砕けた氷が空に消えていく。
それをボーッと眺めていたら、カカシさんに声をかけられた。
「お兄さんと再不斬にちゃんとお別れができたみたいだね。」
「私の我儘に付き合ってくださって、ありがとうございました。」
カカシさんとサクラさんに頭を下げる。
サクラさんは目が真っ赤になっていた。
カカシさんも少し俯き気味になる。
「気にする事は無いよ。………あの二人は君にとって特別だろう。」
「………カカシさんこそ、気に病む必要はありませんよ。」
「………何の話だい?」
「私が今も抜忍をやっている事をご自身の責任に感じる必要はないという話です。」
カカシさんとサクラさんが目を丸くする。
「……だが、オレは再不斬から君を託されたんだ。それをオレは…」
「確かにそうかもしれませんが、私は貴方と再不斬さんの約束を知りません。……それにたらればの話をしても仕方ありません。」
カカシさんの目を見てはっきりと言う。
「貴方は木ノ葉のはたけカカシ。私は暁の雪藍。それだけが事実です。」
「…………」
「どういう過程かなんて意味がありません。結果として、S級犯罪者集団、テロ組織『暁』の構成員。それが全て。」
「…………」
「それに私は別に自分を不幸だとは考えていません。さっき、兄さんにも話した通り、私は色んな人の支えがあって生きています。これを幸せと言わず、なんと言うんですか?」
「だが、君が挙げたメンバーも…」
「そうです。暁の犯罪者です。……ですが、彼らと私に違いなどありません。私だけが特別では無いんですよ、カカシさん。…それに私だって、五尾の人柱力を殺害しています。私もれっきとした犯罪者なんですよ。……カカシさんの責任云々の話では、最早無いんです。」
「そんな……」
「ですから、私はこれからも色んな人の想いを受け継いで、償いをしないといけません。戦い続ける事こそが、私の人生。」
カカシさんも完全に黙り込んでしまった。
暗い雰囲気で悪いけど、今は戦争の真っ只中。犠牲者が増え続けている現状でずっとお喋りするわけにもいかない。
「……お話は以上です。これから私はある術を使います。」
「……ある術?」
「はい、穢土転生の数を減らす術です。」
「…どんな術なの?」
「穢土転生体の魂魄を殺す術です。」
「…………」
「…………?」
カカシさんの表情が険しくなる。サクラさんはよくわからないという表情だ。
「魂魄……つまり魂を殺す。通常人間は肉体を破壊される事で死ぬ。だが、魂はどうなる?……そのある意味な答えがこの穢土転生。…或いはペインが使った輪廻転生の術だ。輪廻転生は生身の肉体に魂を入れる。穢土転生は生贄に魂を入れる事で復活する。…彼女が言ったのは、その魂を攻撃する術だって事さ。」
カカシさんの説明でサクラさんも理解したのか、顔色が悪くなる。
「この術を使えば、穢土転生体が復活する事ができなくなります。」
「だが、それは輪廻の輪に戻すのでは無く、魂の殺害。つまりその魂魄は無に帰すと言う訳か。」
「そうです。穢土転生体でも転生が不可能となり、魂魄は死にます。つまり無になります。屍鬼封尽によって死神に魂を捕らわれる事とも違います。」
サクラさんの表情も険しくなる。
「そう。この術は穢土転生によって死者を弄んでいるカブトよりも見方によれば残酷な術です。……穢土転生された何千何万の人間を虐殺する事と同義。強者を選んで穢土転生されている事から、各里の先代の英雄等も多く含まれる。あらゆる人間から恨まれる事でしょう。ですが…………」
私は剣気を放ち、睨みつける。
「…………今を生きてる人々が救われるなら、私は迷わない。」
「「…………」」
私は強く念じる。
晴れていた空が暗くなっていく。上空に雲が発生しているからだ。
今忍界全体を覆う雪雲を剣気で作っている。この雲から降る雪は私が設定したものを溶かす能力がある。
今回は穢土転生の魂魄。
これを物質に設定すれば、建物や木々や地面に人間も溶かし殺す事も可能だ。
忍界全体と言う事で少し時間がかかるから、こうして話している。
「…まあ、脅しつけるような事を言いましたが、実際は穢土転生の全体の2割程度しか倒せないと考えられます。」
「……その根拠は?」
「この術は魂魄を溶かす雪を降らせる術です。…単純な話、天井のある建物や洞窟、或いは自身で傘の役目を成す術でも持っていれば防げます。故に予想として2割と見ています。」
だいぶ空も暗くなってきた。
そろそろ始めよう。
カカシさんとサクラさんも気が付いたようだ。空を見上げている。
「まさか雪を降らせるって、本当に自然の雲を呼び出すのか。……なんてデタラメな。」
「範囲は?」
「忍界全域です。」
「「は?」」
「冗談ではありませんよ。………と、忘れるところだった。」
私は首切り包丁を広い巻物に収納する。
「…再不斬さんの遺品ですからね。私の腕力では振り回せませんが、私にとって大切な物の一つです。」
突然、カカシさんに肩を持たれる。
「オレが部隊長だ。責任はオレが持つ。」
本当に優しい人だ。だけど……
「申し訳ありませんが、お断りします。」
「……何!」
「この暁の服を纏っている私を味方として見てくれる事は大変嬉しいですが、貴方は忍連合軍の隊長。しかも木ノ葉の顔でもある。仮に戦争に勝てたとして、戦後に禍根を残して、木ノ葉で第五次忍界大戦にでもなれば、何の意味もありません。忍連合ではこの術を使える人はいないんですよ。暁の服を纏った私以外には。」
「…………」
「…………」
カカシさんが印を結んでいく。凄まじい雷光が右手を包んでいる。
雷切か……
「あまり偉そうな事を言いたくありませんが、いい加減貴方も覚悟を決めてください。」
10を取ることは不可能。なら1を捨てて9を取る選択をする。
カカシさん。貴方の肩には忍連合の何万人もの命がかかってる。
その命と一人の汚名とじゃ、天秤の対としては余りにも軽すぎる。
私は既に覚悟を決めてる。今更ブレない。
カカシさんの雷切の光が消えていく。
「
死の雪がパラパラと降り始める。
徐々に雪の量も増えていく。
異変はすぐに起こる。穢土転生体の雪に触れた場所が、ボロッと崩れ出した。
私は空を見上げる。雪は止めどなく降り続ける。
「深深と溶けていくがいい。」
どれくらいそうしていたかわからない。
気が付けば、戦闘音が消えていた。
視線を空から前に戻せば、忍刀七人衆の穢土転生体は全て塵になっていた。
彼らは刀がメインである事から、自分の身を守れる術を持ち合わせていなかった訳だ。
敵が居なくなった事で連合軍が私の周りに集まりだす。
「この雪は後、30分は降り続けます。……この場は白ゼツにだけ気を張っていればいいでしょう。」
連合軍の面々をしっかりと見る。
まだ彼らは何が何だかわかっていない様子。でも構わない。今は理解できなくても、この暁の服と顔を覚えてくれれば、後で冷静になった時に思い出してくれる筈。
もうここには用はない。
氷翼を展開する。
「では私は向かう所があるので、失礼します。」
私は空に飛んで次の目的地を向かう。
やはり穢土転生は思ったより、減っていない。それでも連合軍が少しでも楽になれば構わまい。
飛ぶ先にはよく知った気配。
やはり貴方も穢土転生されていたのね、イタチ。