サソリが亡くなった後、トビがサソリの後任として暁に正式に加入。デイダラの相方となった。
私は湯隠れの里に来ていた。波の国から比較的近いので、向かいやすい所は気に入ってる。暁とも裏ではビジネス関係を結んでいる事から入りやすいしね。基本的に平和主義で観光が主な産業だから、ゆっくり寛げる。地獄谷やジャシン教とかの話も耳にするけど、近寄る気は一切無い。
温泉で身体を温めて、観光地を巡りながら待ち人と落ち合う。
「相変わらず、遊び呆けていますねぇ。仮面もしないで、そんな呑気にやってるのは貴女とトビぐらいですよ。」
「こんにちは、鬼鮫さん、イタチ。」
「…何をしている?」
「温泉街を楽しんでるんだよ。」
「………はあ。」
「……まあ、ここの里の気質と貴女の性格はよく合ってると思いますがね。」
「一応は変化の術を使ってるし、問題ないよ。」
2人と合流してからも暫くは湯隠れの里を満喫していた。
日も暮れ出した頃、鬼鮫さんに言われた。
「そろそろ、気分転換は済みましたか?……いつまでもサソリの事を引き摺っても仕方ないですよ。」
「………うん。そうだね。」
「我々は抜忍だ。……遅かれ早かれ、こうなる事を覚悟した方がいいですよ。貴女自身も含めてね。」
「……わかってる。」
気持ちが揺れてるのは勿論、そこが大きいけど、それだけじゃ無いんだ……
「……では、私は先に宿に帰ってますよ。」
「わかった。」
鬼鮫さんが宿へと戻っていく。
それを私は見送り、後ろで黙って着いてきている人物に声をかけた。
「イタチは鬼鮫さんについて行かなくていいの?」
「……構わない。それにオレに用があったんだろう?」
「…………ふーん。わかってたんだ。なら話が早いね。」
私は屋台で買ってきたシャボン玉を吹かしながら、人気の少ない林の中にイタチと共に歩む。
「……イタチのノルマって、九尾なんだってね?」
「…………それがどうした?」
「ナルト君だって事も知ってるみたいだしね。」
竹筒に息を吹き込めば、透明な気泡が空を舞う。
「………何が言いたい?」
「私も既にノルマをこなした身だからさ。人の事を言えないけど、………本当にいいの?」
「………何を構う必要がある。組織からの命令はノルマを生捕にするそれだけだ。」
余りにも惚けた発言に思わず、声が低くなる。
「……ナルト君はサスケ君の親友なんだよ?」
「……お前は何か勘違いしているようだが、サスケの事などどうでもいい事だ。ただ、オレの器を測る為の物差しでしか無い。」
「………本気で言ってるのそれ?」
「……そもそも、ナルトやサスケがお前やオレに助けて欲しいとでも頼んだのか?……お前にとっては所詮他人事だ。気にするだけ無駄だがな。」
ブチッ
脳内で何かが切れる音が聞こえた気がした。
手に持っていたシャボン玉の容器と竹筒を地面に投げつけた。
「……この嘘吐き!!!………本当は誰よりも心配な癖に!!!………貴方なんか、一生サスケ君に恨まれていればいいのよッ!!!」
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イタチに怒鳴り散らして、暫く歩いていた私は片手を目に当てて天を仰ぐ。
…………やってしまった。
あの動揺した瞳を思い出す。
ナルト君を狩らないといけない事になって一番困ってるのは寧ろイタチだ。
それでも黙っているのなら、それなりの理由がある筈なんだ。
それに今のナルト君がどれだけの強さは知らないけど、私が暁に入った1年前の時なら、イタチがやろうと思えばいつでも捕獲できた筈。
今はデイダラを追い詰めるぐらいにはなってるのかもしれないけど、当時なら簡単に狩れた筈なんだ。
それが今も無事にいるのなら、やっぱりイタチには何か考えがあるのかもしれない。
とは言っても、あそこまで怒鳴ってしまったら、今更どんな顔で会えばいいのかわからない。
宿に戻る気にもなれないからと、温泉街をふらつく。
「……はあ。」
溜息が溢れる。
「どうかしましたか。」
聞き覚えのある声。
「何か困り事ですか?」
風に揺れるピンク色の髪。翡翠色の瞳。サスケ君に好意を抱いてる少女。3年前には実際に刃を交えた事もある。
そしてつい最近はサソリを打ち倒したくノ一。
サクラさん。
ゆっくりとそちらに視線を向ける。
まさか、ここで会うなんて………
「大丈夫ですか?」
不意打ちで驚いてしまい固まる私にサクラさんがにこりと微笑む。
「……え、ええ。少し、連れと喧嘩してしまって、ちょっとはぐれちゃいました。」
まあ、私が一方的にあそこにイタチを置いていったんだけど。
「……そうなんですか。私も人と逸れたんです。喧嘩ではないですけど。」
「そうですか。」
「というか、いつも勝手な行動をするやつで、気付くと何処かに行ってるんですよ。本当に困ったやつで。」
まさかだけど、ナルト君かな?
