異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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2人の正体

 

 

「あの親父は何を考えてんだ…………!?」

 

 ナバウレアで若き日の母さんが心臓を貫かれ、死亡したのはかなり大きなショックだった。しかし、のちに彼女と親父の間に生まれることになる俺が消えていないという事は、母さんは何かしらの方法で蘇生させられるという事を意味している。

 

 そうだ、俺は消えていない。俺を生んでくれる筈の母さんが死んだというのに、まだここにいる。ラウラの隣にいる事ができる。

 

 案の定、親父たちは母さんを蘇生させる方法を考えていたようだが――――――――その手段は、正気の沙汰とは思えなかった。

 

 今の母さんの心臓は、埋め込まれていた魔剣を強引に抉り出されたために4分の1が欠けている状態だという。そのかけている部分を補うために、エリスさんと親父の心臓の一部を移植するというのだ。

 

 エリスさんの心臓を移植するというのならば、納得できる手である。大きなショックだったが、母さんがエリスさんの妹ではなく彼女をモデルにして生み出されたホムンクルスならば、遺伝子は殆ど同じ。あらかじめ用意してあった自分の予備の臓器を移植するようなものだ。それゆえに、拒否反応を起こす可能性はほとんど考えられない。

 

 だが、さすがに4分の1も移植すれば今度はエリスさんが帰らぬ人になる可能性がある。そこで、親父も心臓を移植することになったようだが、親父と母さんは遺伝子的には全く違う赤の他人だ。それに2人は異世界の人間と転生者なのである。国籍どころか、生まれた世界すら違う。

 

 拒否反応が起こる可能性はどれほどかは分からないが、エリスさんよりは何十倍も高くなるに違いない。しかも、心臓の一部を移植するのだから、拒否反応を考えなかったとしても親父も危険な状態になる。

 

 その方法を廊下で信也叔父さんから聞いた瞬間、俺は親父がいかれてしまったのではないか、と思ってしまった。自分が危険になる上に、拒否反応を起こすかもしれない自分の心臓の一部を母さんの心臓に移植するというこの方法は、最早ただの賭け(ギャンブル)でしかない。

 

 俺は賭け事はしない主義だ。リスクがある状態で不確定な要素が多過ぎる作戦を使うよりも、確実に成功するような作戦を考えて実行する。無茶な作戦ばかりになってしまうが、賭け事よりはマシだ。こんなに賭け事を忌避するようになったのは、前世のクソ親父の影響もあるのかもしれない。

 

「自分の心臓まで移植するなんて…………」

 

「ふにゅ、危険だよ………! ねえ、信也さん。やめさせられないの?」

 

「僕も止めたいところだけど………無理だよ、きっと。兄さんは止まらない」

 

 21年後には廃墟と化しているモリガン本部の廊下で、信也叔父さんは肩をすくめた。自分の兄が危険なことをしようとしているのに、彼を止められないということを理解している信也叔父さんは苦笑いを浮かべている。

 

 転生する前から、叔父さんはこんなことを繰り返す親父を何度も見てきたのだろうか。仲間や家族のために必死に身体を張り、無茶ばかりする1人の男の姿を見守ってきたというのか。だから、命をかけて心臓を移植しようとする兄の事も、肩をすくめながら見送る事ができるのかもしれない。

 

 諦めと信頼なのだろうか。

 

「兄さんは、それくらいエミリアさんの事が大好きなんだろうねぇ…………」

 

「…………」

 

「よくエミリアさんの話をするんだよ、兄さん。『こっちで大人になったら、エミリアみたいな女と結婚したい』ってね。…………ふふふっ、この前は『もしエミリアにプロポーズする時、背中を押してくれないか』って真顔で頼まれたんだよね、僕。恋愛を経験したことないのに、勉強ばっかりしてた堅物に頼んでどうするつもりなのかな」

 

 ああ、親父はこの頃から母さんの事が好きだったのか…………。

 

 本当に愛しているから、結婚した後もあんなに家族の事を大切にできるに違いない。妻や子供たちの事を気遣って、家族が気付かないところで身体を張り続ける父親。ごく普通の父親ではなく、傭兵と会社の経営を兼任する多忙な父だというのに、あの男はそれでも家族を大切にし続けていた。

 

 前世のクソ親父とは正反対じゃないか…………。

 

