異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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最終防衛ライン制圧

 

 

 

 雄叫びを上げながら銃剣付きの得物を構え、LMGや重機関銃の銃弾が傍らを掠めてもお構いなしに突っ走っていった数多の兵士たちの戦いは、銃撃戦から白兵戦へと変貌していた。とは言っても最新のライフルで銃弾を撃ち合う真っ当な銃撃戦から、時代遅れとしか言いようがない白兵戦へと変貌させてしまったのは俺たちだ。どれだけ命中精度の良いアサルトライフルでも、ナイフや剣で斬りつけることができる距離ではほとんど役に立たない。それに、そもそもこの世界では魔術や弓矢などを扱う技術がない限り、基本的に”真っ当な戦い”は至近距離での白兵戦なのだ。

 

 この異世界で仲間にした数多の兵士たちもそっちの方がやりやすい筈だ。だから親父は、この戦法を選んだのだろう。

 

 重機関銃や迫撃砲が設置された塹壕の中に転がり込んだ兵士たちが、スコップやナイフで敵兵を斬りつけている。中には武器をアサルトライフルからハンドガンに持ち替えて応戦したり、素手で敵兵をひたすら殴りつけているオークの兵士も見受けられる。オルトバルカ語とヴリシア語の罵声が交じり合う戦場へと、今から俺たちも突っ込まなくてはならない。

 

 アサルトライフルよりもがっちりしている旧式のLMGを構え、こっちにMG3を向けていた敵兵の頭をズタズタにする。照準器の向こうで敵兵の頭が砕け散ったのを一瞥しつつ、泥の混じった上に熱を発する大きな薬莢を残して突っ走る。

 

 先陣を切っていった兵士たちがぶち破った鉄条網を突破し、元々は大きな公園だった場所に敵が掘った塹壕の中へと転がり込む。武装した兵士たちが走り回っていたせいなのか、塹壕の中に降り積もっていた筈の雪はあらかた溶けて姿を消しており、塹壕の中の土を泥へと変貌させていた。

 

 お気に入りの黒いブーツで泥を踏みつける不快な感覚を感じながら顔をしかめつつ、左手でマドセン軽機関銃のキャリングハンドルを握る。先ほど俺が機関銃の射手を片付けたことに敵兵が気付いたらしいけど、迫撃砲で砲撃していた真っ最中だったのか、そいつの得物は近くにある木箱の上に転がっていた。慌ててホルスターからハンドガンを引き抜こうとするが―――――――もちろん、俺がマドセン軽機関銃のトリガーを引く方が早い。

 

 バレルジャケットが装着された銃口でマズルフラッシュが煌き、その向こうでハンドガンを引き抜きかけていた敵兵の身体が砕け散る。アサルトライフルよりも強烈な反動を感じつつ、そのままフルオート射撃を継続。隣でG36Cを構えようとしていた敵兵もついでに射殺し、近くにあった物陰に飛び込む。

 

 泥の飛沫がコートに降りかかる。敵が放った銃弾が泥だらけの地面に着弾し、塹壕の地面を抉る。

 

 銃撃が止まった瞬間にすかさず顔を出し、マドセン軽機関銃で反撃。数秒ほどフルオート射撃をするけれど、この旧式のLMGに装着できるマガジンの中の弾薬の数は、現代のアサルトライフルとあまり変わらない。弾薬が反発も連なるベルトや、たっぷりと弾薬が入っているドラムマガジンではないのだ。

 

 素早く機関銃と自分の頭を物陰に引っ込めつつ、ベークライト製のマガジンを取り外す。銃の上部に次のマガジンを装着してコッキングハンドルを引き、キャリングハンドルから離した手を腰のポーチへと突っ込む。中から手榴弾を掴み取り、いつものように安全ピンを引き抜いてから敵へと放り投げた。

 

 今日は12月24日なんだから、せめてリボンでもつけてやればよかったと後悔した瞬間、俺が隠れていた場所の向こうでちょっとした火柱が上がり――――――無数の泥の破片と、泥まみれになった敵兵の首が、ごろりと俺の目の前に落下してきた。

 

 爆風で皮膚がすっかりと抉れてしまったそれを見て顔をしかめ、物陰から飛び出す。短時間とはいえ泥まみれの人間の首と物陰で”同居”したくなかったし、いつまでも隠れているわけにはいかないからな。

