異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
本来の色から反転してしまったかのような、鮮血の海にも似た深紅の空。その中に浮遊する雲の色も、反転したかのように真っ黒だ。
禍々しい空の下に広がるのは、まるで古代ローマの建築様式を思わせる建物の群れ。こちらは空の色とミスマッチとしか言いようがないほど真っ白な壁で構成されており、もし空の色があんなグロテスクな色でなければ幻想的な風景になっていた事だろう。
ここは、前にも見たことがある。確かここを見たのは…………夢の中だった筈だ。
誰もいないその街の大通りに、誰かが立っている。
身につけているのは、無数の小さなベルトのような装飾がついた真っ黒なコート。その装飾のせいなのか、まるでコートを身につけているというよりは拘束具を身につけているようにも見えてしまう。そのコートには深紅の羽根がついたフードもついていて、それをかぶっているせいで顔ははっきりと見えない。
体格はやけにがっちりとしていて、黒い革の手袋をつけている手も同じようにがっちりしていて、かなり鍛え上げられているという事が分かる。フードから微かに覗く真っ赤な顎鬚と赤い前髪は、空の色のように鮮血を彷彿とさせるような色ではなく、どちらかと言うと燃え盛る炎を連想させるような色だ。
顔ははっきりと見えないけれど、その人物が誰なのかはすぐに分かった。
俺が身につけているこのコートの、前の持ち主。かつてレリエル・クロフォードを単独で討伐し、この世界を救った英雄。
そう、あそこにいるのは―――――――俺たちの父親である、リキヤ・ハヤカワ。隣国の騎士団の少女と駆け落ちじみた旅をしながらオルトバルカに流れ着いた男が、最終的に世界最強の傭兵ギルドを率いる最強の転生者となり、異世界に転生した俺の新しい父となった。
けれども、その大通りにいる彼は、来年で40歳になる男にしては若く見えた。まだ20代の後半くらいに見える男は、何も言わずに突っ立ったままこっちをじっと見つめている。
いつまでこの男とにらめっこをすればいいのだろうか。目を逸らさずに黙ってフードの中を見つめていると、親父が小さな声で言った。
『――――――あいつを止めてくれ』
小さな声であったはずなのに――――――はっきりと聞こえた。
あいつって誰の事なんだろうか?
親父は、誰を止めてほしいのだろうか?
聞き返したいのに、声が出ない。必死に口を開け、声を出そうとしているのに。
それゆえに、何もわからない。
親父は―――――――誰を止めてほしいのだろうか?
――――――それが、12月23日まで続いた図書館での激戦を終え、12月24日の午前1時2分から午前6時20分までの間に見た俺の夢だった。
戦いで疲れてしまったせいで変な夢を見てしまったのだろうかと思ったけれど、これは明らかに”変な夢”などではない。まるで俺に再び眠れと催促するかのように眠気が身体中にへばりついているというのに、まだ親父が何を言いたかったのかが気になっている。
二度寝したいところだけれど、背中を押し付けていた冷たい壁の感触が、ここは家のベッドの上ではなく戦場の真っ只中なのだという事を訴えかけてくる。あの夢を見る前に経験した死闘を思い出した瞬間、身体中の眠気が一気に弾け飛んでしまう。
敵の攻撃を退けてから、やっと第二防衛ラインを突破した親父たちの本隊と合流することができた。眠る前に親父から聞いたんだが、どうやらリディアを投入しても敵の指揮官は総崩れになっていく戦線を維持するために様々な手を打ち、最後の最後まで抵抗を続けていたという。
親父を苦戦させるほどの指揮官か…………。
傍らに立てかけておいた得物を拾い上げようと思って、右手を窓際へと伸ばす。けれども俺の手はOSV-96の硬いグリップを握るよりも先に、隣で寝息を立てている赤毛の少女の綺麗な赤毛に触れてしまう。彼女を起こさないように静かに頭を撫でてあげようと思って身体を動かそうとするけど、どうやら俺の左半身にしがみついて眠っている奴がいるらしく、左肩から先が動かない。
