異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

115 / 560
先手

 

 古代の人々が海の守り神として崇めていたエンシェントドラゴンは、広間の中心で巨大な水の球体に包まれたまま、浮遊していた。眠っているのだろうか。自分自身が司る水に抱かれて、冒険者が辿り着く事も少ない神殿の最深部で。

 

 水の球体に包まれているとはいえ、その巨躯の形状は明らかに普通のドラゴンよりも威圧的で、一般的なドラゴンの姿からは逸脱していると言える。

 

 ダークブルーの外殻と鱗は日光を拒む深海を思わせる。サラマンダーや他のドラゴンのように外殻は尖っておらず、むしろイルカやサメのヒレのように丸みを帯びて突き出ている程度だ。背中からはやはり巨大な4枚の翼が生えているが、もちらも一般的なドラゴンの翼というよりは、ドラゴンの翼とサメのヒレを融合させたような形状をしている。元々海中に生息するエンシェントドラゴンであるため、〝飛ぶ”というよりも〝泳ぐ”ことの方が多いからあのような形状になっているのだろうか。

 

 他のドラゴンよりも異質な姿だが、あの姿を目にすれば、最も異様な部分は頭だという人は多いだろう。

 

 ――――――シーヒドラには、5つも頭があるのだから。

 

 サメのヒレを思わせる翼や外殻とは裏腹に、頭の形状はドラゴンに近かった。相変わらず外殻は流線型ではあるけど、眉間からランスのように伸びた長い角はまるでサファイアで作られているかのように透き通っている。優美な美しい角だが、その頭にある口の中には鋭い牙が何本も連なっており、シーヒドラの持つ獰猛さもちらつかせていた。

 

 頭の形状は全く同じだが、記録によるとあの頭はそれぞれ別々の意思を持つと言われており、人語を話すという。

 

 俺たちが広間に入ってきたというのに、シーヒドラはまだ目を覚ます気配がない。装備を整える時間はあるが、これはシーヒドラが俺たちに気付いていないだけなのだろうか?

 

 いや、もしかしたらこのエンシェントドラゴンは俺たちを見下しているのかもしれない。人類はドラゴンには勝てないのだから、どれだけ準備をしても無駄なのだと………。

 

「………起きないね」

 

「今のうちに作戦とか立ててみるか?」

 

 そう言いつつ、俺は仲間たちに重火器を配り始める。ナタリアは既に切り札の1つであるカールグスタフM4を装備しているので、ステラ用のGSh-6-30を彼女に渡し、カノンにはSVK-12用のライフルグレネードを支給する。

 

 迫撃砲なら決定打になるかもしれないと思ったんだが、この広間は広いとはいえ、迫撃砲を使えるほど天井が高いわけではない。こんなところでぶっ放したら、迫撃砲の砲弾が落下するよりも先に天井に激突し、崩落してきた天井で生き埋めにされてしまう事だろう。

 

「どうするの?」

 

「まず、ラウラは遠距離から援護だ。広間の外周に陣取って狙撃を頼む」

 

「うんっ!」

 

「カノンは中距離からの射撃。7.62mm弾で貫通できる可能性は低いから、牽制だと思え。隙を見たらライフルグレネードで砲撃する事」

 

「分かりましたわ」

 

 シーヒドラはオルトバルカ王国ではドラゴンに分類されているが、他の国ではれっきとしたエンシェントドラゴンに分類されている。エンシェントドラゴンの戦闘力は極めて高く、外殻も硬い。討伐するには優秀な魔術師が必須だと言われている。

 

 それはつまり、剣や弓矢では攻撃が通用しないということを意味している。いくら銃でも、外殻に弾かれてしまう可能性があるのだ。

 

 普通のドラゴンでも、外殻を貫通するには最低でも6.8mm弾が必須である。しかし、相手は普通のドラゴンではない。今まで数多の魔物を葬ってきた獰猛な7.62mm弾が、通用しない可能性は高いのだ。

 

 アンチマテリアルライフルの12.7mm弾でも物足りないだろう。俺たちの持っている装備で頼りになるのは、俺のOSV-96に取り付けてあるRPG-7V2とナタリアのカールグスタフM4で使用可能な対戦車榴弾か、ステラのガトリング機関砲の30mm弾だろう。

 

『―――――貴様ら、財宝を奪いに来たのか?』

 

「!」

 

