異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
逆にタクヤのスキルが高いから………あっ、ヒロインこっちか。
ザウンバルク平原は、オルトバルカ王国の王都ラガヴァンビウスの北東部に広がる平原だ。かつてはダンジョンに指定されていたらしいんだが、今のようにダンジョンの調査が本格化する前の冒険者の活躍によって調査は進み、現在ではダンジョンの指定は解除されてただの平原に戻っている。
しかしここは単なる平原ではない。魔物が住みつく前は、世界を支配しようとしていた吸血鬼たちに人類たちが戦いを挑み、玉砕したという場所だ。つまりここは古戦場なのである。
随分と禍々しい場所に行く羽目になったもんだ。レオパルト2A4の砲塔の上で地平線をじっと見つめながら片手を汎用機関銃のMG3の銃床に乗せる俺の隣では、ハッチの縁に腰を下ろしたクランが、両足をぶらぶらと揺らしながらドイツ語の歌を口ずさんでいる。これから現代兵器で挑んでも勝てるかどうかわからないほど危険なドラゴンと戦いに行くというのに、緊張感が全くない。
マイペースな彼女にはいつも呆れてしまうけど、この異世界にやって来てから戦う前はいつもこのように歌を口ずさんでいたり、砲塔の中からこっそり足を伸ばしてちょっかいを出してくるのはいつもの事だ。大学に通っていた時も授業中にちょっかいを出してきたり、部屋に戻れば必ずいたずらを用意しているのである。体調を崩した時もちょっかいをかけてくるほどなので、彼女に弄られるのはほぼ毎日といっても過言ではない。
「あー、お腹空いたなぁー。ねえねえ、ケーター」
「ん?」
「今度さ、またケーターのアイントプフ食べたい」
「はいはい、食材がそろったら作ってやるから」
「Danke(ありがとっ)!」
アイントプフは、ソーセージと野菜がたっぷり入ったドイツのスープ料理の1つだ。
前世の大学の寮では俺とクランは同じ部屋で、彼女は料理ができないため基本的に俺が料理を作るか、寮の近くのレストランを利用していた。最初は日本食で満足していたクランだけど、やはり一番口に合うのは祖国の料理という事なんだろう。
しかし、近くのレストランにはなかなかドイツ料理のある店がない。だから俺はクランのために、インターネットでドイツ料理の作り方を調べ、自分で作ることにしたのである。
あの時、クランは大喜びしてくれた。さすがに彼女の両親が作る料理の味には遠く及ばなかったとは思うけど、満足してくれたのなら安心である。
それはちょっとしたサプライズだったんだが………クランの奴は日本(ヤーパン)のボーイフレンドが、自分のためにアイントプフを作ってくれたという事を手紙でドイツの両親に知らせたらしく、その数週間後にはドイツ連邦軍の現役の戦車兵であるペーターさんが奥さんと一緒に来日するという事件が発生したこともある。
うん、滅茶苦茶でかかったよ、ペーターさん。2mくらいの大男で、1発ぶん殴られたら即死するんじゃないかって思えるほど腕が太かったからね。もちろん相手はドイツ語で喋ってて、クランに通訳してもらいながら色々話してもらったんだけど、どうやらペーターさんはその時「娘を幸せにしてやってくれ」と言っていたらしい。
まあ、それでペーターさん来日事件が終わったなら良かったんだけどね。でも寮にやってきただけではなく、なんと俺の実家にいる両親の所にも挨拶に行ったという。いきなり目の前に身長約2mのドイツ人男性と、クランにそっくりな奥さんが訪問してきたら田舎で農業やってる親父と母さんはびっくりしただろうね。
だって、2人でテレビ見てたらケータイに電話がかかってきて、「おい、何かでっかいドイツ人が家に来たぞ」って滅茶苦茶慌ててたからなぁ………。というか、ペーターさんは何で俺の実家の場所を知っていたんだろうか。
とりあえず、そのペーターさん来日事件以降は定期的に彼女のためにドイツ料理を振る舞うようにしている。今ではアイントプフだけでなく、時間さえあれば魔物の肉を加工してソーセージも作ることもある。
「あー、楽しみだなぁー………ふふふっ♪」
「………」
か、可愛いなぁ………。
もう少し楽しそうに笑うクランを見守っていたいけど、もうザウンバルク平原に入っている。今の俺たちはここを通過するためではなく、凶暴なサラマンダーの変異種を討伐するためにここへとやってきたのだ。
