異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
潜水艇の訓練をするとこうなる
精密な機器の群れを冷たく包み込む耐圧穀の中でも安心していられるのは、前世の世界で海に行くのが好きだったからなのだろうか。仲間たちと精密機器が同居する狭苦しい空間の中でも全く不安を感じないのは、前世の世界の記憶がその不安を上回っているからなのかもしれない。
耐圧穀の向こう側から聞こえてくる水の音と精密機器の作動する音を聞きながら、久しぶりに前世の世界で過ごした時の事を思い出す。
日常的に暴力を振るっていたクソ親父は、俺や母さんと外出することを嫌っていた。だから出かけようとすれば、基本的に俺は母さんと2人きり。外出して家に戻るまでは、その間だけとはいえ俺たちは解放されていた。
母さんと出かけた場所の中でも、特に俺は海が好きだった。綺麗な蒼空と、やや違う蒼で彩られた海面。大嫌いな父親と猛暑を同時に忘れられる海で、俺はいつも母さんに見守られながら泳いでいた。
そう、嫌いなことを忘れられる場所だから。
痛みを―――――――捨てられる場所だったから。
だから、このまま俺だけ沈んでしまってもいい。蒼と黒が支配する深海で眠ってしまってもいい。家に帰ることになる時間が近づくにつれて、俺は海に潜って足がつかないほど深い場所を見つめながら、そう思い続けていたものだ。
でも、もうあの父親に会うことはない。なぜならば俺はもう飛行機事故で死亡し、転生したのだ。それゆえにあの世界を捨てる事ができた。
「目標地点に到達。ブロー開始」
深海の中で思い出した前世の世界の思い出を、後ろにある艇長の座席に座る少女の声が塞き止める。今は昔の事を思い出している場合ではないと言わんばかりに冷たい声音だったが、彼女は俺が昔の事を思い出しているという事を見透かしていたのだろうか?
仲間たちどころか、幼少期から一緒に過ごしてきたラウラにすら俺が転生者であるという事は明かしていない。俺が転生者だという事を知っているのは、父であるリキヤ・ハヤカワのみだ。
だからナタリアが、俺が前世の事を思い出しているのを見透かしている筈がない。考え過ぎだ。
少しだけ首を横に振り、「了解、メインタンクブロー」と復唱した俺は、手元にあるモニターをタッチして操作しつつ、目の前にある操縦桿にも似たレバーを少しずつ引き上げ始めた。
水の音が、変わる。
耐圧穀の纏っていた海水たちが、斜め後ろへと置き去りにされていく。猛烈な水圧に別れを告げるように、俺たちの乗る潜水艇が浮上していく。
モニターに表示される深度を意味する数値がどんどん減少していく。やがてその数値が3桁を切ったところで、俺は目の前に出現する筈のメッセージを予測しつつ、操縦桿から左手を離していた。
《浮上しました。トレーニングモードを終了します》
「ふう………。みんな。訓練は終わったぞ」
「はぁ………」
「お疲れ様ですわ、みなさん」
「ふにゃあー………」
「終わりましたね」
モニターから目を離し、座席の背もたれに寄りかかる仲間たち。俺も操縦桿から手を離し、目の前に出現しているメニュー画面を片手で操作し終えると、背もたれに寄りかかってからため息をついた。
メウンサルバ遺跡で天秤の鍵の在処を知る事ができた俺たちは、早くも鍵を探すための旅を始めていた。一番最初に目指すのは、ラトーニウス海の深海に存在するという海底神殿である。
産業革命によって潜水艇が発明され、海底にもいくつもダンジョンがあるという事が判明しているんだが、海底神殿はその中でも特に難易度の高いダンジョンとして知られている。
まず、海底神殿が存在する深度が900mとされている。モリガン・カンパニーのフィオナちゃんが発明した潜水艇ならば1000mまで潜航する事ができるため、ギリギリ到達する事が出来る。しかし、潜水艇は非常に高価であるため、貴族や巨大企業の資本家くらいしか購入する事が出来ない。
