異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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砲撃開始

 

 

 敵の本拠地として機能しているのは、2ヵ所だ。

 

 片方はヴリシアのオルトバルカ大使館が避難勧告を発する前までは皇帝が鎮座していた、サン・クヴァント宮殿。もう片方の本拠地は、この帝都サン・クヴァントの象徴であるホワイト・クロック。かつて21年前に親父たちがレリエル・クロフォードと激戦を繰り広げた、純白の巨大な時計塔である。

 

 そこで、この先にあると思われる最終防衛ラインを突破した後は本隊を2つに分け、宮殿とホワイト・クロックを同時に攻撃する事になった。分けずに片方の拠点を集中攻撃し、占拠してから次の拠点に狙いを定めればいいのではないかと思ったけれど、改めて地図を見てからすぐに部隊を分けることにした理由を理解した。宮殿とホワイト・クロックはすぐ近くにある。まさに目と鼻の先なのだ。

 

 確かに1つの部隊のまま集中攻撃を仕掛ければ、部隊を分散させて防衛している敵の守備隊は容易く拠点を明け渡してくれるに違いない。しかし、それではもう片方の守備隊が無傷だし、吸血鬼たちのプライドが高いという性格を考えれば、自分たちよりも劣る筈の人間たちに敗北するという汚名を着せられることを何としても防ごうとする筈だ。だから下手をすれば、自分の仲間が残っていたとしても、陥落寸前の拠点もろとも砲撃で吹っ飛ばすという恐ろしい手段を選びかねない。

 

 そのため、こちらも無効と同じく部隊を2つに分けることにしたのである。

 

 とはいえ、その前に最終防衛ラインがある。未だに兵力ではこちらの方が上だが、敵もそろそろ本格的に吸血鬼の兵士たちを投入してくるはずだ。図書館で辛うじて倒した吸血鬼の事を思い出した俺は、無意識のうちに胸にぶら下げたネックレスのようにも見えるコリブリを握り締める。

 

 吸血鬼たちの身体能力は、はっきり言うと転生者の身体能力と遜色ない。つまり吸血鬼は、再生能力を持った転生者のような存在だ。

 

 今までは人間の兵士が守備隊の大半を占めていたけれど、これから先は敵にとって絶対に死守しなければならない防衛ラインである。そう簡単に突破させるわけにはいかないため、そろそろ吸血鬼のみで構成された精鋭部隊を投入してきてもおかしくはない。

 

 キューポラから顔を出し、周囲を走る戦車を見渡す。俺たちの前を進むのはモリガン・カンパニー所属のT-14で、すらりとした砲身の脇には砲弾を抱えたゴーレムのエンブレムが描かれている。無人になっている砲塔ではなく車体の方にあるハッチから顔を出しているのは、身長が2mを超えるのは当たり前と言われるオークの男性だ。あんな巨躯が戦車に納まるのだろうかと思って見つめていると、その男性はハッチの中へと強引に体を押し込み、分厚い装甲に守られた戦車の中へと消えていった。

 

 他の戦車の上には、アサルトライフルやLMGを装備した歩兵たちが乗っている。こっちに手を振ってくれる兵士もいるけれど、拠点にいた時のように雑談している様子はない。次の瞬間にはロケットランチャーや戦車砲で戦車もろとも吹っ飛ばされるかもしれないのだから、緊張しているのだ。

 

 俺も手を振り返すと、真っ黒なヘルメットをかぶっていたモリガン・カンパニーの兵士が微笑んでくれた。おそらく、俺たちと同い年くらいだろう。ヘルメットの左右から真っ白な長い耳が覗いており、彼がエルフだという事が分かる。

 

 やがて、俺たちよりも先を進む戦車の群れが速度を落とし始めた。味方の戦車と衝突するのを防ぐため、俺も無線機に向かってテンプル騎士団の戦車部隊に減速を命じつつ、雪の向こうに見えてきた真っ白な時計塔を睨みつける。

 

 あれがホワイト・クロックだ。高さは500mを超える巨大な時計塔で、信じられない話だがレリエル・クロフォードはモリガンとの戦いであれを素手で倒壊させたという。実際にあいつと戦った親父たちも「レリエルの奴は素手で時計塔を倒壊させた」と言っているけれど、なかなか信じられない。

