異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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左足

 

 一歩前に進むと、ジョシュアの顔が更に引きつった。奴の下半身を覆う死者の肉の塊が蠢き、ゆっくりと後ろへ下がっていく。

 

 腐敗して黒ずんだ皮膚が蒼白い星明り(スターライト)に照らし出され、真っ白に染まる。今から真っ赤に染まるのだから、色が分かりやすくなってくれるのはありがたい。

 

『ま、待て。おい、魔剣! 牙を剥く相手が違うだろっ! 俺じゃなくて、そいつらを殺せ! 何をやっている!?』

 

 いい加減に認めろ。…………これはお前の剣ではなく、もう俺の剣なのだ。そしてお前は力を持っていないくせに、虎の力を借りて王座に座っていたに過ぎないただの狐。おまけに脅威だった再生能力まで失っているのだから、もうチェック・メイトと言っても過言ではない。

 

 先ほど斬りおとされた腕は、やはり再生していなかった。銃弾や砲弾を何発撃ち込まれても再生した怪物は、やっと人間に戻ってくれたのである。

 

 ああ、そっちの方が良い。怪物は俺たちだ。人間たちを蹂躙し、勝てないからと諦められ、畏れられるのは俺たちの方がふさわしい。

 

「…………よお、クソ野郎」

 

『ひいっ…………!』

 

 ガチン、と隣に立つ親父の方から音が聞こえてきた。魔剣だった蒼い剣を手にしながらそちらを見てみると、親父はいつの間にか愛用の超大型リボルバーを手にし、撃鉄を指で動かして射撃準備をしている。

 

 オーストリアで生み出された、『プファイファー・ツェリスカ』と呼ばれる大型のリボルバーだ。リボルバーとはいえソードオフ・ショットガンや通常サイズのSMG(サブマシンガン)に匹敵するサイズを持ち、シリンダーの中には強力な.600ニトロエクスプレス弾というライフル弾を5発も装填可能という、リボルバーを超えたリボルバーなのである。

 

 その代わりサイズが大型化し、銃そのものも重いため、普通のリボルバーのように片手で扱うのは転生者でもない限り不可能という、扱いの難しい得物だ。俺も使った事があるけれど、キメラでも扱うのが難しいと思ってしまうそれを、親父はこの時代から愛用していたという。

 

 速河力也という男は、とことん大口径の武器を好んだ。反動や実用性を二の次にしてまで、大口径の破壊力を探求し続けたのだ。そんなことをすれば銃は重くなるし、反動(リコイル)も大きくなる。威力を上げれば上げるほど、〝使いやすさ”は反比例して下がっていくものなのだ。

 

 そこまでして破壊力を求めたのは、彼が経験した戦いが原因だという。この異世界で初めて経験した転生者との戦いで、レベルの差のせいで通常の口径の弾丸はことごとく弾かれてしまい、ほとんどダメージを与える事が出来ずに苦戦したという経験をした親父は、レベルに差があっても確実に殺せるように大口径の武器を常に求めていくようになったのだ。

 

 そう、この男が経験した戦いは、俺たちが経験した今までの戦いよりも常に危険な戦いばかりだったのである。だからこそ―――――――この男は怪物となり、魔王になった。

 

 シングルアクション式のリボルバーを構える親父の隣で、ジョシュアに利用され、魔剣のための生け贄にされた母さんも銃を構える。手にしているのは、アメリカ製SMG(サブマシンガン)のクリス・ヴェクターだ。

 

 使用される.45ACP弾の強力なストッピングパワーも持ち味の1つだが、最大の持ち味はやはり反動を吸収する機構を搭載している事だろう。扱いやすさと破壊力を両立した優秀な銃である。しかも汎用性も高いため、あらゆるカスタマイズが可能なのだ。

 

 母さんはそのクリス・ヴェクターにサプレッサーとフォアグリップとホロサイトを装備しているようだった。剣と併用しながら使う事も考慮しているのか、すぐに狙いを付けられるようにレーザーサイトまで装備されている模様である。モリガンの特徴的な漆黒の制服に身を包んだ少女の騎士が、最新型のSMG(サブマシンガン)を手にしている光景は一見するとミスマッチに見えてしまうけれど、どういうわけなのか母さんが持つと全く違和感を感じない。

 

「…………ジョシュア」

 

『…………!』

 

