異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
「おい、リュッシャ! やるじゃねえか!」
「見直したぜ! 逃げ出すどころか先陣を切るなんてよ!」
「頼もしいなぁ。ハハハハハハッ!」
「ど、どうも………」
次から次へとでかい手が降りかかってきて、俺の頭を鷲掴みにしてはかなり強引に撫で回していく。角はもう縮んでいるので彼らの手に突き刺さることはないだろうという見当違いの安堵を感じながら、俺を褒め称えてくれる屈強な戦士たちの間を通って村の方へと戻っていく。
少数精鋭で、あらゆる侵略を撥ね退けてきた歴戦の戦士たちに褒められるのは嬉しい事だが、何だか非常に恥ずかしい。彼らにこのまま祭り上げられでもしたら、恥ずかしさのあまり再び角が伸びてしまいかねないので、早めに宿泊施設に戻るべきだろう。
頭を撫で回され、豪快に笑う戦士たちに肩や背中を叩かれる俺の姿を見て、後ろで援護していたカノンもSKSカービンを担ぎながら苦笑いしていた。あの、カノンさん。お願いだから助けて。
「おいお前ら、リュッシャを褒め称えるのは後にしろ。とっとと死体を片付けちまおうぜ」
「お、おう。魔物が寄ってきたら大変だからな……」
人込みを何とかすり抜けながら村へと戻ろうとする俺に助け舟を出す意図があったのか、アールネは俺の周りにいる戦士たちに向かって大きな声でそう言うと、トマホークの返り血を足元の雪で洗い落としてからホルダーへと戻し、戦場となった平原に横たわる盗賊たちの死体を指差した。
中には逃げ帰ったやつもいたが、大半がこの雪原で命を落とす羽目になったため、死体の数はかなり多い。しかし、放置しておくと肉食性の魔物がやってくるし、血の臭いが魔物を引き寄せる呼び水となるため、このような死体は焼却するか、遠くに投げ捨てるか、とっとと埋めてしまう事が望ましい。
俺も彼らの手伝いをしようと思って踵を返しかけたんだが、作業に取り掛かる戦士たちを腕を組みながら見ていたアールネが、俺を見て不敵に笑いながら「いいからとっとと部屋に戻ってろ」と言わんばかりに目配せをしていたので、俺は彼に頭を下げてからカノンを連れて宿泊施設まで戻ることにした。
マークスマンライフルを担ぐ彼女を連れ、村の入口まで戻ろうとしていると、いきなり俺の目の前に蒼白い見覚えのある画面が立ち塞がった。いつも俺が開いているメニュー画面だが、今回は開こうとした覚えは全くない。勝手に画面が表示され、俺の目の前に立ち塞がったのである。
《レベルが上がりました》
お、久しぶりにレベルが上がったな。この通知は久しぶりに見たような気がする。
続けて現在のレベルとステータスが表示され、レベルアップによってアンロックされた装備や能力の一覧が表示される。俺の能力は確かに便利な能力だが、能力や装備を生産する場合は何かしらの条件を満たさなければ生産できないものもあるので、ポイントさえあれば何でも作れるわけではないのである。
例えばある魔物からドロップしたものを入手する必要がある武器もあるし、何かしらの能力を装備しなければ生産できない兵器もある。他にも、特定の敵をどれくらい倒さなければならないというような条件が付いている代物も多い。
新たにアンロックされたのは………『ポリアフの召喚』とかいう能力だ。どうやら〝ポリアフ”と呼ばれる氷の精霊を召喚して戦わせるという能力らしいが、俺は炎属性と雷属性が専門なので使う事はないだろう。
現在のレベルは65。全てのステータスは順調に3000を超え、現在ではスピードが4010となっている。攻撃力と防御力は、まだ共に3990だ。どうやらステータスの伸び方は規則的ではなく、その転生者の戦い方に合わせて伸びるようになっているらしい。だから伸び方にはばらつきがあるようだ。
他に何かアンロックされたスキルとかはないのか?
「ん?」
《弾薬支給先の変更》
そんな名称のスキルが、アンロックされた能力やスキルの端に小ぢんまりと表示されていた。それをタッチして説明文を確認する。
《弾薬の支給先を、武器の生産者から使用者へと変更します。これによって新しい弾薬は武器を手にしている仲間の元へと支給されます》
結構便利な能力じゃないか?
