異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

153 / 560
スオミの里との別れ

 

 雪が、舞い上がる。

 

 3日間もシベリスブルク山脈を包み込んでいた獰猛なブリザードは、もう寒波の中へと立ち去りつつある。しかし、山脈の麓に位置するために山脈の気候の大きな影響を受けるスオミの里の天気は、山脈の観測に行ったイッルたちの報告通りならば雪すら降らない曇り空の筈である。

 

 山脈の天気と矛盾した雪の降る中で、スオミの里の外にある旧採掘場に用意されたテンプル騎士団スオミ支部のヘリポートに整列した俺たちは、吹きつけてくる雪を孕んだ風から片手で顔を守りながら、その雪を舞い上げる原因となっているヘリを出迎えた。

 

 メインローターの轟音は、まるで戦に勝利して帰ってきた豪傑の凱旋のように勇ましい。しかしその勇ましい轟音を奏でるヘリは、荒々しいメインローターの音に反してすらりとしていて、武装も見当たらない。小柄な胴体の先端部から小ぢんまりとした機関砲の砲身が突き出ている程度で、それ以外の武装は搭載されていないようにも見える。それゆえに他の戦闘ヘリのような威圧感は感じないし、武装を搭載するスタブウイングすら搭載されていないという外見が、小柄に見えるというイメージに拍車をかけている。

 

 山脈の観測と魔物たちの偵察といういつもの任務を、訓練も兼ねて果たしてきたそのヘリは――――――アメリカで開発された、『RAH-66コマンチ』と呼ばれる試作型ステルス偵察攻撃ヘリコプターである。

 

 従来のヘリとは大きく異なり、ステルス戦闘機のようにステルス性を持つというかなり変わったヘリだ。既にアメリカ軍で採用されているヘリにもステルス性を持つように改造されたものは存在するが、このコマンチはステルス性を持たせるために本腰を入れて設計されたヘリであり、あらゆる攻撃ヘリとは設計が全く異なる。

 

 まず、従来のヘリは主な武装は『スタブウイング』と呼ばれる部分に搭載するものである。一般的なヘリは、胴体から左右に延びるそのスタブウイングの下部に、戦闘機と同じように対戦車ミサイルやロケットポッドを搭載するのが普通なんだが、このコマンチはステルス性を重視したヘリであるため、まずそのスタブウイングが存在しないのである。

 

 スタブウイングのようなものは、ステルス性を低下させる原因になってしまうのだ。だからステルス性を重視すればするほど、必然的にコンパクトでシンプルなデザインになっていくのである。最新型のイージス艦やステルス戦闘機の形状がシンプルになっているのは、その証拠だ。

 

 では、肝心なスタブウイングを搭載しないこのコマンチはどうやって戦うのかという事になるが、さすがに機種の機関砲だけで戦うようなヘリではない。ちゃんと凄まじい威力の武装を搭載できるように設計されている。

 

 なんと、胴体の内部に武装を搭載できる『ウェポン・ベイ』というスペースが用意されており、その内部に対戦車ミサイルや対空ミサイルを搭載できるようになっているのである。例えるならば丸腰に見える男が、服の中にアサルトライフルやマシンガンを隠し持っているようなものだ。このように武装を機体の内部に内蔵しておくことによりステルス性は高まるし、機体のサイズが小さくなるから格納庫のスペースは狭くてもいいというメリットがある。

 

 このようなウェポン・ベイを採用している戦闘機で有名なのは、やはりアメリカのF-22だろうか。

 

 とはいえ、ステルス性が高まるのはいいのだが、このように機体の内部に武装を格納すれば武装の量が必然的に少なくなってしまうというデメリットもある。かといって武装を増やそうとすれば機体が大型化し、そのサイズに見合う量の武装を搭載できないからまた機体を大型化するという悪循環がスタートするわけだ。

 

 だから、ステルス性を低下させるのは覚悟の上ということで、あえて武装を搭載するためにスタブウイングを後付けする場合もある。前述のラプターも、武装を増量する場合は主翼の下部にミサイルなどを搭載することもあるのである。潜入か攻撃かによって使い分けることになるだろう。

