異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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第13章
ウィルバー海峡海戦


 

 

 もしこの光景を空から見下ろしたら、どのような光景に見えるだろうか。

 

 いつもは波打つ大海原の一角が、真っ黒な鋼鉄の装甲に覆いつくされているように見えるのだろうか。それとも、広大な大海原の一角に浮かぶ船団にしか見えないのだろうか。そう思いながら甲板を眺めた俺は、もし空からこの大艦隊を見下ろす事ができたならば、見えたとしてもきっと後者だろうな、と思った。

 

 いくら大艦隊を世界中からかき集めて大海原に浮かべたとしても、全体的に見ればちっぽけな鋼鉄の礫の群れにしか見えないだろう。けれどもその礫たちは、瞬く間にあらゆる大陸を火の海にしてしまうほどの威力を持つ兵器を満載した、世界一獰猛な鋼鉄の礫たちだ。これらを侮って攻撃を仕掛ければ瞬く間に焼き尽くされる運命になるのは、言うまでもないだろう。

 

 目の前に広がる甲板の向こうをずらりと並んで航行しているのは、船体を漆黒に塗装され、モリガン・カンパニーや殲虎公司のエンブレムが描かれた旗を掲げた無数のソヴレメンヌイ級だ。中には対潜攻撃力に優れたウダロイ級や、まるで巡洋艦に空母の甲板を取り付けたような姿のキーロフ級軽空母も一緒に航行している。

 

 甲板の向こうに見えるだけでもかなりの数の艦隊だという事が分かるが、あくまでもそれは氷山の一角に過ぎない。左右を見てみればそれ以上の数の大艦隊が航行しているし、俺の乗る艦の後ろには、この大規模な連合艦隊の旗艦『アドミラル・クズネツォフ』が、数隻の駆逐艦に守られながら航行している。

 

 ちらりと後ろの方を見てみると、副砲や高角砲の代わりに搭載されたAK-130の砲身の向こうで、まるで艦首が天空へと折り曲げられたかのようにも見える形状の大型空母が、飛行甲板の上に大量の艦載機を乗せたまま航行していた。

 

 ロシアのアドミラル・クズネツォフ級空母の一番艦『アドミラル・クズネツォフ』だ。あの艦首はスキージャンプ甲板と呼ばれる方式で、甲板から発進する艦載機をあの上へと曲がった甲板でジャンプさせることで出撃させるようになっている。ちなみにアメリカの新型の空母などではカタパルトで艦載機を出撃させる方式になっているため、あのように艦首が上に曲がったような形状になっておらず、全体的にすらりとしているのが特徴だ。

 

 その後方を航行している同型艦は、殲虎公司(ジェンフーコンスー)艦隊旗艦の空母『上海』。アドミラル・クズネツォフと同じく真っ黒に塗装されており、艦橋の上ではエンブレムが描かれた旗が揺れている。

 

「すごい数だね」

 

「ああ。親父に頼んだら何隻かもらえるかな?」

 

「どうだろう」

 

 ラウラと2人で周囲の艦隊をジャック・ド・モレーの艦橋から見渡しつつ、俺は息を吐いた。

 

 このヴリシア侵攻作戦に参加する艦の数は、合計で約500隻。そのうちの大半を占めるのが、俺たちの周囲を航行するソヴレメンヌイ級駆逐艦である。艦橋の両サイドには対艦ミサイルが装填されたミサイルポッドを搭載しており、長距離から敵艦の撃沈が可能となっている。ただし対潜能力は低く、敵の潜水艦に対応することは難しいため、逆に対潜能力の高いウダロイ級駆逐艦に潜水艦の相手を任せる事になっている。

 

 500隻のうち、ソヴレメンヌイ級は200隻も投入されている。ウダロイ級は100隻も投入されており、この2種類の駆逐艦だけで艦隊の過半数を占めている。残りは軽空母や空母で、艦隊の最後尾には帝都サン・クヴァントへと上陸する兵士たちを乗せたフランスの『ミストラル級強襲揚陸艦』が50隻も航行しており、甲板の上では整備兵たちが、飛び立つ予定のヘリのメンテナンスに勤しんでいた。

 

 こんな規模の艦隊を投入する必要があるのか、と思ってしまう。けれども逆に考えれば、親父たちは現代兵器で武装した吸血鬼たちを、”これほどの兵力を投入しなければ勝てない相手だ”と考えたという事だ。俺たちも吸血鬼と戦った経験があるけれど、確かにあいつらは厄介な相手だった。身体能力が高い上に強力な再生能力があり、弱点で攻撃しない限り何度も再生を続けるのである。

