異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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離脱

 

 

 砲弾が着弾した衝撃で、大地と共に車体が揺れる。

 

 激しく揺れながら破片を叩きつけられる音を聞きながら、李風はモニターを睨みつけつつ、今の砲撃で味方がやられていないことを祈り続けていた。先ほどから何度も彼の戦車を揺らしている砲撃の正体は、一撃で最新の戦車を消し飛ばしてしまうほどの破壊力を持っているのだ。いくら複合装甲や最新のセンサーを装備している主力戦車(MBT)とはいえ、戦艦の主砲を喰らって無事で済むわけがない。

 

「2号車下がれ! 3号車、次は俺たちが前に出る! 援護しろ!」

 

『了解(ダー)!』

 

『第二小隊、一旦後退します!』

 

『了解(ダー)、あとはこっちに任せろ! 第三小隊、前へ!』

 

 この作戦に投入した戦車部隊の中から特に練度の高い小隊を選び抜いて編成した戦車部隊は、今のところ順調にラーテの対空兵器を無力化しつつある。今しがたキューポラの向こうでラーテのCIWSが吹っ飛んだのを確認した李風は、まだ健在な対空兵器を素早く確認しつつ、主砲の砲塔がこちらに向けられているのを見て唇を噛みしめた。

 

 こちらの主砲の口径は125mm。せいぜい駆逐艦の主砲程度である。それに対しラーテが装備している主砲は”28cm”。戦艦か重巡洋艦と同程度なのだ。

 

 いくら新型の複合装甲がAPFSDSに耐えるほどの防御力を持っているとはいえ、超高速で放たれる大口径の砲弾を喰らえば木っ端微塵になるのは明らかだ。幸い敵は小回りが利かない超大型の戦車であるが、”副砲”として搭載されているのはどうやら105mmか120mm砲であるらしく、まるでイージス艦の速射砲のように凄まじい速さで徹甲弾を連射してくるのである。

 

 現時点であの主砲に吹っ飛ばされた不運な味方はいないものの、特に第二小隊ではその副砲の連射で撃破される戦車が続出しており、このままでは第二小隊は壊滅してしまう恐れがあった。

 

(拙いな…………。第二小隊はこの中で一番練度が低い…………!)

 

 14年前のファルリュー島攻略作戦を経験したベテランの兵士が大半を占める第一小隊と第三小隊とは異なり、第二小隊の兵士たちはファルリュー島攻略作戦の後に加入した若手の兵士たちが大半を占めている。訓練では優秀な成績を出し、実戦でも全く損害を出さずに生還してくる優秀な逸材ばかりであるが、どれだけ優秀な兵士たちでも”経験”を積み続けたベテランには及ばない。

 

 彼らは、ファルリュー島の時のような逆境を経験していないのだ。

 

『うわっ…………! くそ、7号車がやられた!』

 

「くっ…………! 第二小隊、第三小隊と合流せよ!」

 

『りょ、了解!』

 

 李風たちが攻撃しているラーテの対空兵器は殆ど破壊している。まだ砲塔の上に地対空ミサイルのキャニスターが居座っているが、それにはもう彼の戦車の砲手が狙いを定めている。

 

 3両のラーテのうち、1両はこれで対空兵器を失うことになる。第三小隊も奮戦しているらしく、多少の損害を出しながらも他の車両と連携しつつ、正確に対空兵器を砲撃で吹き飛ばしている。しかし第二小隊が担当していたラーテにはまだ複数のCIWSと地対空ミサイルのキャニスターが残っており、放置したまま航空部隊を投入すれば航空部隊にも被害が出てしまう。

 

「歩兵部隊、第二小隊が攻撃していたラーテを狙え! 我々はこっちを片付けたらすぐに合流する!」

 

『了解、同志! ――――――ほら、お前ら! 仕事だ!』

 

『『『УРааааааа!!』』』

 

 シンヤからの連絡では、もう既に対地攻撃用の爆弾やミサイルを搭載したA-10Cの編隊が空港を飛び立ち、ウィルバー海峡を超えてサン・クヴァントへと向かっているという。あまり時間をかけ過ぎれば、いくら攻撃機の中でもずば抜けて堅牢なA-10でもCIWSや地対空ミサイルの餌食になってしまうのは想像に難くない。

 

 あまり、余裕はなかった。

 

「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 

 砲手に命令を下しながら、李風はモニターの向こうで巨大な砲身をこちらへと向けている怪物(ラーテ)を睨みつける。

 