 

『リキノフより全軍へ。これより、最終防衛ラインへの飽和攻撃を実施する。戦車部隊は停止し、砲撃部隊の攻撃終了まで待機せよ』

 

 飽和攻撃は、圧倒的な物量を誇るモリガン・カンパニーや殲虎公司(ジェンフーコンスー)のお家芸と言える。下手したら全盛期のソ連軍を凌駕するほどの兵力を持つ連合軍では、圧倒的な数のミサイルや砲弾を敵陣に叩き込み、数を減らしてから突撃するという戦法を使うのは日常茶飯事なのだ。

 

 もし敵が強固な防壁で身を守っているならば、普通なら”迂回して奇襲する”という戦法が選ばれる。しかし飽和攻撃ができるほどの兵力を持つモリガン・カンパニーでは、”防壁が倒壊するまで砲撃する”という単純で大規模な攻撃ができるというわけだ。

 

 しばらくすると、戦車部隊が停車した廃墟の群れの真っ只中に、列車の機関車が蒸気をまき散らしながら線路を突き進む音が聞こえてきた。少しだけ驚きながら音が聞こえてくる方向を振り向いてみると、爆撃で破壊された駅の中へと伸びる線路を、ヴリシア帝国で開発された機関車が突き進んでいるのが見える。蒸気機関車のようにも見えるけど、勢いよく煙を噴き上げるあの煙突は見当たらない。おそらくあれは蒸気機関ではなくフィオナ機関を搭載したタイプだろう。

 

 外見は蒸気機関車のD51に似ている。魔力で動くフィオナ機関を搭載した機関車が必死に牽引しているのは、貨物の輸送に使うようなシンプルな車両ばかり。後方には対空戦闘用に設置されたのか、Kord重機関銃がでっかいトライポットの上に乗せられている。

 

 さすがに倒壊した駅の中まで入っていくわけにはいかなかったらしく、駅のホームに到達するよりも先に列車が減速し、そのまま停車する。立派な車輪の隙間から蒸気を吐き出して機関車が停車すると、すかさず指揮官と思われる兵士たちが車両の大きな扉を開けた。

 

 その中にぎっしりと詰め込まれていたのは、真っ黒な制服に身を包み、銃でしっかりと武装した歩兵たちだった。中にはフェイスガードのついたヘルメットを身につけ、LMGを装備している重装備の兵士もいる。やはり種族はバラバラで、人間の兵士やエルフの兵士が混じっているのは当たり前だ。

 

 どうやら放棄されていた列車を拝借したらしく、歩兵部隊の輸送に利用したらしい。ぞろぞろと降りてきた兵士たちは素早く部隊ごとに整列すると、号令を受けてから解散し、割り当てられた戦車へと向かう。射程をよじ登って車長に挨拶すると、彼らは砲塔の両脇や後ろに腰を下ろし始めた。

 

 もちろん俺たちの戦車もタンクデサントするための戦車にされており、こちらへと走ってきた兵士たちが俺に挨拶してから、戦車の上に登り始めた。

 

「やあ、同志。戦場にようこそ」

 

「驚いたよ。女の子が車長なのかい?」

 

「俺は男だよ、同志」

 

「「「「えっ?」」」」

 

 なんだか、久しぶりに間違われたような気がする…………。

 

 目を丸くする彼らに「乗るなら早く乗りな」と言って催促してから、ため息をついた。やっぱりポニーテールが原因なんだろうか? でも、小さい頃に髪を短くしたときはボーイッシュな美少女に間違われたこともあるし、きっと髪型を変えても間違われ続ける事だろう。

 

 足掻いてもダメなのか…………。

 

 キューポラに軽く額を押し当てながらもう一度ため息をついていると、ずらりと並んだ戦車の群れの後方で、巨大な鋼鉄の塊が鳴動を始めていた。いつの間にかカチューシャの発射台がこれでもかというほど地面の上に備え付けられており、束ねられた発射台の中には、真っ白に塗装されたロケット弾がしっかりと設置されている。おそらく設置されたカチューシャの発射台の数は約80基ほどだろうか。都市の一角を焼け野原にできるほどの火力である。

