翌日、私とデイダラ、サソリの3人は本拠地へと赴いた。
デイダラの体調も随分と良くはなったが、まだまだ本調子でないようだ。
「お前、またその面を被るのか。」
サソリにそんな事を言われる。
「どうしたの?別にいいじゃない。」
「いや、お前の顔なら出していた方が良いと思ったんだが。」
「そう?」
「ああ、敵を油断させるにはうってつけだ。」
「それって褒めてるの?貶してるの?」
「オレがわざわざ女の顔を指差して、貶す程に捻くれてると思ってるのか?」
捻くれてるように見えるけど…………
「そうなんだ。ありがとう。でも、それ以上に色んな大物に狙われてるから私は。やっぱり安易に顔は晒せないかな。」
「その割には昨日は簡単に顔を晒してたじゃねーか。」
「仲間の命と私の顔なら、比べるまでもないでしょ。」
「………テメェはやっぱりおかしいぞ。」
全く……素直じゃない奴が多いわね、暁には。
入り口には鬼鮫さんが待っていた。
「ではここで交代ですね。」
鬼鮫さんと私が交代になる。サソリと鬼鮫さんはすぐに任務に出て行った。
今回は私とイタチでツーマンセルを組む。
イタチを見る。久しぶりに見るイタチは随分と弱っていた。
「また、あの瞳力を使ったのね。…控えた方がいいって言ったのに。」
「……」
「はい、これ。薬もそろそろ切れるでしょ?…病気の進行も早くなるんだから、瞳力も程々にしたほうがいいよ。」
イタチに薬を渡す。一眼見て、イタチが肺に大きな病気をしていることはわかっていた。症状を和らげることしかできないが、薬を定期的に渡してある。本当はちゃんとした医者に見てほしいのだけど、抜忍の身ではまともな病院にも行けないようだ。
「……これからどう動くの?」
「空区に向かう。」
「……空区?」
「…………着いてきたらわかる。」
「わかったわ。」
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イタチの案内で向かった先は、廃墟ばかりの人の気配を感じない街並みだった。
二人で静かに足を進めていく。
「この先だ。」
イタチが見上げた大きな門には「空区」と書かれており、どうやら大きな街の入り口のようだ。
「行くぞ。」
「うん。」
門を潜っても、先程と同じように人気は無く寂れきった感じだ。
やや歩いてイタチが建物の中に入っていく。
中は暗く、壁や天井にはパイプがいくつも並んでいる。
「俺から離れるなよ、迷うぞ。」
「私は感知タイプだから、心配ないよ。」
「………それでも油断するな。」
いつもデイダラ達に口酸っぱく言っていた事を自分に言われて、思わず顔を赤くしてしまう。
言い返したくなったが、グッと堪える。
口喧嘩で勝っても虚しいだけだ。
「ここはうちは一族が利用していた武器屋だ。来るのはかなり久しぶりだがな。」
一応ビンゴブックでイタチの罪状を知っているだけに、来にくい場所なんだろうと察する。
何も言わない方が良いよね…………
「ここにいる武器商人のネコ婆に用がある。」
イタチの説明を聞いていると、少し先の暗闇から声が飛んできた。
「おい、珍しい奴が来たぞ。」
「ホントだフニィ。」
壁に反響して辺りに響く。
イタチは立ち止まり、その声の主を待つ。
ややあって、闇から現れたのは服を着た猫だった。
「久しぶりだな、デンカとヒナ。」
猫を見つめるイタチが小さく笑った。
いつも真顔で色々な表情を見せるイタチにしては珍しい反応。
呼ばれてその2匹はちょこんと座り、イタチを見つめた。
「本当にいつぶりだろうな。大きくなったな、イタチ。」
「デンカ、多分イタチには10年近く会って無いんじゃないかフニィ。」
お互い懐かしそうな表情で見つめ合う。
「で、一体何の用だい?」
デンカがスッと立ち上がる。
