異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
ウォースパイトに搭載されている滑腔砲から放たれたAPFSDSが、まだ悪足掻きを続けていたM2ブラッドレーに止めを刺す。アサルトライフルの弾丸や機関砲の弾丸すら防いでしまう装甲とはいえ、戦車ほどの厚さはない。そんな装甲に、戦車の装甲すら貫通する砲弾を叩き込めば容易く風穴が開く。
火花と装甲の破片をまき散らし、機関砲から砲弾を吐き出し続けていたM2ブラッドレーが沈黙する。撃破したことを確認しながら戦車の周囲を警戒しつつ、モニターで次の標的を探し始める。
今のところ、最終防衛ラインでの戦闘では俺たちが優勢だ。いたるところに塹壕が用意され、しかも対戦車地雷まで散発的に埋め込まれているのは予想外だったけど、その塹壕の中に入り込んだ歩兵部隊が着実に塹壕を制圧しつつある。おかげで塹壕から対戦車ミサイルの奇襲を受けることもないから、敵の戦車や装甲車を血祭りにあげることだけに専念できる。
もう既に、先ほどまでウォースパイトに乗っていたモリガン・カンパニーの兵士たちは戦車を降り、塹壕の中で始まった白兵戦に参加していた。ナイフやマチェットを装備している兵士もいるし、スコップを振り回している兵士もいる。中には鉄パイプを振り回す見覚えのあるエルフの兵士も見受けられる。
というか、あの鉄パイプ野郎もここにいたのか…………。
苦笑いした瞬間、傍らに砲弾が着弾し、敵の戦車が俺たちを狙っていることを告げた。
舌打ちしながら砲弾の飛来した方向を確認すると、もう既に被弾していたのか、手負いのレオパルト2が車体の後部から黒煙を吐き出しながらも、砲塔をこっちへと向けている。
「2時方向、敵戦車!」
「了解(ダー)! あの手負いの奴?」
「ああ、それだ!
「発射(アゴーニ)!」
装填されていたAPFSDSが120mm滑腔砲から飛び出し、飛翔する最中に自分自身の外殻を置き去りにしていく。まるで脱皮するかのように砲弾の外殻を脱ぎ捨てて獰猛な姿となった砲弾は、こちらに照準を合わせていたレオパルトの砲身を掠めると、被弾したせいなのかへこんでいた正面の装甲に飛び込み、無数の火花をばら撒いた。
こちらを向いていたレオパルトの砲身がゆっくりと垂れ下がったかと思うと、砲身の付け根や砲塔の付け根の部分から黒煙が漏れ始める。火花が消え去った向こうには穴の開いた装甲が鎮座していて、今しがた放たれた一撃が操縦士もろともレオパルトを貫いたという事を告げていた。
敵の戦車を撃破したことを確認しながら、俺は息を吐いてモニターを凝視する。本来ならこのチーフテンの主砲は滑腔砲ではなくライフル砲なんだが、こっちの方が発射できる砲弾の種類が劇的に増えるため、汎用性が高くなる。たった今ぶっ放したAPFSDSも、特に砲身を改造せずに発射できるようになった新しい砲弾の1つである。
『こちらハーレム・ヘルファイターズ! 若旦那、聞こえるか!?』
モニターを見ていると、無線機の向こうから聞いたことのある声が銃声や爆音と一緒に飛び込んできた。この野太い声の持ち主は、おそらく領主の護衛でありながら、まるで盗賊や山賊のリーダーのような風貌の荒々しい傭兵に違いない。
ギュンターさんの声だ。モリガンの傭兵の1人であり、14年前のファルリュー島の激戦から生還した猛者の1人。この世界で最も奴隷にされているハーフエルフでありながら戦果をあげたためなのか、世界中の奴隷たちからは英雄と呼ばれているという。
第一、俺の事を”若旦那”と呼ぶ人はあの人しかいない。親父の事を”旦那”って呼んでるから、その息子の俺は”若旦那”ってことか。
「こちらウォースパイト、どうぞ」
『すまん、あの敵にクリスマスプレゼントを頼む! 12時方向の塹壕の向こうに見えるだろ!?』
確認してみよう。モニターをズームして前方を確認してみると…………確かに、そこに敵の重機関銃があった。一番最初に実施された理不尽な爆撃を生き延びたのか、それほど損傷している様子はない。屋根に他の建物の破片がめり込んだレンガ造りの建物の窓から重機関銃を突き出し、ギュンターさんたちの部隊に向けて乱射しているようだ。
ハーフエルフやオークは、再生能力や硬化を身につけているキメラを除けば最もタフな種族だと言われている。先ほどの戦いでも5.56mm弾が立て続けに被弾したハーフエルフの兵士が、何事もなかったかのように銃剣突撃を続けていたという話を昨日の夜に聞いたし、実際にギュンターさんもかなりタフな男である。
とはいえ、いくらそんなタフな種族たちでも、人間の身体を容易く引き千切る12.7mm弾のフルオート射撃で歓迎されればひとたまりもない。小口径の弾丸とはわけが違うのだ。
