異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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ラウラが料理をするとこうなる 前編

 

 

 この世界で最も人気のある職業は、傭兵と冒険者である。

 

 十数年前までは、両者はほぼ互角の人気を誇っていた。騎士団では対応しきれない魔物の襲撃に対して即座に動き、場合によっては汚れ仕事までやり遂げるダークヒーローじみた職業の傭兵と、この世界でいまだに暴かれていない領域に飛び込み、人類がいまだに手にしていない知識を持ち帰る冒険者。多くの子供たちは、将来の夢にその両者のうちどちらかを目標にしている。

 

 しかし、魔物が街や村を襲撃する件数が激減し始めたことによって、傭兵たちの仕事は激減した。それだけではなく、騎士団も拠点や街の周囲に必要以上に騎士たちを駐留させておく必要がなくなったことで費用に余裕ができ、各国はその余った予算をダンジョンの調査に割くことができるようになったのである。

 

 ダンジョンへと飛び込んでいく一番槍となるのは、もちろん冒険者たち。各国はそんな冒険者たちを支援するために国家予算をいくらか出し合い、冒険者管理局を設立してサポートしていくことになる。

 

 そうやってダンジョン調査の準備が整っていくにつれて、人気の職業は段々と冒険者のみとなっていった。特に産業革命による工業力の飛躍的な発達は従来の技術を瞬く間に置き去りにし、魔物の外殻や鱗を易々と切り裂いてしまう剣や、魔物の剛腕から持ち主の身を守ることができる硬さの盾を生み出すことを可能にした。

 

 そしてそう言った武器を手にして、数多の冒険者たちがダンジョンへと挑んでいったのである。

 

「みんな乗ったー?」

 

「乗り遅れた奴はいないな? もしいたら砂漠をダッシュしてこいよ?」

 

「おいおい、そりゃきついって!!」

 

 楽しそうに大笑いしながら話をしているのは、以前まではムジャヒディンの戦士としてフランセンの騎士たちと死闘を繰り広げていた屈強な男たちである。とても死闘を生き延びてきた猛者たちとは思えないほどはしゃいでいる彼らが乗っているのは、分厚い装甲を持つ戦車すら破壊できる強力な対戦車ミサイルと、銃弾を跳ね返す装甲を併せ持つ、ロシア製装甲車のBTR-90である。兵員室や兵員室には、日光に弱い吸血鬼のウラルを含めた数名の戦闘員たちが乗り込み、それ以外の戦闘員たちは以前の俺のように装甲車の車体の上に乗っている。傍から見れば明らかに定員オーバーとしか言いようがないが、彼らはお構いなしだ。まあ、軍用の車両だしエンジンも強力だから、これくらいの定員オーバーは問題ないんだけどね。

 

 隣には、同じくもう1両のBTR-90が停車しているが、そちらも同じような状態に陥っている。漆黒に塗装された武骨な装甲車の上に、同じく漆黒の制服に身を包んだ屈強な歩兵たちが、AK-12を手にしながら乗っているのである。

 

 こんなに仲間を連れていくのは、これから魔物退治が始まるからではない。偵察部隊が発見したガルガディーブルの管理局に向かい、装甲車に乗る戦闘員たちの分の資格を取得するためである。

 

 冒険者の資格を取得するのは簡単だ。窓口に行って書類に名前と生年月日と自分の種族を記入し、アンケートに回答するだけでいい。手数料はかからないので手ぶらで窓口に行っても資格である銀のバッジは交付されるけれど、資格を取得できるのは17歳以上のみ。それ未満は冒険者の資格は交付されないけれど、10歳以上ならば『冒険者見習い』の資格が交付され、冒険者と同伴ならばダンジョンへと立ち入ることができるという決まりがある。

 

 まあ、ムジャヒディンのメンバーの中には17歳未満はいるけれど、さすがに10歳未満はいない。なので年齢の問題はないだろう。問題は総勢35名――――――イリナはもう登録を済ませたし、警備兵は残していく――――――の登録希望者の対応をする羽目になる職員の人の仕事が爆発的に増えるという点だろうか。

 

 昨日イリナの登録を担当した職員の人には申し訳ないなと思いつつ、運転席に腰を下ろした俺はシートベルトをつけ、エンジンをかける。

 