 

 それほどの数のロケットランチャーが並んでいれば目を奪われてしまうだろうが、今回はそれよりも派手な兵器が、そのさらに後方で砲撃準備をしていた。

 

 一見すると、戦車よりも巨大な車体の上に、まるで戦艦の主砲を1門だけ強引に取り付けたかのような外見をしている。砲口を真正面に向けているだけでバランスを崩してしまうのではないかと心配になってしまうほどの長さの砲身は、俺たちの乗る戦車の砲身よりもはるかに長い。

 

「うわ、Oka自走迫撃砲まで投入するのか…………!」

 

 『Oka自走迫撃砲』は、冷戦の最中にソ連軍が開発した超大型の迫撃砲である。連合軍やテンプル騎士団が採用する迫撃砲の口径が82mmなんだが、あのOka自走迫撃砲はその口径を遥かに上回る”42cm”。口径だけならば旧日本海軍の戦艦長門や戦艦大和に匹敵する。

 

 しかも、この自走迫撃砲は通常の砲弾だけでなく、核弾頭を搭載した核砲弾も発射できるように設計されているのである。しかしミサイルが発達したことで、この核砲弾も発射できる巨大な自走迫撃砲の出番はなくなってしまったというわけだ。

 

 そのOka自走迫撃砲が、異世界の島国で牙を剥こうとしている。

 

 装填されているのは、もちろん対吸血鬼用に聖水を充填した聖水榴弾だろう。着弾する数秒前に炸裂し、爆発の際の衝撃波で内部の聖水を周囲にばら撒き、爆風と共に聖水で周囲の敵を切り裂くという恐ろしい砲弾である。従来の榴弾と比べれば殺傷力が落ちてしまうものの、聖水が通用する敵が相手ならば有効な砲弾だ。

 

 戦車部隊の後方に姿を現したOka自走迫撃砲の数は、なんと―――――――30両以上。これから30門以上の42cm迫撃砲が、敵陣へと降り注ぐのである。

 

 しかも、砲弾を叩き込むのはそれだけではない。

 

 砲身の角度を調整するOka自走迫撃砲を見守りつつ、俺は無線機を手に取った。

 

「こちらウォースパイト。支援砲撃を要請する」

 

『こちらジャック・ド・モレー。支援砲撃要請を受諾した。座標の送信を求む』

 

 そう、沿岸で連合軍の艦隊と共に待機しているジャック・ド・モレーの艦砲射撃も加わる。モンタナ級との砲撃戦で第三砲塔を失ったとはいえ、まだ3連装40cm砲を搭載する第一砲塔と第二砲塔は健在である。更に味方の艦隊もミサイルを温存しているため、この帝都をもう一度火の海にできるほどの火力がある。

 

 しかも親父は他の支社に艦隊の増援を要請したらしく、新たに数隻の戦艦がサン・クヴァント沖に駆けつけたという。

 

 増援として派遣されたのは、『ソビエツキー・ソユーズ級』4隻と『インペラトリッツァ・マリーヤ級』4隻。更に、来月に退役予定だった『ガングート級』6隻まで引っ張り出してきたらしく、ジャック・ド・モレーを含めると15隻の超弩級戦艦が支援砲撃の準備をしているという。

 

 全部、ロシア帝国やソビエト連邦の誇る超弩級戦艦である。

 

「イリナ、ジャック・ド・モレーのCICに座標を送ってくれ」

 

「了解(ダー)。兄さん、聞こえる? 敵陣の座標は―――――――」

 

 座標をジャック・ド・モレーのCICに報告するイリナの声を聴きながら、俺はもう一度ホワイト・クロックを睨みつけた。

 

 かつて親父たちが吸血鬼と死闘を繰り広げた帝都。21年前とは比べ物にならないほど徹底的に破壊された帝都が、更に火の海に成り果てようとしている。そしてその戦場で殺意をぶつけ合うのは、かつて吸血鬼の王との死闘に勝利した怪物の王(魔王)と、主君の復讐のために牙を剥く吸血鬼の女王(アリア)。やがてこの帝都は、兵器と歩兵が生み出す火の海と血の海によって支配されるのだ。

