異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

106 / 560
ステラが夕食を摂るとこうなる

 

「はい、魚のフライです」

 

「どうも。………ほら、ステラ」

 

「ありがとうございます」

 

 少年が厨房で作ってきた料理を受け取り、窓際の席に座るステラの前へと置く。揚げたてのフライの上にはソースがたっぷりとかけられていて、傍らにはポテトサラダが添えられた皿を彼女の前に置いた俺は、ステラの傍らに積み重ねられた皿の山を見上げ、静かに財布の中身を確認した。

 

 た、食べ過ぎだぞ、ステラ………。

 

 俺たちは魚のムニエルとかスープを注文してたんだけど、ステラは先ほどから何品も料理を注文し、それを完食して次のメニューを注文し続けていた。これでステラが注文した料理は15品目。3日分の宿泊費に匹敵するくらいの食費なんだけど、自重してくれるかな………?

 

「はむっ。………ん、魚料理も美味しいですね」

 

「ふにゃあ………いいなぁ、ステラちゃん。カロリーを吸収するわけじゃないから、太らないんでしょ?」

 

「はい、そうですね。ですので料理のカロリーは全く気になりません」

 

「羨ましいなぁ………最近はあまり食べ過ぎないように気を付けてるのに」

 

 そう言いながら自分のお腹を見下ろすラウラ。彼女は全く太っているようには見えないんだが、女子ってかなり気にしてしまうんだろうか。

 

 まあ、俺たちは小さい頃から厳しい訓練を受け続けてきたからな。食べ過ぎてもすぐに体重が落ちてしまうほどだったから、むしろ食べないとガリガリに痩せてしまうところだった。

 

 おかげでかなり筋肉と体力はついたんだけどね。

 

「何言ってるのよ、ラウラは全然太ってないじゃない」

 

「そ、そうかなぁ………?」

 

「そうですわ。お姉様はとっても素敵ですわよ?」

 

 ラウラのお腹をさすりながらフォローするカノン。おそらく彼女はラウラをフォローするよりも、彼女のお腹を触りたかっただけなんだろう。彼女のお腹をさする度になぜか呼吸が荒くなっていくカノンの前にそっと鼻血用にとティッシュを置いた俺は、どん引きしながらカノンを見つめていた。

 

「だから食事を制限する必要はないんじゃない? タクヤだって痩せてるし」

 

「そうか? 俺は男だからあまり気にしたことなかったけど………」

 

 前世でもあまり気にしたことはなかったなと思いながら、ハンチング帽の上から頭を掻く。服の上からだと細身の少女にしか見えないけど、シャワーを浴びる時に鏡を見てみると結構筋肉はついてるんだよ。

 

 もう少し筋肉を付ければ男子に見えるだろうかと思いつつ、コップの中に入ってみる水を飲んでいると、ナタリアが目を丸くしながら俺を見つめて「ああ、そうね」と言ったのが聞こえた。

 

 え? 何で目を丸くしてたの?

 

「そういえば、あんた男の子だったわね」

 

「お前喧嘩売ってんのか?」

 

 何だよぉぉぉぉぉぉ! 俺は男子だって言ってんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 生まれつき母親に似過ぎてたせいで散々女だと勘違いされてきたけど、ついに一緒に冒険している仲間にまで男子じゃなくて女子だって認識されてたの!? 

 

「ひ、ひでえよナタリア………ぐすっ」

 

「ちょっ……ちょっと、何泣いてんのよ?」

 

「だって………みんな俺の事を女だって思ってるみたいだし………もう訂正するのに疲れたよぉ………」

 

「わ、分かったって! ごめんなさい、気を付けるから! もうっ」

 

 まったく………。

 

 ちなみに今のは嘘泣きではないです。本当に泣いてました。だからナタリアが必死になってたんだな。ひひひっ、ざまあみろ。

 

「ふにゅ……よしよし、お姉ちゃんはちゃんと男の子だと思ってるからね」

 

「ありがと、お姉ちゃん」

 

 やっぱりラウラは優しいなぁ………。ヤンデレじゃなかったら最高のお姉ちゃんだよ。

 

 ラウラになでなでされながら店内を見渡してみると、いつの間にか客の数が減っていた。テーブルの上には完食された料理の皿やフォークが置き去りにされていて、店内で食事を摂っているのは俺たちだけになっている。

 

 厨房の方では、あの少年が一息入れているところだった。特に料理の注文は入っていないし、先ほどステラが注文したばかりだから時間があると判断したんだろう。

 

 忙しそうだったからなぁ………。

 