 クリス・ヴェクターの銃口をジョシュアに向けながら、母さんがいつもよりもやや低い声で言った。凛としたいつもの声とあまり変わらないように聞こえるけど、彼女の声は殺意と冷酷さを孕んでいる。銃口を向けながら言われたジョシュアからすれば、もう名前を呼ばれるだけでも死刑宣告と変わらない。

 

「やりすぎたな、貴様」

 

『ほ、ホムンクルスの分際で…………! お、俺は人間だぞっ! ホムンクルスなんて、所詮人間が利用するための道具じゃないかっ!!』

 

 追い詰められたというのに、ジョシュアは今度は母さんを罵倒し始めた。お前はホムンクルスだから、人間と結ばれる資格なんてないと言わんばかりに言い放つクソ野郎に今すぐスターライトを振り下ろしてやりたくなったけれど、隣に立つラウラが俺に向かって首を横に振ったことで、俺は少し落ち着いた。

 

 これは、親父たちの戦いだ。止めを刺すのは俺ではなく、親父たちがふさわしい。だから俺たちは彼らを支えつつ、見守るだけでいいのだ。もし首を横に振っても俺が拒否するようだったら、ラウラはそう言って俺を諭すつもりだったのだろう。いつも甘えてばかりいる彼女も大人びたものだと感心しながら、俺はそっと星剣を下ろす。

 

『大人しくナバウレアで死んでいればよかったのに! 何で生き返ってるんだよ!?』

 

「…………」

 

『道具のくせに…………そんな余所者と一緒に旅をして、人間になったつもりか!? お前なんか、とっとと廃棄処分にすればよかったんだ! ああ、最低限の記憶しか持たないタイプでも作って、そっちに魔剣を埋め込んでもらえばよかった! 父上は間違ったんだ! こんな…………エリスを劣化させたような道具に、魔剣を埋め込むべきじゃなかったんだ!!』

 

 罵倒されても、母さんは全く動じなかった。黙ってクリス・ヴェクターを向けたまま、紫色の鋭い瞳で無様に脂汗を流しながら喚く少年を、黙って見下ろしている。

 

『お前なんか…………し、失敗作だ! 計画としても、道具としてもなぁッ!!』

 

「…………おい」

 

 重々しい声が――――――――ジョシュアの喚き声を、上書きする。

 

 その瞬間、一気に殺気が草原を包み込んだ。今まで数多の強敵と戦ってきた最強の転生者が、ついにジョシュアへの殺意を表面化させたのだ。

 

 そして―――――――――対戦車ライフルでも発砲したのではないかと思えるほどの轟音で、草原が震えた。ゆらりと揺れる血まみれの草たち。でも、その草よりも揺れたのはその上に転がる、怪物と化した金髪の少年の方だろう。

 

 轟音が響き渡った瞬間、まるで挽肉の中に埋め込んだ爆竹を炸裂させたかのように、細かい肉の破片が舞い上がった。

 

『がっ…………ああっ………ああああああああああああああっ!!』

 

 プファイファー・ツェリスカの.600ニトロエクスプレス弾が、ジョシュアの下半身を包み込んでいたゾンビの塊を直撃したのだ。まるで腐った肉で作り上げたカボチャのような形状の下半身から生える無数の手足が、びくん、と痙攣して動かなくなる。

 

 再生能力がなくなった以上、あの移動に適さない下半身はただの重りだ。ジョシュアは自ら自分の両足を斬りおとしたにも等しい愚行を選んでいたのである。

 

 もう、あれでは逃げられない。再生能力があれば機動力は必要なかったのだが、死ぬ確率が格段に上がった―――――――――正確に言うならば、やっと常人と同じ確率に戻った―――――――――事によって、問題なかった部分がそのまま仇になってしまったのだ。

 

 逃げられない上に、撃たれれば死ぬ。しかも相手は消耗しているとはいえ、のちに世界最強の傭兵ギルドとして伝説を作り上げるモリガンの傭兵たち。魔剣を失ったジョシュアは、もう殺される以外の選択肢はなかった。

 

「…………俺の女を、馬鹿にするな」

 

『はぁっ、はぁっ………俺の女? ………はっはっはっはっ…………そんな作り物を抱いて、子供でも作るつもりか…………? だったら、その子供も作り物だ! お前の血筋は、お前の代から作り物になるんだ!』

