異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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休戦 前編

 

 その知らせを聞いた瞬間、きっと俺はポカンとしながら仲間たちからの報告を耳にしていた事だろう。

 

 最終防衛ラインを無事に突破し、これからついに吸血鬼たちの本拠地に殴り込む直前だった。ポーチの中にあるマガジンの数を確認し、その中に納まっているAK-12用の7.62mm弾がちゃんと装填されていることも確認しつつ、他の得物も点検して準備していたその時に―――――――クリスマス休戦の知らせを聞いたのである。

 

 こんなに強烈な肩透かしは経験したことがない。数分後には始まっていた筈の宮殿とホワイト・クロックへの総攻撃が、明日の正午まで延期になってしまったのだ。俺だけではなく、この作戦に参加したすべての兵士たちが同じことを考えているのは想像に難くないだろう。

 

 近くに停車し、砲塔の上のハッチにKord重機関銃の弾薬がたっぷりと入った箱からベルトを引っ張り出して、ハッチの近くに備え付けられている機関銃にそれを装填していたテンプル騎士団の兵士が、機関銃のカバーを開けた状態で両手を止めながらポカンとしている。やっと少しずつ総攻撃が延期になったという事を理解しつつあった俺と目を合わせたそいつは、表情を全く変えずに報告してきた兵士の方へと視線を戻すと、ぱたん、とカバーを元の位置に戻してため息をついた。

 

「マジかよ」

 

「ああ、同志。本当だよ。同志リキノフはこの”クリスマス休戦”を受諾した」

 

 クリスマス休戦か…………。確かに、今日は12月24日。この世界中のあらゆる家庭ではクリスマスパーティーが始まっている時間だろう。テーブルの上にいつもよりも豪華な料理が並び、それを見て目を輝かせる子供たち。大好物ばかりが目の前に並んで大喜びする子供を微笑みながら見守る両親。子供たちはパーティーを楽しんでから、サンタクロースにプレゼントをもらう事を楽しみにしながら眠るのだ。

 

 そして次の日の朝に――――――また大喜びする。ベッドの傍らに置かれたプレゼントの箱を目の当たりにして。

 

 俺たちも、昔まではそうだった。少なくとも俺の正体を親父に見破られる前までは、幼い子供に戻ったことで戸惑っていたけれど、俺もそれなりにクリスマスパーティーを楽しんでいた。

 

 中身が転生者だと分かっても、あの親父は俺を自分の息子として扱ってくれた。その次の年のクリスマスの夜に、サンタクロースの格好をしながら家の中に堂々と入ってきた親父を見てラウラと一緒に大笑いした時の事を思い出しながら、雪が降る空を見上げる。

 

 確かあの時、トナカイの役をしていたのはガルちゃんだったな。赤毛の中から微かに伸びていた角を勝手にトナカイの角みたいに飾り付けられて、『最古の竜にこんなことをするとは無礼な奴らじゃな!』って怒っていたのはちゃんと覚えている。

 

「とにかく、攻撃は明日の正午以降まで延期です。それまで敵勢力への攻撃は一切禁止されますので、兵士たちへの通達をお願いします、同志タクヤチョフ」

 

「了解、しっかりと通達しておきます」

 

 この件は、ちゃんと仲間たちに話しておく必要がある。テンプル騎士団の大半を占めるのはかつて奴隷にされ、酷い扱いを受けてきた人々ばかり。彼らはテンプル騎士団に保護されてからはちゃんとした生活が遅れて安堵してくれているようだけど、兵士の1人として戦う事を選択した志願兵はその際の復讐心のせいなのか、親父に匹敵するんじゃないかと思えるほど容赦がない奴が多い。

 

 さらにムジャヒディンのメンバーたちも、リーダーが穏健派の吸血鬼の筆頭であるウラルとはいえ、あくまでもそれは吸血鬼の1人として他の種族と共存することを選んだから”穏健派”と呼ばれているだけだ。自分たちを脅かす敵と戦う時は、むしろムジャヒディンたちは”武闘派”と言える。

 

 目を離したら命令を無視して敵に攻撃をぶちかましそうな兵士ばかりなのだ。そうならないようにしっかりとこれを通達し、尚且つ監視しておく必要がある。下手したら命令違反で俺まで親父に粛清されちまいそうだからな。

 

 敬礼してから踵を返して去っていくモリガン・カンパニーの兵士を見送りつつ、俺はレバーアクションライフルに装填しようと思って傍らに置いておいたクリップを再びポーチの中へと突っ込んだ。とりあえず、少なくとも明日の正午まではこいつの出番はなさそうだな。

 

「あー…………強烈な肩透かしね、これ」

 

「まったくですわ」

 