 

 しかし、このコマンチはコストがかかり過ぎるため開発は中止されてしまい、結局アメリカ軍に採用されることはなかった。日の目を見る事ができなかった、悲運のステルスヘリコプターなのである。

 

 開発中止の原因がコストの高さという事で、それが反映されたせいで生産するポイントも1機につき9000ポイントと我が目を疑うポイントの量だったが、ステルス性をはじめとする性能は折り紙付きだし、スオミ支部は人員の関係で大量に兵器を配備する事が出来ないので、量よりも質を重視するという方針で基本的に性能を重視することにしている。

 

 ちなみに、アメリカ軍や自衛隊などで採用されている攻撃ヘリコプターの『AH-64アパッチ』の生産に使うポイントは僅か4300ポイント。倍以上である。こんなにコストの高いヘリを大量に配備すると俺のポイントが底を突いてしまうので、とりあえずスオミの里には訓練用兼予備のコマンチを1機と、戦闘用の機体を3機配備することにしておいた。もちろん1機につきスタブウイングをはじめとするオプションも用意したし、パイロットを担当する戦士たちの要望に合わせたチューニングも実施しているため、36000ポイント以上は使っていることになる。な、泣きそうな量だ………。何だか小遣いを使い過ぎて財布の中が空になった時の気分だわ、これ。

 

 余談だが、一般的なアサルトライフルならば500ポイントから700ポイントで生産できるし、第二次世界大戦以前の武器ならば100ポイントやそれ以下のポイントで生産できるようになっている。それに全体的にコストが低い中国製の武器は300ポイントから400ポイントで生産できるため、このような武器もポイントを節約したい場合に重宝する。それに武器も運が良ければ敵からドロップするし、ドロップした武器はカスタマイズしない限りポイントはかからないので、そのような武器も有効活用すればポイントの節約になる。

 

 で、でも、イッルたちのためだ。少数精鋭の戦士たちなのだから、彼らに見合う高性能な兵器を支給しなければ。

 

 コマンチのために消えていったポイントの事を思い出し、流れかけた涙を慌てて拭い去る。機首の脇に『01』と描かれたホワイトとグレーの迷彩模様のコマンチがヘリポートに降り立つと、パイロットを担当する2人の白髪の少年がキャノピーの中から姿を現した。機体と同じ迷彩模様の制服に身に纏い、同色のヘルメットを抱えながらヘリから下りてきたのは、『無傷の撃墜王』の異名を持つイッルと、『ついてないカタヤイネン』の愛称を持つニパの2人だった。

 

「お帰り、2人とも」

 

「うん、ただいま」

 

「飛竜と違ってバタバタうるせえけど、いい機体じゃねえか。早くこれで魔物を血祭りにあげてみたいねぇ」

 

 紳士的なイッルと攻撃的なニパだが、一人前の戦士となって飛竜に乗ることが許されてからは、ほぼ毎日雪山の天気の観測や、空中からの魔物の殲滅などを行っていたらしく、場合によっては里を襲撃してきた野生の飛竜や騎士団の飛竜と交戦して撃墜していたという。

 

 だからこの2人に、虎の子のコマンチたちを託すのだ。

 

 ちなみに転生者の能力で兵器を運用する場合、装備を解除して12時間放置することで燃料や弾薬が補充され、戦闘不能になるほど破壊されない限りは損傷も勝手に修復される仕組みになっている。しかしこの機体をここに置いていけば装備を解除する度に里まで届けに来なければならなくなってしまうため、補うためのスキルをちゃんと用意してある。

 

 それは、レベル47でアンロックされていた『整備士』というスキルだ。これを装備している限り、生産した全ての銃や兵器を装備から解除しなくても、12時間放置することで弾薬や燃料の補充をはじめとするメンテナンスが勝手に実行されるという、遠隔地の仲間への装備の支給を前提としたスキルだ。

 

「でも、飛竜の乗り方に慣れてる奴らも多いからよ、本格的にこいつに乗れるようになるには時間がかかるぜ」

 

「ああ。それは訓練用のやつで慣れてくれ。………しかし、さすがイッルとニパだな。もう慣れたのか?」

 