潜水艇を使わなくても、転移の魔術を使えば神殿の中まで転移することは可能だ。しかし、肝心の転移の魔術は習得が非常に困難であるため、この稀有な魔術を使いこなす魔術師はごく少数と言われている。魔術に精通しているサキュバスですら習得していた者は少数だったらしく、ステラも習得できていないという。
そのため、この時点で未熟な冒険者は挑む事ができなくなるわけだ。転移の魔術を習得できるほど熟練している冒険者か、資金が豊富な者たちしか挑むことが許されない深海の神殿。そこに、メサイアの天秤が保管されている場所を開けるための鍵のうちの1つが保管されている。
だから、俺たちは是が非でもそこに向かわなければならなかった。
俺たちに潜水艇を購入できるほどの資金はないけど、俺にはあらゆる武器や兵器を生産する事が出来る能力がある。だからこの能力で潜水艇を生産し、神殿へと向かう事にしていた。
海底神殿へと向かうために生産したのは、救難用に開発された潜水艇のDSRVだ。アメリカや日本で採用されている潜水艇で、太い魚雷の後部に大型化したスクリューを取り付け、上部にセイルのような物を装備したような外見をしている。
このDSRVで深海へと潜航し、神殿へと向かう。脱出の際も同じくこいつを使い、深海から浮上するという計画だ。
「ねえ、やっぱり武装を積んだ方が良いんじゃないの? 海の中には大きな魔物がいっぱいいるわよ?」
息を吐きながら休憩している俺にそう言ってきたのは、艇長の席に座るナタリアだ。搭載されている潜望鏡のハンドルを折り畳みながら武装を搭載するべきだと言ったナタリアは、くるりと振り向いた俺を斜め上の座席から見下ろしていた。
「ガトリングガンとかグレネードランチャーは積めないの?」
「ああ、水中でガトリングガンやグレネードランチャーは撃てないんだよ。防水処理をしても射程距離が激減するから使い物にならないし………」
「そうなの?」
「そう。だから、本番では魚雷を積むことにしてる」
ロシアには水中で発砲できるアサルトライフルがあるが、潜水艇に搭載するならばそれよりも魚雷の方が良いだろう。
「ギョライ?」
「スクリューで水中を進む兵器だよ。敵に命中すると爆発するんだ」
「そ、そんな兵器もあるのねぇ………」
魚雷は、主に潜水艦や駆逐艦に搭載されている。非常に威力が高い兵器で、第一次世界大戦ではドイツ軍のUボートが猛威を振るったし、太平洋戦争ではアメリカ軍の潜水艦によって日本軍の軍艦は何隻も沈められている。特に、レイテ沖海戦では巡洋艦の愛宕と摩耶が魚雷で撃沈されている。
本番では、ドイツ軍のゼーフントのように潜水艇の左右に2本の魚雷を搭載する予定だ。巡洋艦や戦艦を撃沈してしまうほどの破壊力を持つ兵器だから、深海に生息する大型の魔物にも有効だろう。
「では、そのギョライをぶっ放すのはステラにやらせてください」
「おう、分かった」
今回の訓練では、ステラにあまり出番がなかったからな。
ちなみに、潜水艇を操縦する時の役割分担は、俺が操縦士を担当することになっている。しっかり者のナタリアは艇長で、頭の中にメロン体があるラウラにはソナーを担当してもらっている。カノンにはナタリアの隣にある座席で、機関部の操作をしてもらっているんだ。ステラは副操縦士なんだが、基本的に操縦は俺が担当しているし、搭載されているアームも今回は使わなかったから、ずっと隣に座って訓練を見守っているだけだったんだ。
手を伸ばしてステラの頭を撫でると、彼女は少しだけ顔を赤くしながら喜んでくれた。
「じゃあ、トレーニングはこれで終わりな。そろそろ起きる時間だぜ」
そう言って、俺はメニュー画面の下にある『トレーニングモードの終了』をタッチした。
