再不斬さんが動けなくなってから、6日が経過した。
ガチャ。
扉から3人の男が入ってくる。ガトーとボディガード2人だ。
「あんたまでやられて帰ってくるとは、水の国の忍者はよほどのヘボと見える!!」
ボディガードが刀に手をかける。
居合斬りの構え。
兄さんから僅かに殺気が漏れる。
「まあ待て…」
それに気が付かないガトーが更に再不斬さんに近づく。そのまま手を伸ばしてくる。
「なあ、黙ってる事はないだろ……何とか……」
再不斬さんからも殺気が放たれる。次の瞬間、兄さんがガトーの腕を掴んだ。
「汚い手で再不斬さんに触るな。」
「ぐっ!お前…!」
ボディガードが刀を抜くが、兄さんにとっては遅すぎる。一瞬で刀を奪い、首に刃先を当てる。
「やめた方がいいよ……僕は怒ってるんだ。」
「次だっ…次失敗を繰り返せば、ここにお前らの居場所は無いと思え!!」
兄さんの殺気に当てられたガトー達はそう吐き捨てて出ていった。
「白、余計な事を。」
再不斬さんが兄さんを咎める。
「分かってます。ただ、今ガトーを殺すのは尚早です。」
さっきの再不斬さんの殺気。あれは間違いなく、ガトーを殺す気だった。
「ここで騒ぎを起こせば、また
「…ああ。……そうだな。」
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「藍、薬草を取りに行くよ。」
「わかったわ、兄さん。」
兄さんに誘われて薬草を摘みに行く。忍び装束は纏わない。波の国で歩く時は一般人と同じように着物で移動する様にしている。一度忍び装束で出歩いた時の向けられる視線は冷たいものだった。
散々人を殺して、手を汚して、それでも人の視線に一喜一憂する未熟者。それに対して、再不斬さんに立ち向かう勇気ある子供。なんだか自分が恥ずかしくなる。
林の中で薬草を摘んでいると兄さんに声をかけられた。
「藍、ちょっと来て。」
呼ばれて兄さんの視線の先を追えば、1週間前に見た下忍の子供が寝ていた。
格好はボロボロ。修行でもしてそのまま疲れて眠ってしまったのだろうか。
敵地でここまで気を抜けるのは、臆病な私から見ればある意味羨ましい。
だけど、兄さんはどう判断するのか。子供でも敵である事には間違いない。
「こんな所で寝てると風邪をひきますよ。」
結局、兄さんは殺す事はなく、素知らぬ顔で起こしてあげる事にした。
ほっと溜息が出る。
少し緊張していたみたい。
「んーーー?アンタら誰?」
起きた少年は寝ぼけ目で此方に問いかけてくる。
あまりにも素直な反応に兄さんも私もクスッと笑ってしまう。
少年は顔を赤らめる。
兄さんは男ですよと言いたいけど、この子が可哀想だよね。私も初対面だったら女性だと思うもん。
「姉ちゃんらも朝から大変だな。」
「君こそ、こんな所で朝から何をやってたんです?」
「修行ォ!!」
「君…もしかしてその額当てからして忍者なのかな?」
「!!そう見える!?見える!?そう!オレってば忍者!」
「へー凄いんだね、君って。」
「へへっ。」
「何で修行なんかしてるんですか?」
「オレってばもっと強くなりてーんだ。」
「んー…でも君はもう十分強そうに見えますよ。」
「ダメ!ダメ!オレってばもっと強くなりてーの!」
「…………それは……なんの為に?」
「オレの里で一番の忍者になる為!みんなにオレの力を認めさせてやんだよ!それに今はある事をある奴に証明するため!」
とても真っ直ぐな子だなぁ。
10年前の私と兄さんもあの村でこんな風に生きていたなぁ。
「………それは誰かの為ですか?それとも自分の為?」
「…………は?」
「クスッ」
「!何がおかしいんだってばよ!」
「……君には大切な人は居ますか?人は…大切な何かを守りたいと思った時に本当に強くなれるものなんです。」
「………うん!それはオレもよく分かってるってばよ。」
とても真っ直ぐで強い眼差し。
兄さんも気に入ったのか笑顔を浮かべていた。
「藍、行くよ。」
「……うん。」
兄さんは立ち上がり、帰る。私もそれについて行く。
「君は強くなる。また何処かで会いましょう。」
でも一応訂正させてもらおう。
「あ…………それと…兄さんは男ですよ。私は女ですけど。」
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「藍。」
「はい。」
「僕は彼に夢を見たよ。」
「夢?」
「うん。あの子はきっと強くなる。そう思うんだ。」
「そうなのかな?でも、あの子も私達と似た境遇のような気がするね。」
「そうだね。」
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翌日、再不斬さんの体調も回復した。
「大分戻りましたね。」
「よし!そろそろ行くか白、藍。」
「「はい。」」
船で静かに建設中の橋に近づく。橋の上からカンッカンっと金槌の音が聞こえる。
