異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
貴族や領主の屋敷に地下室があるのは、珍しい事ではない。それどころかこの世界では一般的な家庭にも地下室があることの方が多いという。
食料を備蓄しておいたり、財産をそこに隠しておいたりするには便利だし、魔術師や錬金術師ならば研究をそこでやる方が安全だ。彼らの研究も冒険者の成果と同じく、常に他者との奪い合い。自分の成果を秘匿しておなかければ、たちまち掠め取られてしまう。
まあ、貴族の場合は地下室をろくなことに使わないケースの方が多いんだけどな。
モリガンの屋敷も例外ではなく、ちゃんと広い地下室がある。中でバスケットボールでも始められそうなほど広い地下室だ。幼少の頃はそこでモリガンの傭兵たちの射撃訓練を見学するのが楽しみだったから、よく親父たちと一緒に足を運んでいた。
壁にかけられたランタンの明かりや、ひんやりした階段。微かに漂う火薬の臭いも、あの時と同じだった。若き日の親父と母さんの2人に案内されながら中世ヨーロッパの城を思わせる石の階段を下りていくにつれて火薬の臭いが濃くなっていき、やがて目の前に木製の階段が姿を現す。
その扉の向こうからは―――――――聞き覚えのある銃声が聞こえてくる。
親父はにやりと笑うと、がっちりした右手を伸ばしてドアノブを握り、銃声が聞こえてくる地下室の扉を開けた。その瞬間に火薬の臭いと銃声が一気に濃密になり、懐かしい地下の射撃訓練場があらわになる。
中世ヨーロッパの城の中にある一室を思わせる地下室だが、その部屋の中に射撃訓練用のレーンが5人分ほど用意されている光景はいささかミスマッチだ。騎士が居そうな城の中にそのまま軍隊の訓練で使われるような射撃訓練場を放り込んだような場所で、レーンで射撃訓練をしている2人の傭兵の目の前には、的代わりの魔法陣がいくつも飛び交っている。
元々は弓矢を使う兵のために騎士団の魔術師が作成した当時では最新の射撃訓練用の設備らしく、モリガンのメンバーとなったカレンさん―――――――カノンの母親だ―――――――の父親が娘たちのためにと用意してくれたという。
「よう、お疲れさん!」
親父は地下室の中へと入ると、ハンドガンを使って射撃訓練をしている2人の仲間に向かってそう言った。丁度マガジンを交換するタイミングだったからなのか、親父の声を聞いた2人がこちらを振り返る。
片方はメガネをかけた気の弱そうな少年だった。テストでは当たり前のように満点を取ってきそうなイメージがある反面、何だか虐められてそうな感じの少年である。でも実戦を経験しているからなのか目つきは鋭く、指揮官を思わせる制服に身を包んでいる姿はまるでギルドの参謀のようだ。
こっちは若き日のシンヤ叔父さんか。何だか………まだ貧弱そうな少年だなぁ………。21年後はモリガンを代表する名将になってる叔父さんだけど、若い頃はこんな少年だったんだな。
そして叔父さんの隣に立っているのは、チャイナドレスを思わせるフードの付いた黒い制服に身を包んでいる女性だった。肌は白く、セミロングくらいの長さの黒髪からは左右へと人間よりも長い耳が伸びている。肌の色と耳の長さからエルフだろうと思ってしまうけれど、もし彼女が叔父さんの妻となる女性ならばハーフエルフだろう。
くるりとこちらを振り向いた彼女の喉には、ヒールでも消し切れないほど深い古傷が残っていた。彼女の声帯がただでは済まなかったのは想像に難くない。理不尽な転生者によって喉を潰され、肉声を永遠に失った彼女は稀有な魔術である『音響魔術』をマスターすることになるんだが、やはりあの古傷は――――――痛々しいままだ。
「あれ、兄さん。仕事は?」
「さっき終わって戻ってきた。見てくれ、客人だ」
(えっ!? え、エミリアさんが2人っ!?)