ちらりと左を見てみると、やはりもう1人の少女が俺の左半身にしがみついたまま寝息を立てている。桜色の髪と口から微かに覗く鋭利な犬歯が特徴的な彼女は、寝相なのか、時折俺の首筋にその犬歯を軽く突き立てて甘噛みすると、まるで飼い主に甘える子猫のようにゆっくりと頬ずりを始める。
しばらくすると、イリナよりも先にラウラが目を覚ました。あくびをしながら瞼を擦る彼女の頭を右手で撫でると、挨拶をするよりも先に唇を奪われた。いつものように舌を絡ませながら右手で彼女をぎゅっと抱きしめると、ラウラは俺が逃げられないように尻尾を伸ばし、それを俺の身体に巻き付けてくる。
すぐ隣でイリナが眠っているというのに、彼女に見られても構わないのか、彼女を起こさないように注意を払う俺を逃がしてくれる気配はない。唇を離そうとするとまだ物足りないと言わんばかりに尻尾で身体を引き寄せ、舌を絡め続ける。
やっと満足したのか、彼女はうっとりしながら唇を離してくれた。もしかしたらこのまま襲われるんじゃないかと思ったけど、さすがに戦場の真っ只中でそんなことをするつもりはないらしい。でももしここがタンプル搭の自室だったら、隣でイリナが寝ていてもお構いなしに搾り取っていたに違いない。
「えへへっ、おはようっ♪」
「お、おはよう」
小さい頃からずっと一緒にいた腹違いのお姉ちゃんは、そう言うとすぐにしがみつき、胸板に頬ずりを始める。左側では相変わらずイリナがしがみついたまま眠っているから、起き上がって見張りの兵士と後退するのはもう少し先になるかもしれない。
彼女が起きるまでイチャイチャするのも悪くないなと思ったけど、いつの間にかすぐ近くから聞こえていた寝息が聞こえなくなっていることに気付き、はっとしながら左を振り向いた。少なくともキスをしている真っ最中までは聞こえていた筈のイリナの寝息が、いつの間にか聞こえなくなっていたのだ。寝息が聞こえたという事は、イリナが目を覚ましたってことだよね…………?
恐る恐る左側を振り向いてみると…………案の定、鮮血のように真っ赤な瞳と目が合ってしまう。どうやらその瞳の持ち主は俺とラウラのキスをしっかりと見てしまったらしく、目を見開いたまま凍り付いていた。
「お、おはよう、イリナ」
「あ、あっ、あ、朝っぱらから…………きょ、姉弟でキス…………!?」
イリナさん、今では日常茶飯事なんです。しかもまだこれは序の口なんですよ。場合によっては一晩中搾り取られる羽目になることもあるんです、イリナさん。キメラには発情期がありますので、交際している相手がキメラだととんでもないことになりますよ。
彼女を誤魔化す方法でも考えようか。かなり大きな衝撃だったのか、イリナに挨拶しても凍り付いたままだし。でも一歩間違うと火に油を注ぐことになりそうだよね。しっかり考えないと。
「えへへっ。いつもキスしてるよねっ♪」
「いつもキスぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
お姉ちゃん、追撃しないで。巡洋戦艦イリナはかなり傾斜してるの。
すると、イリナはなぜか悔しそうな顔をしてから――――――顔を近づけてきた。
「ず、ずるいよ…………ぼ、僕も…………」
「えっ?」
「ね、ねえ、ラウラ。いいでしょ?」
え、ちょっと待って。まさかイリナまでキスするつもり?
彼女とはもうキスをしているけど、キスをしたのはラウラに見られていない時だ。今のラウラは前ほど俺に手を出そうとする女に敵意を向けることがなくなったというか、かなり寛大になったみたいだけど、好感度を確認してみると未だにラウラはばっちりヤンデレのままである。もしまだ彼女がヤンデレのままだったら、そんなことをしたら殺される。というか、こんなお願いをしている時点で殺される…………。
恐る恐る、俺もゆっくりとラウラの顔を見上げる。もし目が虚ろになっていたらかなりヤバい。敵の本拠地に攻め込む前に戦死者が出てしまう。
息を呑みながら彼女の顔を覗き込むと―――――――ラウラは微笑んでいた。目つきはいつも通りだし、まるで自分の子供を見守る母親のように微笑んでいる。
「うん、いいよっ♪」
「えっ?」
あれ? ヤンデレじゃなくなった?
前までだったら絶対に虚ろな目になったり、そのまま腰の鞘からナイフを抜いていたけれど、最近のラウラはあまりそういうことをしなくなった。懲罰部隊でかなり反省したからなのだろうか?
