異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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現代兵器と冒険者

 

 残光がすっかり消え去り、緑色の草原がいつも通りの光景に戻っていく。爆破された車両が未だに炎上していることと、草原の一部が抉られていることを除けば、完全にいつも通りの光景に戻っていることだろう。

 

 あの転生者は、さすがにあの電撃で完全に消滅したらしい。もしかしたら電撃に耐えるんじゃないかと思って本気でぶっ放したつもりだったんだが、単なるオーバーキルになっちまったようだ。

 

「ふう………」

 

 本気でぶっ放したせいで、魔力が結構減っちまった。何だか足がガクガクする。

 

 魔力を使い過ぎると、まるでスタミナを使い果たしたような疲労感が襲いかかってくる。呼吸を整えながら焦げ臭い香りが染み付く草原に腰を下ろし、俺は蒼空を見上げた。

 

 転生者を倒した。奴隷の少女を連れて行こうとしていた男を消し、彼女を救う事ができたんだ。

 

 これで俺たちは冒険者になると同時に、転生者ハンターになることも出来る。

 

《レベルが上がりました》

 

「お」

 

 すっかり忘れてた。格上の相手だからすぐにレベルが上がったんだろう。今度は何ポイント手に入るのかと考えながら目の前に投影されたメッセージを凝視する。

 

 レベルアップするとこのようにメッセージが表示され、レベルアップ後のレベルとステータスが表示されるようになっている。他にも、生産できる武器や能力の中にはレベルを上げないと生産できないという条件が付いている者もあるんだが、アンロックされた武器や能力もここに表示される仕組みになっている。

 

《現在のレベルは35です》

 

 一気に5もレベルが上がった………。格上の相手だからレベルアップは当然だと思ってたんだが、一気にレベルが上がっちまったぞ。ハーピーとかゾンビを倒しまくってやっとレベルが1上がってたような状態だったのに。

 

《攻撃力は970、防御力は960、スピードは880です》

 

 ステータスも順調に上がっている。相変わらずスピードのステータスだけ低いが、俺は硬化を使いこなせるようになっているし、反射神経にも自信があるからあまり問題はないだろう。

 

 でも、9歳くらいの頃からかけっこでラウラに負けるようになったんだよな………。

 

《アサルトライフル『G36』がアンロックされました》

 

 おお、G36か!

 

 G36は、ドイツ製のアサルトライフルだ。近距離や中距離での射撃に対応するために、後部にスコープやドットサイトを搭載した大型のキャリングハンドルが特徴的なライフルで、弾薬は5.56mm弾を使用する。非常に頑丈なアサルトライフルで、命中精度にも優れている。これの他にも、銃身の短いG36CやG36Kなどのバリエーションもある。

 

 これは作っておくべきだな。個人的に好きなアサルトライフルだし、頑丈だからダンジョンの中に持ち込んでも問題ないだろう。ポイントも更に3000ポイントくらい手に入ったから、生産してカスタマイズも済ませておこう。個人的にはG36Kを作りたいところだ。

 

 呼吸を整えながらどんなカスタマイズにするか想像していると、足音が聞こえてきた。メニュー画面を開く前に頭を起こしてそちらの方を見てみると、スナイパーライフルを背負ったラウラが、先ほど彼女の方へと逃げていったエルフの少女と一緒にこっちに歩いてくる。

 

「おう、ラウラ―――――ギャッ!?」

 

「お疲れ様っ! タクヤ、かっこよかったよ!」

 

 そう言いながら倒れている俺に向かって抱き付いてくるラウラ。お礼を言うために口を開いていたエルフの少女は、いきなり抱き付かれている俺を見下ろしておろおろしている。

 

「ラウラ、人前で抱き着くなって!」

 

「いいじゃん。離れてたから寂しかったのっ!」

 

 離れてたって、たった600mくらいだろうがッ!? しかもお前の視力なら見えてたろ!?