要するに、12時間毎に支給される弾薬を送る行き先を変更するという事だ。現時点では俺の元に全ての武器の弾薬が支給されるような仕組みになっており、仲間たちに武器を支給する際は弾薬をセットで支給しなければならない。だから仲間の弾薬がなくなった場合は12時間待ち、俺の元へと新しい弾薬が届いてから仲間へと支給するという方法で弾薬を支給していた。
しかしこのスキルは、その武器を持っている仲間の元へと弾薬が補充されるように送り先を変更するというスキルらしい。例えばナタリアがショットガンを使う場合、今までは俺の元にショットガンの弾薬が支給され、そこから俺がナタリアに支給する方式だったんだが、このスキルを使えば最初からナタリアの元にショットガンの弾薬が支給されるという事になる。
仲間と長期間の別行動をする場合は、仲間の弾薬の心配をする必要がなくなるという大きなメリットがある。他の転生者と違って仲間にも武器を支給している俺としては、こういう能力は重宝するだろう。
小さく表示されていたのは、不人気なスキルだったからだろうか。転生者の大半は仲間―――――待遇は手下と変わらないようだ―――――に力を持たせることを忌避し、強力な力を自分で独占しようとする傾向があるため、仲間に武器を渡す事はあまりないという。そんなクソ野郎から見れば、このような能力は自分を脅かす自爆スイッチのようなものだったのだろう。
「カノン。今度からは俺だけじゃなく、お前たちにも弾薬が支給されるぞ」
「あら、便利ですわね」
これは生産するべきだ。生産に必要なポイントは400ポイントとなっており、一般的なアサルトライフルのコストよりもやや高いポイントだったけど、これは作っておこう。
新しいスキルを生産して早速装備しつつ、村の門を再び潜って宿泊施設へと向かう。
このスキルがあれば、遠くにいる仲間にもいちいち弾薬を届けに行かなくて済む。だからもしテンプル騎士団の組織の規模を拡大した場合、武器を渡して仲間の訓練を行うだけで、弾薬は12時間毎に彼らの元に支給されるようになるのだ。
何とかして転生者を仲間にし、その転生者に武器と弾薬の支給を行ってもらおうかと思っていた問題だが、このスキルがあれば解決できそうだ。
テンプル騎士団の規模を拡大するという事を考えていた俺は、ふと門の向こうで死体を焼いているアールネたちの方を振り返る。
俺たちの理想と転生者の存在を彼らに話したら、スオミ族の戦士たちはテンプル騎士団の〝同志”となってくれるだろうかと思ったのだ。彼らは少数精鋭で、今まであらゆる侵略者を撃退してきた経験を持つ戦士たちである。もし彼らが仲間になってくれれば純粋に戦力がアップするだろうし、それ以外にも新たな同士のスカウトも担当してもらえるだろう。上手く行けば、スオミ族出身の諜報員も誕生するかもしれない。
だけど、彼らはオルトバルカ人にかなり反感を持っているようだからなぁ………。大昔に故郷を侵略され、強引に併合されて搾取されてきたのだから、オルトバルカ人の俺が「仲間になってくれ」と言っても首を横に振るのは目に見えている。
これは難しいか………?
気が付くと、もう宿泊施設の入口から中へと入り、カノンと共に部屋へと向かう階段を上がっていた。すっかり慣れた寒さをストーブの温もりで引き離しつつ、階段を登り切って部屋のドアの前に立つ。
「1人で出て行ったから、ラウラ怒ってるかなぁ………?」
というか、あの戦闘の最中も寝てたんだろうか?
「ふふっ。またお姉様と2人きりですわね」
「監禁されたら助けてね?」
部屋へと戻ろうとするカノンに助けを求めるけど、彼女はニヤニヤと笑いながら口元のよだれを拭い去り、「やっぱり、お兄様が搾り取られるのかしら………?」と小声で言い始める。どうやら妄想を始めてしまったようだけど、俺はもう2回もラウラに襲われて搾り取られてますからね。
ああ、これじゃ監禁されてもカノンが助けてくれる確率は0%だ。そのまま部屋に監禁されてヤンデレのお姉ちゃんと過ごすことになるのか………。
恐る恐る部屋のドアを開け、カノンと別れてから部屋の中へと足を踏み入れる。木造の建物が発する木の優しい香りと、ラウラの甘い香りの残り香が漂う部屋で息を思い切り吸い込んでから、そっとベッドの上を見下ろす。
「あれ?」
てっきり、いつものように機嫌が悪い時の虚ろな目で俺を見つめてくるのではないだろうかと思ったんだが、ベッドの上は毛布が乱れているだけで、ラウラの姿は見当たらなかった。シャワールームのドアの近くで耳を澄ましてみるけど、中に誰かが入っている気配はない。
どこに行ったんだ?