 

 撃鉄(ハンマー)を動かした親父は、一瞬だけ俺の方を見てにやりと笑った。

 

 そして、今度はジョシュアの脇腹を抉るように、わざと銃身を横に逸らしてからトリガーを引く。.600ニトロエクスプレス弾がジョシュアの脇腹の皮膚を抉り、肋骨を容易くへし折って肉を食い千切ると、あっさりと貫通して草原の中へとめり込む。

 

『ああああああっ!! こ、この野郎ッ!!』

 

 その瞬間、動きが止まっていたジョシュアの下半身がぴくりと動いた。てっきりさっきの親父の一撃で死滅したと思っていたんだが、どうやら大きなダメージを受け、一時的に動きを止めていただけらしい。

 

 もう再生はしていないようだが、生命力だけは人間を上回っていたようだ。それか、ジョシュアの執念なのかもしれない。

 

 けれど、こんなクソ野郎の執念に負けるわけにはいかないだろ?

 

 無数の腐った手足を蠢かせながら、怪物と化したジョシュアが立ち上がった。傷口から腐臭と鮮血をまき散らしながら、血走った両目で親父たちや俺たちを見下ろす。もう既に魔剣は残っていないが、あいつの体内にはまだ魔剣から供給された闇属性の魔力が残っているようだ。再生できるレベルの魔力ではないが、強力な魔術を使うには十分な量である。

 

「――――――撃て(ファイア)ッ!!」

 

 親父がそう言うと同時に、プファイファー・ツェリスカをぶっ放した。ズドン、と太い銃身からマズルフラッシュが噴き上がり、大口径のライフル弾が回転しながら飛び出していく。その隣では、親父の大型リボルバーほど派手ではなかったけれど、サプレッサーを装着されたクリス・ヴェクターも火を噴いていた。マズルフラッシュは見えず、銃声も聞こえないけれど、立て続けに放たれる獰猛な.45ACP弾の群れは確実にジョシュアの肉体に着弾し、腐った肉片と鮮血を更に周囲にぶちまけていく。

 

『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

「うるさいわよ」

 

 数多の弾丸に貫かれていくジョシュアへと、今度はハルバードを手にしたエリスさんが突っ込んでいく。

 

 すると、ジョシュアの肉体がほんの少し盛り上がったように見えた。何をするつもりなのかと思いながらハンドガンを向けて警戒していると、その盛り上がった箇所から腐った肉を繋ぎ合わせたようなグロテスクな触手が飛び出し、まるで一斉発射されたミサイルのように、接近していくエリスさんへと向かって伸び始めたのである。

 

 先ほど俺の腹を貫いた触手だ。キメラである上に転生者でもある俺を貫くほどの威力があったのだから、エリスさんが喰らったら間違いなくただでは済まない。

 

「ラウラ」

 

「了解(ダー)」

 

 隣に立つラウラと目を合わせてから、俺たちも走り出す。

 

 走りながら左手のCz75SP-01を連射し、9mm弾で触手を撃ち抜いていく。幸いジョシュアの触手はそれほど防御力が高くない――――――――というより、防御力よりも再生能力の方が厄介だった―――――――――らしく、ハンドガン用の弾薬でも命中させられれば容易く千切る事ができた。

 

 ラウラのような精密な狙撃は出来ないけれど、このように複数の相手を素早く近距離で撃ち抜いていく〝CQB”は得意分野だ。

 

 隣を走っていたラウラは2丁のP90を構えると、無表情のままトリガーを引き続けた。貫通力に優れる5.7mm弾が立て続けに放たれ、その度にまるでマズルフラッシュの焔を曳いた弾丸の群れが、流星のように煌めきながら触手を寸断していく。

 

 当たり前だが、2丁の銃を同時に使うのは非常に困難だと言われている。少なくとも実際の戦闘ではそんな事をする場面は殆どない。二丁拳銃が活躍するのは映画やアニメの中か、西部劇の中だけだ。

 

 その定説を嘲笑うかのような命中率で、ラウラは俺よりも多くの触手を叩き落とす。エリスさんに向かっていた筈の邪悪な矛は、彼女に触れることすらできずに叩き落とされ、腐臭と血肉をばら撒いていく。

 

 左手でハルバードを構えるエリスさんが、ジャンプする寸前にこっちを見てウインクした。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

『グエッ―――――――――』

 

