異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
「寒っ………」
装填手用のハッチから顔を出した瞬間、日本の冬とは比べ物にならないほど冷たい風が俺を出迎えた。吐き出した息は一瞬で真っ白になり、雪を孕んだ風の中に消えていく。
防寒着をちゃんと着たつもりなんだが、もっと厚着にするべきだろうかと本気で検討してしまうほどの寒さである。今すぐに顔を戦車の中に引っ込めて、
頭にかぶっているヘルメットにマウントした暗視スコープのPSV-14を目の前に展開し、レンズを覗き込む。事前にザウンバルク平原の外れにある村で気象情報を仕入れていたから数日前に大規模なブリザードがあったという事は知っていたんだが、この天気がこの山脈にとってのいつもの光景なんだろうか。
とりあえず、肉眼では戦車のすぐ近くまでしか見えない。それ以外は降り注ぐ雪のせいで真っ白になっており、仮に遠くに何かがあったとしても、雪のせいで辛うじて輪郭が見える程度でしかない。こんな状況で凶暴な魔物に襲われたら、まさにジ・エンドである。
「ケーター、どう?」
「何もいない」
車内から聞こえてきたのは、俺の彼女の声だった。
「それはよかったわ。ほら、早く車内に戻って」
「はいはい」
クランの家系は、第二次世界大戦の頃から戦車兵として活躍している軍人ばかりである。彼女の父は現役のドイツ連邦軍の戦車兵で、レオパルト2A6に乗る優秀な車長だという。祖父もレオパルト1に乗っていた車長らしいのだが、一番凄まじい活躍をしたのは彼女の曽祖父だろう。
ソ連軍との戦いとなったスターリングラード攻防戦から純白のティーガーⅠで参加し、その後も撤退を繰り返す中で数多の戦車を撃破しながらベルリン攻防戦を生き残り、連合軍の兵士たちからは『ホワイトタイガー』と呼ばれるほどの実力者だったという。
そんな戦車兵の一家に生まれた彼女が、兵器を自由に生み出せるこの不思議な端末を手にしてから真っ先に戦車を作りたがったのは、彼女の実家であるルーデンシュタイン家の遺伝子なのだろうか。しかも新型の
「ううっ、結構寒いわね………」
「まあ、この異世界で一番寒い場所らしいからな」
このシベリスブルク山脈は、異世界で最も寒い場所であると言われている。外周部でも-20℃になるのだが、ブリザードの防壁の内側の最低気温は、前世の世界では考えられない-102.8℃になるという。南極や北極を上回る極寒の山脈だ。
だからこそ防寒着をしっかり身に着け、戦車でも走破できそうな緩い斜面の多い外周部を選んだ。ここの調査にも挑んでみようと思ったんだが、さすがに中心部の-102.8℃に挑むのは自殺行為なので、外周部を調査して報酬を貰うことにしていたのだ。
ちなみにこの山脈は、あまりにも危険すぎるために調査する冒険者が殆どおらず、王都から麓にあるスオミの里まで鉄道を走らせるという計画も頓挫している。まあ、それはスオミの里に住む人々がオルトバルカ人の介入に猛反発したという理由もあるらしい。
俺たちが上ってきたのはスオミの里の南西部からであるため、里を通過したわけではない。オルトバルカ人だと勘違いされて攻撃されたら困るし、アイテムや食材の補給も必要がなかったので、安全のためにも素通りしてきたのである。
「ねえねえ、今夜のメニューは何かな?」
「ん? 今夜はクランの大好きなアイントプフだぞ」
「えっ、本当!?」
「ああ。ちゃんと食材もそろえてある」
「やったぁ♪」
異世界に転生してきてからも、彼女のためにドイツ料理を作ってあげると喜んでくれるので、定期的に食材を買いそろえてはドイツ料理を作って仲間たちに振る舞うようにしている。
やっぱり故郷の料理は食べたくなるよな。俺も日本食が食べたくなる時がるし、彼女の気分はよく分かる。
とりあえず索敵は終わったので、そろそろ俺も戦車の中で暖まろうかと思いつつ車内へと引っ込もうとしたその時だった。
俺たちの乗るレオパルト2A4には、雪への対策のためにドーザーブレードを搭載しているんだが、そのドーザーブレードの方から、ゴツン、と何かが当たったような音が聞こえてきたのである。
「ん? 何かぶつかったぞ?」
「倒木じゃないの?」
「いや、何だか金属音っぽかった。木村、停車してくれ。見てくるから」
「マジかよ? 魔物だったらどうするんだ?」
「だから調べるんだろうが。いいから止めろって」
「了解(ヤヴォール)」
いや、確かに硬い外殻を持つ魔物が激突すればあんな感じの金属音みたいな音が聞こえてくるかもしれない。でも、さっき暗視スコープで確認した時は何も見えなかったし、魔物と激突したんだったらその魔物は雪の中から俺たちを狙っていた狡猾な奴らか、たまたま俺たちの通り道で眠っていた大間抜けのどちらかである。
こんな危険地帯に生息しているのだから、大間抜けなわけがない。そんな阿呆はとっくに捕食されている筈である。
装填手の座席の近くに立てかけてあったグレネードランチャー装備のG3A4を拾い上げた俺は、レオパルトが停車したのを確認してから砲塔から抜け出すと、複合装甲で覆われた車体の上から飛び降り、息を呑んでからG3を構えた。
本当に魔物なのか? それとも、ただの倒木か?