無線機からガトーの声が聞こえる。
『襲撃の用意はいいか!おい、再不斬!聞いてんのか、おい!』
バキッ
無線機を踏み潰す再不斬さん。いい加減鬱陶しいのだろう。
「そろそろ行くか、白、藍。」
「「はい。」」
「奇襲を仕掛ける。その為にはカカシをここに誘き寄せる。殺す必要はないが、上の連中は気絶させろ。」
「了解です。」
戦闘能力のない一般人を気絶させるのは簡単だった。
それからすぐに敵がやってきた。
「霧隠れの術」
「来るぞ!!」
すぐに霧に気がつくとは流石上忍。
「ね!カカシ先生これって……これってあいつの霧隠れの術よね!」
「久しぶりだな、カカシ。相変わらずそんなガキを連れて……また震えてるじゃないか……可哀想に……。」
10体の水分身で敵を取り囲む。
「武者振るいだよ!」
「やれ、サスケ。」
敵の少年が一瞬で水分身を消し去る。
凄い成長だ。前は一体の水分身に命懸けで戦っていたはずなのに、今は10体を一瞬で。それもたったの1週間。なんて才能……
「ほう、水分身を見切ったか。あのガキ、かなり成長したな。ライバル出現ってとこだな、白、藍。」
「そうみたいですね。」
「ええ。」
「どうやらオレの予感が的中しちゃったみたいね……。」
「あ!」
「あのお面ちゃん、どうみたって再不斬の仲間でしょ!しかも、もう1人。一緒に並んじゃって……。」
「どの面下げて堂々と出てきちゃってんのよ、アイツ。」
「アイツはオレがやる。ヘタな芝居しやがって……。オレはああいうスカしたガキが一番嫌いだ。」
「カッコいいサスケ君♡」
「大した少年ですね。いくら、水分身がオリジナルの十分の一程度の力しか無いにしても。あそこまでやるとは。」
「だが、先手は打った行け!」
「藍は下がって、僕が行く。」
「はい、兄さん。」
兄さんが瞬身の術で少年に突っ込む。だけど、少年も兄さんのスピードに反応している。
一体この1週間でどんな修行をしたのか。
「サクラ!タズナさんを囲んでオレから離れるな。アイツはサスケに任せる!」
「うん!」
「君を殺したくは無いのですが、引き下がっては貰えないのでしょうね……。」
「アホ言え…。」
「やはり…しかし次、貴方は僕のスピードにはついてこれない。それに僕は既に2つの先手を打っている。」
「2つの先手?」
「一つ目は辺りに撒かれた水。そして2つ目に僕は君の片手を塞いだ。したがって、君は僕の攻撃をただ防ぐだけ。」
兄さんは素早く片手で印を結ぶ。
「秘術・千殺水翔!」
「サスケ君!!」
水の千本が少年を襲う。
だけど、少年は見事に躱し手裏剣で反撃してくる。
手裏剣を躱す兄さんの背後をとる。
「案外、トロいんだな。これからお前は、オレの攻撃をただ防ぐだけだ!」
少年がクナイで斬りかかる。それを兄さんはガードするが、指先からクナイを投げられ、屈んで躱した隙に蹴り飛ばされる。
「兄さん!!」
明らかにいつもの兄さんより動きが鈍い。それは恐らく、子供に手をかけたく無いから力が出し切れていないんだ。
「ぐっ!」
「どうやらスピードはオレの方が上みたいだな。」
「ガキだガキだとウチのチームを舐めてもらっちゃあ、困るね。こう見えてもサスケは木の葉の里のNo.1ルーキー。ここにいるサクラは里一番の切れ者。そして、もう1人は目立ちたがり屋で意外性No.1のドタバタ忍者ナルト。」
「ククク…ククククッ……」
「?」
「白。分かるか、このままじゃ返り討ちだぞ…。」
「ええ、残念です。藍、心配はいらない。」
兄さんの雰囲気が変わる。辺りを冷気が走る。
これは……
「氷遁秘術・魔鏡氷晶!!」
勝負はついた。この術を突破できた人を私は見たことがない。
兄さんが氷の鏡に入る。
「くそっ!」
カカシさんが術の脅威を感じ取ったのか駆けつける。
「お前の相手は俺だろ?あの術がでた以上、あいつはもうダメだ。藍、お前はそこのガキの相手をしろ。」
「はい、再不斬さん。」
瞬身の術でサクラさんとタズナさんの前に立つ。
「くっ!」
「サクラさんと言いましたか。私は
「……悪いけど、サスケ君が戦ってるのに一人で逃げる訳にはいかないわ。」
「そうですか。……では参ります。」
瞬身の術でサクラさんの目の前に移動。そのまま右回し蹴りで吹き飛ばす。
「キャア!」
「サクラ!!」
これでタズナさんを護る者が居なくなった。
「抵抗しないでくださいね。痛みはありません。すぐに楽になれます。」
千本を取り出す。
タズナさんの首のツボを狙って千本を構える。
「アンタ、私の事を舐めすぎじゃないかしら。」
腕をサクラさんに掴まれた。
なんて力。振り解けない。
「しゃーんなろー!!」
そのまま投げ飛ばされる。
空中で体勢を整えて着地。
「サスケ君!!」
サクラさんが蹂躙されているサスケ君にクナイを渡そうと投げる。だけど、兄さんはこれをキャッチ。
そこに死角から手裏剣が飛び、兄さんに命中した。
「兄さん!!」
ボーン!!!
