異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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殺戮の草原

 

 塹壕から頭を突き出すような恰好でずらりと並ぶターレットの数は、最前列の塹壕内のターレットだけでも30基を超えている。2層目の塹壕にも、3層目の塹壕にも同じ数のターレットが配備されており、搭載されたブローニングM2重機関銃の射角を微調整しながら、殺到してくるゾンビたちを睨みつけている。

 

 人間の射手よりも獰猛で、なおかつ冷酷な鋼鉄の射手たちは、最前列の塹壕の向こうに設けられた突撃破砕線を突破した敵を自動的に探知して掃射するようにプログラムされている。

 

 そんなターレットたちの群れに紛れ込んだ俺とラウラも、塹壕の中に設置された迎撃装置の一部と化していた。彼らのように冷酷ではなく、ちょっとしたミス(ヒューマン・エラー)をしてしまう事もあるけれど、ターレットたちの集中砲火よりも俺たちの方が獰猛だという自信がある。

 

 突撃破砕線の設置されている場所は、俺たちの位置から見て2km先。丁度、俺とラウラの持つアンチマテリアルライフルの射程距離だ。

 

 もう既に安全装置(セーフティ)は解除している。親父とエリスさんがAK-47とスコップを併用した白兵戦で突っ込んでいったおかげでゾンビの進撃速度は遅れたけれど、あの2人の蹂躙を免れたか、追いつく事ができなかった〝残り物”が、今度は塹壕の方へと殺到してきている。

 

 さあ、そろそろ出番だぞ。

 

 こつん、とOSV-96の銃床を軽く叩き、照準をゾンビに合わせる。レンジファインダーが計測して表示する数値が徐々に小さくなっていき、2000mを下回りそうになった瞬間に―――――――隣で伏せていたラウラの目つきが、いきなり鋭くなったような気がした。

 

 彼女はスコープを使用して狙撃することを嫌う――――――どうやらスコープを使うと見辛いらしい―――――――という、シモ・ヘイヘのような特異な狙撃手である。銃のパーツが1つ足りないため、ちらりと隣を見るだけで彼女の目つきがよく見えるのだ。

 

 そして、レンジファインダーの数値が2000mを下回り――――――――ターレットたちと、俺たちの銃が一斉に火を噴いた。

 

 まるで紅蓮の大瀑布が草原に出現したかのような轟音が、この戦場にいる傭兵たちの耳を劈(つんざ)く。その数多の銃声の真っ只中で発砲した俺の銃の反動(リコイル)が、いつもより大きくなったような気がした。

 

 俺は緊張しているのだろうか。マズルフラッシュが光源となる塹壕の中で、俺はトリガーを引き、ゾンビを薙ぎ倒しながらそう思った。緊張しているから、反動が大きく感じるのか。ならば、どうして俺は緊張している? こんな〝本格的な戦場”で戦うのが初めてだから? 塹壕の中から身を乗り出し、敵を薙ぎ倒したことがないから?

 

 いや、そんな事を考えてる場合じゃないだろう。

 

 考え事を止め、改めてスコープを覗き込む。カーソルと小さな数値の並ぶ複雑なスコープの向こうでは、もう既に無数の肉塊が草原を覆い尽くしているところだった。傍から見れば、どこかの誰かがわざわざ木の根を真紅に塗り直し、それを乾燥する前に積み重ねたようにも見えるけど、その正体を誤魔化そうとする煙の向こうをしっかりと見据えてみると、その積み重なっている真紅の木の根の正体が、12.7mm弾や14.5mm弾の集中砲火で木端微塵にされたゾンビの肉片や手足の一部であるという事が分かる。

 

 従来のライフル弾よりも大きな12.7mm弾の運動エネルギーで喰らい付かれれば、人体は確実にあのような末路を辿る。7.62mm弾を上回る威力の弾丸で撃ち抜かれ、五体満足で済むなどありえない。

 

 だが、その肉片を踏み越えて殺到してくるゾンビたちは、仲間が粉々にされても全く恐れていないようだった。もう既に自我を奪われ、死体を強引に動かされている状態の彼らは、どんな破壊力の兵器を見せつけられてももう怯まない。生者を道連れにしてやると言わんばかりにこちらへと殺到し、容赦なく食い殺すだけだ。

 

