異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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キメラの進化

 遠くから、鐘の音が聞こえてくる。午後の11時を告げる時計塔の鐘の音は、昼間と同じ音量だというのに、夜であるせいなのか少しばかり寂し気な音に聞こえた。

 

 窓の外に広がる王都の街並みを眺めるのを止め、後ろを振り返る。忌々しいネイリンゲンの惨劇の後、貸しを作っていた王室に頼んで用意してもらったハヤカワ邸は、一般的な家庭と比べると大きな建物だが、一般的な貴族の屋敷と比べると小さいという微妙なサイズの建物だった。実際、もう住み始めて何年も経つというのに、この自宅を〝家”と呼ぶべきなのか〝屋敷”と呼ぶべきなのかまだ分からない。

 

 そんなハヤカワ邸の一室に、今夜は客人が訪れていた。紳士を思わせるスーツにも似た黒い制服に身を包み、同色の髪をオールバックにした30代後半の男性と、真っ白な白衣に身を包んだ白髪の少女である。

 

 その2人の客人とは長い付き合いだが、白髪の少女の方は一番最初に出会った当時と全く容姿が変わらない。成長する様子はないし、食べ過ぎて太ったり、逆にストレスで痩せる気配もないのだ。体格を気にする女性にとってはまさに夢のような体質に思えるが、彼女の事を考えればその体質を羨ましいとは思えないだろう。

 

 彼女は、もうこの世に存在しない筈の幽霊なのだから―――――――。

 

「それで、研究の結果は?」

 

『はい、リキヤさん。リキヤさんの血液と、タクヤ君とラウラちゃんの血液の比較の結果なのですが…………』

 

 実は、数日前からフィオナにキメラについての新しい研究を依頼していたのである。

 

 21年前のネイリンゲン攻防戦で、俺は片足を失って義足を移植し、変異を起こしてキメラとなった。新しい種族であるキメラの中でも〝原点”や〝第一世代”と呼べる存在である。

 

 不完全だが、ある意味では純血のキメラといえる。では、ごく普通の人間の女性とキメラの間に生まれた俺の子供たちと俺に、能力や体質での差異はあるのだろうか。

 

 俺が第一世代のキメラならば、あの2人は〝第二世代のキメラ”と呼ぶべきだ。キメラはまさに突然変異の塊と呼ぶにふさわしい種族であり、フィオナもまだ完全にどのような種族なのか把握できていない状態なのである。前例がないというのが大きな要因だが、傾向を探ろうにも普通では考えられない特徴が多過ぎるため、なかなか傾向すら見つけられないという。

 

『実は、第二世代のキメラにはある能力が備わっているようです』

 

「ある能力?」

 

『はい。…………ご存知の通り、キメラは突然変異の塊です。サラマンダーの混血かと思えば全く関係ないメロン体を持っていたり、従来のサラマンダーとは違う蒼い外殻を生成するなど、まだまだ謎が多いのですが…………第二世代以降のキメラには、第一世代では絶対に発動できない固有の能力があることが判明しました』

 

「ほう」

 

 第一世代のキメラでは、絶対に発動できない能力か…………。

 

『発動すれば、それだけで強敵すら圧倒してしまうような能力になることは間違いありません。ですが、その能力を習得するには、何かしらの条件があるようです』

 

「条件?」

 

『はい。……………極限状態の中で追い詰められない限り、その能力は習得できないようなのです。実際に、21年前のネイリンゲン攻防戦では、タクヤ君がそれを発動させて魔剣をジョシュアから奪い取っています』

 

 数日前から、仲間たちはあの時の戦いにタクヤとラウラが参戦してくれたと口をそろえて言っている。未来からやってきた俺の子供たちが、魔剣を手に入れたジョシュアとの戦いに加勢してくれたらしいのだが、そんな覚えは全くない。あの戦いはモリガンのメンバーだけが参加し、ネイリンゲンを守り抜いたのではないか。第一、まだ生まれてすらいない子供たちが未来からやってくるなど考えられない事だ。