 

 さっきの手榴弾の爆発で舞い上がった泥のシャワーを浴び、泥だらけになってしまったマドセン軽機関銃を構えながら塹壕の奥へと進む。信頼性の低い銃ならば瞬く間に泥のせいで作動不良を起こしてしまいそうな塹壕の中は、ちょっとした泥沼のような場所だった。一歩進む度にブーツが足元の泥に呑み込まれ、不快な足音を立てる。前に進むために足を動かそうとすると、まとわりつく泥のせいで足が重くなってしまう。

 

 白兵戦は得意分野だが、一刻も早くこんなところから出たい。シャワーを浴びて汚れを落とし、お姉ちゃんとイチャイチャしたい。

 

 そんなことを考えながら先へと進み、塹壕の外から殺到してくる味方を撃ち殺すことに夢中になっている敵兵を、側面か背後から次々に撃ち殺していく。自分たちが配属された塹壕の中に敵兵が入り込んでいるとは思わなかったのか、俺に気付いて反撃してくる奴は殆どいない。

 

 しかし、奮戦していた重機関銃の射手を片っ端から片付けていたせいで、奥の方にいた敵兵が俺たちに気付きやがった。ヴリシア語で叫びながら銃ではなくスコップを引き抜き、泥をまき散らしながら突っ込んでくる。

 

 どうやら、あの敵兵はヴリシア語で『おい、女が攻め込んできやがった!』と叫んだようだ。幼少の頃の言語を”今の”母語に頭の中で素早く翻訳し終えた俺は、また自分の本当の性別を見抜いてもらえなかったことに失望しつつ、ため息をつきながらトリガーを引いた。

 

 狙ったのは敵兵の胴体や頭などの”まともな部位”ではなく―――――――息子である。

 

「ギャッ!?」

 

 男を女と間違えるからだ、くそったれ。

 

 多分、俺は一生このように性別を間違えられ続けながら生きていくことになるだろう。さすがに老人になれば女と見間違えられることはないと思うけど、それまでに何度も間違えられることになるのは想像に難くない。

 

 もう間違えられることには慣れてしまったけど、敵兵にまで間違えられるとなぜかムカつく。

 

 だから、ちょっとした八つ当たりをすることにした。ライフル弾のフルオート射撃を息子に叩き込まれる羽目になった敵兵は、痛々しい悲鳴を上げながら泥まみれの地面に崩れ落ちていった。

 

「ねえ、女の子に間違われるのが嫌ならポニーテール止めれば?」

 

 後ろでフラグ12を装填したサイガ12Kを連射し、後方の敵を片っ端からミンチにしているイリナが、片手をフードの中に突っ込んで俺の髪に触れながらそう言った。確かにこの髪型のせいで間違われているのかもしれないけど、基本的に俺はいつもフードをかぶったまま行動しているから、この髪が戦闘中にあらわになることは殆どない。ということは敵は体格か顔つきで俺を女だと判断しているんだろう。おそらく顔つきの方が可能性は高い。

 

 はっきり言うと、俺の顔つきは母さんと本当にそっくりだ。突撃する前に母さんと話をしていた時、どういうわけか俺は母さんと話をしていたのではなく、もう1人の自分と話をしているような変な感覚を味わう羽目になった。

 

 なので、髪型を変えた程度で男だと思ってもらうのは無理だろう。だから体格を男らしくしようとして筋トレを続けているんだけど、筋肉はそれなりについているはずなのに全然がっちりした体格になる気配はない。

 

 つまり、俺が男らしい容姿になるのは―――――――不可能である。

 

「くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

「え!? キレた!?」

 

 雄叫びを上げながらトリガーを引き続け、マガジンの中の弾丸を全てぶっ放す。瞬く間にマガジンの中が空っぽになり、マドセン軽機関銃の銃口から勇ましいマズルフラッシュが消え失せてしまう。

 

 次のマガジンに交換しようと思ったけれど―――――――今の怒りを込めたフルオート射撃から生き残った敵兵が泥まみれのスコップを振り上げながら突っ込んできたことに気付いた俺は、とりあえずマガジンを取り外した状態のマドセン軽機関銃を構え、真上から振り下ろされたスコップを受け止めた。

 

 がちん、と金属製のバレルジャケットに金属製のスコップが激突する。スコップの表面から剥離した泥が俺の顔面に降りかかり、フードの中をどろりとした泥で濡らしていく。

 