 ファルリュー島でも、このような状況は経験した。10000人の守備隊が待ち受けている巨大な島にたった260人の海兵隊を率いて上陸した時は、戦闘に投入できる兵器をひたすらかき集め、まだ錬度が低い兵士たちにも大慌てで訓練をした状態だった。あの時は魔王が一緒に戦ってくれたからこそ、想定されていた損害を遥かに下回る損害で済んだのである。

 

 しかし―――――――彼らも、今まで戦闘を経験している。

 

 いつまでも”魔王”に守られるわけにはいかないのだ。あれから14年も経っているというのに未だに魔王の世話になり続けていれば、あの島の戦いで散っていった仲間たちに申し訳がない。

 

 それに、まだ転生したばかりだったころの李風を導いてくれた”彼”も、落胆してしまう事だろう。

 

(リョウさん…………)

 

 ファルリューの激戦の時のように奮い立った李風は、相変わらず砲弾が着弾する衝撃で揺れる戦車の中で、笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 背後から飛来し、トンネルの壁に激突して消えていく銃撃の回数がどんどん減っていく。左手で俺の男とは思えないほど華奢な肩を掴みつつ、右手に持ったハンドガンを後方に突き出している少女が引き金を引く度に、追っ手の兵士の眉間には正確に風穴が開いていき、バイクが転倒していく。

 

 PL-14のスライドがブローバックし、ライフル弾と比べるとやけに短い9mm弾の薬莢を吐き出す度に、俺の背後では人が死んでいく。装填されている弾丸は対吸血鬼用の銀の弾丸だが、標的になっているのは――――――おそらく人間だ。数日前までは過酷な仕事を終え、安い賃金でなけなしのパンを購入してアパートに戻り、家族と一緒にそのパンを齧っていた労働者たち。中にはきっと、小さな子供がいる男もいるに違いない。

 

 けれども、情けをかけるわけにはいかなかった。情けをかけて発砲を止めれば、今度は俺たちが殺される。

 

 心を痛めてしまうような優しい人間は、戦争には向いていない。

 

 けれども俺は、優しさは捨ててはいない。その代わりに”人間”を捨てた。水無月永人という少年を捨て、タクヤ・ハヤカワという怪物として生まれ変わった。

 

 だから薬莢がトンネルの中に堕ちていくたびに敵が死んでいると理解できても、全く心は痛まなかった。

 

 ハンドルから左手を離し、自分のポーチの中からPL-14のマガジンを引っ張り出す。するとカノンの細い指が素早くマガジンを掴み取り、空になったマガジンが居座っていたグリップの中にそれを押し込むと、肩を掴んでいた左手で素早くスライドを元の位置に戻す。

 

「残りは!?」

 

「1台ですわ!」

 

 ちらりと後ろを見ると、確かにこっちにライトを向けながら追いかけてくるバイクは1台に減っていた。オリーブグリーンの制服に身を包み、第二次世界大戦中のドイツ軍を彷彿とさせるヘルメットをかぶった兵士が、G36Kを片手で連射し続けている。

 

 とはいえ、バイクを運転しながら片手でぶっ放しているわけだから、命中精度はかなり低い。どちらかと言うと5.56mm弾を前方にばら撒いているような撃ち方だ。運が悪ければ当たるかもしれないが、下手したらまっすぐ走っているだけでも当たらないかもしれない。

 

 そういえば、そろそろプレゼントが置いてあるところに辿り着くんじゃないだろうか。

 

 地下鉄のトンネルの奥を睨みつけながら、俺はここを通った時に見つけたある物の事を思い出していた。とはいえトンネルの幅は一般的な車両が通行できる程度の幅しかないから、横に逃げるのは無理だ。

 

 そこで――――――この円形の天井を利用させてもらうことにした。

 

「カノン、背中にしっかりと掴まってな」

 

「はい、お兄様っ♪」

 

 嬉しそうだな…………。

 

 ハンドガンの狙撃を中断した彼女は、PL-14を素早くホルスターへと戻すと、両手で俺の胸板をしっかりと掴みながら背中にしがみついてくる。しかもどうやら頬ずりしつつ匂いまで嗅いでいるらしく、後ろからは「ふふふ…………お兄様、いい匂いですわ…………♪」という声が聞こえてくる。

 

 後ろから撃たれてるのによくうっとりできるなぁ…………。

 

 というか、俺とラウラの匂いは同じだぞ? 小さい時から同じシャンプーとか石鹸を使ってるし、常に一緒にいるからな。

 