相手はドラゴンの一種。ドラゴンは非常に種類が多い魔物であるが、その大半は翼を持つタイプである。中には海中を泳ぎ回る巨大なドラゴンも存在するらしいが、大半が空を飛ぶ事ができるというのならば、敵襲があるならば空からになる。
それに冒険者になった時、魔物の図鑑にもちゃんと目を通しておいた。異世界を旅するのならば魔物の習性や特徴を知っていても損はしないだろうし、むしろ敵の情報を知ることは必須である。戦う敵を知らないのならば対策の立てようがない。その場しのぎの限界は目前なのだ。
だから、打つ手がなくならないように事前に準備をしておく。戦う相手が分かっているなら徹底的に調べ尽くし、何通りも作戦や攻撃手段を用意して戦いに臨む。いつもマイペースなクランも、戦いの事になれば俺と全く同じことを考えている。いや、もしかすると彼女の方が俺よりも徹底しているかもしれない。
MG3のグリップを手で握り、左手を銃床に沿える。リアサイトの前に折り畳んである対空照準器を展開し、照準器がずれていないか確認するために銃身を天空へと向けようとしたその時だった。
「………ん?」
「どうした?」
突然、隣にいたクランが鼻歌を止めた。軽快で心地よかった彼女の歌声が日常と共に消え失せ、本格的な戦場が徐々に姿を現し始める。
「あれ見て」
「………何だ?」
風邪でたなびいていた金髪を片手で押さえつつ、迷彩模様のヘルメットをかぶって臨戦態勢に入るクラン。彼女がヘルメットをかぶっている間、俺は彼女が目にしたものを見つけようと双眼鏡を手にし、前方の草原をズームする。
ザウンバルク平原は、多少高くなっている丘は存在するものの、基本的には平坦な草原が延々と続く場所である。だから基本的に景色の色は蒼か緑の2色だけで、別の彩に変わるとすれば天気と時間帯で別の色に染まるだけだ。だから少しでも変化があればすぐに気付く事ができる。
それゆえに、俺はズームする途中でもう〝それ”に気付いていた。
「………焦げてるじゃん」
――――――草原の一角が、真っ黒に焦げているのである。
まるでそこだけ焼き払われたかのように、焼け野原と化しているのだ。他の場所はちゃんと草が生えているのに、どうしてそこだけ焼き払われているのか?
しかも、よく見てみるとその焼き払われた跡は点々とどこかへ続いているではないか。
「木村、停車して」
「了解(ヤヴォール)」
操縦士を担当する木村がレオパルトを停車させるよりも先に、俺はもう装填手用のハッチからアサルトライフルを手にしたまま飛び出していた。砲塔の横から草原の上に飛び降り、転生した時に初期装備として生産した相棒を構えながらその焦げた一角へと向かう。
レオパルト2A6は4人乗りの戦車である。操縦士、砲手、装填手、車長の4人がそろわない限り真価を発揮することは不可能なのだ。俺が担当するのはその中の1つである装填手で、砲弾を砲身に装填するのが役割なんだが、その砲弾はもう装填してあるから今のところ俺の仕事はないのである。
俺が装備しているアサルトライフルは、ドイツ製アサルトライフルの『G3A4』。現在ではアサルトライフルはポピュラーな装備となり、先進国や発展途上国などでも生産されているのが多く見受けられるが、このG3はその数あるアサルトライフルの中でも初期の部類に入る。
世界初のアサルトライフルが開発されたのは、敗戦が現実味を帯びた第二次世界大戦中のドイツであった。第二次世界大戦までの戦争では、歩兵の主な装備は連射力の低いボルトアクション式のライフルかハンドガンの弾薬を使うSMG(サブマシンガン)のどちらかで、その歩兵たちをLMG(ライトマシンガン)や迫撃砲が援護するような戦法が主流だった。
でも、ボルトアクション式のライフルは威力と精度が高い代わりに連射速度が遅く、遠距離での射撃ならば真価を発揮する代わりに中距離や近距離では撃ち負けてしまう。手数を重視しようとしてSMG(サブマシンガン)を持ち出せば肝心の射程距離と威力が低く、更に命中精度も悪いから狙撃には全く使えない。そしてLMG(ライトマシンガン)を投入すれば、確かに命中精度、威力、射程距離は申し分ないんだけど、装備そのものが重いせいで小回りが利かない。
当時はM1ガーランドをはじめとするセミオートマチック式のライフルが実用化され始めた時代であり、中距離戦ならばセミオートマチック式のライフルが猛威を振るっていたんだけど、市街地での戦いに最適な武器とは言えなかった。平野と違って建物で遮られ、相手や自分の立ち位置次第で攻撃できる距離や位置がすぐに変わってしまう市街地戦では、セミオートマチック式のライフルも銃身が長過ぎるし、場合によっては近距離での撃ち合いになることもあってSMG(サブマシンガン)に撃ち負けることも珍しくなかった。