 

 必死に抵抗する姉を何とか引き剥がそうと足掻きながら、俺はエルフの少女を見上げた。彼女はまだおろおろしていたが、俺と目が合っていることに気が付くと、顔を真っ赤にしながら可愛らしい声で言った。

 

「あ、あのっ………あ、ありがとう…ございました………っ!」

 

「気にすんなって。……もうお前を連れて行こうとしてる奴なんていないよ――――――ウギャッ!?」

 

 エルフの少女と話をしている最中に再び姉に押し倒される俺。しかもラウラは、今度は俺が起き上がれないように両手を腕に絡みつかせると、横になっている身体の上に乗って頬ずりを始めやがった。

 

 お、お姉ちゃん………。そんなに寂しかったのかよ。

 

 でも、悪いが今はこの子と話をさせてくれ。

 

「せいっ!」

 

「ふにゃ!?」

 

 左に身体を傾けてから反動を付け、一気に右へとごろんと転がる。頬ずりすることに夢中だったラウラはあっさりと俺と一緒に回転し、今度はラウラが草原の上で横になることになった。

 

 そして彼女が驚いている隙に手を離し、何とか立ち上がる。

 

「―――――すまん。俺のお姉ちゃん、ブラコンなんだ」

 

「そ、そうなんですか………」

 

「とりあえず、王都まで戻ろう。親父に言えば保護してくれる筈だし、すぐに家族と再会できる筈だ」

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

「気にするなって。………さあ、街まで戻―――――――ふにゃあっ!?」

 

 今度は背後から抱き付いてくるラウラ。しかもそのまま押し倒さず、逆に俺の身体を引っ張り、2人で一緒に再び草原の上に倒れる羽目になった。

 

「えへへっ。お姉ちゃんの真似かな?」

 

「ち、違うって! いいから離してくれよ。家帰ったらいっぱい甘えていいからッ!!」

 

 実の弟にこんなに甘えてくる姉はいないだろ!?

 

「ダメだよぉ。今から夜までずーっと甘えてたいのっ」

 

「よ、夜まで!? おい、親父に報告にもいかなきゃダメなんだぞ!?」

 

「やだやだっ! ずっと甘えるのっ!」

 

 駄々のこね方が3歳の頃から全然変わってない。困ったお姉ちゃんだ。

 

 苦笑いしながら俺たちを見下ろすエルフの少女と目を合わせた俺は、同じように苦笑いしてからため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 モリガン・カンパニーの本社は、昔の騎士団の基地を改築して本社として使っている。そのため俺の住んでいた世界にある会社の一室とは全くイメージが違う。

 

 壁はレンガ造りで、まるで会社の中というよりは城の中にいるかのようだ。廊下や広間に置かれている旧式の鉄兜や甲冑は、この建物が騎士団の本部として使われていた頃の名残なんだろう。よく見ると、壁には騎士団のエンブレムも残っている箇所がある。

 

 かつて騎士たちの拠点だった建物の中を歩くのは、黒いスーツに身を包み、漆黒のシルクハットと仕込み杖を手にした紳士たち。違和感を覚える光景だ。

 

 彼らとすれ違った俺とラウラは、廊下の一番奥にあるドアの前まで行くと、そのドアを2人で一緒にノックした。

 

「どうぞ」

 

 帰ってきた返事は、やっぱり聞き慣れた声だ。ハヤカワ家の大黒柱であり、俺たちを鍛え上げてくれた男の声。

 

 ドアを開けた俺たちは、同時に社長室の中へと足を踏み入れた。元々は騎士団の団長に用意された執務室だったらしく、この部屋の中にも騎士団の拠点だった頃の名残がある。壁に立て掛けられた銀色の剣や、全身を覆う旧式の甲冑。今の騎士団よりも古い装備品が、観賞用としてなのか部屋の中には置かれている。まるで博物館にでもやって来たかのような雰囲気を感じていたが、窓の近くにあるデスクの向こうに座る赤毛の男を見た瞬間、その雰囲気は一瞬で消し飛んだ。

 

 デスクの向こうにいるのは、モリガン・カンパニーの頂点に立つ男。4つの分野を指揮する四天王の上に立つ魔王であり、俺たちの親父でもある男だった。

 

「―――――よくやったな」

 

 デスクの上で書類にサインをしていた親父は、羽ペンから手を離すと、俺たちの顔を見つめながらそう言った。

 

 前世では、当然ながら親父に褒められたことなどない。どれだけ努力しても、喜んでくれたのは優しい母さんだけだった。やはりこの男は、最高の父大矢なのかもしれない。

 

「パパ、私たち頑張ったよ!」

 

「ああ、話は聞いたよ。―――――――エイナ・ドルレアン行きの列車の線路が吹っ飛んだそうじゃないか」

 

「え?」

 

「あっ」

 

 そういえば、車両をC4爆弾で吹っ飛ばした時に線路も一緒に吹っ飛んでいたような気がする。C4爆弾のような強烈な爆薬を車両の中で使えば、床の下にある線路が無事で済むわけがない。レールは千切れた上にひしゃげていて、列車が走れるような状態ではなかった。

 

 腕を組みながら微笑む親父。ものすごく優しそうな顔をしているんだが、まるで獲物に狙いを定めた時のような猛烈な威圧感を感じる。

 

 お、お父さん……?

