異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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スオミの槍が着弾するとこうなる

 チャレンジャー2を放棄したナタリアたちは、レオパルト2A4と合流してから得物を受け取り、戦車の随伴歩兵として奮戦を続けていた。既にデーモンやグールに甚大な大損害を与えるほどの奮戦を続けているのだが、まだかなりの物量だった敵の生き残りは多い。

 

 しかも、戦車が随伴歩兵のために速度を落としたことによって、後方に置き去りにしてきたグールたちも少しずつ戦車に追い付き始めたのである。前方や側面にはデーモンの生き残りが残っており、後方からはグールの突撃。包囲網が形成されつつあるが、強力な戦車砲を持つ主力戦車(MBT)を包囲するならばもっと防御力のある怪物を配置するべきだろう。いくら強靭な肉体を持つ打たれ強い怪物とはいえ、その防御力を発揮しているのは所詮表皮や分厚い筋肉である。防御力の秘密がそれらである以上、120mm滑腔砲を防ぎ切ることはまさに不可能と言えた。

 

 案の定、またしても形成炸薬(HEAT)弾の一撃がデーモンの首に喰らい付いた。瞬く間に喉元にめり込んだその砲弾は、瞬時に膨れ上がると、デーモンの喉をメタルジェットで貫き、更に爆風で抉り取る。山羊にも似た頭があっさりと砕け散り、爆風に焦がされながら巨躯が崩れ落ちていく。

 

 仲間がやられても、グールやデーモンは怯える様子はない。人間の怨念によって形成されている彼らが怯えることはないのだ。仲間が死んで怯えるのではなく、むしろ憎悪を増幅されて襲いかかってくる。それゆえにデーモンやグールは逃げることはないのである。

 

 PP-2000で後方へと弾幕を張りつつ、そろそろRPG-7V2の対人榴弾でグールの群れを吹き飛ばしてやろうかと思っていたナタリアは、SMG(サブマシンガン)を腰へと下げ、背中に背負っていたロケットランチャーへと手をかけようとした。しかし、まるで無駄弾を使うなと言わんばかりに耳に装着していた小型無線機からアールネの野太い声が聞こえてきたため、彼女はロケットランチャーで一網打尽にする事を断念する羽目になる。

 

『おい、ナタリア!』

 

「アールネ? どうしたの?」

 

『そこにいる転生者たちと一緒に、早くその辺から離れろ! スオミの槍が発射された!』

 

「………砲弾は?」

 

『聖水榴弾! とにかく逃げろ!!』

 

 取り乱さずに砲弾の種類を聞き出す事ができたのは、何度も実戦を経験して冷静さに磨きがかかっていたという事なのだろう。以前までの彼女であれば、砲弾の種類も聞かずに取り乱し、そのまま仲間に退避するように伝えていたかもしれない。

 

 急いで退避することも重要だが、砲弾の種類によって攻撃範囲や貫通力も異なる。榴弾のようなタイプならば爆発の範囲が広いため遠くまで逃げなければならず、徹甲弾のようなタイプならば貫通力はある代わりに爆発の範囲は狭いため、それほど遠距離まで逃げる必要はないのである。

 

 聖水榴弾は榴弾の一種で、やはり爆発範囲は広い部類に入る砲弾だが、殺傷に使うのは通常の榴弾のような爆風ではなく、吸血鬼やデーモンなどに有効と言われている聖水である。砲弾の内部には炸薬と聖水が内蔵されており、爆発した瞬間に内部の聖水が広範囲にばら撒かれる仕組みになっている。

 

 人間には全く害がないが、聖水は吸血鬼たちにとっては強酸性の液体に等しい。身体に付着すればたちまち肉や骨が溶けてしまうほどだ。しかし人間に害がないとはいえ、爆発の際の衝撃波は人間を吹き飛ばし、戦闘ヘリを地面に叩き落とすには十分すぎるほどである。

 

「戦闘中止! クランちゃん、聞こえる!?」

 

『どうしたの?』

 

「今すぐ戦闘を中止して! 味方からの支援砲撃が来るわ!」

 

『あらあら、ビビってるの? このヴァイスティーガーが支援砲撃ごときでやられるわけないでしょ?』

 

 確かに、複合装甲で守られた最新の戦車ならば、支援砲撃が直撃しない限り破壊されることはないだろう。しかも、味方からの支援砲撃である。前線の仲間を巻き込まないように配慮するのが当たり前だ。

 

