異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
「やだ………やだぁ………タクヤぁ……………うぅ……」
「泣かないでくださいな、お姉様。お兄様はきっと生きていますわ」
雪崩でタクヤを失ったチャレンジャー2の車内には、腹違いの弟を案じる姉の嗚咽が漂い続けていた。幼少の頃から常に一緒にいたラウラにとって、腹違いとはいえ隣にいつもいてくれた彼の存在は最早自分の身体の一部と言えるほど大きく、彼が傍らから離れるだけで涙を流してしまう事など珍しくなかったのである。それゆえに彼女の感じている不安は、家族という事もあって他のメンバーよりも大きい。
その腹違いの弟が雪崩に巻き込まれてから、そろそろ1時間が経過する。幸い彼が雪崩で脱落する前に雪道への対策としてドーザーブレードを搭載してあったチャレンジャー2であるが、迂闊に動けば逆にタクヤから遠ざかる可能性もある上、視界も悪いため迂闊に探しに行くこともできず、立ち往生している状態であった。
操縦士の座席で涙を流すラウラを慰めるカノンの声を聞きながら、ナタリアはじっとペリスコープを覗き込み、忌々しい雪を睨みつけていた。
幸い、装備は整っている。暗視スコープも装備してあるためこの雪の中でも索敵や捜索には困らないだろう。しかし、問題はその能力を生み出せる人物が脱落してしまったという事だ。
彼がいたからこそ、戦闘中でも臨機応変に武器を切り替える事ができていたのである。しかし今はその彼がおらず、装備は整っていても臨機応変に対応することが不可能になっており、万が一想定外の戦闘になれば不利になるのは火を見るよりも明らかであった。
(探すべきポイントはさっきの雪崩の下流………でも、どこまで流されたのか分からない………)
ふと、ナタリアは座席の脇にあるモニターをちらりと見た。モニターには戦車の状態が表示されているのだが、現時点でそれらの中で最も気を付けるべきなのはエンジンの状態や損傷の状態ではなく、燃料の残量である。
タクヤの能力で兵器を生産して運用する場合、元々は彼が装備を解除して12時間放置し続ければ、勝手に燃料は補給され、弾薬も補充され、あらゆる損傷も修復された状態で再び運用する事ができる。そのため整備のための設備は必要ないし、整備士も不要となっていた。更に現在では彼の装備したスキルのおかげで、彼が装備を解除していない状態で12時間放置しても同様に修復と補給が住んでしまうため、より運用しやすくなっている。
しかし――――――その12時間のインターバルが、刻一刻と近付いているのが問題だった。
(拙いわね………燃料の残量は、あと3分の2………。ギリギリ山脈を越えられるくらいしか残ってない………!)
だからといって、仲間を見殺しにするわけにはいかない。あの燃え盛るネイリンゲンの街で救われた彼女だからこそ、たった1人で死にかける怖さはよく理解している。その命の恩人の息子が、今度は極寒の真っ只中で死にかけているのだ。
「ラウラ、しっかりしなさい。タクヤは生きてるわ」
「だ、だって………こんな寒い山の中に放り出されちゃったんだよ!?」
「安心しなさい。もし仮に彼が死んでいたのなら、この戦車や銃も消えてる筈でしょう?」
転生者の能力で生み出された能力や武器は、その持ち主が死亡すれば消滅する仕組みになっている。タクヤの場合は他の転生者と少々仕組みが違うが、一般的な転生者は死亡すると同時に端末も機能を停止するようになっているため、その方式の転生者の息子である彼の能力もおそらく法則は同じになっている筈である。実証するわけにはいかないため仮説を立てるしかないが、なかなか説得力のある仮説だ。
そう、もし彼が死んでいる筈ならばこのチャレンジャー2も消滅し、彼女たちは4人とも雪の中に放り出されている筈なのだ。チャレンジャー2が消滅していないという事は、少なくともタクヤはまだ生きているという事である。