手元にあるコンソールを操作して、自動装填装置に次に装填する砲弾を指示する。さっきまでは対戦車用のAPFSDSを装填していたけど、今度の敵はレンガつくりの建物の中に潜んでいる兵士たち。貫通力の高い砲弾で攻撃してもあまり意味はない。だから”対戦車用”ではなく、兵士やそれほど防御力が高くない標的にも効果的な砲弾を装填する必要がある。
敵が機関銃を撃ちまくっている建物から突き出ているのは、アメリカ軍などが採用しているブローニングM2重機関銃。アンチマテリアルライフルにも使用される12.7mm弾をフルオートでぶっ放してくる、圧倒的な火力を誇る機関銃である。戦車や装甲車にダメージを与えることはできないが、人間の兵士が喰らえば木っ端微塵になってしまう事だろう。
「
「発射(アゴーニ)!」
彼女が発射スイッチを押した瞬間、砲口から
その瞬間、彼らが必死に銃撃していた建物の中は爆風と破片の嵐によって蹂躙された。人間の身体が呆気なく吹っ飛び、破片でズタズタにされた死体が燃え上がる。窓から火柱がいくつも飛び出したかと思うと、やがてその火柱は黒煙へと姿を変えてしまう。
ほら、クリスマスプレゼントだ。
『ガッハッハッハッハッ! メリークリスマスだ!!』
『ありがとよ、同志! これで進める!』
「健闘を祈ります!」
これで、彼らを銃撃する重機関銃は残っていない筈だ。他の部隊も順調に進軍しているようだし、塹壕の中で繰り広げられている白兵戦でも連合軍が勝利しつつある。
しかし―――――――第一防衛ラインと第二防衛ラインを打ち破られたことで、防衛に本腰を入れている筈の敵の守備隊がこの程度でやられるとは思えない。こっちの攻撃が苛烈だから敵が逃げているようにも見えるが、なんだかやけに敵があっさりと後ろに後退し過ぎているような気がする。
気のせいなのか? それとも、敵は何か俺たちの攻撃を押し返せるような切り札を用意しているのか…………?
敵の防御力に違和感を覚えた直後、1発の砲弾がウォースパイトの車体を掠めた。
「!」
くそ、まだ戦車が残ってたのか!?
慌ててモニターを覗き込み、今しがた砲弾が飛来した方向を確認する。撤退する味方を掩護するために戦車が殿を務めているのだろうかと思っていたが――――――ズームしたモニターに映った映像を見た瞬間、俺は絶句する羽目になった。
確かにモニターに映っていたのは、でっかいキャタピラがついた車体に巨大な砲塔を乗せた戦車だ。けれどもその形状はレオパルトのような最新型の戦車と比べると、いささか古臭いように見えてしまう。分厚い装甲に覆われている車体はレオパルトよりも大きいし、その上に乗っている砲塔から伸びる砲身も、どちらかと言うと戦車の主砲というよりは駆逐艦や巡洋艦の砲台にした方が違和感がないと思えるほど巨大である。
近代化改修を受けたのか、形状はやや変わっていたが―――――――俺はその戦車を知っている。
「マウス…………!?」
そう、塹壕の向こうに鎮座して俺たちに砲身を向けていたのは、第二次世界大戦中にドイツが生み出した『マウス』と呼ばれる、怪物だった。
重戦車よりも分厚い装甲と強力な装備を持つ”超重戦車”であり、主砲は75mm砲くらいの主砲が主流だった当時から見れば圧倒的に口径の大きい12.8cm砲。しかも”副砲”として、その75mm砲まで搭載しているという怪物だ。装甲もティーガーなどの戦車と比べれば分厚い。
結局一度も敵と戦わずに生涯を終えた怪物だが、第二次世界大戦の頃の戦車と戦っていれば、間違いなく戦車や歩兵部隊を蹴散らしていた事だろう。――――――だが、奴が砲身を向けているのは戦後に開発された高性能な戦車の群れ。第二次世界大戦では怪物のようにも見える12.8cm砲にも、現代の戦車は追いついている。
とはいえ、さすがに旧式の兵器をそのまま出撃させたわけではないというのはすぐに分かった。
よく見てみると、砲塔の形状がレオパルトに近くなっている。更に砲塔の上にはアクティブ防御システムと思われる2基のターレットが乗っており、戦車を守るためにセンサーをフル稼働させているところだった。分厚い装甲に覆われているマウスの巨体は、第二次世界大戦の最中にドイツが作り上げたものよりも一回り大きくなっている。砲身の根元の脇からはやはり副砲の75mm砲が伸びているが、その隣から伸びる主砲の砲身は、エイブラムスなどの他の戦車と比べると明らかに太い。それどころか、シュタージが投入した140mm砲を搭載したレオパルトの主砲よりも太いのだ。
おそらく―――――――160mm以上の滑腔砲を搭載しているに違いない。
「ふにゃあ!? 何あの戦車!?」
「お、大きい…………!」
息を呑んだ直後、まるで主砲同軸に搭載されている機銃のように装備されている副砲が、まるでイージス艦の速射砲を思わせる連射速度で火を噴き始めた!