魔物だったらすぐに撃ち殺してやろう。雪の中で眠っていただけだと言い訳されても関係ない。ああ、知った事か。すぐにトリガーを引いて顔面を粉々にしてやる………。
暗視スコープを覗き込みながら銃口を雪の中へと向けつつ、戦車の車体の前方に鎮座するドーザーブレードの正面へと回り込む。雪をかき分け続けていたドーザーブレードの正面は最早ちょっとした雪山のようになっているから、今しがたぶつかった間抜けはこの中に埋まっているという事になる。
グレネードランチャーからそっと手を離し、雪の中を探る。水分を含んで少々硬くなった雪が指に絡み付き、俺の指をどんどん湿らせていく。
魔物だったら洒落にならない。ちらりと砲塔の上を見てみると、どうやら車長であるクランは俺の事を心配してくれているらしく、フォアグリップとチューブ型のドットサイトを装備したMP5A5を構えながら、照準を雪の中へと合わせている。
MP5はドイツ製の有名なSMG(サブマシンガン)である。少々華奢な部分があるものの、他国のSMG(サブマシンガン)と比べると圧倒的に命中精度に優れており、特殊部隊などで採用されているケースが多い。俺の持つアサルトライフルのG3をベースにしているという変わったSMG(サブマシンガン)である。ちょっとばかりコストが高い点が欠点と言えるが、性能は極めて優秀だし汎用性も高い事から、クランはMP5A5を使用し、火炎放射器をメインアームとする変態の木村は小型化したMP5Kと呼ばれるモデルを使用している。
優秀なSMG(サブマシンガン)だが、使用する弾薬はハンドガン用の弾薬である9mm弾であるため、魔物を相手にする場合は少々威力不足となる事が多い。堅牢な外殻を貫通するためには7.62mm弾クラスの大口径の銃弾でなければ厳しいという事は経験済みであるため、あくまで対人戦用の武器と言える。
彼女に向かって頷いてから、俺は思い切り雪の塊の中に左腕を突っ込んでみた。これで中に潜んでいる魔物に噛みつかれ、片手を失う羽目になったらクランは大泣きするだろうなと思いつつ雪の中を探る。
すると――――――雪の中を探っていた俺の手に、何かが当たった。
これは何だ? コートか? やけに水分を含んでいるが、おそらくは防寒着だろう。魔物や動物の毛皮とは思えない。そのまま探り続けてみると、そのコートの中から人間と同じ形状の手が生えていることが分かった。そのまま付け根と思われる方向へと手を伸ばしてみると、肩や胸板と思われる部分もある。
間違いない。魔物ではなく、人間だ。
「魔物じゃないぞ。人だ」
「遭難者?」
「分からん」
遭難した冒険者か? 凍死していてもおかしくないけど、皮膚は痩せ細っていたわけではなさそうだし、もしかすると死んで間もないだけかもしれないし、まだ生きているかもしれない。
死んでいるなら埋葬してあげたいし、生きているならば助けてあげたい。そう思った俺は無線機のスイッチを入れると、砲塔の中にいる
万が一に備えて塹壕を作ったりできるように、戦車の両サイドには軍用のスコップを備え付けてあるのである。両サイドからそれを持ってきた俺は、ちょうど砲塔から姿を現した小柄な
埋まっている遭難者を突き刺さないように気を付けながら、スコップの先端部を雪の塊に突き立てる。何だか寮の雪かきをやってた頃を思い出すな。
それにしても、こんな外周部で遭難したんだろうか? 運悪く数日前のブリザードに襲われたのか?