 だが、それは通常の支援砲撃を想定した場合である。スオミの里に配備されているスオミの槍は、軍隊に配備されているような自走砲とはまさに別格なのだ。

 

「何言ってるの!? 巻き込まれるわよ!?」

 

『だから、支援砲撃くらいで―――――――』

 

「馬鹿、46cmよ!?」

 

『えっ、何が?』

 

 スオミの槍の口径を教えたことで、戦車の防御力に自信を持っていたクランが揺らいだ。

 

「だから、砲弾! 46cm砲なの!!」

 

『………そ、それって日本(ヤーパン)の大和と同じ………?』

 

『そ、そうだな。戦艦大和の主砲と同じだ………』

 

 一般的な戦車砲と同じ120mm弾であれば、まだ耐えることはできただろう。しかしあの戦艦大和の主砲と同じサイズの砲弾が、成層圏から垂直に落下してくるのであれば、いくら最新の戦車でも一撃で確実にスクラップと化すことは想像に難くない。

 

 走行する戦車の上に飛び乗ったナタリアの無線機からは、早くも狼狽を始めるクランやケーターたちの声が聞こえてきた。

 

『ちょ、ちょっと、何なの!? 46cm砲!? 何を要請してるのよ!?』

 

『木村、急いで逃げろぉッ!! 46cm砲の支援砲撃が来るぞぉっ!!』

 

『う、嘘ぉ!? 何それ!? えっ、何!? 何なのそれぇっ!?』

 

『別格じゃん! 木村、急いで逃げろ!』

 

「待って、まだタクヤたちが戦ってる!」

 

 このまま逃げれば、砲弾の爆発の範囲外へと逃げることはできるだろう。しかし、まだ砲弾が着弾する予定の地点では、まだタクヤとラウラが吸血鬼と戦っているのである。

 

 逃げる前に、まずあの2人を回収しなければならない。

 

 後ろを振り向いながら、ラウラは砲塔のハッチを開けた。たちまち狼狽する少年たちのやかましい声が溢れ出したが、彼女は顔をしかめながら手を伸ばしてクランの肩を叩く。

 

「早く、引き返して! 仲間がまだ残ってるの!!」

 

「当たり前じゃない! 仲間は見捨てないわ!! 木村、Uターンしなさい!!」

 

「え、逃げるんじゃないの!?」

 

「仲間を回収してから逃げるわ! 着弾までの猶予は!?」

 

「待って。………スオミ司令部、着弾までの時間は!?」

 

『――――――およそ230秒!』

 

「了解! この速度なら間に合うわ! お願い!!」

 

「了解(ヤヴォール)、お嬢さん(フロイライン)!! 木村、引き返しなさい!!」

 

「や、了解(ヤヴォール)!!」

 

 聖水榴弾の弾着まで、あと230秒。

 

 反転する戦車の上で、ナタリアは息を呑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギエェェェェェェェェェェェェェッ!!』

 

「しぶといな………くそったれ」

 

 もう、再生する速度はかなり遅くなっている。このまま奴に風穴を開け続ければいずれ動かなくなるのは明らかだが………砲弾が着弾するまでに決着をつけるのは難しいだろう。

 

 先ほどのHQ(ヘッドクォーター)との通信は聞いていた。だから、スオミの槍が実戦に投入されるという事も把握している。俺の持つポイントの大半を消費して設置された46cm砲が、ついに異世界で火を噴いたのだ。

 

 弾着までの時間は残り230秒。約4分か………。どうやらナタリアたちが迎えに来てくれるみたいだが、俺たちももう戦闘を止めて逃げた方がいいかもしれない。こいつを始末する事ができても、自分が用意した兵器の一撃で吹っ飛ばされるのはごめんだ。

 

 ラウラのアンチマテリアルライフルで下半身を吹き飛ばされた吸血鬼は、もうゾンビのような姿になっていた。聖水の入った対吸血鬼手榴弾で皮膚はいたる所が溶けており、顔の左半分はまだ再生の途中だ。腰から下を20mm弾で食い千切られてもまだ俺たちを殺そうとする執念にはぞくりとしてしまうが、その執念はあと230秒で消え失せる。

 

 聖水を内蔵した1発の砲弾が、こいつの狂気と殺意を消滅させる。今頃成層圏を飛んでいる最中だろうか。

 

 コートの内ポケットからCz2075RAMIを取り出し、傍らに落ちている剣を拾い上げようとする吸血鬼の眉間に、引導を渡すかのように9mm弾を撃ち込む。ゾンビのようになっている彼の眉間に風穴が開き、美しかった青年の吸血鬼の頭ががくんと揺れる。後頭部から貫通した銃弾と血肉をまき散らしながら動かなくなった彼を一瞥しながら、俺はハンドガンを内ポケットに戻した。

