異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
神殿の通路に仕掛けられたクレイモア地雷のワイヤーをM1ガーランドの射撃で正確に撃ち抜き、爆風と無数の鉄球によって木端微塵にされることのない安全な場所から起爆させる。
鉄球が通路に激突して跳弾する音を聞きつつ、エリスとリディアは既にこのトラップは2人を仕留めるために設置されたものではなく、2人の進行を遅延させるための時間稼ぎに仕掛けられたものだという事を見抜いていた。
通路は当然ながら、平原などの野外と違ってその通路のある方向にしか進めない。それゆえに移動できる場所は制限されるため、その通路をトラップで塞いでしまえば、相手はそれに引っかかるかトラップの解除に時間を割かざるを得なくなる。
自分が教えた技術のうちの1つを実践されたエリスは、子供たちがちゃんと成長してくれていた事に喜びながら、少しばかり危機感を感じていた。
(………タクヤは作戦を思い付いたみたいね)
あの子は、幼少の頃から賢い子であった。
勝てない相手と戦う羽目になれば、姉であるラウラよりも先に正面の攻撃ではなく、作戦を立てて相手を欺きつつ戦いを挑んで来たのである。正々堂々と正面から戦う事を好む母親(エミリア)とは真逆で、非常に狡猾な少年だった彼は、時折エリスをひやりとさせるような戦い方をしたものだ。
その時に感じた感覚を、エリスは既に危機感として感じ取っていた。あの少年はもう何かを思い付いた。鍵を持ったまま自分とリディアから逃げおおせる作戦を思いつき、もう実行しようとしているのだろう。このまま悠長に地雷処理をしていれば、彼らに逃げ切られれしまうに違いない。
タクヤの作戦を察したエリスだったが、焦って彼らを追うわけにはいかない。地雷の処理を怠ればたちまちあの鉄球と爆風の餌食になってしまうからだ。だから彼らが逃げようとしているというのに追いつく事ができない歯がゆさを感じながら、地雷を処理して少しずつ進むしかない。
「出でよ、我が氷の矛―――――ピアーシング・アイス」
通路中に設置されたクレイモア地雷を一瞥し、エリスはすぐに.30-06スプリングフィールド弾による駆除は非効率的だと判断した。アイアンサイトで狙いを付けて処理するよりも、使い慣れた氷で処理した方が効率的だし手っ取り早いのである。
銃剣を装着したM1ガーランドを背負い、左手を突き出したエリスは素早く無数の氷の棘を召喚していた。彼女の周囲に冷気と共に8本の氷の棘が出現したかと思うと、まるでドリルのように回転を始め―――――ロケット弾のように冷気を空間に刻みつけながら、次々にクレイモア地雷のワイヤーを食い破り、地雷たちを起爆させていった。
いたる所で爆風が膨れ上がり、弾け飛んだ無数の鉄球たちが跳弾を繰り返す。その中の流れ弾に貫かれるのを防ぐために走らの影や曲がり角の影に隠れたエリスとリディアであったが、こうやって爆炎から身を守るために隠れ、跳弾して荒ぶる鉄球たちが鎮まるまで待たなければならないのはタクヤたちの思惑通りである。それを察した2人の胸中では、逃げられるかもしれないという危機感が徐々に膨れ上がり始めていた。
C4爆弾で相手を爆破したことはあるが、それを6個も設置した上に魚雷を2本も使って爆破した経験はない。地上よりも比較的振動を感じにくい水中にいるとはいえ、鳴動する海水の中で潜水艇まで揺さぶられるのを感じ取った俺は、それがどれほど凄まじい爆発だったのだろうかとぞっとしていた。
今の一撃で、この広間の底に穴が開いてくれればいい。もし穴が開いていても潜水艇が通れない程度の穴だったのならば―――――やり直しは出来ない。もう既に海水の浸水は始まり、広間の中の酸素は駆逐されつつあるのだから。
「浸水開始………現在、海水80%」