彼が生み出した装備は強力な武器であると同時に、彼の安否を知らせてくれるようになっているのだ。
「だから、彼はまだ生きてるわ。燃料がちょっと心配だけど、彼に2両目の戦車を作ってもらうか………頑張って徒歩で越えるしかないわね。ほら、あのバカを探しに行くわよ」
「う、うんっ」
タクヤが生きているという事を知って安心したのか、まるで泣き止む子供のように両手で涙を拭い去るラウラ。この中で見た目は一番大人びているラウラだが、正確は最も幼いというアンバランスな彼女の仕草はなかなか愛くるしい。
どきりとしてしまったナタリアは、仲間たちに悟られないようにペリスコープを覗き込みつつ軍帽をかぶり直すふりをすると、ラウラに「タクヤの捜索を続行するわよ」と指示を出した。
「ナタリア」
「な、何かしら?」
「たった今のラウラは結構可愛かったです」
同意したいところだが、同意するわけにはいかないと思ったナタリアは、「そ、そうね………」と誤魔化すと、顔を赤くしながら再びペリスコープを覗き込む。
(タクヤの奴がシスコンになるわけね………)
もし自分が男で、あのように性格の幼い姉がいたのならば、きっとナタリアもシスコンになっている事だろう。性格の幼い姉の世話をしているうちに、いつの間にかシスコンになってしまうに違いない。
そう、まさにタクヤの二の舞である。
だからこそ、早くその片割れを見つけなければ。
ラウラの隣にいるのにふさわしいのは――――――その片割れしかいないのだから。
身体中を包み込んでいた冷たさは、いつの間にか消え失せていた。湿った冷たさと別れる事ができたのは喜ばしい事だが、ここはどこだろうか。
そういえば、俺は何をしていたんだ? 確か………仲間たちと戦車に乗っていた筈だ。相変わらず俺が1人だけでタンクデサントしながら周囲の索敵を定期的に実施していた最中に雪崩が起きて………ああ、そうだ。俺はその雪崩の中に転落しちまったんだ。そしてそのまま雪の中に埋まっている筈だった。
背中や腰に当たっている物体は、もう明らかに雪ではない。全く冷たくないから氷でもないだろう。これは何だ? もしかして、仲間が助けてくれたのか?
そっと瞼を開けてみると――――――見慣れない少女の後姿が見えた。
迷彩服に身を包んだ金髪の少女。俺は彼女が一瞬だけナタリアに見えたけど、ナタリアの髪型はいつもツインテールだし、何だか雰囲気が違う。それに服装はいつもテンプル騎士団の制服姿で、迷彩服を着ることはない。
あの少女は誰だ? なんとなく雰囲気がナタリアに似ているけど、別人だろう。
「お、気付いたか」
今度は男の声が聞こえてくる。小さく頭を振りながらそちらを振り向いてみると、俺から見て右側にある座席に腰を下ろしていた黒髪の少年が、俺を見下ろしていた。彼も同じく迷彩服姿で、頭には同じく迷彩模様のヘルメットをかぶっている。彼の座る座席の傍らには
やはり、俺がいるのは戦車の内部らしい。あの少年は装填手で、ナタリアに雰囲気が似ている少女は車長なんだろうか。
車内に積み込まれているのは、どうやら砲弾だけではないらしい。戦車が行動不能になった際に備えてMP5Kが3丁ほど内壁のケースの中に備え付けられているのが見えるし、ずらりと並ぶ砲弾の箱に紛れて関係なさそうな木箱も置いてある。蓋の開いている木箱の中から覗くのはジャガイモやニンジンだ。
こいつらは何者だ………? 戦車に乗っているという事は、転生者か?
くそったれ、俺は転生者に拾われちまったのか!
慌てて腰のホルスターへと手を伸ばそうとしたが………グリップがある筈の場所には、何もなかった。
「!?」
「おっと、悪いが武器はそっちだ」
装填手と思われる男が、砲塔の隅にある木箱の中を指差す。そちらを見てみると、木箱の中から見覚えのある銃身が突き出ているのが見て取れた。さすがにアンチマテリアルライフルは木箱に入らなかったらしく、AN-94の入っている木箱の隣に立て掛けてある。
おそらくCz75もあの木箱の中だろう。くそ、ナイフまで取り上げられている………!