 重火器の支給を終え、これから目の前の怪物に対戦車榴弾をお見舞いしてやろうと思っていたその時だった。持ち上げたOSV-96のマズルブレーキの向こうで眠っていた5つの頭のうち、1つの頭がゆっくりと動いたかと思うと―――――鮮血を思わせるほど紅い双眼で、俺たちを見下ろしていたのである。

 

 トリガーを引こうとしていた指が、慄いたようにぴたりと止まる。

 

 自分よりも遥かに強力で、巨大で、古い存在。数多の戦いを経験し、〝歴史”を蓄積してきた猛者。まるで親父と訓練していた時に何度も感じた先人への畏怖を、俺は久しぶりに思い出していた。

 

 経験と力は、猛者の象徴。ただ俺たちを見下ろすだけで、このシーヒドラは俺たちに畏怖をもたらしたのだ。

 

『―――――ふん、人間ではない者も混じっているようだな』

 

『他者から力を吸わなければ生きていけないサキュバスに………ほう、我が同胞たちとの混血か。なんとおぞましい』

 

『人間め、どうせ財宝が目的なのだろう?』

 

『まるで欲望の塊だな。貴様らに渡せば、宝物が穢れてしまう』

 

 他の4つの頭も目を覚まし、俺たちを見下ろし始める。

 

 彼らの言葉の中には俺とラウラとステラを侮辱も含まれていたが、俺たちにはそれに憤っている余裕はなかった。仲間が馬鹿にされたのだから、いつもならば馬鹿にした敵をボコボコにしているところだが――――――こいつはレベルが違い過ぎる。

 

 今まで戦っていた奴らが猛獣だとするならば、こいつはその猛獣を蹂躙する恐ろしい恐竜だ。

 

 シーヒドラを包んでいた水が、ゆっくりと広間の足場へ滴り始める。大きな滴が何度も純白の足場を濡らし、うっすらと水を張り始めた。そこへと水の球体を形成していた水が吸い込まれていったかと思うと、足場の下を埋め尽くしている水の水位が上がり、俺たちの足首から下を飲み込んでしまった。

 

 念のため、体内の魔力をチェックしておく。今のところ炎属性の魔力が暴発する様子はないが、もし暴発しそうになったら雷属性の魔力で上書きし、沈静化しなければならない。

 

 氷を使うラウラには何の問題もない相手だが、サラマンダーの炎を受け継いだ俺にとっては相性の悪い相手だ。

 

『立ち去るがいい、下等生物共。さもなくば海の藻屑になるぞ』

 

「申し訳ないが………立ち去るつもりはないぜ、シーヒドラ」

 

 ビビってる場合じゃない。

 

 こいつを倒し、鍵を手に入れなければならない。そうしなければ人々が虐げられることのない平和な世界は手に入らないのだから。

 

 かつて親父たちも、仲間と共に火山で最古の竜ガルゴニスを打ち倒している。モリガンの傭兵たちは、強力な竜との戦いを乗り越えているのだ。

 

 ―――――だったら、俺たちも乗り越えて見せようじゃないか。

 

 親父たちが乗り越えたのならば、俺たちも乗り越える。

 

 俺たちも―――――――竜を打ち倒す者(ドラゴンスレイヤー)になってやろう。

 

「―――――散開ッ!」

 

 まだシーヒドラに慄きながらも、俺は仲間たちに指示を出しつつ、アンチマテリアルライフルを肩に背負いながら走り出していた。床を覆う水を跳ね上げ、他の仲間たちも散開し始める。

 

 ドラゴンなどの巨大な魔物と戦う際、昔の騎士団は密集隊形で応戦するという戦法をとっていた。耐火性に優れた盾でドラゴンの炎を防ぎつつ、槍で反撃して少しずつ弱らせていくのだ。

 

 しかし、モリガンの傭兵たちの影響と産業革命による技術の発達によって、その従来の戦法は愚の骨頂と言えるほど危険で非効率であるということが判明し、とっくの昔に廃れている。現代ではむしろ盾を持たず、最低限の防具のみ身に着けて散開し、敵を包囲して集中攻撃を仕掛けるという戦法が主流だ。

 

 密集すれば、まとめて炎で焼き払われる可能性がある。シーヒドラの場合は炎ではなく水だろうがな。

 

 相手がどんな攻撃をしてくるにせよ、密集していれば一撃で殲滅される危険性もある。だから散開して敵を取り囲むのだ。

 