 そのまま両腕をキメラの外殻で覆い、敵兵を力任せに突き放す。予想以上の力で突き飛ばされかけた敵兵は何とか踏ん張ったものの、俺がすぐに突き出した軽機関銃の銃身を受け流すのは無理だったらしい。先ほどまで弾丸を放ち続けていた熱々の銃口が顎に叩き込まれ、再びぐらりと体勢を崩してしまう。

 

 その隙にポーチの中からベークライト製のマガジンを引っこ抜く。銃の上部に素早くマガジンを差し込み、左手でキャリングハンドルを握りつつ右手でコッキングレバーを勢いよく引く。がちん、とコッキングレバーが元の位置へと戻り、薬室の中で7.62×54R弾が出番を待っていることを告げた直後、俺は躊躇せずにトリガーを引いていた。

 

 泥と火薬の臭いが支配する塹壕の中で、またマズルフラッシュが煌く。旧式のLMGが放った弾丸が目の前の敵兵の胴体をズタズタに食い破り、血まみれの蜂の巣へと変えてしまう。

 

 泥の飛沫を上げながら塹壕の地面に倒れる敵兵。瞬く間に泥水を吸った彼の軍服が真っ黒に染まってしまったせいなのか、まるで墓地で力尽きてしまったゾンビのように見える。

 

 今マドセン軽機関銃に装着しているのが、このLMG用の最後のマガジンだ、これを撃ち終わったらアサルトライフルやレバーアクションライフで敵を蹴散らしつつ、遠距離の敵を俺たちの相棒(OSV-96)で撃ち抜くしかない。

 

 泥の飛沫で汚れている背中のアンチマテリアルライフルをちらりと一瞥し、俺は微笑んだ。

 

 21年前から、親父はずっとこのOSV-96を愛用しているという。何度も普通では考えられない無茶なカスタマイズをされながら最強の転生者と共に死闘を生き抜いたロシア製のアンチマテリアルライフルは、親父の相棒とも言える。

 

 そしてこいつは、俺の相棒でもある。フィエーニュ村を後にしてから俺もこのライフルをずっと愛用しているし、敵の指揮官を狙撃するという危険な任務の時も、命中精度の高い他のスナイパーライフルよりもこのOSV-96を選んだ。使い慣れている得物だし、俺はこいつを信頼しているからだ。

 

 非常に頑丈だし、威力も高い。射程距離も長い上に連射し易い最高のライフルである。

 

 俺みたいに華奢な男子には似合わないライフルかもしれないが、俺にとっても大切な相棒なのだ。

 

「タクヤ、塹壕から出て!」

 

「!」

 

 唐突に聞こえてきたのは、フラグ12をこれでもかというほど装填したショットガンでひたすら敵兵を吹っ飛ばし続けている吸血鬼の少女が発した声ではない。イリナの声と比べると落ち着いていて、より大人びた声。冷たい声にも聞こえるけれど、幼少の頃からこの声を聴いていた俺にとっては優しい声にも聞こえる。

 

 返事をするよりも先に、咄嗟にLMGのキャリングハンドルから手を離した。そしてその左手をイリナの制服の袖へと伸ばして彼女の白い手を掴んだ俺は、いきなり手を掴まれてびっくりする彼女を塹壕の中から思い切り引っ張り出す。

 

 泥だらけの塹壕の地面を踏みしめていた彼女のブーツが泥の枷から解放され、まだブーツにこびりついていた泥の雫が雪の上に真っ黒な斑模様を刻み込む。

 

 その直後、背後から冷気を感じたかと思うと、いつの間にか塹壕の地面が氷で覆われていた。塹壕に足を踏み入れた兵士たちのブーツに絡みつき、彼らの得物を真っ黒に汚していた忌々しい泥が、まるで氷を日光に当てたかのような光沢を放ちながら塹壕の中を覆い、逃げ遅れた兵士たちの足を押さえつけているのである。

 

「な、なんだこれは!? 魔術か!?」

 

「くそ、出られない!」

 

 スコップを氷に突き立てたり、何とか手にしていたアサルトライフルで足元の氷を砕こうとする兵士たちだが―――――――彼らの行動はただの悪足掻きにしかならなかった。普通の氷ならばスコップを突き立てられたり、5.56mm弾のフルオート射撃を叩き込まれれば容易く砕けてしまう筈である。いくら硬いとはいえ、装甲車の装甲には全く及ばない硬さなのだから、こちらもそれなりに硬い得物があれば砕くのは容易だ。

