異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
「悪いな、コルッカ。せっかく旅立ったばかりなのに………」
「気にすんなよ。こちらこそ、俺のせいで迷惑をかけてしまって………申し訳ない」
大破したコマンチの代わりに新しいコマンチを生産し終えた俺は、メニュー画面を閉じながらヘリポートの方へと搬入されていく新しいコマンチを見送っていた。相変わらず生産する際に必要になるポイントは他のヘリと比べると圧倒的に高く、大量に生産すればレベルが100を超えていてもたちまちポイントを喰い尽くしてしまうほどの高コストだが、性能は最高クラスである。大量に人員を配置できないスオミの里だからこそ、兵器の質をより重視する必要がある。
そう、彼らのためだ。そう思いながらポイントの残量を確認するけど………余裕のあったポイントが、今ではもう僅か5600ポイントしか残っていない。コマンチの生産に必要なのは9000ポイントなので、もし里の戦士がまたコマンチを大破させてしまった場合、俺がレベルを上げない限り配備は不可能となる。
しばらくは新しい装備は低コストの武器で我慢するか。第二次世界大戦以前の兵器や中国製の兵器はコストが低いから、レベルが上がるまではそういった兵器で乗り越えるしかなさそうだ。
「ニパとサシャの容体は?」
「ニパは肋骨と右腕の骨を骨折してたが、機内で飲ませたエリクサーでもう元通りさ。サシャも意識がついさっき戻ったらしい」
「なるほどね。………本当に申し訳ない、アールネ。俺のせいで………」
ニパとサシャが無事だったのは喜ばしい事だが、俺が雪崩に巻き込まれていなければ彼らを戦場に呼ぶ羽目にならずに済んだはずだ。あの戦いでの損害の責任は、俺にある。
「気にすんなって。こっちは実戦が経験できたし、お前のくれた兵器の力も目の当たりにする事ができたんだ。………これで、里は安泰だよ。お前たちのおかげでな」
「アールネ………」
大きな手をいきなり肩の上に置かれた俺は、びっくりして大柄なアールネを見上げた。今まで里の戦士たちを支えてきた彼の手は予想以上に大きく、がっちりしている。本当にハイエルフなのかと思ってしまうその手に肩を何度か叩かれた俺は、息を吐いてから苦笑いした。
あの雪山での戦いでは、こちらの損害は現状でコマンチ1機が大破し、2名が負傷という事になっている。恐ろしい吸血鬼だけでなく、無数のデーモンやグールが相手だったというのに損害がそれだけで済んだのだから、俺たちからすれば大勝利ということになる。
だが――――――損害が〝それだけ”と思うのは、間違いだ。あんな戦いで損害は出すべきではないのだ。
アールネは気にするなと励ましてくれたけど、あの戦いの責任は俺にある。
テンプル騎士団の規模を大きくするという事は、仲間に迷惑をかけることもあるという事になる。それに、今後は戦いの中で損害を出すことにもなるかもしれない。
やっぱり、組織を作るとなるとプレッシャーがかかるなぁ………。
「タクヤぁー! 出発するよー!!」
もう一度ため息をつこうとしていると、ヘリポートが建設されている炭鉱跡地の階段の上の方からやけに元気な少女の声が聞こえてきて、俺は口の中まで達していたため息を飲み込んでから手を振った。
「はーい!!………すまん、アールネ。そろそろ出発するよ」
「おう。みんなで見送った後にまた見送るのは変な気分だが…………達者でな、コルッカ」
「ああ」
「ほら、これ。雑貨屋の婆ちゃんからプレゼントだ」
「ん? …………サルミアッキ?」
「里の特産品だ。持って行きな」
「いいのか?」
「おう。俺やイッルも小さい頃からよく食ってた飴だよ」
サルミアッキか………。ステラは食べるかな?