 

 辛うじて銃のおかげで互角に戦えていたが、そんな化け物たちまで銃や戦車で武装しているのだ。

 

「あら、ここにいたの」

 

「おう、ナタリア」

 

 甲板の向こうの艦隊を眺めていると、制服姿のナタリアがタラップを駆け上がってきた。片手にはファイルを持っていて、中に挟んである紙は小さな文字や数字でびっしりと埋め尽くされている。

 

「敵との戦力差が割り出せたわ。予測だけど」

 

「ありがとう。……………1対20か」

 

 もちろん、吸血鬼側が1で、俺たちが20である。予測でしかないとはいえ、簡単に言えば俺たちの戦力は吸血鬼たちの20倍という事になる。

 

 そのファイルをラウラに手渡すと、彼女は戦力差の数値を見て目を丸くしていた。けれどもすぐにその投入された戦力が”やりすぎ”ではないという事を理解する。それだけの戦力を投入しなければ勝つことのできない怪物たち。この海峡の向こうにある島国で待っているのは、そういう怪物たちだ。

 

「知ってるか? 親父たちが転生者戦争に行ったとき、島に上陸したのはたった260人だけらしいぜ?」

 

「聞いたわ。守備隊の人数は10000人だったんでしょう?」

 

 よく260人で10000人の守備隊を壊滅させたものだ。しかもこの戦いには、その転生者戦争の生き残りも数多く参加するという。

 

 しかも敵の捕虜はゼロ。ネイリンゲンを壊滅させられ、多くの仲間や住民を殺されたことに怒り狂っていた当時の親父たちは、例え敵が武器を捨てて投稿してきてもすぐに射殺し、負傷兵たちが苦しんでいる診療所の中に平然と火炎瓶を投げ込んでいったという。この異世界で初めての現代兵器同士の戦いとなった”第一次転生者戦争”の部隊となったファルリュー島は、まさに地獄絵図となったのだ。

 

 これからヴリシア帝国の帝都も同じ道を辿ろうとしている。もう既にオルトバルカ大使館から住民を避難するようにと勧告された騎士団が住民を避難させ終えたらしく、今の帝都は無人だ。残っているのはそこを守ろうとする吸血鬼や、彼らに味方をする人間の兵士たちのみである。

 

「それにしても、何で人間が吸血鬼の味方をするのかなぁ?」

 

「脅されているか、それとも帝国が憎たらしかったんだろ。向こうは親父みたいに労働者の味方をする権力者がいないから、かなりの重労働ばっかりやらされるらしいぜ」

 

「不満を持っているからって、吸血鬼の味方をするなんて……………」

 

 けれども、理解できない事ではない。前世で虐げられていたから、俺もそういう気持ちは分かる。不満が溜まり続けていけば、何かを壊したくなるものだ。濃縮された大規模な八つ当たりとでも言うべきだろうか。

 

 ひたすら不満を動力源にして暴れまわり、きっと終わった後に我に返って後悔することになる。

 

 吸血鬼に協力して全てを破壊したところで、仮にそうやって全部ぶっ壊したとして、最終的に吸血鬼たちの餌にされるという事まで考えていないのだ。吸血鬼たちからすればちょっとばかり火をつけてやるだけですぐに燃え上がり、その復讐心を剥き出しにして暴れまわる使い勝手のいい”駒”に過ぎない。

 

 気持ちは分かるが、彼らは自分たちが暴れた結果がどうなるのか予想できていないのだ。

 

 頭をかいてから、そっと艦橋の脇にある手すりを掴んで左舷を見据える。現在俺たちの艦隊はモリガン・カンパニー艦隊旗艦アドミラル・クズネツォフのすぐ前を、他の駆逐艦の群れと同じく27ノットで航行中だ。このまま敵の襲撃がない状態で航行できれば、あと4時間ほどでヴリシア帝国が見えてくるはずである。

 

「いずれにせよ、立ち塞がるなら蜂の巣にしてやろうぜ。脅されて協力させられているなら助けるだけだ」

 

「うん、そうね」

 

「ふにゅ。それしかないよ」

 

 親父たちなら、銃を向けてくる奴らは全員射殺しそうだけどな。

 

