異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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みんなでMBTに乗るとこうなる

 

 蒼白い六角形の結晶に似た無数の足場が浮遊する空間は、現実の空間ではない。俺の能力によって形成された、トレーニングモード用の空間である。

 

 まるで本当にこんな空間に入り込んでしまったかのような感じがするが、あくまでこれは夢の中のようなものだ。俺たちの身体は潜水艇のシートに寄りかかって寝息をたて、トレーニングをする〝夢”を見ているのである。

 

 あまりにも無機質過ぎる夢の中に、威圧的な物体が鎮座していた。

 

 がっちりした装甲に覆われた車体と、その両サイドに搭載されている重厚なキャタピラ。モスグリーンとダークグリーンの2色で迷彩模様に塗装された巨体の上に鎮座するのは、長い砲身を搭載した巨大な砲塔である。

 

 堅牢な装甲に身を包んだ巨躯だが、まるで鎧と兵器に身を包んだ騎士のようにも見える。いや、人間のように立って歩くわけでなく、その人間を乗組員として乗せつつ敵を蹂躙していくのだから、騎士というよりは軍馬というべきだろうか。

 

 騎士を乗せる軍馬。科学が発達した前世の世界の戦争で、騎士は消え、騎兵は廃れ、機械が残った。兵士を乗せて敵兵を葬る甲鉄の軍馬。存在が消えてしまっても、役割は残っている。

 

 その役割を全うさせるために異世界で生産したのが―――――――このイギリスのチャレンジャー2と呼ばれる戦車であった。

 

 車体の上に飛び乗り、砲塔によじ登ってからキューポラの中を覗き込む。前にも一度だけ乗ったことのある戦車だったから、車内は見慣れていた。操縦士、砲手、装填手、車長の4人の乗組員を必要とするこの甲鉄の軍馬は、非常に優れた戦車のうちの1つである。

 

 まず、搭載されている主砲は55口径120mmライフル砲と呼ばれるタイプの主砲である。現代で主流になっている銃の銃身の中には、殆ど〝ライフリング”と呼ばれる溝がついている。それがついた状態の砲身や銃身から弾丸や砲弾を発射することで、その攻撃の命中精度が劇的に向上するという仕組みだ。

 

 大昔のマスケットや現代の一部の銃などにはついていないが、殆どの銃にはこのライフリングがついているのである。このチャレンジャー2の主砲にも、このライフリングが用意されているのだ。

 

 ちなみに、最近の戦車は殆どライフル砲ではなく、ライフリングがない〝滑腔砲”という戦車砲を採用している。滑腔砲ではライフル砲と比べると命中精度が落ちてしまうという欠点があるが、ライフル砲よりも様々な種類の砲弾を発射する事ができるし、その砲弾も強力なものが多いのである。

 

 砲弾の種類は少ないが、このチャレンジャー2は正確な砲撃ができる戦車という事だ。

 

 その120mmライフル砲以外の装備は既にカスタマイズによって変更や追加を行っている。キューポラの近くや砲身の脇に装備する同軸機銃として用意されているのは、ロシア製重機関銃のKordだ。俺の愛用するアンチマテリアルライフルのOSV-96と同じ弾丸である12.7×108mm弾を連射可能な重機関銃であり、射程距離も非常に長い。この大口径の機銃ならば、接近してくる敵の歩兵や魔物を薙ぎ倒してくれるに違いない。

 

 それに俺やラウラの持つアンチマテリアルライフルと同じ弾薬だから、いざとなったらこの重機関銃から弾薬を拝借できるというわけだ。

 

 更に、接近してくる敵を迎撃するために、砲塔の四隅に〝Sマイン”と呼ばれる装備を搭載している。

 

 これは本来は地雷なんだが、接近してくる敵から戦車を守るための兵器として改造してから搭載してある。Sマインとは第二次世界大戦の際にドイツ軍が開発した地雷であり、地中からジャンプしてから爆発し、その爆風と内蔵している無数の鉄球で敵兵を蹂躙するという恐るべき地雷の1つである。その地雷を改造して搭載しておいたのだ。

 

 奇妙な装備かもしれないが、こんな装備は実際に第二次世界大戦のドイツ軍の戦車に搭載されていたという。

 

 それと、車内には非常用の武器として銃をいくつか用意している。武装はこんなところだ。

 