「よーし、出発するぞー」

 

「なあ、ラウラは来ないのか?」

 

「え?」

 

 仲間たちの返事が返ってくると思いきや、後ろの兵員室から顔を出したウラルが俺に尋ねた。

 

「いつも一緒じゃないか」

 

「ああ、ラウラはちょっと〝やりたいこと”があるらしい」

 

「やりたいこと?」

 

「ああ。ナタリアと2人で料理の練習だとよ」

 

「料理? お前の姉さんって料理が苦手なのか?」

 

 兄貴(ウラル)、あいつの料理はヤバいぞ。

 

 はっきり言うと、あれはもう料理ではない。手榴弾みたいに敵に向かって投げつければ、きっと本物の手榴弾以上に戦果をあげられるレベルで殺傷力がヤバいのだ。

 

 小さい頃にラウラが作ったシチューは、どういうわけか紫色だった。腐臭にも似た猛烈な悪臭を当たり前のように放ち、鍋を開けた瞬間にその臭いを嗅ぐことになった母さんがふらついたのである。モリガンの傭兵として親父と共に最前線で戦ったあの母さんが、自分の娘の作ったシチューの臭いだけで、「ほう、これは楽しみ――――――――うぐぅ!?」と言いながらふらついたのだ。

 

 しかもヤバかったのは臭いだけではない。具として入れられていたニンジンやジャガイモは紫色に変色し、スプーンでちょっとつつくだけでドロドロに溶けて崩れてしまったのである。しかも溶けた瞬間には有毒ガスじゃないかと思ってしまうほどの悪臭を放出し、初っ端から大ダメージを受けていた母さんに追い打ちをかけた。

 

 そして身体を張ってそれを全部1人で食った親父が―――――――――高熱を出し、死にかけたのである。しかも体調を崩す前には予防のためにヒーリング・エリクサーをこれでもかというほど飲んでいたにもかかわらずその有様だ。回復した後に親父が「エリクサー飲んでてよかった」と真顔で言っていたのを聞いた俺は、ラウラの料理の腕に絶望しつつぞっとした。

 

 最強の親父を死ぬ寸前まで追い詰めた、ラウラの恐怖のシチュー。しかもエリクサーを山ほど飲んでいなければ死んでいただろうという親父の発言。つまりラウラの料理は、最強の転生者ですら殺してしまうほどの破壊力を秘めているのである。

 

 改めてぞっとしながら、俺は装甲車を走らせた。タンプル搭に残ることになった警備兵に手を振りつつ、俺は後ろから顔を出すウラルの問いに答える。

 

「……………レリエルを討伐した俺らの親父が死にかけるレベル」

 

「うわ」

 

 同じ吸血鬼だから、レリエル・クロフォードがどれだけ強力な吸血鬼だったのか知っているのだろう。そのレリエルを単独で討伐した最強の転生者を死ぬ寸前まで追い込む味なのだから、それがいかにヤバいかはすぐに分かる。

 

「……………それ、練習で何とかなるのか?」

 

「分からん。ちなみにラウラの母親も同レベルの料理を作るぞ」

 

「呪われてるんじゃないか?」

 

 うん、その可能性はあるかも。

 

 とは言っても、料理が得意な母さんと違ってエリスさんの料理がヤバいのは、あの姉妹が過ごしてきた環境に端を発していると言えるだろう。

 

 2人とも騎士団出身なんだが、最前線に配属された母さんは兵舎で1人暮らしをしていくにつれてあらゆる家事の技術を身に着け、更に料理の腕を磨いていったという。母さんから料理を習っているときに聞いた話なんだが、転生してきたばかりの親父を兵舎に招いたときはお手製のサンドイッチやシチューを振る舞ったこともあるという。

 

 それに対してエリスさんは、騎士団の精鋭部隊としてラトーニウス王国の騎士団本部に配属されていた。貴族に対しても反論できるほどの権力を持っていたエリスさんだが、その分仕事が忙しくて自分で食事を作る余裕はなく、よく同僚と本部の食堂を利用するか、外食ばかりしていたという。だから料理の腕が疎かになっていったのだ。

 

 ラウラの場合は……………多分、遺伝だろう。

 

 とりあえず、ナタリアに託そう。しっかり者の彼女なら、きっとラウラの料理を何とかしてくれるはずだ。

 