 

 しかし兵士たちの足を氷漬けにしたその氷は、明らかに普通の氷とは違う。

 

 氷を砕くために振り下ろされたスコップをはじき返し、あろうことか5.56mm弾のフルオート射撃をことごとく跳弾させ、悪足掻きを続ける哀れな兵士たちを逆に殺傷していく。

 

 自分の放った銃弾に胸板や喉元を撃ち抜かれる羽目になった兵士たちは、両足を氷に押さえつけられているせいで、まるでくつろいでいるかのような不自然な体勢で崩れ落ちていった。

 

 氷属性の魔術は、あらゆる魔術の中でも習得する難易度が高い方と言われている。魔力の圧力や強さによって生成できる氷の強度が異なるため、それの調節が上手くできなければ攻撃や防御には全く使えないような脆い氷しか生成できないためだ。そのため、魔術師の大半は習得が楽な炎属性や雷属性の魔術を好む傾向がある。

 

 それゆえに氷属性の魔術を得意とする魔術師は重宝されるのだ。今しがた塹壕の中を氷漬けにした張本人も、そのうちの1人である。

 

 銃弾すら弾き返してしまうほどの強度の氷を生成できる人物は、2人しか知らない。

 

 片方は腹違いの姉のラウラ。とは言っても彼女の場合は防御には使わず、自分の姿を氷の粒子で隠したりする程度だ。

 

 そう、基本的にこんな使い方をするような人は、もう1人の方である。

 

 かつてラトーニウス王国最強の騎士と言われ、彼女がラトーニウスにいるだけでオルトバルカ王国騎士団が迂闊に攻め込めない理由を作っていた、元ラトーニウス王国騎士団の切り札。俺の母の姉であり、魔王の妻の1人。

 

 ラウラの母である、エリス・ハヤカワである。

 

 後ろを振り向いてみると、やはりそこに彼女がいた。真っ黒なモリガン・カンパニーの制服に身を包んでいるけれど、彼女のために用意された特注品なのか、他の女性社員の物と比べるとデザインが違う。大きな胸が収まっている胸元は開いていて、右肩にはモリガン・カンパニーとモリガンのエンブレムが描かれている。

 

 髪の色は俺と同じく蒼い。母さんとは違って蒼くて長い髪を左右だけお下げにしており、纏っている雰囲気は普段ならば”優しそうな女性”のような雰囲気である。堂々とエロ本を読む変態だということと料理がかなり下手だという事を除けば、結婚できた男は幸せ者だと思えるほどの美しい女性だ。

 

 娘であるラウラを彷彿とさせる目つきの彼女は俺を見つめながらにっこりと笑うと、後ろを振り向いてからウインクする。

 

「さあ、行ってらっしゃい♪」

 

 その直後、彼女の後ろから姿を現したもう1人の女性が、背中の鞘からバスタードソードを引き抜きながら氷漬けになった塹壕の中へと飛び込んでいった。

 

 動き易さを重視しているのか、その女性の制服は露出の多いエリスさんの制服と比べると露出が少なく、軍服に近いデザインになっている。彼女と同じく蒼い髪の女性は右手でバスタードソードの柄を握りつつ、腰の左側にある大きなホルダーの中からSMG(サブマシンガン)と思われる銃を引き抜くと、それを氷のせいで身動きが取れない敵に向かってぶっ放しながら、氷の上を滑って移動していく。

 

 彼女も、魔王の妻である。俺の親父と共に死闘を戦い抜いた傭兵の1人だ。

 

 そう、俺の母であるエミリア・ハヤカワである。顔つきがそっくりである上に髪型まで同じ性なのか、時折自分でも見分けがつかなくなってしまうほどだ。

 

 母さんが左手に持っている銃は―――――――アメリカ製SMG(サブマシンガン)の『クリス・ヴェクター』だろう。従来の銃とは全く違う形状が特徴的な銃だ。普通ならば真下か銃口側に傾いたマガジンが装着されているんだが、クリス・ヴェクターはグリップ側に傾いているマガジンを採用している。

 