 跳躍したエリスさんの強烈な刺突は、おそらく最初はジョシュアの頭を狙っていたのだろう。再生能力が失われた今では、ジョシュアは普通の人間と同じように殺す事ができる。それゆえに急所への攻撃は、奴を殺すための近道なのだ。

 

 しかし、危機感を持ったジョシュアは思ったよりもしぶとかった。刺突を完全に避けることは出来なかった模様だが、まるでパンチを躱すボクサーのように上半身を横へとひねり、エリスさんの刺突を逸らして肩を抉られる程度で済ませたのである。

 

『この―――――――』

 

 右手を突き出し、攻撃を外したエリスさんへと魔術を放とうとするジョシュア。しかし―――――――次の瞬間、その右腕に鮮血を思わせる真紅の氷が突き刺さり、まるでギロチンのように彼の腕を寸断していた。

 

 そのギロチンを振り下ろした死刑執行人は、エリスさんから生まれてくる事になっている赤毛の少女。絶対零度の氷の魔術を引き継いだ、真紅のキメラであった。

 

「ママはやらせない」

 

「ナイス!」

 

『この小娘がぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』

 

「やかましいッ!」

 

 ラウラは小娘じゃねえ。もう立派なレディーだ!

 

 俺の接近にジョシュアが気付き、無数の触手を突き出してくる。弾幕を張っているつもりなのかもしれないが、その攻撃の弾道は全部容易く見切れた。どのように躱せば攻撃を喰らわずに済むかを一瞬で判別した俺は、右手に星剣スターライトを担ぎ、左手のハンドガンで躱し切れそうにないやつを叩き落としながら急迫する。

 

 腐臭が強くなっていく。血に塗れた触手が、俺を貫くことなく地面を貫く。

 

 まるで数多の迫撃砲が砲撃してくる真っ只中を駆け抜けているようだ。土が抉れ、すぐ近くに触手が着弾する。攻撃が掠める度にぞくりとするが、しかし全く当たらない。

 

 弾幕を全て躱した俺は、そのまま走りながら星剣を振り上げた。蒼い輝きを増しながら天空へと突き付けられたその得物を、剣そのもの重さと自分の腕力をフル活用しつつ振り下ろす。

 

 夜空で煌めく星明りを彷彿とさせる光を放ちながら振り下ろされた星剣スターライト。その煌めきは美しかったが、剣の届く間合いではない。傍から見れば空振りにしか見えないが―――――――――次の瞬間、剣を包み込んでいた蒼い光が刀身から剥離したかと思うと、蒼い斬撃を一瞬で形成し、そのままジョシュアへと向けて放たれたのである。

 

 星明りで形成された斬撃はジョシュアの胴体を切り裂き、身体から生えていた触手をまとめて切断してしまう。

 

『ギャァァァァァァァァァァァァァァッ!!』

 

 このまま止めを刺したいところだが…………今は、止めを刺すにふさわしい人間がいる。

 

 俺たちではないよ、止めを刺すのは。

 

『こ、このクソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 まだ生き残っている触手を総動員し、俺を貫こうとするジョシュア。

 

 そういえば、小さい頃に両親の寝室でエリスさんのエロ本を発見しちまった時、彼女は『触手って、素晴らしいのよ?』って言ってたっけな。まあ、確かに触手も悪くないけど…………俺が襲われるのはまっぴらごめんだ。

 

 はははっ、どうでもいいけどな。

 

「やっちまいなよ、2人とも」

 

 ああ、やれ。

 

 終わらせろ、速河力也――――――――!

 

「――――――――よお、ジョシュア」

 

「――――――――お返しだ、ジョシュア」

 

『…………………!!』

 

 俺に攻撃しようとしている隙に、ジョシュアは見事に一番危険な2人の接近を許していた。

 

 数多の転生者を葬ってきた初代転生者ハンターと―――――――――彼と共に激戦を戦い抜いた、最強の剣士の2人を。

 

 さあ、やれ。

 

 クソ野郎を、殺せ。

 

 狩れ。狩ってしまえ。

 

 剣を振るえ。銃を放て。理不尽を纏い、蹂躙を振るって、あらゆる敵を葬りつくせ。

 

「――――――――やれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

「「УРааааааааааа!!」」

 

『や、やめ――――――――』

 

