異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
撃破されたエイブラムスの残骸の傍らを、巨大な鋼鉄の塊がゆっくりと前進していく。最新型の戦車よりも重厚でがっちりしたキャタピラが瓦礫を踏みしめる度に分厚い装甲で守られた巨躯が前進し、退却していく敵の戦車へと砲弾を叩き込んでいく。
順調に進撃していくマウス部隊の指揮官は、キューポラの向こうで撃破された戦車が噴き上げた火柱を見つめながら息を吐いた。圧倒的な数で攻め込んできた敵が次々に防衛ラインを陥落させ、橋頭保まで確保したという報告を聞いた時は部下たちの士気も下がっていたが、この切り札が投入されてからは敵の戦車を撃破する度に士気は上がり、進撃してきた敵を押し返しつつある。
中には敵の戦車が火柱と化す度に歓声を上げる乗組員もおり、先ほど戦車を撃破した際も砲手の歓声が聞こえてきた。
他の車両には被害が出ているものの、連合軍の戦車よりもはるかに分厚い複合装甲と巨大な主砲を持つ近代化改修型マウスの群れは、まだ進撃しながら敵を蹂躙している。後方のラーテ部隊も順調に砲撃を続けており、側面から奇襲してきた少数の戦車部隊を血祭りにあげているという。
(いいぞ…………!)
このまま前進していれば、勝てる。
こちらには分厚い装甲があるから、敵のAPFSDSは怖くない。どれだけ叩き込まれても装甲が防いでくれるため、少なくとも”回避”は考慮しなくていい。そしてこちらの主砲である160mm滑腔砲は、遠距離から敵の戦車の正面装甲を貫通し、木っ端微塵に吹き飛ばすほどの破壊力がある。
だから避ける必要はない。むしろ逃げる敵を正確に狙う砲手の技術さえあればいいのである。
味方のマウスや護衛のレオパルトたちも次々に主砲を放ち、逃げていく敵の戦車部隊を血祭りにあげていく。稀に歩兵部隊や装甲車から対戦車ミサイルが放たれるが、それはマウスに2基も搭載されているアクティブ防御システムが片っ端から探知して迎撃してしまうため、全く問題ではない。
「目標、1時方向! 味方に主砲を向けている奴をやれ!」
「了解(ヤヴォール)!」
命令を聞いた砲手が、マウスの巨大な主砲を旋回させ始める。分厚い装甲に包まれた武骨な砲塔がゆっくりと旋回し、駆逐艦や巡洋艦の主砲にも匹敵するほどの大口径の主砲を、こちらの進撃を食い止めるために砲撃を続けている敵の戦車へと向ける。
敵の戦車はこちらに狙われていることに気付いたらしく、大慌てで砲撃を中断して後退を始めた。砲手が「逃げられるわけねえだろ」と言いながら照準を合わせるのを見守りつつ、車長は今までの戦果にあの戦車を撃破したという新しい戦果を早くも付け加えた。
しかし―――――――傍らからやけに大きな火柱が上がった瞬間、車長はぞっとして反射的にキューポラの外を見つめた。
今のは明らかに戦車砲の砲撃ではない。第一、対戦車用のAPFSDSが外れて地面に命中したところで、今のような派手な火柱が上がるわけがない。このような火柱を噴き上げるのは榴弾や
APFSDSよりも貫通力は劣るため、警戒する必要はない砲弾である。だが―――――――今しがたマウスの傍らに着弾した1発の砲弾は、明らかに従来の戦車砲や大口径の榴弾砲を遥かに上回るサイズの爆風を生み出していた。
(い、今のはなんだ…………?)
冷や汗を拭い去ったその時、今度は隣を走行していたマウスの方から、ごすん、と分厚い鉄板がひしゃげたような音が聞こえてきたかと思うと―――――――すぐ脇で火柱が産声を上げ、キューポラの防弾ガラスから車内へと入り込んできた深紅の光が、薄暗いマウスの車内を照らし出した。
「さ、3号車がやられた!?」
「たった1発で…………!?」
「…………ッ!?」
今まで何度も敵の砲弾を防いだ分厚い複合装甲を持つマウスが、たった一撃で撃破されたのである。息を呑みながら隣で炎上するマウスを見つめた車長は、砲塔の真上に空いた大穴から吹き上がる炎を見つめながら息を呑んだ。
真上から飛来した1発の砲弾が、凄まじい運動エネルギーを纏いながら砲塔の上の装甲を突き破り、よりにもよって車内で起爆したのである。幸い戦車そのものは原形を留めているが、直撃した砲弾によって蹂躙された内部が滅茶苦茶になっているのは火を見るよりも明らかであった。当たり前だが、乗組員は全滅している事だろう。内部にある武装や自動装填装置も爆風でズタズタにされ、予備の砲弾も爆風で誘爆してしまったに違いない。
黒煙を噴き上げるハッチや砲口を見つめながら、車長は目を見開く。
(戦車砲ではない…………あの砲撃は一体何だ…………!?)