 使用する弾薬は、アメリカ製ハンドガンの『コルトM1911』と同じく.45ACP弾。弾速がやや遅いという欠点があるものの、ストッピングパワーが他のハンドガン用の弾薬と比べると強烈であるという利点がある。

 

 クリス・ヴェクターはそんな獰猛な弾薬を、かなり反動を抑え込んだ状態で射撃することができるのである。そのため強力な弾丸を高い命中精度で連射することが可能なのだ。

 

 更に汎用性も高いという長所があり、フォアグリップやホロサイトを搭載することで更に命中精度を上げることも可能である。けれども母さんはそれほどカスタマイズしていないらしく、搭載しているのはオープンサイトのドットサイトのみ。折り畳み式の銃床も取り外してコンパクトにしているため、銃撃戦よりも近距離での牽制に使用するために最適化しているのが一目で分かる。

 

 銃で反撃してくる敵兵に向かって強烈な.45ACP弾をばら撒きつつ―――――――氷の上を優雅に滑りながら接近していった母さんが、サラマンダーの角で作られたバスタードソードを薙ぎ払う。

 

 重そうな得物を片手で振るっているというのに、まるで小さなナイフを素早く振るっているかのような素早い剣戟だ。母さんが振るう剣の軌道は”辛うじて”見えるけれど、それを自分の得物で受け止めることになったら、きっと俺はあれよりも軽いナイフを2つも使っているにもかかわらず、対応しきれなくなってしまうだろう。

 

 騎士団に入団するよりも前から、毎朝欠かさず続けていた剣の素振りの成果だ。あの素早い上に重い斬撃の餌食になった転生者の数はかなり多く、転生者の討伐数は未だに俺よりも上だという。

 

 モリガンがまだ田舎の街に設立された無名の傭兵ギルドだった頃から、常に親父の隣で共に戦ってきた凄腕の剣士の実力は、まさに魔王と共に戦う”四天王”という称号を与えられるにふさわしい。最新型のアサルトライフルを持つ敵兵に肉薄して頭から真っ二つに切断し、更に一歩踏み出す母さん。死体を体当たりで吹っ飛ばして後ろにいる敵兵の体勢を崩しつつ、振り下ろしたばかりのバスタードソードで地面を擦りながら、火花が散るほどの速度で強引に振り上げる。

 

 剣を振るった直後の彼女にスコップで殴りかかろうとする敵兵に左手のクリス・ヴェクターを突き付け、顔面を蜂の巣にする。血まみれの肉片が付着したヘルメットが地面に転がり、首から上をズタズタにされた死体が塹壕の中に崩れ落ちる。

 

 母の剣術に見惚れていると、周囲の敵兵をいつの間にか殲滅していた母さんが、こっちを振り向きながら微笑んだ。

 

 俺も負けてられないな…………。

 

 まだまだ、母さんたちには追いつけていないのだから。

 

「行くぞ、イリナ!」

 

「了解(ダー)、援護なら任せて!」

 

「テンプル騎士団の同志諸君へ! モリガンや殲虎公司(ジェンフーコンスー)の先人たちに負けてる場合じゃないぞ! 前進だ!!」

 

 もう既に、敵の最終防衛ラインは崩壊しかけている。至る所に用意された塹壕の中から悲鳴が聞こえてきたかと思うと、数秒後にはその塹壕を陥落させたモリガン・カンパニーの兵士たちがぞろぞろと這い出ていく。そして次の塹壕の中へと雪崩れ込み、敵兵をスコップでぶん殴って黙らせていくのだ。

 

 こちらにも損害は出ているが――――――撤退すれば、敵に体勢を立て直すのを許すことになる。ここは俺たちも前に出るべきだ。

 

 塹壕から出て、俺たちも進撃する。俺やイリナの後方からチャレンジャー2に率いられたエイブラムスの群れが前進してきて、塹壕の向こうで砲撃を続けるレオパルトにAPFSDSを一斉にぶっ放していく。

 

 テンプル騎士団のエイブラムスやチャレンジャー2もさすがに被弾したらしく、今まで何度も敵の攻撃を防ぎ続けていた複合装甲には砲弾が命中した後や焦げた痕が刻み込まれている。中には砲塔の上のターレットから伸びる重機関銃の銃身をへし折られた車両もおり、他の車両に敵の歩兵を掃討してもらいながら前進している。

 

『タクヤ、命令を』

 