 とりあえず、カノンが振り落とされる心配はない。それを確認してから息を呑み、呼吸を整え―――――――最高速度でトンネルの中を突っ走っていたバイクを、いきなり左側の壁へと向けた。

 

 前輪と後輪がレールを乗り越えたかと思うと、すぐにトンネルの壁面へと激突する。やがて曲がるために左側へと傾いていた車体が俺たちの身体もろとも段々と右側へと傾き始め、先ほどまで足元にあった筈の列車のレールが、俺たちから見て右側にある壁の一部と化す。

 

「お兄様、か、かっ、壁を走ってますわよ!?」

 

「すげえだろ!?」

 

 そう、今の俺は―――――――カノンを乗せたバイクで、トンネルの壁を走っていた。

 

 少しでも体重を右側へと向けたり、速度を落としてしまえば瞬く間に本来の床――――――今では右側で壁と化しているレールだ――――――へと叩きつけられてしまうだろう。カノンから見れば平然とこんなことをやっているように見えるかもしれないが、バイクを走らせている俺は体重移動と速度にかなり細心の注意を払いながらの運転である。

 

 こんなことをしたのは、トンネルの中に残っているプレゼントを敵にお返しするためだ。

 

 俺たちは気に入らなかったんでね。悪いけど、こいつは返品させてもらう。

 

 敵のバイクの運転手は俺たちが壁を走り始めたことに驚いたらしいが、すぐに落ち着いてアサルトライフルを乱射してくる。しかし、レールとレールの間から伸びるワイヤーを前輪が食い破った瞬間、ピンッ、と何かが引き抜かれる音がして―――――――トンネルの中で、爆炎が産声を上げた。

 

 真っ赤な炎がワイヤーを引き抜いてしまったバイクの車体を焼き、それから飛び出した無数の鉄球がバイクに跨っていた兵士の肉体を瞬く間に引き裂く。至近距離でそれを浴びる羽目になってしまった敵のバイクはまるで突き飛ばされたかのように右側の壁に一旦激突すると、エンジンから黒煙を上げながらレールの上に再び叩きつけられ、ズタズタにされていた主人を巻き込んで大爆発を引き起こした。

 

 今の爆発の正体は、敵がここに仕掛けておいたクレイモア地雷である。俺たちが地下鉄のトンネルを利用して進軍する可能性は低いと判断したのか、ここにはクレイモア地雷を1つだけ設置していたのだ。警戒しながら進んでいたおかげですぐに発見できたけどね。

 

 せっかくだからそれを利用させてもらったのさ。

 

「あばよ、バカ野郎」

 

 トンネルの壁に鉄球が激突する跳弾にも似た音を置き去りしながら、カノンを乗せたままゆっくりと車体をレールの上に戻す。先ほどまで右側の壁となっていた列車用のレールが徐々に足元に戻ってきて、前輪と後輪へと近づいていく。

 

 しかし――――――そのままバイクにレールを乗り越えさせる前に、俺の聴覚は別の音を探知していた。

 

 はっきりと聞こえるのは、背後でクレイモア地雷が吐き出した小型の鉄球が壁に激突する音。そしてそれを飾り立てるのは、爆発したバイクの残響。俺たちのバイクのエンジン音以外でトンネルの中に響いているのはそれだけの筈である。

 

 だが、微かに背後から別の音が聞こえる。まるで重い金属の何かがレールの上を走ってくるような音だ。

 

 列車が走って来るのか? でも、今はオルトバルカ大使館から避難勧告が発令された後だから、地下鉄が走っているわけがない。反響を繰り返す音が偶然そのような音を生み出したのか、それとも銃声や爆音の聴き過ぎで俺の耳がおかしくなったのかもしれない。

 

 もし仮にそうだったとしたら治療してほしいところだが――――――背後から強烈なライトを背中に浴びせられた瞬間、まだ耳がいかれてしまった方がマシだと思ってしまった。

 

 まだバイクが残っていたのか? 改札口で立ち往生していた兵士たちが追ってきたのだろうかと思いながら後ろを振り向いたけど―――――――ライトをこっちに向けているそれは、武装したバイクよりもはるかに凶悪な代物だった。

 

 バイクのホイールよりもはるかに巨大な車輪で支えられた車体は戦車や戦艦のような重厚な装甲で覆われているのが一目で分かる。生半可な攻撃でそれを貫通するのはおそらく不可能だろう。そんな分厚い装甲で覆われた車体の上から突き出ているのは、戦車の車体の上に乗っているようなサイズの巨大な砲塔。やや短めに切り詰められた砲身が伸びていて、こちらへと向けられている。