「不器用なんだよ、兄さんは。…………でも、兄さんはもうこの賭けをやるつもりだ。だから………信じようよ」

 

「…………そうですね」

 

 信じてみよう。

 

 不器用で、無茶ばかりする馬鹿親父だけど。

 

 もし親父だけで耐える事ができなくなったのならば――――――――俺たちが背中を押してやればいい。

 

 今の主役(主人公)はお前なんだ。…………頑張れ、速河力也。

 

「信也さん、何か手伝えることはありますか?」

 

「そうだね…………。おそらく、ジョシュアは近いうちにオルトバルカへと進撃を始める可能性がある」

 

「ここへですか?」

 

「ああ。世界最強の大国を攻め落とし、魔剣の力をアピールしようとする筈だ。彼みたいな人間は目立ちたがり屋だからね」

 

 確かに、復活した魔剣の力を抑止力にするのならば、見せしめに大国を攻め落としてしまえばいい。隣にあるのは、この時代ではヴリシア帝国と肩を並べるオルトバルカ王国という最強の大国が存在するのである。その2つの大国のうち片方を攻め落とし、陥落させたのはたった1本の魔剣であると世界に知らしめてしまえば、魔剣が復活したことを知った他国はなかなか攻め込んでくる事ができなくなる。

 

 あとは、もう片方の大国であるヴリシア帝国を追い詰めていくだけだ。同盟関係にある国や植民地を少しずつ奪っていき、力を知らしめながら食料や物資を奪っていく。その過程で降伏するのならばそれで終わりだが、戦おうとするのならば同じように攻め落とすだけだ。

 

 その馬鹿げた世界征服の計画に一番最初にささげられるのが、このオルトバルカ王国という事になる。まだ叔父さんの推測だけど、このように動くのが可能性が高いかもしれない。

 

「そうなると、一番最初にジョシュアが攻め込んでくるのは…………」

 

「ああ、ここ(ネイリンゲン)だろうね」

 

 くそ、歴史の通りだ。

 

「一応、街の住民にはエイナ・ドルレアンへの避難を始めてもらってるよ。騎士団や他の傭兵ギルドには、住民の護衛をお願いしている」

 

「俺たちだけで迎え撃つんですか?」

 

「ああ。心細いかもしれないけど…………はっきり言って、魔剣に挑むには他の傭兵ギルドや騎士団では装備が貧弱過ぎる。戦車に木の棒で挑むようなものだよ」

 

 7.62mm弾を容易く防ぎ、衝撃波で分厚い防壁すら消滅させてしまうほどの力を持つ魔剣に、普通の人間が挑んだとしても瞬く間に消滅させられるだけだ。それどころか、魔剣を持つジョシュアに近付く前に、あいつが操る無数のゾンビたちに食い殺されるのは目に見えている。

 

 そう、脅威は魔剣だけではない。あいつはナバウレアで、戦死した騎士たちの死体をゾンビに変えて操っていたではないか。

 

「…………それに、ゾンビたちもいる。僕たちだけで防衛戦をやるしかない」

 

「人数が足りないのでは?」

 

「ああ。だから、武装したドローンやターレットをありったけ展開するし、地中にも地雷や爆薬を仕掛けておく。現時点ではまだジョシュアはラトーニウス国内にいるみたいだから、設置する時間はある筈だ」

 

「では、念のために塹壕も用意しておきましょうか?」

 

「塹壕?」

 

「ええ」

 

 にやりと笑いながら、腰の後ろのホルダーに納まっているスコップを片方だけ取り出す。漆黒に塗装された軍用のスコップには刃があり、殴りつけるだけでなく敵を斬りつけることもできるように設計されているのだ。だから強力な近距離武器にもなる。

 

 実際にスコップは、第一次世界大戦の塹壕戦で大活躍しているのだから。

 

「穴を掘るのは得意なんですよ」

 

「分かった。では、2人には塹壕の用意をお願いするよ。僕たちは爆薬とターレットの準備をする」

 

「了解。ラウラ、手伝ってくれ」

 

「了解(ダー)!」

 

 歴史の通りに攻め込んでくるならば、歴史の通りに返り討ちにしてやる。

 

 あのクソ野郎は、消さなければならない。ラウラや親父たちもそう思っている筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『し、心臓の一部を移植するんですか!?』