 防御力もカスタマイズによって向上している。まず、新型の戦車には〝複合装甲”と呼ばれる装甲が装備されているんだ。別々の素材で作られた装甲を組み合わせた強靭な装甲であり、様々な装甲の中でも極めて優秀な防御力を持っている。そのため、様々な戦車の装甲として採用されており、このチャレンジャー2にも複合装甲が搭載されているんだが………全体にその複合装甲が搭載されているわけではないため、防御力はやや低めになっている。

 

 そのため、乗組員の生存率を底上げするためにも可能な限り複合装甲を増設。更に正面には爆発することで敵の攻撃から車体を守る爆発反応装甲を装備し、両サイドと後方はまるで鉄格子をそのまま張り付けたかのような外見の〝スラット・アーマー”と呼ばれる装甲を装着している。

 

 複合装甲をはじめとする装甲の増設と武装の強化により、若干速度が低下した代わりに攻撃力と防御力が向上したのである。

 

 生存率を底上げするために装甲を増設したのは、ナタリアの懸念を反映したためだ。俺たちのメンバーは5人のみで、軍隊のような大規模な組織のようにメンバーを〝補充”するわけにはいかない。だからメンバーの1人が負傷して再起不能になるだけで、極めて甚大な痛手となる。

 

 それを防ぐためにも、防御は必要なのだ。

 

「よっと。………みんな、乗り心地はどうだ?」

 

 キューポラから車内へと降りて、車内を見渡している仲間たちに問い掛けてみる。ナタリアは興味深そうに車長の座席を見つめているし、カノンは早くも砲手の席に腰を下ろして照準器の調整を始めている。あいつは砲手を担当する気満々だな。

 

「……タクヤ」

 

「ん?」

 

「座席が低すぎます」

 

 座席が低い?

 

 操縦士の座席の方を見てみると、座席に腰を下ろしているステラが不機嫌そうな顔をしながら、じっと俺を見つめていた。一番小柄なステラでは、やはり操縦士の座席は大き過ぎたのだろう。操縦用のレバーは彼女の顎の辺りに突き出ているし、あれではハッチから外に顔を出すこともできそうにない。

 

「座席を上げればいいじゃないか」

 

「そしたらアクセルが踏めません」

 

 それもそうだな………。

 

 どうしよう。ステラには別の役割を担当してもらうべきかな?

 

「というか、役割まだ決めてなかったな。どうする?」

 

「まず、カノンには砲手をやってもらいたいわね」

 

「それもそうだな。砲手はカノンだ」

 

「お任せ下さい、皆さま。このわたくしが砲手を担当すれば砲弾は百発百中ですわ!」

 

 本当に百発百中になるので、彼女にお願いしよう。そうすれば全ての砲弾が、まるで最新型の誘導ミサイル並みの命中精度になる。

 

 ちなみにラウラにも一度だけ砲手を担当してもらったんだが、いつもスコープを使わずに狙撃している彼女にとって、戦車用の照準器も「見辛い」らしく、あまり命中精度は高くならなかった。それに戦車の砲撃は歩兵の狙撃とはわけが違うので、本格的に砲撃の訓練を受けているカノンの方が適任なのである。

 

「それで、車長はナタリアかな」

 

「え、私?」

 

「ふにゅ。ナタリアちゃんって冷静だし、しっかりしてるから指揮官に向いてると思うよ。とっても仲間想いだし♪」

 

「頼むぜ、ナタリア大佐」

 

「わ、分かったわ。任せなさい」

 

「決まったな。………問題は操縦士と装填手と、余った1人か」

 

 大問題になりそうなのは、余った1人の役割だろう。

 

 このチャレンジャー2に必要な乗組員は、操縦士、砲手、装填手、車長の4人のみ。それに対して俺たちのメンバーの人数は5人だ。つまり、1人だけ余ってしまうのである。

 

 どうしよう。昔の戦車のように車体にも機銃を装備して、副操縦士にそれを担当させるべきだろうか? でもそんな事をしたら防御力が台無しになるし、爆発反応装甲の爆発に巻き込まれる恐れがある。現実的な手段とは思えない。

 

 だからといって、1人だけ護衛の兵士として車外に放り出すのも問題だ。機動力のある俺やラウラなら不可能ではないけど、それ以外のメンバーには荷が重すぎると言わざるを得ない。

 

「ステラちゃん、操縦士は私がやるから装填手をお願いできるかな?」

 

「はい、ラウラ」

 

「えっ?」

 

 あ、あれ? 俺が頭を捻ってるうちに役割分担決まっちゃった……?

