異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
「――――――――これが騎士団なの…………?」
モニターの映像を見ていたカレンさんは、そう呟いた。
会議室の席に腰を下ろし、まだ意識を失っている母さんと親父を除くモリガンの仲間たちが、信也叔父さんの持ってきたモニターの映像を見て絶句している。カレンさんは辛うじて呟く事が出来たみたいだけど、ギュンターさんやフィオナちゃんは最初にこの映像を目にした俺たちや叔父さんたちのように絶句しているようだった。
モニターの映像に映っていたのは、騎士団の防具を身に纏った無数のゾンビたちだった。唸り声を上げ、ズタズタになった傷口をあらわにし、返り血や肉片まみれになった剣や槍を掲げながら進撃してくるゾンビの隊列。大国であるオルトバルカ王国を攻め落とそうとしているラトーニウス王国騎士団の隊列の正体は、このゾンビたちだった。
騎士団とは思えない禍々しい軍団が、国境へと向かっているんだ。
「――――――――おそらく、このゾンビたちの数は10万体以上と思われます」
「10万体!? そんな…………! 仮に国境警備隊と街中の傭兵ギルドをかき集めても、こっちは400人足らずなのよ!?」
「…………その国境警備隊も、おそらく…………」
「全滅か…………」
産業革命以降の強力な武装と戦術の合理化が進められた騎士団ならばまだしも、貧弱な武装と未発達としか言いようがない戦術で戦う昔の騎士団では、こんなゾンビたちの物量を食い止められるわけがなかった。時間稼ぎも期待できない。
しかも、ゾンビたちの隊列の後ろには魔剣を持ったジョシュアがいる。
無数のゾンビの群れに加えて、復活した魔剣までいるんだ。転生者が2人もいるこのモリガンが戦いを挑んだとしても、勝ち目がないだろう。
しかも親父たちは、母さんという大きな戦力を喪失している。
母さんは転生者とも渡り合う事が出来る転生者クラスの実力者だ。でも彼女はまだ昏睡状態で参戦できない。
『…………撤退するべきでしょうか』
モニターの映像を見ていたフィオナちゃんが呟いた。
確かに、このままネイリンゲンの戦力をかき集めて戦いを挑んでも、あのゾンビの群れと魔剣に蹂躙されるだけだ。だから王都の騎士団や国中の騎士団と合流して、ジョシュアが率いるゾンビの群れに戦いを挑んだ方が勝算がある。
「―――――――――良い案だけど、駄目だ」
『え?』
「住民たちを連れて逃げる必要があるし、この街は傭兵ギルドが多い街だよ? ――――――――モリガンに反感を持っているギルドもあるみたいだから、この案を無視して行動するギルドもいるかもしれない」
もちろん、勝手にあのゾンビの群れに戦いを挑んで蹂躙されている間に逃げるという愚策も駄目だ。
「じゃあ、どうするんだよ? このまま戦うってのか?」
「―――――――――それしかないよ」
このまま、ここで戦うしかない。
他の傭兵ギルドと駐屯地の騎士団には住民の護衛をお願いしてこの街から退避してもらい、俺とラウラを含めた兵力のみでラトーニウス王国騎士団を迎え撃つ。
「作戦は考えてあります」
「どんな作戦だ?」
信也叔父さんは壁に貼ってあるネイリンゲンの周囲の地図に、近くに置いてあった羽ペンで印をつけた。まず小さな丸を街の近くに書き込み、大きな丸をラトーニウス王国側に書き込む。そしてその大きな丸の中に、小さな点を書き込んでから仲間たちの方を見た。
「おそらく、あのゾンビたちを操っているのはジョシュアの魔剣です」
親父が言っていたんだけど、ナバウレアで戦っていた時に死体が起き上がって襲いかかってきたのはジョシュアが魔剣を復活させた時だったらしい。だから魔剣の影響でゾンビが襲いかかってきたのかもしれない。
魔剣はレリエルの心臓を貫いた際に彼の血で汚れてしまった剣の成れの果てだ。だから、ゾンビを生み出して操ることが出来るのかもしれない。
「だから、何とかゾンビの群れを突破して魔剣を破壊すれば…………」
「なるほどね。…………スーパーハインドで空から爆撃はできないの?」
「あの魔剣の衝撃波で、接近する前に撃墜される可能性があります」
戦闘機ならば回避できるかもしれないけど、戦闘機を使うには飛行場や滑走路が必要だ。今から飛行場を作るわけにはいかないし、メンバーの中で操縦方法を知っているのは親父か信也叔父さんくらいだろう。