 

「ああ。手を貸してもらえないか?」

 

『む、無茶です!』

 

 研究室でエリクサーを作っていたフィオナは、やっぱり俺とエリスの心臓の一部をエミリアの心臓に移植するという提案に猛反対した。

 

 エリスはエミリアとほぼ同じ遺伝子を持つため、移植しても拒否反応を起こすことはないだろう。エミリアはエリスの遺伝子を元に作りだされたのだから、問題はない筈だ。

 

 でも、さっき死体を確認したけれど、思ったよりも心臓が欠けている部分が大きかった。だからその欠けた部分を全てエリスが移植すれば、今度はエリスが死んでしまう。

 

 だから俺の心臓も使ってくれとエリスに言ったんだ。俺とエミリアは赤の他人だから、当然ながら遺伝子は全く違う。拒否反応を起こす可能性もある。俺は賭け事はしない主義なんだが、彼女を生き返らせるにはこれしか手はない。

 

「頼む、フィオナ。…………俺のせいでエミリアが死んだんだ。だから…………」

 

『で、でも…………!』

 

「…………フィオナちゃん、お願い」

 

『うぅ…………』

 

 モリガンのメンバーの中で強力な治療魔術を使えるのは彼女だけだ。大きな傷を負ってしまっても、一瞬で傷を塞いでしまえるほどの魔術を自由に使う事が出来る。だから彼女に手を貸してもらえれば、移植が成功する確率は高くなる。

 

 彼女だって仲間を生き返らせたい筈だ。だから協力してほしい。

 

『わ、分かりました…………』

 

「すまん…………………」

 

『では、移植の準備をするので、医務室で待っててください』

 

 フィオナは俺とエリスにそう言うと、薬草を調合する作業を中断し、エリクサーを作るための何かの液体が入ったビーカーに蓋をしてから扉をすり抜けて研究室を出て行った。

 

 エリスは今までフィオナが普通の女の子だったと思っていたらしく、彼女が扉をすり抜けたのを目の当たりにしてからずっと目を見開いている。

 

「あ、あの子、幽霊だったの……………?」

 

「ああ。怖いのか?」

 

「だ、大丈夫よ……………」

 

 そういえば、エミリアも初めてフィオナを見た時はかなり怖がってたな。エリスもエミリアの姉だから、やっぱり幽霊が苦手なんだろうか。

 

 あの時の事を思い出して思わず笑ってしまった俺は、無理矢理ため息をついて笑うのを止めてから、研究室のドアを開けて医務室へと向かうことにした。

 

 医務室があるのは屋敷の2階だ。研究室や会議室などの部屋も2階の空き部屋を改装して用意してある。フィオナのエリクサーや治療魔術があるから医務室は必要ないんじゃないかと思っていたんだけど、万が一のために用意してほしいとフィオナにお願いされて、残っていた部屋を改装して医務室も用意しておいたんだ。

 

 今まで一度も使った事のなかった医務室のドアを開けた俺は、中に置いてあった大きなベッドに腰を下ろした。ドアを閉めてから、エリスも俺の隣に腰を下ろす。

 

 医務室の中は、転生する前の世界にあった病院のようになっていた。でもこっちの世界には機械は存在しないし、端末でも医療用の機材は生産できないから、部屋の中にはベッドと薬品の瓶が入った棚が置かれているくらいだ。俺やエミリアが住んでいた部屋よりも少し広い医務室の中を見渡していると、メスやピンセットをトレイに乗せたフィオナが、ノックしてからドアをすり抜けて医務室の中へとやって来た。

 

 どうやら、持っているものや身に着けているものも一緒にすり抜ける事が出来るらしい。

 

「きゃっ!?」

 

「だ、大丈夫だ、エリス」

 

『そ、それではベッドに横になってください』

 

 俺とエリスはベッドから起き上がると、別々のベッドに横になった。

 

 すると、フィオナが持っていたトレイを一旦机の上に置き、部屋の外へ出て行く。おそらく、エミリアを連れてくるんだろう。

 

 心臓の移植が成功すれば、エミリアは生き返ってくれるかもしれない。エリスの心臓の一部を移植するのは問題ないけど、俺は彼女たちとは全く違う遺伝子を持つ他人だ。もしかしたら、移植が成功しても拒否反応が起きてしまうかもしれない。