瓦礫だらけの地面に着弾しながら到達した75mm砲の砲弾の群れが、何発かチーフテンを直撃する。レオパルトやエイブラムスから見れば旧式の戦車とはいえ、チーフテンは戦後に開発された高性能な戦車の1つだ。しかもカスタマイズで近代化改修を受け、少なくとも車体だけは複合装甲で覆っている。だから75mm砲でも装甲を貫通するのは不可能だ。
けれども、被弾した衝撃はやはりすさまじい。装甲が割れるのではないかと思ってしまうほどの金属音と同時に、車体が激震する。車内に何度も頭をぶつける羽目になりながらも、俺は操縦士のラウラに「一旦下がるぞ!」と指示を出し、モニターを睨みつける。
俺たちが後退したのを見たのか、マウスの車体に搭載されているやけに大きなキャタピラがゆっくりと回転を始める。瓦礫の山や大破したレオパルトの残骸を踏みつぶしながら前進を始めたマウスの砲口が、ゆっくりとチーフテンの方へと向けられる。
次の瞬間、敵の主砲が火を噴いた。
甲高い音と、砲弾が掠めていく音。砲塔の外からその音が聞こえてきた瞬間、俺はぞくりとした。チーフテンはカスタマイズで複合装甲を装備しているとはいえ、その最新式の装甲が守っているのはあくまでも車体のみ。砲塔には爆発反応装甲を搭載しているけれど、その下にあるのは複合装甲が戦車に採用される前まで主流だった従来の装甲だ。だから砲塔に被弾すれば、下手をすればそのまま撃破されてしまう可能性がある。
しかしどうやら敵は狙いを外したらしい。安堵しながら息を吐いていると、キューポラの後方から真っ赤な光が入り込んできた。
違和感を感じながらハッチを開け、ちらりと後方を確認すると――――――後続のエイブラムスが、火柱と化していた。
今の一撃は後退を始めた俺たちを狙ったのではなく、後方から進撃してくるエイブラムスを狙っていたらしい。大口径の砲弾―――――――おそらく160mm以上のAPFSDSだろう―――――――を真正面から喰らう羽目になったエイブラムスは、その分厚い装甲を易々と貫通されてスクラップと化している。
「嘘だろ………? エイブラムスを一撃で―――――――」
最新型の戦車の中でも最強クラスと呼ばれているアメリカのエイブラムスが、一撃でやられたのである。
俺は慌てて後続の戦車に一旦下がるように命令を下そうとした。素早くハッチの中へと潜り込んで無線機を掴み取り、モニターを睨みつけながらスイッチを入れる。
しかし―――――――マウスの後方から複数の巨大な影が接近しているのを目にした俺は、スイッチを入れたまま凍り付いてしまった。
なんと、そのマウスの後方から、同じく近代化改修を受けたと思われるマウスの群れが接近していたのである。砲塔の上には2基のターレットを乗せ、160mm以上の滑腔砲に換装された大昔の怪物が、
――――――悪夢だ。
明らかに20両から30両くらいはいるだろう。燃え上がる廃墟の向こうから姿を現した近代化改修型マウスの群れは、横に一列に並びながら砲塔を連合軍の戦車たちに向けると、後方にまだ無事だったレオパルトやブラッドレーの群れを従えながら前進を開始する。
『おい、なんかでっかい戦車が来たぞ!?』
『撃ちまくれ! あいつらに集中攻撃だ!』
「よせ、一旦下がって支援砲撃を―――――――」
仲間に警告するよりも先に―――――――今度は、125mm滑腔砲を向けていた味方の99式戦車が餌食になった。最新型の複合装甲で覆われた車体があっさりと抉れ、装甲の破片が天空へと舞い上がる。吹っ飛ばされた砲身の一部がぐるぐると回転しながら後方の地面に突き刺さり、金属音を奏でる。
「くそッ! イリナ、撃て! あの巨人に叩き込んでやれッ!」
自動装填装置を操作し、APFSDSを装填しながら叫ぶ。近代化改修を受けているという事は、おそらくあのマウスも複合装甲を装備しているに違いない。しかもエイブラムスよりも巨大なのだから、最新型の戦車よりも分厚い装甲を搭載しているのは明らかだ。