 

「じゃあ、車長は私で砲手はカノンちゃんね。装填手がステラちゃんで、操縦士はラウラで決まりかしら。………あら、タクヤは?」

 

「あ、余ったみたい………」

 

 おいおい、本当に俺1人で護衛しなきゃいけないの? せめてあと2人くらいは一緒に随伴して欲しいんだけど………。

 

 誰か俺と一緒に戦車に随伴してくれないかなと思いつつ仲間たちの顔を見渡してみるんだが、みんな出遅れて余ってしまった俺を苦笑して憐れんでいる。

 

「………わ、分かったって。じゃあ俺が1人で随伴歩兵と紅茶を淹れる係やるから」

 

 そう言いながらそそくさとキューポラから外に出ようとする俺の腰のベルトを、車長の席に座るナタリアの手ががっしりを掴んだ。

 

「待ちなさい」

 

「な、何かな? ナタリア大佐」

 

「紅茶を淹れる係ってどういうことかしら? ………初耳なんだけど、教えてくれるかしら? ねえ、タクヤ二等兵………?」

 

「は、はい………」

 

 ついでに彼女たちに教えておいた階級で呼ばれた俺は、予想以上に怖いナタリアの威圧感にビビりつつ、車内の後ろの方に設置されている機材と小さな木箱をちらりと見た。ナタリアはやっとそれらに気付いてくれたらしく、俺のベルトから手を離すと「何これ?」と言いつつその箱の中をまじまじと見つめ始める。

 

 彼女の威圧感が逸れて安堵しつつ、俺はキューポラの縁から手を離した。そして機材の中から一般的な形状のポットを手に取ると、水筒の中の水をそのポットの中に注ぎ、蓋をしてから小型のホットプレートの電源をつけ、それでポットの中の水を加熱し始める。

 

「ちょっ、ちょっと待ちなさい」

 

「ん?」

 

「それも………能力で追加したの?」

 

「ああ。紅茶って美味しいじゃん。だから必須だと思って――――――」

 

「ばっ、バカじゃないの!? そんな無駄な装備を追加するくらいなら、装甲とかセンサーをもっと増設しなさいよ!!」

 

 何だと!? ナタリア、紅茶は必要なものだぞ!? オルトバルカ王国の名物の1つは紅茶だし、冒険者の中にはわざわざダンジョンの中にまで紅茶の茶葉を持ち込む奴もいるんだからな!?

 

 魔物に怯えながら生温い紅茶を飲むよりも、堅牢な装甲に守られてる車内で暖かい紅茶を飲めるんだぞ!? かなり恵まれてるんだからな!?

 

 決して無駄な装備ではない。紅茶を死守するために、俺もナタリアに向かって反論を始める。

 

「む、無駄じゃねえよ! 車内で紅茶が飲めるようになるんだぞ!?」

 

「水筒の水で我慢しなさいよ! 贅沢し過ぎじゃないの!?」

 

「馬鹿、こいつは他の使い方もできるだろ? コーヒーを淹れたり、烏龍茶を淹れることも―――――――」

 

「だから水筒の水で我慢しなさいって言ってるでしょうがッ!?」

 

 く、くそ、さすがナタリア大佐だ………ッ! なかなか頑固じゃねえか。まるで戦艦大和の装甲みたいだぜ。

 

 けど、紅茶は絶対に死守しなければ! 散々女に間違われる俺を癒してくれるのは、お姉ちゃんの愛と紅茶なんだよッ!!