 

 賭け事はしない主義だが、賭けるしかなかった。

 

 しばらくベッドの上で横になりながら待っていると、医務室のドアがゆっくり開いた。そのドアの向こうから部屋の中に入ってきたのは、エミリアの亡骸を抱えたフィオナだった。彼女はエミリアを空いているベッドの上に横たえさせると、机の上にあるトレイから注射器を拾い上げ、俺が横になっているベッドの近くへとやって来る。

 

『では、麻酔を打ちます』

 

「頼む」

 

 俺は横になったまま、移植が終わった後に拒否反応が起こりませんようにと祈りながら目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ…………?」

 

 いつの間にか、俺は屋敷の前に立っていた。

 

 外はもう夜になっていた筈なのに、頭の上には蒼空がある。確か俺はエミリアに心臓を移植するために、フィオナに医務室で麻酔を打ってもらっていた筈だ。なのに、なんで屋敷の外にいるんだ?

 

 周囲を見渡してみると、草原と道の向こうに見える筈のネイリンゲンの街が見当たらない。屋敷の塀の外を草原が取り囲んでいるだけだ。

 

 蒼空と草原と屋敷しか存在しない、シンプル過ぎて殺風景な世界の中に、俺は突っ立っているようだった。よく見ると、俺が身に着けていた服はモリガンの制服ではなく、この世界に転生した時に来ていたジーンズとパーカーに変わっている。

 

 これは夢なんだろうか?

 

 パーカーのポケットに手を突っ込み、転生者に与えられる端末を取り出す。電源をつけて何か武器を装備しようとしたんだけど、電源のボタンを押しても端末の画面は暗いままだ。

 

 故障したのか?

 

 これでは武器を装備できない。俺の体はステータスで強化されているんだろうか? もし強化されていないのならば、敵に襲われたら間違いなく殺されてしまうだろう。

 

 ため息をつきながら端末をポケットに戻すと、いつの間にか屋敷の玄関の前に、蒼い髪の幼い少女が立っているのが見えた。水色のワンピースを身に纏ったその幼い少女は、エミリアやエリスに似ているような気がする。

 

 彼女は楽しそうに微笑みながら手招きすると、玄関のドアを開けて屋敷の中へと消えて行った。

 

 ついて来いということなんだろうか。

 

 俺はまたため息をつくと、パーカー姿のまま屋敷の中に足を踏み入れることにした。

 

 屋敷の中は、俺たちがいつも住んでいる屋敷とあまり変わらないようだった。でも、壁に掛けられているランタンの明かりは橙色ではなく蒼い光を放っていて、階段や床が蒼白く染まっている。

 

 いつもとは違う色で照らし出された屋敷の中を見渡していると、さっきの幼い少女が階段を上りながら手を振っているのが見えた。上がって来いということなんだろうか?

 

 俺は彼女の後について行くことにした。左側にある階段を上って2階へと上がり、そのまま3階へと上がっていく。

 

 あの少女は俺をどこに連れて行こうとしているんだ? 3階にはメンバーの部屋と風呂くらいしか部屋はない筈だ。

 

 すると、蒼い髪の少女は俺たちの部屋の前で立ち止まると、俺の方を振り返って微笑んだ。彼女が微笑んだ瞬間、いきなり身に纏っていた水色のワンピースが蒼い炎を噴き出して燃え上がり始めた!

 

 俺は慌てて少女を助けようとしたけど、蒼い炎に飲み込まれた少女はまだ微笑んでいた。そしてそのまま、蒼い炎と一緒に火の粉を残して消滅してしまったんだ。

 

「何だ…………………?」

 

 少女が残した蒼い火の粉を掴み取りながら俺は呟いた。彼女は俺をここに連れて来たかったんだろうか。この部屋の中に誰かいるのか?

 

 火の粉を握りしめていた右手を開き、そっとドアノブに触れた。そのままドアノブを捻ってドアを開き、幼い少女が案内してくれた自室へと足を踏み入れる。

 

 扉の向こうにあったのは、俺の知っている部屋の光景ではなかった。

 

 いつも俺がベッド代わりにしているソファも、ティーセットが置いてあるテーブルもない。それどころか、扉の向こうにあったのは部屋の中ですらなかった。

 

「ここは…………?」

 

 目の前にあったのは、屋敷の外に広がっているような草原だった。後ろを振り返ってみると、いつの間にか俺が開けたドアも消滅している。

 

 緑色の草原と蒼空しか存在しない世界。その中に入り込んだ俺は、2つの色しか存在しない開放的で殺風景な世界を見渡した。さっきの少女は俺をこんなところに連れて来たかったのか? 何故俺を連れて来た?