「まぁでも、声が大きくてうるさいし、髪の毛が金髪で目立つからすぐに見つかるとは思うんですけど」
気配感知に集中してみれば、大きな神性を感じることができた。
ナルト君か。
よりにもよって今このイタチと鬼鮫さんがいる状況でかぁ………
内心で溜息をつく。
まさか、2人だけでこんな所には来ないだろう。暁が尾獣を狩ってる事は知ってる筈だ。なら、カカシさんか自来也様も一緒に居ると見た方がいい。特に後者の場合は、私の変化を見破られた実績がある。
任務かな……
私が言えた事ではないけど、人柱力のナルト君を好き勝手に出歩かせるとは考えにくい。
「観光に来たんですか?」
「はい。似たようなものです。」
ニコリと可愛らしく笑う。
成程。情報は漏らさないようね。
サクラさんもすっかり成長したわね。
3年前のクナイを握って棒立ちしてた時とは比較にならないね。
サソリを倒せるくらいにはなったみたいだから、当然かもしれない。
そう思うと今の状況はかなり危険かもしれない。サクラさんにも私の変化が見破られるかもしれない事に思い至ったからだ。
「一緒に探しましょうか?」
とは言え、どうもあの一尾の一件以降、木ノ葉隠れが暁を完全に敵認定してしまったようなので、探れる事は探りたい。木ノ葉に実害は無くとも同盟国の砂の風影に被害が出た故だそうだ。だけど、砂以上に木ノ葉の熱の入りようがすごい。岩は人柱力を攫っても依頼をよこしてくるし、霧隠れも昔、暁によって三尾の人柱力の水影が命を落とした筈なのに、関心が薄い。木ノ葉が異常な程の敵対心を見せてる。
決してイタチと顔を合わせるのが気不味いとかではない。……そのはず…………
「え?ありがとうございます。……こっちが話を聞いてあげようと思っていたのに、わざわざ手伝っていただけるなんて。」
まあ、ナルト君は見つけてるけどね。
「気にしなくて構いませんよ。私も気分転換になりますしね。」
「あの、私サクラと言います。よろしくお願いします。」
「私はクロと申します。」
ニコリと微笑めば、サクラさんの頬が髪色と同じ色になる。
「似てる。」
「知り合いにそっくりな人でもいましたか?」
隣から酷く切ない声が聞こえる。
「はい。というか好きな人に。」
…………え?
サクラさんって、サスケ君の事が好きなんじゃ…………
まさかの百合趣味ですか…………
身の危険を感じて距離を取る。
「………あっ……そういう意味じゃなくて、ちゃんと男の人ですよ!!!」
サクラさんが顔を真っ赤にして捲し立ててくる。
…………そうよね。サスケ君が好きな筈だもんね。
私みたいな
サクラさんは咳払いする。
「……んぅぅ。今ちょっと事情があって離れてしまっているんですけど、大切な仲間で、私の大好きな人です。」
「どんな人なんですか?」
「とても強くてクールで、何でもさっとこなしてしまう人で、すごく人気があって。とても私なんか釣り合わないような素敵な人です。自分にも周りにも厳しくて、妥協を許さない。すごい人です。」
……凄いベタ褒めだ。こっちが恥ずかしくなりそうなぐらいの惚気をぶちまけてくるサクラさん。
考えるまでもなくサスケ君の事だろうね。
「でも」
サクラさんが続ける。
「本当はその人、すごく優しいんです」
少し伏せられたサクラの瞳には柔らかく穏やかな光が揺れている。
「優しくて、それから少し弱いところがあって、そのくせ意地っ張りで周りにそれを見せないで一人で悩むんです。寂しがり屋なくせに」
サクラさんは「フフ」と小さく笑った。
「それに、なんでも軽くできるように見せてたけど、本当は誰よりも練習してた。みんなが見てないところで必死に練習して、何でもないふりしてやって見せるんです。かっこつけて。頑張ってるところを見られたり言われたりすると嫌がるんですよ。もう、プライド高くて。でも本当に、本当に優しいんです。いつも私を、私たちを守ってくれていた」
笑んで細められた瞳がなお光を帯びてキラキラと輝いた。
………サクラさんの惚気が止まらない。
でも、その話を聞いてると兄さんを思い出すな。兄さんも私に努力している姿は隠したがってたな。
男の人はみんな格好つけばかり………
イタチだってそうだ。……本当に男って馬鹿ね。
「とても好きなんですね。彼の事が。」
サクラさんはこれでもかと顔を染めて、強くうなづいた。
「はい。」
「そうですか。」
「サクラさんは、その彼に想いを伝えたのですか?」
つい気になって尋ねる。
