異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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転生者が要塞から脱走するとこうなる

 

 目を覚ました瞬間に流れ込んでいたのは、血と膿と黴臭い空気が混ざり合った臭いだった。まるで埃まみれの地下室で、化膿した傷口の臭いを嗅がされたような悪臭のする部屋の中で、どうやら俺は壁に両腕と両足を縛りつけられているようだった。

 

 制服の上着は脱がされていて、身に着けていた筈の武器と端末は見当たらない。おそらく奪われてしまったんだろう。

 

 部屋の壁にはランタンがいくつか掛けられていて、埃だらけの部屋の中を照らし出している。俺のすぐ目の前には、火のついた石炭が入っている火鉢が置かれていた。その火鉢の中には、真っ黒な金属の棒が突っ込んだままになっている。あれは焼き印だろうか?

 

 部屋の壁には拷問に使うような道具や武器がいくつもずらりと並んでいるのが見えた。手入れはされているようだが、一見すると磨き抜かれているようにも見える拷問用の武器には錆びついた痕にも似た血痕が残っていることが分かる。つまりあそこに並んでいる武器の数々は、既に〝使用済み”ということだ。

 

 そして今からその武器の数々が、俺に向かって牙を剥こうとしている。

 

「―――――――久しぶりだな、余所者」

 

「ジョシュア………」

 

 壁に並んでいる道具を見渡していると、目の前から派手な防具に身を包んだ金髪の少年がやって来るのが見えた。彼の後ろには、ラトーニウス王国騎士団の防具に身を包んだエミリアにそっくりの少女もいるようだ。更に、彼女の後ろには氷漬けにされた状態の蒼い髪の少年も置かれている。どうやらタクヤも、俺と一緒に捕らえられてしまったらしい。

 

 バックルガンと彼の迫真の演技には度肝を抜かれたが、はっきり言ってあの不意打ちは愚策だったんじゃないだろうか。

 

「左腕の調子はどうだ?」

 

 ニヤリと笑いながら、俺はジョシュアに言った。

 

 目の前にいる金髪の男は、かつてエミリアの許嫁だった男だ。騎士団の駐屯地であるナバウレアの指揮を執っている男で、俺とエミリアを追撃する際も指揮を執っていた。俺たちはクガルプール要塞を通過する際、飛竜を強奪して一気に国境まで向かうという計画を立てたんだが、その際にも俺はこの男ともう一度戦っている。

 

 その際に、ジョシュアは俺のアンチマテリアルライフルの射撃で左腕を失っているのだ。だから今のこの男の左腕は、人間の腕ではなく義手なのである。

 

 ジョシュアは俺を睨みつけながら、壁に掛けられている武器の中からレイピアを取り出すと、レイピアを鞘の中から引き抜いて俺の方に近づいて来る。

 

「お前のせいで、義手を付ける羽目になったよ。――――お前のせいだッ!」

 

「ぐあッ!!」

 

 鞘から引き抜いたレイピアを、叫びながら俺の左腕に突き立てるジョシュア。細い刀身が俺の左腕に突き刺さり、少しずつ切っ先が皮膚にめり込んでいく。

 

 やがてレイピアの切っ先が俺の皮膚を食い破り、筋肉を引き裂きながら反対側から突き抜けて行った。背後の壁からレイピアの刀身がぶつかる音が聞こえる。

 

「よくも僕の腕を吹っ飛ばしてくれたな。お前のせいで腕を治療してもらった後、義手が完成するまでずっと鎮痛剤を投与し続けてたんだぞ! 許婚を連れ去られた上に左腕を失ったんだ!」

 

「くっ………。ははは………良かったじゃねえか。最高だろ?」

 

「黙れよ………!」

 

 ジョシュアは俺の顔を殴りつけてから、左腕に突き刺さっているレイピアを思い切り引き抜いた。レイピアが再び俺の筋肉を引き裂きながら引き抜かれていく。ジョシュアは血まみれになったそのレイピアを埃まみれの床の上に投げ捨てると、火鉢の中に突っ込んだままにされていた金属の棒を真っ赤になっている石炭の中から引っ張り出した。

 

 先端部が真っ赤に変色しているその鉄の棒を、ゆっくりと俺の方に近づけてくる。

 

 そして。真っ赤になった先端部をレイピアで貫かれた傷口に押し当てた!

