異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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塔の正体

 

「燃えろっ!」

 

 ピアーシング・フレイムの蒼い炎が、またしても壁から姿を現したスライムの亜種へと襲い掛かった。泥と粘液を混ぜ合わせたような気味の悪いスライムは、瞬く間に炎に包み込まれたかと思うと、そのまま炎で水分を容赦なく蒸発させられ、乾燥した泥のように真っ白に干からびていった。

 

 塔の調査を始めてからもう1時間ほど経過しているだろうか。燃え上がるスライムの死体を見下ろしながら背負っていたモスバーグM500を構えつつ、砂と泥の臭いのする空気を吸い込む。

 

 やはり塔の中には何体かスライムの亜種が潜んでいたが、もう最上階まで到達したというのに合計で6体しか倒していない。レベルを上げられるような数の敵が潜んでいなかったのはがっかりだが、おかげで調査は思ったよりも進んでいる。

 

「ふー………。スライムは厄介だな………」

 

「そうですわね………。銃弾が通用しないのは辛いですわ」

 

「タクヤ、銃で倒す手段はないのですか?」

 

「弾薬を変えれば通用する可能性はあるけど………」

 

 スライムの弱点は基本的に炎や雷などだ。特にあらゆる種類のスライムが苦手とするのは高温であるため、炎属性が最も有効であるとされている。

 

 そのため、使用する弾薬も高温を発するタイプの弾薬に変更すれば対抗できる可能性はあるだろう。例えば、俺の装備しているショットガンならば『ドラゴンブレス弾』という弾薬を使用すれば、スライムを撃破することはできるかもしれない。

 

 ドラゴンブレス弾とは、要するに炎を纏った散弾のようなものだ。炎を纏った灼熱の散弾であるため、高温を苦手とするスライムに命中すれば彼らの粘液をある程度蒸発させられるだろう。さすがに一撃で撃破は出来ないかもしれないが、通用する可能性はある。

 

 他にも機関銃ならば焼夷弾があるし、グレネードランチャーなどの武器ならば白燐弾がある。それに、火炎放射器や火炎瓶も有効だろう。どれも高温を発する兵器だし、命中させられればたちまち蒸発してしまうに違いない。

 

 今はまだポイントが少ないし、できるだけ節約したかったので魔術を使いながらここまで調査を続けてきたけど、今後はそういった兵器を投入する手もあるな。特に弾薬だけを変える場合はポイントも少数で済むし。

 

『こちらヴァイスティーガー。そっちの様子はどう?』

 

「スライムの亜種がいたけど、ほんの少数だ。損害無し」

 

『現在地は?』

 

「最上階。今から奥にあるフロアを調査する」

 

『了解。ねえ、こっちもそっちに行っていい? 待ちくたびれちゃった』

 

 まあ、最上階以外のフロアはきっちりと調査したし、敵が残っていないのもラウラのエコーロケーションで確認しているから問題ないだろう。トラップらしきものも見当たらなかったし、老朽化して崩落しそうな場所もなかったから安全だ。

 

「いいぞ。ただし、一応武装しとけよ」

 

『了解(ヤヴォール)、ドラゴン(ドラッヘ)

 

 さて、彼女たちが登ってくる前に奥のフロアを調査してしまおう。

 

 最上階以外の場所は全て調査してきたんだが、どうやらここは修道院のような施設だったと思われる。最初は大昔の砦か城の一部なのではないかと思っていたんだが、砦や城にしては防衛用の設備が設置されていた形跡がないし、1階の雰囲気も教会や修道院のような感じだった。

 

 それに、城の一部ならば他の部分も近くにある筈だ。砂の中に埋まってしまっている可能性はあるけれど、もし他の部分がすべて埋まっていて、この塔の部分だけが露出しているのだとしたら、明らかにこの塔だけ高いアンバランスな城だったことになる。それに周囲は岩山で囲まれているから、城壁を立てる余裕はなかったはずだ。その岩山を城壁代わりにしていたのだとしても、他の部分を建てるスペースがあったとは思えない。