あのように真上から降ってくる戦車砲は存在しない。今のような弾道で飛来するのは、後方にいる迫撃砲や戦艦の主砲くらいだろう。
仮説を立てた瞬間、車長ははっとした。
敵艦隊は未だに健在である。偵察部隊からの報告では、敵艦隊の中には大口径の主砲を搭載した超ド級の戦艦も含まれているという。更に橋頭保を確保した敵は、新たに超弩級戦艦の主砲に匹敵する大口径の自走榴弾砲を少なくとも20両以上は投入しているという報告を聞いた。
そう、敵にはまだ戦艦の主砲と、超大型の自走迫撃砲がある。
(まさか、敵に誘い込まれた!?)
敵が退却していたのは勝ち目がないと判断したのではなく、後方の部隊が正確に砲撃できる距離までマウスたちを誘い込むための罠だったのではないかという仮説が組み上がった瞬間、車長は後退する敵を追撃する命令を下した自分の愚かさに気付いた。
しかも、後方にいる筈のラーテ部隊ともかなり距離が離れている。支援砲撃を要請すれば援護してもらえるかもしれないが、距離が開いていれば味方と連携するのは難しくなる。
敵の作戦だったのだ。意図的に撤退することでマウスやレオパルトたちをラーテの群れから引き離して孤立させ、自走迫撃砲と艦砲射撃で袋叩きにする。後方のラーテを撃破するのは難しいが、少数の戦車部隊に奇襲させて対空兵器を破壊することで、航空部隊に対艦ミサイルや爆弾をお見舞いさせれば容易く破壊することが可能である。
「くそ、罠だ! 全車後退! 後方のラーテまで―――――――」
無線機に向かって彼が叫んだ頃には、キューポラの真上に真っ黒な塊が迫っていた。
今まで彼らが弾いてきた戦車砲の砲弾よりもはるかに巨大な金属の塊。微かに炎と高熱を纏っているその塊は、エイブラムスやT-14を凌駕する巨体を持つマウスにすら容易く大穴を開けてしまいそうなほど大きい。
その砲弾が、帝都サン・クヴァント沖で砲撃を待ち続けていた敵艦隊が放った砲弾だと理解した直後、キューポラへと飛び込んできた巨大な40cm砲の砲弾が、分厚い装甲もろとも車長の肉体を押し潰していた。複合装甲に覆われているとはいえ、艦砲射撃を防ぐことを考慮していなかった装甲はあっさりと砲弾に貫通されてしまい、隣で撃破されたマウスと同じように砲塔の真上に大きな風穴が開く。飛び込んだ砲弾はマウスの砲塔の床を突き破って車体にまで飛び込むと、砲塔の軸に大きな風穴を開けた。
砲弾が纏っていた衝撃波が車内で荒れ狂い、中で車長の指示通りに戦車を後退させようとしていた操縦士たちの肉体は瞬く間にバラバラになる。マウスの砲塔や車体が内部で膨れ上がった衝撃波のせいで一瞬だけ大きく揺れたかと思うと―――――――車内で生まれた爆炎を風穴やひしゃげたハッチから覗かせ、そのまま残骸と化してしまった。
そのマウスを沈黙させた砲撃は、テンプル騎士団艦隊旗艦『ジャック・ド・モレー』の第二砲塔で砲手を担当するカレン・ディーア・レ・ドルレアンが放った榴弾であった。
立て続けに味方を撃破されたマウス部隊も、徐々に自分たちがおびき出されたのだという事を理解しつつあったが、速度が速いレオパルトと違って動きが鈍重なマウスたちがその砲弾の雨から逃げ切るのは不可能である。スピードと機動性で回避することを除外し、敵の攻撃を装甲で防ぐか、アクティブ防御システムで迎撃することを想定していたマウスたちには、それらを回避するためのスピードは与えられていなかったのである。
とはいえ、最新型の戦車の主砲すら防いでしまうほどの装甲を貫通してしまうほどの攻撃は、普通ならば想定することはないだろう。
レオパルトたちに続いてマウスの群れも後退を始めるが―――――――降り注いだ砲弾たちは、次々にマウスたちに喰らい付いていく。
最も突出していたマウスの砲塔に真上から飛来した1発の
この砲撃も戦車部隊の砲撃ではない。橋頭保となった図書館からの進撃の際、最後尾から戦車部隊の突撃を支援していた、Oka自走迫撃砲たちによる遠距離砲撃である。
本来ならば、迫撃砲は貫通力よりも砲弾の爆発の範囲を重視しており、対戦車戦闘よりも敵の歩兵部隊などへの攻撃に投入されるものである。そのためいくら大口径の迫撃砲を装備した部隊でも、それを敵の戦車の攻撃のために投入することは全くない。