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

「ハッハッハッハッハッ! 熱いだろ!? でも、僕は腕を吹っ飛ばされたんだ。もっと辛かったんだよぉ! ほら、もっと押し込んでやるよ!」

 

「ああああああああッ!! こ、このクソ野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 真っ赤になった金属の棒の先端部を俺の傷口に押し込みながら笑うジョシュア。左腕を焼かれながら、俺はジョシュアの顔を睨みつけて絶叫していた。

 

 絶対に殺してやる! エミリアを助け出したら、こいつの眼球に焼き印を突っ込んでやるからな!!

 

 ジョシュアは俺の左腕の傷口からゆっくりと真っ赤になった金属の棒を引き抜いた。真っ黒になった皮膚があらわになる。

 

 フィオナのエリクサーがあれば治療する事が出来るんだが、そのエリクサーも敵に奪い取られてしまっている。つまり、この傷を塞ぐ方法はない。

 

「では、後は頼んだぞ。思い切り痛めつけてやれ」

 

「はい、ジョシュア様」

 

 ジョシュアはその金属の棒を再び火鉢の中に戻すと、腕を組みながら下を向いて俺が左腕を焼かれているのを見ないようにしていたエリスを連れ、部屋の奥にあるドアの向こうへと向かった。

 

 エリスは、俺が左腕を焼かれていたところを見ていなかったようだった。まるで見たくなかったかのようだ。

 

 2人がいなくなった後、残った1人の騎士が腕を焼かれたばかりの俺を見ながらニヤリと笑った。どうやらこいつが、今から俺に拷問をする騎士らしい。

 

「おい、ガキ。お前の持っていた武器とギルドの事について吐いてもらうぞ」

 

「言うわけないだろ、馬鹿………!」

 

「そうか」

 

 騎士は楽しそうに笑いながら、壁に立て掛けられていた金属製の棍棒を拾い上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 弾薬がどっさりと入った箱をいくつも詰め込み終えた僕は、屋敷の裏庭に鎮座している戦車の車長の席に腰を下ろし、端末で戦車の装備を整えながら仲間たちが出撃の準備を終えるのを待っていた。

 

 今まで全くカスタマイズがされていなかったこのレオパルト2A6には、様々な装備が追加されていた。まず、砲塔の上にイスラエル製の戦車が搭載しているアクティブ防御システムのトロフィーが追加された。本来ならば迎撃に散弾を使うんだけど、この世界の騎士たちは投石器なども使用することがある上に遠距離から魔術で攻撃してくるため、散弾ではなく大口径の20mm速射砲を搭載したターレットを装備している。この20mm速射砲は迎撃用の通常弾だけではなく、対人用のエアバースト・グレネード弾も射出できるようになっていて、切り替えは車長が座席の脇にあるコンソールで行うようになっている。

 

 他にも、接近してきた敵兵を迎え撃つために、砲塔の両脇にSマインの発射管が追加されている。Sマインというのは第二次世界大戦の頃にドイツ軍が開発した地雷だ。このレオパルト2A6に追加したのは、そのSマインを改良したものだ。グレネードランチャーのように発射管から射出して炸裂させ、接近してきた敵兵を頭上から無数の鉄球をばら撒くようになっている。つまり、このレオパルト2A6に接近した敵兵は、頭上から無数の鉄球に襲われることになる。彼らが身に着けている防具すら貫通するため、防具で防御するのは不可能だ。

 

 今回の相手は魔物ではなく人間の騎士たちであるため、対人用の装備をいくつも追加していた。

 

「やっとこいつが実戦で戦うんだな」

 

「はい、ギュンターさん」

 

 最後の弾薬の箱を車内に運び終えたギュンターさんが、額の汗を拭いながらそう言った。彼には装填手を担当してもらうことになっている。

 

 彼の隣には砲手の座席があって、そこには既にカレンさんが腰を下ろしていた。照準器の点検を終えたカレンさんは、ホルスターの中に納めていたイタリア製ハンドガンのベレッタM93Rをチェックし、すぐにホルスターに戻す。

 

