異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
モリガン・カンパニーは世界中に支社や基地を持つ超巨大企業である。
最初はフィオナ機関の開発をしつつ販売をする、社員が数名しかいない小さな企業であった。しかし”魔力を魔術のためだけに使うのではなく、機械の動力源として利用する”という発想のなかった世界にフィオナ機関を解き放ち、産業革命のきっかけとなったことで一気に急成長を果たしたモリガン・カンパニーは、瞬く間に規模を広げ、この世界を支える超巨大企業となった。
産業革命から十数年が経過しているというのに、その成長は未だに止まらない。オルトバルカから遠く離れた植民地や小国にも前哨基地を建設し、いざという時には迅速に兵力を派遣することができるようになっている。
その中の1つであるヴリシア帝国付近の空港も、有効活用されている真っ最中であった。
通常の航空機用の滑走路から、これでもかというほど空対地ミサイルや爆弾を満載した航空機が飛び立っていく。最新型の航空機と比べると第二次世界大戦で活躍したような旧式の戦闘機を彷彿とさせる形状をしているが、エンジンは機体の後端にしっかりと搭載されている。機首に特徴的な大口径のガトリング機関砲まで搭載した攻撃機の群れは滑走路を次々に飛び立つと、上空で味方たちと編隊を組み、すぐにヴリシア帝国上空へと向かって飛んでいく。
出撃したのは、モリガン・カンパニーのA-10Cで構成された航空部隊。漆黒に塗装された機体の主翼には、ハンマーとレンチが交差し、その上に赤い星が輝くエンブレムがしっかりと描かれている。
そのA-10Cの数は合計で55機。もう既に制空権は確保しているため、護衛の戦闘機よりもこちらの方が数が多い。
圧倒的な数の兵器を搭載可能なA-10だが、その群れの先頭を進む1機だけは、他の機体と武装や機体の形状がやや異なっていた。
胴体の株や主翼にこれでもかというほど爆弾や空対地ミサイルが搭載されているのは変わらないが、その中に、本来ならば大型の自走砲が主砲として搭載する筈の105mm榴弾砲の砲身が2基も搭載されているのである。本来の長さから大幅に切り詰められた挙句、榴弾が3発装填されたマガジンを砲身の横に搭載され、自動装填装置まで装備されたその榴弾砲は、当たり前だがこのように航空機に搭載していい代物ではない。
凄まじい反動があるため、発射の際に機体が失速するかバランスを崩すのは確実だ。さらに装備そのものも非常に重く、ただでさえ速度の遅いA-10の機動性を悪化させる原因となっている。実用性を考慮せずに、火力のみに特化させた装備と言える。
更に、翼の形状もより逆ガル翼に近い形状となっている。そのため、まるで第二次世界大戦で活躍したドイツの急降下爆撃機であるシュトゥーカを彷彿とさせる形状をしている。
”A-10KV”と名付けられたを操るのは―――――――モリガンが誇るエースパイロットの、ミラ・ハヤカワ。ノエルの実の母親である。
コクピットに腰を下ろすミラは、コクピットに飾ってある白黒の写真にそっと触れた。その写真に写っているのは自分とシンヤ。シンヤの隣に立つミラが腕に抱いているのは、まだ幼い頃のノエル。
ヴリシア帝国の戦いに、自分の娘も参加している。しかも今は敵の強力な戦車部隊に押されているらしく、最終防衛ラインの突破に手を焼いている状態だという。
(待っててね、ノエル…………)
娘や仲間たちを救うことができるのは、強力な兵器を満載したA-10KVを操る彼女の技術と、彼女が得意とする急降下爆撃のみ。
コクピットの写真から手を離した彼女は、空の向こうを睨みつけた。
双眼鏡を覗き込みながら、進撃してくるマウスの群れを睨みつける。レオパルトやエイブラムスの二倍ほどの大きさを誇る改造型のマウスの速度は20km/hほどだが、奴らの装甲はこちらの砲弾を防いでしまうほど分厚く、主砲はこちらの戦車を一撃で吹っ飛ばしてしまうほど強烈だ。
しかも奴らを護衛するのは、優秀な戦車であるレオパルトの群れ。更にどの戦車もアクティブ防御システムを搭載しているため、普通のロケットランチャーの攻撃は無力化されてしまう。
装甲の薄い部位はやはり側面や後方だ。キャタピラを破壊するという手もあるかもしれないが、それを実行するために動けば周囲のレオパルトに迎撃される。進撃してくる忌々しい戦車の群れを観察するのを止めた俺は、息を吐いてからアイスティーの入った水筒を口へと近づけた。
後退する最中に味方を救出できたのは幸いだが、その対価としてウォースパイトを失う羽目になった。またポイントを使って生産すればすぐに使えるから問題はないが、だからと言ってすぐに生産したところで敵に主砲が通用しないのは変わらない。
いっそのこと、こっちもラーテを作って応戦するべきかと考えたけど、それも現実的ではない。あれを動かすのにはかなりの数の乗組員が必要になるし、近代化改修すれば戦艦を何隻も生産できるほどのポイントを失う羽目になる。第一、俺たちはラーテの操縦方法を訓練したことはないため、全く使い方が分からない。
アイスティーを飲み干してから、俺たちを拾ってくれたシュタージのレオパルトの砲塔に寄り掛かる。
何とかマウスの主砲の射程距離外へと後退した俺たちは、後方の部隊と合流して少しばかり補給を受けていた。どうやら後方にいるラーテの対空兵器を何とかするために李風さんが率いる戦車部隊が側面から奇襲を仕掛けるらしいが、大丈夫なのだろうか?