だが、そのOka自走迫撃砲たちを配備したリキヤは、それらのための砲弾の中に、対戦車戦闘を想定して
最初の砲撃でマウスを次々に血祭りにあげられている理由は―――――――マウスたちのアクティブ防御システムを破壊するという危険な任務を引き受けたテンプル騎士団の狙撃手部隊が、撤退していくマウスたちを監視し、座標を後方の自走迫撃砲部隊に常に報告しているからである。
まだ実戦経験は少ない狙撃手たちではあるが、ラウラ・ハヤカワから叩き込まれたのは狙撃だけではない。
隣で姿勢を低くし、双眼鏡を覗き込みながら後方の迫撃砲部隊に座標を報告する教え子を見守りながら、ラウラは火柱が吹き上がる戦場の彼方を見つめ続けていた。
砲弾が炸裂する度に荒れ狂う熱風と破片たち。鉄と肉が焼ける臭いと火薬の臭いが混ざり合う戦場の彼方には、自分たちよりもはるかに危険な任務を引き受けた弟がいる筈だ。たった2人で敵の防衛ラインを迂回し、敵の指揮官を狙撃して始末するという危険な任務である。失敗すれば敵の大部隊に袋叩きにされ、無残に殺されるのは想像に難くない。
しかもタクヤは、吸血鬼の過激派たちが最も憎んでいるキメラの1人。カノンよりも無残に殺されてしまうのは明らかである。
(タクヤ…………)
一緒に厳しい訓練を受けてきた弟ならば、きっと成功する筈だと祈りながら、ラウラは敵の戦車に巨大な対物(アンチマテリアル)ライフルを向けるのだった。
キャニスターもろともAPFSDSに撃ち抜かれた地対空ミサイルが、分厚い装甲で覆われたラーテの巨体の上にちっぽけな火柱を誕生させる。もしその火柱が生まれた場所があんな化け物の上ではなく、普通の装甲車の上や敵の基地の中だったのならば、もう少し派手な火柱に見えたかもしれない。だが、派手に火を噴き続ける巨大な主砲や副砲が搭載されている怪物の巨体の上では、何の変哲もない火柱にしか見えない。
けれどもそのちっぽけな火柱は、私たちの任務が成功したという事を告げる火柱だった。
たった24両の戦車と90名の歩兵で構成された奇襲部隊でラーテの群れを奇襲し、対空兵器を全て破壊するか、それらが対空兵器として機能しなくなるほどの損害を与えるという非常に危険な我らの任務は何とか成功したのである。
「よし、撤退だ! 急げ!」
無線機に向かって叫び、まだ生き残っている味方の部隊に命令を下す。キューポラの向こうにはこちらへと副砲を向ける忌々しい巨体が鎮座しており、その巨体と私が乗る99式戦車の間には、火柱を噴き上げる金属の塊と化した99式戦車たちの残骸がある。
この作戦で、我々は17両の99式戦車と42名の優秀な兵士たちを失った。戦死した兵士の中にはまだ若い兵士だけではなく、ファルリュー島の激戦を生き抜いたベテランの兵士も含まれている。
無線に向かって命令を下しても、帰ってくる部下たちの返事や復唱の数が明らかに減っている。そしてその声も、聴き慣れた声が減っていた。
両目を思い切り瞑りながら拳を握り締め、キューポラの向こうでこちらに砲塔を旋回させている怪物を睨みつける。この戦車に搭載されている武装では撃破することはできないため、我々だけで戦死していった仲間たちの仇を取ることはできない。
だが―――――――戦死していった仲間たちの仇は、必ず取って見せる。
我々が仲間を弔うために必要なのは、敵を撃破して勝利したという戦果だ。どれだけ綺麗な花を墓前に供えられ、多くの仲間たちが涙を流したとしても、銃を持って戦い続けた彼らは決して満足することはないだろう。一緒に激戦を生き抜き、厳しい訓練を続けてきたからこそ、彼らが何を与えられれば満足するのかは分かる。
安心しろ。お前たちのおかげで、私たちは大きな戦果をあげられる。
――――――無駄にはしない。
ラーテには対空兵器以外に損傷を与えていない。あの分厚過ぎる複合装甲の塊は健在だし、まるでイージス艦の速射砲のように連射してくる120mm砲も未だに火を噴き続けている。奴らの装備の一つを滅茶苦茶にしてやった程度の損傷しか受けていないのだ。