「おう。なんだか飛竜より華奢そうだけど、武装は強力みたいだしな」

 

「それに飛竜と違って風邪をひかないからね、コマンチは」

 

「うっ、うるせえ!」

 

 紳士的だけどいたずら好きのイッルにからかわれ、ヘルメットを抱えたまま彼に抗議するニパ。飛竜に乗る戦士たちの中では飛びぬけて不運な彼は、去年の大晦日では自分の飛竜が風邪をひいたせいで出撃する事が出来ず、さらに飛竜の風邪が完治したかと思えば今度は自分が飛竜の風邪をひいてしまい、しばらく寝込んでいたという。

 

 スキルは高く、イッルの次に優秀な戦士だと言われているニパだが、まるで彼だけに狙いを絞っているかのように襲来する不運のせいでなかなか実力を発揮できないようだ。

 

 確かにコマンチは機械だから風邪はひかないけど、あまりその風邪の話で彼をからかうのは止めようよ、イッル。

 

 ちなみにコマンチはスオミの里で訓練機を含めて4機運用することになっているけど、兵員の輸送も考慮してアメリカ軍でも採用されている『UH-60ブラックホーク』を2機運用することになっている。正確に言えば、2機のうち1機は電子機器を増量した改良型の『EH-60C』で、もう片方は負傷兵の輸送や救命用に用意した『UH-60Q』となっている。前者はスタブウイングにロケットポッドをこれでもかというほど搭載し、ドアガンとしてM134ミニガンを搭載しているほか、機首の下部には20mm機関砲を搭載したターレットを搭載して火力を底上げしている。後者は武装を一切搭載しておらず、治療用の設備や薬品代わりの各種エリクサーを積み込んでいる。また、スタブウイングには救出活動の時間を長くするために増槽を搭載しているため、こちらに攻撃力は一切ない。

 

 ちょうどその2機は、この採掘場に用意されたヘリポートで点検を受けているところだった。体格の良いスオミ族の戦士が取り外されていたドアガンを担いで取り付け作業をしているのが見えるけど、その隣ではイッルの兄であるアールネが、我が目を疑う事をやっていた。

 

 なんと、無数の小型ロケット弾が搭載された支援用のロケットポッドを肩に担ぎ、木製のでっかい脚立を使って人力で取り付け作業をやっているのである。歯を食いしばっているのがちらりと見えたから無理をしているんだろうが、普通の人間にはあんなの持ち上げるのは無理だぞ。というか、鍛え上げた軍人でも人力で取り付け作業をやるのは無理だ。しかも非力な人が多い傾向にあるハイエルフでそんな事をやるなんて………。

 

 馬鹿力だよ、お兄さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてその日の訓練も終わり、部屋へと戻った俺たちはいよいよ明日の登山に向けて準備を再開していた。シベリスブルク山脈の天気も元に戻り、ブリザードの規模も元の規模にすっかり戻っているという報告を受けているため、登山のルートは当初と変わらない。出来るだけ近道になるように配慮しつつ、ブリザードの真っ只中に突っ込まないように山脈の外周部を通って反対側へと向かう。

 

 それでも最低気温は-70℃を超える事だろう。夜になれば気温は更に低くなるのは明白だし、ただでさえ極寒の山脈を超えるのは骨が折れる事だというのに、夜間になれば獰猛な魔物が襲撃してくる可能性があるため、出来るならば夜になる前に超えてしまいたいところである。

 

 防寒着は村の売店で購入したし、エリクサーとかロープも購入した。非常食も購入したし、これで準備は万全である。

 

「いよいよ、ここの人たちとお別れだね………」

 

「そうね………みんないい人ばかりだったし、何だか別れたくないわ………」

 

「寂しいですわね………」

 

 ああ、何だか俺も寂しくなってきた………。

 

 天秤の鍵のためにも早く出発しなければならないというのに、もう少しここで過ごしていたいと思ってしまう。

 

 最初は俺たちがオルトバルカ人だというせいで警戒されてしまったけど、敵意がないという事はちゃんと理解してくれたし、それにこの里の人たちはみんな仲間想いだった。

 

