『弱め』な大黒柱   作:レスト00

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お久しぶりです。
生存報告を兼ねた投稿になります。
色々と最近忙しいので書く暇が無く、もう一つの方の小説と同時進行で書いているので本編の更新はもう少しお待ちください。

読んで少しでも楽しんでいただければ幸いです。

今回は時系列とか関係なしに、冬の休日の話と思ってください。


番外編:ボコ

 

 

 とある日の夜。熊本にある西住邸にて、珍しく家族の四人は一家団欒を過ごしていた。

 

『やってや~る♪やってや~る♪』

 

 炬燵とテレビの置かれた部屋。

 その四角い炬燵の一辺ずつに、それぞれは座り各々のやりたいことをしている。

 炬燵のテーブル部分を占領しているのは、主に父と母である二人で、机の上には『世界の戦車名鑑』と銘打たれた分厚く大きな本と、今の時代では既に珍しくなってきているカセットテープ用のポータブルプレイヤー。そしてその横に幾つか積まれたカセットテープケースがテーブルの大半を占拠しており、申し訳程度にみかんを入れた籠が季節感を醸し出していた。

 一方、娘である二人はこの部屋に設置されたテレビの方に視線を向けていた。

 机の上の占有権を譲っている代わりに、この部屋唯一の映像機器であるテレビを二人が使用しているのはある意味でバランスの取れた光景とも言えた。

 

「…………何度も見てもこれの魅力はよくわかりませんね」

 

 読んでいた本がひと段落したのか、本から視線を外したしほはテレビ画面に映る包帯まみれのクマに対してそんな感想を漏らした。

 ふと、二人の娘に視線を向けると、次女は目をキラキラさせながら画面を食い入るように見ているのに対し、長女の方は時折首を傾げるしぐさをしていた。

 その光景に、「ああ、理解できないのは私だけではなかったか」と、特に重要ではない安堵感を覚えるしほであった。

 

「ねぇ、あなた」

 

「――ん?どうしたの?」

 

 二人の視聴を邪魔しないように、これまでイヤホンで音楽を聴いていた夫の着物の裾をチョイチョイと引っ張り、声をかける。

 小声で話しかけたことを察してくれたのか、夫である彼も娘二人の邪魔にならないように、イヤホンを外しながら小さい声で返事をした。

 

「どうしてあの子が……みほがあのクマを好きなのか理解できますか?」

 

「へ?」

 

「?」

 

 その妻からの質問に間抜けな声が漏れる。

 その事にしほは疑問を抱いた。何故ならその声は質問を理解できないとか、質問の答えが分からないとかではなく、“どうしてそれをしほが知らないのかが分からない”といったニュアンスが含まれている事を察したからだ。

 

「えっと……みほがボコを好きになったのはしほさんが原因だよ?」

 

「へ?」

 

 今度はしほが間抜けな声を漏らす番であった。

 事は十年以上前、みほがまだまだやんちゃで幼かった頃の話にまで遡る。

 産休と育休を使い果たし、休んでいた分を取り戻すように仕事をしていた当時のしほは、よく出張で県外に行っており、娘の世話をお手伝いである菊代や夫に任せきりになっていた時期があった。

 そして、娘になかなか会えない分、何かお土産を買って帰ろうとしていたしほは、その時に偶々見つけたぬいぐるみの専門店に入ったのだ。

 

「偶にはこういう物も良いでしょう」

 

 普段の彼女であれば、お土産で買うとすれば戦車道関連のものか、もしくはお菓子や名産品を選ぶようにしていた。しかし、彼女もまだまだ幼い二人に年相応なものを買ってあげようとその時は思ったのだ。

 そしてそれぞれにクマとトラのデフォルメされたぬいぐるみを購入し、プレゼントする。どちらがどちらかはお察しの通りである。ちなみにそのチョイスを見た菊代が苦笑いをしていたのは余談である。

 そのしほからしては珍しいプレゼントを、二人はいたく気に入った。

 まほは貰ったトラのぬいぐるみを部屋に大切に保管し、時々手入れもお手伝いさんに教えて貰いながら自分で行うほどである。

 一方みほは気に入ったものを手放したくないのか、四六時中肌身離さずクマのぬいぐるみを持ち続けた。それは食事の時も外に遊びに行くときにもだ。

 もちろん、ぬいぐるみはそこまで頑丈にはできてはいない。その為、みほのやんちゃに付き合っていけばどうなるのかは、ある意味周りの人間は察していた。

 

「おかあさん!ごめんなさぁい!」

 

