異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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ショタクヤになった原因

 

 

「とりあえず、小さくなってしまった原因が判明しました」

 

 畑の隅で、検査の結果が記録されたファイルを手にしたシルヴィアが報告する。昼過ぎに依頼したばかりだったから検査の結果は明日以降になるんじゃないかと思っていたが、結果は予想よりも早く出てくれた。

 

 まるで幼児が母親に抱きかかえられるかのように、俺はラウラに抱き抱えられている。彼女が歩くたびに大きな胸が顔に当たり、その度に顔を真っ赤にし続けるのは結構幸せだったんだが、やはりテンプル騎士団の団長としてそんな姿をこれ以上団員たちに晒すわけにはいかない。プライドの問題もあるし、いろいろとほかの問題もある。この姿で彼女に抱き抱えられているせいなのか、俺とラウラの間に子供ができたという変な噂が早くも組織内で産声を上げているのである。

 

 とりあえず、厄介なことになる前に対処する必要がある。だからシルヴィアが早めに検査の結果を教えてくれたのはありがたい。

 

「それで、げんいんは?」

 

「はい。原因はやはり、ウィッチアップルの果肉に蓄えられた高濃度の魔力でした」

 

 説明しながら、俺にデータが記載されたファイルを見せるシルヴィア。記載されている内容を見るために身を乗り出しつつ、ファイルに書き込まれた文字と数字の羅列に目を通していく。

 

 カルガニスタン語とオルトバルカ語が入り混じった文面だったし、わからない単語もいくらか含まれていたけれど、大方の内容は把握できそうだ。

 

「こうのうどのまりょくがキメラのいでんしにえいきょうを?」

 

「はい。団長とラウラさんのようなキメラがどのような種族なのか、まだ全て分かったわけではありませんが……………どうやら何かしらの影響を受けやすい種族みたいですね」

 

 そう、どうやら高濃度の魔力が堆積している地域で育ったウィッチアップルの魔力が、キメラの遺伝子に一時的に変異を起こさせたというのである。

 

 ウィッチアップルは通常のリンゴとは異なり、高濃度の魔力が常に堆積しているような地域でしか育たない。そのような魔力は移動させることはできない上に、このリンゴが育つことができるほどの濃度を維持できる地域は大概ダンジョンのみ。それゆえに人間の手で栽培することは実質的に不可能で、冒険者たちの戦利品となったり、高値で取引される高級食材とされている。

 

 玄人向けの魔術を数回はぶっ放せるほどの濃度の魔力の中で育つのだから、果肉や果汁にもその魔力が蓄えられる。やけに甘みが強いのはその魔力が原因だというが、その高濃度の魔力がキメラに影響を与えたのだという。

 

 キメラは突然変異の塊とも言えるほど傾向がつかめない未知の種族であり、現時点では俺とラウラ以外には親父とノエルのみ。この広大な異世界でも、まだたった4人しかいない希少な種族なのである。

 

 基本的には移植した義手や義足などの元となった魔物と人類の特徴が複合した種族がキメラと呼ばれているが、中にはラウラのように元の魔物にも人類にもない筈のメロン体を頭の中に持っているケースもあるため、本当に何があるかわからない種族だ。だからこそ、何かしらの影響を受けやすいという仮説も否定はできないのである。

 

「こまったなぁ……………」

 

「でも、団長さんの体内に入り込んでいる魔力は定着する気配はありませんし、きっとこの変異は一時的なものですよ」

 

「どれくらいでもどるかな?」

 

「うーん……………入り込んだ魔力は定着する様子がないですし、明日の夜くらいには元の姿に戻れるかと」

 

「よ、よかった……………」

 

 下手したらまた3歳児からやり直す羽目になるかと思って肝を冷やしていたんだが、どうやら元の姿には戻れるらしい。

 

 ふう、助かった。もしこのまま元に戻れないならばヴリシア侵攻作戦には参加できないし、それどころかテンプル騎士団の計画も頓挫していたところだ。世界規模でのクソ野郎の駆逐と善良な転生者の保護は、転生者についての知識がある人材が先頭に立たなければ実現不可能だ。俺以外にもそれを成し遂げられる人材はいるけれど、彼女たちに負担をかけるわけにはいかない。やはり計画を一番最初に考えた俺が先頭に立たなければ。