そこで、ドイツ軍はボルトアクション式のライフルを上回る速度のセミオート射撃が可能で、近距離でもSMG(サブマシンガン)に撃ち負けないようにフルオート射撃の機能を持ち、更に威力を高めるためにある程度口径の大きなライフルとして、世界初のアサルトライフルとなる『StG44』を開発し、連合国との戦いに投入することになるのである。
第二次大戦が終結すると、各国はこのStG44を参考に多種多様なアサルトライフルを開発していく。有名なのはソ連のAK-47だけど、このG3もそのStG44を参考にして開発されたライフルの1つである。
使用する弾薬は、近年のアサルトライフルでは珍しくなってしまった7.62mm弾。破壊力と反動が大きいのが特徴だが、このG3は7.62mm弾を使用するライフルの中でも反動が小さく、命中精度が良好なライフルとして知られている。
しかし、再装填(リロード)が従来のライフルよりも長くなってしまうという欠点がある。他国のライフルはマガジンを交換した後にコッキングレバーを引けば再装填(リロード)は完了するのに対し、G3は弾切れになったらコッキングレバーを引き、その状態でマガジンを交換し、そこからコッキングレバーを元の位置に戻す必要があるのだ。ほんの少しだけ面倒だが、圧倒的な破壊力と高い命中精度を両立している逸品であるため、俺はこいつを愛用している。
それにクランにも滅茶苦茶おすすめされたしね。結局みんなでG3A4とかMP5を使ってるよ。
G3A4の銃床は伸縮することが可能であるため、戦車から下りて戦う場合にもってこいだ。俺はそのG3A4の銃身の下に、同じくドイツ製グレネードランチャーのHK79を装備することでさらに火力を上げている。
周囲に魔物がいない事を確認してから、俺は草原の上でしゃがみ込み、その真っ黒に焦げている部分の草を左手の指で軽くつまんだ。やはり何かの影響で真っ黒に変色しているわけではなく、本当に炎に焼かれて真っ黒に焦げているだけのようだ。指に触れた部分がすぐに砕け、ただの真っ黒な煤へと変わってしまったのを見届けた俺は、その焦げた跡が点々と続く方向を睨みつける。
まるで、巨大な動物が歩いた足跡みたいだ。しかし足跡ならばなぜ焦げる………?
「ねえ、ケーター」
「ん?」
「サラマンダーの特徴は覚えてる?」
ああ、覚えている。冒険者になった後に書店で購入した図鑑にも記載されていたし、移動中にもその図鑑でもう一度確認していた。
サラマンダーは基本的に火山に生息する魔物である。身体的な特徴は堅牢な外殻と、頭から巨大な剣を思わせる角が生えている事だろうか。根元の方は真っ黒で、先端部に行くにつれて融解していく鉄板のように赤くなっているという特徴的な角を持っているという。
防御力は非常に高く、外殻に剣を叩き付けても傷つくことはないという。むしろ剣が折れるか、異常に高い体温で溶けてしまうというから、接近戦でサラマンダーを撃破するのは至難の業だ。しかもスピードも平均的な飛竜以上だし、攻撃力はその高熱と炎がそのまま猛威を振るう事になる。ブレスはまるで溶鉱炉の中のように高温で、躱したとしても掠めただけで防具や剣は溶けてしまう。そんな高温を浴びれば人間の身体がどうなってしまうのかは語るまでもないだろう。人間の形をしたステーキの出来上がりというわけだ。焼き加減はウェルダン以上だろう。
外殻の裂け目から炎を噴き出し、常に高温と炎を纏う灼熱のドラゴン。それが、この世界で恐れられているサラマンダーである。
しかも今回の獲物は――――――それの変異種だという。
外殻が柔らかかったり、炎が出ないようなマイナスの変異ならば非常に助かるんだが、そんな軟弱な変異種が生き残れるわけがない。むしろ、生存するためにはより強くならなければならないのだから、どう考えてもその変異種というのは普通の個体よりも厄介な進化を遂げていると考えるべきだ。
外殻が更に硬くなっていたり、ブレスが更に高温になっている可能性もある。
「炎を操るドラゴン………なるほど、奴の足跡か」
「幸先が良いわ。獲物の足跡を見つけられるなんて」
「どうかな。相手は空を飛ぶドラゴンだ。足跡くらいじゃ―――――――」