 話を終えて艦橋の中へと戻る。潮の香りが一瞬で消え去り、洗濯された制服の匂いと緊張感が艦橋の中を支配していた。舵輪を握る乗組員に「舵の調子はどうだ?」と尋ねると、彼は微笑みながら答えてくれた。

 

「良好です。それにしても、こんなでっかい船に乗るとは思いませんでしたよ。オルトバルカの新型戦艦でも、隣を航行してる駆逐艦の半分だっていうのに」

 

 この世界では一般的に、フィオナ機関を搭載して、全長が50mを超える軍艦を”戦艦”と呼んでいる。だからこの世界の人々から見れば、このテンプル騎士団艦隊旗艦『ジャック・ド・モレー』の隣を航行するソヴレメンヌイ級は”戦艦”に見えてしまうに違いない。けれどもソヴレメンヌイ級はあくまでも”駆逐艦”。主力となる艦艇の中ではまだ小型なのだ。

 

 ちなみにこのジャック・ド・モレーの全長は270mを超える。超弩級戦艦なのだから当たり前だが、この世界の人々がジャック・ド・モレーを目の当たりにしたらどんな反応をするのだろうか。

 

 オルトバルカ王国海軍の象徴と言われている戦艦『クイーン・シャルロット級』は全長50m。主砲は20.7cmスチーム・カノン砲となっており、火力はあくまでも第一次世界大戦に投入されていたような”前弩級戦艦”程度である。その王国の象徴よりもはるかに巨大で、強力な武装を満載した”駆逐艦”と共に航行する超弩級戦艦が姿を現したら、きっと腰を抜かすに違いない。

 

 けれどもこれから戦うことになるのは、そんな超弩級戦艦を数発で撃沈できるようなミサイルを搭載した敵艦隊なのだ。おそらく主な戦力は空母やイージス艦になるだろう。俺たちのように、近代化改修が施された戦艦が含まれている可能性は極めて少ない。

 

 そもそも、現代戦において戦艦は殆ど運用されることはない。最後に運用されたのは湾岸戦争と呼ばれる戦争で、その戦いに近代化改修を施されたアメリカの『アイオワ級戦艦』が参加している。

 

 第一次世界大戦や第二次世界大戦において、海戦の主役は戦艦だった。分厚い装甲と強力な主砲を搭載した戦艦同士で砲撃し合い、敵艦を撃沈するような戦いが当たり前だったのである。けれども第二次世界大戦中に航空機が発達すると、爆弾や魚雷を搭載した航空機を戦艦で迎え撃つことが難しくなり、更に強力なミサイルの登場やジェットエンジンを搭載したことによる航空機の高速化が、戦艦の実用性を一気に粉砕してしまった。

 

 だから現代では、戦艦を運用する国はない。仮に出撃させたとしても主砲の射程外からミサイルで撃沈されてしまうし、対艦ミサイルを搭載している航空機を迎撃するのは近代化改修をしない限り不可能だからだ。しかし近代化改修をしたとしても戦艦を保有するコストは大きいため、他の艦隊の足を引っ張ってしまう可能性がある。

 

 けれども俺たちがそれを承知の上でジャック・ド・モレーに近代化改修を施し、艦隊の旗艦にしたのは、偶然この艦が討伐した転生者からドロップしたからという理由と、分厚い装甲で敵の反撃に耐えつつ、艦砲射撃で上陸した部隊を支援するという任務に使えそうだという理由と、少しでもこの作戦に投入できる艦が欲しかったからという理由の3つだ。

 

 それに転生者の能力ならば、コストも殆ど気にならない。12時間放置しておくか、補給するための設備さえ用意できればコストを気にせずにどんどん投入できるのである。もちろん生産する場合はイージス艦以上のポイントを消費する羽目になるが、このように偶然ドロップしてくれるのならば非常にありがたい。

 

 とはいえさすがに戦艦はレアらしく、なかなかドロップしないみたいだ。あれから何度か転生者を討伐したけど、ドロップしたのはもう持ってる水兵二連式のソードオフ・ショットガンや、特に使い道のないロングソードばかり。戦艦どころか戦車や戦闘機がドロップすることは殆どなかった。

 

 だからいきなり24号計画艦を手に入れることができたのは、非常に幸運だった。

 

「艦長」

 

「ん? ああ、俺か」

 

 いつも”同志”って呼ばれているせいなのか、艦長と呼ばれると返事をするのが遅れてしまう。転生して”タクヤ”という新しい名前を付けてもらった時もそうだったけど、新しい呼ばれ方をすると反応が遅れてしまうものだ。