 だが、速い動きでも早歩き程度のスピードでは、いくら兵力があっても俺たちに触れる前に機関銃の掃射で殲滅されてしまうのではないだろうか。死体で防壁が作れそうなほどゾンビの亡骸が転がる草原を想像しながら、スコープの向こうのゾンビを木端微塵にする。

 

 かつては対戦車ライフルの弾薬にも使用されていた14.5mm弾が、ゾンビの臍(へそ)の辺りにめり込んだ。回転しながらゾンビに喰らい付いたその弾丸が突き刺さったと思った瞬間にはゾンビの身体が弾け飛んでおり、辛うじて生き残った手足や腐った骨の一部が地面に転がっていく。

 

 次の獲物を狙おうとした瞬間、一気に4体ほどゾンビが砕け散った。まるで目の前を塞がれたことに苛立った巨人がぶちかましたかのような重過ぎる一撃を放ったのは、隣でタンジェントサイトから目を離し、素早くボルトハンドルを引いて20mm弾の薬莢を排出するラウラだった。

 

 彼女が使っているツァスタバM93は、本来は12.7mm弾を使用するように設計されているライフルだ。そのライフルを、彼女の要望で20mm弾を使用するように改造し、射程距離も2kmまで延長するために銃身を伸ばしたり、炸薬の量を増やしたため、重量だけでなく弾丸の弾道もかなり変化している。まだ数回しか試し撃ちをしていない筈なのに、次々にトリガーを引くラウラの狙撃は、まるで熟練の狙撃手が使い慣れたライフルで当たり前のように狙撃しているかのような、信じられない命中精度だった。

 

 ズドン、と銃声が響き渡り、煙を吐き出しながら落下した空の薬莢が金属音を奏でる。そして弾薬がなくなったらマガジンを取り外し、新しいマガジンを装着して狙撃を再開する。

 

「敵との距離、1000mをきるぞ!」

 

 ラウラに警告したその時だった。

 

 背後に展開している塹壕の方から、重機関銃の銃声を一瞬だけ掻き消してしまうほどの大きな音が聞こえてきたのである。後ろを振り向いて確認したかったが、今はそれどころではない。突っ込んでいった親父たちを支援するためにもここで狙撃を続けなければならないし、もう少ししたら俺とラウラもあのゾンビの群れに突っ込まなければならないのだ。

 

 すると、今度は何かが落下してくる音が聞こえてくる。何の音かと思いながらスコープから目を離そうとしたその時、仲間の死体を踏みつけ、進撃を続けようとした板ゾンビの群れの真っ只中に、またしても火柱が噴き上がったのである。

 

「迫撃砲!」

 

 後方の塹壕からの支援砲撃だ。信也叔父さんやギュンターさんが、支援砲撃を開始してくれたらしい。

 

 迫撃砲もカチューシャと同じように命中率が高いわけではないが、通常の榴弾砲や対戦車砲と比べれば連射速度は非常に速く、攻撃範囲も広い。進撃してくる敵の群れを叩き潰すにはうってつけの重火器である。

 

 立て続けに、ゾンビたちが吹っ飛ぶ。次々に産声を上げる火柱の群れに、ゾンビの大軍が遮られ始める。

 

「ラウラ、白燐弾!」

 

「了解(ダー)」

 

 重機関銃の一斉射撃と迫撃砲の砲撃を受け続けているというのに、ゾンビの群れはもう1層目の塹壕に接近していた。既にグレネードランチャーの砲撃でも有効なダメージを与えられるような距離である。

 

 2人で同時に銃身の下のグレネードランチャーに手を伸ばし、折り畳んであった照準器を展開する。この中国製の87式グレネードランチャーは、従来のグレネードランチャーよりも口径が小さいために威力が低いという欠点があるけれど、連射速度と射程距離ならばこちらの方が上だ。

 

 しかも、装填されているのは『白燐弾』と呼ばれる特殊な砲弾である。

 

 焼夷弾のような砲弾で、着弾した標的を焼き尽くしてしまう代物だ。砲弾や爆弾などに使用されていたが、近年ではさらに性能の高い焼夷弾などが開発されているため、発煙弾として使用されているものなどを除いて殆ど退役してしまっている。

 