俺も戦闘機の事は知っているけど、実際に操縦するのは無理だろう。俺の能力にあるトレーニングモードで訓練しなければ不可能だ。
その時、会議室のドアがゆっくり開いた。
「――――――――失礼するわ」
「エリスさん?」
ドアの向こうから姿を現したのは、ラトーニウス王国騎士団の制服を身に纏った蒼い髪の少女だった。母さんと同じく蒼い髪の少女で、長い髪の両側をお下げにしている。
モリガンのメンバーたちは母さんが意識を取り戻したのかと期待していたみたいだけど、中に入ってきたのは彼女の姉の方だった。心臓の移植という負担の大きな手術を終えたばかりだからか、少々顔色が悪いし、ふらついているようだ。
「お願い、私も戦わせて」
「大丈夫なのか?」
今の彼女は、心臓の一部が欠けている状態だ。いくら親父と一緒に心臓を出し合って母さんに移植することである程度負担が軽くなったとはいえ、今の状態のエリスさんでは戦場に行くのは自殺行為でしかない。
俺も止めようと思った。負荷の影響で戦場でふらつき、隙を見せた好きにゾンビに食い殺される彼女を見たくはなかったから。それにエリスさんが死んでしまえば、ラウラは21年後の未来には存在しない事になってしまう。
しかし、エリスさんの目つきは、弱っている状態だというのにあの時と変わらなかった。ラウラを生んで母となっても傭兵として戦い続けるエリスさんと、全く変わっていない。あの海底神殿で対峙した時と同じ目つきのエリスさんが、俺たちの目の前にいた。
「大丈夫よ、すぐに治るから」
「…………」
「旦那、こいつは信用できるのかよ? ジョシュアの腹心だった女だぞ?」
やはり、敵だったエリスさんの手を借りることにまだギュンターさんは懐疑的らしい。実際に、あの人はエリスさんがこの戦いに参戦することに最後まで反対していたという。
俺たちの時代では信頼し合っている傭兵ギルドの仲間になっているけど、昔のモリガンにもドロドロした部分はあったというわけだ。
「考えてみろ、ギュンター。エリスはジョシュアの野郎に用済みと言われ、殺されかけたんだ。切り捨てた腹心がまだ主人と繋がってると思うか?」
「で、でも…………」
「手足と同じさ。斬りおとされた手足は、自力ではもう二度とくっつかない」
エリスさんを庇った親父は、苦笑しながら「…………まあ、俺の足もマジでそうなるかもしれないが」と笑えない冗談をぶっ放した。自分の反論を弾かれたうえにそんな冗談を聞いてしまったギュンターさんは、まるで唐突に自分の足元に手榴弾が転がってきた兵士のように目を見開き、息を吐いてから下を向いてしまう。
「…………カバーはする。エリス、力を貸してくれるか?」
「…………信じてくれるの? 力也くんは」
「ああ」
頷いた親父は、踵を返して円卓の自分の席へと戻ると、まだ口をつけていなかった紅茶のティーカップを拾い上げ、エリスさんに手渡した。それほど冷めてはいないらしく、ティーカップの中に入っている紅い液体は湯気を発し続けている。
まるで、ずっと妹を拒み続けていた彼女の心を溶かし、解放しようとしているかのようだった。
まあ、エリスさんは結果的に親父と結婚してラウラを生んでいるし、俺の隣には2人の間に生まれることになる娘がいるんだ。裏切らず、モリガンの仲間となるという答えがあるようなものである。それに、エリスさんの今までの行動が全て演技だったのだとしたら、彼女はとんでもない悪女だ。だが、エリスさんはそんな女ではない。
飄々としていて、敵に対しては非常に冷たくなるけれども、家族に対してはとても優しい女性だ。絶対零度と言う異名からは全く想像できないほど暖かく、優しい女性なのである。
「信也、敵の位置は?」
「国境警備隊の前哨基地を突破。もう国内に侵入している」
「ゾンビのスピードでは…………ここまで4時間はかかるな」
言うまでもないが、ゾンビの足は非常に遅い。奴らが一斉に襲いかかってきた場合は凶悪なドラゴンよりも恐ろしい存在となるが、やはり奴らのスピードはあらゆる魔物の中でも最低クラスと言える。少なくとも奴らに近付かなければ、新米の冒険者でも問題なく討伐できる程度である。
早足くらいのスピードを維持できれば、容易く逃げ切れるレベルなのだから。
「よし、今のうちにエリスにも銃の撃ち方を教えておく。他のメンバーは塹壕や車両で待機を。フィオナは屋敷に残ってオペレーターを頼む」
『了解ですっ!』
「エリス、ついて来い。俺たちの武器を渡す」
「ええ」