 頼んだよ、ナタリア。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでよしっ」

 

 制服の上にエプロンをつけて、鏡の前で自分の姿をチェックする。みんなと違って制服のデザインがちょっと堅苦しいからなのか、なんだかエプロンをつけてても堅苦しい感じがしてしまうけど……………大丈夫よね。

 

 チェックを終え、厨房にある机の上にずらりと並んだ食材を確認する。前に商人から購入したジャガイモはあるし、ニンジンと玉ねぎとハーピーの肉もある。牛乳もあるし、バターもちゃんとあるわね。

 

 今から作るのは夕食のシチュー。砂漠で食べるメニューじゃないかもしれないけど、カルガニスタンの砂漠は夜になると気温が一気に下がるから、暖かいメニューならきっとみんな喜んでくれると思うの。

 

 それにこの献立はラウラの要望でもあるの。小さい頃に傭兵さんに作ってあげたからなのか、思い入れがあるんだって。……………でも、タクヤが言うには傭兵さんを殺しかけるほどの殺傷力を持つ料理が出来上がるらしいんだけど、いったいどんな料理なのかしら?

 

 そういえば旅の最中も、タクヤは露骨にラウラに料理をさせないようにしていたみたいだし、かなりヤバいみたいね……………。

 

 うん、私が何とかしないと! ラウラが美味しい料理を作れるようになれば、きっとタクヤも喜んでくれるわ!

 

「ラウラ、準備できた?」

 

「うんっ♪」

 

 ラウラも私と同じく制服の上にエプロンをつけ、長いリボンを揺らしながら微笑んだ。

 

「よし、それじゃ始めましょう。ラウラは野菜を洗ってくれるかしら?」

 

「はーいっ♪」

 

 さて、それじゃあ私は今のうちにお鍋の用意をしておこうかな。

 

 そう思いながら机の上の鍋に手を伸ばしつつ、水道の水で野菜を洗おうとしているラウラを見守ろうとした私は、彼女が手にしているものを見て凍り付いた。

 

 ちょ、ちょっと待って。普通は野菜を洗うときは手で洗うわよね? しかもがっちりと洗うわけじゃない。さすがに料理が下手でも野菜を洗う程度ならば当たり前のようにこなせると思ってたけど――――――――どうやら、大間違いだったみたい。

 

 ラウラがニンジンと一緒に手にしたのは―――――――たわしだったの。

 

 えっ? た、たわし? ちょっと待ってよ、そんなので野菜を洗ったらボロボロになっちゃうでしょ!?

 

「ええと、ママは確か野菜をこうやって思い切り―――――――――」

 

「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「ふにゃっ!?」

 

 鍋を机の上に置き、私は大慌てでラウラの手からたわしを取り上げた。

 

「はぁっ、はぁっ……………ら、ラウラっ、野菜は…………がっちり洗わなくてもいいのよ?」

 

「ふにゅ? でも、ママは『汚れもろとも皮を引き剥がすぐらい思い切り洗うのがコツなのよ♪』って言ってたよ?」

 

 ラウラのお母さん、お願いだから娘さんに変な調理方法を教えないで。

 

 そういえばラウラのお母さんの料理も傭兵さんを殺しかけるほどの殺傷力があるって言ってたわね。あの海底神殿で戦った凛々しい人とは思えないけど、あの人の料理ってそれほどすごいのね……………。ラウラはきっとそんなお母さんの料理を見よう見まねで覚えちゃったか、間違った調理方法を教えられちゃったに違いないわ!

 

 うん、私が何とかしないと!

 

「いい? 野菜を洗うときはたわしを使わなくていいの。水をかけながらこうやって手で洗えば大丈夫だから」

 

「ふにゅー……………たわしは使わないんだね」

 

 当たり前でしょ!?

 

 何て事なの。まさか、一番最初の野菜を洗う段階からすでにとんでもないことになるなんて。これじゃラウラに調理を任せているうちに別の作業をすることができないじゃないの!

