異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
M1ガーランドの放つ.30-06スプリングフィールド弾が、ラウラの左肩を掠めた。幼少期の射撃訓練で試し撃ちしたことのある銃であるため、そのライフルがどれほどの破壊力を持っているのかという事は覚えている。8発までしか装填できないというシングルカラム式のハンドガン並みに少ない弾数が欠点だが、セミオートマチック式やボルトアクション式のライフルが主流だった第二次世界大戦の頃で言えば欠点ではない。
アサルトライフルという銃の発想がなかった時代の兵器とはいえ、矢継ぎ早に大口径の弾丸を連射できるというのは大きなアドバンテージだ。その分狙撃向きではなくなってしまったものの、連射と破壊力を両立できるライフルである。
ボルトアクション式のライフルを好んだラウラはあまり使う事はなかったが、セミオートマチック式の銃を好むタクヤはよくこの銃を使っていた。
大口径の弾丸に掠められてひやりとしながらも、ラウラは両手のグローザでエリスを牽制しつつ、彼女の銃の〝燃料切れ”を待ち続ける。
現代のアサルトライフルやマシンガンではすっかり廃れてしまっているが、第二次世界大戦の頃に使用されていたライフルなどはマガジンを交換して再装填(リロード)する方式ではなく、『クリップ』という金具に弾薬を何発も連ね、それを使って装填する方式が主流であった。
エリスが今しがた片手で放っているM1ガーランドもクリップを使うタイプの銃なのだが、この銃は装填している弾丸を全て撃ち尽くすと、クリップを排出する金属音を発するという特徴がある。その特徴を知っていたラウラは、彼女のライフルが弾切れした隙に反撃しようと弾丸を躱し続けているのだ。
「お姉様、援護しますわ!」
「援護します、ラウラ」
マークスマンライフルでカノンが立て続けに射撃し、ステラがLMGで弾幕を張ってくれるが、エリスはM1ガーランドの連続射撃でラウラを牽制しつつ、利き手である左手に持つハルバードを回転させ、片っ端からカノンとステラの7.62mm弾を叩き落としてしまう。
鋼鉄のプロペラと化した彼女のハルバードに遮られた弾丸たちが、甲高い跳弾する音を奏でながら地面へと叩き付けられていく。排出された薬莢が地面に落下する音を聞きながら、カノンは息を呑んだ。
カノンの狙撃は、ラウラのように遠距離の敵を狙い撃つタイプではなく、中距離にいる敵を素早く狙撃することに特化したタイプだ。だからこの程度の距離ならば百発百中なのだが、先ほどから攻撃しているというのにエリスには1発も命中していない。
それに、彼女と共に射撃をしているステラの弾幕も、同じように1発も命中していなかった。カノンのマークスマンライフルの連射速度よりも早く弾丸を叩き込める重火器でも、エリスにはやはり命中していないのである。
幼少の頃からお世話になった人だからと躊躇しているわけではない。むしろ、躊躇できない。躊躇すれば瞬く間に氷漬けにされ、鍵を奪われてしまうという危機感が常に彼女たちの躊躇いを喰らい付くしているからなのだろう。
だからこそ、本気で反撃している。しかしエリスは4人の少女に攻撃されているというのに未だに無傷なのだ。
またしても肩を掠める.30-06スプリングフィールド弾。タクヤと比べて外殻の硬化の速度が遅いラウラは、あの大口径の弾丸の餌食にならなくて良かったと安堵しつつ、今の弾丸が7発目であるという事を思い出す。
あと1発撃てば、エリスのライフルは弾切れだ。再装填(リロード)するには銃身の上部のハッチからクリップを押し込む必要がある。
転生者のようにステータスが強化されているわけでもないのに、大口径のセミオートマチック式ライフルを片手で連射するエリスの腕力には度肝を抜かれたラウラたちだったが、あと1発を躱せば射撃は止まる。そうなればエリスの得物はハルバードと得意の氷の魔術の2つのみ。いよいよ氷属性の魔術が牙を剥くという事になるのだが、遠距離から大口径の弾丸で撃ち抜かれることはなくなるという事だ。
そして、またしても轟音が迸り――――――その残響の中で、金属音の旋律が荒々しい残響を彩った。
(――――弾切れだ!)