 

「線路の修理が終わるまで、エイナ・ドルレアン線は運休になる。まあ、我が社の優秀な社員たちならば2日で元通りにすると思う」

 

「ご、ごめんなさい………」

 

「まったく………だが、強くなったじゃないか」

 

 そう言った瞬間、親父から威圧感が消えた。

 

「親父………」

 

「実はな、まだお前たちを転生者と戦わせるのは早いと思っていたんだ」

 

 炎のように真っ赤な顎鬚を触り、嬉しそうに笑いながら言う親父。今の彼は魔王と呼ばれる社長ではなく、俺たちの父親に戻っていた。

 

「だが………予想以上だ。もう、旅に出ても心配はないな」

 

「じゃあ………認めてくれるって事か!?」

 

 やった……! これで冒険者として旅に出る事ができるぞ!

 

 親父に認めてもらえたんだ!

 

「ああ。………ほら、今日中に手続きに行くなら早く行け。管理局の窓口は5時までだぞ」

 

「え?」

 

 ラウラと一緒に大はしゃぎしようと互いに手を伸ばしていた瞬間だった。親父が言ったその一言が、燃え上がっていた喜びの中に氷水を放り込んでくれたんだ。ぞっとしながら社長室の中にある古時計を見上げて時刻を確認してみると、もう5時まであと20分しかない!

 

 なんてこった! 

 

 出来るだけ早めに手続きをしておこうという事にしていたから、今日中には手続きを済ませ、明日は準備をして、明後日には出発する予定だったんだ。

 

 おいおい、ここから管理局まで突っ走っても10分はかかるぞ!?

 

「ふにゃあああああああああ!! タクヤ、早く行こうよ!!」

 

「あ、ああ! じゃあ親父、手続き行ってくる!!」

 

「おう、馬車の前に飛び出すんじゃねーぞ」

 

 馬車に轢かれても、多分俺とラウラはかすり傷くらいで済むんじゃないだろうか。サラマンダーと人間のキメラとして生まれたから身体は頑丈だし。

 

「あ、エルフの女の子の保護は――――――」

 

「ちゃんと保護したよ」

 

「ありがとっ!」

 

 安心した。これであの子は家族の所に帰れるだろうし、もう奴隷として売られて辛い思いをされることはないだろう。

 

 この世界は段々と変わっているが、奴隷の制度はまだ残っている。いつかその残酷な制度も廃止しなければならない。人が人を商品として売るということはあってはならないのだから。

 

 彼女が無事に保護されたことを知ってほっとした俺は、ラウラと一緒に本社の廊下を突っ走り始めた。

 

 マラソン大会の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 王立冒険者管理局は、その名の通り冒険者たちを管理するために設立された組織だ。俺たちが生まれる前は、傭兵ギルドと冒険者ギルドを管理するような組織は存在しなかったため、各々のギルドで勝手に依頼を受けていたような状態だった。まさに無法地帯だったらしい。

 

 そのため、管理するような組織からのサポートは一切なく、当時の冒険者はダンジョンについて自力で情報を集めなければならなかった。他の冒険者から話を聞いたり、冒険者が立ち寄る宿屋の店主から情報を教えてもらったりしていたらしいんだが、不正確な情報のせいで危険なダンジョンに足を踏み入れ、そのまま命を落とすというケースがあまりにも多かったらしい。

 

 だから管理局では冒険者のサポート共に、ダンジョンについての情報提供も行っている。

 

「な、なんとか間に合った………」

 

「ふにゃあ………」

 

 営業時間終了10分前に辛うじて管理局の建物の前へと辿り着いた俺とラウラは、呼吸を整えながら目の前の建物を見上げた。

 