 

「ラウラ、逃げよう」

 

「うんっ!」

 

 聖水榴弾は、爆風の代わりに聖水をまき散らす対吸血鬼用の砲弾である。有事の際はスオミの里にも支援してもらおうと配備しておいた砲弾だが、まさか記念すべき実戦での最初の砲弾が一番用途が少ない砲弾になるのは予想外だった。

 

 しかし、デーモンやグールも聖水を苦手としている。着弾すればこの周囲にいる敵は全滅する事だろう。だが、逃げ遅れればおまけに俺たちまで全滅してしまう。

 

『タクヤ、聞こえる!?』

 

「ナタリアか!」

 

 武器を背負って逃げる準備をしていると、耳に装着していた無線機からナタリアの声が聞こえてきた。どうやらもう戦車の上でタンクデサントしているらしく、聞き慣れた戦車のエンジン音まで聞こえてくる。

 

『こっちよ、早く!』

 

 唐突に、今度は雪の降り注ぐ空の真っ只中に真紅の閃光が煌めいた。おそらく彼女に渡しておいたカンプピストルの信号弾だろう。ピストル程度の大きさのグレネードランチャーのような得物だが、支援砲撃や航空支援の際の事も想定して信号弾も発射できるように改造してあるのだ。

 

 ナタリアに渡したのは、彼女が戦車を指揮する事が多いためである。

 

 彼女の閃光のおかげで、仲間の位置も把握できた。耳を澄ましてみると、確かに信号弾が打ち上げられた方向からは戦車のエンジン音やキャタピラの音が聞こえてくるし、グールたちを迎え撃つ仲間たちの銃声も聞こえてくる。発達したキメラの聴覚でなくても聞き取れる音だ。

 

 武器を背負い、信号弾が打ち上げられた地点まで全力疾走する。必死に雪に覆われた斜面を蹴り、血で真っ赤に染まった雪原を置き去りにしながら走り続ける。

 

 降り注ぐ雪の向こうに、段々と銃口で煌めくマズルフラッシュの輝きが見えてきた。太陽のようなはっきりした光ではなく、雪のせいでぼんやりとしている光を見た俺は、前世の世界で夏に何度も目にした蛍の群れを目にしたことを思い出してしまう。

 

 虐待を繰り返すクソ親父から逃れる事ができた季節は夏くらいだっただろう。その夏の夜に、よく母は俺を連れて祖父と祖母の住む家へと連れて行ってくれた。

 

 傷だらけになった俺の顔を見る度に離婚を奨める祖父と母の話し合いを聞きながらの生活だったけど、あんな家で生活するのと比べれば楽園だった。小さなスーパーくらいしかない田舎だったけど、俺はあの田舎で過ごすのが好きだったんだ。

 

 蛍を見たのも、そんなお盆の夜だったか………。

 

 物騒なマズルフラッシュから幼少の頃に見た光景を連想しているうちに、雪の中にシュルツェンを装着した無骨な戦車の輪郭が浮かび上がった。まるで雪に溶け込むことを望んでいるかのように真っ白な装甲は所々鮮血で汚れており、砲塔の上に配置されているMG3はひっきりなしに火を噴き続けている。その傍らでは、真っ白な防寒着に身を包んだ歩兵たちが接近してくるグールを片っ端から蹂躙していた。

 

 ああ、仲間たちだ―――――――。

 

 腰に下げていたAN-94を取り出し、セレクターレバーを2点バーストに切り替える。近距離での射撃になるからタンジェントサイトの調整は必要ない。隣ではラウラも同じくグローザを引き抜き、射撃の準備をしている。

 

 お互いの顔を見つめて同時に頷き―――――――俺たちは銃を構えながら、駆け出した。

 

 彼女が何をしたいのか、分かる。

 

 銃口を上げ、戦車に殺到していたグールを背後から撃ち抜く。干からびた肉片を舞い上げながら崩れ落ちるグールを蹴り飛ばし、背後の敵に気付いたグールの顔面を、回転しながら振り回した銃床で打ち据える。

 

 隣にいたラウラもブーツのかかとの辺りに装着されたサバイバルナイフを展開し、蹴りを放つかのようにナイフを振り上げる。みし、と刀身がグールの首筋に食い込み、まるで斧に割られる薪のようにあっさりとグールの頭が弾け飛ぶ。

