異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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ステルス機で空を飛ぶとこうなる

 

 

 空と、砂漠。稀に混じるのは茶色い岩の粒ばかり。

 

 カルガニスタンの砂漠をこうして上空から眺めると、こういう光景が広がっているのかと興味を持ってしまうけれど、あまり眼下の大地をきょろきょろしていると警戒が疎かになってしまう。後ろの座席に座っている彼女ならばまだそれは許されるかもしれないけれど、少なくとも操縦桿を握り、いざとなったら敵を機関砲やミサイルで木っ端微塵にする役目を引き受ける俺にそれは許されない。レーダーに敵の反応がないか確認しつつ、レーダーに頼らず自分の目でも確認する。

 

 俺がミスをすれば、後ろに乗っているナタリアも危険に晒すことになる。1人乗りだったらまだ気が楽だけど、複座型の機体のパイロットは予想以上に責任が重いのだ。

 

 本来ならばこのPAK-FAは1人乗りである。訓練を積んだ1人のパイロットがキャノピーの中にあるコクピットに腰を下ろし、機関砲とミサイルを積んだこの機体で空へと飛びあがっていく。そして空から襲来する敵を叩き落したり、敵の拠点に接近してミサイルをお見舞いするのだ。しかし俺が乗っているこの機体は2人乗りに改造されており、後ろの座席にはパイロットスーツに身を包み、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)のついたヘルメットを装着したナタリアが、酸素マスクを装着した状態でキャノピーの外を見渡している。

 

 航空機に乗るためには、そう言った装備が必需品なのである。――――――――それに対して、俺が身に着けているのは彼女に比べると身軽だと言わざるを得ない。

 

 俺が身に着けているのは、バイザーのように改造されたHMD(ヘッドマウントディスプレイ)のみで、ヘルメットや酸素マスクも装着していない。もちろん、身に着けているのはいつもの転生者ハンターのコートである。

 

 高度が上がれば上がるほど酸素は薄くなっていくから下手をすれば酸欠で苦しむ羽目になるし、Gを軽減してくれるパイロットスーツがなければ急旋回の際に大きな負荷がかかる羽目になる。けれども俺に必要なのはHMD(ヘッドマウントディスプレイ)のみだ。

 

 キメラの身体は非常に頑丈で、急旋回や急上昇程度のGで音をあげるようなことはありえない。だから前のトレーニングモードでMiG-21bisと戦っていた時は、パイロットスーツや酸素マスクも身に着けていなかった。

 

 酸素マスクが不要なのは、サラマンダーの遺伝子のおかげで肺が薄い酸素や気圧の変化でもあまり影響はない。もともとサラマンダーは火山に生息するドラゴンで、酸素が薄い環境や有毒な火山ガスが充満している環境での生活が当たり前なので、肺にはそう言った有害なガスをシャットアウトするためのフィルターのような器官が備わっているのである。とはいえシャットアウトできないガスもあるので、やはりガスマスクは必需品になるけれどね。

 

 それに気圧が変わっても、それを察知した身体中の器官が自動的に適応を始めていくので、よほど急激に変化しない限りは心配する必要はないのだ。

 

 ヘルメットを装着していないのは、ただ単に角が邪魔だからという理由である。

 

「ナタリア、どうだ?」

 

『すごい…………! ドラゴンよりも高く飛んでる…………!』

 

 彼女はトレーニングモードで戦闘機に乗るために必要な訓練を受けているし、その際に戦闘機の操縦もほんの少しだけど経験している。けれどもこうして現実世界で大空を飛び回るのは、これが初めてだという。

 

 訓練を兼ねたちょっとした遊覧飛行だけど、気に入ってもらえるだろうか?

 

『あっ、あっちにタンプル搭が見える!』

 

「ははははっ」

 

 いつもしっかりしてる彼女が、まるで遊園地にやってきた子供みたいにはしゃいでいる姿は本当に珍しい。きっと他のメンバーの前では、決してこんな風にはしゃぐことはないだろう。実際にタンプル搭で訓練をしているメンバーたちからは、「ナタリアはしっかりしている模範的な兵士だ」と言われている。

 

 きっと彼らにこんなにはしゃぐ彼女を見せたら、きっと我が目を疑うだろう。

 

「ああ、そうだ。吐きそうになったらすぐ目の前に袋があるからな。ゲップも我慢すんなよ」

 

『わ、分かってるわよ!』

 

 戦闘機の運用が始まった際に、そういった説明はしてある。

 

 高度が上がれば上がるほど酸素は薄くなり、気圧も低くなっていく。そうなると身体の中にある気体が膨張してしまうので、ちゃんと身体の外に排出する必要があるのだ。

 