 

 最上階へと続いていた階段のすぐ目の前には木製の大きな扉がある。貴族の屋敷にあるような過剰に飾り立てられた扉ではなく、ただ単に金具と木材を組み合わせただけの質素な扉だ。まあ、かなり昔に建てられた建物だから扉も穴が開いており、表面はかなり荒れてしまっている。かつてはこの扉も派手に飾り立てられていたんだろうか。

 

 いきなり扉を開けずに、俺はショットガンを構えながらそっと近づいた。他の仲間たちは俺が蹴破った直後に突入できるように、P90を構えながら準備している。

 

 ちらりと扉を支えている金具を確認する。扉そのものは反対側が見えない程度の穴が開いているが、金具の方はかなり錆びついている。ショットガンで破壊する必要はないだろう。キメラの脚力と俺の攻撃力のステータスならば薄氷を踏み抜くようなものだ。

 

「ラウラ、向こうに敵は?」

 

「気配はないよ。スライムの反応もない」

 

 敵はいないか………。だが、ラウラのエコーロケーションでも擬態している敵を見抜くことは出来ない。正確に言えばその擬態している敵も探知することは可能だけど、肝心なラウラはその擬態している敵を〝敵”ではなく、その索敵範囲内の〝風景の一部”として認識してしまうため、彼女の索敵で擬態を見破るのは不可能なのだ。

 

 例えば敵が木に擬態している場合、ラウラは超音波で「そこに木がある」ということを探知する事ができるが、「その木が敵の擬態だった」という事まで知ることは出来ないのである。彼女のエコーロケーションは便利な能力だが、このように弱点もある。

 

 だから過信すれば奇襲を受けてしまうのだ。

 

 仲間たちの顔を見渡し、首を縦に振ってから―――――――持ち上げた左足を、思い切り扉へと叩き込んだ。

 

 案の定、扉を支えていた錆だらけの金具はあっさりと外れ、金具を千切り取られた穴だらけの扉は蹴飛ばされた人間のように広間の中へと吹っ飛んでいく。床に落下した扉が砂埃を舞い上げる中へと踏み込んだ俺は、ライトを点灯させたモスバーグM500を構えながら部屋の中を見渡す。

 

 砂埃の膜が薄れていく向こうに広がっていたのは、最上階の4分の3を占めているのではないかと思えるほど広い円形の部屋だった。壁にはやはりただの穴にしか思えないシンプルな窓があり、そこから日光がレーザーポインターのように室内を照らしている。

 

 部屋の中は中世の城のようだ。銀色の甲冑に身を包んだ騎士が似合いそうな室内だが、ここにいるのは漆黒の制服に身を包んだテンプル騎士団のメンバーと、部屋の中央に置かれている古びた円形の大きなテーブルだけである。

 

 まるで、アーサー王伝説に登場する円卓だ。テンプル騎士団と円卓の騎士か………。

 

 そんな事を考えながら、室内に銃口を向けつつ索敵する。円卓の下や反対側に魔物が潜んでいたり、擬態している可能性がある。特に擬態するタイプの魔物はラウラでも察知することはできないため、注意しなければならない。

 

「………何もいないな」

 

「何なんだろう、ここ………」

 

 ただ中央に円卓が置かれただけの広間である。装飾は全くないし、かつてここにいた筈の者たちが遺した形跡も全く見当たらない。窓から入り込んだ砂が円卓や床に堆積し、チョコレートを思わせる茶色いレンガの床に黄土色の模様を描いているだけだ。

 

 中世のヨーロッパの城からあらゆる装飾を取り除けば、こんな光景になるのではないだろうか。

 

『こちらケーター。おい、タクヤ。聞こえるか?』

 

「ああ、聞こえる」

 

『お前ら、地下も見たのか?』

 

「えっ?」

 

 何だって? 地下?