 

 他にもガトリングガンと思われる下記を搭載した小型のターレットや、遠距離の敵に使うと思われる迫撃砲やロケットランチャーと思われる武装も搭載されている車両が何両も連結されている。明らかに戦車よりも重そうな重火器の塊を必死に動かしているのは、やはり装甲に守られた武骨な機関車だ。

 

「そ、装甲列車ぁ!?」

 

「なんですの、あれはぁっ!?」

 

 おいおい、何でそんなものまで投入してんだよ!?

 

 背後から追ってくる装甲列車を振り向きながら、俺は唇を噛みしめた。

 

 装甲列車とは、簡単に言えば戦車のような分厚い装甲を搭載し、戦車砲や重機関砲のような凄まじい破壊力の兵器をこれでもかというほど搭載した戦闘用の列車だ。戦車や装甲車のように自由に動き回ることはできないものの、重装備の車両から一斉に放たれる砲弾やロケット弾による集中攻撃の破壊力は地上部隊を蹂躙できるほどである。

 

 とはいえ、装甲列車が猛威を振るったのは大昔の話だ。今では装甲列車を採用している国は殆どない。

 

 しかし、どうやらあの装甲車も近代化改修されているらしい。先頭を進む車両の上にはレオパルト2の砲身を短くしたような砲塔が鎮座していて、俺たちに照準を合わせている!

 

 だが、迂闊に砲撃すれば自分たちが進むレールまで破壊してしまうことになるため、迂闊に主砲をぶっ放すわけにはいかないようだ。多目的対戦車榴弾でいきなり吹っ飛ばされることがないのは幸運だが、主砲同軸に搭載されている機銃を喰らえばひとたまりもない。

 

 それに、相手は重装備とはいえ、バイク以上の速度を出している。このままいつまでも装甲車の前を走っていれば、カノンと2人で一緒に轢き殺される羽目になる。

 

 何とかして逃げ切らなければ………!

 

 くそったれ、出口のある駅はまだか!? あそこまでたどり着けば階段を上がるだけで装甲列車からは逃げられる。こいつを撃破することはできないが、ここで損害を与える必要もないだろう。

 

 いっそのことC4爆弾でも放り投げてやろうかと思ったが、そんなことをすれば俺たちまで爆風でやられてしまう。それにもし仮にそれで線路を吹っ飛ばして脱線させたとしても、あんな巨体が後ろで脱線すれば俺たちまで巻き込まれるのは火を見るよりも明らかだ。向こうは主砲を撃てないが、こっちも迂闊に爆弾を放り投げられないというわけである。

 

 主砲同軸から放たれる機銃の12.7mm弾が俺たちのバイクを掠め、レールに激突して火花を輝かせる。跳弾する音と巨大な車輪がレールを踏みしめる音を聞きながら、トンネルの奥を睨みつける。

 

 もう少しだけ逃げ続けることができれば、駅までたどり着く………!

 

 全速力でバイクを走らせ続けるが、背後から追ってくる装甲列車の速度はバイク以上だ。トンネルを高速で突っ走り続けているとはいえ、徐々にバイクの後輪と戦闘の車両との差が縮まりつつある。

 

 あと8mくらいだろうか。

 

 じりじりと装甲列車が近づいてくることに焦りつつ走らせていると――――――やがて、誰もいなくなった駅のホームが見えてきた。爆撃の影響で天井の一部や壁の一部が剥がれ落ち、まるで廃墟のようにも見えてしまう駅のホーム。メンテナンスをされていない照明が弱々しい光を放ちつつ点滅し、剥がれ落ちそうな広告のポスターを照らしている。

 

 よし、逃げ切れるぞ!

 

 大急ぎで今度はバイクを右へと方向転換し、前輪と後輪に右側のレールを超えさせる。魔力を伝達するためのケーブルをホイールで踏みつぶしながら壁面へと車体をぶつけると、最高速度で走り続けていたバイクの車体が左へと傾き始めた。

 

 すかさず装甲列車の砲塔が旋回し、機銃が壁に風穴を開ける。線路ではなく壁を走り始めたから容赦する必要はないと判断したのか、今度は主砲の砲身も角度を調整し始めた。

 

 さすがに戦車砲をぶっ放されるのは拙い………!!