 

「ナタリア!」

 

「2人とも、早く!!」

 

 背後から剣を振り下ろそうとしていたグールをCz75SP-01で撃ち抜き、またグールを蹂躙する。2人で一緒に飛び乗れば隙ができてしまうため、最初はラウラに乗ってもらうとしよう。お姉ちゃんだし、親父や母さんからは紳士的な男に育てと小さなころから言われていたからな。

 

 レディーファーストだぜ、お姉ちゃん。

 

「タクヤ、早く!!」

 

「おう!」

 

 ラウラが伸ばしてきた手を握りながら、俺も戦車の車体をよじ登る。シュルツェンの上に足をかけて車体の上に飛び乗った俺は、まだ俺たちを切り刻むために殺到するグール共を見下ろしながら銃口を向け、セレクターレバーをフルオートに切り替えた。

 

「いいわよ!」

 

「木村!」

 

『了解(ヤヴォール)!!』

 

 さあ、あとは逃げるだけだ!

 

「HQ(ヘッドクォーター)、着弾までの時間は!?」

 

『あと170秒! 退避急げ!』

 

 170秒以内に爆発する範囲の外に逃げられるのか………?

 

 不安になる俺たちの頭上を、2機のコマンチとブラックホークが通過して行った。どの機体にもスオミ支部のエンブレムが描かれており、ブラックホークのキャビンの中からはアールネと思われる戦士が俺たちに手を振っている。

 

 どうやらニパたちの救出は成功したようだ。コマンチ1機が大破し、チャレンジャー2は放棄か………。

 

 あ、そうだ。今のうちにチャレンジャー2を装備から解除しておこう。そうすれば聖水榴弾の衝撃波で吹っ飛ぶことはないし、12時間経過すればまた乗れるようになる。すっかり大破してしまったコマンチは作り直すしかないが、チャレンジャー2はまだ大破を免れることは出来そうだ。

 

 メニュー画面を開くと、いきなりレベルが上がったというメッセージが表示された。くそ、今は戦車を装備から解除したいだけなのに………!

 

 何度もタッチを繰り返してメッセージを消し、装備している兵器の一覧の中からチャレンジャー2を選択する。スラット・アーマーは砲塔や車体の脇に増設したものが大破しており、正面の爆発反応装甲もいくつか台無しになっているが、小破程度の損害だ。燃料と砲弾さえあれば、整備無しでそのまま戦えそうな状態である。

 

 複合装甲を増設しておいてよかったと安堵しながら装備から解除したその時だった。

 

 べちん、と湿った何かが車体に叩き付けられたような音がして、俺ははっとしながら後ろを振り向いた。まだ追いかけてくるグールをMG3の掃射で引き離していた仲間たちも、7.62mm弾のベルトの再装填(リロード)を一旦止めて訝しむ。

 

 ちょっと待て。何の音だ………?

 

 まるで水で濡れたタオルを、思い切り車に放り投げたような音だった。

 

 目を細めながらハンドガンを抜き、音の聞こえてきた方向を見下ろす。聞こえてきたのは車体の右側後部だ。シュルツェンが装着されている辺りである。

 

「今の音は何………?」

 

「待ってろ」

 

 Cz2075RAMIを構えながら、俺はその音が聞こえてきた右側の後部をゆっくりと覗き込んだ。千切れ飛んだグールの肉片でも飛んできたのだろうかと思ってたんだが―――――――それの正体を目にした瞬間、俺は息を呑む羽目になった。

 

 シュルツェンの縁に、ピンク色のロープにも似た何かが絡み付いていたのである。最初は本当に肉片かと思ったんだが、グールの肉片はもっと干からびている。それに対してその肉のロープのような物体の表面は湿っていて、戦車のキャタピラの跡が刻まれた後方へとずっと伸びていた。

 

 何だこれ? まさか、腸か………!?

 

「うえっ………!」

 

 マジかよ。戦車の装甲に腸が絡み付いてやがる!

