異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
その戦いはまるで、廃れていく戦いの終幕のようであった。
これからは、フィオナが開発したスチーム・ライフルがあらゆる接近戦を廃れさせていくことだろう。鎧を身に纏う騎士は姿を消し、彼らの持つ剣も指揮官が腰に下げる程度しか残らないに違いない。最新の装備が行き渡らない辺境での戦いか、意地を張って剣を好む者たちしか、剣を振るうことはなくなるだろう。
これが、剣と刀がぶつかり合う最期の激戦になる。自分が年を取って老婆になる頃には、もしかしたら騎士団の訓練から剣術は廃れているかもしれない。慣れ親しんだ武器が姿を消す事に寂しさを感じながら、エミリアは東洋のサムライと戦い抜くことにした。
ブーツで大地を踏みつけ、鍛え上げた瞬発力で前進する。両手で構えた大剣を振り上げ、加速しながら土方へと向けて振り下ろすエミリア。ゴーレムの外殻どころか、ドラゴンの外殻まで寸断してしまいそうなほどのギロチンのような斬撃である。
土方はその一撃を――――――左へと回避した。命中させ、両断するつもりで振り下ろした一撃であったが、エミリアは土方ならば躱すだろうと予測していた。この倭国が開国の一件で大騒ぎになる前から、この土方歳三という男は実戦の経験を何度も積んでいる。それにミヤコ湾での戦いで自分と互角に戦った男なのだから、こちらの斬撃を容易く見切ってしまうだろう。
彼女の剣戟を容易く躱した土方は、エミリアが追撃するよりも先に刀を振り上げた。そのまま両手で柄を握りながら、今しがたエミリアが振り下ろしたように猛烈な斬撃を放ってくる。
しかし、さすがに速度や鋭さは別格であった。エミリアの得物は大剣であり、切れ味だけでなく剣戟の〝重さ”も考慮されて製造されている。大型の魔物が多く生息する西洋ならではの剣の設計であり、エミリアの剣も素材を除けば、設計は極めてオーソドックスな部類に入る。
だが、東洋の刀は全く違う。東洋には鬼のように巨大な魔物が生息しているが、あくまで東洋の人々は斬撃の重さを全く考慮せず、それよりも〝斬る”ことを最優先に設計している。相手を叩き潰すような重量をすべて排除して製造された刀は、まさに切れ味では最高峰の逸品と言っても過言ではない。
それゆえに土方の剣戟の速度は――――――エミリアの剣戟の比ではなかった。
「ッ!!」
「はぁッ!!」
速度が、全く違う。
予想以上の速度で飛来した一撃を辛うじて受け止めたエミリアであったが、その土方の一撃は、一瞬だけエミリアから冷静さを奪い、彼女を狼狽させた。
ミヤコ湾で戦った時よりも、土方の剣戟はより鋭くなっていたのである。
彼が持つ覚悟が、その一撃を鋭くさせたのかもしれない。
エミリアはこの戦いに勝利し、〝生き残ろう”としている。死ねば当然ながら家族と過ごすことは出来ないし、旅を終えて家に帰ってくる愛しい子供たちを出迎えてあげることもできない。それに、彼らから土産話も聞けなくなってしまう。
それゆえに彼女は〝死”を避けようとする。死なないように必死に戦い、生き残ろうとする。彼女の戦いはそういう戦い方だが――――――旧幕府軍と共にエゾまで追い詰められた土方の戦い方は、まさに対局であった。
土方は――――――戦って〝散る”つもりで、刀を携えながらここへとやってきたのである。
もう既に彼の故郷は新政府軍に占領されており、このエゾ以外に友軍はいない。しかも撤退できる場所も残されておらず、食料や物資もほんの僅かしか残されていない。
それに、逃げ続けてばかりというのは自分自身のプライドを踏みにじるようなものだ。もう既に勝ち目はないが、降伏して誇りを穢すくらいならば、潔く戦い、一矢報いてから死ぬべきだと土方は考えていた。
だからもう、土方に〝次の戦い”はない。これが最後だ。それゆえに出し惜しみする意味はなく、温存の必要もない。この戦いで全てを使い切り、自分自身の命まで投げ捨てようとしているからこそ、彼の剣戟はこれほど鋭くなったのかもしれない。
哀しい戦い方だが――――――それがサムライたちの、最後の煌めきである。
追撃されぬように後ろへと下がるエミリアだが、土方はすかさず前に出る。そのせいで全く距離は開くことなく、後ろへと下がりながら反撃するエミリアの剣戟はどんどん〝軽く”なっていくだけだ。
右から来た一撃を受け止め、左斜め下から振り上げられた斬撃を辛うじて躱す。続けて反撃しようとするが、土方の猛烈な刺突を防がなければならなくなり、攻撃の途中から強引に剣を動かして刀を受け止めざるを得なくなる。
「ハヤカワ主任!」
剣を仕込んだ仕込み杖で、サムライたちと斬り合っていた社員の1人の叫び声が聞こえてきた。いつもはエミリアが相手を瞬殺して帰ってくるから部下たちもこんなに焦ることはないのだが、今の彼女は土方に押されているように見えているらしく、他の部下たちも心配そうに彼女の方をちらりと見つめている。
(くっ―――――――負けられるか!)