 

 目を細めながら仲間たちと目を合わせると、みんなも同じように目を細めた。

 

 ちょっと待て、地下があったのか? 俺たちが調査したのは1階から最上階までだから、地下は見ていない。隠し通路でもあったんだろうか?

 

「いや、見ていない。見落としてたのかも」

 

『なるほどね。どうりで入った形跡がないわけだ』

 

『私たちが調査するわ。合流お願いできるかしら?』

 

「了解。………下まで降りよう」

 

 地下も調査しておくべきだろう。もしかしたらそっちに危険な魔物が潜んでいる可能性があるし、この塔が何のために建てられたのか記載された資料のようなものも発見できるかもしれない。

 

 仲間たちに告げた俺は、ショットガンを背負いながら再び階段に向かって歩きだした。冒険者の役割はダンジョンの調査。誰も知らない場所の正体を暴き、空白だらけの世界地図を完成させること。

 

 しかし、ここをテンプル騎士団の本部にした暁には、裏切者が情報を漏らさない限り誰も知らない場所になることだろう。世界に場所を暴かれる前に、自分たちで全てを暴き、そして隠す――――――。

 

 なんだか逆だ。冒険者がやることは場所を暴く事。俺たちがやろうとしていることは、暴かれかけている場所を隠す事。自分たちの計画のためとはいえ、冒険者からすれば邪魔者でしかない。

 

 階段を下りていればこの違和感は消えるのだろうか。そう思いながら、俺は再びレンガの階段を駆け下り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはり、この塔の中にいたのはごく少数のスライムだけだったらしい。通路に残されたスライムの死体を踏み越えながら1階のロビーにも似た空間まで降りたが、その間に遭遇した敵はいなかった。もちろんラウラにエコーロケーションで索敵してもらいながらの移動だったけど、相変わらず反応もない。

 

 ダンジョンみたいな雰囲気を放つ奇妙な塔だというのに、敵は殆どいない。もしかすると地下にその分危険な敵が潜んでいるのではないか。生息しているだけで一気にダンジョンの危険度を跳ね上げてしまうような大物が地下に封印されている可能性もある。もしそうだったら、先行したクランやケーターたちが危ない。

 

 早く合流しなければと思いながらも螺旋階段を駆け下りると、ロビーを思わせる奇妙な空間の奥の方に、下へと続く階段のようなものが見えた。床のレンガで階段を隠していたのか、傍らには退けられたと思われる大きめのレンガが置かれている。

 

「こんなところに………」

 

「どうやって気付いたのかしら………?」

 

 そういえば、あいつらはどうやってこの地下に気付いたんだろうか。

 

 とりあえず、俺たちも調査してみよう。危険な魔物が潜んでいるかもしれないし、合流すれば詳しい情報も聞けるかもしれない。

 

 照明のようなものはないため、ショットガンに装着されているライトを点灯させておく。地下だから当然ながら窓はないため、今までのように窓から入り込んでくる日光が光源になってくれることはない。松明のようなものや照明代わりになりそうなものがあるとは思えないため、ライトは必須だ。

 

 バッテリーは大丈夫だろうかと思いながらも、ライトを付けた状態で階段を下りていく。レンガで作られた階段は先ほどの床よりもひんやりとしていて、通路の空気も日光と熱風に晒された地上よりも涼しい。

 

 階段の左右に鎮座するレンガの壁には、やはり何の装飾も付いていない。何か文字のようなものでも刻まれていないだろうかと思っていたんだが、その文字も刻まれている気配はない。シンプル過ぎるにも程があるぞ。

 

 段々と左へカーブし始めた階段を下りた先には、またしても通路が続いていた。ライトで壁や天井を照らしてみるが、やはりレンガで作られているというのは変わらない。中世の城の通路を思わせる古びた廊下が真っ直ぐに伸びていて、左右には塔の2階のようにホテルの部屋を思わせる小部屋がいくつもある。

