異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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シュタージの情報

 

 

 廃墟で待っていたのは、モリガン・カンパニーの空母から派遣された1機のカサートカだった。スタブウイングには飛行可能な距離を延長するために燃料が満載された増槽を搭載しており、その隣には対地攻撃用にロケットポッドを装備している。あくまでも俺たちの回収を最優先にした装備らしく、武装は最小限になっていた。

 

 もしこのヘリに航空支援をしてもらえたのならば、ウォルコットさんたちは助かったんじゃないかと思ったけれど、あれだけの数の敵兵と装甲車の中にロケットポッドしか武装を持たない1機のヘリが戦いを挑んだところで、すぐに装甲車の機関砲で撃墜されるのは明白だ。そう思った俺は何も言わずに、兵員室の中に用意された椅子に腰を下ろし、脱出前にウォルコットさんたちから預けられていた情報を確認していた。

 

 ウォルコットさんたちから預けられた書類には、もしもサン・クヴァントに上陸する場合に最適な上陸地点や、そこからホワイト・クロックまでスムーズに進軍できるルートまで詳細に記載されていた。それだけでなく、敵の待ち伏せが想定される区画や橋頭保として確保しておくべき地点などまで記載されていて、俺たちがまだまだ未熟だったという事を痛感してしまう。

 

 ヘリのパイロットに「君たちだけなのか? 同志ウォルコットたちは?」と問いかけられたときは、無言で首を横に振ることしかできなかった。パイロットはそのしぐさを見て首を縦に振ると、それ以上ウォルコットさんたちがどのような運命を辿ったのかは聞かないでくれた。ジョセフさんたちは吸血鬼の予想外の襲撃で殺され、ウォルコットさんたちは脱出の途中に木っ端微塵にされた。ありのままを彼らに話したら、俺はもしかしたら壊れてしまうかもしれない。

 

「…………ケーター」

 

 隣に座っていたクランが、優しく俺の手を掴んだ。

 

「仕方なかったのよ……………あいつらがあんな装備を持っていたなんて、誰も予測できなかったんだから」

 

「でも、クラン……………もっと早く対応できれば……………!」

 

 確かに、あいつらが銃だけでなく戦車や装甲車まで持っていることは予想外だった。けれどもその”予想外”は、吸血鬼たちは決して銃を持たないと決めつけていたから生まれたに違いない。

 

 戦場で敵の能力を勝手に決めればどうなるのか、この戦いでよく分かった。もしかしたら敵も俺たちのように現代兵器で武装しているかもしれないと思っていれば、もう少し素早く対応できたかもしれないのだから。

 

 彼女の手をぎゅっと握り返した次の瞬間、カサートカを操縦するパイロットが叫んだ。

 

「これは……………? くそ、敵の戦闘機だ!」

 

「なっ……………!? 数は!?」

 

「2機!」

 

 舌打ちをしながら、俺は兵員室の窓の外を睨みつけた。まだはっきりと見える距離ではないけれど、敵の戦闘機がどうやら俺たちのヘリを追撃しているらしい。ウォルコットさんたちのおかげで俺たちはヘリで脱出できたというのに、このままでは戦闘機に撃墜されてしまう!

 

 もう既にヘリは海の上へと出ている。仮に撃墜されたとしたら泳ぐしかないが、この辺の海には魔物が数多く生息している。そんな海の上に投げ出されたら、いくら転生者でもあっという間に魔物に食い殺されるのが関の山だ。地面の上に墜落する場合よりも生存率は圧倒的に低い。

 

「ここから母艦までの距離は!?」

 

「まだまだ先だ! 逃げきれない! ―――――――エコー1-1よりバクーへ! 現在、敵の戦闘機による追撃を受けている!」

 

『こちらバクー。そちらの位置は?』

 

「現在、ウィルバー海峡――――――――」

 

 パイロットが空母に現在位置を知らせようとした瞬間だった。今までメインローターの音と狼狽するパイロットの声しか聞こえなかったヘリの中で、何の前触れもなく電子音が鳴り響き始めたのである。後方から敵の戦闘機にロックオンされていることを告げる電子音を聴いた瞬間、パイロットの顔が強張った。