額には毛の模様なのか特殊なものなのか「忍」の文字が浮かんでいる。ゆらりと揺れるフサッとした長い尻尾。少し硬い質だが、よく手入れされている毛並みとピンと伸びた耳。
「可愛いね……」
デンカに向かって手を伸ばした。
「よせコン。こいつらは凶暴な忍猫で……?」
慌てて制止したイタチの声が途中で力を失った。
デンカは気持ち良さそうな顔で伸びていた。
「なっ…」
イタチが驚きの声を上げる。
「私。こうゆうの慣れているから。」
ユキウサギでよくやっている。
「んなゃあ〜。お前、中々…」
恍惚の表情でごろごろ喉を鳴らす。
「気持ち良さそうフニィ…」
「ヒナもこっちに来て。」
ヒナの頭を撫でる。
その一撫ですら気持ちいいのか、ヒナは私の体にすり寄った。
驚いた様子でそれを見ていたイタチが小さく笑った。
「お前は本当に不思議な奴だ」
柔らかいその笑顔を見て、デンカとヒナは目を細めて私に向き直る。
「へぇ…」
「フニィ…」
2匹ともふわりと飛び上がり、イタチの前に降り立つ。
「で?」
「武器を買いに来たのか?」
「いや、ネコ婆に用がある」
「ふぅん。持ってきたかフニィ?」
「ほら、またたびボトルだ」
イタチが懐から瓶を取り出してヒナの口にくわえさせると、ヒナは満足そうに笑った。
そしてデンカと共に先ほど出てきた薄暗闇の方へと歩き出す。
「ついてきな」
「案内するフニィ」
イタチと私は後に続き、その先にあったドアを開けて中に入った。
「わぁ…猫いっぱい」
部屋の中に何匹もの猫が思い思いにくつろいた。
どうやらデンカとヒナのような忍猫ではなく普通の猫のようだ。
数匹が私の足元にすり寄ってきた。
「可愛い」
「誰かと思ったら…」
部屋の中央に座る人物が二人を見据える。
灰色の髪を一つに束ねたややかっぷくのいい老婆…
鼻の頭が少し灰色に色づいており、頭に猫耳をつけている。
「イタチか?」
目を細め、静かに見つめる。
「はい。ご無沙汰してます。ネコ婆…」
姿勢を正すイタチに習い、私も背筋を伸ばす。
「まさかお前がここに来るとはねェ」
うちは一族の事件を知っているのだろう。
かもし出す雰囲気がやや警戒を現わし、どう対処するべきか考え込んでいるようだ。
しばらく言葉のないまま対峙し、ネコ婆はふぅ…と息を吐き出した。
「ま、他人のごたごたはどうでもいい。大口の顧客を失ったことは痛手だがな」
皮肉交じりに笑う。
とりあえずは受け入れてもらえたようでほっとした。
「で、なんだい?何か武器が必要なのかい?」
「はい、奥いいですか?」
「ああ…」
「私はどうしたらいい?」
「好きにしろ。」
そう言うとイタチは奥へ行った。
ええ〜……
ここまで来て、放置ですか。
「おい、あんた。」
「はい、何でしょう?」
「名前は?」
「コンと言います。」
「コンか……。あんた、イタチのしたことを知らん訳でもない。」
「…はい。」
何が言いたいのかわかる。何故、平気な顔して一緒にいるのか、気になるんだろう。
ネコ婆は少し遠くを見る様な目で溜息をついた。
「あの子の事は小さい頃から知ってる。幼くして戦争を目の当たりにし、命の在り方について考えるようになった。」
さっきの様子とは違い、優しい目つきになる。
「イタチは父親に言われて、時折一人でうちに買い付けに来てね。そんな話をよくしとったよ。」
それって何歳の事なんだろう。私がその問題に真剣に考えだしたのは、ここ2年ぐらいの事だ。
精神が成熟しすぎじゃないだろうか…
いや、兄さんも常に先を見据えて考えていた。私を守る為に。
やはり人は護るものがあると強くなれるんだなと思う。
それと同時に兄はやっぱり偉大だなと思う。
「そのうち弟が生まれて、一緒に来る様になって。自分が守るべき存在ができた事で、より生命の尊さを感じるようになり、とにかく争いのない世を望んでいた。そんなあの子がねぇ……」