 

「ちなみに砂糖とミルク以外にも色んなジャムを用意してるぜ」

 

「あっ、ジャム入れて飲むのも美味しそ――――――――だから水で我慢しなさいッ!」

 

 駄目か………。でも、ナタリアってジャムが好きなんだろうか。あとでダンジョンで収穫した果物や木の実を使ってジャムを作ったら喜んでくれるかもしれない。

 

 よし、これからは定期的にナタリア大佐にジャムを献上してみよう。きっと紅茶を見直してくださるに違いない。ふっふっふっ。

 

 一旦諦めてホットプレートの電源を切ろうとしていると、照準器の点検をしていたカノンが立ち上がった。

 

「ナタリアさん、わたくしは紅茶は必需品だと思いますわ」

 

「そ、そうかしら………?」

 

「ええ。確かに贅沢に思えるかもしれませんが、過酷な状況になればストレスを和らげるための何かが必要になるものですわ。せっかくお兄様が用意してくださったのですし、ストレス緩和のためにも有効活用してみるべきではないかしら? それに、戦闘の時間が長引けば車内で食事を摂ることにもなりますから、あのホットプレートはその時にも活用できますわ」

 

 おお、かなり合理的な説得だ………! これならきっとナタリアも納得してくれるに違いない!

 

 ホットプレートの電源を切らずにナタリアを見上げていると、俺とカノンに見つめられているナタリアはおろおろし始めた。俺に説教する時や、いつものしっかりした彼女ではない。俺の熱意とカノンの合理的な説得に押し返されかかっているのだ。

 

 しばらくしてから彼女はラウラとステラの方もちらりと見たが、ラウラは「やった、紅茶が飲める♪」と喜びながら尻尾を振っているし、砲弾の表面を撫でていたステラは「タクヤの紅茶も美味しいので、ステラは大好きです」と、反対する理由を欲して撃たナタリアに止めを刺した。

 

「わ、分かったわ。それはそのままにしておきなさい。………その代わり、ストロベリージャムは取っておきなさいよ。私の好物なんだから」

 

 あ、ストロベリーが好きなんだ。よし、定期的にストロベリージャムを作っておこう。

 

「―――――それと、あんたは随伴歩兵に任命するわ。休憩時と紅茶を淹れる時以外は………車体の上に乗るのって何て言うんだっけ?」

 

「タンクデサントな」

 

「タンクデサントね。それで待機する事。環境とかが危なくなってきたら戻って来ていいから、ちゃんと役割を全うしなさい。さもないと、紅茶は撤去しちゃうんだからね」

 

「了解、ナタリア大佐」

 

「ふふっ。無理は………しないでね?」

 

「おう」

 

 危なかった………。これで紅茶は無事だな。

 

 紅茶の代わりに俺だけタンクデサントしつつ随伴歩兵としてチャレンジャー2を死守することになったが――――――キメラの機動力ならすぐに対応できるだろうし、外殻を使えば敵の攻撃も防御できる筈だ。生身の兵士のタンクデサントよりも、はるかに安全性が高い。

 

 こうして、俺は随伴歩兵を担当することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 海原の向こうに、巨大な島が見えてきた。

 

 今まで経ちよった無人島や、通過してきた小さな島ではない。大海原を遮るかのようにそこに鎮座する、土と大自然の塊。大昔からこの極東の海に浮かび、ダンジョンに指定されている海域に囲まれながら国民たちを守ってきた極東の島国に――――――ついに、到着したのである。

 

「あれが……倭国か」

 

 戦車の操縦訓練を繰り返しつつ、俺たちは倭国へと辿り着いたのだ。

 

 現在、倭国では新政府軍と旧幕府軍の間で起こった『維新戦争』と呼ばれる戦争が続いていると言われていたが、最近はサムライを中心とした旧幕府軍が劣勢となっており、オルトバルカ王国騎士団の支援を受けている新政府軍が圧倒しているらしい。

 

 天秤の2つ目の鍵は――――――劣勢の旧幕府軍の本拠地である、エゾの九稜城の天守閣にあるという。攻め込んでくる新政府軍と騎士団を迎え撃つために警備が厳重になっている城塞に、潜入して手に入れなければならないのだ。しかも新政府軍が攻め込んでくれば、大混乱になるだろう。

 

 海底神殿と同じく、ここも難所だ。

 

「―――――でも、俺たちが手に入れる」

 

 俺たちには、実現させたい理想があるのだから。

 

 いくら親父でも、天秤は絶対に渡さない。

 

 モリガンと敵対するのは怖いけど――――――彼らよりも先に鍵を手に入れなければ、俺たちの願いは叶わないのだから。

 

 それゆえに、超える。

 

 最強の傭兵たちを――――――超えてみせる。

 

 

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