だが―――――――それで十分だった。
同志たちが散っていった意味は、あったのだ。
雪と砲弾が降り注いでくる空の向こうから―――――――新しい音が聞こえてくる。
逃げ惑う歩兵や戦車たちを脅かす砲弾の轟音ではない。味方の戦車が破壊された音や、歩兵たちが散っていく断末魔でもない。
あの怪物たちを仕留めるための兵器を満載した救世主たちの到来を告げる、エンジンの凱歌だ。
「同志李風、あれは…………」
「ああ」
やっと到着したのだ。
このヴリシアの空から吸血鬼共の戦闘機を駆逐し終えたパイロットたちは、敵の戦闘機を叩き落すだけでは物足りないと感じたらしい。わざわざ最寄りの空港まで一旦戻り、そこで対空用ではなく地上攻撃用の攻撃機に乗り換え、対戦車ミサイルや強力な爆弾をこれでもかというほど搭載して、地上の敵まで喰らいつくすためにここに戻ってきたのだ。
やがて、雪と雲が舞う空の向こうに―――――――漆黒の翼を持つ無数の攻撃機の群れが、姿を現す。傍から見ると第二次世界大戦で活躍した戦闘機や爆撃機を思わせる古めかしい形状であるものの、機体の後端に搭載された2基の武骨なエンジンと、主翼の下部にこれでもかというほど吊るされたミサイルや爆弾たちが、最新型の戦車ですら木っ端微塵にできる火力があると断言している。
数は合計で55機。たった数機だけでも戦車部隊を壊滅させるのに十分な火力を持っているというのに、それだけの数の攻撃機を投入するのは”やり過ぎ”としか言いようがない。
いや、それくらいやっていただきたい。
散っていった仲間たちを、派手に弔うために。
さあ、やれ。派手にぶち壊せ――――――。
戦車のキューポラから無数のA-10Cの群れを見上げながら、私は久しぶりに高揚していた。
これほど高揚したのは、14年前に同志ハヤカワが”勇者”を倒したという知らせを聞いた時以来だった。
序盤の戦闘で大半の航空部隊が撃墜されたことにより、吸血鬼たちの本拠地にも拘らず、ヴリシア帝国の帝都サン・クヴァントの上空を舞うのは攻め込んだ連合軍の戦闘機ばかりという状態であった。
辛うじて健在な飛行場から航空隊を出撃させても、帝都に到達した瞬間に敵のレーダーで探知され、瞬く間に撃墜されてしまう。そのような状態が続いたせいで吸血鬼側の航空隊は壊滅状態であり、空戦を想定していない鈍重な攻撃機や爆撃機が、護衛の戦闘機すら連れずに飛び回っている状態である。
連合軍に占領されたヴリシアの空を、新たな漆黒の翼を持つ航空機の群れが舞う。
連合軍が出撃させたのは、航空機とは思えないほどの火力と耐久力を併せ持つ、アメリカ製攻撃機のA-10Cの群れである。戦車部隊が相手でも易々と撃破してしまうほどの破壊力を持っており、対空用の機関砲が被弾した程度では撃墜できないほど堅牢なのが最大の長所で、投入された戦闘では何度も敵の戦車部隊を蹂躙している。
圧倒的な火力を誇るA-10Cの数は、55機。そのうちの1機は、エースパイロットであるミラ・ハヤカワの要望通りにシンヤが直々にカスタマイズした特別な機体であり、実用性すら放棄してしまうほど火力に特化した機体となっている。
先頭を進むミラの機体のみ、他の機体と形状が違うのだ。他の機体は微かに曲がった分厚い主翼の下部に無数の兵器を搭載しているが、ミラの機体のみはまるで古めかしい急降下爆撃機のような逆ガル翼となっており、その主翼に搭載されている武装には、本来ならば自走砲に搭載されているような105mm榴弾砲が左右の主翼に1門ずつ搭載されている。
砲身を切り詰めた挙句、強引に3発の榴弾が装填されたマガジンと自動装填装置を組み込んだ特注の榴弾砲であるため、命中精度が劣る上に重量も増大し、機体の機動性を下げる原因となっている。この機体に乗り慣れた熟練のパイロットでも油断すれば墜落してしまうような機体だが、そんな鈍重な機体で平然とウィルバー海峡を渡ってきたミラの技術は、もう既にこの世界で最強のエースパイロットと呼べる領域に達しつつあった。
(ヴェールヌイ1より各機へ。攻撃はラーテにのみ集中すること)
『『『了解(ダー)!』』』
(散開!)