彼からやけに大きな紙袋を受け取った俺は、礼を言ってからちらりと袋の中を覗き込んだ。膨らんでいた紙袋の中にはぎっしりと真っ黒な飴が詰まっている。山脈を越えるまでに食べきるのは不可能なんじゃないだろうか。
「ありがと、アールネ」
「おう。旅が終わったら遊びに来いよ。みんなで歓迎するぜ」
「ああ、そうするよ。………じゃあな」
サルミアッキがぎっしりと入った紙袋を抱えながら、俺はクレーターのようになっている炭鉱のヘリポートから上に上がる階段を登り始めた。雪が積もった階段で転ばないように気を付けながら駆けあがり、ちらりと後ろを振り返る。
ヘリポートで眠るコマンチが小さく見える。その周囲では機体のチェックをする整備兵や、荷馬車でロケットポッドを運ぶ人の姿も見えた。俺を見送ってくれたアールネはまだヘリポートの近くにいたけど、もう整備兵たちの手伝いを始めるようだ。
ヘリポートの傍らでたなびくテンプル騎士団の旗をちらりと見た俺は、前を向いて再び階段を駆け上がる。
雪に覆われた階段を登り切った先では、もう既に燃料と弾薬の補給が済んだチャレンジャー2と純白のレオパルトが停車し、俺の事を待ってくれていた。撤退する直前に装備から解除したことで辛うじて大破せずに生き残ったチャレンジャー2は、もう12時間経過したことで燃料と弾薬も補充されており、再び魔物が襲ってきても返り討ちにできるようになっている。とはいえ、あの雪山での戦いをまた経験するのはごめんだ。出来るならば敵と遭遇せずに突破したいものである。
「ふにゅ、それ何?」
「サルミアッキ。アールネからどっさり貰った」
ラウラに紙袋を渡し、チャレンジャー2を見つめる。デーモンの魔術で破損したスラット・アーマーや爆発反応装甲はもう修復が終わっており、主砲や機関銃にも弾薬はどっさりと用意してある。
車体の上によじ登った俺は、砲塔の前方から突き出ている砲身にそっと触れた。早くも薄い雪に覆われている砲身は、雪山での戦いの際よりも若干大型化されている。
実は、12時間経過するまでの間に主砲を120mmライフル砲から55口径120mm滑腔砲に変更しておいたのだ。ライフル砲とは違ってライフリングのない戦車砲であり、こちらの方が使用できる砲弾の種類が多いという利点がある。クランたちからもおすすめされたため、ライフル砲からこちらに変更することにしたのである。
砲身を撫でるように、そっと砲身の上の雪を払い落とす。白い雪の下からあらわになるのは、ホワイトとグレーの迷彩模様で塗装された長大な砲身だ。
さて、そろそろ乗るか。砲塔の上でまたタンクデサントする羽目になるのかと思ってため息をつき、砲塔の上へとよじ登る。腰を下ろす場所の雪を手で払い落していると、サルミアッキ入りの紙袋の中の臭いを嗅いでいたラウラが、砲塔の中へと入る前に俺の隣へとやってきた。コートの後ろから伸ばした真っ赤な尻尾を遊んでいる最中の子犬のように振りながら、俺の隣に腰を下ろす。
「ふにゃあ………タクヤが無事で本当に良かったよ」
「ごめんな、心配かけちゃって」
ベレー帽をそっと取り、ラウラの頭を撫でながら言う。彼女は尻尾を俺の身体に巻き付けると、目を細めながらゆっくりと俺に寄りかかってきた。
ふわふわした柔らかい赤毛が、冷たい風の中で俺の頬を撫で回す。
「もう、お姉ちゃんを1人にしちゃダメだからね?」
「うん、気を付けるよ」
「えへへっ♪」
ベレー帽を彼女の頭に戻すと、ラウラは物足りなさそうな顔をしてから静かに身体と尻尾を離し、俺の頬にキスをしてから立ち上がった。
「寒くなったら、中で休んでもいいからね?」
「分かった。凍えそうになったらお邪魔するよ」
「うんっ。お姉ちゃん、待ってるから」
ウインクしてからハッチを開け、砲塔の中へと消えていくラウラ。これから彼女は再び操縦士の座席に座り、ドーザーブレードを搭載したチャレンジャー2の操縦をするのだ。タンクデサントする俺も大変なことになるけれど、彼女も大変なんだろう。