 散開していればまとめて攻撃することは出来なくなり、相手は各個撃破していくしかない。それは誰か1人が狙われるということを意味するが、逆にそれ以外のメンバーには攻撃が来ないという事にもなる。それゆえに、狙われたメンバーは全力で攻撃を回避し、他の仲間が無防備になっている敵を攻撃する事が出来るのだ。

 

 これが、現代の魔物との戦いの鉄則である。

 

 仲間は思いやるべきだが、戦闘中は密集してはならない。騎士団の戦術の教本にもこれは記載されている。

 

 ズドン、と広間に荒々しい轟音が響き渡り、シーヒドラの真ん中にある頭の首筋に火花が散った。アンチマテリアルライフルよりも小さな銃声という事は、先手を打ったのはカノンという事になる。彼女のSVK-12の7.62mm弾が、シーヒドラの首筋に飛び込んだのだ。

 

 しかし、やはり外殻を貫通することは出来ていない。猛烈なストッピングパワーを持つ7.62mm弾でも外殻は貫通できず、火花を散らすだけか………。

 

 ならば――――――12.7mm弾だッ!

 

「喰らえッ!」

 

 距離は十分近いから、スコープを覗き込むまでもない。本来ならばスコープをしっかりと覗き込み、相手の弱点と思われる部分を正確に狙撃して大ダメージを与えるべきなのだろうが、相手の防御力を確かめる必要もある。

 

 あわよくば貫通してくれよと願いつつぶっ放したのだが―――――まるで鉄板に石ころを投げつけたような、カンッ、という硬い音を響かせ、カノンの射撃と同じく火花を散らし、俺の12.7mm弾も弾かれてしまう。

 

 くそったれ、戦車並みの防御力なのか!?

 

 舌打ちしながら移動するが、俺から見て一番左側の頭にある双眼が、俺の狙撃に被弾した瞬間のみ目を細めていたような気がした。

 

 弾かれてしまったが衝撃がダメージになったのか? それとも俺の一撃が煩わしいと思ったのか?

 

『ふむ、変わった武器を使うものだ』

 

『見たことのない武器だな。クロスボウではないようだが』

 

『しかし、それでは我らは殺せぬ。我らの外殻は砕けぬぞ』

 

 ああ、外殻は砕けないだろうな。――――――弾丸なら、無理な話だ。

 

 第一次世界大戦と第二次世界大戦では、〝対戦車ライフル”と呼ばれる武器が活躍していた。当時のライフルの口径を遥かに上回るでっかい銃弾をぶっ放し、敵の戦車を破壊するための兵器である。

 

 しかし、重火器を搭載した頑丈な戦車を銃弾で狙撃するよりも、パンツァーファウストなどのロケットランチャーを叩き込んだり、大型の砲弾を発射する対戦車砲が最も有効であるという事になり、対戦車ライフルは廃れてしまう。

 

 アンチマテリアルライフルも対戦車ライフルと同じく大口径の弾丸を使用するが、こっちは戦車を破壊するための兵器ではなく、スナイパーライフルを超える超遠距離からの狙撃に使用される代物だ。大口径の弾薬ゆえに破壊力はあらゆる弾丸を上回るが、徹甲(AP)弾を使わない限りハード・ターゲットを撃破するのには向かない。

 

 だから―――――防御力の高い奴を相手にする時は、ロケットランチャーが手っ取り早いんだ。

 

 俺がアンチマテリアルライフルの下にロケットランチャーを付けてるのは、そういう硬い奴に対応するためなんだよ!

 

「じゃあ、こっちでも喰らってなッ!」

 

 左手をキャリングハンドルから放し、素早くRPG7-V2から伸びるグリップを掴み取る。人差し指を伸ばしてトリガーに絡み付かせると、やはり照準器を覗き込むことなくそのままぶっ放した。

 

 銃弾よりも弾速は遅いが、煙を吐き出しつつ急迫する爆薬を満載したロケット弾は、シーヒドラに危険な攻撃であると思わせたらしい。先ほどまでは俺たちを侮りながら攻撃を受け続けていたシーヒドラが、俺の発射したロケット弾を見てやっと危機感を案じたように目を一瞬だけ見開く。

 

 だが、危機感を感じるのが遅かったようだな――――――。

 

 爆発に巻き込まれないように後ろへとジャンプした直後、ついにロケットランチャーから放たれた対戦車榴弾が、ごつん、とシーヒドラの外殻に激突した。

 