 ある休日の日、いつも通り外に遊びに行っていたみほが泣きながら帰ってきた。特に謝られる心当たりのないしほは、彼女の謝罪の言葉に面食らう。

 しかしそれも、彼女が両手で抱きかかえる傷だらけで中身の綿がはみ出たクマのぬいぐるみを見たことで、納得の感情の方が強くなったが。

 

「……治る?」

 

 泣いて、目を赤く腫らしながらも訴えてくる我が子に、しほは少しだけ困った。

 何故なら、その日は珍しく西住邸にはお手伝いが居なかったのだ。

 ここしばらく忙しかったことと、家の事を頼りきりになっていることをどうかと思ったしほが、自身の休日に合わせた休暇を使用人たちに与えていたのだ。

 その為、こういった事が得意な人間が今この家には居なかった。

 もちろんしほも裁縫はできるが、それはあくまで素人に毛が生えた程度で、ぬいぐるみの修繕を綺麗に行えるほどではない。

 ならば使用人の休みが明けるまで待てばいいと思うが、それまでみほが落ち込んでいる姿を見ることを彼女もしたくはない。

 

「……――少し待っていなさい」

 

 頭を悩ませた結果、しほはそう言葉を残しクマのぬいぐるみと一緒に私室に消えていった。

 それからたっぷり三時間以上経ち、泣き疲れたみほが慰めていたまほと一緒に寝付いたころ、しほはその手にクマのぬいぐるみを持って部屋から出てきた。

 

「私にはこれが限界なの。悪いけれど少しの間はこれで我慢しなさい」

 

 寝ているみほの隣に、元の姿とは程遠いがはみ出ていた綿が詰め直された、包帯だらけのクマのぬいぐるみの姿があった。

 しほは裁縫はできなくても、戦車道をするうえで必修科目である応急処置や手当の要領で包帯などを使い、ぬいぐるみを補修したのだ。

 もちろん所々歪ではあったが、それがその時の彼女の精一杯であった。

 

「おかあさん…………この子を助けてくれてありがとう!」

 

 寝起きにそのぬいぐるみをみたみほは、数時間前の泣き顔は何処へやらといった雰囲気で満面の笑みを浮かべた。

 後日、お手伝いさんが居る時に元の姿に戻すかどうかを尋ねた際に、みほはそれを拒否した。

 

「この子はおかさんが助けてくれたから、もう元気なの!」

 

 その言葉にお手伝いの人たちの幾人かはみほのファンになったらしい。

 もちろん、しほが行ったのはあくまでその場しのぎの応急処置だったため、みほが夜に寝ている間に本格的な補修が行われた。もちろん、身に着けていた包帯や眼帯といったものはそのままなのは言うまでもない。

 

「――――……ということがあったのだけど、覚えていない?」

 

 一連の説明を受け、しほは恥ずかしいやら嬉しいやらで顔にたまった熱を嫌でも意識させられていた。

 

(……忙しくて当時のことはあまり覚えていませんが確かにそんなことをした記憶が)

 

「それでその後に放送が始まったボコとそのぬいぐるみがそっくりで、みほはその子をボコと同一視するようになったんだと思う」

 

 娘の理解できない趣味の発端が自身にあったことを嘆くべきなのか、そこまで信頼してくれている娘に嬉しくなればいいのか分からないしほは考えるのをやめた。

 

「しほさん、トイレに行きたいのですが付き添ってもらっても?」

 

 その様子を察した彼は気遣うように自身の要求を口にした。

 クールダウンの為にも暖かい部屋よりも、空気の冷たい廊下に出たい彼女は手早く彼の介助をしながら、早々に廊下に出るのであった。

 

「…………それで、みほはその時の事を覚えているのか?」

 

 テレビからは相変わらずボコの映像と音楽が流れ続けるなか、画面から視線を逸らすことなくまほは問いを投げ掛けた。

 

「……知らない」

 

 消え入りそうな返答はあった。しかし、耳どころか首元まで真っ赤に染まったみほの様子はその質問の答えを如実に表していた。

 

 

 

おまけ

 

妻「それにしてもよくあのクマの名前を知っていましたね」

 

夫「昔、作曲の依頼が来てね。OPとEDと挿入歌をそれぞれ書いて提出したのだけど、起用されなかった」

 

妻「え?」

 

夫「僕の作った曲だと、ボコが勝っちゃうかもしれないから使えないって言われた」

 

妻「なんて?」

 

 

 

 





今回の話はこうだったらいいなっていう作者の思い込み設定です。
作者は基本的にアニメ勢なので、コミックや小説でそういう設定が既出だったらすいません。

次話も一応は書いているのでまた次回の更新をお待ちください。
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