エコーロケーションと潜水艇のソナーを併用し、広間の中の海水の量を報告するラウラ。爆破で空いた穴のサイズの報告が来ないのは、まだ感知できていないからという事なのだろうか。
操縦桿をぎゅっと握り、流入してきた海水によって揺れる潜水艇が転覆しないように足掻き続ける。バラストタンクやトリムタンクの微調整を繰り返し、まだ下ろしたままの錨にしがみつきながら、必死に海水に押し流されないように堪え続けていると、徐々に揺れが小さく張り始めた。
「ラウラ、穴は!?」
「えっと………………大丈夫、潜水艇でも通れるよ!」
「よし………ッ!」
あとは、俺の操縦でその穴から脱出し、海流と魔物に気を付けながら海面まで少しずつ浮上していけばいい。
不安の1つが消え失せて少し安心した俺は、傍らで魚雷の発射ボタンを見下ろしたまま微動だにしないステラを見た。彼女はどうやらかなり緊張していたらしく、懐中時計をぎゅっと握ったまま深呼吸をしている。
彼女の小さな頭の上に手を置き、ステラを優しく撫でた。彼女の銀髪はふわふわしていて、まるで子猫やリスを撫で回しているような感じがする。
「よくやった、ステラ」
「き、緊張しました………」
「ここからは任せろ。………はははっ、あとでご褒美をあげないとな。欲しいものがあったら言ってくれよ?」
「は、はい………」
正確に魚雷をC4爆弾が仕掛けられている地点へと命中させてくれたステラを労った俺は、もう潜水艇を揺さぶっていた海水がかなり大人しくなっていることを確認すると、後方の席に座るナタリアに「錨切り離し!」と報告してから、操縦桿の左脇にある小さなレバーを手前へと倒した。
パキン、とまるで細い金属の棒が折れるような音が、耐圧穀の向こう側から聞こえてきた。先ほどまでしがみついていた金属の重りを断ち切り、これから俺たちは深海へと向かって脱出するのだ。
「微速前進。タクヤ、頼むわよ………!」
「はいよ。ラウラ、修正は?」
「上に1度、右に3度」
「了解、トリムタンクブロー」
船首にあるトリムタンクから、潜航するために注水した海水を少しだけ排水して船首を持ち上げる。そのまま操縦桿を右へと倒してラウラに言われた通りに3度修正し、トリムタンクに再び注水して浮上を止める。
言われた通りの角度に修正したが、これでいいか? ソナーマンの座席に座る彼女を一瞥すると、ラウラは俺に向かって微笑みながら親指を立ててきた。
これで合っているという事なんだろう。
後方から聞こえてくるスクリューの音に包まれながら、手元のモニターを確認する。すると、徐々に再び船体が揺れ始める。広間の浸水によって海水の流入する勢いが落ちたとはいえ、今度は俺たちが通ってきた通路へと海水が逃げ込むわけだから、その分の海水もこの穴から〝補充”されることになる。つまり、完全に神殿が浸水しない限りこの海水は止まらない。
ガタガタと震え始めた操縦桿を必死に握り、潜水艇の進路がずれないように維持する。せっかくラウラが修正するための角度を教えてくれたのだ。少しでもずらせば彼女の索敵が無駄になるし、爆破によって突き破られた壁の断面に激突して航行不能になる恐れもある。
今度は俺が踏ん張る番だ。ステラが魚雷を正確にC4爆弾が設置されている地点に命中させ、それと同時にタイミングよくC4爆弾を起爆させたからこそこの穴は開いたのだ。俺がミスをすれば、全員の努力が水の泡になる――――――。
船体の揺れが船首から船体の腹へと移り、後部へと続く通路の辺りを揺らしたかと思うと、徐々に揺れは船尾の方へと移動していった。やがて操縦桿も揺れなくなり、船尾からも機関の音とスクリューの音だけが聞こえるようになる。
「――――――海底神殿、脱出!」
「やった………!」
「さすがですわ、お兄様っ!」
いいぞ。これでエリスさんたちは追撃してこれなくなる!