死に物狂いで刀を振るうならば、こちらも全力で受け流し、迎え撃つだけだ。
立て続けに振るわれる土方の剣戟を受け止めているうちに―――――段々と、エミリアは彼の斬撃を受け止めるのではなく、〝避ける”ようになってきていた。
「………!?」
先ほどまでは受け止めるしかないと思っていた斬撃を―――――躱す。
続けざまに右斜め上から振り下ろされる一撃を、身体を瞬間的に肩向けて回避する。
防戦一方だった彼女が、徐々に剣戟を見切り始めていることに土方も驚愕しているようだった。彼女を睨みつけ、歯を食いしばりながら刀を振るっていた彼は、ひらりと何度も高速の一撃を躱すエミリアを見つめて息を呑んだ。
(この女―――――――俺の斬撃に〝慣れた”のか!?)
殺し合いの最中でも余裕を維持するのは、極めて困難である。相手の攻撃を喰らえば致命傷を負うか、そのまま死ぬかもしれないという恐怖が冷静さを駆逐し、緊張感となるのである。そんな状態で冷静さを維持するだけでなく、エミリアはなんと土方の斬撃に慣れてしまったのである。
正確には、斬撃の速さとタイミングの2つだけになれたのだ。完全に見切るならば癖まで全てを学習する必要があるが、手っ取り早く相手の攻撃に慣れるためには、その2つを最優先で見切る必要がある。
「―――――面白い!」
数多の斬撃を躱されながら、土方は笑った。
ミヤコ湾での戦いだけではなく、今まで経験してきた戦いの中で笑ったことなど一度もなかった。得物を手にしながら笑ったのは――――――今は亡き新選組の仲間たちとの、稽古の時くらいだろうか。
道場で剣術の稽古をしていた頃を思い出しながら――――――土方は何度も、エミリアに向かって刀を振り下ろし続けた。
(最後の戦いが、これほど面白い戦いになるとは!)
実戦の中で初めて笑った土方の目の前で、躱し続けていたエミリアが反撃を開始する。土方の持つ刀よりも長大で分厚いサラマンダーの大剣は、彼女の持ち味である瞬発力を生かさない限り、このようなスピードが物を言う接近戦では無用の長物でしかない筈なのだが――――――連続攻撃の真っ只中で繰り出された彼女の反撃は、土方をぞっとさせた。
予想以上の速度で、大剣が振るわれているのである。
得物を振るうだけの速度ならば、土方の方が一枚上手だ。そもそも日本刀と両手で持たねばならない大剣の速度は、乗用車と自転車を比較するようなものなのである。
しかしエミリアの反撃は、先ほどよりも素早い。
その原因を、土方は早くも理解していた。
(防御していない………!?)