 

「ふにゅう、明日の夜で小さいタクヤとお別れなの……………?」

 

「ざ、残念ながら」

 

「うぅ……………やだよぉ…………もっと甘えてたいのに……………!」

 

「おねえちゃん、ちいさいままだったらけっこんできないよ?」

 

「ふにゅう……………そ、そうだけど………………」

 

 もうラウラを嫁にもらうって宣言しちゃったんだし、それを反故にするわけにはいかない。それにこのまま元に戻らなければ、俺たちは計画を頓挫させた挙句14歳差を維持したまま生きていくことになる。

 

 しかも俺はこの姿のままだと、かなりヤバいことになる。特にラウラとカノンの前では、いつ襲われてもおかしくはない。

 

「ふふふっ。ラウラさん、このリンゴを食べさせればいつでも小さな弟さんを愛でることができますよ♪」

 

「ふにゃ!?」

 

「はぁっ!?」

 

 シルヴィア!? おい、何言ってんだお前!?

 

 確かにまた食わされれば小さくなる可能性はあるけど、そんなことしたら俺はまた恥を晒すことになるぞ!? テンプル騎士団の団長が3歳児の姿でお姉ちゃんに甘やかされる姿を団員たちに晒せってことか!?

 

「そ、そっか…………うん、そうだよね! いざというときはダンジョンでそのリンゴを探して来ればいいんだし! シルヴィアちゃんって天才だねっ!」

 

「あはははっ。ありがとうございますっ♪」

 

 ふ、ふざけんなよぉ!? 引っこ抜いてやろうか!?

 

「えへへっ。これでずーっと小さなタクヤを可愛がることができるよ♪」

 

「………………」

 

 これじゃ、しばらくリンゴが食べれないじゃないか……………。

 

 解決したはずなのに、解決したとは思えない状態。喜んでいるのは被害者である俺ではなく、第三者であるラウラ。虚ろな目でため息をつく俺をラウラが思い切り抱きしめ、思い切り頬ずりを開始する。

 

 やはり彼女の大きなおっぱいが猛威を振るったのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも近距離での白兵戦になれば、俺はハンドガンやナイフを多用して戦っている。テンプル騎士団のメンバーによって戦い方は違うし、支給される武器も極力個人の要望に応えるように支給しているため、まさに戦い方は十人十色というわけだ。

 

 ナイフを使うやつもいるし、サーベルを欲しがるやつもいる。マチェットやロングソードなどのオーソドックスな武器から、釘バットやただの鉄パイプなどの鈍器まで幅広く揃っている。というか、鉄パイプは武器として正式に配備するというよりも即席の鈍器というべきではないのだろうか。さっき喜々として鉄パイプを担いで偵察任務に出撃していった猛者がいたが、あいつは鉄パイプで魔物を殴り殺すつもりなのだろうか。

 

 まあ、とりあえず成果を出しつつ生還してくれるのならばどんな武器でも構わない。木材で敵を殴り殺したいという更なる猛者がいるのならば木材を渡してやるし、自分の拳で戦うという猛者がいるのならば訓練区画のジムの設備を充実させてやるさ。

 

 目の前の机の上に置かれている自分のナイフに触れつつ、刀身をそっと眺める。日光が反射しないようにと漆黒に塗装された武骨な刀身は、光沢すら放たない無機質さで虚ろな威圧感を放っている。いざというときは敵をぶん殴れるように、ナックルダスターのように大型化されたフィンガーガードを指でなぞり、その得物を拾い上げる。

 

 白兵戦ではとにかく相手よりも早く攻撃することが重要視される。相手が至近距離にいるのならば、必要になるのは射程距離や殺傷力よりもスピードだ。もたもたしている間に喉にナイフを刺されれば、それで終わりなのだから。

 

 それゆえに、通常の斬撃でも〝まだ遅い”場合がある。そういう時は切り付けるのではなく、このフィンガーガードでぶん殴ってしまえばいい。白兵戦で優先すべき要素を知っているからこそフィンガーガードを追加したのだ。