 

 いや、ホテルの部屋というよりは倉庫のようだ。客を宿泊させるような場所ではない。食料や物資を備蓄しておくためだけの空間。老朽化というよりは荒れているせいなのか、なおさら〝部屋”というよりは〝倉庫”のように見える。

 

 中をライトで照らしてみると、何も置かれていない殺風景な空間があるだけだった。ネズミやコウモリでもいそうな空間だが、何もいない。埃が砂と混じった状態で堆積しているだけである。

 

 普通の廃城とか廃墟ならば、コウモリやネズミだけでなく、更に危険な魔物が住みついていてもおかしくはない。街の中にある歴史的な建築物のように人が手入れをしているなら納得できるが、ダンジョンに指定されてもおかしくはない砂漠の真っ只中で、住みついている魔物が数体のスライムの亜種だけで済むわけがないのだ。通路をゴブリンやスケルトンが徘徊し、奥に進めば危険なドラゴンが待ち受けているようなダンジョンを想像してたんだが、これではただの探検と変わらない。

 

 期待外れと言いたいところだが………これは失望すればいいのだろうか。それとも、僥倖だと思うべきなのだろうか。レベル上げをしたいと思っていたからやってきたわけだが、レベルを上げられるほど敵がいたわけではないからがっかりしているのは事実だが、敵がいないという事はそれだけ安全だという事だ。その分どこかに危険な敵が潜んでいるかもしれないから油断はできないけどな。

 

 警戒する度に肩透かしを食らい続けながら進んでいたが――――――――その肩透かしだらけの短い旅路は、どうやら閉幕するらしい。

 

 黴の臭いのする通路の奥に、やけに大きな風化した木製の扉があった。表面は埃で灰色に染まっており、最上階の扉のようにショットガンで金具をぶっ壊さなくても容易く蹴破れそうなほどに荒れ果てている。

 

 その扉の近くに、迷彩服に身を包んだ4人の諜報部隊(シュタージ)のメンバーが待機していた。テンプル騎士団へ入団しているため、今の彼らの迷彩服の模様はモスグリーンを基調とした従来の色ではなく、黒と灰色の二色の迷彩服となっている。

 

「お待たせ」

 

「ここが最深部?」

 

「ええ、そうみたい」

 

 念のため、ラウラにエコーロケーションで内部を確認してもらうか。彼女に頼もうと思ったけど、ラウラはもう俺が何を頼もうとしているのかを理解していたようで、俺が彼女の方を振り向いた時にはもう両目を瞑ってエコーロケーションを始めていた。

 

 彼女のエコーロケーションは、最大で半径2kmまで探知することが可能だ。遠距離の物体を探知するために範囲を広げれば、索敵の精度は範囲に反比例して低下してしまうが、逆に近距離の索敵ならば極めて正確になる。この扉の向こうにどれくらいの広さの空間が広がっているかは不明だけど、彼女の索敵に任せた方が安全なのは明らかだ。

 

「広い空間になってるみたい。中には木みたいなのが1本だけ生えてる」

 

「木?」

 

「魔物の擬態かしら?」

 

「ごめん、擬態かどうかまではわからない………」

 

 広い空間か………。ということは、室内戦は考慮しなくてもよさそうだな。

 

 それにしても、中に生えている木って何だ? 擬態してる魔物か? ラウラのエコーロケーションには魔物の擬態を見破る能力はないから、本当に魔物の擬態である可能性はある。これだけ魔物の数が少なかったのは、その木がかなり凶悪な魔物の擬態で、他の魔物を殺し尽くしてしまったからなのかもしれない。

 

 広い空間になっているのならば、もう取り回しは関係ない。火力の高い武器を装備していくべきだろう。

 

「よし、いつもの装備を支給する。その木が魔物かもしれないから油断するなよ」

 