 王都ラガヴァンビウスの東側にあるこの管理局の建物は、管理局という組織自体が最近設立されたせいなのか新築で、産業革命が起きた最近の建築様式の影響を受けているらしく、レンガ造りではあるもののまるで他の建物と張り合うかのように高い建物になっている。黒ずんだレンガ造りの壁は要塞のようで、屋根は槍のように尖っている。

 

 屋根の上で揺れるオルトバルカ王国の国旗と管理局のエンブレムを見上げた俺は、ラウラと一緒に建物の中へと足を踏み入れた。

 

 建物の中には、防具を身に着けて武器を腰に下げた冒険者たちが何人もいた。窓口で何かの手続きをしている冒険者もいるし、危険な魔物を討伐した自慢話をする体格のいい冒険者もいる。俺たちにとってはこいつらは先輩になるって事だな。

 

 すぐに追い越してやるぜ。

 

「ふにゃあ………色んな人がいるんだね」

 

「最近は傭兵よりも冒険者の方が需要があるらしいからなぁ………」

 

 昔は魔王が倒された影響で魔物が狂暴化していて、街や村が魔物に襲撃されることが後を絶たなかったため、騎士団よりも素早く対応できる傭兵ギルドの需要が高かったんだが、最近は魔物も凶暴化することはなくなり、街が襲撃されることも稀になったため、傭兵の需要は急激に下がっている。

 

 それでも親父が率いていたモリガンという傭兵ギルドの名は21年も経った今でも有名で、冒険者や傭兵の中には彼らのファンがいるらしい。

 

 とりあえず、早く手続きを済ませてしまおう。営業時間はあと9分だよ、お姉ちゃん。

 

「ん?」

 

 窓口の方に行こうとすると、ラウラが手を握ってきた。

 

 今日は彼女の援護のおかげで転生者を倒せたようなものだからな。ラウラが避雷針代わりに弾丸を撃ち込んでくれなかったら、あの最後の一撃は外れていただろうし。

 

 恩返しだ。甘えさせてあげよう。

 

 手を握り返すと、ラウラは嬉しそうに笑ってくれた。目が虚ろな時のお姉ちゃんは怖いんだが、こうして甘えてくるラウラは本当に可愛らしい。

 

 拙いな。段々とシスコンになりつつあるぞ。

 

 ラウラと手を繋ぎながら歩いていると、他の冒険者たちがこっちを少し顔を赤くしながら見てくる。てっきり美少女と手を繋いでいる事を妬まれるんじゃないかと思ってたんだが、違うみたいだな。

 

「おい、あの2人可愛いな。冒険者?」

 

「いいなぁ……。美少女が手を繋いでるぜ」

 

「俺のパーティーにもあんな美少女が欲しいなぁ………」

 

「どっちが好み? 俺は髪が蒼い方だなぁ………」

 

 ちょっと待て。俺まで女だと思われてるのか!?

 

 そうか。妬まれなかったのは俺が男じゃなくて女だと思われてるから、カップルが手を繋いでいるように見えたんじゃなくて、美少女同士が手を繋いでいるように見えたのか!

 

 でも、妬まれなくて良かったぜ。

 

「すいません、冒険者の資格を取得したいんですが」

 

「はい、手続きですね?」

 

 少し傷つきながら窓口にいる黒いスーツに身を包んだ金髪の女性に言うと、その女性は笑顔を浮かべながら書類を2人分と羽ペンを渡してくれた。

 

「では、こちらの書類に記入をお願いします」

 

「はい。ほら、ラウラ」

 

「うんっ!」

 

 記入するのは………名前と生年月日と性別と年齢だな。下の方にはアンケートみたいなのがある。これだけでいいんだろうか? 本当に簡単な手続きだな。

 

 羽ペンを使って名前を記入。生年月日も記入し、性別はちゃんと男と書かれている方に印をつける。年齢にも17と記入してアンケートに印をつけ終えた俺は、同時に記入を終えたラウラと一緒に女性にその用紙を提出した。

 

「はい、ではバッジを―――――――え?」

 

 俺たちから書類を受け取った受付の女性が、俺の書いた方の書類を見て目を丸くしている。きっと性別を見てびっくりしてるんだろうな。彼女も俺の事を女だと思っていたに違いない。

 

 でも、残念ながら男なんだよ。ややこしい容姿と髪型でごめんなさい。

 

「お、男……だったんですか?」

 

「はい、男です」

 

「この子は私の弟なんですっ」

 

「し、失礼しました。……で、では、こちらが冒険者のバッジになります。証明書にもなりますので、必ず携帯するようにしてください」

 

 渡されたのは、コインよりも少し大きいくらいの銀色のバッジだった。真ん中には冒険者管理局のエンブレムである剣とハンマーを手にしたドラゴンのエンブレムが刻み込まれている。

 

 これが証明書になるんだな。なくしたら再発行してもらえるんだろうか?