「海流に注意して。船速を上げつつ取り舵40、海流を抜けるまで今の深度は変えないように」
「了解、とーりかーじ」
操縦桿を倒しながら復唱する俺の胸中で、やっと鍵を手に入れる事ができたという安心感と同時に、不安が湧き上がってくる。
鍵はあと2つある。倭国のエゾにあると言われている九稜城と、ヴリシア帝国のホワイト・クロックと呼ばれる巨大な時計塔の地下だ。次の目的地はわ北にする予定だが、倭国は現在旧幕府軍と新政府軍の戦争が勃発している危険地帯である上に、鍵がある九稜城は旧幕府軍の本拠地と言われている。
鍵を手に入れに行くという事は旧幕府軍の本拠地への攻撃を意味するのだが、俺の中に湧き上がってきた不安はそれよりも大きい。
今回の神殿の一件で、親父も天秤を狙っているという事が分かったからだ。
この海底神殿の鍵を手に入れられなかったとエリスさんが報告すれば、親父は全力で鍵を確保しようとする事だろう。親父だけでなく、他のモリガンの傭兵たちも動き出すに違いない。
つまり、これ以上鍵を手に入れようとすれば―――――最強の傭兵ギルドであるモリガンと、争奪戦を始めることになる。よりにもよって親父たちと敵対することになるのだ。
勝てるのか………?
湧き上がった不安を必死に押さえこみながら、俺は操縦桿を倒し続けた。
「ごめんなさい、ダーリン。タクヤたちに鍵取られちゃったわ」
耳に装着していた小型無線機のマイクに向かって、エリスは報告する。目標であった鍵を奪う事が出来なかったというのに、極東の海の上にいる筈の夫へと報告する彼女の声には、子供たちに出し抜かれたという悔しさは全く含まれていない。
むしろ、喜んでいるようだった。新しい事を覚えたり、数日前までハイハイしていた幼い子供たちが立ちあがって歩き始めたことに大喜びしているかのように、鍵を奪われずに逃げ切った子供たちを称賛しているのだ。
もちろん、鍵を奪えなかったことを全く反省していないわけではない。しかし、夫もこの報告を聞けば喜んでくれる筈だ。だからエリスは明るい口調で報告しているのである。
(それにしても、神殿の壁を爆破して逃げるとは思わなかったわ)
すぐ後ろで凍結し、荒々しい氷のオブジェと化している海水の壁に寄りかかりながら、エリスはそう思った。どうやらタクヤたちは脱出するために最深部の壁を爆破したらしく、いきなり通路の奥から海水の激流が躍り出てきた時はぎょっとした2人であったが、絶対零度の異名を持つエリスに水で挑むのはまさに愚の骨頂。一瞬で対戦車榴弾を氷漬けにしたように海水も凍結させ、押し流される前に身を守った彼女は、傍らで俯くリディア・フランケンシュタインの頬を撫でながら息を吐いた。
『そうか………。あいつらは成長してたか?』
「ええ。すごい連携だったわよ」
『なるほど』
極東の海を航行する戦艦『ブリストル』の甲板の上で報告を聞いている筈の夫も、エリスを咎める様子はなかった。
「ダーリン、船旅はどう?」
『ああ、気分がいい。いつか家族みんなで………旅行に行きたいもんだ。船に乗ってな』
彼の声音が少しだけ悲しそうな声音に変わったような気がしたが、エリスは息を吐きながら苦笑した。家族全員で豪華客船にでも乗り、世界旅行に行くのも悪くない。この天秤の争奪戦が終わったら、子供たちも誘って是非旅行に行こう。そう思って「そうね」と無線機に向かっていった彼女は、リディアの頬を撫でるのを止める。
「エミリアちゃんは元気?」
『あいつ、船に弱かったみたいで………その、船酔いに苦しんでる』
「………旅行に行けないわね」
早くも船での世界旅行を諦める羽目になりそうだ。今まであまり船に乗る機会はなかったから妹が船酔いに弱いという弱点を知らなかったエリスは、若き日に経験した18年前のファルリュー島の戦いで、よく船酔いに耐えたものだと妹を称賛しながら再び苦笑した。