 

 分厚い刀身を持つ俺のテルミットナイフは、まるでナイフ並みの大きさに縮められたマチェットのようだった。いつものサイズの時ならば気にならないのに、さすがに3歳児の姿でこれを持つと重いし、マチェットを本当に2本持っているようにも見えてしまう。

 

 うん、これでは戦えない。

 

 あきらめてナイフをテーブルの上に置き、早く夜にならないものかと思いながらため息をついた次の瞬間だった。

 

「お兄様っ♪」

 

「にゃっ!?」

 

 先ほど意気揚々と射撃訓練場のレーンに入っていったはずのカノンが、マークスマンライフルを背負ったまま勢いよく俺に抱き着いてきたのである。俺よりも年下の少女とはいえ、今では俺のほうがはるかに年下。キメラとはいえ3歳児の筋力で、訓練を受けた14歳の少女の抱擁を受け止められるはずがない。

 

 あっさりと硬い床に押し倒され、側頭部を強打する羽目になる。衝撃が頭の中を駆け回り、これでもかというほど頭痛を残していく。両手で頭を押さえていてもお構いなしに、カノンは俺に抱き着いたまま頬ずりを始めた。

 

「お姉様から聞きましたわ。今夜には元の姿に戻ってしまうそうですわね?」

 

「う、うん」

 

「でしたら、今のうちにお兄様を堪能するのが賢いですわよね?」

 

「え?」

 

 ちょ、ちょっと待て。おい、まさか…………襲うつもりじゃないよね?

 

 目を見開き、俺はカノンを見上げた。彼女ならば襲いかねないという可能性の数字がすさまじい勢いで増加していき、あっという間に90%を超えてしまう。

 

 9割以上になればもう確定したも同然なのだろう。案の定、カノンは貴族のお嬢様とは思えないほど顔を赤くし、口元のよだれを白い手で拭い去ってから、胸元のボタンを1つだけ外した。

 

 ラウラやナタリアと比べると小さなカノンの胸。しかし、これから成長していけば母親のカレンさんのようにしっかりと膨らむだろうということは想像に難くない。これから大きくなると追う可能性を秘めた白い胸元が、黒い制服の隙間から少しだけ覗く。

 

 彼女の愛用する香水と、少量の汗と、炸薬の匂いが混ざり合った独特の香り。鼻孔へと流れ込んだその不思議な香りは、あっという間に小さくなってしまった俺の頭の中を満たしてしまう。

 

「先程のトレーニングで、少しばかり汗をかいてしまいましたの」

 

「あ、ああ」

 

「もしよろしければ、お兄様もわたくしと一緒にシャワーを――――――――」

 

 う、嘘をつくな。シャワールームに一緒に入った後、お前がどうするつもりなのかはもう予想できている。

 

 このままシャワールームまで連れていかれるのだろうかと、息を呑みながらなぜかドキドキしていたその時だった。きびきびとした靴の音がカノンの後ろから聞こえてきたかと思うと、彼女の橙色の長い髪の後ろで、美しい金髪が揺らめいたように見えたのである。

 

 カノンもさすがにその威圧感に気づいたらしく、そっと後ろを振り返る。

 

 そこに立っていたのは、黒い制服に身を包んだ金髪の少女だった。制服を着崩さずにしっかりと身に着け、テンプル騎士団のエンブレムが刻まれた軍帽をかぶった姿は昔のドイツ軍の指揮官を彷彿とさせる。これから射撃訓練に行くところなのか、腰のホルスターにはロシア製ハンドガンのPL-14を収めており、彼女の右手はそのグリップへと確かに近づけられていた。

 

 まるで早撃ちをぶちかます直前のガンマンのような手つきだが、美しい黄金の前髪の下から俺たちを見下ろす紫色の瞳は、まるでじゃれ合う幼い子供たちを見守るかのように優しい。だが…………なんでそんな表情で威圧感を剥き出しにしているのだろうか。

 

「カノンちゃん?」

 

「な、ナタリアさん………………?」

 

「どうしてそんな小さい子を押し倒してるのかな?」

 

「え、ええと………………」

 

「………………とりあえず、タクヤの上から降りてあげなさい。今回は見逃してあげるから」

 

「は、はい……………」

 

 た、助かった……………。

 

 ありがとうございます、ナタリア軍曹!