狭い部屋だし、隠れられる場所などほとんどない。仮に彼女が氷の粒子を纏って姿を消していたとしても、これだけ暖かい部屋の中で彼女の粒子が正常に機能するとは思えないし、第一微かな冷気で隠れている場所はすぐに分かる筈だ。
おかしいな………。まさか、俺を探しに行ったのか?
そう思いながら部屋の真ん中に差し掛かったその時だった。
背後からドアが開いた音が聞こえたのである。古いドアなのか、軋む音はやたらと大きいからこっそり開けようとしてもすぐにバレてしまう。
ぎょっとしながら後ろを振り返ろうとしたのも束の間、部屋に入ってきた人物の姿を目にするよりも先にぷにぷにした柔らかい何かが俺の腰に絡み付いたかと思うと、続けざまに嗅ぎ慣れた甘い香りを纏った両手が絡み付いてきて、そのまま右側にあるベッドの上へと俺を押し倒してしまう。
枕の上に後頭部を押し付けながら目を開けてみると――――――涙目になった赤毛の少女が、俺の身体の上にのしかかっているところだった。
「ら、ラウラ………?」
「タクヤのバカ! どこに行ってたの!? お姉ちゃん、心配したんだからぁ………ッ!!」
「あ………」
売店で水を買うために1階に下り、そのまま盗賊の迎撃に言ってしまったのだから、部屋で寝ていたラウラは心配したことだろう。
胸に顔を押し付けながら泣き始めたラウラを抱き締め、「ごめん………」と小さな声で謝ると、ラウラは静かに胸から顔を離し、涙を拭ってから唇を近づけてきた。俺も彼女の唇を受け入れ、そのまま2人でしばらく抱き締め合う。
満足したのか、静かに唇を離したラウラは、上目遣いで俺の顔をじっと見つめ始めた。
「………もう、いなくならないでね?」
「分かった。ごめんね、お姉ちゃん」
「………うんっ♪」
「ところで、ラウラはどこに行ってたの?」
「えっと、ナタリアちゃんたちと一緒に住民を避難させてたの。武器はサイドアームしかなかったから………」
なるほどね。
やはり異世界で銃は目立つけど、街中で冒険者が武器を持ったまま歩き回るのは珍しい事じゃない。だから俺たちも同じように堂々とライフルを背負って街中を歩くようにしていたんだけど、今回はオルトバルカ人を忌み嫌うスオミ族の村という事で、彼らに敵意はないという事を示すために武器はサイドアームのみにしていたのである。
メインアームを使うためには、俺に武器を出してもらわなければならない。でもその俺は盗賊の迎撃のために最前線にいたため、置いていかれたラウラたちの得物はサイドアームだけとなってしまった。
だから戦いには参加せずに、住民を避難させていたという事か。
「そっか………お疲れさま、お姉ちゃん」
「うんっ♪」
彼女の涙を拭ってから、俺はもう一度ラウラの身体を抱き締めた。
「やあ、リュッシャ」
アイテムの補充と地図の購入のために売店で買い物をしていた俺たちを呼び止めたのは、やや細身の白髪の少年だった。特徴的な白髪と業火のように赤い瞳は、アルビノのハイエルフのみで構成されてるスオミ族の特徴である。
俺たちを呼び止めた少年の顔つきは、なんとなくアールネに似ているような気がした。彼のようにがっちりした体格ではなく、表情は常に優しそうな感じがする。年齢は俺と同い年くらいだろうか。
その少年の後ろには、同じく短い白髪のハイエルフの少年が不機嫌そうな表情を浮かべながら立っている。唇を尖らせながらやたらと俺を睨みつけてくるが、彼はやはりオルトバルカ人が許せないのだろうか。温厚そうで紳士的な雰囲気を放つ少年とは対照的に、荒々しく攻撃そうな雰囲気を放つ少年である。
「兄さんが褒めてたよ。『あのリュッシャはすげえ』って」
「兄さん………? アールネのこと?」
「うん。僕はエイノ・イルマリ・ユーティライネン。みんなはイッルって呼んでるんだ。こっちの不機嫌そうなやつはニルス・カタヤイネン。みんなはニパって呼んでる」
アールネの弟か。確か最初に俺たちがこの村を訪れた時も、弓矢を構えながら他の戦士たちと一緒にいたような気がする。
「ほら、ニパ。挨拶しなよ」
「ハッ。イッル、俺はこのリュッシャを信用する気にはなれねえな。確かに強かったけどよ」
「あははははっ。ごめんね、ニパは素直じゃないから………。本当はニパも君たちの事を評価してたんだよ?」
「はぁっ!? おい、何言ってんだバカ!!」
顔を真っ赤にしてニパがイッルを怒鳴りつけるが、イッルは面白そうに彼の怒声を笑いながらひらりと躱し、恥ずかしがるニパを宥め始める。
何だか、雰囲気がシンヤ叔父さんに似ているような気がする。武闘派の兄がいるというのもそっくりだ。………でもあの人はもっと物静かというか、常に落ち着いているような人だからな。
「ふにゅ………あの、私たちには何の用?」
「うん。スオミの里の長老がね、君たちに会いたいんだって。盗賊の撃退を手伝ってくれたお礼がしたいって」
長老だって?
