目が覚める。
気づけば、コンクリートの無機質な天井が見えた。
どうやら、私はベッドに寝かされている。視線を少し右に寄せれば、点滴パックが宙に浮いていた。
「目が覚めた?」
「…小南。」
小南がベッドの側で座っていた。
「ここは雨隠れの私が所有している塔よ。」
「……じゃあ、これは」
「雨隠れの医療忍者に治療させたわ。」
「…あ、ありがとう。」
頬が熱くなる。
あれ?…そういえばお面がない。
「人工呼吸器をつけてたから、外させて貰ってたわ。何とか輸血して回復したからいいけど、死にかけてたわよ。……飛段は不死身だけど、貴女はそうじゃない。何故同じような戦い方をしたの?」
「何故って……飛段は不死身だから…きっと誰よりも傷を受けた事が多い筈だから……少しは、飛段の事が理解出来るかもしれないって…思ったから……」
小南は頭を抱えて溜息を吐く。
「……貴女は二人によく似てるわ。」
「二人?」
「弥彦と長門」
誰だろう?……どちらも聞いた事が無い。
「二人とも私の大切な人だった。」
過去形。…つまりそういう事なのかな。
「誰よりも人の痛みに向き合おうとする姿は長門に似てる。誰彼構わず、お節介を焼きたがるのは弥彦に似てるわ。」
「…………」
「私達、3人は孤児だったの。」
孤児。私がよく見つけては砂隠れの孤児院に連れて行ってる子達。
「ここ雨隠れはいつも内戦と或いは大国同士の戦争に巻き込まれてたわ。そこで孤児になった。でも、先生が助けてくれた。」
先生か。頭の中に再不斬さんが思い浮かぶ。
「先生は自来也先生よ。」
「え?……あの三忍の?」
木ノ葉の英雄。つい最近捕まりかけたあの人か。……ナルト君の先生でもあるのよね。
「そう。あの人の元で育てられたわ。」
あの人の元で修行して、何故今の抜忍集団を作る事になったんだろう。
ナルト君の師匠をするくらいだ。先生の想いに反してるんじゃないのか。
……いや、それなら私もそうか。きっと兄さんが願った未来はこんな未来じゃ無かった筈。兄さんが生きていたら、こんな手を真っ赤に染めた私を止めようとする筈だ。
「先生が木ノ葉へ帰った後、私達は話し合いで平和を目指す『暁』を作ったの。」
「それが始まりなんだね。」
「順調だった。雨隠れの長、『山椒魚の半蔵』と会合する迄は。」
聞いた事があるような無いような名前。多分私が生まれた頃には既に死んでいたのかもしれない。
「……フフ、貴女みたいに若い子には聞いた事がないかもしれないわね。でも、こっちの名前は知ってるでしょう?『志村ダンゾウ』なら。」
私は目を見開く。
何でここでその名前が出るんだろう?雨隠れと木ノ葉はあまり関係無いはずじゃ。
「当時、木ノ葉と岩隠れは戦争状態だった。二つの大国に挟まれていた雨隠れも戦場になった。そこにダンゾウが雨隠れに政治介入してきたのよ。」
「……成程、木ノ葉が有利に戦を進める為に雨隠れのリーダーと取引して、木ノ葉の味方になるように促した訳ね。」
「そうよ。それで半蔵がダンゾウに協力を依頼したのは、『暁』を潰す事。」
「何で?『暁』は平和を志す組織でしょ?」
「私達の理念がどうであれ、大きくなってきた『暁』に雨隠れが乗っ取られるかもしれないと危惧した半蔵が騙し打ちで、当時のリーダーだった弥彦を殺害したのよ。」
「………そんな。」
あまりの事に言葉を失う。
「……その時にダンゾウもそれに加担していたのよ。」
ダンゾウが……
大蛇丸といい。何故人は悲劇を生み出してしまうのか……
「…だから悟ったのよ。平和を実現する為は、相応の力がいる事を。矛盾もしてるかもしれない。だけど、綺麗事だけを吠えてそれでまた弱者が傷付く世界なら、私は許容できない。」
「………どうしてそこまで話してくれるの?」
「…………それは」
今まで淀みなく話していた小南が初めて言葉を詰まらせた。
「…………最初に言った通り、弥彦と長門に似ていたからよ。」
そう語る小南の目に一筋の涙が流れる。
きっと小南にとって二人は掛け替えの無い存在だったんだ。私にとって兄さんと同じように。
私はベッドの側に座っている小南の手を握る。
「大丈夫だよ。小南の想いはきっと叶う。勿論、私も応援してる。」
そう笑顔で答えれば、小南は「ありがとう」と目元を手で覆い隠した。
話の流れで何となくわかった事がある。さっき弥彦は殺されたと言っていたけど、長門の話がなかった。………つまり、リーダーのペインがきっと長門なんだろう。
それと私達はきっとお互いに似ている。髪色は違う。小南は紫色で私は水色。体型も小南はスタイル抜群。……って、そうじゃなくて、瞳の色。こじつけかもしれないけど、同じオレンジ色の瞳を持っている。そしてそこに映し出す想いも。
きっと私以上に色んなものを失ってきたんだろう。
それでも平和を願うという一点だけはブレない彼女は凄いと思う。いつもブレブレな私からすれば尊敬の念が絶えない。
「小南は強い人だね。」
「……私は強くなんか無いわ。いつも誰かの背中に隠れているだけよ。」
「なら、私と一緒だよ。……小南の強さはその優しさなんだから!…長門を支えてあげなよ。」
「……貴女、まさか…………ええ、そうね。」
「……私は後どのくらい寝ていないとダメ?」
「医療忍者の見立てであと1週間は寝ないといけないわ。」
1週間安静か。まあ、あれだけの重症で生きながらえただけでも良しとするか。
「任務は?」
「1週間ずれ込ませたわ。」
「……今回は融通が効くんだ。」
「私が直接ペインに話してあるからね。」
「そうなんだ。リーダーも貴女になら少し甘いのね。」
私が笑えば、小南も小さく「そうよ。」と笑った。