 

 がごん、と大きな音を立て、最後尾で砲身の角度を調整していた巨大な自走迫撃砲の群れが、砲撃準備の完了を宣言する。警報と思われるサイレンが鳴り響き、周囲で砲撃準備をしていた作業員たちがOka自走迫撃砲の周囲から退避していく。

 

 親父にとっては、この戦いはただ鍵を手に入れるためだけの戦いではない。21年前に残してしまった因縁を、今度こそ終わらせるための戦いなのだ。この戦いに勝利すれば、その因縁から完全に解放される。

 

 だからこそ親父はこれだけの兵力をつぎ込んだ。確実に勝てると言える程の、過剰な戦力だ。

 

 やがて―――――――親父の声が、無線機の向こうから聞こえてきた。

 

『迫撃砲部隊―――――――砲撃開始(アゴーニ)!』

 

 次の瞬間、数多の爆風が帝都を支配した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モンタナ級との戦いで刻みつけられた傷跡がまだ残るジャック・ド・モレーの後方を航行するのは、先ほど合流した14隻の超弩級戦艦たち。漆黒に塗装された戦艦の群れは一足先に戦っていたジャック・ド・モレーの後方に一列に並ぶと、搭載されている主砲の砲塔を帝都へと旋回させ始め、サン・クヴァント沖を重々しい音で支配する。

 

 右舷に90度旋回した砲塔から伸びる砲身が、別々に角度の調整を始める。最前線で戦車に乗るイリナ・ブリスカヴィカから伝達された座標へと照準を合わせ終えた砲身が動きを止め、この戦艦たちの戦闘を突き進む24号計画艦(ジャック・ド・モレー)から発せられる筈の命令を待ち続けている。

 

 ミサイルやレーダーの発達で姿を消した戦艦たちが、異世界の海で咆哮しようとしていた。

 

「全艦、砲撃準備よし」

 

 タクヤの代わりにジャック・ド・モレーの艦長を務めることになったウラル・ブリスカヴィカは、腕を組みながらその報告を聞いていた。

 

 巨大な砲身に装填されているのは、先ほどのモンタナとの死闘に使用した徹甲弾ではない。そのような貫通力の高い砲弾は戦艦との戦いで活躍するが、こうして地上を砲撃する際は無用の長物だ。地上にある目標や防御力がそれほど高くない標的を砲撃する際は、むしろ貫通力よりも攻撃範囲を重視するべきなのである。

 

 それゆえに、装填されているのは徹甲弾ではなく榴弾であった。しかも、対吸血鬼用に調整された聖水榴弾である。

 

(無事に帰ってこいよ、イリナ…………)

 

 腕を組んで目を瞑りながら、ウラルは最愛の妹の事を思い浮かべていた。幼少の頃から一緒に育ってきた妹ではなく、自分が最前線に向かうことになっていたのならば、こんなに心配することはなかっただろう。それに思想が違うとはいえ、相手になるのは自分たちの同胞。要するにこれは、吸血鬼同士の”共食い”である。

 

 そんな地獄に妹を放り出してしまったことを後悔したウラルであったが―――――――共に最前線に向かった少年の顔を思い浮かべた瞬間、その後悔は霧散する。

 

 あの少女のような容姿の少年ならば、きっと仲間たちを守り抜いてくれることだろう。かつてムジャヒディンの仲間を、砂漠の真っ只中にある収容所から助け出してくれたように。

 

「警報発令。甲板上の乗組員を退避させろ」

 

「了解(ダー)!」

 

 しばらくすると、CICの内部にも警報の音が聞こえてきた。そのまま乗組員たちの退避が完了したという報告が届くまで、ウラルは腕を組んで待ち続ける。

 

 そして―――――――無線機を耳に装着していた乗組員が、くるりとウラルの方を振り向いた。

 

「退避完了です」

 

「よし―――――――全艦、これより砲撃を開始する」

 

 この砲弾が敵に損害を与えれば、妹たちの生存率も上がることだろう。

 

 無事に妹や仲間たちが帰ってくることを祈りつつ、ウラルは両目を見開き―――――――号令を発した。

 

「――――――撃ち方始め(アゴーニ)ッ!!」

 

 

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