いよいよ、ネイリンゲン防衛戦が始まる。
これから俺たちも―――――――21年前の戦場で、戦う事になるのだ。
俺とラウラの持ち場は、幾重にも用意した塹壕の最も最前列である。ラトーニウス王国側の国境へと向けて三重に用意された塹壕の中にはブローニングM2重機関銃や、イギリス製迫撃砲の『L16』がいくつも配備されている。だが、おそらく俺たちがこれらを使用することはないだろう。
迫撃砲は後続の味方が運用する手筈になっているし、重機関銃は一部を除いてターレットになっているため、わざわざ人間がグリップを握り、照準器を覗き込んで掃射する必要はない。
傍らに置いてある木箱の中には、油の入った火炎瓶がぎっしりと用意されている。魔剣によって使役されているあのゾンビたちまで同じかは不明だが、一般的にゾンビは炎属性の攻撃を苦手とする傾向があるため、炎属性の魔術が使えない剣士や冒険者にとって、火炎瓶は心強い攻撃力となる。冒険者用のショップや売店でも販売されているシンプルな武器だ。
必要最低限の魔術の知識があれば、ちょっとした小さな炎でも着火する事ができる。そのため炎属性の魔術は専門外であるラウラでも、辛うじて自力で着火する事ができるのである。
その隣には、塹壕の遥か先にしこたま埋め込んだ爆薬を起爆するための起爆スイッチが置かれている。ゾンビの群れが爆薬を設置した地点に差し掛かったらすかさず起爆し、敵の数を削る手はずになっている。だが、これだけで殲滅は出来ないだろう。
敵の数は10万体。それに対するこちらの兵力は、ターレットやドローンを除けば僅か9名。母さんが復帰したとしても、10名に過ぎない。
「………敵の数、すごいね」
「ああ。…………でもさ、親父の住んでた異世界の戦争もすごかったらしいよ。冬戦争っていう戦争なんだけど」
「ふにゅ? どんな戦争なの?」
塹壕の中で座りながら、俺はラウラに説明する。
「ソビエト連邦っていう大国と、フィンランドっていう小さな国の戦争だったんだ。その中でも『コッラーの戦い』っていう戦いが今の状況に似てるかな」
「そうなの?」
「ああ。たった30名くらいのフィンランド兵が、4000人以上のソ連兵の大軍を食い止め続けたんだよ」
「たったそれだけで?」
「そう。しかも、その中には『シモ・ヘイヘ』っていう有名なスナイパーがいたんだ。その人もラウラみたいにスコープを付けないで狙撃したらしいよ」
シモ・ヘイヘはおそらく世界中の狙撃手の中でも有名な存在だろう。狙撃手だというのに、愛用のモシン・ナガンにスコープを取り付けることなく、数多のソ連兵を狙撃してコッラーの防衛に貢献した兵士の1人と言われている。
しかも狙撃だけでなく、SMG(サブマシンガン)の熟練の射手でもあり、彼に接近したソ連兵は片っ端から蜂の巣にされて戦死していったという。
「ふにゅ、私と同じなんだ…………」
「あはははっ。じゃあ、ラウラはこっちの世界のシモ・ヘイヘだね」
「えへへへっ」
笑いながら、ラウラは接近戦用に彼女に支給しておいたP90の点検を始めた。
P90はベルギー製のPDW(パーソナル・ディフェンス・ウェポン)だ。SMG(サブマシンガン)に使用される9mm弾や.45ACP弾よりも貫通力の高い5.7mm弾を使用するブル・パップ式の銃で、銃身は非常に短い。しかもマガジンの中に装填できる弾薬の量も従来のSMG(サブマシンガン)よりも多いため、比較的弾切れはしにくい。
最も特徴的なのはマガジンだろう。従来の銃は下部やグリップの中にマガジンを装着するような方式なんだけど、この銃は上部に横倒しにするかのようにマガジンを装着するようになっているんだ。つまり、照準器のすぐ下にマガジンが装着されるのである。
ラウラはそのP90を2丁装備している。
それと、メインアームとなるアンチマテリアルライフルも、ダネルNTW-20からセルビア製の『ツァスタバM93』に変更してある。
ツァスタバM93は、ラウラが好むボルトアクション式のアンチマテリアルライフルである。大口径の弾丸を使用するアンチマテリアルライフルの中では反動が小さく、命中精度も優秀な銃で、射程距離はおよそ1.8kmとなっている。使用する弾丸は、俺がカスタマイズする前のOSV-96と同じく12.7mm弾だけど、「20mm弾にしてほしい」とラウラにお願いされたので、内部や銃身をカスタマイズして20mm弾を発射できるように改造されている。射程距離を少しでも延長するために銃身を若干伸ばし、増大した反動を軽減するために銃床を通常からL96A1のようなサムホールストックに変更しているため、西側の狙撃銃を彷彿とさせる外見になっている。