 ため息をつきながら言ったのは、キューポラの上で双眼鏡を覗き込んでいたナタリアと、砲塔の中でチャレンジャー2に残っている砲弾の数を確認していたカノンだろう。カノンも隣のハッチから顔を出し、こっちを見下ろしながら肩をすくめる。

 

 苦笑いしながら頭をかき、ちらりと仲間たちを見渡す。中には早くもクリスマス休戦の噂を聞いたのか、一緒に迫撃砲を運んでいた兵士が説明をしてほしいと言わんばかりにこっちを見つめているのが見える。

 

「あー、同志諸君。テンプル騎士団団長のタクヤだ」

 

 無線機に向かってそう言うと、準備を続けていた兵士たちが一斉にぴたりと手を止めた。

 

「今から、君たちに強烈な肩透かしをぶちかますことになる。信じられないかもしれないが―――――――敵への攻撃は明日の正午まで禁止。休戦だ。先ほど吸血鬼共から休戦の打診があったらしく、我らが総大将はそれを受諾することとなった。なので各員は明日の攻撃の準備を済ませ、各自で休憩をとるように」

 

『同志、それじゃあクリスマスパーティーでもしますか?』

 

「それも悪くない。みんな、今夜の夕飯とサンタさんが楽しみだな」

 

 少しばかり笑いながらそう言うと、無線機からは仲間たちの笑い声が聞こえてきた。てっきり休戦を拒否して攻撃を続行するべきだと反論する味方がいると思っていたので、そういう仲間を諭す準備もしていたんだけど、思ったよりもこのクリスマス休戦を受け入れるメンバーは多いらしい。

 

 安心しながら無線機のスイッチを切り、メニュー画面を出現させる。装備する得物をナイフ1本とレバーアクションライフル1丁だけにして身軽になってから、傍らに停車しているチャレンジャー2に寄り掛かった。

 

「ふにゅう♪」

 

「おう、ラウラ。援護ありがと」

 

「えへへっ、タクヤのためだもんっ♪」

 

 いつものようにしがみついてきたお姉ちゃんからは、ライフルを構えている時のようなどう猛さは全く感じられない。本当に二重人格なんじゃないかと思ってしまうほど雰囲気が違う彼女の頭を撫でると、まるで飼い主に甘える猫のようにうっとりしながら、キメラの特徴でもある尻尾を横に振り始める。

 

 小さい時からずっとラウラと一緒にいるから、彼女の仕草が何を意味するのかはすぐに分かる。こうやって尻尾を横に振っている時は満足しているというサインなのだ。頭を撫でたり抱きしめると、こうやって尻尾を横に振り始めるのである。逆に満足していない時や不機嫌な時は、「こっちを見て」と言わんばかりに、びたん、と尻尾を縦に振るのだ。

 

 ちなみにこの仕草は無意識にやっているらしい。

 

 やがて左右に揺れていた彼女の柔らかい尻尾が、俺の腹の辺りに絡みつき始める。抱き着きながらこうやって尻尾を絡みつかせて俺を逃がさないようにするのは珍しい事じゃないけど、こうやって尻尾を使い始めたという事は、キスをしたがっているということだ。

 

 甘えてくる彼女はとっても可愛いんだけど、せめてキスをするのは2人きりの時にしてほしいものだ。周りに人がいるというのに堂々とキスをしたがるのは彼女の悪い癖なんだよね。

 

 ちょっと抵抗しようと思ったんだけど、思ったよりもラウラが俺に巻き付けている尻尾の力が強い。

 

「…………ふにゅ?」

 

「ん?」

 

 キスをするために顔を近づけていたラウラが、じっと俺の後ろを見つめ始めた。またナタリアに説教されるのを覚悟していた俺は、彼女の柔らかい唇に自分の唇が奪われなかったことに安心と物足りなさを同時に感じながら、尻尾に絡みつかれた状態のままくるりと後ろを振り返る。

 

 彼女が注目していたのは、数名の兵士たちに銃口を向けられながら両手を上げて進んでいく、見覚えのある制服姿の兵士たちだった。先ほどまで俺たちの進軍を阻止するためにここで立ちはだかり、必死に奮戦していたヴリシア側の兵士たちである。

 

 どうやら降伏した敵兵を移送している真っ最中らしい。武器を取り上げられたボロボロの捕虜たちは、俺たちを迎え撃つために最前線にいた兵士とは思えないほど弱々しい瞳で、足元に降り積もった雪を見下ろしながら黙って歩いていた。

 