 

 仕方がないわ。私がつきっきりでラウラに料理を教えるしかない。とは言ってもタクヤには遠く及ばないけど、少なくとも彼女の調理方法をまともな方法にすることくらいはできる筈よ。

 

「ほら、やってみて」

 

「うんっ。ええと、手で……………本当にこれで大丈夫?」

 

「大丈夫よ。不安?」

 

「うん。……………あ、そうだ! 手だけ外殻で硬化させて―――――――」

 

「それじゃたわしと同じよ!?」

 

 キメラの外殻って滅茶苦茶硬いのよね!? 下手したらたわし以上にヤバいことになるわよ!?

 

「と、とりあえず、手で洗って。それと調理中は硬化禁止!」

 

「ふにゃあああああ!?」

 

 というか、調理中に外殻で硬化する局面はないわよ。弾丸を弾く防御力をどのタイミングで使うっていうのかしら?

 

 とりあえず、ラウラは私の言うとおりに手で野菜を洗ってくれた。最初にニンジンを洗って、次はジャガイモを洗う。そして最後は玉ねぎを洗って、洗い終わったきれいな野菜をボウルの中へと放り込んでいく。

 

 何とか洗い終えたわね。次は野菜の皮を剥かないと。

 

「じゃあ、次は野菜の皮を剥きましょう」

 

「はーいっ♪」

 

 ニンジンはピーラーを使えばすぐに剥けるし、玉ねぎは手で剥けるから簡単ね。問題はジャガイモだけど、ボウルの中にあるのは大きなジャガイモばかりだし、多少中身まで切り落としちゃっても大丈夫かな。

 

「あ、その前にニンジンの茎を切らないと」

 

「任せて! 私ね、物を切るのは得意なのっ♪」

 

 いや、確かに得意かもしれないけど、ラウラの場合はそれって実戦の話でしょ? 今は調理の時間なんだから、いつも戦ってるときみたいに切っちゃダメよ?

 

 嫌な予感を感じながらもそう願っていた私だったけれど、タクヤが苦笑いしながら「ヤバい」と評価するラウラの料理のやり方は、やっぱり私の予想を超えていた。

 

 包丁を手に取ったところまでは合ってる。でもそこから先が、常識的な調理方法から逸脱していた。

 

 なんとラウラは、ニンジンが転がらないように氷属性の魔術でまな板の上に固定してしまったの。普通なら片手でニンジンを押さえ、もう片方の手に持った包丁で切るのが当たり前なのに、ラウラは包丁を持った手を大きく掲げると、まるで戦場で標的を狙うときのように目つきを鋭くして――――――――キメラの誇る驚異的な瞬発力で、ニンジンへと包丁を思い切り振り下ろす。

 

 氷で束縛されていたニンジンに、逃げる術などなかった。というか、収穫された時点で逃げ場はないんだけど。

 

 彼女の包丁は的確に茎へとめり込み――――――――ニンジンを両断して、更に真下に敷かれていたまな板にまで襲い掛かる!

 

 戦場であらゆる敵を切り刻んできた彼女の一撃を受け止める羽目になった哀れなまな板は、今しがた切断されたニンジンと同じ運命を辿る羽目になったわ。切断された茎に若干遅れて宙を舞い、回転しながら……………私の右肩を掠め、床の上へと落下した。

 

「ふう…………。ねえねえ、どうだった? 凄かったでしょ!?」

 

「……………」

 

 この子はいったいどんな調理方法を学んできたのかしら。というか、ラウラのお母さんってどうやって食材を調理してるのかしら?

 

 タクヤ、私じゃ手に負えないかもしれない。

 

 目を輝かせながらこちらを見つめるラウラに向けて、私は苦笑いすることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 職員さんをいじめちゃダメ

 

ウラル「すいません」

 

職員(女)「はい、何か御用でしょうか?」

 

ウラル「ええと、冒険者の資格が欲しいんですが」

 

職員「はい、かしこまりました。ではすぐに手続きを―――――――」

 

エルフ(ムジャヒディン)「あ、俺もお願いしますー」

 

オーク(ムジャヒディン)「こっちも頼むわ」

 

ハーフエルフ(ゲリラ)「おーい、手続きまだー?」

 

職員(え、ちょっと、何人いるの!?)

 

職員「あ、はい、少々お待ちください!」

 

ダークエルフ(ゲリラ)「早くしてくれー」

 

職員(ひえぇぇぇっ! きょ、局長ー!!)

 

タクヤ「職員さんいじめんなよ……………」

 

 完

 

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