 チャレンジャー2の砲塔の上から顔を出しながら、ナタリアが手を振っている。

 

 そうだ、俺がテンプル騎士団の団長だ。あくまでもこの連合軍の指揮を執るのは今頃最前列の部隊で敵を蹂躙しまくっている筈の親父だが、テンプル騎士団の指揮を執るのは俺なのだ。

 

 しっかりしないと。

 

 マドセン軽機関銃のキャリングハンドルを握りながら、素早く今の敵の状態を確認する。航空支援を受けながら前進する連合軍に敵の守備隊は押されているものの、すっかり脅威がなくなったというわけではない。数は減っているけれども敵のレオパルトの部隊は健在で、中には辛うじて部隊の瓦解を防ぎつつ、集中砲火でT-14を撃破している戦車部隊もいる。

 

 俺の指揮下にある戦車は、エイブラムスが6両とチャレンジャー2が1両。そして、シュタージの140mm砲搭載型のレオパルト2A7+が1両。

 

 この中では最も規模が小さいとはいえ、俺たちだって死闘から生還してきた兵士なのだ。

 

 小規模な戦力でも―――――――側面から攻撃すれば、あの戦車部隊を無力化できる筈である。

 

「目標、2時方向の戦車部隊! 側面から奇襲し、味方の進撃を支援する!」

 

『『『了解(ダー)!』』』

 

続け(ザムノイ)ッ!!」

 

 俺たちまで親父たちに続いて突撃するよりも、こうやって援護した方が現実的だ。ああいう突撃は規模のでっかい部隊に任せればいい。逆に、こういう奇襲は小回りの利く小規模な部隊の方がやりやすいのだ。

 

 瞬時にそう判断した俺の頭上から、まるでサイレンのような音を奏でながらA-10が急降下してくる。まるでドイツのシュトゥーカを彷彿とさせる形状に改造された機体の主翼から2発の榴弾が放たれたかと思うと、それが敵の戦車を直撃し、瞬く間にスクラップにしてしまう。

 

 きっとミラさんの機体だ。あんな無茶な改造をした機体を飛ばせるのは、彼女しかいない。

 

 マガジンの中に20発ほどしか弾が残っていないマドセン軽機関銃を構えながら、俺はイリナや他の団員たちと共に敵の戦車部隊に突っ込んで行く。味方の戦車部隊へと砲撃を続けるレオパルトたちは俺たちに気付いていないようだが、その傍らで対戦車榴弾を装着したパンツァーファウスト3を装備している歩兵部隊はこっちに気付いたらしい。ヴリシア語で『おい、敵の奇襲だ!』と味方の戦車に報告しながら、こっちにG36Kを向けて乱射してくる!

 

 地面に伏せて回避しようと思ったが――――――俺はキメラだ。しかも外殻の生成が得意な、オスのキメラである。

 

 咄嗟に胸板を外殻で覆って5.56mm弾を弾きつつ、マガジンの中に残った7.62×54R弾を全部ぶちまける。トリガーを引きっぱなしにしたまま弾丸をばら撒き、銀の弾丸で敵兵を次々に射抜いていく。とはいえ、こいつはあくまでも旧式のLMG。ベルトを使用する現代のLMGと比べると弾数はかなり少ない。

 

 あっという間に弾薬を全て使い切ってしまった。マズルフラッシュが消え失せ、マドセン軽機関銃が沈黙する。片手でメニュー画面を開き、マドセン軽機関銃を装備している武器の中から解除。右手からマドセン軽機関銃が消失したのを確認しつつホルスターから2丁のウィンチェスターM1895を引き抜き――――――ぶっ放した。

 

 こいつが使用する弾丸も7.62×54R弾。しかしソードオフ型に改造したせいで命中精度はかなり低下しているため、接近戦でなければ真価は発揮できない。

 

 けれども接近戦は―――――――俺が真価を発揮できる距離でもある。

 

 すると、味方の戦車にパンツァーファウストを向けていた敵兵が、こっちへとパンツァーファウストを向けてきやがった。対人用の弾頭ではないとはいえ、あれの爆風を喰らえば人体は容易く引き千切られてしまうだろう。俺やイリナならば防いだり再生できるけど、他の兵士たちにとっては脅威になる。

 