 2人の前の方の座席に座って操縦用のレバーを握っているのは、操縦士を担当するミラだ。今まで何回かこの戦車に皆で乗ったことがあったけど、いつも彼女はこの戦車を操縦したがっていた。皆で温泉に行った時は楽しそうに操縦士の座席に腰を下ろしていたんだけど、今の彼女は全く笑っていない。

 

 そして、連れ去られたタクヤ君の姉であるラウラちゃんは、1人でアンチマテリアルライフルを背負ったまま戦車の砲塔の上で佇んでいた。屋敷が襲撃される前まではタクヤ君にずっと甘えていた彼女も、今は全く笑っておらず、鮮血のように紅い瞳は虚ろになっている。

 

 今から僕たちは、兄さんとエミリアさんとタクヤ君を助けるために、オルトバルカ王国の国境を超えてラトーニウス王国にたった1両の主力戦車(MBT)で殴り込みをしに行くんだ。

 

「照準器、オールグリーン。射撃管制装置も異常ないわ」

 

「各種砲弾も準備よしだ。ミラ、そっちは?」

 

(エンジンに異常なし。キャタピラにも問題ないよ。いつでも行ける)

 

「アクティブ防御システム、正常。対人装備も問題なし。――――フィオナちゃん、タンクデサントはお願いね」

 

『はい、任せて下さい!』

 

 砲塔の上でAKS-74Uを背負う小柄なフィオナちゃんは、微笑みながらキューポラから身を乗り出す僕に向かって敬礼する。いくら対人用の武器を装備しているとはいえ、それだけで騎士たちの相手をするのは難しいため、彼らを迎撃するためにラウラちゃんとフィオナちゃんの2人にはタンクデサントをお願いしている。

 

 おそらく、あの騎士たちは一旦クガルプール要塞に立ち寄っている筈だ。クガルプール要塞はオルトバルカ王国との国境付近にある大きな要塞で、万が一オルトバルカ王国との戦争になった場合を想定しているらしく、守備隊の規模はかなり大きいという。

 

 きっと兄さんたちは、そこで拷問を受けているに違いない。早く3人を救出しなければならない。

 

「分かった。………では、今から僕たちは、ラトーニウス王国に向かって進軍を開始します。目的地はクガルプール要塞。そこで兄さんとエミリアさんを救出し、要塞を守っている守備隊を殲滅します」

 

 これはクライアントから受けた依頼ではない。仲間を助け出すための、モリガンというギルドとしての戦いだ。

 

「捕虜を取る必要はありません。投降してきても関係なく殲滅します」

 

「はははっ。信也も容赦なくなったな! 旦那みたいだ」

 

 装填手の席でギュンターさんが笑う。

 

 確かに、兄さんも敵には全く容赦はしない。でも、あの騎士団は僕たちの大切な仲間を連れ去り、痛めつけているんだ。だから報復しなければならない。

 

「………シンヤさん」

 

「ラウラちゃん、どうしたの?」

 

「…………バイクを貸してもらえますか?」

 

「えっ? バイク?」

 

 ちょっと待って。何をするつもりなの?

 

 今から僕たちはクガルプール要塞に進軍するんだよ? 戦車で移動するんだから、彼女だけバイクで移動するメリットはない。ラウラちゃんは何をするつもりなんだろうか?

 

「私が1人でクガルプール要塞を壊滅させます」

 

「!?」

 

「おいおい、お嬢ちゃん! 正気か!?」

 

 正気の沙汰とは思えない提案だ。いくら現代兵器があるとはいえ、たった1人で大規模な守備隊がいる要塞を攻め落とせるわけがない。それに、彼女1人に要塞を攻撃させるよりも、全員で突撃した方が効率がいいのは火を見るよりも明らかだ。

 

「敵はすぐに内地へと向かう筈よ。距離が近い要塞に留まるとは思えない。だから私が攻撃して、シンヤさんたちが先回りすれば確実に遭遇できる」

 

「確かに……………」

 

「でも、お嬢ちゃんは1人なんだろ? 無茶だ」

 

「大丈夫ですよ、ギュンターさん」

 

 装填手用のハッチから身を乗り出したギュンターさんはラウラちゃんを止めようとするけど、彼女は首を横に振ってから虚ろな瞳のまま微笑んだ。

 

 も、もしかして、この子…………ヤンデレなのかな………? 