 

 その時、草原の向こうに人影が見えた。

 

 真っ黒なドレスのような制服を身に纏った、蒼い髪の凛々しい少女だった。

 

「あ……………」

 

 俺は彼女に向かって走り出した。

 

「あぁ…………………っ!」

 

 会いたかった。

 

 間違いなく、あの後姿は彼女だ。

 

 この異世界で、俺が初めて出会った大切な仲間だ。

 

 俺のせいで死んでしまった愛おしい彼女が、草原の向こうに立っていた。

 

「エミリア…………」

 

「…………………?」

 

 蒼い髪の少女が、ゆっくりと俺の方を振り向く。

 

 やっぱり、エミリアだった。ジョシュアに胸を貫かれ、魔剣を復活させるために利用されてしまった彼女が、この草原にいたんだ。

 

 でも、彼女は俺の姿を見た瞬間、まるで怯えたような顔になった。

 

「く、来るなッ!」

 

「え………………?」

 

「来ないでくれ、力也!」

 

 どうしてだ? 何で怖がってるんだよ?

 

 おい、エミリア…………………。

 

 彼女は俺に向かってそう叫ぶと、草原の奥へと向かって走り出してしまった。

 

 追いかけた方がいいだろうか? でも、エミリアは俺を怖がっているようだし、追いかけない方がいいんじゃないだろうか?

 

 彼女を追わずに引き返そうと思ったけど、俺は踵を返さなかった。

 

 彼女は、俺が貰ったんだ。一緒に旅をして、傭兵ギルドを作った。今まで一緒に強敵と戦ってきた仲間じゃないか。

 

 確かに彼女は死んでしまったけど、もしかしたら彼女を生き返らせる事が出来るかもしれない。だから俺はエリスと一緒に、彼女に心臓の一部を移植することにしたんだ。

 

 彼女を連れ戻すために!

 

 追いかけろ! 俺が貰うって言って連れ出した女だろうが!!

 

「エミリア、待ってくれ!」

 

 俺は草原を走り出し、エミリアを追いかけ始めた。

 

 どうやらステータスで身体能力は強化されているらしく、段々とエミリアに追いついていく。

 

 初めて彼女と出会った時、彼女は行く当てのない俺を受け入れてくれた。それに、強敵と戦う度に彼女を心配させてしまったし、何回か泣かせてしまった。

 

 まだ彼女に恩を返していない!

 

 走りながら右手を伸ばし、エミリアの肩を掴んだ俺は、まだ逃げようとする彼女を引き寄せた。怯えながら俺を睨みつけてきた彼女の目の周りには、涙の痕があった。

 

「やめろ、離してくれ!」

 

「エミリア、何で逃げるんだよ!?」

 

「私は………………! 私は、人間じゃないんだろう!?」

 

「…………………」

 

「姉さんの遺伝子から作られた、偽物の妹なんだ! だから姉さんは、私の事を憎んで…………!」

 

 彼女は俺の手を振り払おうとしたけど、俺はまだ彼女から手を離さなかった。

 

「だから、私はもういなくなっていいんだ! 私なんか……………!!」

 

「エミリア、そんなことは――――」

 

「――――馬鹿馬鹿しいじゃないか! ……………私は…………………お前の事が、好きだったのに…………………!!」

 

「お前………………」

 

 涙を流しながら、彼女は俺の胸を叩き始めた。

 

 自分は人間じゃなかった。だから、仲間を拒んで消えようとしているんだ。

 

「嫌だろう? こんな作り物に好かれても…………………」

 

「そんなわけないだろ」

 

 叩くのを止めて俯き、嗚咽するエミリア。俺は彼女の肩から手を離すと、両手で優しく彼女を抱き締める。

 

「――――俺も、お前が大好きだ」

 

「…………………本当に?」

 

「ああ。人間じゃなくても関係ない。――――それに、お前は俺が貰ったんだ。だからいなくならないでくれ」

 