 しかし―――――――それが火を噴くよりも先に、はるか後方から飛来した1発の銃弾がその対戦車榴弾へと飛び込み、俺たちに向けてぶっ放されるよりも先にそれを炸裂させた。

 

 膨れ上がった爆風が瞬く間にそれを構えていた兵士を飲み込み、装甲を貫く筈だったメタルジェットが爆風の中で荒れ狂う。爆風と衝撃波が周囲にいた敵兵たちを蹂躙し、敵兵がバラバラになる。

 

 生き残った兵士たちは、きっと弾頭が暴発したのだと勘違いしている事だろう。けれども今のは暴発なんかじゃない。――――――俺たちの後方にいる狙撃手が、ロケットランチャーの弾頭を、スコープを装着していない対物(アンチマテリアル)ライフルで正確に狙撃したのだ。

 

 もちろん、そんなことができる狙撃手は俺のお姉ちゃんしかいない。

 

 テンプル騎士団の部隊が歩兵部隊では手に負えないと理解したのか、レオパルトたちが砲塔をこっちに向ける。けれどもこちらにはもう既に砲撃準備を終えていた戦車がおり、こっちを攻撃しようとしているレオパルトたちに照準を合わせているところだった。

 

 俺たちの戦車部隊の先陣を切るのは―――――――チャレンジャー2と、レオパルト2A7+。搭載された大口径の滑腔砲が、敵のレオパルトへと向けられている。

 

『発射(アゴーニ)!』

 

『発射(フォイア)!』

 

 2両の滑腔砲が火を噴く。発射された砲弾の外殻を置き去りにした2発のAPFSDSがレオパルトの車体へと突き刺さり、火花を散らしながら複合装甲に大きなダメージを与える。

 

 チャレンジャー2に撃たれたレオパルトはまだ行動できるようだったけど、さすがに140mm砲で撃たれたレオパルトはその一撃で擱座したようだった。風穴から煙を噴き上げながらゆっくりと沈黙し、砲塔のハッチや車体のハッチから乗組員が大慌てで逃げ出していく。

 

 姿勢を低くしながら敵に肉薄し、両手のレバーアクションライフルを向ける。トリガーを引いて敵兵に風穴を開け、素早くスピンコック。華奢な手を使ってくるりとソードオフ型のレバーアクションライフルを回転させ、ライフル弾の薬莢を排出しつつ次の弾丸で攻撃する準備を終える。

 

 瓦礫の上に薬莢が落下して奏でる金属音を聴きつつ、右手のウィンチェスターM1895を発砲。そっちをスピンコックしている間に左手のウィンチェスターM1895で発砲し、同じくスピンコックする。

 

 敵も反撃してくるが、敵が銃口をこっちに向ける頃には、もう俺は身体を捻って銃口の先から逃げ出している。躱し切れない時は外殻の硬化を有効活用して弾丸を弾き飛ばし、それ以外の射撃は極力こうやって回避する。

 

 ラウラには視力やスピードで負けるけど、このような反応速度だったら俺の方が上なのだ。その気になれば弾速の速い弾丸も回避できるかもしれない。

 

 突出した俺に、他の兵士たちも追いつく。AK-12に銃剣を取り付けながら突っ込んできた兵士たちも銃撃を開始したり、銃剣やスコップで白兵戦を開始する。

 

「くそ、撃て! 先頭にいるあの女を殺せ!」

 

「俺の事?」

 

 だから、俺は男だって…………。

 

 レバーアクションライフルをぶっ放して敵兵を射殺し、ループ・レバーを引く。こいつの弾数は5発のみ。一般的なハンドガンと比べるとかなり少ない。しかも再装填(リロード)するにはマガジンの交換ではなく、ボルトアクションライフルのようにクリップで再装填(リロード)する必要があるのだ。

 

 片方のライフルをホルダーに突っ込み、右手の得物にクリップに束ねられた弾薬を装填していく。ループ・レバーを元の位置に戻して再装填(リロード)を終え、今度は左手に持っていたレバーアクションライフルも同じように再装填(リロード)。再び5発のライフル弾が発射可能になった得物を構えつつ、敵兵へと肉薄する。

 

 もちろん、再装填(リロード)している最中はひたすら敵の銃撃を回避する羽目になったけどね。

 

「ど、同志………何で攻撃を回避しながら再装填(リロード)できるんだよ…………」

 

「カッコいい…………!」

 

「俺、後で同志に告白してみようかな…………」

 

 えっ?