 休憩している彼を眺めて安堵していると、ラウラの前を通過して伸びてきた可愛らしい小さな手が、ぐいぐいと俺の服を引っ張った。

 

「ん?」

 

「タクヤ、次はチョコレートパフェが食べたいです」

 

「わ、分かった………」

 

 デザートのつもりなんだろうか。一服している彼に新たな注文を伝えるのは申し訳ないような気がするが、俺は先ほど感じた安堵を投げ飛ばし、厨房へと向けて「すいませーん!」と大きな声を出す。

 

 すると、少年が素早くこちらのテーブルへとやってきた。申し訳なさそうに小さく頭を下げると、彼は苦笑いしながら頷いてくれる。……申し訳ない。多分これが最後だから、もう一頑張りしてくれ。

 

「チョコレートパフェを1人分お願いします」

 

「かしこまりました。では、お皿を――――――」

 

「あっ、それは私がやりますよ」

 

 忙しそうだった彼を手伝うつもりなのか、ステラが平らげた料理の皿へと手を伸ばした少年が皿を掴むよりも早く、ナタリアの白い手が空になっている皿を拾い上げた。

 

「いえいえ、お客様にそんな事をさせるわけには………」

 

「いいんです、気にしないでください。先ほどから忙しそうでしたし………無理をしてはいけませんよ」

 

「ですが………!」

 

「こんなに美味しい料理を作れる立派な料理人が倒れてしまっては、みんな困ってしまいます。ですから、お手伝いさせてください」

 

「も………申し訳ありません」

 

 かなり疲れていたんだろうな。俺たちが入店した時点でもかなり忙しそうだったし。

 

 厨房でフライパンを振るって料理を作り、客から注文が圧度に厨房から飛び出してメニューを聞き、1人でその料理も作る。休憩する時間は全くなかったに違いない。

 

 だから彼を手伝おうとしているのは、ナタリアの厚意なんだろう。

 

「では、申し訳ありませんが空いているお皿を厨房までお願いします。後は私が洗っておきますから………」

 

「いえいえ、皿洗いもやらせてください。こう見えても家事は得意なんですよ?」

 

「ほ、本当に申し訳ありません………」

 

 頭を下げた少年は、感激したのかナタリアの手を握ってからもう一度頭を下げ、彼女に礼を言った。

 

 ナタリアだけで大丈夫だろうか? 俺たちも手伝うべきではないんだろうか?

 

 彼女に俺たちも手伝おうかと申し出ようとしていたんだが、その言葉は突然口の中に現れた違和感によって塞き止められてしまう。

 

 ナタリアの手を握り、何度も頭を下げる転生者の少年。手伝うと申し出てくれた客に感激しているように見えるが―――――――目だけが、違うような気がする。

 

 あの目は違う。目だけは、感激しているという方向性が違う。あれはまるで忙しい時に手伝ってくれると申し出てくれた赤の他人に向ける目つきではなく、まるで獲物を見つけたかのような、狡猾さと狂気を兼ね備えたおぞましい目だ。

 

「………?」

 

「お兄様、どうしましたの?」

 

「いや、何でもない。………ところで、俺たちも手伝おうか?」

 

「大丈夫よ。久しぶりに家事がやりたいし、それほどお皿は多くないわ。すぐ終わるから、ここで待ってて」

 

「………」

 

 空になった皿を持ち、ウインクしてから厨房へと向かうナタリア。俺はもう一度コップの中に残っている水を飲んだけれど、口の中を塞き止めているこの違和感を押し流すことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

(懐かしいなぁ………)

 

 こうやって皿を洗ったのは、家で母親を手伝っていた時以来だろうか。冒険者になる前に家事を手伝っていた感覚を思い出しつつ、ナタリアは泡立ったスポンジで皿を洗い続けていた。

 

 14年前にネイリンゲンが転生者たちに襲撃され、その際に父親を失ってからは、エイナ・ドルレアンで母親と2人暮らしだった。毎日母の家事を手伝いつつ商人の手伝いをして銀貨を貯め、本を購入して冒険者になるための勉強を続けていた日々を思い出したナタリアは、エイナ・ドルレアンで1人で暮らしている母親の事を思い出す。

 

 もう母は40歳を過ぎている。前に家に戻った時は元気だったが、まだ元気なのだろうか。

 

(今度、手紙でも出そうかな)

 

 さすがにメサイアの天秤を探すために旅をしていると手紙に書くわけにはいかないが、いくつもダンジョンの調査をこなしていると手紙に書けば、母はきっと喜んでくれるに違いない。それに、今は大切な仲間たちがいる。

 