 メニュー画面を開き、次々に生産済みの装備をタッチしていく。タッチして装備した武器を仲間に手渡し、予備のマガジンや弾薬の連なったベルトを支給し終えてから、俺もいつもの装備をすぐに見につける。

 

 ケーターたちはいつもの装備で来ていたらしく、俺たちが装備を切り替えているのを「うわ、速いな………」と言いながら見つめていた。何回もこうやって装備を支給してるから慣れて早くなったんだろう。ケーターたちは1人1人が転生者だからこんなことをする必要がないからな。それは便利だと思う。

 

 7.62mm弾を発射するように改造したAN-94を構えた俺は、仲間たちも点検を終えていることを確認すると、シュタージのリーダーであるクランに目配せし、彼女たちも準備を終えているという事を確認する。

 

「さて、突入するか」

 

「そうね。さあ、ドラゴン(ドラッヘ)。とっととこのボロボロな扉をC4で吹っ飛ばしなさい」

 

「待て待て、蹴りで十分だろ。C4の無駄だ」

 

「何言ってるの。そんな野蛮な方法で突入する気?」

 

 や、野蛮………?

 

「あ、あのな、こんなところでC4使ったら生き埋めになる可能性もあるだろうが」

 

「C4の方が優雅よ。敵への宣戦布告にもなるし、きっと擬態してる敵もびっくりする筈だわ」

 

「おいおい、言い合いするなら俺が先陣切るぞ」

 

「ケーター………?」

 

 そ、そうだよな。テンプル騎士団のリーダーなんだし、みんなをしっかりとまとめなきゃならない。突入前に仲間と言い合ってる場合じゃない。

 

 冷静な奴だな、ケーターは。参謀に向いてるんじゃないか?

 

「ええと………あれ? 俺のC4どこだ?」

 

「お前もC4派!?」

 

 なんで!? お前もC4使いたかったの!?

 

「あー、これだ。よしよし、こいつを―――――――」

 

「ば、バカ、やめろッ!!」

 

「はあ!?」

 

「蹴破った方が早いって! こんな風化したドアにC4使うなよ!!」

 

「あのな、クランの命令だぞ!?」

 

「俺の方が権限上なんだけど!? 俺団長だからね!?」

 

「知った事か! C4の方が優雅なんだよ!!」

 

 何言ってんの!?

 

 とりあえず、スタンバイしていたアサルトライフルを腰に下げ、C4爆弾を設置しようとしていたケーターの腕を掴む。こんなところでC4を使ったら、天井のレンガとかが崩れてくるかもしれない。もし崩落してきたら生き埋めだぞ?

 

 ケーターの太い腕を必死に掴むけど、思っていたよりもこいつはステータスが高かったらしく、じたばた暴れはじめたケーターに何度も引き離されそうになってしまう。くそ、大人しくしろって! 生き埋めになりたいのか!?

 

「はあ………」

 

 あ、ナタリアが呆れてる………。

 

 彼女は頭を押さえながら軍帽をかぶり直すと、ため息をつき―――――――転生者並みのスピードで、俺とケーターの頭に拳を振り下ろしてきやがった!!

 

「えむぴーふぁいぶ!!」

 

「くるつっ!」

 

 待て、ケーター。勝手にクルツを付け足すんじゃない。しかも俺のネタをパクるな。

 

 何だかギャルゲーの続編のタイトルみたいになってるじゃねえか………。

 

「あのね、言い合いしてる場合じゃないでしょ!?」

 

「す、すみませんっ!!」

 

「まったく………。退いてなさい、私が蹴破るから」

 

「え、C4は―――――――」

 

「使わないわよ、バカ!」

 

 さすがナタリア。ケーターを一蹴しやがった………。

 

 呆れながら俺たちの前に出たナタリアは、軍帽を片手で押さえながら扉を睨みつけると、俺よりも細い片足を静かに持ち上げ―――――――まるで槍を持つ戦士の一撃のように鋭い蹴りを、風化したボロボロのドアへと叩き込んだ。