「よう、同志タクヤチョフ」
あのマウスの群れを撃破し、ラーテを破壊する作戦を必死に考えていると、隣に停車したT-14のハッチの中から見覚えのある赤毛の男が顔を出した。フードのついた黒い制服に身を包んだ彼はいつも通りの表情をしているが、目の前で仲間たちが散っていくを目の当たりにしたのか、雰囲気はいつもと違う。過程にいる時と傭兵として”仕事”をしている時の中間なのだろうか。
苦笑いしながら顔を上げると、親父は自分の戦車から降り、こっちの戦車の側へとやってきた。家族とはいえこの作戦を指揮する総大将なのだから、テンプル騎士団の団長とはいえ戦車の上から話をするのは無礼だ。そう思いながら反射的に戦車の上から降り、まるで指揮官を出迎えるかのように敬礼する。
「随分とやられたな。そっちは?」
「エイブラムスを3両も喪失。…………戦死者は20名だ」
「そうか…………」
この戦いに連れてきたのは、カルガニスタンでフランセンの騎士団を相手に戦っていたムジャヒディンの戦士たちばかり。元々奴隷だった志願兵もいるが、彼らはまだ訓練不足という事でタンプル搭に残してきたのである。
今まで戦死者が出たことはなかったが―――――――ついに、テンプル騎士団から戦死者が出てしまった。
さすがに今は無理だが、タンプル搭に戻ったらしっかりと弔ってやる必要がある。それにやられた奴らの仇も取らなければならない。
拳を握り締め、出来る事ならばその拳を何かに叩きつけたかった。最終防衛ラインでの戦闘なのだから、敵が何かしらの兵器を隠している可能性はあった。なのに何の対策もせず、指示通りに前進させたから彼らは戦死する羽目になってしまったのかもしれない。
もう少し俺が作戦を考えていれば、彼らは死なずに済んだ。拠点で待っている仲間たちの元に戻って、またいつものように暮らすことができたかもしれないのに…………。
「力を抜け、同志」
拳を握り締めていたのを見たのか、親父がやけに優しい口調でそう言う。言われた通りに肩の力を抜き、息を吐きながら親父の顔を見上げる。
親父もこういう経験を何度もしてきたのだろうか。
目の前で仲間を何人も失って、彼らの遺体とドックタグを目にする度に、こうして苦しんできたのだろうか。
「…………現在、飛行場を飛び立った航空部隊がこちらに向かっている。指示を出せば、艦載機も対艦ミサイルをたっぷりと搭載してここに駆けつけるだろう。李風たちがラーテを何とかしてくれれば、俺たちは勝てる」
戦車の天敵は航空部隊だ。ヘリや戦闘機にミサイルを叩き込まれれば戦車は木っ端微塵になるし、戦車の主砲も空を飛ぶヘリや戦闘機にはほとんど無力である。
しかしラーテには、そのヘリや戦闘機を撃ち落とすための装備がびっしりと搭載されている。航空部隊の攻撃で損害を与えるためには、それらを全て破壊するか、対空兵器として機能しなくなるほどの損害を与えておく必要がある。
「だが、もう一手敵に損害を与えておきたい。ちょっとばかり無茶な作戦になるが、お前に任せていいか?」
「当たり前だ」
親父の質問に即答しながら、俺はもう一度拳を握り締めた。
目の前にいる赤毛の魔王はニヤリと笑うと、説明を始める。
「よろしい。では―――――――お前には敵の最終防衛ラインへ潜入し、敵の指揮官を狙撃してもらう」
「…………」
正気の沙汰とは思えない作戦だった。あのマウスとラーテの群れを迂回して最終防衛ラインへと潜入し、戦車部隊に指示を出している最終防衛ラインの指揮官を狙撃して、暗殺しろと言うのである。
確かに指揮官を排除すれば、敵は総崩れになることだろう。いくら強力な兵器を持っていると言っても、優秀な指揮官が指揮を執らなければ何の役にも立たない。指揮官を喪失するという事は、前線で戦う兵士たちや兵器の”意味”を奪う事と同じだ。
だからその”意味”を奪ってこいということなのか。
「できるか?」
「やる」
俺だって、あんたから戦い方を教わってるんだぜ?