 先ほどから後ろの席に座る彼女の方から、小さく「けふっ」って声が聞こえてきていたけど、どうやら我慢はしていないらしい。ちゃんと訓練通りに排出できているのを確認して安心した俺は、そろそろ訓練を開始するために操縦桿を横に倒した。

 

 訓練と言っても実際に機関砲やミサイルをぶっ放すわけではない。あくまでこのPAK-FAの操縦に慣れるための訓練だ。だからこうやってタンプル搭の上空を好き勝手に飛び回り、この新しいステルス機の操縦に慣れるのである。

 

 ちなみにケーターの操るF-22との対戦は今から4日後。再来週にはシュタージのメンバーはヴリシア帝国の帝都へと潜入作戦のために現地入りすることになるし、そのための準備や打ち合わせもあるので、そういった日程を考慮して4日後という事になった。

 

 時間があまりにも短いけれど、仕方がないだろう。

 

 きっとケーターも潜入作戦の訓練や打ち合わせと並行して、空いている時間を活用して訓練をしている筈だ。

 

 操縦桿を倒して旋回を始める。キャノピーの上に広がっていた筈の空が右側へとスライドし、左側に広がる砂の大地が、まるで列車の車輪のようにぐるぐると回転を始める。Gがまるで目を覚ましたかのように俺の身体を押さえつけてくるけれど、キメラの屈強な骨格と筋肉はちょっと旋回した程度では何の影響もない。ほんの少し身体に力を入れるだけでGを押し退けつつ、今度は高度を上げていく。

 

 MiG-21bisと比べると、やはり機動性が違う。あの機体も機動性には優れていたけれど、欠点の1つである安定性の悪さのせいで〝言う事を聞いてくれない”という印象があった。でもこのPAK-FAはそれと比べると、とても素直で、ひたすら動き回ってもパイロットの言う事を聞いてくれる。

 

 高度を上げ、今度は急降下。後ろに乗るナタリアが吐いていないことを祈りつつ急降下を続け、砂の大地がキャノピーの目の前に迫ってきたタイミングで操縦桿を引き、急降下を中止。機体を水平にしてから速度を落とし、ちらりと後ろの方を振り返る。

 

「…………どうだった?」

 

『……………いきなり急降下しないでちょうだい』

 

「す、すまん」

 

 急降下するぞって言っておけばよかった……………。ごめん、ナタリア。

 

『けふっ』

 

「大丈夫?」

 

『ええ。…………でも、スリルがあったし、面白かったわ』

 

「それはどうも」

 

 さて、訓練を兼ねて上空から偵察でもしておくか。離陸する際、管制室にも「訓練を兼ねた偵察任務」って言ったんだし、飛び回るだけとはいえ機体の操縦に慣れるいい機会だろう。

 

 というわけで、後ろの座席にパイロットスーツ姿のナタリアを乗せたまま、俺は操縦桿を倒して偵察のためにPAK-FAを旋回させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タンプル搭の飛行場の滑走路は、地下にある。地上に建造すれば36cm砲の衝撃波で滑走路や戦闘機がダメージを受けるし、地上まで機体をエレベーターで送れば手間がかかってしまう。だからと言って砲撃の際の衝撃波が及ばない防壁の外に建造してしまえば、今度は砂漠に生息する魔物からの襲撃に晒されてしまう。それを防ぐために人員を配置すればいいだけの話かもしれないけれど、今のテンプル騎士団には飛行場を警備する警備兵まで常に駐留させられるほどの人員はおらず、それどころか他の部隊に配属するべき人員も不足している状況であるため、人員を必要とする部署の増設はできるならば避けたい。

 

 そういった理由のため、タンプル搭の飛行場は地下に用意されたのだ。上から見るとV字型に配置された2本の滑走路はそれぞれ長さと滑走路の大きさが異なっており、大きい方が爆撃機や輸送機などの大型機専用で、もう片方が戦闘機や攻撃機専用となっている。地下から地上へと戦闘機を送り出すため、滑走路の端の部分は空母のスキージャンプ甲板のようになっている。

 

 防壁の付け根部分に地下の滑走路へと続くハッチがあるため、着陸する際は滑走路に進行方向を合わせるわけではなく、そのハッチに上手く機体が突入できるように調整しなければならない。そのため着陸の難易度は普通の滑走路と比べると高いと言える。

 

 角度の微調整を繰り返しつつ、失速して墜落しない範囲で速度を落としていく。もう既にタンプル搭のハッチは開いており、薄暗い滑走路の中では戦闘機を迎え入れるための誘導灯が点滅を繰り返していた。