サクラさんは少し気まずそうに笑って答えた。
「はい。まぁでも、見事な玉砕でしたけど。うざいって言われちゃいました」
「…あはは。………でも、サクラさんには想いを伝えれる強さがあります。なら、その想いは
その強さが少し羨ましい。
グッと両手を胸の前で強く握る。
「彼は今、一人でとても暗い場所にいるんです。きっとすごく苦しんでいる」
瞳が強く色づいてゆく。
「助けたい。そのために修行して、強くなった。あの人に比べたらまだまだかもしれないけど、それでも守られていただけの自分とは違う。絶対に助けだしてみせる」
握りしめた手が少し緩み、視線が私に戻される。
「でも、ちょっと気持ちが沈んでたんです。どんなに強くそう思っていても、時々落ち込んでしまって。だけど、すっごく元気が出ました。ありがとうございます」
「いや。それならよかったです。」
「はい」
サクラさんは元気に返して再び歩き出した。
その背に、私ははまた思わず言葉を投げた。
「どうして」
「え?」
振り返るサクラさんに、私は続ける。
「どうして貴方はそこまで彼を好きでいられるんですか?強くいられるんですか?」
サクラさんは少しも考えずに笑顔で答えた。
「信じているんです。自分を」
「自分を…」
「はい。彼を支えられるのは私しかいない。たとえ求められなくても、そばにいられるのは私しかいないって、勝手にそう信じているんです。気持ちが弱くなったり、不安にあったりすることもあります。でも、そんなときはそれより大きな気持ちで、今までよりもっと大きな気持ちで全部吹き消すんです。あの人の事が誰よりも好きだから」
その言葉に。笑顔に。強さに。
私はつい先ほどまで自分がくだらない感情に振り回されていたことが恥ずかしくなった。
そして目の前にいるサクラさんに尊敬を念を抱いた。
自分より、彼女は強い。
本当に皆、強いね。
そして自分に何が足りなかったのかに気付いた。
信じる事。
イタチの事情は知らない。だけど、彼を信じよう。本心は語ってくれないかもしれない。それでも、彼を信じようと思った。
信じる心を持てない私は本当に弱いね………
そう気付かせてくれたサクラさん笑顔で答えた。
「強い人ですね。」
「ありがとうございます。」
サクラさんは嬉しそうに答えた。
「その人が、早く戻ってくるといいですね。」
「はい」
力強く返事するサクラさん。
「あの、クロさんが探している人って、恋人ですか?」
「え?」
突然の質問。しかも今までに聞かれたことのないその内容に、思わず戸惑う。
「さっき、喧嘩したって話をしていた時の目が、すごく優しかったから」
「そう…ですかね…」
全く意識していなかったことに、恥ずかしくなる。
「やっぱりそうなんですね」
誰かにそんな事を聞かれたことも言われたこともなく、改めてその言葉を当てはめられると妙に落ち着かない。
だけど、胸の内側はじんわりと暖かい感じがした。
サクラさんはその様子に柔らかく微笑んだ。
「仲直りできるといいですね。」
「ありがとうございます。」
「それにしても、一体どこに行ったんだろ。」
「そうですね。」
私もそれに続き足を進ませる。
「いっつも勝手な事ばかりで本当に困ったやつなんですよ」
「そうですか。」
「いつまでたっても子供っていうか、世話が焼けます」
「大変ですね。」
コロコロと表情を変えながら楽しそうに話すサクラさんに、私は一つ一つ短いながらも言葉を返してゆく。
そろそろ近付いてきたね。
ナルト君と顔を合わせる事はできない。
今回の変化の姿が『クロ』だから。前回あった時の事をナルト君が覚えていれば厄介だ。それに側にいるのは、自来也様。この姿で鉢合わせば、絶対に戦闘になる。
だから、ここら辺が潮時だろう。
「あ、サクラさん。彼がそうですか?」
私はかなり遠くに見えるナルト君を指さす。
サクラさんも気がついたようで、安堵の表情を浮かべていた。
「全く、本当に世話が焼けるわね!ありがとうございます、クロさ…ん……?」
サクラさんがキョロキョロと辺りを見回してる。
それを遠くから観察する。
やがて、サクラさんはナルト君の所へ歩いて行った。
すいません。流石に今この街で騒ぎを起こすわけにはいかないからね。
結構、面白い話を聞けたな。木ノ葉の事は漏らさなかったけど、楽しい話が聞けてよかった。
さて、宿に戻るか。
イタチはもう帰ってるかな?
逃げてても仕方ないか……
私は宿に向かって歩いた。