場合によっては俺が操縦を変わろう。俺も訓練はやった事があるから戦車の操縦はできる。もちろん、その間はラウラには休んでもらう。彼女をタンクデサントさせるわけにはいかないからな。
砲塔の後ろに腰を下ろし、雪崩に巻き込まれてもまた遭難しないように買ってきたロープを取り出す。砲塔側面のスラット・アーマーにロープを結び付け、反対側を自分の腰に巻きつけた俺は、解けないか確認してから砲塔の後ろに腰を下ろした。
チャレンジャー2の後方では、車体の前方にあるライトを点灯させたレオパルト2A4がエンジンを始動させ、出発を待っている。砲塔の上には車長用のハッチから身を乗り出したクランがいて、俺たちに手を振っていた。
『ヴァイスティーガーより〝
出発が待ち遠しいのか、クランから連絡が入る。砲塔の上では強気な彼女がニヤニヤしながら言っているんだろうなと思いつつ、俺は「こちらドレッドノート。もう出発ですので大丈夫ですよ、
彼女たちの乗るレオパルトには、『
その名前が―――――――
それに、昔のイギリスの戦艦の名前にもなっている。チャレンジャー2もイギリスの戦車だからぴったりだ。
『お待たせ、クラン。出発するわよ』
『待ってましたー! 木村、出発よ!』
『了解(ヤヴォール)。みんなでまた山登りですね!』
『風邪ひかないでね、
「はいはい」
まったく………。
何だか、俺って異名とか愛称がバラバラだよな………。アールネたちからは〝コルッカ”って呼ばれるし、クランからは〝ドラッヘ”って呼ばれてる。そのうち混乱するんじゃないだろうか。
苦笑いしながら待っていると、
どうやらクランたちもあの山脈の反対側に用事があるらしく、シベリスブルク山脈を越えるまでは同行してくれるらしい。
それにしても、彼女たちみたいな転生者は珍しい。他の転生者と違って人々を困らせることはないし、むしろ逆にそのような事をやっている転生者を一度だけ倒した事があるという。
転生してから力を悪用することなく、俺たちと価値観が近い存在。しかも戦闘力も極めて高い。…………できるならばクランたちもテンプル騎士団に勧誘したいところだが、彼女たちは加入してくれるだろうか。
「タクヤ」
「おう、ステラ」
パタン、と装填手用のハッチが開いたかと思うと、装填手を担当するステラがハッチから顔を出した。背伸びして身を乗り出した彼女は、車内から水筒を取り出して俺に渡してくれる。
何かを咀嚼してるみたいだが、何か食べてるのかな? そう思いながら熱々の紅茶の入った水筒を受け取ると、ステラはハッチの縁にアールネから貰ったサルミアッキの袋を置き、その中へと小さな手を突っ込んだのである。
そのまま真っ黒な飴を鷲掴みにし、黙々と口に運んでいくステラ。仲間たちは長老の家に呼ばれた時以来あまり食べていないが、ステラはサルミアッキが気に入ったのだろうか。
「これ、美味しい飴です」
「………い、いっぱいあるからな」
「はい。ところで、この飴って他の街の売店でも売ってるんでしょうか?」
「どうなんだろう? 王都では見かけなかったけど………スオミの里の特産品だし、ここまであまり商人は来ないから取り扱ってないかも…………」
「…………ッ!? タクヤ、それは大変です! 今すぐ引き返して買い占めてきましょう!!」
「落ち着きなさい。袋の中にたっぷりあるでしょ?」
「これじゃ足りません!」
えぇ!? ちょっと待って!? どっさり食材が入った買い物袋くらいの大きさの紙袋だぞ!? その中にアサルミアッキがどっさり入ってるんだぞ!? そ、それでも足りないの!?
「き、きっと他の街でも取り扱ってるって…………」
「うぅ………では、他の街で買い占めましょう」
「旅費を考えて下さい、ステラさん」
あのね、ダンジョンを調査した報酬はちゃんと受け取ってるし、まだ闘技場で優勝した賞金は残ってるから現時点では問題ないけど、今のところ出費の大半を占めてるのは宿泊費とステラの食費なんだぞ?