煙が出る。
「うずまきナルト!ただいま見参!!オレが来たからにはもう大丈夫だってばよ!物語の主人公ってのは大体こーゆーパターンで出て来てあっちゅーまにィー敵をやっつけるのだぁー!」
確か薬草詰みの時に会ったナルト君。
再不斬さんが隙だらけのナルト君に手裏剣を投げるが兄さんが千本で止める。
「白、どういうつもりだ?」
「再不斬さん、この子は僕に。この戦いは僕の流儀でやらせて下さい。」
「…………手を出すなって事か、白。相変わらず甘いヤローだ、お前は。」
「藍も心配しないで。」
兄さんは再び鏡に入る。
「仕切り直しですね。」
「……そうね。」
サスケ君が火遁の術を使うが、氷は全く解けない。
ナルト君も加勢するが、兄さんには全く歯が立たない。
「まさかあの少年があんな術を体得していようとは。」
「あんな術?」
「これは血継限界だ!深き血の繋がり、超常個体の系譜。それのみ子々孫々伝えられる類の術だ。」
「そうです。カカシさんの写輪眼と同種。私達雪一族に伝わる氷遁。兄さんはその血に目覚めた忍。」
「ちくしょう…だから何だってんだ。こんなとこでくたばってられっか。オレには叶えなきゃなんねェ夢があんのにィ……!」
夢……
そんな物、とっくに忘れていた。私の夢。
それは兄さんと再不斬さんと平和に過ごす。
そうだ。目的はそうだった。
「僕にとって忍になりきる事は難しい。できるなら君たちを殺したく無いし………、君達に僕を殺させたく無い。けれど、君達が向かってくるなら………僕は刃で心を殺し忍になりきる。この橋はそれぞれの夢へと繋がる戦いの場所。僕は僕の夢の為に。君達は君達の夢の為に。恨まないで下さい。僕は大切な人達を護りたい。その人達の為に働き、その人達の為に戦い、その人達の夢を叶えたい。それが僕の夢。その為なら僕は忍になりきる。貴方達を殺します。」
「サスケ君!ナルトォ!そんな奴に負けないでぇ!!」
「やめろサクラ。あの2人をけしかけるな!」
「え?」
「そうですよ。自身の心配をされたほうがいいですよ。」
「例え万に一つ。あの技を破る方法があったとしてもあの少年は倒せない。」
「どーゆーことよ?」
「あいつらにはまだ心を殺し、人を殺める精神力はない。あの少年は忍の本当の苦悩をよく知っている。」
「………お前らみたいな平和ボケした里では本物の忍は育たない。忍の戦いに於いて最も重要な殺しの経験を積む事が出来ないからだ。」
「なら……」
カカシさんが額当てに手を当てる。
写輪眼か?