トレーニングモードから目を覚ます感覚は、目覚まし時計によって強引に起こされる感覚とよく似ている。瞼を塞き止める眠気を拭い去りながら起き上がった俺は、背伸びをしながら息を吸った。
俺のトレーニングモードは、夢の中で武器の扱い方や倒したことのある敵と模擬戦する事が出来るというモードだ。始めると猛烈な眠気によって眠らされてしまうため無防備になってしまうし、眠っているとはいえ疲労は抜けない。だからトレーニングモードができるのは、宿屋の中や自宅くらいだろう。
アップデートによって仲間たちと一緒にトレーニングモードで訓練ができるようになったから、なおさらトレーニングをする場所には気を付けなければならない。
でも、これで仲間たちと一緒に兵器の操縦方法を訓練できるようになった。今のところは潜水艇しか兵器の操縦訓練はやってないけど、そのうち戦車や戦闘ヘリの訓練もやってみるつもりだ。
ラトーニウス王国の南側にある小さな村で一泊することにした俺たちは、夕食を食堂で摂ってからひたすら潜水艇の操縦訓練を続けていた。そのおかげで時間はかなり経過していて、もう夜の10時になっている。
小さな安い宿屋とはいえシャワーがあるので、早いところシャワーを浴びてから寝た方が良いだろう。もちろん、俺はシャワーを最後に浴びる予定である。
ベッドの上で、次々に仲間たちが起き上がる。俺はみんなに「おはよう。早くシャワー浴びて寝ちまおうぜ」というと、仲間たちがシャワーを浴び終えるまで新しい武器でも作って待機していることにした。
移動中に魔物を何体も倒したおかげで、もうレベルは60になっていた。ポイントも今のところは50000ポイントくらいあるから、銃を作ったとしてもあまり減ることはないだろう。ちなみに、アサルトライフルなどを生産するのに必要なポイントは平均で500ポイントから600ポイントくらいである。戦争中に造られた急造品やコストの低い中国製の武器は少量のポイントで作れるし、逆に高価な武器は高めのポイントで生産できるようになっている。
今のステータスは、攻撃力が2890で防御力が2788まで上がっている。相変わらずスピードが一番高いステータスになっており、なんと3070になっていた。だから接近戦も仕掛けやすくなったし、相手の攻撃も回避しやすくなった。
「じゃあ先にシャワー浴びてくるわね。行きましょ、2人とも。私が洗ってあげるから」
「はい、よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますわね」
ラウラがいつも俺と一緒に風呂に入っているからなのか、ラウラ以外の2人を連れてシャワーを浴びに向かうナタリア。俺は彼女に「悪いね」と礼を言うと、武器を生産するためにメニュー画面を開く。
何を作ろうかな………。個人的には大口径のアサルトライフルがいいんだが、弾薬はカスタマイズで自在に変更できるから好きなライフルを作ればいいだろう。
「お」
「ふにゅ? どうしたの?」
アサルトライフルの名称の中からあるライフルの名前を見つけた俺は、思わず画面を凝視しながらにやりと笑ってしまう。そのライフルの名称をタッチし、画面に表示されたパラメータと画像を見た俺は、隣にやってきたラウラにもそのライフルの画像を見せた。
「AN-94?」
「ああ。2点バースト射撃ができるアサルトライフルだよ。しかも滅茶苦茶速い」
AN-94は、ロシア製のアサルトライフルである。AK-74やAKS-74Uと同じく5.45mm弾を使用する口径の小さなライフルなんだが、一般的な2点バースト射撃の連射速度を遥かに凌駕する速度で連射できる2点バースト射撃ができるため、その破壊力と命中精度は他のライフルの2点バースト射撃よりも抜きん出ている。
形状はロシア製アサルトライフルの原点ともいえるAK-47に似ているけど、銃口にはまるでホイッスルを2つ縦に繋げたような形状のマズルブレーキが装備されているし、マガジンも若干右斜め下を向いている。