先頭を進むミラのA-10KVが高度を上げたかと思うと、今まで彼女に従っていた他のパイロットたちは、まるで一斉に命令を無視したかのように逆に高度を下げ始めた。空港での指示通りに高度を下げていく教え子たちを見守りながら、逆ガル翼のA-10KVを操るミラは純白の空へと舞い上がっていく。
雪の降り注ぐ空を舞う教官に見守られながら、彼女が手塩にかけて育てたパイロットたちはある程度高度を落とすと、焼け野原と化した帝都サン・クヴァントの真っ只中に鎮座する3つの巨大な怪物に狙いを定める。
レーダーが映し出すその反応を確認しながら、パイロットたちは息を呑んだ。
辛うじて、彼らが飛んでいる位置からもうっすらとその巨躯が見える。
今ではすっかり姿を消してしまった戦艦の主砲を搭載した、巨大な怪物。もうとっくに地対空ミサイルの餌食になっていてもおかしくはない距離だが、ミサイルにロックオンされたことを告げる電子音が騒ぎ出さないという事は、地上の味方が対空兵器を何とかしてくれたという事なのだろう。
あのような怪物を相手にしたのだから、損害を出しているに違いない。瓦礫と焼け跡が形成する残骸の絨毯の中には、未だに黒煙や炎を噴き上げながら鎮座する戦車の残骸が見受けられる。その中には敵の戦車も含まれているが、あの怪物の犠牲になったと思われる戦車の群れも炎上している。
航空部隊の接近に気付いた3両のラーテが、副砲をイージス艦の速射砲のように連発しつつ、巨大な主砲が搭載されている砲塔をA-10Cの群れへと向ける。いくら機関砲の被弾にも耐えられるほど堅牢な機体とはいえ、戦艦の主砲を喰らえば容易く捥ぎ取られてしまう。それゆえに、いくら堅牢な機体でも被弾は許されない。
副砲から放たれた砲弾が飛来するが、A-10Cの群れには1発も命中しない。稀に砲弾が近くを掠めていくが、攻撃する前に被弾した味方は1人もいない。
巨大な砲塔を持つ怪物との距離が近くなっていく。もう既に3つの編隊に分かれていたA-10Cたちは、今まで味方を蹂躙していたその怪物を逆に蹂躙する準備を整えつつあった。
やはり、敵からの対空砲火はない。情報では地対空ミサイルとイージス艦や空母に搭載されているCIWSがあると言われていたが、地上部隊がすべて破壊したのだろう。
そしてついに――――――獰猛な攻撃機の群れが、牙を剥く。
『――――――ヴェールヌイ2、ライフル!』
『ヴェールヌイ3、ライフル!』
『ヴェールヌイ4、ライフル!』
分厚い主翼の下部に搭載されていた無数の空対地ミサイルが―――――――立て続けに主翼から切り離され、白煙を後方に残しながら地上のラーテへと殺到していく。すでに雪と煙で真っ白に染まりつつあった帝都の空に、無数のミサイルが白煙を刻み付ける。
ラーテたちは必死に副砲を放ち、どんな戦車でも致命傷になる強烈な空対地ミサイルを迎撃しようと足掻き続けた。今更その巨躯を動かしたとしても、元々ミサイルを回避できるような機動力を持つ兵器ではない。だからこそぎっしりと対空兵器を満載していたのだが、彼らにとって天敵である航空機から身を守るための装備を引き剥がされていたラーテたちには、もう空対地ミサイルから身を守る手段は残されていなかった。
一番最初に放たれたミサイルが、ついにラーテの砲塔の横へと突き刺さる。瞬く間に白煙の終着点を爆炎で包み込み、砲塔を覆っている分厚い装甲に亀裂を生じさせる。
最初の一撃に耐えたラーテであったが―――――――彼らを狙っている無数の空対地ミサイルに耐え切るのは、不可能であった。