そんなに似てるんだなぁ………。
射撃訓練場でハンドガンを手にしていた2人は、のちにノエルの両親となるシンヤ叔父さんとミラさんだった。叔父さんだけでなく、21年前のミラさんも母親となった後と比べると面影はあるものの、結構印象が違う。全体的に幼い感じがするし、胸も小さい。
21年後は母さん並みに大きくなってるからなぁ………。元の時代に戻ったら、ステラの奴に教えてあげよう。あいつ結構気にしてたからな。
「凄いだろ? でも赤の他人なんだぜ。こっちのそっくりさんがタクヤで、赤毛の方がラウラ。姉弟で冒険者をやってるらしい。信じがたいんだが、2人とも転生者の子供らしい」
「転生者の子供!?」
「ああ。パーティーからはぐれてしまったらしくてな。仲間が見つかるまで、ここで面倒を見ることになったのだ。よろしく頼む」
「ああ、そうなんだ。僕は速河信也(はやかわしんや)。よろしくね」
(私はミラっていうの。よろしくね、2人とも♪)
「よ、よろしくお願いします」
「えへへっ、よろしくお願いしますっ!」
ミラさんは喉を潰されているため、二度と自分の肉声で喋ることは出来なくなってしまっている。その代わり、音を操る音響魔術を応用して、自分の肉声を再現することでコミュニケーションを取るようにしているという。
そのため、よく見てみると喋っている最中の彼女の口は全く動いていない。聞こえてくる声は肉声ではなく、彼女が自分で再現した自分の肉声なのだ。
この時代では廃れかけている魔術だけど、21年後の未来では再び普及を始めている。あらゆる魔術師がミラさんの出版した教本を参考に習得して活用しているし、戦闘だけでなくあらゆる産業で活用されている。後に産業革命の一翼を担う事になる重要な魔術なのである。
「後は3人くらい仲間がいるんだ。そのうち2人は出払ってる。もう1人は………研究室かな?」
「研究室?」
もしかして、若き日のフィオナちゃんかな?
というか、3人って言ったよな? 親父と母さんと叔父さんとミラさんの4人がいるのだから、後の3人はフィオナちゃんと………カレンさんとギュンターさんの2人か。ということは、ガルちゃんとエリスさんはまだ仲間になっていないという事か?
つまり、この時代はエリスさんが仲間になる前なんだな。ガルちゃんが仲間になったのはエリスさんが仲間になった後らしい。
「ふむ。紹介しておくか?」
「いや、実験の邪魔をしたら悪い。とりあえず―――――――あ、そうだ。お前ら、銃持ってるよな?」
「え? ああ、はい」
ぽん、と自分の腰のホルスターを叩いた親父が、俺の腰に下げられているホルスターを見下ろした。
「どうだ? 射撃訓練でもやってみないか?」
「ふにゅう………面白そう! ねえ、やろうよ!」
「そうだな。悪くない」
射撃訓練か。出発する前に王都の実家の地下室で何度も経験したが、この屋敷でやったことはないんだよな。
左手を前に突き出し、メニュー画面を開く。まるで立体映像のように目の前に蒼白い光が出現し、その中にずらりとメニューが並ぶ。従来の転生者の端末とは全く仕組みが違うメニュー画面だ。
「うお!? おい、なんだそりゃ!?」
「凄いよ兄さん、SFみたいだ! 僕、この端末よりこっちの方がいい!!」
あ、あれ? シンヤ叔父さんのテンションが上がってる………。あの人っていつも静かな感じの人だったから、こんなふうにテンション上げてる姿は全く想像できなかったんだけど………。
とりあえず、苦笑いしながらラウラ用にモシン・ナガンM28を渡しておく。スオミの里で採用されているボルトアクションライフルで、里での訓練でも彼女はこれを使っていたから使い方は理解している事だろう。
もちろん、スコープはなし。代わりにタンジェントサイトがついているけれど、それほど距離が開いているわけではないため調節することはないだろう。この射撃訓練場は元々は弓矢用の設備であるため、訓練で想定している距離は短いのだ。だから長距離用の武器を運用する場合は、屋敷の外で訓練しなければならない。
俺もサイドアームとして愛用しているCz75SP-01を2丁ホルスターから引き抜くと、ラウラと2人で訓練場の錬へと向かう。
(ねえ、シン。あのハンドガンに銃剣がついてるよ?)
「ああ、あれはCz75っていう銃なんだよ」
(へえ、そういう銃もあるんだ! シン、カッコいいから私にも作ってよ!)
「あはははっ、分かった。じゃあ作っておくよ」
(わーいっ♪ シン、大好きっ!!)