 

 だが、どうやら仲間たちは俺をからかっているわけではないらしい。……………いったい、これはどういうことなのだろうか。キメラの研究にも興味はあるが、この謎の現象が何なのかについても知りたいところである。

 

 俺だけがおかしいのだろうか。

 

「ああ、エミリアさんから聞いた。タクヤ君が魔剣をジョシュアから奪い取ったって」

 

 黙って報告を聞いていたシンヤも、異を唱えることなくタクヤが参戦したことを肯定している。彼ならば俺と同じように異を唱えてくれるのではないかと期待していたんだが、どうやらあの戦いにタクヤとラウラが参戦していたという記憶を持っているのは俺以外の全員らしい。

 

「それがその能力なのか?」

 

『はい。考えてみれば、あの時タクヤ君は瀕死の重傷を負っていました。能力を習得する条件は満たしていると言えます』

 

「相手の契約に介入し、その内容を書き換えて武器や術を乗っ取る能力か……………。確か、〝支配契約(オーバーライド)”だっけ」

 

 ちょっと待て。あのクソガキ、そんな能力を発動させてやがったのか?

 

 しかもジョシュアの奴から魔剣を奪った? …………ど、どういうことだ? あの魔剣は確かに俺たちが破壊した筈だ。だからもうこの世界に存在しない筈なのに…………あ、あれ?

 

「兄さん、どうしたの? 汗かいてるけど」

 

「す、すまん、混乱してきた」

 

 どういう事なんだ。もしタクヤとラウラが本当に過去の戦いに参戦し、魔剣を奪って無事に帰還したというのならば、その存在しない筈の魔剣を手に入れているという事になる。

 

 猛威を振るった魔剣を、第二世代のキメラが操る。間違いなくその組み合わせは、あのジョシュアの野郎よりも厄介だろう。下手をすればレリエル・クロフォードにも匹敵する強敵になりかねない。

 

「はい、ハンカチ」

 

「ありがと。…………フィオナ、タクヤにそんな能力があるという事は、ラウラもそれを習得する可能性があるというわけか?」

 

『同一の能力になるとは限りませんが…………その可能性は高いかと』

 

 絶滅する寸前で生物が変異したり、変化するのは珍しい事だ。魔物や動物はそうやって変異や進化を繰り返し、無数の亜種や変異種へと枝分かれを繰り返してきた。それが生物のあるべき姿だというのならば、怪物じみているとはいえ同じ生物であるキメラが追い詰められた果てに新たな能力を習得するのも、考えられない話ではない。

 

 俺は冷や汗を拭き取ると、息を吐いてからシンヤの方を見た。

 

 俺の弟であるシンヤも、この世界に転生してから右腕に義手を移植している。俺がネイリンゲン防衛戦で片足を失ったように、この男もネイリンゲンの惨劇で妻であるミラを庇い、右腕を失っているのである。

 

 この世界において、義手や義足の移植が原因で変異を起こしたという報告は今のところ俺の一件のみ。それ以外にキメラが誕生したという報告はない。

 

 おそらく、俺がキメラになってしまったのは――――――――転生者だからなのではないのだろうか。

 

 そもそも転生者はこの世界の人間ではない。だから、魔物の血液や遺伝子の介入による変異を食い止めるための〝免疫”のようなものを持っていなかったために変異を起こし、キメラになってしまったのではないだろうか。現時点ではフィオナがそんな仮説を立てているが、おそらくこれが正解だろう。

 

 そして、その条件を満たしている男がここにも1人いる。

 

「シンヤ、身体の調子はどうだ?」

 

「…………ああ、かなりいいよ。まだ使い慣れてはいないけど」

 

 そう言いながら、シンヤは自分の義手を動かして見せた。俺が移植したのはサラマンダーの義足だが、シンヤが移植したのは『キングアラクネ』と呼ばれるアラクネの一種の義手である。

 

