異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
雪に埋め尽くされた大地の向こうに、巨大な金属の塊が鎮座している。
戦車と言うには余りにも大き過ぎるとしか言いようがない車体は分厚い装甲で覆われており、120mm滑腔砲から放たれるAPFSDSを容易く防いでしまうほどの防御力を誇る。極めて堅牢な分厚い複合装甲で覆われた車体の上に乗っているのは、もちろんこちらも分厚い装甲で守られた巨大な砲塔だ。巨人の上半身にも思えるそれは、ドイツ製の戦艦「シャルンホルスト」と同じ口径である28cm砲であり、当たり前だがその破壊力は戦艦に匹敵する。
それだけで、少なくとも進撃する戦車部隊の脅威となる。かつて第二次世界大戦中のドイツ軍は、このような怪物を作り上げて連合軍やソ連軍に対抗しようとしていたのだ。もし仮に開発されて実戦に投入されていたら、連合軍は大打撃を受けていたに違いない。
怪物の姿を遠くから見つめる李風は、そう思っていた。あれほど巨大な兵器なのだからコストは非常に高く、乗組員の人数も多くなるのは想像に難くない。それゆえに量産できる兵器ではないというのは簡単に想像できるが、航空機の爆弾をこれでもかというほど叩き込まない限りあの怪物を打ち倒すのは不可能だろう。すくなくとも戦車砲で対抗するのは――――――不可能だ。
しかし、制空権を確保しているからと言って最初から航空部隊を頼るわけにもいかない。
双眼鏡をズームし、砲塔の上に鎮座するセンサーとガトリング砲のような砲身を睨みつける。敵が投入した”ラーテ”の砲塔の上に鎮座するのは、2基のCIWSと1基の2連装地対空ミサイル用のキャニスター。どちらもイージス艦に搭載されている物を改良したものらしい。
(車体の前方にもCIWSか…………やれやれ、とんでもないものを投入しおって)
戦車にとって、対戦車ミサイルを満載した攻撃ヘリや攻撃機は天敵と言える。敵は自由自在に空を飛び回って戦車砲を回避しつつ、一方的に対戦車ミサイルを撃ち込めるのだ。逆に戦車は戦車砲を命中させられない上に、主砲同軸の機銃やキューポラの上の機関銃では航空機の撃墜はあまり期待できない。しかも向こうはミサイルであるため、戦車の機動力で回避するのは不可能である。
しかし―――――――もし仮に巨大な戦車にイージス艦と同じ対空兵器を搭載し、更に対空戦闘に対応できるレーダーを搭載した場合は、むしろ接近する航空機やミサイルを片っ端から撃墜する恐るべき要塞と化す。
いくら機動性の高い戦闘機でも、イージス艦が搭載する高性能な対空兵器を回避するのは極めて難しい。どれだけ飛び回っても、イージス艦の対空砲火やミサイルは正確なのである。
それゆえに現代戦は”欺き合い”のような戦いへと発展したのだ。
李風たちの任務は、敵からその対空兵器を引き剥がすこと。最悪の場合は少なくとも対空兵器が機能しなくなるまで損傷を与える必要がある。
もう既に空港からミラ・ハヤカワが率いるA-10Cの群れが飛び立ったという報告を受けている。しっかりと敵を観察することは極めて重要だが、あまり対空兵器の破壊に時間をかけすぎると、虎の子のA-10Cたちを対空砲火の中に突っ込ませることになる。
「さて、同志諸君。そろそろ仕掛けようか」
「了解(ダー)。1号車より各車両へ。1両のラーテには必ず8両以上で攻撃を仕掛ける事」
「主砲装填完了。照準合わせました」
「よろしい。撃ったらすぐに後退しろ。あんなでっかい主砲で吹っ飛ばされるのは嫌だからな」
双眼鏡を首に下げた李風は、乗り慣れた99式戦車の砲塔の中へと戻ると、モニターで味方の戦車の位置を確認する。自分の乗る戦車から少しばかり離れたところに他の戦車が待機しており、主砲をラーテへと向けていた。
中国が開発した99式戦車に搭載されている主砲は、アメリカのエイブラムスやドイツのレオパルトと比べるとやや口径の大きい125mm滑腔砲である。更に砲弾だけでなく対戦車ミサイルまで発射できる攻撃的な主砲だが、その火力でもあの改造型ラーテの装甲を貫通するのは不可能だろう。
あくまでもあの怪物に止めを刺すのは航空部隊。李風たちの役目は、砲塔や車体の上に乗っている対空兵器を破壊することだ。
(あれを破壊しなければ…………逆に航空部隊がやられる)
後方にはヘリ部隊もいるが、戦闘機よりも速度の遅いヘリでは瞬く間に対空兵器の餌食になってしまうのは明らかだ。
『第二小隊、攻撃準備よし』
『こちら第三小隊。こちらも準備完了です、同志』
「了解(ダー)。…………まず、一番距離の近い間抜けにこちらが攻撃を仕掛ける。その後、第一小隊は後退。代わりに第二小隊が攻撃し、すぐに後退せよ。その後は第三小隊の出番だ。後退した後は迅速に移動するように」