 もう、2人を迎撃できる触手は残っていなかった。殆ど俺とラウラに叩き落とされていたのだから。

 

 跳躍した親父と母さんが、手にしている銃をジョシュアに向かって突き出す。

 

 親父のプファイファー・ツェリスカと母さんのクリス・ヴェクターが、次の瞬間、同時に火を噴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 腐臭まみれの空気が、少しずつ元通りになっていく。

 

 銃をホルスターに戻した俺は、ため息をつきながら目の前で蜂の巣にされた金髪の少年を見下ろした。魔剣という忌々しい剣を復活させ、その力で世界を支配しようとしたちっぽけな野望の持ち主は、俺の目の前で今まで俺が殺して来た奴らの死体と同じように転がっているだけだ。

 

 エミリアとエリスを利用しようとした男は、もうくたばったんだ。そして俺とこいつの因縁も、さっきの一撃で終わった。

 

 タクヤの奴が魔剣を奪い取ってしまったせいなのか、周囲で蠢ているゾンビたちはもう見当たらない。本部の方はどうなっているんだろうか?

 

 ともあれ、邪悪で禍々しい伝説はこれで終わりだ。

 

 ジョシュアの死体から踵を返そうとしていると、何かが俺の左足を握ったような気がした。エミリアたちの手にしては少し大きな手が俺の左足を握っているようだ。

 

 誰だ?

 

 視線を左足に向けてみた瞬間、俺はぞっとした。

 

「なっ!?」

 

「パパ!」

 

『力也さん!!』

 

「が…………ぁ……………!!」

 

 ジョシュア……………! まだ生きてやがったのか!!

 

 俺の左足を掴んでいたのは、なんと今しがた俺たちに蜂の巣ににされたばかりのジョシュアだった。近づいてきた俺の左足を、まだ残っていた触手で掴んでいるんだ。

 

「お前の…………身体を………………よこせぇ……………!」

 

「こ、こいつ………………! ぐっ!?」

 

 俺の左足に触手で掴みかかっているとはいえ、こいつはもう風前の灯火だ。放っておいても力尽きるだろうし、もう1発銃弾を叩き込めば簡単に殺せるだろう。もう再生能力すら残っていないのだから、殺すのは容易い。

 

 でも、俺が奴を振り払う前に、俺の脹脛の部分に激痛が何本か突き刺さった。

 

 なんと、ジョシュアの触手は再びあの紅いオーラを纏っていた。先ほどゾンビたちから汚染された魔力を吸収した時のように、紅いオーラを更に小さな触手に変形させて、俺の足に何本も突き刺していたんだ。

 

 そしてその触手を俺に突き刺したのは、俺から力を吸収するためではなく、俺の身体を奪い取るためらしい。

 

 俺はこの世界の人間ではないから体内に魔力なんて持っていないが、もし俺の身体がこんな奴に奪われてしまったら、ギルドの仲間たちが蹂躙されてしまう。それに俺は転生者だ。俺の持っている能力と武器ならば、他の転生者たちのようにこの世界を蹂躙することは可能だろう。

 

 ジョシュアならば、間違いなく転生者の力を蹂躙のために使うだろう。

 

「ぐっ………………がぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

「力也!」

 

「力也くん!!」

 

「親父ッ!!」

 

 紅いオーラが流れ込んでいる左足の指が勝手に動き始める。激痛で痙攣しているわけではなく、それは体のコントロールが少しずつジョシュアに奪われているのが原因だった。やがて左足が痙攣を始め、動かそうと思っても全く動かなくなってしまう。

 

 汚染された魔力の浸食が始まる。左足の膝から下はもう全く動かない。

 

 このまま銃で止めを刺しても、おそらく浸食は止まらないだろう。それに、銃をぶっ放している間にもっと浸食されてしまうかもしれない。

 

 どうすれば助かるのかと考え始めた瞬間、俺はタクヤの奴が言っていた事を思い出した。俺はこの戦いで左足を失い、義足を付ける羽目になる―――――――。

 

 ああ、そういうことか。戦いの最中で足を奪われるという意味ではなく――――――――身体を奪われないように、左足を自分で切り落す、という事なのだろう。

 

 くそったれ、歴史の通りじゃないか……………。

 

 刀を引き抜こうとしたが、別の触手が俺の腰の鞘から刀を奪ってしまう。俺が足を斬りおとそうとしているのを読んでいたのだろうか。

 

 このままでは………身体が…………!