………いや、幸先は確かに良さそうだ。〝獲物に遭遇できた”という意味ではな。
問題は先制攻撃がどちら側になるかという事だ。あらゆる戦いにおいて、先制攻撃が許されるのは相手をおびき出した方である。
だから俺は、その焦げた地面の真っ只中に変な形の影が出現し、それが段々と肥大化していることに気付いた時点で、相手の先制攻撃を許してしまったという事を悟ったのである。
「クラン!」
「!」
クランもその影を見て、気付いた。
―――――――もう獲物は、俺たちという獲物を見つけてたのだ。
2人で同時に右へとジャンプし、そのまま草原の上に伏せる。焦げた臭いと草の臭いが混ざり合う草原の空気を、唐突に後方で膨れ上がった熱風が焼き尽くしていく。
「熱っ!?」
「ケーター!」
いや、大丈夫だ。足は燃えていない。
火の粉が舞う中で後ろを振り返った俺は、相手の奇襲に気付いてよかったと思いながらも、その炎の強烈さにぞくりとしてしまった。
頭上から降り注いできた炎が命中したのは、俺とクランの両足の先から4mくらい後方である。なのに、まるで両足をバーナーで直接焼かれているのではないかと思ってしまうほどの熱波が足を包み込んだのだ。両足がステーキにならなかったことに感謝しながら顔を上げた俺は―――――天空を舞う怪物と、対面することになる。
巨大な翼を持つ、漆黒のドラゴン。その外殻は黒曜石のように艶があるわけではなく、むしろ石炭の塊から削り出されたかのように荒々しい。外殻のつなぎ目や裂け目からは溶接に使うバーナーのように炎が噴き出し、常に奴の周囲の空気を加熱し続けている。
人間を容易く踏み潰してしまうような太い脚から伸びるのは、鎌のような太い爪。その足に踏みつけられた地面から生える草は、奴の体温のせいで瞬時に発火し、足跡の近くにあった植物たちと同じ運命を辿っている。
嘘だろ………こんな怪物と戦うのか………!
「わお………ケーター、このドラゴン……す、凄い迫力よ………!」
「あ、あ、当たり前だ――――――」
辛うじて笑うクランだが、彼女もこいつがヤバい相手だという事を理解している筈だ。
「――――――本物のドラゴンだからなぁッ!!」
そう、本物のドラゴン。異世界に生息する、本物の怪物。
俺たちの目の前に降り立ったのは――――――そのサラマンダーの、変異種だった。
本来ならば頭に生えている1本の角は2本に増えており、尻尾も3本に増えている。更に背中からは炎と同じく真っ赤に染まったクリスタルのような結晶が何本も突き出ていて、更に荒々しくなっている。
『ゴォォォォォォォォォッ!!』
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「も、戻りましょう! 早く!」
うん、戦車に戻ろう! 生身でこいつは倒せねえよ!!
クランと2人で、凄まじい速度で踵を返して全力で突っ走る。俺たちが乗ってきた
今まで経験してきた50m走のタイムを遥かに上回る速さで戦車の中へと逃げ帰った俺たちは、2人で同時に車長用と装填手用のハッチから車内へと滑り込み、とりあえずG3を壁に立て掛けた。
「ね、ねえケーター!? 何あれ!?」
「サラマンダーだよ! しかも変異種!!」
尻尾と角増えてたろ!? 背中からはなんか変な結晶みたいなの生えてるし、体格も普通のよりでかかったぞ!? なにあれ!?
「え、えっと、戦車で勝てるかな………?」
「ぼ、
「とりあえず移動しましょう! 焼かれちゃう! 木村ぁっ!」
「はいはい、全員ステーキはごめんですよぉッ!!」
そうだ、移動しなければ。あんなブレスを喰らったら、いくら複合装甲を装備している頑丈な戦車でもダメージを受ける可能性があるし、あんな巨体の攻撃はあらゆる戦車の
木村がガスマスクをかぶったまま、思い切りアクセルを踏んでレオパルト2A4を走らせる。エンジンの唸り声の中にサラマンダーの咆哮が混ざり込み、乗組員たちは一斉にぞくっとしてしまう。
くそったれ、焼き殺されてたまるか!
2回目に死ぬ時は孫を愛でてから老衰で死ぬって決めてんだよ、畜生!
「砲塔、右70度! 目標、サラマンダー!!」
「了解(ヤヴォール)!!」
まだ飛び立っていないのならば、それよりも貫通力を期待して
そう思ったが、相手の防御力を知るのも重要だ。なにしろ相手は普通の個体ではなく、変異種なのだから――――――。
「――――――
クランの凛とした号令とキャニスター弾の轟音が、サラマンダーとの戦いの火蓋を切って落とした。