立て続けに後続のミサイルが砲塔の側面に喰らい付き、亀裂が生じた装甲を抉り取る。そしてその後続のミサイルが更に内部を抉り、ついにラーテの砲塔に大穴を開けてしまう。車内へと流れ込んだ爆風と衝撃波が乗組員たちを押し潰し、まだ発射される前だった砲弾を誘爆させ、車内を爆風で満たしていく。
車体に搭載された副砲がまだ悪足掻きをしているが、ミサイル攻撃を終えたA-10Cたちが投下した爆弾に車体の装甲もろとも食い破られ、呆気なく沈黙していった。
瞬く間に分厚い装甲で覆われた怪物の巨体が爆炎と衝撃波で包み込まれていく。ガトリング機関砲で砲塔の上を蜂の巣にされ、搭載していたロケットポッドで火達磨にされたラーテたちが、迫りくるA-10Cたちを追い払うために悪足掻きを続けるが―――――――彼らの抵抗に終止符を打つための矛を持つ1機の攻撃機が、天空から急降下を始めつつあった。
雪の舞う天空から、まるで地表へと激突することを望んでいるのではないかと思えるほどの急降下。逆ガル翼に捥ぎ取られていく空気たちが、まるでサイレンのような絶叫を奏でていく。
まるでその音は―――――――”悪魔のサイレン”のようであった。
特徴的な主翼に取り付けられた2門の105mm榴弾砲の照準をラーテの砲塔の真上に合わせながら、コクピットで敵を睨みつけるミラ・ハヤカワは息を吐く。
第二次世界大戦が終結した後に開発された攻撃機で、大昔に廃れてしまった急降下爆撃をやろうとしているのは馬鹿げているとしか言いようがない。実用性を全く考慮していないともいえる。
しかし、彼女にとってはこれが一番”やりやすい”戦い方であった。
真っ逆さまに落ちていくA-10KVのコクピットの中で、逆ガル翼と風が奏でる悪魔のサイレンに包まれながら、もう一度息を吐いて照準を合わせる。砲身を切り詰めた影響で命中精度は劣悪になっており、航空機の武装でありながら可能な限り接近しなければ真価は発揮しないという、かなり扱い辛い武器と化している。
何度も訓練を続けたため、彼女はその距離を理解していた。
急降下を続ける最中に、確実に砲弾を標的に叩き込み、なおかつ無事に上昇できるタイミングは一瞬しかない。そのタイミングを誤れば攻撃は命中しない上、下手をすればそのまま敵に飛び込む羽目になる。
手負いのラーテの1両に狙いを合わせた彼女は、黙ってそのタイミングを待ち続けた。
真上からの急降下であるため、ただでさえ対空兵器を失ったラーテは何もできない。主砲も真上に砲撃することを想定していないため、悪足掻きすら許されない。
彼女の発達した聴覚から、風の音が消える。
地表へと落下していく感覚も消え、標的以外のすべてが一時的に消え失せる。
そして―――――――彼女は、そのタイミングを見つけた。
(――――――発射(フォイア))
操縦桿に取り付けられたトリガーを引いた瞬間、まるで鈍重な筈の機体が吹き飛ばされるのではないかと思ってしまうほどの猛烈な反動が、A-10KVの機体を揺さぶった。主翼の下部に搭載された2門の105mm榴弾砲が砲弾と爆炎を吐き出し、主翼とキャノピーをその爆炎で覆いつくす。
自走砲の榴弾砲を流用したその矛の反動に耐えながら、彼女はフットペダルを踏みつつ操縦桿を思い切り引いた。
眼下へと置き去りにされていく爆炎の向こうで――――――2発の榴弾が、手負いのラーテの砲塔を食い破ったのが見えた。
再び上昇を始めたミラの背後で、止めを刺されたラーテから火柱が吹き上がる。背後から漆黒の機体を照らし出すその火柱を一瞥した彼女は、一瞬だけニヤリと笑ってから次の獲物へと襲い掛かっていった。