それが今のサスケ君を形作っている物。
「争いの絶えぬ今を生きながら争いのない未来を願って、その矛盾の中で苦しんでいたのかね。それでもサスケだけは、というのがなんともな…。」
ネコを撫でる手を止める。
「他人が関与するものではないが、イタチもサスケもよく知っているだけに孫の様なもんだ。何があったか知らんが、他に道は無かったのかと思わずにはいられないよ。」
やっぱり、サスケ君は
イタチの悲しい瞳を思い出す。いつも苦しそうな瞳をしていた。
そしてそれは、イタチだけじゃない。鬼鮫さんも本質は同じ様な苦しみを感じていた。それはサソリも同じだ。
皆、何かしらの痛みを持って生きている。ペインも小南もトビだってそうだ。
暁に来てよかったと思うのは、私だけが不幸だという驕りを払拭させてくれた事だ。
「……大丈夫ですよ。兄弟なんですから。きっと分かり合える日は来ますよ。」
だからこそ、仮面を取って満面の笑みで答えた。
ネコ婆がフッと笑う。
「あんたみたいのが、あの子の側に居てくれて良かったよ。でも、その顔は男には目の毒だね。隠してた方がいい。」
「ありがとうございます。容姿を褒められる事はあまりないので。」
「それは随分と見る目のない奴らだね。」
「普段から顔は隠してますから。」
再び仮面をつける。
イタチとサスケ君。2人の行先がどうなるかはわからないけど、それでも2人が分かり合える日がきますように………
そんな事を願ってネコを撫でていたら、イタチが帰って来た。
「もういいのかい?」
「はい、欲しい物は一通り買いましたので。」
「ネコ婆様、ありがとうございました。」
私は頭を下げる。
「………お前は何もしてないだろ。」
イタチが呆れた声を上げる。
「では、行ってきます。」
「ああ、達者でな。」
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空区を後にして、森を歩く。
「結局、私はなんで連れて来られたの?」
ずっと疑問に思っていた事を聞いた。
「我々はツーマンセルで行動する決まりだ。……今回は武器を手に入れたかったしな。」
「え……それだけ?」
………その為だけに私を引っ張ってきたの?
何だか肩の力が抜ける。
イタチって天然なのかな………
そのまま暫くは無言で森を進んだ。基本的に無口なイタチだ。必要以上に口を開かない。私もそこまで口達者ではないので、最初は会話しようとしたけど、結局長続きしない。
「……ネコ婆様から聞いたのか?」
何をとは聞かない。
「…………何も聞かないんだな。」
「聞いて欲しいの?」
「違う。………ネコ婆様から聞いたのなら、俺を責めないのか?警戒しないのか?」
イタチが足を止める。
何だそんな事か。
「別に今までと変わらないよ。私も同胞殺しの罪がビンゴブックに書かれてるしね。」
「………そうなのか。」
シロの名前で名乗ってないから、ビンゴブックを調べてないんだろう。
「でも、それは貴方や鬼鮫さんの様な想いとはかけ離れてると思う。だから、貴方達の気持ちをわかってあげる事はできない。」
「どういう事だ。何が言いたい?」
「ビンゴブックに書かれている同胞殺しの罪はでっち上げって事だね。」
「なら、尚更何故何も聞かない?」
「そんなのサスケ君のお兄さんだから。」
そういうとイタチは大きく目を見開く。
「……まあ、意味わからないよね。私サスケ君の事知ってるんだ。昔会ったことあるし。……ネコ婆様越しだけど、イタチの事を聞いたから、今度は私の事を話そうか。……多分、そうすれば少しは納得できると思うよ。」
私は仮面を取って素顔を晒す。そしてイタチの目を見つめた。
イタチの瞳に私の顔と傷が付いた額当てが映る。
「私の本名はね、雪藍。多分、鬼鮫さんは勘づいてると思うよ。」