「悪いが……一瞬で終わらせてもらうぞ。」
「クク…写輪眼…芸の無ぇ奴だ。」
再不斬さんが走る。クナイを取り出し、右目に向かって刺突を放つ。それをカカシさんは左手でガードする。
「芸が無いと凄んではみてもやはり写輪眼は怖いか?」
「ククク……忍の奥義ってのは、そう何度も相手に見せるもんじゃねーだろ。」
「感謝しろ。2度もこの目が拝めるのはお前が初めてだよ。そして3度目は無い。」
「クク……。仮にオレを倒せたとしてもお前は白と藍には勝てねーよ。」
「先生…!」
「俺はアイツらがガキの頃から徹底的に戦闘術を叩き込んできた。アイツらは信じ難い苦境の中においても常に成果を上げてきた。心も無く命の概念すら捨てた忍という名の戦闘機械だ。その上、白の術は俺すら凌ぐ!血継限界と言う名の恐るべき機能!俺は高度な道具を獲得した訳だ。お前の連れているスクラップとは違ってな!!」
「他人の自慢話ほど、退屈なものはないな……。そろそろいかせてもらおう!」
とうとう写輪眼が現れる。
やはり禍々しい。最強の血継限界の一つに数えられるだけはある。
「まあ待て…話ついでにお前の台詞を借りてもう一つ自慢話をしてやろう。お前は前に確かこう言ったな。」
「!?」
「クク……俺はその台詞を猿真似したくてウズウズしてたんだぜ。」
「?」
「『言っておくが、俺に二度同じ術は通用しない』だったか?」
「!」
「俺は既にお前のその目の下らないシステムを見切ってんだよ。この前の闘い。俺はただ馬鹿みたいにお前にやられてた訳じゃない。傍に藍を潜ませ、その闘いの一部始終を観察させた訳だ。」
「え?」
サクラさんが此方をみてくる。
「白が血継限界なら、藍は頭が切れる。大抵の技なら一度見破ればその分析力によって対抗策を練り上げてしまう。」
「!」
「忍法・霧隠れの術。」
辺りを霧が包む。今まで一番濃い霧だ。視界はほぼゼロ。つまり、再不斬さんも本気だ。
「さて、話ばかりで退屈でしょう。再不斬さんも動き出した事だし、私達も始めましょう。」
「まだよ!写輪眼の攻略法って何!?」
どうやら力量差を自覚して、時間稼ぎを狙っているようだ。視界は無いけど、気配で確認する分に兄さんも再不斬さんも優勢。ならもう少し付き合っても大丈夫かな。
「簡単な事ですよ。写輪眼を使わせなければいい。」
「写輪眼を使わせない?」
「正確には目を使う闘いで無くせばいい。再不斬さんは音だけで獲物の位置を把握できるサイレントキリングの達人だ。濃い霧で視界を封じ、写輪眼を封じる。あとは音での闘いにすれば良い。再不斬さんと写輪眼は実は相性がとても良いと言えるんです。」
「そんな……」
「では行きますよ。」
瞬身の術で接近。
「消え……」
先程と同じように蹴り飛ばす。
「キャア!」
「サクラ!!」
そのまま飛んで行った方向に警戒をする。
「先程は油断しました。貴女はとてもタフで力も強い。今の程度ではまだ平気でしょう?ですが……」
倒れているサクラさんに千本を投げる。千本が両腕を貫く。
「くぅ……」
「腕を封じれば、それだけ体術も制限される。腕のツボを突きました。貴女は腕を動かすどころか、千本を抜く動作すらできませんよ。」
そして誰も守る人が居なくなったタズナさんに向かう。
「くっ!」
「逃げないで下さい。あまり苦しませたくありません。」
私は千本を構える。狙うは首の秘孔。
だけど、私の気配察知に飛び蹴りをしてくる人影を察知する。屈んで回避。頭上をサクラさんの足が通り過ぎる。
「え?」
不意打ちが決まらず、驚いた表情を浮かべる。
感知タイプのことを知らないのであれば無理も無い。
そのまま勢いを利用して今度は投げ飛ばす。
「うっ!」
「体術はサスケ君以上なの!?」
「大した精神力です。腕が駄目なら足。残念ですが、足も封じさせて貰いますね。」
千本を足目掛けて投げようとする。
しかし、私の気配察知に悍ましいチャクラを感じた。
「!?」
ドクン!
何だ!?この気配?
凄まじい殺意の気配。だけど、私はこの気配に強い親近感を抱く。
何なんだ?
だけど、これは再不斬さんでも兄さんの者でも無い。私が気配を感じた結果、あのナルト君だった。
不味い!兄さんが殺される!
私は目の前のサクラさんを無視して瞬身の術で跳ぶ。
跳んだ先で、ナルト君が兄さんを殴ろうとしていた。瞬身で割り込む。
「うおおおおおおおおおお!!!!!」
「くっ!」
「藍!?」
ナルト君の拳が腹に入り、思いっきり吹き飛ばされる。受け身を取ることすら不可能でそのまま橋の壁に激突して気を失った。