 

 しょんぼりしながら起き上がり、外したボタンを元に戻すカノン。なんだかちょっとばかり可哀そうだけど、さすがにこの姿の状態で襲われるのはまずいので仕方がない。元の姿に戻ったら甘えさせてあげよう。

 

 こちらをちらちらと見ながら去っていくカノンに、俺は微笑みながらウインクする。すると彼女の顔から一瞬で寂しそうな表情が消え去り、再びいつでも襲って来れるような笑顔を浮かべる。

 

 い、いかん。あまりこういうことをするとまた振出しに戻ってしまう。

 

「ほら、もう夜だから部屋に戻るわよ」

 

「はーい」

 

 1人で部屋に向かって歩き出そうとしていると、左手をナタリアの手にぎゅっと掴まれた。

 

「ん?」

 

「ひ、1人で戻ったら…………あ、危ないわよ? 今のあんた、3歳児なんだし。わ、私が守ってあげないと」

 

「そ、そうだな。じゃあたのむよ、ナタリアおねえちゃん」

 

「………………っ!?」

 

 そう呼ぶと、ナタリアの顔がまた一瞬で真っ赤になった。先ほどまでの恥ずかしそうだった表情が一瞬で限界に達してしまったらしく、顔が赤くなった彼女は俺と目を合わせないように床を見下ろしながら、「わ、悪くないわ………………」と呟いた。

 

 ナタリアお姉ちゃんって呼んでいいって言ったからそう呼んだんだけど、ダメなのかな?

 

 しばらく顔を赤くしたまま固まっていたナタリアだけど、さすがにいつまでも顔を赤くしているわけにはいかないという気持ちが勝利したのか、急に大袈裟に深呼吸を始めた。もう片方の手で軍帽をわざとらしくかぶりなおした彼女は、息を吐いてから俺と一緒に第一居住区を目指して歩き始める。

 

 傍から見れば、どこかの軍の女性の指揮官が小さな子供を保護しているような光景にも見えるだろう。すれ違った団員たちが目を丸くしながらまじまじとこっちを見つめているけど、ナタリアは彼らに敬礼をしてからすぐに通り過ぎていく。

 

 ちらりと彼女の顔を見上げると、目が合った瞬間にナタリアの頬がほんの少しだけ赤くなった。

 

 何か話そうかと思ったけれど、なかなか話題が思い浮かばない。組織のことじゃなくてもいい。そう、プライベートでもいい。暇な時は何をして過ごしているのかって質問してもいいし、趣味は何なのか聞いてもいいだろう。

 

 けれども、話す話題の方向性は形になっているというのに、肝心の内容が全然思いつかない。心の中で組み立てては再び突き崩すような無意味な思考を繰り返しているうちに、第一居住区の見覚えのある扉の前に立っていることに気づいた。

 

 扉のプレートには、俺とラウラの名前が書かれている。

 

「ありがとね、ナタリアおねえちゃん」

 

「え、ええ。無事で何よりだわ、全く。世話がかかるわね」

 

「わるかったな」

 

 小さくなるのってかなり不便なんだよ。

 

 悪態をつきながら部屋のドアを開けようとした瞬間、俺の両脇から回り込んできた暖かくて白い手が、甘い香りを孕みながら小さくなった俺の体を包み込んだ。かすかに揺れた金髪が首筋に触れ、甘い香りをさらに舞い上げる。

 

「ナタリア……………?」

 

 振り向かずに、俺はそっと手を後ろへと伸ばした。すっかり短くなってしまった幼児の手でも届く距離に、ナタリアの頬がある。どきりとしてしまうけれど、俺はすぐにナタリアが後ろから抱きしめているのだということを理解した。

 

「なんだか、寂しいかも」

 

「……………あのリンゴくえば、またちいさくなるらしいぞ」

 

「そうなの?」

 

「ああ。シルヴィアがいってた」

 

 でも、また小さくなるのは御免だぞ? 女子に優しくしてもらえるのは最高だけど、いろいろ大変だからな。

 