 白燐弾は発火した場合、消化が非常に難しい。咄嗟に水をかけた程度ではまず消化できないため、炎を弱点とするゾンビたちには――――――――そもそも、ゾンビたちに白燐の炎を消化する知識はないだろう―――――――有効なのである。

 

 アンチマテリアルライフルの銃身の下に装着された87式グレネードランチャーから、矢継ぎ早に35mm白燐弾が放たれる。照準器を合わせた場所よりも上に逸れたかと思いきや、すぐに砲弾たちは急降下を始め、ゾンビたちの足元へと着弾した。

 

 真っ白な煙が噴き上がったかと思うと、その向こうから火だるまになったゾンビたちが姿を現した。内臓や肋骨があらわになるほどの大きな穴が開いたゾンビや、首から上がなくなっているゾンビたちの身体が燃え上がり、炎に包まれたゾンビたちが次々に力尽きていく。

 

 大半のグレネードランチャーならば1発撃ってから再装填(リロード)しなければならないが、この中国製グレネードランチャーはドラムマガジンに装填できる砲弾の数が多く、連射も利くので非常に強力なのである。地面に設置したり、戦車に搭載するオートマチック・グレネードランチャーは既にアメリカやロシアが開発しているが、このように持ち運ぶことを前提に軽量化したタイプを開発したのは、現時点では中国のみだ。

 

 ドラムマガジンを取り外し、新しいドラムマガジンを装着してコッキングレバーを引く。そのまま白燐弾で焼き払ってやろうと思ったけど、塹壕の向こうを振り返った頃には、もう既にスコープを覗き込めばゾンビたちが巨人に見えるほどの距離にまで接近されていた。

 

 俺は咄嗟に傍らの木箱の中から火炎瓶をありったけ引っ張り出すと、いくつかに着火して放り投げつつ、残った分の一部をラウラへと渡した。

 

「お姉ちゃん、そろそろ突っ込まない?」

 

「そうね、このままじゃ遅れちゃうわ」

 

 指先から小さな炎を出し、火炎瓶に着火したラウラは、それを放り投げてゾンビを火だるまにすると、アンチマテリアルライフルでの狙撃を中断して背中に背負った。腰のホルダーに下げられていた2丁のP90を引き抜き、白兵戦の準備をする。

 

 相変わらずお姉ちゃんは、戦闘中になると口調が変わるなぁ…………。もしかすると、ラウラは二重人格なのかもしれない。

 

 そう思いながらラウラを見つめていると、彼女は俺が何を考えながら自分を見ているのか気付いたらしく、にっこり笑いながらウインクしてくれた。

 

「――――――――ふにゅっ♪」

 

 か、可愛い………。

 

 よし、ジョシュアの野郎をぶちのめして元の時代に戻ることができたら、お姉ちゃんに思いっきり甘えよう。

 

「…………さて、突っ込みますか」

 

 親父たちは十分援護した。俺たちも、そろそろ親父たちの後に続いてジョシュアの元を目指してもいいだろう。

 

 あのクソ野郎は親父や母さんだけでなく、エリスさんまで弄んだ最低最悪のクソ野郎だ。しかも母さんを許嫁にしていた理由は、母さんを愛していたからではなく、母さんの心臓の中にあった魔剣の破片のためだったのだ。

 

 もし仮に母さんを愛していたから許嫁にしていたのであれば、奴は普通のクソ野郎の1人で済んだことだろう。だが、あいつはクソ野郎を超えてしまった。多くの人々を自分の計画のために利用し、切り捨てようとしたのである。

 

 必ず、あの男はぶち殺す…………!

 

 OSV-96を折り畳んでから背中に背負い、近くに置いてあったスコップを拾い上げる。左手には着火した状態の火炎瓶を握りしめた俺は、ラウラと頷き合ってから、2人で同時に塹壕の中から飛び出した。

 

 泥の臭いが消え失せ、腐った血肉と火薬の支配する世界へと躍り出る。そう、これが戦場の臭いだ。人類の殺意が濃縮された、血みどろの大地が発する臭い。

 

「「――――――УРаааааааааааааааа!!」」

 

 今殺しに行くぞ、ジョシュア…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は誰なんだ…………?」

 

 私は目の前で楽しそうに笑う蒼い髪の少女に問い掛けた。雰囲気は私と姉さんに似ているが、ペンドルトン家の子供は私と姉さんだけの筈だ。私は姉さんのホムンクルス(クローン)だが、姉さん以外に子供がいる筈がない。

 

 まさか、私以外のホムンクルス(クローン)か?