「外で兄さんが待ってるから、もし良ければ来てくれるかな?」
「そうだな………」
もちろん、盗賊の撃退を手伝ったからと言って調子に乗るつもりはない。あくまで長老の賛辞を聞いて、挨拶してから戻ってくるだけだ。テンプル騎士団への協力をお願いしてみるのも一つの手かもしれない。
でも、中にはやはりニパのようにオルトバルカ人を嫌う住民もいる事だろう。だから協力要請は、様子を見ながら判断しよう。
仲間たちもアイテムをもう補充しているみたいだし、地図はもう俺が購入したから大丈夫だ。買い物をしていた仲間たちに「大丈夫か?」と問いかけてみたけど、仲間たちはみんな首を縦に振ってくれた。
「ああ、大丈夫だ。案内を頼む」
「うん、良かった。これで長老もお喜びになる」
「勘違いすんなよ、リュッシャ。てめえらは盗賊を撃退してくれたけどな―――――――」
「ほら、ニパ。早く行くよ」
「お、おう」
イッルに手を引かれ、宿泊施設の外へと連れて行かれるニパ。俺たちも引っ張られていくニパの後を追い、持っていた部屋の鍵をロビーにいたおばさんに預けてから入り口のドアを開けて再び里の雪と対面する。
外は、再び静かになっていた。盗賊たちを撃退するために慌ただしく走っていく戦士の姿はもう見当たらず、防寒着を身に纏ったスオミの里の住民たちが、雪で覆われた道を歩いて家の中へと入って行くだけだ。もう死体の片づけは終わったんだろうか。
雪玉を投げ合いながら遊んでいるハイエルフの子供たちを見守っていると、宿泊施設の反対側の建物の壁にもたれかかりながら、腕を組んでこっちに手を振っている男の姿が見えた。
イッルの兄のアールネだ。
「おう、リュッシャ」
「連れてきたよ、兄さん」
「ご苦労。さて、マンネルヘイム長老がお待ちだ。行こうぜ」
腕を組むのを止めたアールネが、俺たちを手招きしてから村の中心へと向かって歩きだす。近くで雪合戦をして遊んでいたスオミ族の子供たちに手を振ると俺たちもアールネの後について行く。
スオミの里は小さな村だけど、彼らのような少数精鋭の戦士たちによって守られている。その上非常に厳しい寒さにも守られているため、魔物にさえ警戒していれば問題はない。だからこの村には、他の街のように防壁が必要ないのだろうか。
「ところでニパ、今回はちゃんと飛べたか?」
「はぁ? おい、アールネの兄貴。何言ってんだ?」
「ガハハハハッ。去年の大晦日みたいに自分の飛竜が風邪ひいて飛べなくなったんじゃないかって心配になってな」
「う、うるせえ! あっ、あれからはちゃんと自分の飛竜の体調管理を徹底してだな――――――」
「そして自分の体調管理を疎かにして、今度は飛竜の風邪をうつされて新年早々寝込む羽目になったんだよね、ニパは」
「い、イッル………」
「たしかそれで〝ついてないカタヤイネン”って呼ばれるようになったんだっけ?」
「おい、やめろよ! 恥ずかしいって!!」
お、おいおい………。
というか、カタヤイネンさんはこっちの異世界でも色々と不運だったのか。飛竜が風邪を引くのは稀に騎士団でも起こることらしいけど、その飛竜に風邪をうつされたという話は全然聞いたことがないぞ。しかも飛竜の風だから、人間がひく風邪とはわけが違う。
飛竜の普通の風は、人間にとってはインフルエンザのようなものだという。
ニパ、お大事に………。
顔を真っ赤にしながらユーティライネン兄弟に言い返すニパを見守りながら、俺はそう思った。