土方の斬撃に慣れていれば、回避することは可能だ。間に合わないような攻撃が飛来した場合を除いて、わざわざ受け止める必要はない。
ガードするために得物を動かせば、今度は攻撃の際にタイムロスになってしまう。だからエミリアは攻撃を受け止めるのではなく躱し、攻撃に移るまでのタイムロスを丸ごと排除し、『攻撃』と『スピード』の2つだけで勝負を仕掛けたのだ。
しかもその反撃は、彼女の持ち味である瞬発力をフル活用した素早い斬撃だった。
すると、今度は土方の斬撃が段々と減っていった。反撃しつつエミリアの攻撃を躱そうとする土方だが、よりにもよってエミリアは土方が剣を振るおうとするタイミングで反撃してくるため、咄嗟に躱す事が出来ず、攻撃を中断して受け止めなければならなくなってしまう。そして反撃しようとすれば、その一撃はエミリアにあっさりと回避されてしまうのである。
エミリアが彼の剣術に慣れたことで――――――逆転していたのだ。
彼女の大剣を受け止める度に、愛用の刀が軋み始めているのが分かる。何度も手入れした刀身が徐々に刃こぼれを起こし始め、重い大剣を受け止める度に一瞬だけ火花を発する。
エミリアの剣戟は速い上に、武器の重量と彼女の驚異的な瞬発力のせいで非常に重い。迂闊に受け止めれば、得物ごと吹き飛ばされてしまうほどだ。
そんな連続攻撃を、大剣と比べればはるかに華奢な刀で受け止め続けられるわけがない。そろそろ反撃するべきだと思った土方は、攻撃を受け流してからすぐに刀をエミリアへと振り下ろし、彼女が構えた大剣へと叩き付けるが――――――その最中に、得物の重さが変わったような気がした。
「――――――!」
何度も軋んでいた得物。標的を斬るために設計された刀では、重い斬撃を何度も受け止められるわけがない。
つまり、重さが変わったのは――――――愛用の得物が、力尽きてしまったという事である。
確信した直後、目の前で銀色の破片が舞い散った。金属の塊が砕け散る絶叫を奏でながら、白銀の破片が流星を思わせる火花と共に煌めいている。
その白銀の破片の真っ只中を、同色の刃が回転しながら跳ね上がっていった。いつも戦いや稽古が終わった後は必ず自室で手入れをしていた、愛用の刀。主である土方よりも先に、得物の方が力尽きたという事か。
砕け散った得物の最期を看取った土方は―――――まだ、微笑んでいた。
得物を砕かれ、これからあの大剣で斬られるというのに、どうして微笑む事ができるのだろうか。
(これで………終わったのか………)
土方の戦いは、これで全て終わった。
その最後の戦いで、彼女のような猛者と戦う事ができたからこそ、敗北したというのに満足することができるのだろう。
悔いは、全くない。
(そういえば――――――この美しい騎士は、なんという名前なのだろうか………)
ミヤコ湾でも戦っていたというのに、エミリアの名前を知らなかったことに土方が気付いた瞬間――――――サラマンダーの大剣が、彼の胸を貫いていた。
その轟音を聞いた瞬間、俺は咄嗟に全身をサラマンダーの外殻で覆っていた。
戦車砲で成人男性とはいえ人間を直接砲撃するのは、正気の沙汰とは言えない。しかもここにいるのは、世界最強の傭兵ギルドの長であり、あのレリエル・クロフォードを撃破した最強の男なのだ。
遠距離からのラウラの狙撃を見切って回避しているのだから、いくら更に遠距離とはいえ、戦車砲の砲弾も回避するか防いでしまうに違いない。
それに、仮に直撃したとしてもダメージがそれほど大きくないというのは明白だ。レベルが1000を超えている転生者の防御力という要素もあるが、ダメージを与えようとするならば粘着榴弾ではなく、
粘着榴弾は爆発が強力な代わりに、貫通力は殆どないと言っていい。そのため敵の戦車に向けて発射されることはあまりなく、敵兵が潜んでいる塹壕などの貫通力を要求しない目標への砲撃に使用される事が多い。
親父の防御力のステータスとキメラの能力でもある外殻の硬化を考えてみると、もし仮に命中したとしても親父を撃破できる確率は――――――かなり低いだろう。
ナタリアには砲弾の種類は説明したし、トレーニングモードで敵の戦車に向かって実際に砲撃する訓練もみんなで経験した筈だ。彼女が砲弾の選択を間違えたとは考えられない。
全身を外殻で覆うと同時に、俺は目を瞑りながら左へとジャンプしていた。何度も聞いたことのある砲弾が迫る絶叫が九稜城を包み込み――――――粘着榴弾が、俺たちが戦っていた広間の床に着弾した。
「うおおおおおおおおお!?」
やはり爆風と衝撃波の獰猛さは、ロケットランチャーや対戦車手榴弾の比ではなかった。俺の絶叫すら全く聞こえないほどの轟音と熱風が、九稜城の広間の中を包み込む。
城主が観賞用にと置いておいた薙刀や東洋の鎧は、今の爆風で滅茶苦茶になっている事だろう。主流ではなくなった砲弾とはいえ、粘着榴弾の爆風は歩兵が持つ重火器よりも遥かに強烈である。
背中に振りかかって来る細かな瓦礫の破片を払い落としつつ、俺は親父の心配をしてしまった。転生者のステータスで防御力はかなり強化されている上に、キメラの能力を駆使すれば砲弾が直撃してもダメージをあまり受けないような怪物を心配するのはおかしいだろう。しかもその怪物が、鍵を奪い合っている最中の競争相手なのだから、本来ならば心配するべきではない。
しかし、その怪物は―――――この世界の俺の父親だ。前世のクソ野郎ではなく、家族思いの〝本当の父親”であり、俺を受け入れてくれた最高の親父なのだ。無事だろうという先入観があっても、やはり心配してしまう。
黒煙を吸い込んで咳き込みつつ、俺は後ろを振り返った。
「ゲホッ、おい、親父……ゲホッ、ゲホッ! 大丈夫か!?」
「当たり前だ。全く………今の砲弾は粘着榴弾か?」
黒煙の向こうから聞こえてきたのは、着弾前と全く声音の変わらない親父の声だった。今の爆風に呑み込まれた筈なのに、やはり無事だったらしい。
あっ、今のうちに逃げるべきだったか………?