 

 もしかすると、もし魔剣を埋め込まれていた私が死んだ時のために他にもホムンクルス(クローン)を生み出していたのかもしれない。予備のホムンクルス(クローン)を用意しておけば、私が殺されても、心臓から魔剣を取り出して埋め込み直せば計画が頓挫することはない。

 

 つまり、予備の私ということか…………?

 

 すると、目の前の少女はにこにこと笑いながら言った。

 

『―――――――私は、エミリアと呼ばれる筈だった存在よ』

 

「なに…………?」

 

 エミリアと呼ばれる筈だった存在だと?

 

 つまり、彼女は生まれる前に死んでしまった本物のエミリアということか。魔剣を心臓に埋め込まれ、魔剣の破片に十分に血を吸わせるための道具としてだけ生み出された私とは違う、本物のエミリア。本当ならば姉さんと一緒にあの実家で育ち、妹と呼ばれる筈だった少女。

 

 何のために私の目の前に姿を現したのだろう? 自分の役割と名前を奪い、ジョシュアに利用されて死んだ私を嘲笑いに来たのだろうか?

 

『いつまでここにいるつもり?』

 

「え…………?」

 

 本物のエミリアはにこにこと笑ったまま、蒼い草原の向こうを指差した。彼女が指差した草原の向こうには、いつの間にか無数の半透明の人影が、まるで致命傷を負った負傷兵のようにふらふらと歩きながら、銃を構えて必死に弾丸を撃ち続ける半透明の人影たちへと向かって突進していく。

 

 どうやら先ほどから聞こえていた銃声は彼らが撃っていたかららしい。よく見ると、その銃を持っている半透明の人影たちは全員見覚えがあった。

 

 両手でLMGと思われる大型の火器を担ぎ、雄叫びを上げながら連射しているのはハーフエルフのギュンターだ。彼の傍らでアサルトライフルを構え、フルオート射撃で素早くゾンビたちの頭を撃ち抜いているのはカレンのようだ。

 

 彼らの近くでは、アサルトライフルを持った信也がミラと共に必死にゾンビたちに向かって銃を撃ち続けている。彼らが戦っている場所から離れたところにある屋敷の中では、真っ白なワンピースを身に纏ったフィオナが、モニターを見つめながらコンソールをタッチし、無線機で最前線の仲間たちに指示を出している。

 

 そして、ゾンビたちの群れの中を前進していく人影が見えた。片方は以前まで私が身に纏っていた黒い軍服のようなモリガンの制服を身に纏い、アサルトライフルとスコップでゾンビたちを蹴散らしている。彼女の隣では、同じくアサルトライフルを持った少年が、至近距離でのフルオート射撃でゾンビの頭を吹き飛ばし、スコップの連続攻撃でゾンビを何体もまとめて両断していた。

 

 その人影は、力也と姉さんだった。特徴的な黒いオーバーコートを羽織りながら戦う力也の隣で奮戦する姉さんは、まるで私のようだった。

 

 そしてその2人の後ろから、2人の人影がゾンビの群れを蹂躙しながら続く。私にそっくりな容姿を持つ少年と、鮮血を思わせる赤毛の少女が、まるで力也と姉さんのようにゾンビを蹂躙しながら進撃している。

 

 当たり前だ。私は姉さんの遺伝子を元に生み出された偽物の妹(エミリア)なのだから。

 

『彼らはあなたのために戦ってるんだよ?』

 

「私のため…………?」

 

『そう。あなたを殺した敵に報復するため』

 

 ジョシュアに報復するためだと?