 一緒に訓練した戦士たちと息抜きに雪合戦をやったこともあったし、スオミ族の子供たちと一緒に雪だるまを作ったこともあった。中にはアルビノじゃない上にハイエルフでもない違う種族の俺たちに怯える子供もいたけど、意外と面倒見のいいナタリアと性格が幼いラウラのおかげで受け入れてもらう事ができた。

 

 でも、そんな人々と過ごすのは今夜が最後である。明日の朝はもう別れを告げ、あの巨大な山脈に挑まなければならない。

 

 もし旅が終わったら、またここに寄ろうかな。天秤を探し求めるこのたびは長くなりそうだけど、里のみんなは俺たちの事を覚えていてくれるだろうか。

 

 何気なく腰のポーチに手を伸ばすと、指先に柔らかい小さなものが当たった。俺の手よりも小さな毛糸で作られたそれは、エイナ・ドルレアンを出発した日に従妹のノエルが作ってくれた俺たちの人形だった。モデルとなった本人と比べると遥かに小さいけれど、無事に旅を終えますようにという彼女の大きな願いがしっかりと込められた大切なお守りである。

 

 ………そうだな、終わったらエイナ・ドルレアンにも寄らないと。そして身体の弱いノエルに、俺たちの冒険の土産話を聞かせてあげるんだ。

 

 ちゃんと角まで再現されている自分の人形を握りしめると、部屋のドアから小さなノックする音が聞こえてきた。そろそろ食堂で夕食を摂っておこうと思っていた頃なんだが、誰なんだろうか? イッルたちかな?

 

 入口の一番近くにいた俺は、ベッドの上から立ち上がってドアの方へと向かった。ドアノブを捻って木製のドアを開けると、ドアの向こうに立っていたのは紳士的な雰囲気を放つイッルではなく、彼の兄であるアールネだった。射撃訓練でもやってきたのか、彼が身に纏うコートには雪と硝煙の香りが染み付いている。

 

「おう、アールネ」

 

「暇か?」

 

「ああ、準備も終わったし、そろそろ夕食を―――――」

 

「なら丁度いいな。ちょっと食堂まで来てくれ」

 

 ん? なんだ? 一緒に飯を食おうって事か? まあ、今日が最終日だから色々と話をしておきたいんだろう。実質的に最前線で戦う里の戦士たちのリーダーは彼らのだから、新たな武器を手に入れた戦士たちのリーダーとして、俺たちからのアドバイスを欲しているのかもしれない。

 

 彼らにはお世話になったからな。それにテンプル騎士団に協力するという大きな決断をしてもらっているのだから、貢献できる事ならば何でも貢献しようじゃないか。

 

 彼に誘われた俺たちは、用意していた荷物を部屋に残して彼と共に食堂へと向かう事にした。やけに小さくて古びた宿泊施設の廊下だけど、何だか住み心地の良い場所だったな。懐かしい感じがするというか、こういう質素なところに住んでいると安心する。

 

 階段を下りて1階へと向かうと、食堂に通じる木製のドアはどういうわけか閉じられていた。いつもは開いているから食堂の中が丸見えになっているんだけど、どうして閉じているんだろうか?

 

「さあ、入れコルッカ」

 

「え?」

 

 何だか、いつもと違う。何だこれ?

 

 戸惑いながらアールネの顔を見上げると、彼はニヤニヤしながら「いいから。ほら、ハユハも」と言いながら俺たちの背中をでっかい手で押し、ドアへと近づける。

 

 ちゃんと説明してもらえなかったからまだ訳が分からないんだけど、とりあえず食堂に入ろうか。入らないと夕食にありつけないしな。

 

 ラウラと目配せして同時に頷いた俺たちは、後ろにいる仲間たちの顔を見てから2人で同時にそっと食堂のドアを開けた――――――。

 

「よう、コルッカ!」

 

「ハユハ、ようこそ!!」

 

「えっ………?」

 

 扉の向こうで待ち構えていたのは――――――防寒着姿の戦士たちと、里の人々たちだった。利用する冒険者が全くいないせいで閑散としていた食堂のテーブルや椅子はすべて撤去されていたけど、その代わり中央にはやたらと大きなテーブルが鎮座していて、スオミの里のみんなはそのテーブルを囲むようにして俺たちを出迎えてくれていたのである。

 

 しかも、そのテーブルの上にはまるでパーティーでも開催するかのようにあらゆるご馳走が用意されていた。里の野菜を使ったシチューもあるし、仕留めた獲物の肉を使ったステーキらしき巨大な料理もある。

 

 な、何だこれ………? パーティーか? 誰かの誕生日なのか?