今の金属音が、M1ガーランドの弾丸を撃ち尽くしたという証拠である。
「あらあら、弾切れね」
「はぁっ!」
グローザをホルダーに戻し、ナイフを引き抜いている暇はない。エリスのような熟練の傭兵ならば素早くクリップで再装填(リロード)することは可能だろう。だからこそ、隙は与えられない。
2丁のグローザを手にしたまま、ラウラはエリスへと向かって走った。セレクターレバーをフルオートに素早く切り替えつつジャンプし、右足に装備している折り畳み式のサバイバルナイフを展開すると、エリスを踏みつけるように頭上から斬りつけた。
しかし、ナイフが激突したのは彼女の肉体ではなく――――――漆黒に塗装された、モリガン・カンパニー製のハルバードであった。
「ッ!」
「いい動きねぇ………。前よりも強くなってるじゃない。偉いわ、ラウラ」
「くっ………!」
反撃される前に後ろへとジャンプするラウラだったが、石畳を右足のナイフで削り、ブレーキ代わりにしながら2丁のグローザを向けた向こうでは、既にエリスはM1ガーランドの銃剣を地面に突き立て、右手を制服のホルダーへと伸ばしていた。
ホルダーの中に入っていたM1ガーランド用の8発の弾丸が連なったクリップを掴み取り、それをハッチを開けた状態で地面に突き立てられているM1ガーランドの内部へと叩き込む。そして素早くライフルの銃床を掴み取って石畳から銃剣を引き抜き、その引き抜く反動を使って強引にハッチを閉めたエリスは――――――不敵に笑いながら、再びライフルの照準をラウラたちに向けていたのである。
幼少期に習った装填方法ではない。利き手でハルバードを使うために、エリスは片手でライフルを再装填(リロード)したのだ。
「ラウラ、下がって!」
「ナタリアちゃん!?」
後ろを振り向くと、エリスをショットガンのスラグ弾で牽制し続けていたナタリアが、肩にカールグスタフM4を構えて照準を合わせていた。先ほどのシーヒドラとの戦いでもあの外殻を穿った一撃を、エリスにも叩き込もうとしているのだろう。
さすがに対戦車榴弾はやり過ぎだと咎める間もなく、ナタリアはエリスに向かって無反動砲のトリガーを引いていた。
まるで砲身の前後から同時に砲弾を発射したかのように、照準器とグリップが取り付けられた砲身の前後から同時に火柱が噴き上がる。だが、実際に攻撃を吐き出したのは当然ながら前方だ。後方の火柱は、猛烈な反動を打ち消すための爆発でしかないのだ。
「あらあら」
超高速で砲弾が接近しているというのに、エリスは不敵に笑ったままだった。銃弾ではなく砲弾が放たれたことに全く戦慄していないらしい。つまり、彼女ならば砲弾を防ぐか回避することが容易くできるという事だ。
その時、呼吸を整えるために吐き出していたラウラの息が―――――白く染まった。
(………!?)
違和感と肌寒さを感じながら、ラウラはいつの間にか海底神殿の中の気温が下がっていたことに気付く。オルトバルカとは違って暖かい南方の海の中なのだから、全く寒さは感じなかったのだが、エリスとの戦いが始まってから徐々に寒くなり始めていたのは錯覚ではなかったようだ。まるで冬にでもなったかのような寒さの気温。
それが、絶対零度の異名を持つ騎士が真価を発揮する―――――予兆だったのだ。
冷却された大気の中を駆け抜けていく砲弾から、炎の残滓が消え失せる。陽炎すら纏えなくなるほど冷却された84mm対戦車榴弾は、ナタリアの命令通りにエリスに向かって飛来したが――――――息を吐きながら振り下ろした彼女のハルバードに打ち据えられ、ごつん、とまるで金属の塊を叩いたような鈍い音を奏でながら、石畳の上へと叩き付けられてしまった。
「なっ………!?」
照準器から目を離し、担いでいたカールグスタフM4の砲身をゆっくりと下ろしながら驚愕するナタリア。今の対戦車砲弾をハルバードで打ち据えれば、その瞬間に爆発するだろうと考えていたからこそ驚愕しているのだろう。
しかし、彼女が叩き落とした砲弾を見下ろした4人の少女たちは、石畳の上に転がっている砲弾を目の当たりにして更に驚愕することになる。
(ほ、砲弾が………ッ!)