 

『でも、あれはあなたの弔い合戦なんかじゃない。彼らはみんな、あなたが戻ってきてくれるって信じてる』

 

「私が…………?」

 

『うん。…………だから、戻ってあげて。そして、また一緒に戦ってあげて』

 

 そう言いながら、本物のエミリアは私の方に歩み寄ってきた。そして、ぎゅっと握っていた私の手を優しくつかむと、必死に戦っている仲間たちの姿を眺めていた私を引き寄せ、そっと抱き締めてくれた。

 

『私は生まれる事が出来なかった。でも、あなたは私の代わりに生まれて、私の名前を引き継いでくれた。あなたは、私の役割と名前を奪ったわけじゃない。私の代わりに、姉さんの妹になってくれた。だから、私はあなたの事を全然恨んでないのよ…………?』

 

「エミリア…………」

 

 彼女は私から両手を離すと、私を優しく後ろへと押した。後ろに向かってよろめいた瞬間、いきなり本物のエミリアの後方に蒼い草原が吸い込まれ始め、向こうで戦っていた半透明の人影たちが消滅していく。周囲の光景が吸い込まれて消滅していくというのに、目の前で微笑んでいる本物のエミリアは、まるで消えて行くこの空間に置き去りにされたかのようにまだ目の前に立っていた。

 

「エミリア!」

 

『そろそろ行ってあげなさい。…………あの力也っていう人が喜ぶわよ?』

 

 だが、微笑みながら私に手を振る彼女の体も、徐々に消滅を始めた。爪先が蒼い光を放ちながら崩れていき、周囲の光景と共に背後に吸い込まれていく。

 

 でも、彼女はまだ微笑んだままだった。自分から名前と役割を奪った私を見送ってくれているのだ。

 

『――――頑張って!』

 

「ありがとう、エミリア…………」

 

 そして、蒼い光が彼女を包み込んだ。蒼い人影となった彼女が崩れ去り、草原と共に消滅していく。

 

 彼女は、私を恨んでいなかった。

 

 私は彼女の代わりに生まれ、姉さんの妹になったんだと言ってくれた。

 

 ならば、彼女の代わりに仲間たちの所に戻ろう。そして、仲間たちと一緒に戦う!

 

 力也、今行くからな…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 最後のグレネード弾をぶっ放し、ゾンビ共がふらつきながら構えていた盾もろとも近くのゾンビを吹っ飛ばした俺は、端末が用意してくれた弾丸を全て撃ち尽くしてしまったAK-47を投げ捨てると、腰の後ろのホルスターから2丁のトカレフTT-33を引き抜いた。

 

 俺と一緒にゾンビの群れを突破しようとしているエリスもアサルトライフルの弾薬を使い果たしてしまったらしく、AK-47を投げ捨ててホルスターから引き抜いたトカレフで応戦している。

 

 弾幕を目の前のゾンビにだけ叩き付け、俺たちを食い殺そうとしてくるゾンビたちの隊列をこじ開けていく。崩れ落ちたゾンビの死体を踏みつけて前へと走り続け、ひたすらトリガーを引いた。

 

 火薬の臭いと血肉の臭いが混じり合う。銃声がゾンビたちの呻き声をかき消し、その銃声の残響をゾンビたちの呻き声が喰らいつくしていく。でも、このままゾンビたちの隊列を突破できなければゾンビたちの呻き声が銃声を喰いつくしてしまうだろう。その前にジョシュアの所に辿り着き、魔剣をぶっ壊さなければならない。

 

 でも、ゾンビの数が多すぎる。そろそろ500体くらいゾンビを倒したような気がするけど、俺たちが銃で攻撃を始める前にドローンとC4爆弾とカチューシャの先制攻撃で数を減らされているにもかかわらず、ゾンビたちは次々に俺たちに襲い掛かって来る。

 

 もう呻き声と銃声しか聞こえない。自分の雄叫びや呻き声は、発した瞬間に銃声と呻き声の争いに飲み込まれて消えてしまうだけだ。

 

 その時、ゾンビが突き出して来たランスが俺の左肩を掠めた。鮮血と肉片で真っ赤になった刃が俺の左肩を少しだけ切り裂く。全くダメージはないんだが、突き出されたランスのせいで少しだけバランスを崩してしまい、ゾンビに向けていたトカレフの銃口が天空を向いてしまう。

 

「くそったれ…………!!」

 

 弾薬を無駄にしちまった! 

 

「力也くん!!」

 

 エリスが叫びながら俺を援護しようと左手のトカレフを俺の近くのゾンビに向けようとするけど、彼女の周囲にもゾンビは何体もいる。両手のハンドガンで何とか撃破できているというのに、俺を援護できる筈がない。

 

 このままではジョシュアの所に辿り着く前に、こいつらに喰い尽されちまう…………!