考えながらスコップで雪を掘り続けていると、やがてその埋まっていた遭難者の手が見え始めてきた。スコップを傍らに突き立ててその手を引っ張りつつ、周囲の雪を手で退けていく。
やけに細い手だな。女性か?
「ふんっ! ………わお」
細い手を引っ張るとその埋まっていた遭難者はあっさりと雪の中から姿を現した。引っ張り出される最中にかぶっていたフードが外れ、湿った蒼い髪とその白い肌があらわになる。
雪の中に埋まっていたのは、蒼い髪を黒い髪留めで結んだポニーテールの美少女だったのである。年齢は俺たちと同い年くらいだろうか。一見すると凛とした雰囲気を放っていそうな気の強そうな少女だが、同じく気の強いクランは堅苦しさを感じさせないタイプの気の強さであるのに対し、この少女はどこか堅苦しさを感じさせるような、融通の利かないタイプの気の強さを纏っているような気がする。
手足はすらりとしているけど、ただの少女ではなく、どこかで訓練を受けたのか鍛え上げられているという事は分かる。しかしその鍛えたという痕跡が主張することなく、このすらりとした身体の中に納まっているのは驚きだ。
堅苦しさを感じさせる雰囲気だけど、だからこそその美貌が引き締まっているように思えるのだろうか………。
「女の子だ………。クラン、雪の中に女の子が埋まってた」
「脈は?」
「………ある。生きてるぞ、この子」
「おいケーター、これ………」
「何だ?」
彼女の脈を確認していると、彼女に惚れてしまったのか、顔を赤くしていた童顔の
漆黒のホルスターの中には――――――同じく、漆黒の銃が収まっている。
「銃を持ってるぞ、この子」
「銃だって?」
ということは、転生者か? だが、それにしては容姿が日本人とは思えないし、ヨーロッパ出身の転生者にも見えない。明らかにこの異世界の住人であるという事は一目瞭然だ。
では、なぜ銃を持っているのか? この子が転生者だというならば納得できるけど、その可能性はかなり低いだろう。考えられるのは仲間に転生者がいて、その転生者から武器を分けてもらっているというパターンだけど、今まで遭遇した転生者は自分の力を仲間に分け与えるというよりも、その力を独占して他人を虐げるパターンが多かったため、その可能性も現実味はあるけど可能性は低い。
「すごいな、AK47を持ってるぞ」
「いや、よく見ろ。こいつはAN-94だ」
「ん? ああ、そうか。………背中に背負ってるのはなんだ? スナイパーライフルか?」
いや、これはアンチマテリアルライフルだな。ロシアのOSV-96か。確かに雪山には適した武器と言える。こいつを支給した転生者はかなり仲間想いだったに違いない。
「ロシアのOSV-96だな。12.7mm弾を使うアンチマテリアルライフルだが………やけに銃身が太いな。カスタムでもしてあるのか?」
「ケーターって詳しいな」
「まあな。一番好きなのはドイツ系だけど」
クランにドイツ系の兵器をおすすめされたのが原因なんだけどね。おかげで今はもうG3A4が俺の相棒だ。
「ハンドガンも持ってるな。銃剣付きということは………チェコ製か。Cz75だな」
結構白兵戦を重視しているんだな。パーティーでは前衛だったんだろうか?