おいおい、何やってんだよ。今の爆風を利用して逃げるべきだったんじゃねえか? だからナタリアはわざと粘着榴弾を使ったんだろ!?
頭を抱えながら唇を噛み締めようとしていた、その時だった。
――――――再び、チャレンジャー2の120mmライフル砲が、砲弾をぶっ放したのである。
「えっ?」
「な――――――!?」
ちょっと待て、第2射が早過ぎるぞ………!?
戦車の中には、『自動装填装置』と呼ばれる装置を搭載する戦車も存在する。そのような戦車には、当然ながら装填手は不要というわけだ。装填手の技術に依存する必要がないため、連射する速度ならばこの自動装填装置がついている戦車の方が一枚上手になる。
自動装填装置がついているならば納得できるんだが――――――チャレンジャー2には搭載されてないし、カスタマイズで追加した覚えもないぞ? なのに、なんでこんなに矢継ぎ早に砲弾をぶっ放せるんだ………!?
この連射速度には、親父も度肝を抜かれたようだ。しかもまだ先ほどの爆発の黒煙が残っており、飛来する砲弾が全く見えない。
砲弾の音とあの直感を駆使できる時間も、予想外の連射の驚愕に駆逐されているらしく、親父の動きは先ほどよりも遅くなっていた。
そして――――――カノンが放った粘着榴弾が、回避しようとしていた親父の右肩へと飛び込んだ。
「うぐぅッ!?」
あ、当てた………!?
妹分の砲撃の命中精度に驚愕しつつ、吹っ飛ばされていく親父を見守る。
親父の右肩に着弾した砲弾は、やはり潰れていた。この後は爆発するのだろうと思いつつ、その爆風から身を守るために外殻を硬化させていたんだが―――――親父に襲い掛かったその砲弾は、全く起爆する気配がない。
「……?」
不発か………?
結局その砲弾は、親父の右肩に噛みつくかのような形状に潰れつつ、親父を広間の壁へと叩き付けると、まるで巨大な枷のように親父の動きを拘束してしまう。
「………まさか、これが狙いか!?」
ナタリアは、これが狙いだったのか。
おそらく――――――あの粘着榴弾からは、信管が取り外されているのだ。
信管とは、砲弾などに取り付けられている起爆装置だ。ナタリアはおそらく、砲弾を装填する前にステラにその信管を取り外すように命令をしていたんだろう。
信管がない砲弾は、着弾しても爆発することはない。しかしそんなことをすれば攻撃力は激減するから、砲撃する際にそんな事はしない筈なんだが―――――ナタリアは、粘着榴弾という砲弾を攻撃ではなく俺を撤退させるために使うつもりなのだ。
粘着榴弾は、着弾してから潰れて爆発する砲弾である。しかし爆発しなければ、ただの着弾してから潰れるだけの砲弾と化してしまう。その〝潰れる”という特性を利用し、砲弾を親父の動きを拘束するための枷代わりにしたのである。
最初の砲撃で黒煙を発生させつつ、装填手のステラの怪力を頼りに予想外の速度での装填を行い、矢継ぎ早に砲撃する。もちろん砲手は、メンバーの中で一番砲撃が得意なカノンだろう。
「すげえ………」
『ヘンゼル、早く脱出しなさい!』
「りょ、了解!」
なるほど、このために粘着榴弾を装填してたのか。
納得しながら、俺は粘着榴弾の枷から逃げ出そうとする親父を見上げつつ、九稜城の外へと飛び降りた。
おまけ
祖父と祖母
ラウラ「ねえ、ママ」
エリス「あら、どうしたの?」
ラウラ「パパとママとエミリアさんが私たちの両親なんだよね?」
エリス「ええ、そうよ?」
ラウラ「前から気になってたんだけど………おじいちゃんとおばあちゃんはどこにいるの?」
エリス「えっ?」
ラウラ「ふにゅう………パパは転生者だけど、ママとかエリスさんのパパとママはいるんだよね?」
エリス「え、えっと………い、いるけど、その………」
エミリア(ラ、ラウラ………)
リキヤ(………あー、粛清しちゃったんだよな、エミリアたちのパパ)
タクヤ(ハヤカワ家怖ぇ………)
完