 

 当たり前だが、戦闘機のミサイルを1発でも喰らえば海の藻屑になるのは確実だ。機動性は戦闘機よりも下なのだから、フレアを使って必死に回避するしかない。

 

 せめて空対空ミサイルが搭載されていれば応戦できるんだが、このヘリの武装はロケットポッドのみ。空を縦横無尽に飛び回る戦闘機に、空対空ミサイルのようにホーミングできないロケット弾を命中させるのは不可能だ。全く勝負にならない。

 

「くそ、ミサイルだ!」

 

「フレアを!」

 

「分かってる!」

 

 フレアのスイッチを押した瞬間、機体の周囲に炎の球体にも似た無数のフレアがばら撒かれる。後方から接近していたミサイルはふらついたかと思うと、まるでカサートカの撃墜を諦めてしまったかのように全く別の方向へと逸れていく。

 

 何とか木っ端微塵にされるのは防いだみたいだけど、敵にはまだミサイルが残っている筈だし、機関砲もある。今のはあくまで最初に放たれたミサイルを凌いだだけなのだ。空母との距離はまだあるから、空母のいる位置まで逃げ切るか、空母から発信した艦載機が到着するまで持ちこたえなければならない。

 

 やはり速度に差があり過ぎたせいなのか、俺たちを追尾していた2機の戦闘機がカサートカの左右を通過していく。後方に搭載されているでかい1基のエンジンノズルと真っ直ぐに屹立する1本の垂直尾翼を見た瞬間、俺はヘリを追撃してきたその戦闘機の種類を見破った。

 

 アメリカ軍で採用されている戦闘機の『F-16』だ。F-22やPAK-FAのようなステルス性は持たないが、非常に汎用性が高い上に機動性も優秀で、更にコストも低いという利点がある。

 

「くそ、吸血鬼共はF-16まで持ってるのか!」

 

「敵機が旋回してる! 今度は正面から来るぞ!」

 

 ヘリのパイロットが操縦桿を倒し、機体を左へと旋回させる。

 

 くそったれ、空母の艦載機はまだか!? 焦りながら窓の外を見てみたが、あのF-16以外の戦闘機がこの空域に駆けつけてくれる様子はない。機動性が劣る上に速度も遅く、しかも対地攻撃用のロケット弾しか武装を積んでいないヘリに対して、向こうは高い機動性を持つ上に対空ミサイルを何発も搭載している戦闘機だ。敵の独壇場になっているのは明らかである。

 

 再びミサイルにロックオンされているという事を告げる電子音が、操縦桿を握るパイロットを更に焦らせる。1発でもこっちに命中すれば入手した情報諸共海の藻屑だし、対空ミサイルには近接信管もある。ぎりぎり回避しようとしたとしてもミサイルが爆発し、その爆風でやられてしまうのだ。だから完全に回避しなければならない。

 

 回避してくれ、と祈りながらコクピットのパイロットを見つめる。必死に操縦桿を倒して機体を旋回させて足掻くが、電子音は全然消えない。すでに敵のF-16は旋回を終えていて、いつでもミサイルを発射できる状態だ。

 

 もう駄目だ。このままでは撃墜される。

 

 そう思った次の瞬間だった。こちらに向かって飛びながら、慌てふためいている獲物にミサイルを叩き込もうとしていたF-16の片割れが――――――――何の前触れもなく弾け飛んだかと思うと、燃え盛る機体の部品を海へとばら撒くかのように落下していったのである。

 

「なっ、なんだ…………!?」

 

「味方か!?」

 

 生き残ったもう1機のF-16が、いきなり相棒が木っ端微塵になったことを知って慌てて回避する。そのおかげでミサイル攻撃を断念したらしく、カサートカの機内に鳴り響いていたアラートは消え失せていた。

 