サキュバスの主食は魔力だから、普通の食べ物を食べても満腹感は全く感じないという。しかも高カロリーの食べ物を大量に食べても太ることはないという。女子にとっては夢のような体質かもしれないけど、ちゃんと食べ物は胃で消化してるんだろうか。
「タクヤ、買い占めてはいけないのですか?」
「いや、他にも買う人がいると思うし………」
「何を言っているのです。タクヤは甘すぎますっ」
「え?」
「冒険者たるもの、成果は早い者勝ち。ですので買占めは問題ありません。早い者勝ちですっ」
そ、そんなに気に入ったのか。
「わ、分かったって。見かけたら買っておくようにするから」
「ふふっ、ありがとうございます。ステラはタクヤが大好きですっ♪」
「………」
随分と感情豊かになったなぁ………。
満足したように笑ってから俺にウインクして戦車の中へと戻っていくステラ。彼女と出会ったばかりの頃の事を思い出し、今しがた見せてくれた笑顔も思い出した俺は、息を吐いてから笑った。
その巨大な鐘の音は、帝都中に広がっていた。
大昔からずっと帝都のほぼ中心に鎮座し続ける巨大な時計塔。21年前のある傭兵と吸血鬼の戦いで倒壊してしまったが、その戦いが終わってからは国中の職人たちが帝都に集まり、復元作業に精を出していた。彼らのおかげで倒壊前と全く変わることのない新しい時計塔が生まれ、ここで鐘の音を奏で続けている。
今では最上階にある展望台は閉鎖され、定期的に点検を実施する作業員以外は立ち入れないようになっている筈なのだが―――――――その展望台には、人影があった。
夜空に姿を現した三日月の下で、その人影は静かに佇んでいた。窓ガラスの向こうに浮かぶ三日月を無表情で見上げながら、背後で響き渡る大きな鐘の音を聞き続けている。
かつてその女性は、奴隷であった。人間の商人によって捕らえられ、本来の〝主食”を全く与えられることなく檻の中で売り物にされていたという屈辱は、今でも人間を憎む動力源となっている。カビの生えたパンや残飯をかき交ぜたようなわけの分からない味のスープを食べさせられ、ボロボロの服を着せられたまま牢屋で過ごしていたあの頃は、人間に復讐しようと思う事は全くなかった。あんな醜態を晒し続けながら生き続けるのならば、殺して欲しいと常に思っていたのである。
彼女は、そういう種族なのだから。
しかし――――――ある客が、彼女を救ってくれた。
檻を強引に開け、彼女に血を与え、逃がしてくれたのである。
彼女にとってその男は、まさに命の恩人であった。崩壊していくプライドを再生させ、人間たちに逆襲するための力までプレゼントしてくれたその命の恩人を、彼女は今でも崇拝している。
だが――――――――その命の恩人は、もうこの世を去ってしまった。
正確に言えば―――――――殺されたのだ。元々は人間だった、〝
その怨敵を思い出すたびに彼女の美しい真っ赤な唇は吊り上がり、金塊を糸にしたような綺麗な金髪が震える。命の恩人であった男はその最期で満足していたのだろうが、彼女は全く満足していない。恩返しすらできていなかったというのに、尊敬する男を奪われた挙句、恩を返す機会まで奪われてしまったのだから。
だから―――――――男と、その機会を取り戻す。
それが彼女の願いであった。
「―――――――カーミラ様」
鐘の音の残響が消えると同時に、彼女の背後で跪いた金髪の男性が彼女を呼ぶ。漆黒のスーツに身を包み、シルクハットをかぶったその男性は一見すると紳士のように見えるが、跪いたまま報告する彼の唇からは鋭い犬歯が覗いている。
その犬歯こそ、彼女の同胞の証である。
「どうしたの?」
「………ユーリィの奴が、死にました」
「………そう。負けたのね、あの子は」
「はい。殺したのは――――――――」
「――――――忌まわしいキメラということね」
ユーリィはまだ若い吸血鬼だった。古参の吸血鬼の言う事を聞かない問題児だったが、数少ない同胞の1人であったし、実力者でもあったためカーミラやヴィクトルも認めていた。
しかし、彼も敗北してしまった。彼を殺したのは――――――カーミラの命の恩人である、レリエル・クロフォードを葬った怪物の子供たち。
またあの一族が、同胞の命を奪った。
窓の外を見つめながら、カーミラは無意識のうちに歯を食いしばっていた。
「………残念だわ。でも、最後の鍵は我々が持っている」
「ええ。これでレリエル様が復活してくだされば、ユーリィも報われることでしょう」
「そうね」
ゆっくりと、カーミラは報告してくれたヴィクトルの方を振り返る。
その姿は―――――――21年前と全く変わっていない。
真っ白なマントの付いた服に、純白の帽子。美しい金髪と共に揺れるのは、純白の百合の花を形をした綺麗な髪飾りだ。姿は17歳前後の少女のように見えるが、彼女の放つ雰囲気は少女と思えないほど凛々しく、気高い。
「さあ、キメラとの戦争が始まるわよ、ヴィクトル。同胞を集めなさい」
「御意」
静かに展望台を後にしたヴィクトルを見送ったカーミラは、再び月を見上げ始める。
(待っていてください、レリエル様。必ずや復活させて差し上げます)
この世を去った主君の顔を思い出しながら、『アリア・カーミラ・クロフォード』は静かに唇を噛み締めた。