 

「クソキメラがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

「―――――――やれやれ」

 

 しつこい奴だ。

 

 ハンドガンを内ポケットに戻しながら、俺は肩をすくめつつ後方を見据えた。

 

 雪が降っているせいで後方はあまり見えない。戦車を追っていたグールやデーモンも、もう雪のせいで見えなくなっている。だから後方を振り向けば真っ白な空間が広がっている筈だったんだが―――――――そのスクリーンにも似た真っ白な空間の中に、人影のようなものが浮かび上がっている。

 

 装甲に絡み付いているグロテスクな腸は、その人影の腹部から伸びていた。

 

「逃がすかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! てめえらは、この俺が殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!」

 

「ふにゅう………しつこい上にキモいね」

 

「まったくだ」

 

 お前は俺たちにフラれたんだよ。大人しく雪の中で寝てろ。

 

 背中に背負っていたOSV-96を取り出し、折り畳まれていた銃身を展開する。元々は12.7mm弾を発射するようになっていたアンチマテリアルライフルだが、銃身や内部を改造したことによって14.5mm弾を連射できるようになった強力な銃である。人間に命中すれば、一撃で木端微塵になるだろう。

 

 俺の隣では、ラウラがダネルNTW-20をを取り出しているところだった。こちらは俺の銃と違ってボルトアクション式であるため、発射する度にボルトハンドルを引く必要があるが、発射する弾薬は俺の14.5mm弾よりも遥かに破壊力のある20mm弾である。弾薬にもよるが、人間どころか装甲車を相手にするのにも十分な破壊力を持っている。

 

 爆走する戦車の上で、俺とラウラは同時に銃口を人影へと向けた。もちろん、俺たちの銃に装填されているのは通常の弾薬ではなく―――――――対吸血鬼用の銀の弾丸だ。

 

 さあ、あのキモいストーカーにお見舞いしよう。

 

「今は昼間だぜ」

 

 そう、まだ昼間だ。まだ吸血鬼の時間じゃない………。

 

 夜更かししちゃダメだろうが。

 

「――――――――眠ってな、吸血鬼(ヴァンパイア)」

 

「――――――――おやすみなさい」

 

 標的までの距離は、僅か150m。幼少の頃に魔物を相手にしていた時よりも近い上に、標的はこっちに向かって走っているだけだ。命中させるのは朝飯前である。

 

 スコープのカーソルに照準を合わせ―――――――俺とラウラは、トリガーを引いた。

 

 さようなら、吸血鬼(ヴァンパイア)。

 

 吸血鬼が苦手とする2発の銀の弾丸が、カーソルの中心へと向かって疾駆していく。微かに炎をまだ纏ったその弾丸の煌めきは、やはり前世で目にした蛍のように見えた。

 

 弾丸が灼熱の軌跡を雪の中へと残し、グロテスクな腸の伸びる人影へと向かっていく。

 

 スコープの向こうで、弾丸に気付いた吸血鬼が目を見開いたのが見えた。今度被弾すれば再生できないかもしれない。再生能力を身に着けているせいで攻撃を喰らって死ぬ恐怖を味わったことがなかったのだろうか。

 

 そして―――――――カーソルの真ん中で、真っ赤な物体が飛び散った。飛散した破片は瞬く間に雪の中へと降り注ぎ、装甲に絡み付いていた腸も溶けて後方へと置き去りにされていく。

 

『―――――――弾着まで、あと10秒! 9! 8! 7! 6! 5!』

 

 これで、山脈に出現したグールやデーモンたちは消滅する。あの吸血鬼がまだ再生する事ができたとしても、46cmの砲弾の中に詰め込まれた聖水の雨が、今度こそあいつに引導を渡してくれることだろう。

 

 だから、これで終わりだ。

 

 ―――――――眠れ、吸血鬼(ヴァンパイア)。

 

『4! 3! 2! 1! 弾着……今!!』

 

 スオミの槍の砲手が、着弾すると告げた直後だった。

 

 雪と風を突き破りながら―――――――――ついに、里の名前を冠した甲鉄の砲弾()が飛来する。

 

 成層圏を飛び、そこからヘリの誘導で垂直に落下してきた46cmの砲弾が、雪で覆われた山脈の斜面へと突き立てられる。一瞬だけ降り積もっていた雪が舞い上がって砲弾を包み込んだかに見えたが、次の瞬間には砲弾が爆ぜ、内蔵していた炸薬によって大量の聖水が衝撃波と共に解き放たれていた。

 

 衝撃波で雪が吹き飛び、荒れ狂うグールやデーモンたちが次々に聖水の餌食になっていく。デーモンの巨躯が一瞬で融解し、グールが聖水の波に呑み込まれて消滅していく。核兵器ではなく聖水を内蔵した榴弾だというのに、その衝撃波で舞い上がった雪が、まるでキノコ雲のような形を形成していく。

 

「終わりだ」

 

 蹂躙されるデーモンたちを一瞥した俺は、ライフルをゆっくりと下げながら踵を返すのだった。

 

 

 

 

 

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