 いきなり高度を下げ、必死に急旋回を繰り返すF-16。俺たちを追い立てていた奴らを逆に追い立てているのは、漆黒に塗装された2機の戦闘機だった。尾翼は見当たらず、やたらと大きな主翼と、その主翼の前に搭載されているカナード翼が特徴的だ。

 

 今頃、逃げ回るF-16のコクピットの中ではロックオンされていることを告げるアラートが鳴り響き、パイロットを狼狽させている事だろう。必死に急旋回を繰り返すが、いきなり姿を現した2機の戦闘機は連携し合いながらF-16を追い詰めていく。

 

 黒い戦闘機の下部にあるウェポン・ベイが開いたかと思うと、その中から姿を現した1発の空対空ミサイルがF-16へと向かって飛んでいく。F-16はフレアを使いつつ急旋回をして回避しようとするけど、ミサイルを放たなかったもう1機の黒い戦闘機が先回りしていた。ミサイルを振り切って安心したF-16に、先回りしていたもう1機の黒い戦闘機が襲い掛かる。

 

 至近距離で機関砲が立て続けに放たれる。先回りされていたことに気付いたF-16のパイロットが操縦桿を大慌てで倒した事には、最初の1発が主翼を食い破り、後続の機関砲が立て続けにエンジンノズル付近に大きな風穴を開けていた。

 

 エンジンノズルから炎の代わりに黒煙を吐き出し始めたF-16は減速し始めると、そのままぐるぐると回転を始め、やがて海面目と消えていった。

 

「すごい連携だ……………」

 

 味方の片方がフレアを使われることを承知の上でミサイルを放ち、もう1機が先回りして確実に敵機を撃墜する。何度も実戦に出撃し、経験を積み重ねつつ、仲間の得意とする動きを完全に把握していなければあんな芸当はできない。間違いなくあの機体に乗っているパイロットはどちらもエースパイロットだろう。

 

 すると、F-16を撃墜した2機の戦闘機が高度を上げ、空戦を見守っていたカサートカの近くへとやってきた。

 

「中国の殲撃20型だ……………!」

 

 俺たちの窮地を救ってくれたのは、中国で開発されたステルス機の『殲撃20型』だった。アメリカのF-22やロシアのPAK-FAとは全く異なるフォルムが特徴的な機体である。

 

 2本の垂直尾翼には、真っ赤な星を加えている虎のエンブレムが描かれていた。

 

「殲虎公司(ジェンフーコンスー)の航空隊か! 助かったよ!」

 

『どういたしまして、同志』

 

 無線機から聞こえてきたのは、若い男性の声だった。

 

 どうやらあの殲撃20型は、モリガン・カンパニーと同盟関係にある『殲虎公司(ジェンフーコンスー)』所属の戦闘機らしい。殲虎公司(ジェンフーコンスー)は14年前の転生者戦争にも参加した数多くの転生者が所属するPMCで、世界中に傭兵を派遣しているという。今ではもう軍拡を進めるモリガン・カンパニーに規模を追い抜かれてしまったものの、主要メンバーが転生者戦争の生き残りであるため非常に練度が高いと言われている。

 

 リーダーは中国出身の転生者の『張李風(チャン・リーフェン)』。転生者戦争以前からモリガンと共同訓練を行っているほど硬い同盟関係らしく、今度のヴリシア侵攻作戦では戦力の一翼を担うことになっているという。

 

『では、君たちの空母までエスコートさせてもらうよ』

 

「感謝する、同志!」

 

「ふう……………」

 

 何とか海の藻屑にはならずに済んだらしい。

 

 窓の外を飛ぶ殲撃20型のパイロットに向けて手を振った俺は、息を吐きながら兵員室の椅子に腰を下ろした。

 

 他の仲間たちも安心しているようだが、木村の奴は「おお、中国の戦闘機が近くを飛んでますよ、坊や(ブービ)!」と楽しそうに言いながら、疲れ切った坊や(ブービ)の肩をひっきりなしに揺らしている。

 