叔父さんってミラさんに甘いなぁ………。まあ、モリガンの男性陣の中では唯一のまともな人だし、モリガンのメンバーの中でも数少ない普通の人だから逆にそう見えてしまうのかも。親父は大口径の武器ばっかり使うし、母さんはしっかり者と思いきや怖い話が大嫌いだし………。
苦笑いしながらレーンで準備をしていると、親父もレーンに立ってからホルスターのハンドガンを抜いた。大口径の銃を好む傾向にある親父にしては珍しく、リボルバーではなくごく普通のハンドガンである。
がっちりしたスライドとグリップはコルト・ガバメントのように見えるけど、コルト・ガバメントと比べるとよりがっちりしており、大型に見える。
どうやらあれはコルト・ガバメントではなく、ソ連軍が採用していた『トカレフTT-33』のようだ。東側の銃を好む親父らしい銃である。第二次世界大戦中に採用されていたハンドガンで、他国のハンドガンと比べると構造はかなり単純となっている。大量生産しやすいため指揮官や最前線の兵士たちにも支給され、ドイツ軍との戦いの勝利に貢献した銃とも言える。使用する弾薬も貫通力が高いため最前線で猛威を振るったらしいが、なんとこのトカレフTT-33には安全装置(セーフティ)が搭載されていないため、安全性にはかなり難がある。
それを引き抜いた親父は、しっかりマガジンの中に弾薬が入っていることを確認してから、後ろで見守っている母さんに「じゃあ難易度はレベル6くらいで頼む」と言った。
レベル6か………。熟練の騎士ならば朝飯前の難易度だ。中級者にぴったりな難易度だが、俺たちには簡単すぎるんじゃないか。
「あ、エミリアさん。最高難易度でお願いします」
「なんだと?」
予想外の注文に、魔法陣をタッチしていた母さんが目を見開く。最高難易度はレベル10となっており、熟練の騎士でもクリアするのは難しいという。なぜならば、的となる魔法陣は難易度を上げる度に数が増え、動きもより複雑になっていく仕組みになっているのだが、最高難易度ではまるでフェイントのような動きで射手の裏をかいてくるのである。しかもクリアするには全ての的の中心部に命中させる必要があり、モリガンの傭兵たちでも最初の頃にクリアできたのはカレンさんと親父だけだという。
銃を持っているとはいえ、見知らぬ冒険者の姉弟がそんな注文をすればびっくりするだろうな。
「ふにゅ、確かにレベル6じゃ物足りないかも………」
「ちょっと、2人とも。レベル10って兄さんとカレンさんしかクリアできてないんだよ? ちょっと難し過ぎるんじゃ―――――――」
「――――――――上等だ」
トカレフを手にしていた親父の目つきが、鋭くなった。
ああ、21年後の親父と同じだ。俺たちよりも遥かに強く、最強の転生者と呼ばれた男の目つきだ。あらゆる転生者たちが自分たちの〝天敵”だと理解してしまうほどの実力者。そう思われてしまうほどの実力の片鱗は、この頃からあったということか。
「エミリア、難易度をレベル10に」
「分かった」
王都の家で何度もレベル10ならクリアしている。俺たちからすれば、いつもこなしている訓練を改めて実演するようなものだ。
《射撃訓練を開始します》
目の前に魔法陣に囲まれたメッセージが表示される。やがてそのメッセージが消滅し、カウントダウンが始まる。
射撃訓練のレベル10。熟練の射手でもクリアできないほどの難易度に挑戦するのは、俺とラウラと若き日の親父の3人。それぞれ使う得物を握りしめ――――――カウントが5秒を切ると同時に、銃口を一斉にレーンの向こう側へと向ける。
落ち着け。いつも経験したことだ。狙撃ではラウラに負けてしまうけど、反射速度では俺の方が勝ってるじゃないか。2丁拳銃での連続射撃や白兵戦は日常茶飯事。早撃ちも実戦で何度もやっている。
やがて、カウントが0になり―――――――――3人の銃が、一斉に火を噴いた。
早くも一番最初に出現した的の中心に風穴が開き、消滅すると同時に次の的が姿を現す。しかしまるでその登場した的は門前払いにされてしまったかのように、姿を現してから1秒足らずであっさりと中心部を撃ち抜かれて消滅してしまう。