殲虎公司(ジェンフーコンスー)の持ち味は、友軍との連携である。
決して単独では戦わず、常に複数の兵士や戦車で正体や分隊を編成するようにしている。仲間と共に行動することで隙を埋めることができる上に、役割を分担することもできる。それに今のような状況では、1つの部隊が攻撃を仕掛けた後に別の部隊が攻撃を行うことで、敵を攪乱することもできる。
李風が率いる第一小隊から見て2時方向に第二小隊の戦車部隊が展開しており、10時方向には第三小隊の戦車部隊が展開している。兵力はそれぞれの小隊に99式戦車が8両と、対戦車兵器を装備した歩兵が30名ずつ。
「第一小隊、これより攻撃を開始する。目標、12時方向の化け物」
「いつでも撃てます、同志」
対空兵器さえ無力化できれば、あとは離脱するだけだ。攻撃を外して反撃されるのも恐ろしいが、撤退する際に追撃されるのもかなり恐ろしい事である。
撤退ルートもしっかりと確保してあるが、敵の主砲は戦艦の主砲と同等。下手をすれば超遠距離から砲撃される羽目になる。そうなる前に航空部隊に片付けてもらいたいところだ。
14年前の死闘で感じた緊張感に対面しつつ、李風は笑った。
「――――――撃てぇッ!!」
マガジンを通常の20mm弾から徹甲弾のマガジンに変更し、ボルトハンドルを引く。射撃準備が完了したのを確認しながら瓦礫の上を突っ走り、ボロボロになった壁をよじ登って部屋の中へと飛び込んだ私は、冷たい風の中で息を吐きながらアンチマテリアルライフルのバイポットを展開し、タンジェントサイトを調節する。
私の場合は、狙撃にスコープを使わない。遠くにいる標的はスコープを使わなくてもはっきりと見えるし、スコープを覗き込むと照準を合わせにくくなってしまう。
左利きの私のために、ボルトハンドルを始めとする部品が全て反対側に変更されたツァスタバM93を構えつつ、T字型のマズルブレーキが装着された銃口の向こうを睨みつける。
瓦礫が砕ける音とエンジンの音を響かせながら接近してくるのは、分厚い装甲と大口径の主砲を持つマウスの群れ。私たちが乗っていたチーフテンやチャレンジャー2よりも大きなマウスを護衛するのは、白と灰色の迷彩模様で塗装されたレオパルト2A7+たち。
いくら大口径の20mm弾を放てる対物(アンチマテリアル)ライフルを装備しているとはいえ、普通なら太刀打ちできる相手ではない。せめて対戦車榴弾を装填した無反動砲か、ロケットランチャーがない限りダメージを与えるのは難しい。
けれども、私の任務はこれで敵を破壊することではない。あくまでもあのアクティブ防御システムを潰し、味方の攻撃の命中率を上げる事。元々戦車の機動力は低いのだから、身を守るための”盾”さえ奪ってしまえば隙だらけになる。
「…………」
身体中の魔力を加圧してから、敵に察知されないように少しずつ周囲に展開する。やがて私の体内で加圧された魔力たちはくうきちゅうの水分を凍結させて氷の粒子へと変え、その粒子たちで私の身体を包み始めた。
廃墟の中で伏せている私の身体どころか、構えているライフルまで透明になっていく。正確に言うと、これは透明になっているわけではなくて、身に纏った透明度の高い氷の粒子が周囲の光景をマジックミラーのように反射することで私の身体を隠しているだけ。あくまでも氷の粒子を利用した疑似的な光学迷彩だけど、氷を使っているから温度で私の位置を探すのは不可能。魔力も微量だから、魔力で探知するのも無理。敵が音波を使って探知しようとするならば、私も頭の中のメロン体から真逆の音波を飛ばして相殺してやればいい。
いつものように息を殺し、標的を睨みつける。
「各員へ。マウスのアクティブ防御システムは私が狙撃するわ。みんなはレオパルトを狙ってちょうだい」
『『『了解』』』
無線機の向こうから返事を返してくれたのは、タンプル搭で私と一緒に狙撃の訓練をしていた教え子たち。図書館を攻略する際は精密な狙撃で歩兵部隊を援護してくれた彼らも、20mm弾を装填した対戦車ライフルを装備して、私のいる建物の反対側にある廃墟や屋上で狙撃準備をしている。
やがて、砲撃で粉砕された大通りへとマウスがやって来る。複合装甲で覆われた砲塔の上で旋回するアクティブ防御システムのターレットに照準を合わせ、息を吐く。
マウスのアクティブ防御システムは2基。1基を攻撃したら素早くもう片方も破壊して離脱する必要がある。
もし失敗すれば、もう二度とタクヤと会えなくなってしまう。キメラの外殻は銃弾に耐えることはできるけど、戦車砲を喰らえば木っ端微塵になってしまうの。しかも私はキメラの中でも硬化が苦手だから、防御力はパパやタクヤと比べると大きく劣ってしまう。
絶対に生き残って、あの子のお嫁さんになるんだから…………!