ヤンデレじゃなくなりつつある原因の仮説を立てているうちに、いつの間にか彼女の真っ白な手が俺の頬をそっと掴み、顔をイリナの方へと向けていた。しかも逃げられないようにぷにぷにしている柔らかい尻尾が身体に巻き付けられているので、逃げられそうにない。
イリナは顔を真っ赤にしたまま何故か息を呑むと、瞳を閉じてから顔を近づけてきて―――――――俺の唇を奪った。
「お姉様っ、昨日の戦いは凄かったですわ! ヘリを狙撃で落としてしまうなんて!」
「えへへっ。カノンちゃんも射撃が上手だし、きっとできるよ♪」
確保した図書館の中を歩く俺の後ろでは、俺たちにとっては妹分でもあるカノンにしがみつかれながらラウラが歩いている。こういう光景は旅をしている最中に何度か目にしたことがあるけど、カノンに頬ずりされているラウラを見ていると、もしかしたらカノンにお姉ちゃんを横取りされちゃうんじゃないかと思って心配になってしまう。
苦笑いしながら妹分と腹違いの姉を見守りつつ、見張りを終えてこれから休息をとりに行く仲間たちに挨拶する。
砲弾が直撃したせいで空いてしまった大穴の向こうには、いつの間にかモリガン・カンパニーで正式採用されているT-14の群れが居座っていた。エイブラムスと比べるとスリムな砲塔の上では車長と思われるエルフの男性が顔を出していて、制服のポケットから取り出した写真を見つめている。家族の写真なのだろうか。
そのT-14の群れの近くには、見慣れない戦車が停車している。エイブラムスを彷彿とさせる形状だけど、エイブラムスよりも砲塔が小型だし、車体の形状はどちらかと言うとソ連で運用されていた戦車の形状に近い。
おそらくあれは、中国軍で採用されている『99式戦車』だろう。中国の兵器という事は殲虎公司(ジェンフーコンスー)所属の戦車なのだろうか。
99式戦車が搭載している主砲は、アメリカやドイツで採用されている120mm滑腔砲ではなく、それよりも口径の大きい125mm滑腔砲。ソ連やロシアの戦車と同じく、砲弾だけではなく対戦車ミサイルまで発射可能というかなり攻撃的な武装である。中国は他国と比べると国産の戦車を生産し始めた時期が遅かったため、それまでの戦車の性能は他国と比べると大きく劣っていたけれど、この99式戦車はそれまでの中国の戦車に比べればはるかに性能が高い。
ちなみに転生者の能力で生産するために必要なポイントは、様々な国の最新型の戦車の中では一番安い。エイブラムスを2両生産するポイントでこの99式戦車が3両生産できるほどで、まだレベルの低い転生者にとってもそれほどポイントを消費せず、さらに性能も高い戦車であるため、運用しやすい兵器と言える。
とはいえ性能ではやはりエイブラムスやT-14に劣ってしまうため、しっかりとカスタマイズし、複数の車両で連携しながら戦うのが一番だろう。実際に中国の兵器を多用する殲虎公司(ジェンフーコンスー)では、戦車は必ず2両以上で連携して戦わせるらしいし、戦闘機も2機で連携しながら1機の敵に襲い掛かっていくという。性能の低さを数と連携で補うというわけだ。
すっかり火薬の臭いに支配されてしまった図書館の通路の向こうから、美味しそうな香りが漂ってくる。ここに辿り着いた時からずっと火薬の臭いばかり嗅いでいたせいなのか、漂ってくるバターとベーコンの焼ける香ばしい香りがやけに強烈な匂いに思える。
そういえば、ここを占拠してからは缶詰と干し肉しか食ってなかった。冒険者にそのような非常食は必需品だから持ち歩くようにしているとはいえ、やっぱり非常食よりも手料理の方が贅沢に感じてしまう。
「ふにゅ、美味しそうな匂いだね」
頬ずりするカノンの頭を撫でながらラウラがそう言うと、近くの壁に寄り掛かりながらアサルトライフルの整備をしていた1人の兵士が顔を上げた。どうやらベテランの兵士らしく、装備している得物やヘルメットはかなり使い込まれているようだ。ファルリュー島の死闘から生還したベテランだろうか?