 

 ちょ、ちょっと待て。俺は男だよ? 告白されても断るよ?

 

 息を吐いてからレバーアクションライフルを敵に向けて発砲。敵兵の顔面にライフル弾をプレゼントし、次の標的を狙う。

 

 親父たちが率いる本隊は、もう既に最終防衛ラインを突破しつつあるようだった。航空支援で戦車部隊は至る所で残骸と化し、歩兵部隊は戦車に蹂躙される。敵が俺たちを迎え撃つために必死に構築していた筈の最終防衛ラインは、俺たちが奇襲を開始してから10分後に壊滅することになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部下から報告を受けた俺は、顔をしかめながらホワイト・クロックの屋上を双眼鏡で確認する。一番最初の空爆や艦砲射撃を喰らうことなく帝都に鎮座し続けている美しい時計塔は21年前のままに見えるが、実はあの時計塔は俺とレリエルの戦いの最中に倒壊してしまっているのだ。俺が見つめているあれは、あくまでも復元された時計塔に過ぎない。

 

 吸血鬼が本拠にしているホワイト・クロックの屋上からは、確かに発行信号が見えた。

 

 最終防衛ラインを打ち破り、後方の味方に敵部隊の残党を残らず撃滅するように命令を下した直後、ホワイト・クロックを見張っていた部下が「屋上の展望台から発行信号が見えます、同志」と報告してきたのである。

 

 あの展望台で、かつて俺は吸血鬼の王と戦った。レリエル・クロフォードとあそこで21年前に戦った時の事を思い出しつつ、俺はその発行信号を解読する。

 

 その信号を解読していくにつれて、俺は今日の日付を忘れていたことに気付いていた。今日は12月24日である。

 

 そういえば、クリスマスだな。

 

 この戦いさえなければ、今頃みんなでクリスマスパーティーでもしていたに違いない。冒険から戻ってきた最愛の子供たちと共にパーティーをしているのを想像しながら、俺は静かに笑う。

 

「リキヤ、信号の内容は?」

 

「――――――休戦だってさ」

 

「休戦だと?」

 

 顔をしかめるエミリアに「ああ、休戦だ」と言いながら、最終防衛ラインが陥落したタイミングでこんな信号を送ってきた敵の本拠地を睨みつける。俺たちとの戦いでかなりの損害を出したから、休戦の間に増援でも呼ぶつもりなのだろうか? それとも、ただ単にクリスマスを祝いたいだけなのか?

 

 まるで第一次世界大戦のようだ。

 

 とりあえず、他の支部に増援を要請しておこう。休戦の間に戦力を増強し、あいつらを確実に潰せるように。

 

「休戦の期間はたった今から12月25日の正午まで。それ以降は戦闘を再開するらしい」

 

「馬鹿馬鹿しい。そんな申し出、却下して――――――」

 

「いや、受諾しよう」

 

「正気か? 今すぐ攻め込むべきだ。敵まで休ませる羽目になるのだぞ?」

 

 時計塔を見上げながらそう言うと、休戦を却下するべきだと考えていたエミリアが目を見開いた。確かに敵の本拠地を包囲し、いつでもそのまま最後の攻撃を開始できる状況で敵と一緒に休戦するのは愚の骨頂かもしれない。

 

 しかし、敵の兵力はかなり数が減っている。それに対してこちらの戦力は、損害を出したとはいえ未だに敵の20倍以上。橋頭保も確保しているため、しばらくは物資に困ることもない。

 

「そろそろ同志たちを休ませなければな。その間にしっかりと補給して、明日の午後に敵を滅ぼしてやればいい。吸血鬼共に最後の晩餐を楽しむ時間を与えてもいいだろう?」

 

 それに、明日の正午までにはフィオナが開発した”新兵器”もオルトバルカからヴリシアに届く筈だ。そいつを投入すれば、容易くチェックメイトできるだろう。

 

 発行信号が見える塔を見上げながら、俺はニヤリと笑った。

 

 あそこに、今は吸血鬼の女王がいる。かつてはレリエル・クロフォードの眷属だった少女が、奴の後継者を名乗って吸血鬼たちを統率しているのだ。

 

 明日の午後、決着をつけよう。

 

「――――――さあ、クリスマス休戦だ」

 

 

 

 

 

 

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