マウスがどんどん近づいてくる。おそらく今の距離は500mくらいだと思う。
もう一度息を吸ってから吐き―――――――トリガーを引いた。
20mm弾が生み出した衝撃波が、銃身に降り積もった雪を吹き飛ばす。真冬の大通りの中へと高熱を纏いながら飛び出していった大口径の徹甲弾は、装甲車の装甲を撃ち抜けるほどの運動エネルギーを迸らせながら駆け抜けていき、タンジェントサイトの向こうでターレットに襲い掛かった。
戦車の装甲とは違って、ミサイルを迎撃するための高性能なセンサーを内蔵しているターレットの装甲は薄い。ゴキン、と鉄板に大穴が開くかのような音が聞こえると同時に一瞬だけ火花が散り、走行を貫通して中へと入り込んだ徹甲弾がセンサーをズタズタに破壊してしまう。
すぐさま左手をグリップから離し、ボルトハンドルを引く。冷気の中へと熱気を纏った大きな薬莢が躍り出し、微かに雪が積もった床の上に転がって金属音を奏でた。
再び照準を合わせ、トリガーを引いた。20mm弾の猛烈な反動を感じた頃には、私の放った20mm徹甲弾は最初の一撃と同じようにターレットへと飛び込むと、容易く装甲を貫通してセンサーを食い破る。
次の瞬間、マウスの主砲同軸に搭載された75mm砲が立て続けに火を噴いた。同じ場所から2回も狙撃するのは失敗だったかもしれないと後悔したけれど、マウスの砲手は氷の粒子を纏う私を見つけられなかったのか、私が隠れている建物の手前にある工場の倉庫を砲撃している。
居場所が分からないから、とにかく砲撃しているだけなのかもしれない。
ならばもう1発狙撃できるかもしれないと思ったけど―――――――私はボルトハンドルを引きながら立ち上がり、光学迷彩を維持したまま走り出していた。これ以上ここで狙撃を続ければ、いくら氷の粒子で姿を消していたとしても反撃される可能性がある。
部屋の中を飛び出し、建物の間にある狭い路地まで飛び降りる。高い建物を探しながら走っていたんだけど―――――――曲がり角の向こうから聞こえてきたキャタピラの音を耳にした瞬間、私はライフルを背負うと同時に近くにあった樽の影に隠れつつ、ポーチの中からC4爆弾を取り出していた。
曲がり角の向こうから姿を見せたのは、白と灰色の迷彩模様で塗装されたマウス。砲塔の上にあるターレットは健在だから、さっき私が狙撃したマウスではないみたい。
そいつは曲がり角を塞ぐかのように停車すると、駆逐艦や巡洋艦の主砲に見えてしまうほど大きな砲塔を旋回させ、75mm砲で砲撃を始めた。どうやら標的にしているのはさっき私が隠れていた建物の中みたい。
やっぱり、移動したのは正解だった。
こういう狡猾な戦い方を教えてくれたパパに感謝しながら、そのマウスに近づいていく。C4爆弾でキャタピラを吹っ飛ばしてやれば確実に擱座させられると思うけど…………砲塔の上を見上げた瞬間、それよりも面白い使い方を思いついてしまった。
ジャンプして車体へとよじ登り、砲塔の後ろに回り込んでから上へとよじ登っていく。姿はまだ消しているから敵兵に見つかることはないと思うけど、違和感を感じた敵兵に警戒されれば意味はなくなってしまう。その違和感を感じる敵兵に背中を5.56mm弾で撃ち抜かれないように祈りながら、砲塔の上へとよじ登る。
微かに雪が降り積もっている砲塔の上は、戦車が発する熱で微かに溶けた雪と降り積もった雪が混ざり合ったせいで滑りそうだった。転倒しないように気をつけながら左手を砲塔の上にある大きなハッチにかけ、そっとハッチを開ける。
猛烈な砲撃の音と一緒に、車内で指示を出す男性の声も聞こえてきた。すぐ近くに座っていた車長はいきなり頭上のハッチが開いたことにびっくりしたみたいだけど、彼がハッチを閉めるために手を伸ばした頃には、もっとびっくりしてしまう素敵なプレゼントが車長の足の上に置かれていた。
戦車を容易く吹き飛ばしてしまうほどの威力を持つ―――――――
「ば、ばくだ―――――――」