狙撃はラウラに遠く及ばないかもしれないが、2km先にいる敵を狙撃したこともある。敵の指揮官を狙撃するという任務になぜラウラを投入しなかったのかは疑問だが、俺はその任務を引き受けることにしていた。
「ちなみに、どうしてラウラじゃないんだ?」
「ラウラには狙撃手部隊を指揮し、敵の戦車のアクティブ防御システムを攻撃してもらう。そんな任務は彼女じゃなきゃ無理だろ?」
「確かに」
アクティブ防御システムを狙撃して無力化する方が、下手したら俺が引き受けた任務よりも難しいかもしれない。敵はほぼ全ての戦車にアクティブ防御システムを搭載しているため、RPG-30で攻撃するか、あらかじめアクティブ防御システムを破壊してから攻撃しなければダメージを与えられない。
「それに、後方にはOka自走迫撃砲の部隊もいる。こっちは任せろ」
「了解(ダー)」
Oka自走迫撃砲が搭載する42cm迫撃砲は、口径だけならば戦艦大和や戦艦長門の主砲に匹敵する。いくら大型とはいえ戦艦の主砲クラスの迫撃砲で砲撃されれば、あのマウスたちはひとたまりもないだろう。
どうやら親父は、あのマウスたちをラーテから引き離したうえで集中攻撃して殲滅しつつ、ラーテを航空部隊に攻撃させて殲滅するつもりらしい。そして敵が最前線に戦車を投入している隙に俺を潜入させ、敵の指揮官を狙撃するということか。
きっと敵の指揮官は、投入したマウスやラーテたちが連合軍を蹂躙していると聞いて満足しているに違いない。狙撃手が指揮官を狙撃するために潜入してくるとは思わないだろう。
「さすがに1人は危険だから、誰か観測手(スポッター)を連れていけ。誰を連れていくかはお前が決めていい」
「分かった」
観測手(スポッター)とは、簡単に言えば狙撃手(スナイパー)のパートナーのようなものだ。双眼鏡を使用して敵の索敵を行い、狙撃手のサポートを行うのである。
親父にもう一度敬礼してから踵を返した俺は、もう既に観測手(スポッター)を誰にするか決めていた。
シュタージの
重機関銃用の弾薬がたっぷりと入った箱を戦車の中に運び込んでいく兵士たちとすれ違い、破損したキャタピラの修理をする整備兵の邪魔にならないように気を払いながら、雪と瓦礫を踏みしめつつ仲間たちを探す。
やがて、主砲同軸に搭載されている機銃の弾薬を補充するT-14の傍らに、見覚えのある戦車の姿が見えてきた。傍から見ればエイブラムスのようにも見えるけれど、砲塔の形状が若干違う。それに砲塔の脇にはモリガン・カンパニーのエンブレムではなく、雪まみれになったテンプル騎士団のエンブレムがしっかりと描かれている。
砲塔の上では、ナタリアがKord重機関銃の弾薬を補充しているところだった。砲塔の後ろではイリナが腰を下ろし、車体に降り積もった雪を真っ白な指でかき集めては、手のひらの上で溶けていくのをじっと見つめている。
「あっ、タクヤ」
「よう」
俺がやってきたことに気付いたイリナに手を振ってから、車体の上によじ登る。車体の上には雪が降り積もっていたけれど、エンジンの余熱のせいなのか少しばかり湿っていて、下手をすれば滑って転んでしまいそうだった。
さすがに複合装甲に頭を叩きつけたくはないので、気をつけなければ。
「カノンはいるか?」
「いるよ? どうしたの?」
「親父からの任務だ。ちょっと彼女に用事がある」
「カノンちゃーん! お兄さんが呼んでるよー!」
『はーい!』
やっぱりカノンは砲塔の中にいたか。予想通りだな。
雪に覆われた複合装甲の上で待っていると、砲塔のハッチがすぐに開いた。モニターと中に持ち込んだランタンの明かりが漏れ出るハッチの中から姿を現したのは、まるで貴族の少女が身につけるドレスにも似た真っ黒な制服に身を包む1人の少女だった。
幼いころから貴族としてのマナーの教育を受けつつ、モリガンの傭兵でもある両親から戦い方や銃の使い方を教わりながら育った彼女は、砲塔のハッチから外に出てくると、真面目な表情で彼女を待っていた俺の顔を見上げた。
「どうしましたの?」
「親父から、敵の指揮官を狙撃して排除しろという命令を受けた。これから俺は、敵の最終防衛ラインに潜入し―――――――クソ野郎の指揮官を狙撃する」
引き受けることにした任務の話をした瞬間、カノンが目を見開いた。
「正気ですの?」
「正気だ。それで、観測手(スポッター)が欲しい」
「…………なるほど。わたくしを観測手(スポッター)に任命するという事ですわね?」
「そういうことだ。頼めるか?」
彼女が付いて来てくれるならば心強いが、正直に言うならば断わって欲しかった。いくら敵が最前線にあれだけの数の戦車を投入しているとはいえ、最終防衛ラインの警備は未だに厳重なはずだ。敵の真っ只中に俺1人で潜入するならば危険な目に合うのは俺だけで済むが、彼女が首を縦に振れば、彼女も危険な目に合うことになる。
幼少の頃から一緒に遊んできた妹分を危険な目に合わせたくはない。だけど、彼女の力は必要だ。
場合によっては1人で潜入する覚悟もしながら、俺はカノンの返事を待つ。
「…………はぁ。お兄様ったら、おじさまと一緒ですわね。相変わらず無茶をする方ですわ」
「悪かったな」
賭けはしない主義だが、どういうわけか気が付くと無茶をしているんだよなぁ…………。親父の悪い癖だったらしいが、その悪い癖まで俺に遺伝しちまったんだろうか?