 

「すいません、紛失した場合は……?」

 

「紛失した場合は、最寄りの管理局の窓口までお願いします。個人情報と照らし合わせて確認してから再発行を行わせていただきますので」

 

「はい、分かりました」

 

 失くさないようにしよう。

 

「では、これで登録は完了です。これからあなた方は、冒険者として各地のダンジョンを調査していく事になります。調査した結果はレポートにまとめ、最寄りの管理局まで提出をお願いします。よろしいですね?」

 

「はい」

 

「はーいっ!」

 

 冒険者が調査した結果を確認してから、管理局が騎士団に通達し、その通達を受けた騎士団が安全になったダンジョンに測量のための人員を送り込むという事になっている。簡単に言えば冒険者は測量前の調査と先遣隊ということになる。

 

「それでは、幸運をお祈りします」

 

 ぺこりと頭を下げる受付の女性。彼女に礼を言った俺たちは、もう一度2人で手を繋ぎながら出口へと向かう。

 

 簡単な手続きで驚いたが、これで俺たちはもう冒険者だ。これからはこの甘えん坊のお姉ちゃんと一緒に、色んなダンジョンを調査していくことになる。

 

 夕日で橙色に染まった石畳の通りに出ると、隣で手を繋いでいたラウラが身体を寄せてきた。彼女に甘えさせてあげることにした俺は、周囲にあまり人が歩いていないことを確認してから、甘えてきた彼女と一緒に再び歩き始める。

 

「………これで、一緒に旅ができるね」

 

「ああ。楽しみだなぁ」

 

「ふふっ。………ねえ、タクヤ」

 

「ん?」

 

 左手に両手を絡みつかせていたラウラが、両手に力を入れた。

 

「あのね…………ずっと、お姉ちゃんと……一緒にいてくれる………?」

 

「………」

 

 放っておけるわけがない。

 

 こんなに依存してる姉を、突き放せるわけがない。

 

「――――――お前、料理できる?」

 

「ふにゃっ? ……で、できないよぉ…………」

 

「洗濯も苦手だったよな?」

 

「うぅ………」

 

「はははっ。―――――安心しろよ。ちゃんと一緒にいてやるから」

 

 腕にさらに力を込めるラウラ。

 

 きっと彼女が俺に依存するようになったのは、11年前のあの事件が原因だ。見知らぬ男たちに誘拐された状況で、何とか俺と一緒にいたから恐怖に耐える事ができていたというのに、俺がどこかに連れて行かれそうになったから耐えられなくなってしまった。

 

 それ以来、俺から離れることを更に嫌うようになってしまったんだ。

 

 きっとあの時の恐怖が蘇ってきてしまうから、ラウラは1人になる事を嫌っているんだろう。

 

「お前に、怖い思いはさせない。ちゃんと俺が守るから」

 

「………」

 

 すると、腕にしがみついていたラウラが、いつものベレー帽をかぶったまま顔を上げた。

 

「………いつか……お姉ちゃんも守ってあげるんだから………」

 

「………ははははっ、そうだな。ラウラは俺のお姉ちゃんだもんな」

 

 性格が幼いから、姉というよりは妹みたいな感じだが。

 

「じゃあ、困った時は守ってくれ。俺もお姉ちゃんを守るからさ」

 

「……うん、任せて! えへへっ!」

 

 こんなに弟に甘えてくるお姉ちゃんを放っておけるわけがない。家事もできないから、ちゃんと俺が面倒を見てあげないと。

 

「タクヤっ」

 

「ん?」

 

「えへへっ。大好きだよ、タクヤっ!!」

 

「ははははっ。――――俺も、お姉ちゃんが大好きだよ」

 

 ヤバい。ラウラのせいでシスコンになっちまったかもしれない。

 

 顔を赤くしたまま、俺はラウラと一緒に家へと向かって歩き続けた。

 

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