だが、どうやらコートの内ポケットの中に隠し持っていたCz2075RAMIには気付いていなかったらしく、その得物は俺のコートの内ポケットの中に納まったままだった。本格的なボディチェックはしていないようだな。それが命取りだ………。
「Guten Tag|(こんにちわ)」
すると、その車長の席に座っていた金髪の少女がくるりと俺の方を振り向いた。ナタリアと同じく気の強そうな雰囲気の少女で、迷彩服姿もなかなか似合っている。俺を見下ろすエメラルドグリーンの瞳は何度も実戦を経験した熟練の兵士のように鋭く、敵なのか分からない人間に向けて浮かべる不敵な笑みは、彼女の余裕と器の大きさを象徴しているかのようだった。
前髪のやや左側には、ドイツの象徴でもある鉄十字を模したヘアピンを付けている。そういえばさっきも俺に向かって何か言っていたよな。グーテンターク………ドイツ語? まさか、この少女が転生者なのか?
彼女に気付かれないように左手をコートの中に突っ込み――――――俺は素早く、最後に残されたCz2075RAMIの小さなグリップを掴むと、まるで早撃ちを披露する西部劇のガンマンのような速度で引き抜き、銃口をその転生者の少女へと向けた。
「クランッ!!」
先ほどの装填手の少年が大慌てでハンドガンを引き抜き、砲塔の座席に座る砲手らしき小柄な少年もハンドガンを俺に向けてきたけど、少女は不敵な笑みを浮かべたまま2人に手で合図するだけだった。彼女の腰にもドイツ製のUSPと思われるハンドガンが収まっており、いつでも反撃できるというのに、この金髪の少女は不敵な笑みを止めない。
「………素晴らしい速さね。躊躇なく銃を抜き、敵である可能性がある目標に銃を向ける………良い兵士だという証拠よ、誇りなさい」
「………」
「それに目つきも素晴らしいわ、
「………何者だ?」
「ただの転生者のパーティーよ」
転生者のパーティー………!?
つまり、そこにいる装填手の少年や砲手の少年も転生者って事か!? おそらく操縦士もいるだろうから、全員で4人か………!
転生者は基本的に、他の転生者と手を組むようなことは少ない。自分の地位を脅かしかねない存在だし、基本的に力を悪用するような馬鹿共にとって他の転生者は邪魔な存在なのだ。だから転生者と手を組むケースは少ない。
確かに、小型のハンドガン1丁で倒せるような相手ではない。それに相手のレベルもよく分からん。俺よりもレベルが上だったら弾丸が通用しない可能性もあるし、逃げようとしても戦車の中から飛び出す前に撃ち殺されるのが関の山だ。
くそ、彼らに従うしかないか………。
大人しく銃を下ろし、再びポケットの中に戻す。すると装填手の少年や砲手の少年も銃をホルスターへと戻してくれた。
「良い判断ね。………私はクラウディア・ルーデンシュタイン。そこにいるのがケーターで、そっちにいる小柄な子が
「おいおい、愛称で紹介すんなよ。せめて本名でだな………」
「あら、いいじゃないの。呼びやすい上に親しみやすいでしょ?」
「うーん………それで本名を覚えてもらえないっていうのも悲しいぞ?」
うん、確かにそれは悲しい。でもね、仲間にも男だっていう事を忘れられる方がもっと悲しいからな?
「それで、あなたの名前は?」
「………タクヤ・ハヤカワだ」
「「「えっ?」」」
………ん? 何で3人とも目を丸くしてんの?
あ、あれ………? もしかして、こいつらも俺の事女だと勘違いしてたの………?
「ちょ、ちょっと待って。………ねえ、ケーター。タクヤって日本(ヤーパン)の男の名前よね………?」
「あ、ああ。か、可哀そうになぁ。女の子なのに男の子の名前つけられて………」
いや、男だっつーの。
くそ、何で女だって間違えられるんだよ? ポニーテールのせいか? 顔つきのせいか? 髪型だったら頑張れば何とか男っぽい髪型にできるけどさ、顔つきはどうしようもないぞ? これは生まれつき決まってるわけだし………。
何で俺はこんなに母親に似てしまったんだろうか。
相変わらず女だと間違えられることを嘆いていると、走っていた戦車が急に止まった。操縦士の座席の方から誰かが立ち上がるような音が聞こえてきたかと思うと、突然その操縦士が車体の前の方から砲塔の方を覗き込み始める。
おい、ちょっと待て。何だあいつ。
なんか変な奴がこっちを覗き込んでるんですけど。迷彩模様のヘルメットと軍服姿で、しかも真っ黒なガスマスクを装着してるぞ。何だあいつ? 変態か?