砲身から射出され、すこし焦げ目の付いている金属の砲弾が、蒼白い結晶のようなものに覆い尽くされた状態で地面に転がっていたのだ。クリスタルにも似た結晶が放つのは、まるで湯気のように白濁した煙。
何とエリスは、飛来した砲弾を一瞬で氷漬けにしてしまったのである。砲弾の表面に氷の塊が出現することによって砲弾はバランスを崩し、弾道がエリスからずれたのだ。あとは砲弾を起爆させないように細心の注意を払いつつ、軽く砲弾を打ち据えて運動エネルギーを消滅させてしまえば、あのように砲弾を爆発させることなく無力化できるのである。
「うん、良い狙いよ。モリガンにスカウトしたくなっちゃう」
「………ッ!」
凍てついた砲弾をハルバードの先端部で軽く突き、石畳の向こうへと追放するエリス。その砲弾を突いた彼女のハルバードは、彼女の魔力によって生み出された氷によって既に覆われており、漆黒から蒼白いハルバードへと変色していた。
彼女は弱冠12歳で騎士団の精鋭部隊にスカウトされた女性である。しかも、21年前に任務でモリガンと交戦した際、一度だけだがリキヤを倒しているのである。その時点で実力差があるというのに、更に彼女はラウラたちが訓練を受けている間も依頼を受け続け、実戦で才能と技術を磨き続けていた。
才能を持つ上に、エリスは努力家なのである。
自分の能力の〝原点”となったエリスの力を目の当たりにしたラウラは息を呑んだ。砲弾を一瞬で氷漬けにしてしまうほどの圧力の魔力を瞬時に放出し、詠唱すらせずに周囲の空間を冷却してしまうほどのエリスの力。やはり、自分の母親には敵わない。経験してきた実戦の数が違うし、自分の実力を磨き続けた期間も違う。数ヵ月前に旅立ったばかりの自分たちは、まさに井の中の蛙だったのだ。
「―――――信じられません。サキュバスでも、あんなに一瞬で氷漬けにするのは不可能です」
表情を変えずにそう言ったステラだったが、彼女も驚愕しているという事は理解できた。
まさに〝絶対零度”である。魔術などの技術に乏しいラトーニウス王国が、まだ弱冠12歳の少女を精鋭部隊にスカウトした理由は、莫大な魔力と才能を持つ逸材だったからというだけでなく、純粋にエリスならば切り札となるだろうと判断したからに違いない。
魔力の使い方に精通しているサキュバスのステラでさえも、あのように一瞬で砲弾を凍らせるのは「不可能だ」と言ってしまうほどの力を、エリスは身に着けているのだ。
その瞬間、湯気のように揺らめく冷気の幕の中から、黒い制服と三角帽子を身に着けた蒼い髪の女性の姿が消えた。彼女が纏っている筈の冷気を頼りに母を探したラウラは、そのエリスの纏う冷気がナタリアへと襲い掛かろうとしていることに気付き、振り向きながらナタリアに警告しようとするが、冷気と威圧感の塊はもう既にナタリアの目の前まで急接近していた。
「ナタリアちゃんッ!」
「!?」
「うふふっ………♪」
咄嗟にカールグスタフM4を投げ捨て、腰の鞘の中からククリナイフを引き抜くナタリア。漆黒の小さなナイフを構え、エリスが突き出してきたハルバードを辛うじて右へと逸らすことに成功したのだが、再装填(リロード)を終えた状態ではエリスの得物は1つではない。そう、彼女の右手にはまだ、弾丸が装填された状態のM1ガーランドが残っているのである。
銃口の下に取り付けられた白銀のナイフ型銃剣が、氷の欠片と冷気のカーテンの奥からナタリアを睨みつけた。咄嗟に引き抜いたククリナイフで弾いたに過ぎないため、ナタリアは続けざまにエリスが放つ銃剣の刺突を受け流す術がない。
「しまった………ッ!」
左手にはフィオナが作ってくれた試作型のエアライフルがあるが―――――秘匿による不意打ちを前提に設計された貧弱な攻撃力で、相手の殺傷を前提に設計された銃剣を防げるだろうかと考え始めた彼女の眼前で、唐突に銃剣から火花が散り、エリスのナイフ型銃剣の切っ先が逸れた。
その隙に後ろへとジャンプし、距離を取りつつエアライフルを放つナタリア。圧縮空気によって小型のクロスボウの矢が放たれるが、さすがにその一撃は素早く体勢を立て直したエリスの冷気に絡み付かれたかと思うと、冷気のカーテンの中で次第に氷に取り込まれていき、やがて冷気を放つ蒼白い氷の塊となって床に落下する。
(今のは………カノンちゃん?)
呼吸を整え、冷や汗を拭いながら周囲を見渡したナタリアは、今のエリスの銃剣を逸らしてくれたのはカノンだと理解した。中距離でマークスマンライフルを構え、エリスの隙を探り続けていたカノンが、彼女の銃剣の餌食になりそうになっていたナタリアを救うために銃剣を狙撃し、その一撃を逸らしたのである。
エリスの目的はあくまで鍵を奪う事であるため、自分の子供たちやパーティーの仲間を殺すのはありえない。しかし、このように鍵を渡さずに抵抗しているのだから、おそらく抵抗できない程度に痛めつけるのはありえるだろう。
誰か1人を行動不能にし、人質にでもすれば鍵を奪いやすくなる。それゆえに相手の攻撃を受けるわけにはいかない。
(くっ………タクヤ、やっぱり勝ち目はないわよ………!?)