 冒険者になってからは1人で行動していたナタリアは、あまり仲間を作ろうと思うことはなかった。冒険者の目的はダンジョンの調査で、それをレポートに書いて提出することで初めて管理局から報酬が支払われる。だから冒険者同士が共闘することもあるし、その成果を独り占めするために裏切るというのも日常茶飯事だ。

 

 仲間に裏切られるのを警戒していたというのもあるが、ナタリアのような美少女が1人で行動していれば、下心を剥き出しにした下衆な男たちが寄ってくる。

 

 だから、彼女にとって仲間は必要な存在ではなかったのだ。むしろ疑うべき対象だと思っていたのだが―――――――あのキメラの姉弟と出会ってから、変わった。

 

「………」

 

 特に、ハヤカワ姉弟の弟にフィエーニュの森で助けられた時に、疑うべき対象という認識が信頼できる対象へと変わったのだ。

 

 どうしてなのだろうか。彼が幼少期にナタリアの命を救ってくれた、モリガンの傭兵の息子だからだろうか。

 

(………多分、違う)

 

 彼は何度も助けてくれた。メウンサルバ遺跡で落とし穴に落ちた時もナタリアを庇ってくれたし、穴の底から登る時も彼が上まで連れて行ってくれたのだ。

 

 何度も一緒に行動した下衆な男たちとは全く違う。彼はあの男たちと違って、ナタリアをちゃんと仲間だと思ってくれているし、大切にしてくれている。

 

 いつの間にか手が止まっていた事に気がついたナタリアは、慌てて再び皿を磨き始めるが――――――綺麗になった真っ白な皿に、顔を真っ赤にしている自分の顔が映ったことに気付いたナタリアは、更に顔を赤くしてしまう。

 

 きっと―――――――タクヤの事を考えていたからなのだろう。

 

 いつも実の姉とイチャイチャしているシスコンで、卑怯な手を頻繁に使う男だが、あの少女のような少年は頼りになる。

 

 それに、彼と一緒にいると安心するのだ。

 

 まるで暗闇の中で輝くランタンのように、彼女の中の不安を照らし出し、溶かしてくれる蒼い光。

 

 飄々とした奇妙な少年だったが、フィエーニュの森で助けに来てくれた時は―――――――彼の後姿を見て、あの時助けてくれたモリガンの傭兵の後姿を思い出してしまった。

 

 とてもそっくりだったのだ。

 

 息子とはいえ母親に似た彼とあの傭兵は、顔つきや体格は全く違う。だが、彼女を助けるためにやって来てくれた時に纏っていたあの雰囲気は、同じだった。

 

(カッコよかったなぁ………)

 

 皿を洗い終え、拭いてから棚の上へと戻す。厨房の中にまだ洗っていない皿が残っていない事を確認したナタリアは、背伸びをしながら厨房の中を見渡した。

 

 あの同い年くらいの料理人を探し、皿洗いが終わった旨を伝えるために見渡したつもりだったのだが、このような飲食店の厨房に足を踏み入れた経験のない彼女は、好奇心を身に纏いながら厨房の中に並ぶ調理器具を見渡してしまう。

 

 しっかりと研ぎ澄まされた包丁とまな板。先ほどまで料理を作るために使っていた黒光りするフライパンは、洗われてから壁にぶら下げられている。

 

 調味料とオリーブオイルの香りがする厨房を見渡していたナタリアは、冷蔵庫と思われる金属製の長方形の箱の隣に半開きの扉がある事に気がついた。裏口かと思ったのだが、裏口らしき扉は他にもあるし、その扉の向こうには下へと続く階段があるようだ。

 

(地下室………?)

 

 おそらく、食材を保管するのに使っている倉庫でもあるんだろう。あれほどの料理を作るための食材を入れておくにしては、厨房にある冷蔵庫では小さ過ぎる。

 

「あ、終わりました?」

 

「はい、終わりましたよ。お疲れ様です」

 

 後ろから少年に声をかけられ、ナタリアはいささかぎょっとしながら後ろを振り向いた。大食いのステラのためにチョコレートパフェを作り終えたらしい少年は額の汗を拭い去ると、息を吐いてから右手を差し出してきた。

 

「助かりました。これで明日はゆっくり休めそうです」

 

「明日は定休日なんですか?」

 

「ええ。毎週日曜日は定休日にしてるんです。………でも、食材の仕入れもやっておかないといけませんから、実質的に休めるのは半日だけなんですけどね」

 

「た、大変なんですね………」

 

「はい、大変です。………でも、料理人になるのは夢でしたから、泣き言を言うつもりはありませんよ。今夜はしっかり夕飯を食べて、ゆっくり休みます」

 

(この人………まだご飯食べてなかったんだ)