「どうかしました? あっ、
だから男だっつーの!!
「き、木村。この子の名前タクヤだって………」
やたらと震えながら、そのガスマスクをかぶった変態に報告する
「あははははっ、男の名前を付けられてたんですか。それは可哀想に―――――――」
「あ、あのさ」
「「「「ん?」」」」
もう、暴露しよう。うん、その方が良い。俺が男だという事を暴露しないと、いつまでも俺はお嬢さん扱いだ。
「―――――――俺、男なんだ」
「………」
あ、
「う、嘘だろ………?」
「そんな美貌なのに男だなんて………」
「悪い事は言わないから、女として生きてみたら………?」
いや、それは断る。俺は男だ。ちゃんと息子を搭載している男です。
「そ、それよりさ、
「え? ………ぶ、
「大変! ケーター、エリクサーを!」
「ああ、もう! こいつお前の事が好みって言ってたんだぜ!? 責任取れ!!」
「取ってたまるか!!」
男に襲われてたまるか! 俺は男なんだよ!!
というか、さっきまでかなり真面目そうで強そうな雰囲気だったんだけど、俺が男だっていう事が発覚した瞬間に賑やかになったな、こいつら………。
それと、ショックを受けた人にエリクサーって効くの? 精神的なダメージには全く効果がない筈なんだけど………。
「ゲホッ、ゲホッ!!」
「
「く、くそ………おい、本当にお前男なのかよ!?」
「ああ、ちゃんと息子搭載してるぞ!?」
「ふざけんな! 明らかに顔つきが女だし、声だって高いじゃん! クランと変わんねえよ!」
「でも俺は男だ!」
「ち、ちくしょう………!」
「
「と、トラウマができた………」
トラウマを作っちゃったよ………。ごめん、
「ちくしょう………明らかにラノベのヒロインじゃねえかよ………!」
ふ、ふざけんな! 俺がラノベのヒロインってことか!?
だから俺は男だって言ってんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「ところで、タクヤちゃん?」
「男ですので君でお願いします」
「ああ、うん。タクヤ君」
ありがとう、クランさん。
「あなたのファミリーネーム………ハヤカワって、あなたはリキヤ・ハヤカワの関係者?」
「………」
やっぱり、彼女は手強いかもしれない。俺は嗤うのを止めると、息を吐いてから彼女の顔を見上げる。
どうやら親父は思った以上に有名だったらしい。まあ、転生者たちの間で転生者ハンターの噂が有名になっているという証拠なんだろう。効率が悪いとはいえ、親父のやり方は効果があったみたいだ。
「………息子だよ。俺はあの魔王様の息子さ」
「転生者の子供………!?」
転生者に子供がいるというのは、珍しい話ではない。しかしその子供たちがちゃんと結婚して家族となった両親の間に生まれた子供かという事になると、一般的な意味での〝子供”の数は少ない。おそらく俺とラウラやノエルくらいだろう。
第一、家庭を作る転生者が少ない。大概は好き勝手に人々を虐げ、購入してきた奴隷と〝うっかり”子供を作ってしまうケースだ。
だから俺たちみたいな子供は、基本的にあまり前例がないという事になる。
「というか、親父を知ってるのか?」
「ええ。転生者なら大体知ってるわ。………最強の傭兵ギルドの長で、数多の転生者を殺してきた
「………ああ」
だからこそ、あの親父は最強の転生者と呼ばれる。今のあいつの〝魔王”という称号には、転生者から恐れられている存在という別の意味もあるに違いない。
良かったな、親父。あんたの戦いにはちゃんと意味があったよ―――――――。