AK-47と違って扱い辛いライフルだけど、幼少期の訓練で何度か使った事がある。
「それ作るの?」
「ああ」
生産をタッチして生産する。AK-47よりもコストが高いせいなのか、使うポイントは750ポイントだった。
グレネードランチャーのGP-25を装着し、銃剣も装備しておく。銃身の上にはチューブ型ドットサイトと、中距離射撃ができるようにブースターも装備しておこう。いざとなったら2点バースト射撃で狙撃できる筈だ。
弾薬は殺傷力の高い5.45mm弾だけど、他の仲間たちはナタリアを除いて7.62mm弾を使用しているから、仲間たちと弾薬を分け合うためにも同じく7.62mm弾を使用できるように改造しておこう。
尋常ではない速度の2点バースト射撃で7.62mm弾が飛来するのか………。破壊力とストッピングパワーが凄まじい事になりそうだ。魔物にも有効だな。
「ねえ、お姉ちゃんも新しい武器が欲しいな」
「分かった。何がいい?」
「えっと、小型で7.62mm弾を使用する銃が良いな」
「小型?」
「うん。2丁使うから」
SMGやハンドガンみたいに7.62mm弾を使用する銃を2丁使うのかよ………。
さすがキメラだな。
ラウラに注文された通りに、俺は7.62mm弾を使用する銃を探す。当然ながらSMGやPDWには7.62mm弾を使用する大口径の得物は存在しないので、アサルトライフルの中から探すことにしよう。SMGとPDWの場合は使用する弾薬を変更すれば7.62mm弾でも問題ないんだが、反動がかなり大きくなってしまう。
AN-94の名称のところで止まっていた画面を下へと動かそうとした瞬間、俺はすぐにラウラの注文にうってつけの銃を発見してしまった。
こんなにはやく素晴らしい銃を見つけられるとは。
その銃の名称をタッチすると、予想通りの画像が表示される。やけに短い銃身と、FA-MASを思わせる高めのキャリングハンドル。特徴的なのはキャリングハンドルの付け根の部分が木製の部品で出来ているせいで、ブルパップ式のライフルでありながら古めかしさを感じてしまうところだろうか。
「これはどう?」
「ふにゅ?」
彼女に見せたライフルは―――――――ロシア製のブルパップ式アサルトライフルである、OTs-14グローザだ。特殊部隊などで使用されている小型のアサルトライフルで、AKS-74Uが原型になっている。
非常に小型で口径も大きい優秀なライフルだが、他のブルパップ式ライフルのように空の薬莢を排出する方向を切り替える事が出来ないという欠点がある。そのため、左利きのラウラがそのままこのライフルを使わせるわけにはいかない。
だから、片方だけ構造を左右で反転させておく。こうすれば彼女もこのグローザを2丁使う事ができるようになるだろう。
グローザの種類の中にはグレネードランチャーを装備したタイプもあるんだけど、ラウラのために造ったグローザは非常に短い銃身を持つタイプだ。トリガーのすぐ前がもう銃口になっているほど銃身が短いため、フォアグリップすら取り付ける事が出来ない。
2丁使うみたいだからフォアグリップは要らないだろうけど、もし作るならライフルグレネードを発射するためのアダプターを装着しておこう。
「どう?」
「か、かっこいい………! じゃあ、これ作って!」
「はーい」
2丁のOTs-14を生産し、片方の構造を反転させておく。計画していた通りにライフルグレネード用のアダプターを追加してから装備した俺は、それをラウラに渡した。
グローザはかなり銃身が短いから、もし狙撃ができないほど狭い場所での戦いになったとしても、ラウラを守ってくれることだろう。
新しいライフルをまじまじと見つめ始めたラウラに向かって微笑んだ俺は、ナタリアたちがシャワーを終えるまでしばらく兵器でも眺め、どの戦車を作るべきか計画を立てておくことにした。