傷だらけのヘルメットは黒と灰色の迷彩模様で塗装されていて、襟と右肩には殲虎公司(ジェンフーコンスー)のエンブレムが刻まれている。しかも整備をしているのは、中国製アサルトライフルの『95式自動歩槍』だ。
「やあ、同志。あっちで朝食を作ってるから貰うといい。腹ごしらえは大事だぞ」
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
朝食か。確かに、缶詰しか食ってなかったからな。こういうしっかりした料理を食えれば団員たちの士気も上がるだろう。
その香りが漂ってくるのは、通路の奥にある広間からだった。出入り口の扉は戦闘中に吹っ飛ばされたのか、壁の縁ごと抉り取られている。ぶら下がっているプレートも爆風で焦げてしまったらしく、書かれていた筈の文字は完全に読めなくなっていた。
かつては本棚がずらりと並んでいた筈の広間には、壁の破片や本棚から零れ落ちた無数の本が転がっている。読書をする客が利用する筈だった大きなテーブルは爆風ですっかり叩き割られており、ただの残骸になり果てている。図書館というより、やけに大量の本が散らばる廃墟と言うべきだろうか。
通路にまで美味そうな香りを漂わせている元凶は、そんな広間のど真ん中にあった。廃墟とはいえ、図書館だった面影を残す広間のど真ん中に鎮座して香ばしい香りをばら撒いているのは、右手に一般的なフライパンを持ち、左手の手のひらから魔力で生成した炎を噴射させてフライパンを加熱し続ける赤毛の男。そのフライパンの上では、スライスされたベーコンと目玉焼きが仲良く大騒ぎしている。
図書館の中で料理をしている男は、明らかにモリガン・カンパニーや殲虎公司(ジェンフーコンスー)に所属する料理人ではない。むしろ、世界規模の大企業を率いる”魔王”である。
そう、モリガン・カンパニーのトップが―――――――図書館で料理をしているのだ。
「お、親父?」
「ん? ああ、お前らか。食う? まだ食材あるけど」
「あ、あの、何でモリガン・カンパニーのトップが料理してんの?」
「いや、みんな疲れてるからな。同志諸君には休んでもらってるだけさ」
よく見ると、親父の隣ではまだ使えそうな椅子に腰を下ろした母さんやエリスさんが、戦場の真っ只中で親父が作り上げた手料理に舌鼓を打っているところだった。しかもどさくさに紛れて李風さんとリディアまで一緒に朝飯食ってる…………。
「ふふっ、なんだか久しぶりに夫の手料理を口にしたよ」
「私もダーリンに負けてられないわね♪」
待ってくれ。エリスさんは料理作っちゃダメ。せめて作るならナタリア先生に料理を教わってからにしてください、エリスさん。ナタリア先生にはラウラがまともな料理が作れるようにしたという実績があるんですよ。
「美味しいですね、これ。同志ハヤカワ、隠し味はあります?」
「んー…………いや、特にないな」
「ふむ…………」
李風さんの隣でベーコンエッグを口へと運んでいるリディアは、熱々のベーコンエッグを口の中に放り込む度にうっとりしているようだった。海底神殿で戦った時は全く表情を変えなかったけれど、彼女はどうやら無表情というわけではないらしい。
すると、ベーコンエッグを食べていたリディアと目が合った。反射的に腰のナイフに手を伸ばしそうになるけど、すぐに手を止めて敵意を消す。海底神殿で戦った敵だけど、今は仲間なんだ。武器を向けている場合じゃない。
彼女は俺が敵意を消したことに気付いたのか、にっこりと笑いながら食事を続行する。こんなに感情豊かなのに、どうして彼女は一言も喋らないのだろうか?