それにしても、結構重装備だな。アンチマテリアルライフルだけでも重装備だというのに、グレネードランチャー付きのアサルトライフルにハンドガンを2丁か。それ以外にもやけにでかいトレンチナイフらしきナイフを2本持ってるし、折り畳み式のスコップまで装備している。
「綺麗な女の子だ………」
「何だ? 惚れたのか?」
「しょ、正直に言うと好みのタイプかも………」
「ふん、童貞坊やめ」
「ど、童貞坊やぁ!?」
とりあえず、彼女を戦車の中に連れて行こう。目を覚ましたら事情を聞いて、最寄りの街にでも送り届けるか、仲間の所に連れて行ってあげなければならない。
この
歯車の回る金属音が、その暗闇の中を漂っていた。
何度も反響を繰り返して消えていく耳障りな金属音。それが、はるか昔に造られた『ホワイト・クロック』と呼ばれる時計塔の鼓動なのだろう。
吸血鬼の王と呼ばれるレリエル・クロフォードが世界を支配した時代から鎮座し続けるその時計塔は、今から21年前にその帝都で勃発したモリガンという傭兵ギルドとレリエルの戦いによって倒壊し、それ以降はヴリシア帝国の住民たちによって復元され、前までのように帝都の中心に鎮座している。
耳障りな場所だが、彼はそこがお気に入りだった。
日の光は入って来ないし、昼間だろうと夜だろうと適度な暗さだ。この歯車が止まって静かになってくれれば、その時計塔の中は彼にとって理想の隠れ家になるに違いない。
「ユーリィ」
「………なんだ、ヴィクトルおじさんしゃないですか」
そこを根城にするユーリィは、自分よりも遥かに古参の吸血鬼に名を呼ばれても、相変わらず馬鹿にしているかのように返事をするだけだった。古参のヴィクトルからすれば生意気な若者でしかないユーリィだが、彼の戦闘力は吸血鬼の残存兵力の中でも高いし、ただでさえ同胞の数が減っているのだから迂闊に粛清することもできない。
それに、生意気だからという理由だけで手にかければ、彼の主君が黙っていないだろう。
「鍵は?」
「カーミラ様が手に入れた」
メサイアの天秤を手に入れるためには、天秤が保管されている場所の扉を開けるための3つの鍵が必要になる。そのうちの1つは海底神殿に保管され、2つ目は倭国の九稜城の天守閣に保管された。今ではその両方が、吸血鬼たちの怨敵であるリキヤ・ハヤカワの息子が持っているという。
しかし最後の1つは――――――もう、彼らの主君が手に入れた。これであの魔王の息子たちが時計塔にやって来ても、地下にある宝箱の中は文字通りもぬけの殻。そして鍵を欲する彼らは、必然的に吸血鬼たちにおびき出されることになる。
「ユーリィ、あのガキ共にリベンジしたいとは思わんか?」
「なに?」
「メウンサルバ遺跡では無様にやられたそうではないか」
「黙れよジジイ」
メウンサルバ遺跡で、リキヤの息子たちを襲撃したのはこのユーリィである。しかし彼はタクヤやラウラたちを完全に見下していたため、隙をつかれて何度もやられた挙句、鍵の場所が保管された資料を奪われて逃げられるという醜態を晒しているのである。
プライドの高い吸血鬼が、汚名返上の機会を与えられれば確実に乗る。案の定ユーリィはヴィクトルの目論見通りに、その汚名返上のチャンスを欲していた。
ヴィクトルはユーリィを嘲笑いながら言った。
「奴らは、シベリスブルク山脈を越えてこちらに向かおうとしているらしい。そのままおびき出すのも面白いが………カーミラ様は鍵を欲していらっしゃる。我らの王の復活のために」
「で?」
「奴らを襲撃し、鍵を奪って来い。そしてタクヤ・ハヤカワかラウラ・ハヤカワのどちらかを生け捕りにして連れてくるのだ」
「生け捕り? 何でだよ? とっとと血を吸って殺した方が良いじゃねえか」
「たわけ。子供を生かしておけば、魔王は必ず取り戻すためにやってくるだろう? そこで奴を殺し、レリエル様の仇を討つのだ。鍵はそろう上に怨敵も消せる。良い策ではないか」
「………ああ、悪くない」
我が子が生け捕りにされれば、あの男は必ず取り戻すためにやってくる。つまり生け捕りにする理由は、子供を餌にするためだ。我が子を連れ戻すために攻め込んできた魔王を消せば、厄介な男が消えることで世界征服も難易度が下がるし、主君の仇もとれる。
だが、ユーリィにとって魅力的な話なのは、あの遺跡の地下で自分をボコボコにした少年と戦えるという部分までだった。21年前に殺された吸血鬼の王と、その吸血鬼の王を殺した魔王の話は、彼にとってはどうでもよかったのである。
子供にやられたという汚名を、あの雪山で消す。
それがユーリィにとっての、魅力的な話だった。