 

 言っておくけど、俺とラウラの誕生日はそろそろだけどまだだぞ。俺とラウラの誕生日は9月22日。姉弟2人そろって乙女座なのだ。

 

 ラウラは乙女座で合ってると思うよ。………でも、何で俺まで乙女座なの? ラウラよりも数秒後に生まれたから誕生日が同じだっていうのは分かるし、仕方ないと思うけど、何で星座まで俺の事を女だっていう事にしようとしてるの? ああ、そうか、女になればいいのか。じゃあ○○○は斬りおとせばいいんだな!?

 

 お、落ち着こう。誕生日の事は忘れるんだ。傷つくだけだし。

 

「あ、アールネ………?」

 

「これは俺たちからのお礼だよ。里を守ってもらったし、お前らにはお世話になった」

 

「あ、いや………世話になったのは、俺たちの方だよ………」

 

「ガッハッハッハッハッ! 何言ってやがる、コルッカ! お前らは俺たちの英雄だ! ほらみんな、さっそく乾杯しようぜ!!」

 

「ふみゅ………みんな………」

 

 食堂の真ん中へと連れて行かれると、一緒に雪だるまを作った子供たちに大きなグラスを渡された。あっという間にグラスの中にオレンジジュースを注がれ、俺たちは余計に戸惑ってしまう。

 

 つまりこれは………明日お別れになる俺たちのために、お祝いしてくれてるって事か………?

 

「た、タクヤ………?」

 

「ん? おい、コルッカ。何で泣いてるんだよ?」

 

「い、いや………」

 

 あれ………? 俺、泣いてた………?

 

 左手を目の近くに持って行くと、確かに暖かい雫が左手の指に流れ落ちた。慌ててそれを拭い去り、必死に俺は微笑む。

 

 ―――――異世界にやって来て、本当に良かった。

 

 前世の世界は最悪だった。学校にいる間は友達と話ができて楽しかったけど、家に帰れば親父の虐待に苦しむ羽目になる。あの世界で俺は必要とされない人間だったらしく、何度も親父には「何でてめえみてえなガキがいるんだ」と常に言われ続けてきた。

 

 だから俺は、必要のない子供だったんだという事を小さい頃から理解していた。

 

 でも――――――今はもう、俺はこの世界の住人だ。あれだけ虐げられたのだから、俺にはこの世界で虐げられている人々の苦しみはよく分かる。

 

 彼らのためにテンプル騎士団を作り、人々を転生者の圧政から救う。天秤にも似たような願いを叶えてもらうつもりだけど、これが俺の最も大きな宿願だ。

 

 そうだ。俺はもう――――――必要のない人間じゃない。

 

 仲間(同志)たちと一緒に戦い、この世界を守る。今の俺はテンプル騎士団の1人なのだ。

 

 その仲間たちに祝ってもらったのが嬉しかったから、涙が出てしまったのかもしれない。前世でこんなことをしてくれたのは、俺の母だけだったのだから。

 

「みんな………」

 

 うわ、まだ涙声だ。何だか恥ずかしいなぁ………。

 

 でも、言おう。涙声でもいいじゃないか。

 

「――――――あ、ありがとうっ………!」

 

 俺がそう言うと―――――――みんなの拍手が、俺たちを包み込んでくれた。

 

 

 

 

 

 

 こうして俺たちはスオミの里の人々に見送られ、里を後にするのだった。

 

 彼らともっと過ごしたかったけど、旅を止めるわけにはいかない。

 

 天秤を手に入れ、願いを叶えるために。

 

 この願いで、大勢の人々が救われるのだから―――――――。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。