 

 剣を持ったゾンビが、体勢を崩した俺に止めを刺そうとしたその時だった。

 

 空から無数の黒いレイピアの刀身のような棘が降り注ぎ、俺とエリスの周囲で呻き声をあげていたゾンビの群れを一瞬で穴だらけにしてしまったんだ。

 

「な…………!?」

 

「これは…………闇属性の魔術…………!?」

 

 一時的にゾンビたちの呻き声が消えていたから、エリスの呟いた声がよく聞こえた。

 

 この魔術は見たことがあるぞ。

 

 近くに倒れているゾンビの体中に突き刺さっている棘を凝視しながら、俺はこの闇の棘を目にした戦いの事を思い出す。確か、あれはヴリシア帝国の帝都サン・クヴァントでの戦いだった。

 

 あの時戦った奴らが、こんな魔術を使ってきた。

 

 転生者よりも手強い奴だった。

 

「―――――――――しっかりしろ、力也」

 

 いきなり背後から聞こえてきたのは、低い声だった。やっぱりその声は、あの帝都で戦った強敵の声だ。互いに重傷を負い、止めを刺す事が出来なかった強敵。転生者よりも手強かったあいつの声だ。

 

 後ろを振り返ると、やっぱり黒いコートを身に纏った30代くらいの男性が、腕を組みながら俺を見つめていた。

 

「レリエル・クロフォード…………!?」

 

「え…………!? この人が、伝説の吸血鬼…………!?」

 

 トカレフを彼に向けようとしていたエリスが、伝説の吸血鬼の名を聞いて目を見開く。かつてこの世界を支配した最強の吸血鬼なのだから、エリスだって知っている筈だ。

 

 俺たちが帝都で戦った最強の男は、傍らに白い服とマントを身に着けた金髪の少女と、黒いスーツを纏った銀髪の少年を引き連れて、俺とエリスの後ろに立っていたんだ。白い服の少女は彼の眷族のアリアだけど、あの銀髪の少年は誰だ? 新しい眷族なのか?

 

 何をしに来たんだ? まさか、俺とまた戦いに来たのか?

 

 もし戦いに来たのならば勝ち目がないぞ。あの時はカレンとギュンター以外のメンバーで戦いを挑んだというのに、スーパーハインドを撃墜された上にみんな死にかけたんだ。弱点の銀すら用意していないから、こいつに攻撃したとしてもすぐに再生されてしまう。

 

「――――――――相手は魔剣のようだな」

 

「ああ。俺はそいつをぶち殺しに行くから、お前とは戦えないぞ。手一杯なんでな」

 

 レリエルはにやりと笑うと、腕を組むのを止めてからゾンビの隊列を睨みつけた。

 

「―――――――――この無礼者共は、我々に任せろ」

 

「なに…………?」

 

 ゾンビの相手を引き受けてくれるというのか?

 

 俺と戦いに来たわけではないということなんだろうか。

 

「私の好敵手を、このような下等な者共に殺させるわけにはいかん」

 

「好敵手か…………」

 

「ああ。貴様とはまた戦いたいからな」

 

 レリエルがそう言うと、彼の傍らで漆黒のレイピアを引き抜いたアリアも俺の顔を見て笑いながら言う。

 

「ゾンビ共は私たちに任せなさい。あなたたちは早く魔剣を破壊して」

 

「助かるぜ」

 

「行け、力也! 私と決着をつける前に死ぬな!」

 

「おう!」

 

 あのレリエル・クロフォードが加勢してくれるらしい。これならば、ゾンビの隊列をすぐに突破する事が出来るぞ!

 

 俺はレリエルに「ありがとな!」と叫ぶと、トカレフのリロードを済ませてからホルスターに戻し、鞘の中からアンチマテリアルソード改と小太刀を引き抜く。エリスも近接攻撃に使用していたスコップを投げ捨てると、背負っていたハルバードを取り出した。

 

 そして、伝説の吸血鬼に怯えているゾンビたちに向かって走り出す。魔剣はレリエルの血で汚れてしまった剣の成れの果てだから、ゾンビたちはその剣を汚した男を恐れているんだろう。まるで帝王を恐れる民衆のように、ゾンビたちは呻き声を上げず、黙って姿を現したレリエルと眷族たちを見つめている。

 