 俺の腕の中で、エミリアの嗚咽が段々と小さくなっていく。

 

 彼女にいなくなってほしくない。俺はエミリアとずっと一緒にいたい。彼女が人間じゃなくても関係ないんだ。俺は彼女が大好きなんだから。

 

 だから俺は、彼女がいなくならないように、エミリアを思い切り抱き締めた。

 

「力也ぁ…………………」

 

 涙声で、エミリアが俺の名前を呼ぶ。

 

 すると、彼女を抱き締めていた俺の体が、いきなり燃え上がり始めた。火達磨になった俺の体が、炎を纏いながら少しずつ消滅していく。

 

 でも、全く熱くはなかった。炎の中で俺の皮膚は本当に焼けているように真っ黒になっていくけど、全然熱くなかった。

 

「力也…………………?」

 

 エミリアには、この炎は燃え移っていないようだった。

 

 少しずつ、俺の体が消えて行く。炎に包まれた両腕が燃え落ち、草原の上で火の粉になって消滅してしまう。

 

 すると、両腕がなくなった俺の代わりに、今度はエミリアが俺を抱き締めてくれた。段々と真っ黒になっていく背中を押さえ、燃え上がる俺の胸に顔を押し付ける。

 

 そろそろ戻って来いということなんだろう。確かに、まだぶっ殺さなければならない奴が残っている。このまま彼女と一緒にいるわけにはいかない。

 

 仲間たちの所に戻って、あのクソ野郎に復讐しなければならない。

 

「帰って来いよ、エミリア」

 

「ああ」

 

 彼女の声が聞こえた瞬間、俺の体は燃え尽きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺を焼き尽くした炎が消え去ったかと思うと、俺はベッドの上で横になっているようだった。ゆっくりとベッドから起き上がり、部屋の中を見渡してみる。

 

 どうやらここは医務室のベッドの上のようだ。向かいのベッドではエリスが眠っていて、俺の隣のベッドにはエミリアの死体がある。傍らにある金属のトレイの上には血まみれになったメスとピンセットが置かれていて、その近くには空になった注射器が何本か放置されていた。

 

 移植は終わったんだろうか? いつの間にか上着を脱がされていた俺は、そっと右手で自分の胸に触れた。心臓がある辺りには、切り開いた後にヒールで塞いだような痕がまだ少し残っていて、そこだけ胸板が盛り上がっている。

 

 フィオナが移植を終わらせてくれたんだろう。ということは、今の俺は心臓が少しだけ欠けているということか。でも、エミリアを生き返らせるためならば問題ない。

 

 ベッドから起き上がって上着を羽織り、エミリアの様子を確認しようとしたその時だった。廊下の方から誰かが走ってくるような足音が聞こえたかと思うと、いきなり医務室のドアが開いたんだ。

 

「兄さん、大変だ!」

 

「信也?」

 

 大慌てで医務室のドアをいきなり開けた信也は、メガネをかけ直してから俺を見つめた。何があったんだろうか?

 

「――――ラトーニウス王国が、オルトバルカ王国に宣戦布告した!」

 

「なに!?」

 

 馬鹿な。ラトーニウス王国が宣戦布告したのか?

 

 オルトバルカ王国は、参戦した戦争で殆ど勝利している大国だ。そんな大国が隣にあるから、ラトーニウス王国は今まで全く手を出さなかったんだ。だが、今のラトーニウス王国には、魔剣を手に入れたジョシュアの野郎がいる。

 

 おそらくあいつが魔剣を手に入れたことで、ラトーニウス王国はオルトバルカ王国に喧嘩を売ることにしたんだろう。手始めに世界最強の大国を潰して世界中に魔剣の力を見せつけ、一気に征服するつもりらしい。

 

「信也、戦闘準備だ。武装したドローンやターレットをありったけ生産して、草原に配備しろ」

 

「もう済んでるよ、兄さん」

 

「随分と早いな」

 

「あの2人が手伝ってくれからね。塹壕も掘ってもらったんだ」

 

 塹壕まで用意したのか。

 

 ネイリンゲンはラトーニウス王国との国境に最も近い街だ。彼らがオルトバルカ王国に攻め込んで来るならば必ずここを陥落させるはずだ。

 

 つまり、ジョシュアもここにやって来るということだ。

 