「……………じゃあ、もしまた小さくなったら、いっぱい可愛がってもいいかな……………?」

 

「ああ。そのときはよろしくね、ナタリアおねえちゃん」

 

「うん」

 

 ナタリアの両手が俺をぎゅっと抱きしめ、より密着した状態で彼女の柔らかい唇が頬に押し付けられる。暖かさと柔らかい感触を頬に刻み付けた彼女は、最後にもう一度俺の体をぎゅっと抱きしめると、まだ少し名残惜しそうに手を放し、そっと立ち上がった。

 

 ラウラみたいに常に甘えてくるお姉ちゃんもいいけど、ナタリアみたいに一見するとしっかり者だけど、たまに甘えてくるようなツンデレのお姉ちゃんも悪くないかもしれない。

 

 そう思いながら、立ち去っていくナタリアに向かって俺は小さな手を振った。それに気づいた彼女は、微笑みながら白い手を振り返す。

 

「…………さて」

 

 とにかく、これでショタクヤとはおさらばだ。明日の朝には元のサイズに戻っていられるのだから、もうショタクヤって呼ばれることはないだろう。

 

 一安心しながら部屋のドアを開けた俺だったが―――――――――部屋の中に、最後の難敵が潜んでいたことをすっかり忘れていた。

 

「ふにゃあああああああああああっ! おかえりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 

「べねりっ!?」

 

 ドアを開けた瞬間、すさまじい瞬発力で突っ込んでくる赤毛の美少女。もちろんその最後の伏兵を見落としていた俺に回避する術はなく、彼女の突進を食らった挙句、またしても硬い床の上に押し倒される羽目に。

 

 そして彼女にのしかかられ、大きな胸を押し付けられる。ナタリアとは違う甘い香りに包まれ、柔らかい感触に押しつぶされそうになりながら、俺は顔を赤くすることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 標的をドットサイトの向こうに重ね、トリガーを引く。大口径の弾丸だというのにその反動はかなり小さくて、片手でも撃てそうなほどだった。

 

 けれども、この体がどれだけありがたいのかを俺は痛感している。常人以上の筋力と反射速度に加え、あらゆる防具を凌ぐ防御力まで兼ね備えたキメラの肉体は、まさに戦うことに最適化されているといえる。

 

 一時的にとはいえそれを封じられたおかげで、この身体がどれだけ便利なのかを認識することができたのはある意味では貴重な体験だ。けれども、もうあんな経験は御免だね。一部の女子には襲われそうになるし、団員たちの前では何度も醜態を晒した。ああ、しばらくはリンゴを食べたくない。

 

 鬱憤を晴らすかのように、セレクターレバーをセミオートからフルオートに切り替える。マガジンの中に入っている7.62mm弾をすべて打ち尽くした俺は、空になった薬莢が転がる音を耳にしながらAK-12を下げ、息を吐いた。

 

 これで今日の射撃訓練は終わり。次は各部署の状況を確認し、要望をまとめてから再び筋トレだ。転生者やキメラにもそういった鍛錬は必要不可欠だ。サボれば、次に相対した敵に狩られる羽目になる。

 

 AK-12を背負いながら訓練場のレーンを後にすると、出口でラウラが待っていた。挨拶しようと思って片手を上げかけた俺だったが、彼女が手にしている皿の上に乗っているものを見た途端、目を見開いて固まってしまう。

 

「あっ、タクヤ! お疲れさまっ♪」

 

「ら、ラウラ、それは?」

 

「ふにゅ? ああ、差し入れのリンゴだよっ! お姉ちゃんが頑張って切ったんだよっ♪」

 

 そ、それ、普通のリンゴだよね? なんだか皮に皺があるけど、大丈夫!?

 

「い、いや、リンゴはちょっと――――――――」

 

「ほらっ、あーんっ♪」

 

「………………」

 

 ま、また幼児に戻すつもりか。

 

 ラウラが差し出してきたリンゴを見つめながら、俺は苦笑してしまうのだった。

 

 

 

 




※ベネリはイタリアの銃のメーカーです。ベネリM3やベネリM2が有名ですね。
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