車内から聞こえてくる絶叫を聴きながらニヤリと笑いつつ、ハッチを閉めてから飛び降りる。着地と同時にポーチの中から起爆スイッチを取り出すと、プレゼントを受け取った車長が大慌てで戦車の外へと投げ捨てるよりも先に起爆スイッチを押した。
巨大な戦車の中で、C4爆弾が生み出した爆風が荒れ狂う。ハッチの外で爆発すれば乗組員にはそれほど被害は出なかったかもしれないけど、よりにもよって爆弾が爆発したのは、車長がそれを車外に放り出すためにハッチを開けようとしていた瞬間だったみたい。
外に出ることができず、車内を蹂躙せざるを得なくなった爆風は容赦なく乗組員たちを飲み込むと、彼らの身体を木っ端微塵に吹き飛ばし、マウスの車内を焦げた人間の肉の臭いで充満させてしまう。
操縦士は無事だったのか、爆弾を放り込まれたマウスがゆっくりと後退を始めた。けれども砲撃は止まっているから、少なくとも車長と砲手はミンチになったみたい。
「おい、戦車が爆発したぞ!?」
「事故か!?」
敵兵の声を聴いてニヤリと笑いながら、私は再び路地の中へと走っていった。
産業革命が勃発してから、フィオナ機関を搭載した機関車は凄まじい勢いで世界中へと広がっていった。先進国はモリガン・カンパニーと契約を結んでライセンス生産を始め、国中に線路を用意して列車を走らせたため、産業革命後の先進国では当たり前のように列車が走っている。
ヴリシア帝国も列車を普及させた国の1つだ。けれどもこの国には、オルトバルカ王国ではまだお目にかかれない列車が走っている。
それは―――――――地下鉄である。
オルトバルカでは国中に線路がつながっており、大都市では凄まじい数の線路を目にすることができるが、その中で地下にまで用意された線路は1つもないのだ。理由はオルトバルカ王国がかなり広大な国土を持っており、わざわざ地下に鉄道を走らせる必要がなかったからだという。
それに対し、ヴリシア帝国は島国であるため、いくら国土が広いと言っても限りがある。侵略して国土を広げることはできても、島国である本国の国土を広げることはできない。
そのため、オルトバルカよりも先に地下鉄が発達したのだ。
辛うじて無事だった地下鉄へと下りていく通路の中は、当たり前だが無人だった。一番最初の爆撃で天井の一部は剥がれ落ち、通路の中にまで雪が降り積もっている個所もあったけれど、こんな気味の悪いところまで警備をする生真面目な敵兵はいないらしい。
ハンドガンのレーザーサイトを取り外し、ライトに変更する。ライトのスイッチを入れて暗い通路を照らし出しながら、トラップが仕掛けられていないか警戒しつつ先へと進んでいく。
壁には様々な広告用のポスターが張られているけれど、剥がれ落ちた天井のせいで砂埃をぶちまけられたらしく、どのポスターも当たり前のように汚れている。中には演劇やマンガのポスターも張られていたけれど、やっぱり砂埃のせいで滅茶苦茶だ。
冷たい風で満たされた通路を進んでいき、改札口を飛び越える。その先にある階段を下りていくと、その向こうには真っ暗な地下鉄のホームが広がっていた。ヴリシアの伝統的な建築様式を取り入れているのか、駅の中というよりは古めかしい博物館の中を思わせるホームには、避難勧告が発令された際に乗り捨てられたと思われる列車が放置されていて、冷たいホームの中で運転手たちの帰りをじっと待っているようだった。
「誰もいませんわね」
「こんなところを警備しようとする奴なんていないさ」
ヴリシアの地下鉄は複雑だ。ここを警備するために部隊を展開させれば、地上を防衛する部隊の数が少なくなってしまう。せいぜいトラップが申し訳程度に置いてある程度だろう。
最終防衛ラインがあるのはこの先にある駅の周辺だという。親父から貰った地図で現在地を確認し、再びハンドガンのライトでホームを照らしながら先へと進む。
頭上からは微かに爆音が聞こえてくる。味方の砲撃なのか? それとも敵の集中砲火なのだろうか。
「急ぎましょう、お兄様」
「ああ」
敵の指揮官を狙撃できれば、敵は総崩れになる。そうすれば苦戦している味方を支援できる筈だ。
仲間たちを助けるために、俺とカノンは暗い地下鉄の線路の上を進み続けた。