 休ませてやれよと思いながら苦笑いした俺は、もう一度息を吐きながら窓の外を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生還したシュタージからの報告書を確認した俺は、執務室のデスクの上にある報告書を見下ろしながらため息をついた。

 

 シュタージのメンバーは負傷せずに全員生還してこの情報を持ち帰ってくれたものの、こちらから派遣した諜報部隊は全滅。ベテランだったジョセフやブレンダンも戦死し、大きな損害を被ることになってしまった。

 

 しかし、彼らが入手してくれた情報は有益なものばかりだった。海に面している帝都サン・クヴァントに上陸する際の最適な上陸ポイントや、敵の本拠地である可能性の高い地点の場所。それだけでなく、理想的な進軍ルートや橋頭保として確保するのに最適なポイントまで詳細に記録されており、それらのポイントを確保するのが難しかった場合のポイントまで記載されている。

 

 作戦は、このブレンダンが残してくれた記録を元にして立案することになるだろう。しかし、問題はシュタージの報告書に記載されている事だ。

 

 信じがたい話だが、吸血鬼が銃や戦車で武装していたというのである。逃走する途中に誰かが写真を撮影したらしく、白黒の写真まで一緒に同封されていた。走行中に撮影したためはっきりとは見えないが、まるで第二次世界大戦中のドイツ兵を彷彿とさせる軍服とヘルメットに身を包んだ兵士が、G36Cと思われるアサルトライフルやパンツァーファウストで武装し、装甲車のM2ブラッドレーと共に行動しているのである。

 

「なんてことだ」

 

 傍らで報告書を見ていたエミリアが呟いた。俺と共にヴリシアでレリエル・クロフォードと戦った経験のある彼女ならば、吸血鬼が銃を持つことがどれだけ脅威になるのかよく分かっている。

 

 驚異的な身体能力を持ち、なおかつ再生能力まである吸血鬼と辛うじて互角に戦えたのは、俺たちが銃を持っていたからだ。しかし彼らまで銃を持ったという事は、その均衡が崩壊したことを意味する。

 

 これでは、銃を持った無数の兵士たちを進撃させるだけでは勝てない。もう少し物量を増やしたうえで、しっかり作戦を考えなければ、上陸した部隊がことごとく壊滅する羽目になる。

 

「……………ヘンシェル」

 

「はい、同志」

 

「歩兵部隊の人数を、予定の人数から増やせるか?」

 

「はい、やってみましょう」

 

「頼む」

 

 おそらく、ヴリシア侵攻は予想以上に壮絶な戦いになるだろう。下手をすればあの転生者戦争よりも大規模な戦争になるかもしれない。

 

 そう、最早この戦いは紛争ではない。本格的な”戦争”なのだ。

 

「……………”第二次転生者戦争”か」

 

 吸血鬼が銃を持っている以上、転生者が彼らに協力しているか、奴隷にされているとしか思えない。もし前者ならばまたしても転生者同士の激突になるし、後者ならばなんとかして助け出す必要がある。

 

 ため息をつきながら、傍らで直立して待機しているリディアを見上げた。相変わらず男性が身につけるようなスーツに身を包み、彼女を拾った時に俺がプレゼントしたシルクハットをかぶったまま、表情を変えずに俺の顔を覗き込んでいる。

 

 彼女の顔を見つめて微笑んでから、両足を見下ろす。真っ黒なズボンの中にある彼女の両足は本来の脚ではなく、フィオナが試作した機械の義足だ。彼女が発見された時、リディアはどういうわけか両足が欠損した状態で発見されたのである。だから義足がなければ、彼女は歩くことができなかったのだ。

 

 当時から何度か改修を受けているとはいえ、彼女の義足はフィオナが作った”旧式”の義足である。今度の戦いにはリディアも参加することになっているが、さすがに旧式の義足では戦いを乗り切るのは難しいかもしれない。

 

「リディア」

 

 もう一度彼女の顔を見上げた俺は、彼女の瞳を見つめながら言った。

 

「―――――――君には、”近代化改修”を受けてもらう」

 

 

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