 

『大丈夫なの?』

 

「任せろ。何回も訓練で繰り返してる」

 

 とはいえ、まだ胸を張って朝飯前と言えるレベルではない。ミスをすればあのハッチの淵に激突し、貴重な虎の子のステルス機を喪失する羽目になる。もちろん、俺たちの命まで一緒に。

 

 息を吐いてからキャノピーの正面を見据える。もう既にハッチの向こうの闇は目の前に広がっており、スキージャンプ甲板を思わせるせり上がった特徴的な滑走路の端に、PAK-FAの機首が迫っていた。

 

 普通の滑走路とは異なり、ここでほんの少し機首を上げる必要がある。そうしないと着陸する時よりも急な角度で滑走路に突っ込み、ランディング・ギアを破損させて予想外の胴体着陸をする羽目になる。

 

 ほんの少し機首を上げたころには、もう砂の大地は見えなくなっていた。延々と奥まで続く薄暗い滑走路と、広い滑走路の四隅に設けられた誘導灯の列が奥まで続き、最深部に見える格納庫の分厚い扉を照らし出している。

 

 機体を減速させつつ、誘導灯の蒼い光が照らす地下の滑走路を通過していく。奥の方には着陸した機体を格納庫へと誘導する人員が待機していて、こちらへと手を振っているのが見えた。

 

「ナタリア」

 

『なに?』

 

「遊覧飛行はどうだった?」

 

『ふふっ。あれは遊覧飛行とは言わないわよ』

 

 まあ、急旋回とか急降下を繰り返したスリルのあるフライトだったからな。でも後半は偵察任務だったし、そっちだけならば遊覧飛行と言えるだろ?

 

『でも、楽しかったわ。空を飛ぶのってあまり経験できないし』

 

 こちらの世界では産業革命の恩恵で列車が登場し、陸路は非常に前世の世界に近くなりつつある。けれども空路はというと全く産業革命以前から発達しておらず、相変わらず貴族が大金を出して飛竜に乗っている状態だ。

 

 飛竜は人間に慣れさせるのに非常に手間がかかるため、騎士団の予算の2割を飼育するための費用にする必要があるとまで言われている。そのためそういった人間に慣れた飛竜は優先的に騎士団へと回されるが、中にはそれを買い取る貴族もいるという。

 

 要するに、この世界の空路はまだまだ未発達。唯一の手段は飛竜に乗ることで、そんなことができるのは高度な訓練を受けた騎士か金持ちの貴族だけという状態だ。だからナタリアが空を飛ぶ経験をしたのは、俺と関わって別世界の兵器を知ってからである。

 

『ねえ。また訓練する時は誘ってくれない?』

 

「ああ、いいぞ。ナタリア用の機体も用意する?」

 

 減速させ、作業員の指示に従いながら機体を格納庫の方へと向かわせる。警報が鳴り響き、重々しい残響で地下の滑走路を満たしながら、分厚い鋼鉄の扉が開いていく。

 

 すると、後ろに座っていたナタリアがヘルメットと酸素マスクを外しながら、首を横に振った。

 

「あ、あのね、できたら…………タクヤと一緒がいいの」

 

「なんだって?」

 

 扉が開く音と警報の音で聞こえなかったぞ? ナタリアは何て言ったんだ?

 

 自分の目の周りを覆っていたHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を取り外しながら聞き返すと、後ろの席にいるナタリアは恥ずかしそうに顔を赤くし、微笑んだ。

 

「何でもないわよ、バカ」

 

 ええ? 教えてくれないの?

 

 まあ、問い詰めたら蹴られそうだし。とりあえず機体を格納庫に戻しておこう。

 

 ずらりとMiG-21bisが並ぶ格納庫の中には、もう既にステルス機のためのスペースが用意されていた。4日後のケーターとの一騎討ちに勝利すれば、そこにこのPAK-FAがずらりと並ぶことになる。ロシア製のステルス機が並んでいるのを想像してニヤニヤと笑いながら、乗っていたPAK-FAをそのスペースに収めてエンジンを停止しキャノピーを開けると、俺よりも年下のエルフの少年が、オレンジ色のツナギに身を包みながらタラップをかけてくれた。

 

「ありがとよ」

 

「どうも。…………ところで、これが新型機ですか? こっちに並んでるのと大分違いますけど…………」

 

「ああ。PAK-FAって言うんだ」

 

