めてから少しして穏やかな寝息を立て始めたことを彼は知る由もなかった。

 

「ぅん……」

 

 歌が止んだことが不満なのか、寝苦しそうな声が自身の膝の上から聞こえる。

 自分の鼻歌で眠ってしまったのであれば、もう少し聞かせてあげようと思った彼は、再びリズムを刻み始める。

 だがそれは、先ほどの曲ではなかった。

 

(懐かしい)

 

 その曲は、西住の家の縁側で二人の娘に聞かせた子守唄。

 当時を思い出すように、彼は膝の上の小さな頭を撫でてやる。その時間を忘れてしまいそうな感覚を覚えながら、数分という曲の終わりはやってきた。

 

「――――……ふぅ」

 

「あの、失礼ですが」

 

「え?はい」

 

 曲が終わり、一息を付いた彼にタイミングよく話しかける女性がいた。

 随分とタイミングの良い声掛けに彼は反射的に返事をする。

 

「その、膝の上で寝息を立てているのは、自分を待っていたのです。どうやらご迷惑だったようで。引き取ります」

 

 簡潔にハキハキと物事を言うその女性に、彼はどこか自身の妻を連想させられた。

 

「いや、迷惑ではありませんよ?心地よさそうに子守唄を聞いていてくれたみたいですし」

 

「――――ん、ぅん?……のんなぁ?」

 

 膝の上で眠っていた小さな眠り姫が目を覚ます。

 寝ぼけているのか、見た目通り普段からどこか舌っ足らずなその声が、輪をかけてホニャリと蕩けている。

 

「カチューシャ、お待たせして申し訳ありません。用事の全てが終わりましたので、仰っていた食事のお店に行きましょう」

 

「んぅ~~……やぁ~」

 

 何故か、彼の着物の裾を握り愚図り始める女の子。

 女性からカチューシャと呼ばれたその子は、未だに寝ぼけているらしい。

 

「おうたきくのぅ~~」

 

「お歌なら私が歌ってあげますから」

 

「やぁ~、このうたがいいの~」

 

 『この歌』と言った時に、裾を掴む力が強くなる。そこから察するに、どうやらこのカチューシャはよほど彼の子守唄がお気に召したらしい。

 

「カチューシャ、それではこの方の迷惑に――――」

 

「あの、よければその店まで送りますよ?」

 

 咄嗟にそんな言葉が彼の口から出ていた。

 

「は?いえ、しかし」

 

「ちょうど、待ち時間が伸びましたので、どうやって時間を潰そうかと思っていたところなので。あ~……でも、こんな身体なのでできればここに戻る時に誘導してもらえればありがたいのですが」

 

 どこか申し訳なさそうな彼の態度にその女性――――ノンナは目をパチクリとさせた。

 そんなこんなの出来事の後、彼は小柄な体に対して少し大型な車椅子にカチューシャを膝に乗せるようにして、冒頭のロシア料理の店まで来たのであった。

 ちなみに、店に着く頃になって二度寝から目覚めたカチューシャは自身の寝ぼけていた時の事を覚えていなかったらしく、彼の存在に到く驚いていた。

 店に行く道中と、到着してからもお互いの自己紹介をしていた。

 その際に、カチューシャとノンナの二人が戦車道関係でここに来ていることを知った彼は、自身の本名を出すことを渋り、ペンネームの方の『弥栄縁』と名乗っていた。

 ちなみに、カチューシャが高校生であることを知っても驚かなかった彼にノンナは少しだけ驚いていたりする。

 

「…………そろそろ戻らないといけないので、申し訳ないのですが誘導をお願いできませんか?」

 

「え?エニーシャ、行っちゃうの?」

 

 店員にトイレに誘導してもらった後、その帰りにこっそり会計を済ませた彼はそう切り出した。

 その彼の申し出に、先程までの元気はどこへやら、カチューシャは不安そうな声をあげた。

 

「ごめんね、さっきも言ったけれど、僕を待っている人がいるからね。また今度会おうね」

 

 そう言って、普段からあまり使わない名刺ケースから名刺を出して渡してあげる。

 

「縁って名前には、意味があるんだ」

 

「意味?」

 

「弥栄は栄える、縁はつながりって意味。人と人との縁が豊かなものになることを祈った名前なんだ。だから、カチューシャちゃんが僕との縁を願ってくれるなら、このつながりは再開をもたらしてくれるよ」

 

「ふ、ふん!……わ、私は気にしないけど、エニーシャが寂しがると可哀想だから祈っててあげるわ!」

 

「うん。どうもありがとう」

 

 微笑ましくその光景を見ているノンナや店員、そして他のお客の存在をカチューシャが気づく数秒前のやりとりである。

 

 

 

 

 

 

店に行くまでの道中

 

「そう言えば、ノンナさん」

 

「はい?」

 

「貴女が来る前に、僕たちの周りに不審者はいませんでしたか?」

 

「不審者……ですか」

 

「ええ。何かを切る音が聞こえたのですけど、あれってカメラのシャッター音だったと思うので」

 

「………………」

 

「ノンナさん?」

 

「………………いえ、心当たりはありませんね」

 

「?そうですか」

 

 

 





本作のカチューシャは作者の勝手なイメージでできています。
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