敵の速度がやけに遅いのは幸運だが、あいつらがあのまま砲撃しながら前進するだけで、俺たちを最終防衛ラインから追い返すのは容易いだろう。
「発射(アゴーニ)!」
イリナが装填されたAPFSDSをぶっ放し、目の前に現れた化け物たちへと砲弾を叩き込む。
今までの戦闘で数多くの魔物や戦車を食い千切ってきた獰猛な砲弾が、甲高い音を発しながらマウスへと向かって突っ込んで行く。元々マウスは現代の戦車に匹敵するサイズだったし、近代化改修の影響なのか、あのマウスは従来のサイズよりも一回り大きくなっている。それに真っ直ぐ走っているだけだから、命中させるのは容易だった。
けれども、俺たちはここで必要なのは砲弾の命中精度ではなく――――――桁外れとしか言いようがないほど分厚い装甲を突き破るための貫通力なのだという事を、痛感することになる。
数多の戦車を葬ってきたAPFSDSは確かにマウスに命中し、凄まじい量の火花を噴き出したが―――――――その向こうに鎮座していたのは、僅かに傷がついた程度のマウスの装甲。塗装が剥がれ落ち、いくらか装甲がへこんだ程度の損害でしかない。
「き、効いてない…………!」
「おいおい…………!」
いっそのこと、艦隊に支援砲撃を要請するか? それともヘリ部隊に対戦車ミサイルでもぶち込んでもらうべきだろうか?
いくつか作戦を立てているうちに、さらに大きな悪夢が―――――――牙を剥く。
まるで、巨大な砲弾が落下してくるような音が聞こえた直後、艦砲射撃に匹敵するサイズの爆風がチーフテンの側面を襲ったのである。爆風と衝撃波だけでひっくり返ってしまうのではないかと思ってしまうほどの衝撃で揺さぶられながら、モニターを一瞥する。
今の砲撃は明らかにマウスの主砲ではない。いくら160mm砲とはいえ、榴弾を装填したとしてもこんなに大きな爆発は起こらない筈だ。
ならば、味方の艦隊の艦砲射撃かと思ったけれど、最前線にいる俺たちを巻き込む可能性がある状況で砲撃許可が下りるとは思えない。案の定、立て続けに降り注いできた砲弾はマウスの群れではなく、前進してくる怪物たちから逃げ出す連合軍の戦車部隊を狙っている。
まだ後方に何かがいるのか? ヒヤリとしながらマウスたちの後方を凝視すると―――――――雪の向こうに、それが見えた。
それを見た瞬間、俺はそれを戦艦なのではないかと思ってしまった。どんな戦車とも比べ物にならないほどの巨体は港に停泊する戦艦の巨躯を彷彿とさせるが、戦艦に巨大なキャタピラがついているわけがない。そのまま前進するだけで戦車を容易く踏みつぶせるほどの巨体の上には、戦艦の船体の上か、要塞に搭載されていなければ違和感しか感じないほど大きな連装砲が鎮座しており、砲口から陽炎を吐き出し続けていた。
進撃するマウスたちを遥かに上回る巨体を持つその怪物も―――――――ドイツが開発する予定だった、『ラーテ』と呼ばれる超重戦車である。
主砲の口径は巡洋艦や戦車に匹敵する28cm砲。これはドイツ製の戦艦『シャルンホルスト』と同じ口径の物であり、当時の戦車どころか現代の戦車ですら防ぐことはできないほどの破壊力を持つ。
やはりそいつも近代化改修を受けているらしく――――――車体の上には、対空用のミサイルが搭載されたキャニスターや、イージス艦などに搭載されているCIWSと思われる機関砲が搭載されているようだ。
しかも、戦場に現れたラーテは1両だけではない。――――――敵の戦車部隊の後方から、更に2両のラーテが、戦車の残骸や瓦礫の山を踏み潰しながら前進してくるのである。
それを見た瞬間、俺は生まれて初めて―――――――親父たち以外の敵に対して、”勝てない”と思ってしまった。