 コクピットから降りてきたナタリアからヘルメットと酸素マスクを受け取った俺は、こっちへとやってきた整備担当の団員たちに機体のチェックを任せることにする。俺の能力で生産した機体は12時間放置していれば勝手に最善の状態にメンテナンスされるようになるんだが、だからと言って整備員が全く必要ないというわけではない。12時間の間にどんなダメージを受けるか分からないのだから、修復や整備の知識を持つ整備員はやはり必要になる。

 

「あれ? ダリル、ステルス機の整備ってやったことある?」

 

「ああ、任せろ。お前はあっちの機体の整備を頼む」

 

「はいよー。あ、ウィリアム! レンチ持ってきて!」

 

 今のところ、ステルス機の整備を経験したのはごく数人だからな。

 

 パイロットスーツ姿のナタリアを連れ、格納庫を後にする。とはいえさすがにパイロットスーツ姿のまま彼女を居住区へと連れていくわけにはいかないので、その前に更衣室に向かわせないと。

 

 格納庫の近くに更衣室がある。パイロットはここでパイロットスーツに着替え、すぐに出撃するというわけだ。

 

「じゃあ、ちょっと着替えてくるわ」

 

「おう。じゃあ、俺は先に部屋に――――――――」

 

「えっ? ああ、うん。…………ねえ」

 

「ん?」

 

「タクヤってさ、今…………ひ、1人なんだよね?」

 

「ああ、そうだよ?」

 

 ラウラと離れ離れになっちまったからな。最近はちょっとずつ立ち直ってるけど、相変わらず夢の中にお姉ちゃんが出てきて、目が覚めると目の周りが涙で濡れているのは珍しくない。他にも無意識のうちに2人分の食事を作ってしまったりすることもある。

 

「あ、あのね、私でよければ…………ま、またご飯作りに行ってあげてもいいわよ?」

 

「マジで!? じゃあ頼む!」

 

「うんっ! 楽しみにしてなさい!」

 

 ナタリアがご飯作ってくれるのかぁ…………! 今夜の夕飯は楽しみだな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に鎮座するのは、白と灰色の迷彩模様で塗装された猛禽だった。

 

 上から見ると正三角形に見える主翼と、他のスペースに並ぶ戦闘機とは違って平らな胴体。そして獰猛な猛禽類の嘴を思わせる機首。主翼の下部には破壊力のあるミサイルを格納するためのウェポン・ベイが用意されており、ステルス性は世界でトップクラスと言っても過言ではない。

 

 ステルス性だけが取り柄ではない。機動性に加えて、この機体にはあらゆる最新型の装備がぎっしりと詰め込まれている。長距離から敵を察知し、距離を詰められる前にミサイルで叩き落すことが可能なこの機体は、まさに『空の支配者』。

 

 これが、俺が採用するべきだと主張したアメリカ製ステルス戦闘機の『F-22ラプター』だ。もう既にこいつを実際に飛ばして訓練は行っているし、ちゃんと俺たちのシンボルでもある白い虎(ホワイトタイガー)のエンブレムも描いてある。

 

 主翼の右側に描かれたテンプル騎士団のエンブレムと、機首の左側に描かれた白い虎のエンブレム。もちろん白い虎のエンブレムは自作だ。ついさっきまでこれを描いてたからな。

 

「良い出来ね」

 

「だろ?」

 

 前世の世界から一緒にいるクランと一緒に愛機(ラプター)を見つめながら、俺は息を吐いた。

 

 あと4日後だ。アメリカが産んだ最強のステルス機と、ロシア製の新型ステルス機が激突するのは。

 

 勝利した方がテンプル騎士団で正式採用。敗北すれば不採用となり、空を飛ぶことはなくなる。仮に空を飛ぶことができたとしてもそれは限定的な状況だけだ。

 

 鳥籠を抜け出して空を飛ぶことが許されるのは、2羽のうち1羽だけ。この白い猛禽(ホワイト・ラプター)が飛び立つか、それとも黒い竜(ブラック・ドラゴン)が空を舞うか。

 

「勝ってね、ケーター」

 

「当たり前だ」

 

 隣に立つクランと手をつなぎ、目の前に鎮座する猛禽を見据える。

 

 今度の相手はテンプル騎士団の団長。しかも最強の転生者に育てられた、魔王の息子。

 

 上等じゃないか。必ず撃ち落として、俺はこのラプターを正式採用させて見せる。そしてクランと一緒に、この機体で異世界の空を飛ぶんだ。

 

 いつの間にか、隣にいる彼女が俺の顔を見上げていた。俺も彼女のエメラルドグリーンぼ瞳を真っ直ぐに見つめてから、クランの唇を奪う。

 

 絶対に俺が勝つ。

 

 あいつには――――――――負けない。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はいよいよF-22 VS PAK-FAです!
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