 

 くそ、こんな奴に身体を奪われてたまるか!

 

「タクヤ、その剣で足を斬ってくれッ!」

 

「!?」

 

 いきなり俺にそう言われたタクヤが動揺しているのは、一目瞭然だった。紅い瞳を見開きながら俺を見下ろすタクヤは、ぎょっとしながら自分の剣を見下ろす。

 

 こんな奴に身体を奪われるよりは、左足を失った方がマシだ。それに、これが〝歴史の通り”なのだとしたら、抗う必要はない。

 

「たっ、頼む………はやく…………!」

 

「そ、そんな………無理だ、親父! 自分の父親の足を斬るなんて…………!」

 

 ああ…………残酷なお願いだ、これは。

 

 子供たちに嫌われるようなクソ親父だったのならば、躊躇いなく願いを聞く事ができるのだろうか。そう思いながら俺は、タクヤに言った。

 

「何ビビってんだ、クソガキが………!」

 

「…………!?」

 

「力也、何を………!?」

 

 強がるようにニヤリと笑う。

 

「何人も斬ってきたんだろ? なあ、クソ野郎を斬るのには慣れてんだろ? 何で今更ビビってんだよ? 足の1本が何だ!?」

 

「おい、親父………」

 

「足程度でビビってんじゃねえよ!」

 

 そんな事は、全然思っていない。いきなり未来からやってきたと言われた時はかなり動揺してしまったけれど――――――――最愛の彼女たちとの間に生まれてくれた子供たちは、本当に愛おしい。

 

 くそ、俺はクソ親父だ………。こんなお願いの仕方をしてしまうなんて………。

 

「――――――――とっとと斬りやがれ、このチキン野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

『やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 俺の計画がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 蒼い剣を振りかざし、俺に向かって突っ走ってくるタクヤ。覚悟を決めた彼の瞳を見据えてから、これから俺の左足と心中することになるジョシュアの残骸を睨みつけ、にやりと笑う。

 

 ジョシュアに身体を乗っ取られるよりはましだ。

 

 さあ、やってくれ―――――――。

 

 タクヤの振り下ろした蒼い剣の光が、俺の視界を埋め尽くした。優しく煌めく蒼い輝き。それに見守られながら、俺は左足を失う激痛を受け止める。

 

 目の前で、蒼いの刃が俺の左足にめり込む。変わってしまったとはいえもとは伝説の魔剣なのだから、俺の防御力のステータスで防げるわけがなかった。まるで普通の人間の肉を切り裂くように俺の左足の皮膚を切り裂いた刀身は、そのまま俺の骨を切断して反対側の肉を引き裂き、俺の左足を切断してしまう。

 

「――――――――――――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

「フィオナ、早くヒールを!」

 

『はっ、はいッ!!』

 

 強烈な激痛だった。レリエルに時計塔の針で腹を貫かれた時の激痛を思い出しながら、俺は驚愕しながら蒼い光の中へと消えていくジョシュアを見つめ、笑いながら手を振った。

 

 最後の力を振り絞った作戦もこれで水の泡だ。ざまあみろ。

 

 助けて、と蒼い光の中へ消えていくジョシュアが叫んだ。振り下ろされたタクヤの剣が生み出した蒼い光に呑み込まれながら懇願するジョシュアだったけど、誰も奴を助けようとはしない。

 

 タクヤの剣が生み出した蒼い光は、ジョシュアが取りついていた俺の左足を無視すると、もはや大きめの肉塊にしか見えないジョシュアの残骸だけに燃え移った。足に突き刺していた触手を必死に振り回してのたうち回るジョシュア。だが、誰もその炎を消そうとする者はいない。もし彼の部下がこの場にいたとしても、タクヤの剣が生み出したその蒼い光を消す事ができる者はいなかっただろう。

 

 光の中でジョシュアが真っ黒な塊となり、強風に削られていく灰の塊のように、少しずつバラバラになっていく。消えていくジョシュアに向かって中指を立てた俺は、剣を振り下ろしたまま混乱しているタクヤの肩にそっと手を伸ばした。

 

「あ、ああ………ッ! ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい………ッ!」

 

「すまないな………。息子よ、良くやってくれた」

 

 混乱するタクヤに礼を言った直後、俺は直後に気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

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