 

「――――――敵を皆殺しにするのは、日常茶飯事ですから♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転生者には、弱点がある。

 

 3つのステータスで身体能力を強化され、ポイントと引き換えに生産する武器や能力で圧倒的な戦闘力を誇る転生者だが、彼らの戦闘力は転生した際に与えられる端末がない限り機能しないのだ。つまり、彼らは自分の端末を身に着けていない限り、ステータスは著しく低下するか0になり、能力やスキルは使えなくなってしまうのである。

 

 端末を身に着けていない転生者は、はっきり言うとただの人間と変わらない。

 

 転生者について親父に教えられた際、その情報も教えてもらった。親父は「自分の体験談だ」と言っていたが、その体験談はこの時の話だったのだろうか。

 

 エリスさんの氷に全身を包まれたまま、俺は親父が焼き印で焼かれ、絶叫する姿を見ていた。炎属性の魔力が体内にたっぷりと備蓄されているおかげで、氷漬けにはされてしまったけれどいつでも自力で解凍できる状態だ。ただ単に氷で囲まれている状態と変わらない。

 

 今すぐに解凍し、親父を助けてやりたいところだが………まだあのジョシュアの野郎はクガルプール要塞を離れていないだろう。ここで騒ぎを起こせばエリスさんも戻ってくるだろうし、当然ながらこの要塞でエリスさんたちとの戦いになってしまう。つまり、歴史が変わる。

 

 親父には申し訳ないが、もう少し耐えてもらうしかない。

 

 くそったれ。目の前で父親が拷問されてるんだぞ………!?

 

「あの武器は何だ!? 答えやがれ、このガキ!!」

 

「はぁっ、はぁっ………ぶち殺してやる、くそったれ」

 

「何だと………!?」

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 くそ、ジョシュアの野郎とエリスさんはそろそろ要塞を離れたか!? 俺はいつまで親父が拷問されるのを見ていればいい!?

 

「おら、さっさと言え! あの武器はどこで手に入れた!?」

 

「………」

 

 親父は答えない。棍棒で何度も殴られているが、絶叫するか呻き声をあげるだけだ。そのおかげで親父を拷問している男は問い掛ける度に機嫌が悪くなっている。

 

 男は親父の顔を思い切りぶん殴ると、棍棒を床に投げ捨てて再び火鉢の中から金属の棒を引き抜いた。先ほど左腕の傷口を焼いた真っ赤な金属の棒が、ゆっくりと胸に近づけられる。

 

 だが、親父は全く答えようとしなかった。仲間たちの情報を売ろうとする様子は全くない。むしろ、拷問をしている男を馬鹿にしているかのように見上げながらニヤリと笑い、挑発を続けている。

 

「いい加減答えろ! あの武器はどこで手に入れた!? 誰が作った!?」

 

「やかましいんだよ………。黙れ」

 

「貴様!!」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 くそったれ、もう解凍してあの男をぶち殺してやりたい!

 

 転生してから、あの親父は俺たちの事を大切に育ててくれたんだ。確かに美女を2人も妻にしたのは気に喰わなかったけれど、前世のクソ野郎と比べるとずっと優しかったし、家族思いのいい父親だった。それに、俺が転生者という事を知った後も待遇は変わらなかった。俺をしっかり育ててくれたし、家族と呼んでくれたんだ。

 

 男はそっと胸から金属の棒を離し、火鉢の中へと戻す。何回あの真っ赤になった棒を押し付けて拷問しても答えないことにかなりイライラしているらしく、男はどれだけ親父を痛めつけても吐かせることのできなかった役立たずの道具を蹴りつけて唸り声を上げた。

 

 親父の胸元は、立て続けに焼き印を押し付けられたせいで黒ずんでいた。しかも、肩や額は棍棒で何度も殴られていたため、痣がいくつもできている。額から流れ落ちる鮮血が火傷した胸元に滴り落ち、そのまま床へと落ちていく。

 

「吐けば、エミリアにもう一度会えるぞ?」

 

「馬鹿野郎が………」

 