 

 ひっきりなしに客から注文を受け、客のテーブルと厨房をひたすら往復して料理を作り続けていたのだ。夕食を摂る時間などある筈がない。

 

「頑張ってくださいね」

 

「ええ、頑張ります」

 

 少年の手を握り返すナタリア。ひたすらフライパンを振るい、食材を包丁で切り続けてきた彼の手は、体格が細身なのにもかかわらず思ったよりごつごつしていた。これが料理人の手なのだろうと思って感心していると、少年がポケットの中からハンカチを取り出したのが見えた。

 

 まだ残っている汗でも拭くのだろうと思っていたナタリアだったが――――――そのハンカチは、少年の頭へと向かっていく最中にいきなり方向を変え、ナタリアの顔へと迫ってきた。

 

「え―――――――むぐっ!?」

 

 真っ白なハンカチに口と鼻を塞がれ、片手を握られたままもがくナタリア。しかし、段々と身体に力が入らなくなり、じたばたさせていた手足の動きも段々と鈍くなっていく。

 

 その感覚は、ベッドで眠る時の感覚に似ていた。段々と力が抜け、眠気に呑み込まれる感覚。おそらくハンカチに睡眠薬でも染み込ませてあったんだろうと予測した頃には、彼女はついに屈し、瞼を閉じてしまっていた。

 

 理性が眠気によって封じ込められ、瞼を閉じたナタリアが崩れ落ちる。物音を立てられないように彼女を抱き抱えた少年は、寝息を立てる金髪の少女の顔を見下ろしながらにやりと笑った。

 

「頑張らせてもらいますよ、お客さん」

 

 

 

 

 

 

 

 やっとステラがパフェを完食してくれた。口の周りについた生クリームとチョコレートを舐め取り、お腹をさすっていたステラの頭をカノンが撫で回す。

 

 食事を終え、昼寝を始める猫のようにうっとりとしている彼女を見守っていた俺は、先ほどからちらちらと厨房の方を見ていた。ナタリアはまだ皿を洗っているんだろうか? それにしては水の音が聞こえてこないんだが、別の手伝いでもしてるのか?

 

 そう思いながらコップの中の水を飲み干そうとしていると、料理人の少年が厨房の奥からこっちの座席へと戻ってきた。

 

「ナタリアは?」

 

「申し訳ありません。お客様にはもう少し手伝っていただきたい仕事がございまして………」

 

「俺たちも手伝いましょうか?」

 

「いえいえ、大丈夫です。もう少しで終わりますから、先に宿に戻っていてほしいだそうです」

 

 皿洗い以外の仕事? 何をやってんだ?

 

 再び違和感を感じつつ、俺は少年に「会計お願いします」と告げた。ステラが何品も平らげたせいで、また財布が軽くなりそうだ。告げられる食費にビクビクしながら財布を準備していると、少年が目を一瞬だけ見開いてから言った。

 

「ぎ、銀貨60枚です………」

 

「ステラぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「ご、ごめんなさい。ここの料理はとても美味しかったので………」

 

 ヤバいぞ、早くも闘技場の賞金がステラの食費だけで削り取られつつある。そろそろダンジョンを調査して金を稼がないと、また資金不足になっちまいそうだ。

 

 幸いこれから向かう海底神殿は難易度が高く、まだ内部の構造も分からない部分が多いダンジョンだから、ダンジョンの構造をレポートに記して提出するだけでも金貨はもらえる筈だ。鍵をゲットするおまけに資金も稼いでおこう。

 

 財布の中から銀貨を取り出し、数えてからカウンターに10枚ずつ並べていく。大量の銀貨を出した後の俺の財布はかなり軽くなっていて、振ってみても前のように銀貨のぶつかる音はしない。

 

「では、俺たちは先に宿屋に戻ってるので、ナタリアに伝えておいてください」

 

「はい。ありがとうございました!」

 

 彼に礼を言ってから、俺は仲間たちを連れてレストランを後にする。喫茶店のようにおしゃれなドアを開け、夜風の中へと躍り出た俺は、ラウラとつないでいた手を静かに離すと、後ろに立っているあの少年が経営するレストランを振り向いた。

 

「………タクヤ?」

 

「ごめん、ラウラ。先に宿に戻っててくれ」

 

「え?」

 

 あれだけ水を飲んだというのに、まだあの違和感は俺の口の中に残っている。

 

 あの少年の目つきは――――――他のクソ野郎と同じだ。

 

 仲間たちに「すぐ戻るから」と告げた俺は、片手をホルスターの中のMP412REXに近づけつつ、再び店の方へと戻っていった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。