別格だ。
今まで多々あってきた敵とモリガンの傭兵は、格が違い過ぎる。
エリスの冷気と共に実力差を痛感したナタリアは、リディアの剣術に苦戦するタクヤを見つめながら息を呑むのだった。
試験管にも似たガラスの容器の中の液体を飲み干し、身体中の傷口を一気に塞ぐ。最低でも回復用のエリクサーは5本はストックしておくように心掛けているんだが、いくら一口で傷口を治療できるとはいえ、立て続けに見切れないほどの速度の剣戟を繰り出されれば、相手の手数がそのまま傷の数になる。
空になってしまった4つ目の容器を投げ捨て、ホルダーの中に残る最後の1本を一瞥した俺は、唇を噛み締めながらナイフを構え直した。
いつまでも戦っているわけにはいかない。一刻も早くこの神殿を脱出する作戦を考え、仲間たちと共に鍵を持って脱出しなければエリスさんに鍵を奪われてしまう。
実力差があり過ぎる上に、俺たちは疲弊しているのだから。
冷や汗を拭い去った直後、またしてもリディアが動いた。左手で腰の鞘を抑え、鞘の中に納まった日本刀の柄を掴みながら急接近してくる。
相手の剣戟は回避する自信がないが………フェイントを仕掛けることで回避することは出来るだろうか?
こっちが反撃すると見せかけて攻撃を中断させるか、回避すると見せかけて追撃を誘発し、別の方向に回避する。こういった小細工はすぐに思いつくというのに脱出手段は思い付かない自分の頭に苛立ちながらも、俺は後者を選択して実行することにした。
今までと同じようにナイフを構えつつ突進し、リディアにまたしても接近戦を仕掛けるように見せかける。今のところ、彼女が居合斬りを仕掛けてくるタイミングは俺が攻撃を仕掛ける直前だ。
両手のナイフを薙ぎ払おうとした瞬間に刀を鞘から引き抜き、俺の攻撃が命中する直前に斬るように調整しているのである。攻撃中は防御もできないし、いきなり攻撃されれば外殻による硬化もできない。それゆえに、リスクは高いが確実に攻撃を命中させられるタイミングである。
これは相手よりも反応速度と純粋なスピードが上回っていなければ、同じ手を使って反撃することは出来ない。残念ながらリディアの方が俺よりも速度が上回っているため、俺も同じ手を使って彼女にダメージを与えるのは不可能というわけだ。
だから、小細工を使うのさ。
同じようにナイフを振り上げ、リディアに向かって振り下ろそうとする。フェイントを仕掛けようとしていることを悟られないように、疲弊している中で足掻いているように見せかけつつ振り下ろす一撃。いつもよりも速度は落ちているし、軌道も容易く見破れる。力任せの剣戟である。
リディアは――――――それを、本当に悪あがきだと判断したようだ。
一瞬だけリディアの紅い瞳がシルクハットで隠れたかと思うと、彼女の手が日本刀の柄へと伸びる。俺はその瞬間に両腕を止め、念のため胸元と首を外殻で覆いつつ後ろへとジャンプした。
その瞬間、全く表情を変えなかったリディアが目を見開いた。そう、今の一撃は悪あがきではない。フェイントと小細工を仕込んだ大嘘の一撃だ。
既に彼女の瞬発力によって解き放たれた一撃は、鞘の中を飛び出して俺の首を掠めていた。まるで電動ノコギリをコンクリートに掠めさせたような甲高い音が響き、漆黒の刀が左側へと通過していく。
いつも、俺の相手は格上ばかりだった。
その格上の相手をどうやって倒すか、俺はいつも作戦を立ててたんだよ。あっさり見破られる小細工かもしれないけど、こういうふうに土壇場で仕掛けておくとみんな引っかかるものなのさ。
「――――――小細工に相手を引っ掛けるコツは、〝相手をどうやって裏切るか”だ。覚えときな、お嬢さん」
「………!」
目を見開くリディアは空振りした刀を引き戻そうとするが、いくら俺よりもスピードの速い彼女でも俺より先に反撃するのは不可能だろう。もう既に、俺は攻撃を繰り出しているのだから。
さすがに彼女を殺すわけにはいかないのでナイフでは攻撃しないが―――――俺のナイフには、ナックルダスターのような大型のフィンガーガードがついている。しかも指を保護することよりも接近戦で相手をぶん殴ることの方を重視しているらしく、刀身と同じくフィンガーガードも分厚く無骨になっている。
左足を前に踏み出した俺は、思い切り右腕を後ろに引いてから―――――腰を左に捻りつつ、そのナイフのフィンガーガードを使って、リディアの腹にボディブローを叩き込む。
「………ッ!」
鍛え上げられた瞬発力と筋力によって撃ち出された拳を腹に叩き込まれたリディアは―――――目を見開きながら吹っ飛ばされていた。