それと、更に火力を底上げしたいという要望もあったので、俺のOSV-96と同じく銃身の下に中国製オートマチック・グレネードランチャーの87式グレネードランチャーを装備している。装填してあるのは、ゾンビに効果のあると思われる白燐(はくりん)弾だ。
先ほど外で試し撃ちもしたので、どちらも問題ないだろう。
頭上は武装を搭載したドローンが飛行している。フリスビーを彷彿とさせるファンの下にぶら下げられているのは、7.62mm弾がしこたま詰め込まれた弾薬の箱と、ドイツ製LMGのMG3だ。圧倒的な破壊力の7.62mm弾を凄まじい速さで連射する凶悪な重火器である。
ドローンの数は30機。中にはグレネードランチャーを搭載しているタイプもあるけど、彼らだけでゾンビの殲滅は難しいだろう。やはり、俺たちが突入して元凶(ジョシュア)を排除する必要がある。
塹壕に備え付けておいたスコップを弄りながら、腰の鞘からナイフを取り出す。ナックルダスターを彷彿とさせる分厚いフィンガーガードの上へと伸びているのは、まるでマチェットの刀身をそのまま短くしたかのような分厚い刀身である。
前まで使っていた大型ワスプナイフを、俺の能力を使ってアップグレードしたものだ。アップグレードには相変わらずポイントを使うが、武器に新しい機能を追加したり、強度や威力を上げる事ができる機能である。銃はアップグレードの恩恵を受けにくいという特徴があるけど、近接武器は受けられる恩恵が大きいため、こいつをアップグレードしておいたんだ。
そうしたら…………何だか、別の武器になってしまった。元々高圧のガスを噴出し、敵を木端微塵に吹き飛ばす恐ろしいナイフだったんだが、もしかするとこっちの方が遥かに凶悪かもしれない。
俺は息を呑みながら、メニュー画面の中から装備している近接武器を探し出してタッチした。
《テルミットナイフ》
そう、このナイフの名前は―――――――『テルミットナイフ』という。
要するに、噴出させるものが高圧のガスではなくなったというわけだ。代わりに噴出するのは、参加した金属の粉末とアルミニウムの粉末に着火したものである。
傍から見れば殆ど無害なものを噴出しているように見えるかもしれないが、むしろこっちの方が危険なのだ。
実は、参加した金属の粉末とアルミニウムの粉末を混ぜた状態で着火すると―――――――3000℃から4000℃の超高温を発しながら燃え上がるのである。これは『テルミット反応』と呼ばれ、冶金の技術の1つとしても利用されているほか、軍でも焼夷弾などの兵器として運用されている。
つまり、こいつを突き刺された敵は体内にテルミット反応を起こしている熱々の粉末を送り込まれ、そのままローストビーフになるというわけだ。
ただ、このナイフは強力だが、その機能を再び使うのはちょっとだけ面倒になっている。
ハンドガンのようにグリップの中のカートリッジを交換した後、ナイフの鍔の部分から伸びる『火皿』と呼ばれる小さな穴に着火用の黒色火薬をほんの少し注入しなければならない。注入を終えてからフィンガーガード内のトリガーを引けば、火打石(フリント)の取り付けられた撃鉄(ハンマー)がその先にある金属製のパーツに激突して火花を発生させ、その火花が火皿の中に放り込まれて火薬に着火されるようになっている。
要するに、こいつは『フリントロック式』という随分と昔の方式で作動するようになっている。
再使用するための準備は面倒だけど、これを別の方式にするためにはもう一度アップグレードする必要があるという。それまでは、他の部位はカスタマイズできるけどフリントロック式からの変更は不可能らしい。
とりあえず、それを2本装備している。ラウラもこいつを装備しているけど、彼女にはもう既に両足のナイフがあるから使う事は少ないだろう。
ゾンビたちがここに襲来するまで、あと3時間。もしかしたら予定よりも早くやってくるかもしれないし、遅れるかもしれない。
どちらにせよ、今度こそジョシュアの野郎を殺す。もし吸血鬼みたいに再生能力を持っているのならば何度でも焼いてやるし、強力なバリアのようなものを持っているのならば、そいつをぶち破るまで攻撃を叩き込んでやるだけだ。
待ってろ、クソ野郎…………!