 

 ナタリアの細い足に突き飛ばされた扉が軋み、錆びていた金具が弾け飛ぶ。漆黒の制服に身を包んだ少女の一撃で蹴破られた扉は、あっという間に広間の中へと吸い込まれていった。

 

「え………?」

 

 そのまま先陣を切って突入しようとしていたナタリアの表情が、消失した扉の向こうに広がる景色を目の当たりにした瞬間に硬直する。

 

 てっきり、広間と言っても周囲をレンガの壁で囲まれ、真ん中に無造作に木が植えられているだけの寂しい空間だと思い込んでいた。相変わらず黴の臭いがして、閉鎖的であるという事は全く変わらない。誰もいない静かな地下の広間でしかないと思っていたんだが、その扉の向こうの光景はまさに予想外の塊と言えた。

 

 ―――――――黴の臭いではなく、土の臭いがするのだ。

 

 レンガの床ではなく、そこにまるで草原のような草むらに覆われていたんだ。ずっと放置されていたから床のレンガの間から生えてきたわけではなく、土の中から生えているのである。

 

 雑草だけではなく、様々な色の花もその中に混じっていた。緑だけではなく、赤い花や黄色い花も混じったカラフルな世界。半径数百メートル程度のドーム状の空間に、そんな世界が広がっていた。

 

 天井にはサファイアにも似た蒼い結晶のようなものが埋め込まれ、蒼白い光で広間の中を照らし出していた。全く光のない地下で植物が育つのは考えられないが、あの光が原因なんだろうか。

 

 その空間の真ん中に―――――――ラウラが察知した木が屹立している。

 

 広間の中心に生えているその木は、まるで無数の家臣に囲まれた王のようだ。長い間ここにあったらしく、幹というよりは巨大な城の柱のようにも見える。枝は数え切れないほど枝分かれしており、天井を突き破るのではないかと思ってしまうほど伸びた枝は、無数の小さな蒼い花で覆われている。

 

 美しい花だけど………何だか見覚えのある花だった。

 

「あれって………まさか、桜か………?」

 

 雑草に混じって生えている花よりも小さなその花は、間違いなく桜の花だった。前世の世界で何度も目にしたことのある美しい花だけど、俺が見たことがある桜の花は全てピンク色だった。

 

 これが異世界の桜なのか………? いや、小さい頃に見た図鑑に桜も載っていた筈だ。こっちの世界では東洋でしか目にすることのできない希少な花らしく、図鑑に載っていた情報もかなり少なかったけれど、大体前世の世界の桜と同じらしい。

 

 つまり、この世界でもあの蒼い桜は考えられない存在だということだ。

 

「蒼い桜………?」

 

「きれい………」

 

 念のため、AN-94を構えながら桜に近付いていく。雑草や花の群れの中を進み、広間の中心にある巨大な蒼い桜の幹へと接近した俺は、左手をAN-94のハンドガードから離し、何年もここに鎮座し続けていた桜の幹に触れた。

 

 幹を覆っている皮はでこぼこしていて、木とは思えないほど広い。まるで何百年も生えている巨木の皮を繋ぎ合わせて作った壁のようだ。

 

 しばらく触り続けていたけど、幹が動き出す様子はない。擬態している魔物ならばもうとっくに正体を現している筈だが――――――――散々触っているというのに何も起こらないという事は、この桜の木は魔物の擬態ではないのか………?

 

「………大丈夫だ、魔物じゃない」

 

 この塔は何なんだ………?

 

 魔物じゃない事が分かって安心したが………この塔をもう少し調べた方が良さそうだ。踵を返した俺は、顔をしかめながら仲間たちの所へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※MP5K|(エムピーファイブ・クルツ)はドイツ製のSMGです。

「えむぴーふぁいぶ!! くるつっ!」………二期とか続編みたいですね(笑)
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