 

「…………ハハッ」

 

 ――――――でもな、俺たちの勝ちだ。

 

 どうして俺はバイクで壁を走り始めたと思う? 確かにバイクじゃホームの上に上がれないからこうやって壁を走ってジャンプする必要があるが、もう1つ理由があるんだよ。

 

 ここは駅のホームだ。避難勧告が発令されてから、数多くの列車がずっと線路の上に放置されている。もちろん駅のホームにもな。

 

 だから、気をつけなよ。

 

 さもないと、事故を起こしちまうぜ?

 

 どうやら装甲列車の運転手も、これから自分たちが突っ込むことになる駅に何が放置されているか気付いたらしい。先ほどまでは逃げ惑う獲物を追いかけ回すかのようにじりじりと近づいてきていた装甲列車がブレーキをかけたらしく、けたたましい金属音と共に車輪とレールの間から火花を散らせつつ、急激に減速し始める。

 

 焦って急ブレーキを始めた装甲列車の進む線路の先にあるのは―――――――放置された状態の、地下鉄の車両だった。

 

 放置されているのだから、搭載されているフィオナ機関からは魔力は抜かれている。しかし、下手をすれば暴発の危険性があるフィオナ機関が稼働していないとはいえ、重装甲の装甲列車が猛スピードで列車に突っ込めばどうなるかは言うまでもないだろう。

 

「夢中になり過ぎたんだよ、バカが」

 

 ちゃんと前を見てろ、くそったれ。

 

 壁の縁からジャンプし、そのまま瓦礫だらけのホームの上に着地する。でこぼこしたホームに勢いよく着地したせいでバイクがぐらりと大きく揺れ、カノンと一緒に転倒しそうになってしまうが、何とか強引に体勢を立て直してそのままホームから上へと上がるための階段へと突っ込む。

 

 小さい階段をバイクで駆け上がる振動を感じていると、俺たちを追っていた装甲列車がまるで断末魔の絶叫のように、汽笛を鳴らし始める。

 

 やがて減速するための悪足掻きを続けていた装甲列車が、ブレーキをかけたとは思えない凄まじい速度でホームに突っ込んできた。その後は階段を上っていたせいで分からないけど――――――金属の塊がひしゃげる音や、レールがへし折れるような凄まじい音が階段の上にある改札口まで聞こえてきた。木製の車両が木っ端微塵になる音が駅の中に響き、脱線した車両が壁面に叩きつけられる凄まじい振動が改札口まで揺らす。

 

 駅が崩れ落ちるんじゃないかと思ってしまうほどの振動を感じながら、改札口を超えたところで一旦バイクを止める。

 

 装甲列車に追い掛け回されるとは思っていなかったが、何とか逃げ切ることができた。しかもあんな速度で停車していた列車に正面衝突したのだから、確実に脱線してしまったことだろう。少なくともあの装甲列車が、進撃する仲間たちに牙を剥くことはない。

 

 息を吐きながら後ろを振り向くと、俺の背中にしがみついていたカノンと目が合った。さすがに装甲列車から逃げながら俺の匂いを嗅いだり頬ずりする余裕はなかったらしく、両手にしっかりと力を込め、まだ俺の背中にしがみついている。

 

「おい、もう大丈夫だぞ」

 

「び、びっくりしましたわ…………もう、お兄様ったら」

 

「でも楽しかったろ?」

 

「え、ええ。でも、お兄様」

 

「ん?」

 

 何の前触れもなく、カノンの小さな唇が俺の唇に押し付けられる。花の香りにも似た匂いが火薬の臭いを吹き飛ばし、彼女の柔らかい唇が先ほどまで感じていた緊張感を完全に消し去ってしまう。

 

 そっと唇を離したカノンは、微笑みながら人差し指で俺の頬をつついた。

 

「危ないことをして、お姉様を心配させてはいけませんわ」

 

「そうだったな。気を付けるよ」

 

「ええ、気を付けてくださいな」

 

 そうだな。ラウラを心配させてはいけない。

 

 カノンの頭を優しく撫でてから、俺は再びバイクを走らせた。

 

 

 

 

 おまけ

 

 娘が心配

 

ギュンター「若旦那」

 

タクヤ「はい?」

 

ギュンター「娘に手は出してないよな?」

 

タクヤ(すいません、もう何回かキスしてます)

 

タクヤ「だ、出してないッスよ…………?」

 

ギュンター「そうか…………安心したよ」

 

タクヤ(…………下手したら殺されるかも)

 

 完

 

 

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