とりあえず、俺たちも朝飯をいただくことにしよう。今日はいよいよ敵の本拠地に進撃することになるのだから。
テンプル騎士団が確保した図書館の外に広がる広場は、戦車の群れに埋め尽くされていた。その戦車の群れを構成するのはロシアのT-14や中国の99式戦車ばかりだが、中にはエイブラムスやチーフテンなどの西側の戦車も含まれている。
橋頭保を確保し、補給を終えた連合軍の地上部隊が、いよいよ吸血鬼たちの本拠地である宮殿とホワイト・クロックへ攻撃を仕掛けるのだ。とはいえせっかく確保した橋頭保も守る必要があるため、テンプル騎士団スオミ支部の部隊に守備隊を任せることになる。
愛用のAK-12の点検を終えたリキヤ・ハヤカワは、腰に下げていた水筒に入っているアイスティーを飲み干してから自分の戦車へと向かって歩き出した。彼にとってこの戦いは自分の願いを叶えるために乗り越えなければならない戦いであり、21年前からずっと続いている吸血鬼との因縁を終わらせるための戦いでもある。それゆえに今回は、これでもかというほどの準備をしていた。
吸血鬼たちを率いるのは、かつてレリエル・クロフォードの眷属であったアリア・カーミラ・クロフォード。21年前に初めてレリエルと戦った際にも、少しだけだがリキヤは当時のアリアと一戦交えている。
とはいえ、今回は当時と比べ物にならないほど力をつけているのは明白である。しかも彼女にとって、リキヤは自らの主人の命を奪った怨敵。プライドの高い吸血鬼ならば部下に始末させるのは考えにくい。必ず一騎討ちをすることになるだろう。
「あ、あのっ!」
「ん?」
戦車に向かう途中で少女に声を掛けられたリキヤは、愛用の仕込み杖の柄を握りながら後ろを振り向く。魔王と呼ばれる彼を呼び止めた少女が身につけていたのは、モリガン・カンパニーの制服ではなく、まるで軍服を豊富とさせるテンプル騎士団の制服であった。漆黒の制服と軍帽を身につけているからなのか、特徴的な金髪のツインテールがよく目立っている。
「あの、よ、傭兵さん。あの時のお礼を言いたくて…………」
”あの時”と言われるよりも先に、リキヤはその少女が何者なのかを見抜いていた。
14年前の燃え上がるネイリンゲンの街中で救った金髪の少女とそっくりだったのである。母親とはぐれて泣いていた幼い少女を救い、母親と再会させたことを思い出したリキヤは、その時に助けた幼い少女がしっかりと成長していたことに驚きつつ、彼女の名前を思い浮かべ始める。
会議のためにタクヤと共に本社へ呼んだ時や、ノエルを送り届けるためにタンプル搭を訪れた時から、リキヤはもしかしたらあの時に助けた少女がテンプル騎士団に参加しているのではないかと勘付いていたのである。
「わ、私の事、覚えてますか…………?」
「――――――ああ、ちゃんと覚えているさ」
母親と再会させ、踵を返したリキヤに敬礼していた少女の顔を思い出したリキヤは、微笑みながら答えた。
「ナタリア・ブラスベルグちゃんだね? …………立派な女の子になったじゃないか」
「…………!」
ナタリアが冒険者を目指した理由は、リキヤによって命を救われたことである。彼に憧れて傭兵を目指した彼女は結局冒険者として活動することになるが、ダンジョンの調査が主な仕事である冒険者になっても、彼女は自分の命を救ってくれた”あの時の傭兵”に追いつこうと努力を続けていたのである。
自分が目標としている男に名前を憶えられていたのが嬉しかったのか、普段は真面目なナタリアは目を見開きながら微笑んだ。
「すまないが、これからも子供たちをよろしく頼むよ」
「はいっ!」
かつて自分が救った少女にウインクしてから、リキヤは踵を返して自分の戦車へと向かう。
魔王と呼ばれた最強の転生者は、奮い立っていた。自分を目標にして努力を続けた少女と同じ戦場で戦うならば、なおさら必ず勝たなければならない。吸血鬼の女王に屈することは絶対に許されないのだ。
AK-12を背負うリキヤを見送りながら、ナタリアはあの時のように敬礼をしていた。
14年前の敬礼と比べると、しっかりとした綺麗な敬礼だった。
おまけ
渡さなかった理由
カノン「お兄様、そのコリブリはお姉様には渡しませんでしたの?」
タクヤ「ああ、俺だけだ」
カノン「あら、どうしてですの?」
タクヤ「命中精度はあまり良くないし、威力も低いからな」
カノン(なるほど、お姉様の戦い方には合わないからですわね)
タクヤ「それに、こうやってネックレスみたいにしてぶら下げると――――――胸の辺りにぶら下げることになるんだ」
カノン「お姉様の場合は胸の間に――――――」
タクヤ「そうなんだ。――――――だから、もし暴発したら大変なことになるじゃないかッ! お姉ちゃんのおっぱいがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
カノン「お、お姉様の超弩級おっぱいが!!」
ナタリア「何言ってんのよバカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
タクヤ「ふぁますっ!?」
カノン「ふぇりん!?」
完
※FA-MASfelinは、フランス製のアサルトライフルです。