 でも、俺とエリスが最初にゾンビの首を両断した直後、再びゾンビたちは呻き声を上げ始め、真っ赤に汚れた得物を振り上げた。だが、既に俺とエリスは得物を構え、突進しながらゾンビたちに向かって武器を振り払っていたから、奴らが俺たちに武器を振り下ろすよりも先に、ゾンビ共が刀とハルバードの餌食になった。

 

 漆黒の刀に首を切断されたゾンビが崩れ落ちる。エリスが突き出したハルバードの先端部が、ゾンビを4体ほどまとめて串刺しにしてしまう。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 魔剣を持つジョシュアを守ろうと、ゾンビとなった騎士たちが必死に俺たちに向かって剣や槍を振り下ろしてくる。でも、すぐに傷だらけの体を鎧もろとも両断され、赤黒い血飛沫を上げながら崩れ落ちていった。

 

 血まみれの肉体が千切れ飛ぶ。俺とエリスの得物が、少しずつ真っ赤に変色していく。

 

 俺とエリスを囲んでいるゾンビたちが蹂躙されていく。後方でも信也たちや参戦してくれたレリエルたちにゾンビたちが次々に倒され、草原が死体だらけになる。

 

「どけッ!」

 

「遅いわよ!」

 

 前に踏み込みながら右手のアンチマテリアルソード改を振り下ろしてゾンビを頭から両断し、そのまま反時計回りに回転しながら左手のワイヤーの付いている小太刀を投擲。右隣のエリスに襲い掛かろうとしていたゾンビの頭を貫いたのを確認してから引き戻すと、目の前のゾンビのアキレス腱を右手の刀で斬りつけ、がくんと体勢を崩したゾンビの喉元に逆手持ちにしている小太刀の刃を叩き付ける。

 

 隣で奮戦しているエリスも、ハルバードの斧の部分でまとめてゾンビを吹っ飛ばし、目の前のゾンビがロングソードを振り上げた瞬間に頭を先端部で串刺しにする。そのまま得物を引き抜かずに振り回し、斧の部分でゾンビの頭を叩き潰しながら、串刺しになっていたゾンビを前方のゾンビの隊列に放り投げる。

 

 そして、エリスにゾンビを投げつけられて転倒した奴らに向かって、俺はトリガーを引きながら刀を振り下ろす。アンチマテリアルライフル用の弾薬が刀身の内部で爆発し、アンチマテリアルライフル並みの運動エネルギーを与えられた刀身がゾンビを5体も両断した。

 

 そのゾンビたちが吹き上げた血飛沫の向こうに、禍々しい剣を持った金髪の少年が立っていた。相変わらず派手な装飾の付いた防具を身に着け、ニヤニヤと笑っている。

 

「ジョシュアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 俺はエミリアを殺した怨敵に向かって絶叫した。

 

 この男がエミリアの心臓から魔剣の破片を取り出し、彼女を殺したんだ。そして計画に手を貸していた筈のエリスを殺そうとした。

 

 こいつに報復しなければならない。こいつをぶっ殺して魔剣を破壊するために、俺とエリスはゾンビ共の隊列を突破してきたんだ!

 

「まだ生きてたのか、余所者が…………」

 

「ぶち殺しに来たぜ、クソ野郎ッ!」

 

「ハハハハッ。僕をぶち殺す? 無理だよ。僕にはこの魔剣があるからね」

 

 そう言いながら、ジョシュアは紅いオーラを纏った禍々しい魔剣の切っ先を俺とエリスに向けて来た。

 

「あんなホムンクルス(クローン)を好きになるような馬鹿と、あんな魔剣を復活させるための道具を妹って呼んでる出来損ないなんて簡単に殺せる。安心しなよ。殺したら魔剣の力でお前たちをゾンビにして、僕の手下にしてやるからさぁ! ハッハッハッハッハッ!」

 

「―――今度は、止めを刺すからな」

 

「―――あ?」

 

 高笑いしていたジョシュアが、まだニヤニヤと笑いながら俺を見下ろした。

 

 お前は、また俺に負けるんだ。

 

「―――――――決着をつけるぞ、ジョシュアッ!」

 

「面白い。……………………無残に殺してやるぞ、余所者ッ!!」

 

 今度は、必ず止めを刺す。

 

 刀の持ち手を握りしめた俺は、姿勢を低くしてからジョシュアへと飛び掛かった。

 

 

 

 

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