 

 振り返ってみると、ヘッドセットを外した乗組員の1人が、真剣な目つきでこっちを見ていた。

 

「どうした?」

 

「レーダーに敵航空機と思われる反応あり。数は100機以上」

 

「いよいよか…………」

 

 先制攻撃を仕掛けてきたか。もう既にヴリシア帝国の領海内に侵入しているからそろそろ攻撃を仕掛けてくると思ったが、やけに攻撃を仕掛けるのが遅かったな。

 

「敵機は分かるか?」

 

「おそらく、F/A-18かと」

 

「ホーネットか…………」

 

 アメリカ製の戦闘機だ。極めて汎用性が高く、様々な武装を搭載可能な機体だ。空対空ミサイルを搭載すれば敵戦闘機との戦いに投入できるし、対艦ミサイルを搭載すれば敵艦の撃沈も期待できる。こちらの艦隊に向かって進行しているという事は、明らかに対艦ミサイルを搭載している筈だ。

 

 こっちにも空母がいるが、今更艦載機を出撃させたとしても迎撃は間に合わないだろう。対空ミサイルや速射砲で迎撃するしかない。

 

 指示を出そうとしていると、報告した乗組員が更に報告した。

 

「さらに敵のミサイルを確認! ハープーンです!」

 

「全艦、対空戦闘用意! ウラル、ここは任せた。俺はCICに向かう」

 

「任せろ」

 

「ラウラ、ナタリア、ついてこい」

 

 いよいよ戦闘が始まる。ハープーンが命中すれば駆逐艦や戦艦は致命傷を負うことになる。少なくとも後方を航行する空母や強襲揚陸艦だけは、絶対に守らなければ…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブラド様、敵艦隊への攻撃が始まったようです」

 

「敵の数は?」

 

「約500隻」

 

 部下からの報告を聞いた俺は、目の前にある巨大な柱を見上げながら、予想していたよりも敵の数が多いことに驚いていた。諜報部隊を取り逃がしてしまったせいでこちらが現代兵器を持っているという事は敵に知られてしまったが、母上はあくまでも敵にこちらにも銃や戦車があるという事を見せつけることが目的だと言っていた。

 

 だが、俺はそれが逆に敵が本腰を入れて攻め込んでくるのではないかと危惧していたのだ。母上から聞いた話だが、リキヤ・ハヤカワという転生者は、核ミサイルを見せつけられても敵に襲い掛かり、勝利しているという。あの男に”抑止力”は何の意味もないのかもしれない。本当に核ミサイルを放たれ、熱戦と放射能を叩き込まれない限り、あの男は絶対に止まらない。

 

 母の判断は失敗だったと思いつつ、俺は頷いた。

 

 敵の数は予想以上だったが、”これ”で数を減らせばいいだろう。出撃した航空部隊や艦隊では、敵艦隊を食い止めきれないのは目に見えている。

 

 せめて1隻でも多く撃沈してくれればいい。

 

「…………魔術師を集めろ。『ゲイボルグⅡ』を使う」

 

「はっ」

 

 こちらにも、敵艦隊に大打撃を与えられる兵器がある。目の前にある巨大な柱に触れつつ、俺はその表面をそっと撫でた。

 

 目の前に屹立する8本の巨大な柱は、傍から見ればやけに細いビルのようにも見える。しかしその表面はでこぼこしていて、近くで見れば明らかに普通の柱などではないという事が分かる。表面に刻み込まれた無数の魔法陣や古代文字は、ここに魔力を流し込めば機能することを意味していた。

 

 この兵器の正体は―――――――『ゲイボルグ』と呼ばれる大昔のこの世界の兵器を発展させた代物だ。このように魔法陣を刻み込んだ特殊な柱を円形に配置して魔力を注ぐことによって、中心部に圧縮された魔力の塊が形成される。後はその魔力の塊を放出したい方向の柱へ魔力を注ぐのをやめれば、その方向へと高圧の魔力の砲弾が飛び出していくのだ。

 

 かつてラトーニウス王国騎士団が、モリガンの傭兵たちとの戦いに投入したというが、それほど戦果はあげられなかったという。しかしここにあるのはその出力を向上させ、新しい機能を追加した発展型だ。ただ単に魔力の砲弾をぶっ放す旧式とはわけが違う。

 

 これで海の藻屑にしてやるぞ、魔王。

 

 父上の仇だ…………!

 

 

 

 

 

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