あの凄まじい戦いを思い出しつつ、目を細める。モリガンが今まで経験してきたのはあくまで〝依頼”だった。他者から依頼され、クライアントの代行者となって報酬のために戦う傭兵の仕事。しかし、あの時の戦いは〝依頼”ではなく〝戦争”だったではないか。依頼を受けたわけではなく、ネイリンゲンを壊滅させられたことの報復攻撃。共に戦った海兵隊員の1人1人が復讐心を持ち、敵の転生者を皆殺しにした禍々しい戦争である。
今からリキヤとエミリアは、異国での戦争に参戦することになる。倭国という極東の島国で勃発した、旧幕府軍と新政府軍の戦争。しかも新政府軍側に騎士団と共に参戦し、倭国の戦争を終結させろと依頼してきたのはオルトバルカ王国の女王である『シャルロット・アウリヤーグ・ド・オルトバルカ』なのだ。王室から信頼されているからこその大仕事だが、やはり本国に残ることになった妻の1人としては、戦争に向かう妹と夫が不安になってしまう。
あの2人の強さは分かっているが、不安は消えなかった。
「ねえ、ダーリン」
『ん?』
「あのね………ダーリンは若い頃から無茶をする悪い癖があるけど………もう、無茶はしちゃ駄目だからね?」
『おう』
若い頃からの夫の悪癖だ。
「お願い………ちゃんと帰って来て」
『任せろ。ついでに鍵も手に入れて帰るさ。………妻を未亡人にするわけねえだろ?』
「ふふっ………ありがと。愛してるわ、ダーリン」
『俺も愛してるよ、エリス。………それじゃ、みんなを頼んだ』
悪癖が消えないのは分から頃から変わっていないが、頼もしさも変わらない。彼の声を聞いていると、必ずエミリアと共に帰ってきてくれるだろうと信じる事ができる。
夫の声を聞いて安堵したエリスは、静かに胸に手を当てた。
ハッチを開けると、開放的な海原の景色と共に潮の香りが潜水艇の中へと流れ込んできた。息を思い切り吸って潮の香りを吸い込んでみたが、やはりこれからモリガンと敵対する羽目になるという不安は消えない。
ハッチから顔を出し、双眼鏡で周囲の海域を見渡すナタリアを一瞥した俺は、びしょ濡れになったズボンの裾をつまんで顔をしかめた。炎を出して乾かしたいところだが、狭い潜水艇の中でサラマンダーの炎を出すわけにはいかない。今はハッチを開けているから窒息死する心配はないが、潜水艇の内部は当然ながら狭いため、迂闊に炎は使えないのだ。
いつまで海水で濡れたズボンとパンツを穿き続けなければならないのだろうかと考えていると、俺の後頭部にぷにぷにした柔らかい何かが絡み付いてきた。一瞬だけびっくりしたけど、その触り心地でラウラの尻尾だと理解した俺は、その尻尾を撫で回しながら顔を上げる。
すると、やはり赤毛の少女が操縦士の座席に座る俺の顔を上から覗き込んでいた。垂れ下がった彼女の長い赤毛が発する甘い香りに包まれながら姉の顔を見上げていると、何故かドキドキしてしまう。
「お疲れさま、タクヤ」
「お、おう」
そのまま顔を近づけてくるラウラ。俺も顔を赤くしながら顔を近づけ、いつものように彼女の唇を奪う。舌を絡み合わせてからそっと顔を離しつつ頭に触れてみると、やはり俺の頭の角はダガーのように伸びてしまっていた。
便利な能力が備わったからだだが、この角はかなり不便だ。感情が昂ると勝手に角が伸びてしまうので、迂闊にドキドキすれば頭に角が生えているとばれてしまう。
だからキメラには、角を隠すためのフードや帽子が必需品なのだ。
「ねえ、次はどこに行くの?」
「そうだなぁ………」
ラトーニウス海とヴリシア帝国はかなり距離が離れている。正反対というわけではないが、ホワイト・クロックにある鍵のためにヴリシア帝国へと向かうよりは、近くにある倭国へと向かった方が良いだろう。
目的地を決めた俺は、ニコニコと笑いながら顔を覗き込むラウラに言った。
「――――――極東を目指そう。次の目的地は、倭国だ」
第六章 完
第七章へ続く