 かかって来い、ジョシュア。

 

 魔剣もろともぶっ殺してやる。

 

「ああ、信也」

 

「なんだい?」

 

「今すぐ、メンバーを全員会議室に呼んでくれ」

 

「ああ、作戦会議だね?」

 

「まあな。だが、その前にあの2人に聞きたい事がある」

 

 ナバウレアでの戦いで―――――――タクヤは、何かの力を使った。

 

 そのような転生者の能力があるというのならば当然かもしれないが、あの時彼が使った能力は、転生者の能力とは違う能力かもしれない。

 

 少しばかり、彼に話を聞いた方が良いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モリガン本部の会議室には、モリガンの傭兵たちがずらりと並んでいた。親父はもう既に回復したらしいが、一緒に心臓を移植したエリスさんはまだ意識が回復していないらしく、会議室の中にエリスさんは見当たらない。

 

 会議室の中には大きな円卓が置かれ、その円卓の中心には大きな地図が置かれている。世界地図というわけではなく、ネイリンゲンからラトーニウスとの国境までを精密に描いた地図のようだ。

 

「お疲れ様、2人とも」

 

「どうも。………………とりあえず、この辺からここまで塹壕を掘っておきました。迫撃砲と重機関銃の配備も完了してます」

 

 円卓の上の地図にむけて手を伸ばし、塹壕を掘ってきた地点を指でなぞる。ラトーニウスからネイリンゲンへと直進できるルートを遮るように用意した塹壕には、迫撃砲や重機関銃を配備してきた。それと敵が塹壕内部に侵入してきた場合も考慮してスコップも備え付けてある。

 

 もちろん、侵攻してくる敵を食い止めるのは塹壕内部の重火器だけではない。モリガンの保有するレオパルト2A6を改造したものを投入する予定らしいし、信也叔父さんも新兵器の投入を考えているらしい。

 

「良くやってくれた。…………………ところで、タクヤ」

 

「はい?」

 

「聞きたい事があるんだが」

 

 親父はそう言うと、円卓の上に用意してあったでっかい地図を見下ろすのを止め、俺の顔を見つめ始めた。

 

 おそらく、親父が聞こうとしているのはこの防衛戦の事ではないだろう。何を俺から聞き出すつもりなのか、思い当たる節はある。

 

 それは的中する事だろうと思いながら、俺も親父の瞳を真っ直ぐに見つめた。

 

「―――――――――お前たちは、何者だ?」

 

 やっぱりな。

 

 それを聞いてくると思っていた。ナバウレアであらわになった俺のキメラの角。エルフのように耳の長い種族は存在するけれど、頭から角の生えた種族は〝まだ”存在しないのである。

 

 もう、明かしても良いだろう。ついでに、俺たちがあんたの子供だという事も。

 

 なあ、ラウラ。

 

 ちらりと隣を見ると、ラウラも首を縦に振っていた。ここで誤魔化せばモリガンの傭兵たちと軋轢を作る羽目になる。これから一致団結して防衛戦を開始するというのに、そんなことをすれば歴史の通りにならなくなる可能性もある。

 

 もう、話してしまおう。

 

「俺たちは、『キメラ』という新しい種族なんですよ、力也さん」

 

「キメラ…………?」

 

「おい、ちょっと待て。そんな種族聞いたことねえぞ?」

 

 静かにフードを外し、頭の角を晒す。ついでに服の中に隠していた尻尾まで出した瞬間、会議室の中に集まっていたモリガンの傭兵たちは、一人残らず見事に凍り付いていた。

 

 見た目は普通の人間なのに、角と尻尾が生えている怪物が目の前にいるのだから無理もない。

 

「し、尻尾…………?」

 

「あなたたちは…………いったい何者…………!?」

 

「転生者と人間のハーフ。…………そして、人間とサラマンダーのハーフでもあります」

 

「…………どういうことだ?」

 

「俺たちを生むことになるのは――――――――あんたなんだよ、速河力也(親父)

 

「なに?」

 

 傭兵たちが困惑する中で、静かに俺とラウラは手をつなぐ。そのまま傭兵たちの顔を見回してから再び親父を直視し――――――告げた。

 

「俺とラウラは、21年後の未来からやってきた――――――――あんたの子供だ」

 

 

 

 

 

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