苦笑いしていると、カノンが胸を張った。
「いいですわ。お兄様1人では危なっかしいですし、わたくしも同行いたしますわ」
「助かる」
「お気になさらずに。もしお兄様が帰ってこなかったら、皆さんが泣いてしまいますし」
そうかもしれないな。特にラウラは大泣きするかもしれない。
微笑みながらそう言ったカノンは俺の近くにやってくると、微笑んだまま囁いた。
「――――――もちろん、わたくしもですけど♪」
指揮官を狙撃する前に、まず敵の警備を掻い潜って最終防衛ラインまで潜入しなければならない。そのため、持っていく武装は可能な限り最低限にし、身軽にする必要がある。
そこで、俺はナイフとハンドガンとアンチマテリアルライフルのみで潜入することにした。狙撃に使用する銃は命中精度を考慮してボルトアクション式のものにしようと思ったんだが、それなりに使い慣れているとはいえ、銃にもちょっとした特徴がある。それをすべて把握していれば百発百中の狙撃ができるというわけだ。
というわけで、狙撃に使うアンチマテリアルライフルは旅に出たばかりの頃からずっと使っているOSV-96を使用する。ボルトアクション式と比べると命中精度は劣ってしまうものの、射程距離は約2kmであり、更に弾薬を12.7mm弾から14.5mm弾に変更しているため、その破壊力は装甲車にもダメージを与えられるほどだ。魔術を使ったとしても防ぐのは難しいだろう。
アサルトライフルは装備しないため、中距離や近距離での戦闘も考慮し、こいつに少しばかり改造をしておく。まずスコープの上に近距離用のドットサイトを装着し、近距離戦にも対応できるようにしておいた。とはいえ使用する弾薬を変更したことで銃身の長さが2mになってしまったOSV-96で接近戦をやるのは難しいので、これはあくまでも非常用だ。それと搭載しているスコープは超遠距離狙撃用の倍率が高いタイプであるため、中距離での狙撃にも対応できるように、ライフル本体の左斜め上に中距離用のPUスコープも装備しておく。これはモシン・ナガンにも使用された旧式のスコープだが、適度に倍率が低いため中距離狙撃で役立ってくれることだろう。
あとは銃身の下にがっちりしたバイポットを装備し、銃床には折り畳み式のモノポッドを装備する。後は同じく銃身の下に折り畳み式の”パームレスト”と呼ばれるものを装着し、少しでも狙撃がしやすくなるようにしておく。
OSV-96に施したカスタマイズはこんなところだ。潜入の際はサプレッサーとレーザーサイトを装着したPL-14とナイフを使用する予定である。
俺に同行するカノンは、同じくサプレッサーとレーザーサイト付きのPL-14を装備する。メインアームはいつものSVK-12で、こちらの方にはバイポットと折り畳み式フォアグリップの他に、隠密行動を考慮してサプレッサーを装備している。それ以外の装備はカレンさんから受け取ったリゼットの曲刀と、あまり使う機会はなかったが、あの地下墓地でドロップしたヴィルヘルムの直刀だ。
それと、スモークグレネードなどの手榴弾やクレイモア地雷も持っておく。これらはきっと逃走する際に役に立つはずだ。
「よし、行くぞ」
「ええ」
おそらくこれは、今までの戦いの中で一番危険な作戦になるだろう。
息を呑んでから、俺はカノンを連れて補給を受ける本隊から離れていった。