 しかし、その弾頭はすぐに原型どころか形状の輪郭を失う事になる。自分が生み出した炎とメタルジェットに突き破られて飛び散る弾頭の破片。一瞬だけ煌めき、残光で黒煙を照らし出す閃光。そしてその黒煙と、シーヒドラの堅牢な外殻を貫くメタルジェット。

 

『ぐっ………今のは何だ………ッ!?』

 

「よし………!」

 

 左手を握りしめながら、ロケット弾が着弾した箇所を凝視する。

 

 ダークブルーの外殻の表面には焦げ目がついている。どうやらあの外殻は思ったよりも耐火性が高く頑丈なようだが――――――メタルジェットは防げなかったようだ。

 

 焦げ目がついている部位のほぼ中心には、銃弾が通過できそうな程度の大きさの穴が開いている。今しがたぶっ放した対戦車榴弾と比べればあまりにも小さな風穴だが、ロケットランチャーの対戦車榴弾ならばシーヒドラに有効だという事の証明である。

 

 すると、今度は側面からシーヒドラの胸元に、燃え盛る炎の礫が飛び込んだ。弾速は銃弾よりも若干遅く、火花すら散らさずに着弾すると同時に燃え尽きてしまったが、俺はそれが本命の攻撃ではないという事をすぐに理解した。

 

 それはあくまで、次の攻撃を確実に命中させるための予兆。後続の砲弾を誘う水先案内人でしかないのだから。

 

 直後、俺から見てシーヒドラの反対側にいたナタリアが担いでいた得物が火を噴いた。肩に担いでいた筒状の得物の前後から炎が噴き出し、それから飛び出した炎の塊が、先ほど炎の礫が命中した箇所へと飛び込んでいく。

 

 先ほどの礫は、彼女のカールグスタフM4に搭載された照準用のスポット・ライフルによる射撃だったのだ。燃え盛る曳光弾を発射し、それを照準代わりにするスポット・ライフルは全く攻撃力がないが、本命の攻撃を発射する前にあらかじめ弾道を確認する事ができるため、一般的な照準器よりも命中精度を高める事が出来るという利点がある。

 

 近年では廃れ始めている一昔前の装備だが、こちらの方が訓練しやすいだろう。それにコストも低い。

 

 彼女が放った対戦車榴弾も、シーヒドラの胸元へと喰らい付いた。俺のRPG-7V2よりも弾速の速い砲弾が激突し、シーヒドラの胸板貫くメタルジェットの槍をを爆炎と黒煙で覆ってしまう。

 

「ステラ、畳みかけろッ!」

 

「了解(ダー)」

 

 次の対戦車榴弾をアンチマテリアルライフルの下のロケットランチャーに装填しつつ、爆炎の向こうでガトリング砲を準備しているステラに向かって叫んだ。

 

 ステラの持つガトリング機関砲は、ロシア製のGSh-6-30と呼ばれる大型のガトリング砲である。歩兵が持って運用するためのものではなく、戦闘機の機銃や駆逐艦や空母の対空砲として使うために設計されたものだ。それゆえに口径は大きく、連射速度も速い。

 

 凄まじい重さのガトリング砲を構えたステラは、表情を全く変えずに砲口をシーヒドラへと向けると、無表情のまま淡々と30mm弾の追い討ちを始めた。きゅる、と太い砲身がドリルのように回転を始め、その砲身から猛烈なマズルフラッシュが迸る。

 

 あらゆる連射火器を凌駕する速度で吐き出される砲弾と大きな薬莢。シーヒドラに次々に着弾したその砲弾たちは、外殻に弾かれているようだったが、全く通用していないというわけではないらしい。

 

 立て続けに着弾した箇所の外殻に、亀裂が入っている。

 

 ――――――このまま攻め続けられれば勝てるだろうが………弾薬は足りるだろうか。

 

 ロケットランチャーとガトリング砲の砲撃は有効だ。しかし、どちらも能力によって支給される弾薬の数が少ないため、すぐに撃ち尽くしてしまう事だろう。

 

 途中でこっちの攻撃が止まれば、シーヒドラが反撃してくるに違いない。

 

 もし仕留めきれなければ、一旦さっきの通路まで撤退し、装備をもう一度整えてから再挑戦した方が良いかもしれない。

 

 攻撃が通用することを知って高揚する自分を現実で冷却しながら、俺はそう考えていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。