的となる魔法陣が姿を現す瞬間に、その空間が光るという特徴がある。だからそこに咄嗟に照準を合わせ、素早く微調整してから撃てばいい。
立て続けにマズルフラッシュが輝き、ブローバックしたスライドから煙を纏った小さな薬莢が躍り出る。その薬莢が回転しながら床へと落下していくことには、もう的に風穴が開いて次の的が姿を現している。
そろそろマガジンの中が空になる頃だと思いつつ、ちらりと隣で射撃を続ける2人を一瞥する。俺から見て右隣のレーンにいるラウラは、相変わらず正確に的の中心部を正確に撃ち抜いていた。俺と親父のハンドガンと比べれば反動は大きく、しかもボルトアクション式であるため素早い射撃が出来ず、装填できるライフル弾は5発までという3つのハンデがあるにもかかわらず、親父や2丁拳銃で撃ちまくっている俺の速度と比べても遜色ない。しかも、命中精度が落ちている様子もない。
そして親父の方も、のちに最強の転生者と呼ばれることになるだけあって素早い動きだった。がっちりした両手でグリップをしっかりと握り、まるでベテランの兵士のような反応速度で銃口を向け、トリガーを引いている。転生者は身体能力がステータスによって強化されるという特徴があるが、反応速度やスタミナなどは強化されないため、自分で鍛え上げるしかない。それゆえに一般的な転生者は力押しになる傾向があるんだが、やはり親父は違う。薬莢が銃の高さよりも下に落ちる前に、もう銃口が次の的へと向けられている。
くそ、俺も負けてられないな。こっちはダブルカラム式のマガジンを持つハンドガンを2丁持ってるんだぞ。
目で見るのではなく、的が出現した空間に直感で銃口を向ける。微調整するのはその後だ。接近戦で必要なのはある程度の正確さと素早さだ。距離が近くなるという事は相手に命中させる難易度が落ちるという事だし、じっくり狙っている暇もない。だから正確さは二の次でいいのだ。
最後の1発が姿を現したばかりの的に飛び込んでいき――――――――やっと的が出現しなくなる。カキン、と床に落下する薬莢の音を聞きながら静かに銃口を下ろした俺は、空になったマガジンを取り外し、新しいマガジンを装着してからホルスターの中へと戻した。
《訓練終了。お疲れ様でした》
「終わりか」
「ふにゅ………」
「………エミリア、スコアは?」
レベル10をクリアするためには、全ての的の中心部を撃ち抜かなければならない。1発でも外したり、真ん中以外を撃ち抜けばクリアすることは不可能になるため、このレベル10だけは他の難易度とは比較にならないほどクリアするのが困難になっているのだ。
スコアが表示される魔法陣の前に立っている母さんは、「待ってろ」と言いながら魔法陣をタッチし―――――――表示されたスコアを見た瞬間、目を見開きながら口を開いた。
「ぜ、全員………ぜっ、全弾……命中………!?」
「なぁっ!?」
(す、すごい………! 力也さんは分かるけど、あの2人も………!?)
当たり前だよ、幼少の頃から何度もクリアしてるんだから。
「すげえな、お前ら。モリガンにスカウトしたいくらいだよ」
「あはははっ。冒険者じゃなかったらぜひ採用して欲しいです」
「えへへっ♪」
「で、ラウラはスコープなしのライフル使ってたのか?」
「はい。スコープ付けると見辛いんです♪」
「………シモ・ヘイヘかよ」
スオミの里だとハユハって呼ばれてるからね。
にこにこと笑いながらモシン・ナガンを抱えるラウラは可愛らしいんだけど、射撃の最中の目つきは滅茶苦茶親父にそっくりだった。その目つきで感付かれてしまわないか心配だ。
とりあえず、バレないように元の時代に戻る方法を探そう。それまでは若き日の親父たちと一緒に過ごすことになるが………問題がある。
―――――――今の時点で、エリスさんがまだ仲間になっていないという事だ。エリスさんが仲間になるのはネイリンゲンにラトーニウス騎士団が侵攻した後。騎士団を率いるジョシュアに見捨てられて裏切られたエリスさんを親父が受け入れたことで仲間になったと聞いたんだが、まだ仲間になっていないという事はそのネイリンゲン侵攻の前という事になる。
もしかして―――――――エリスさんが仲間になるその戦いに巻き込まれたりしないよね………?