 今の親父が一番会いたがっている人物は、間違いなく母さんだろう。仲間を売れば、母さんに会える。男は親父から銃の事を聞き出すために親父を誘惑するが、仮に吐いたとしても2人が再開するのは考えられない。

 

 しかし―――――――親父は、その誘惑を拒んだ。

 

「………〝会せてやる”じゃねえだろ。てめえをぶっ殺して………ジョシュアをぶっ殺してから、俺たちが連れ戻しに行くんだ………」

 

「あ?」

 

「………ガキから何も聞き出せない無能のくせに調子に乗るな、くそったれ」

 

「………………チッ」

 

 そろそろ、この氷を解凍するべきだろうか。

 

 もう大丈夫だろう。ジョシュアとエリスさんが地下室を去ってから何分も経っている。

 

 体内の魔力を活性化させ、圧縮してから体外へと放出し始める。俺の身体の表面に蒼い光が生成され始め、やがて蒼い火の粉となって他の火の粉と繋がっていく。

 

 互いに取り込み合いながら成長していった蒼い炎たちは、やがて俺の身体と氷の間でちょっとした炎の膜を形成すると、徐々にエリスさんの氷を溶かし始めた。氷の表面がどんどん薄くなっていき、徐々に水がフライパンの上で蒸発するような音が響き始める。

 

 拷問を担当していた男は親父への拷問に夢中だ。背後に鎮座している氷漬けにされた俺が、自力で逃げ出そうとしていることには気付いていない。

 

 まず、右手を中心に解凍していく。あっという間に氷が溶けて右腕を動かせるようになった俺は、そのまま他の場所も同じように素早く解凍していく。

 

 手足が氷から解放され、胴体を覆っていた氷も溶けていく。顔にはまだ少し氷が残っているが、あの男を始末する障害にはならないだろう。

 

 氷から解放され、静かに男の背後へと向かって進み始めていると、焼き印を押し付けられて苦しんでいる親父と目が合った。いつの間にか俺が動き出していることに驚いたようだけど、今は苦痛に耐えるために必死になっている。びっくりしている場合ではないらしい。

 

 静かに男の背後へと接近した俺は―――――――左手を伸ばして男の首に引っ掛け、そのまま左足を突き出して男の太い両足に引っ掛けながら身体を捻り、男を床へと叩き付けた。いきなり背後から掴まれた上に投げ飛ばされた男は呻き声を上げながら目を白黒させている。

 

「!?」

 

「なっ―――――――」

 

 左手を伸ばして男の首を押さえつけた俺は、そいつが騒ぎ出す前に右手を振り上げると、黒い革の手袋に覆われている右手の人差指だけをキメラの外殻で硬化させ―――――――その指を、男の右目へと向けて突き入れた。

 

「ひぎっ――――――――」

 

 ぐちゅっ、と眼球が刃物と遜色ない鋭さの指に貫かれる。今まで何度か硬化した腕で敵を貫いたことはあったけど、眼球を貫く感触は肉を貫くよりも生々しいし、よりグロテスクだ。苦痛を与えるためとはいえ、別の場所を狙うべきだっただろうか。

 

 気色悪い感触を感じながら後悔している俺の下では、右目を貫かれた男が左目を見開きながら片目を抑え、必死に喚いていた。

 

「ぎゃあああああああっ! お、俺の目がっ………ああっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 もう片方も貫いてやろうかと思ったけど、このまま喚かせ続ければ警備している騎士たちが気付いてしまう可能性がある。もう少し苦しめてやりたいところだが、もう始末しておこう。

 

 喚いている男の髪を掴み、強引に引きずっていく。呼吸を整えながらこっちを見守る親父に向かって頷いてから目の前に置かれている火鉢を見下ろした俺は、邪魔な焼き印を引き抜いて床に投げ捨ててから、引きずってきた男を無理矢理立たせた。

 

 ほら、親父に火傷させたお返しだ。プレゼントしてやるよ。

 

「や、やめてくれぇ………!」

 

「死ね」

 

 容赦をしない事は、親父から学んだ。だからそれを実践するのは朝飯前である。

 