 普通のアラクネは蜘蛛と同じように、糸を張って獲物を捕らえ、そのまま捕食するという習性を持つ。だがキングアラクネは自分の糸を獲物を捉えるために使うのではなく、獲物を〝切り刻む”ために使い、強力なドラゴンですら寸断して捕食してしまうという習性を持っている。

 

 シンヤがその義手を移植してからもう何年も経つ。もちろん、今更義手の調子を聞いているわけではない。俺は、〝今のシンヤの身体の調子を聞いている”のだ。

 

「それはよかった」

 

 今まで、キメラはサラマンダーと人間の混血のみを指す種族の名称のような扱い方だったが―――――――早くもその定義が書き換えられそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その少年は、父親の事を憎んだまま死んでしまいました。

 

 家に戻れば暴力ばかり振るう父親と2人暮らしをすることにうんざりしていた少年にとって、その死は救いだったのかもしれません。

 

 少年は〝タクヤ”という新しい存在として、異世界へと生まれ変わりました。そして、『魔王』と呼ばれた転生者の息子として成長し、腹違いの姉と一緒に旅に出たのです。

 

 手に入れた者の願いを叶える事ができる、メサイアの天秤を手に入れるために。

 

「――――――――面白いよねぇ、この子」

 

 目の前に投影されている映像には、蒼い髪の少年の映像が表示されている。髪型と少女のような顔立ちに加え、服の上からでは華奢な体格にすら見えてしまうほどすらりとした彼は、最早少年というよりは少女という表現の方が適切なのではないかと思えてしまう。

 

 彼は、本当に面白い。

 

 父親も面白かったけれど、彼は違うジャンルの面白さがある。彼の父親が予想外の活躍を見せたダークホースならば、彼は予想以上の活躍をしてくれるアスリートのようなものだ。だから私は、彼と〝ある転生者”の2人には注目している。

 

「まあ、当たり前だよね。実験体1号(アインス)と実験体2号(ツヴァイ)は特別なんだから」

 

 そう、あの2人だけは、他の転生者と仕組みが違う。

 

 本来の転生者ならば、死亡してから17歳まで強制的に若返り、あらゆる能力や武器を生み出せる端末を手にした状態で異世界へと転生する。けれど、あの2人は従来の転生者とは異なり、赤ん坊の状態から再び成長し直すという方式を採用されている。

 

 この方法は手間がかかる上に、両親の素質や遺伝子に左右され易い。つまり、徹底した合理性を必要とする研究にあるまじき〝賭け”が必須となる。

 

 両親の〝あたりはずれ”が大きいという欠点があるけれど、その分強力な能力を身に着けた状態での転生ができる。それが、『次世代型転生者』とも呼べるあの2人の特徴。

 

「―――――――今のところ面白い結果が出てるけど…………もう少し刺激があってもいいかな?」

 

 生物はそうやって進化してきた。猿は知識を手に入れて文明を作り上げ、最終的に核兵器という凶悪な道具で世界を滅亡させかねないほどのレベルまで成長したのだから。

 

 だから、現時点でも世界を滅ぼせる可能性を秘めた2人の実験体が更に進化したら、どうなるだろうか?

 

 楽しみだね。

 

 かつて私は、その〝刺激”のために自分のお兄ちゃんに絶対的な力(チート)を与え、使い捨てにしたことがある。お兄ちゃんはあの実験体2号(ツヴァイ)の父親に当たるリキヤ・ハヤカワに敗北し、異次元空間を永遠にさまよう羽目になったけれど、その刺激は彼の思想を進化させた。

 

 より徹底的で、容赦のない冷徹な魔王を生み出す事ができたのだから、お兄ちゃんの犠牲は無駄ではなかった。

 

「ふふふっ……………♪」

 

 2人の実験体を観察して、あの方式が〝成功した”と言える結果になれば、次世代型転生者の増産にもめどが立つ。だから、あの2人にも頑張ってもらわないと。

 

 あの2人は、私の目的へと案内してくれる道しるべなのだから。

 

 

 

 

 第九章 完

 

 第十章へ続く

 

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