その少女が騎士団の精鋭部隊にスカウトされたのは、ラトーニウス王国のナバウレア駐屯地に配属されたばかりの頃であった。魔術の発達の遅れにより、騎士団の戦法を魔術による遠距離攻撃ではなく剣術による接近戦にせざるを得なかったラトーニウス王国にとって、考えられないほど莫大な量の魔力を体内に持ち、しかもそれを自由自在にコントロールできる集中力を持つ彼女は、まさに切り札として王都の精鋭部隊に引き抜き、国王や貴族の命令でいつでも動かす事ができる手駒にしておいた方が都合がよかったのである。
他国を牽制するための抑止力としてだけでなく、政敵を威圧するための矛。飢餓や疫病で命を落とす農民たちを見向きもせずに快適な暮らしをする肥えた貴族たちがそんな事を考えているという事は、その少女も理解していた。
確かに精鋭部隊の待遇は良いが、太った貴族たちの思い通りにされるのは不快なものである。中には自分の権力を使い、彼女に求婚してくる貴族までいるのだ。だからその度に彼女は氷のように冷たく断り、自分自身を守り続けてきた。逆らうつもりか、と恫喝されても、彼らの持つ権力は彼女のように実際に命令を遂行する兵力があってこそ機能する力。しかも彼女は、王国の切り札とまで言われている最強の騎士である。貴族の要求を拒否できるほどの立場だし、実力でも他の騎士を圧倒しているため、貴族でも思い通りにすることは出来ないのだ。
いつものように剣の素振りの訓練を終えた彼女は、タオルで汗を拭きながら騎士団本部の廊下を歩き、兵舎へと向かっていた。兵舎には精鋭部隊のみに使用が許されたシャワールームがある。貴族や裕福な家しかシャワールームを持たず、一般的な庶民は井戸から汲み上げた水を熱して身体を洗うか、冷たい水のまま身体を洗っているという。同じ騎士団でも一般部隊も似たような状態であるため、精鋭部隊は貴族並みに優遇されていると言える。
「おはようございます、エリス様」
「ええ。おはよう、アンナ」
渡り廊下で挨拶してきた金髪の少女に挨拶を返したエリスは、そのまま話はせずに兵舎へと急いだ。シャワーを浴びたかったという理由もあるが、今日から彼女にはやらなければならない大きな任務があるのである。
いや、任務と言うよりは―――――――計画と言うべきだろう。
自分が生まれる前から続いていた計画。莫大な力を肥えた貴族に献上するようなことになるが、その代わりに決別できるものがある。だからエリスはこの計画に加わり、精鋭部隊の1人として任務をこなしながらも準備を手伝ってきたのである。
(ジョシュア………まだ早いんじゃないの………?)
計画を主導するのは、ナバウレアを統括する貴族の次期当主であるジョシュアという年下の少年。実家の大きな権力を使って圧政を続ける典型的な貴族で、エリスもあまり彼の事を好んではいなかった。だから計画が終われば、エリスは彼の元を去るつもりだった。
そのジョシュアがナバウレアで呼んでいるというのである。エリスはラトーニウス王国の切り札でもあるため、そう易々と呼び出せる人材ではない。半年前から要請を続けていたのだろうと理解したエリスは、新しいタオルと着替えを自室で手にしてからシャワールームへと向かう。
これで―――――――忌々しい作り物と決別できる。
自分と似た容姿で、ほぼ同じ遺伝子を持つ少女と。
彼女と決別し、1人になる。1人になれば、やっとエリスは解放されるのだ。
(エミリア………ッ!)
彼女は自分の正体を理解していない。所詮、計画のためだけに育てられたにすぎないという事を教えたら、彼女はどうなるのだろうか。
そう思いながら、エリスは唇を噛み締めるのだった。
おまけ
若き日のエリス
ラウラ「ふにゃぁぁぁぁぁぁぁ!? ママのキャラが違うよぉぉぉぉぉぉぉ!?」
タクヤ「全然違うじゃん! ちょっと、なにこれ!? 今のデレデレのエリスさんじゃないじゃん!」
リキヤ「極端なツンデレなんだろ。今はデレデレなんだからさ」
エミリア(極端すぎるだろう………)
完