 相手の命乞いを聞き流した俺は、片手で掴んでいた男の顔を燃え盛る火鉢の中へと突っ込んだ。彼の呻き声が絶叫に変わるよりも先に肉の焼ける音がこだまし、焦げた肉の臭いが漂い始める。どちらも戦場で体験したことのある感覚だ。焼き尽くされた魔物や人間の死体が発する臭いと音。そう、いつもと変わらない。

 

 じたばたしていた男の手足が動かなくなり、火鉢の中に放り込まれた男の顔が真っ黒になっていく。もう絶命していることを確認した俺は、静かに彼から手を離すと、腰に下げていた大型ワスプナイフを引き抜き、囚われている親父の元へと向かった。

 

「お前………何をした………? 自力で………」

 

「すまないね、こうする必要があったんだ」

 

 一時的に巨躯解体(ブッチャー・タイム)を発動させ、親父の手足を拘束している鎖を切断する。高周波によって手にした刃物に振動を発生させられるこの能力は、ナイフなどの刃物を使用した際にかなり大きな効果を発揮する。爆発的に向上した切れ味で攻撃する事ができるというわけだ。逆に、刃物を使わない戦い方の場合は何の意味もない能力である。

 

 あっさりと鎖をナイフで切断し、ナイフをしまってから親父に手を差し出す。咳き込みながら立ち上がった親父に手持ちのエリクサーを渡し、俺は言った。

 

「さあ、逃げようぜ」

 

「おう。………エミリアを助けないと」

 

「そうだな。………端末は?」

 

「くそ、奪われた」

 

「じゃあ、まずは端末だな。ついでに騎士を尋問してエミリアさんの居場所を聞き出すとしよう」

 

「ああ。………すまん、武器をくれないか?」

 

 あ、そうだな。今の親父は端末を持っていないから、自分で武器を装備できない状態だ。俺が貸し与え開ければ。

 

 素早くメニュー画面を開き、それなりに増えてきたポイントで生産できそうな強力な銃を探す。要塞の中とはいえ、室内戦だけを想定するのは危険だ。外に出ればちょっとした市街地戦に早変わりするのだから。

 

 したがって、このような状況に最適なのは比較的銃身が短く、なおかつ十分なストッピングパワーと命中精度を持つアサルトライフル型の銃であること。汎用性は二の次でいい。

 

「これでいいか?」

 

「これは………」

 

 生産した銃を受け取った親父は、それを眺めながら目を見開いた。

 

 俺が親父に渡したのは、日本製アサルトライフルの『89式自動小銃』だ。日本の自衛隊で採用されている銃で、アメリカ軍のM16やM4などと同じ5.56mm弾を使用する。弾薬だけでなく、マガジンまでM16やM4などと同じ物を使っているため、そのまま装着することが可能なのだ。

 

 他国の銃と比べるとすらりとした銃で、アサルトライフルの中でも銃身が短く、更に命中精度が極めて高いという特徴がある。更に反動も小さいため非常に扱いやすいが、汎用性が低いためカスタマイズがし辛く、他の銃と比べると生産に必要なポイントが高いという点だろうか。実際に89式自動小銃もコストが高いという。

 

「89式自動小銃か。いいな」

 

「適任だろ?」

 

「ああ」

 

 カスタマイズは特に何もしていない。とりあえず、ライフルグレネード用の砲弾と予備のマガジンを親父に渡した俺は、愛用のAN-94を装備すると、踵を返して階段へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 転生前の信也

 

ギュンター「なんだか、あのお嬢ちゃん怖いよな………。よく目が虚ろになるし、そのまま笑ってると滅茶苦茶怖い………」

 

信也「ラウラちゃんはヤンデレみたいですね」

 

ギュンター「や、ヤンデレ?」

 

信也「ええ。転生前に見ていたアニメやラノベにもしばしば登場していました。間違いなく彼女はヤンデレです。しかもターゲットはタクヤ君みたいですね」

 

力也「ん? アニメ見てたのか?」

 

信也「毎日見てたよ。アニメやってない時間はずっとラノベ読んでた。勉強もちゃんとやってたけどね」

 

カレン「そ、そうなの?」

 

信也「はい。ちなみに一番好きなのはクーデレですね。ヤンデレは萌えるけどちょっと怖くて………」

 

力也(こいつ、俺が就職してからアニオタになってたのかよ!?)

 

 完

 

 

 

 

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