 捕虜か…………。もしテンプル騎士団ではなくモリガン・カンパニーか殲虎公司(ジェンフーコンスー)に降伏していたら、痛々しい拷問で知っている情報を全て絞り取られた挙句”処分”されてしまうという。実際に14年前のファルリュー島攻防戦では、敗北した勇者側の兵士たちは、記録では”降伏することがなかった”という事にされているが―――――――正確に言うと、”降伏しても受け入れられず、その場で射殺された”のだという。そう、捕虜は1人もいないため、敵の守備隊がそのまま戦死者となったのだ。

 

 前世の世界では考えられないことだ。けれどもここは前世のような条約が存在しない異世界である。捕虜をどうするかはその勢力の権力者たちの命令次第で、しっかりと受け入れてもらえる場合もあれば、拒否されて射殺されることもある。

 

 親父はかなり容赦がない。彼から見れば俺たちのやり方は甘いかもしれないけれど、あくまでも俺が親父たちから受け継いだ力を振るうのはクソ野郎共だけだ。

 

 歩いていく捕虜たちの一番後ろを歩いていた1人のポケットの中から、一枚の写真が零れ落ちる。それを落としてしまった兵士は気付いていないらしく、相変わらず両手を上げたまま淡々と歩いていくだけだ。

 

「ラウラ、ちょっと放してくれる?」

 

「うん、いいよ」

 

 尻尾から解放してもらった俺は、雪の上に落ちてしまったその写真を拾い上げる。この世界では一般的な存在になりつつある白黒の写真で、これを落とした兵士と思われる男性とお腹の大きな女性が、椅子に腰を下ろした状態で一緒に写っている。

 

 なるほど、もう少しで子供が生まれるのか…………。

 

 ちゃんと持ち主に返さないと。

 

 幼少の頃に叩き込まれたヴリシア語の単語を瞬時に思い出し、それがちゃんと彼らに通じるか頭の中で確認してから、俺は歩いていく捕虜を呼び止めた。

 

『おい、ちょっと待ってくれ』

 

『?』

 

 前世の世界のドイツ語に語感が似ているヴリシア語を聞いた兵士がこちらを振り向く。どうやら俺が手に持っている写真が誰の物か気付いたらしく、銃を向けられているにもかかわらず大慌てでポケットの中に手を突っ込み始める。制服のポケットの中に大切な写真が入っていないことに気付いたその兵士は、脇目も振らずにこっちへと駆け寄ってくると、俺が差し出した写真を受け取ってから涙を浮かべ、写真に写っている女性を見つめ始める。

 

『家族か?』

 

『ああ…………妻だよ』

 

『奥さんか…………綺麗な人じゃないか』

 

『ははっ、ありがとう。…………フランセンにいるんだ。もう少しで子供が生まれるから、そのために金が必要になっちまって…………』

 

 ヴリシアに出稼ぎに来て、そこで吸血鬼たちの計画に加担してしまったというわけか。

 

 きっと彼は、後悔したに違いない。自分たちのクライアントがよりにもよって吸血鬼で、多額の金を貰える可能性がある代わりに彼らの世界征服の片棒を担ぐ羽目になったのだから。

 

『もう奴らに手を貸すなよ』

 

『ああ、ありがとう。オルトバルカ人にもいい奴っているんだな』

 

『それはどうも』

 

 写真を今度こそポケットの中にしっかりとしまい、待ってくれていた仲間たちと共に再び歩いていく捕虜。彼らを見つめていた俺は、懐から非常食用の缶詰を取り出すと、もう一度彼に声をかけてからその缶詰を放り投げていた。

 

 後ろから飛んできた缶詰をキャッチした捕虜が、びっくりしながらこっちを見つめている。一緒に歩いていた彼の仲間たちも、不安そうに俺の事を見つめているようだった。

 

 今日は12月24日だからな。

 

 ニヤリと笑いながら、もう一度ヴリシア語で言った。

 

『今日はクリスマスだぜ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「同志、パス!」

 

『フリッツ、あいつを止めろ!』

 

『分かってるって! …………うわ、ダメだ! 速い!』

 

 先ほどまで数多の兵士が雪崩れ込んでいた塹壕だらけの大地からは、戦場とは思えないような楽しそうな声が聞こえてくる。聞こえてくる言語はこの世界の公用語となっているオルトバルカ語と、ヴリシア人たちの母語であるヴリシア語。しかも聞こえてくるのは明らかに戦闘中によく聞く単語ではなく―――――――サッカーの試合でよく耳にするような単語ばかりだ。

 

 傍らに置いた水筒の中にある暖かいブラックコーヒーを一口だけ飲みながら、俺は戦車の上からそれを”観戦”していた。

 

 塹壕だらけの大地の上で、数時間前までは銃撃戦を繰り広げていた兵士たちが―――――――楽しそうにサッカーをしているのである。真っ黒な制服を身につけたテンプル騎士団の兵士たちが、誰かが暇つぶしのために勝手に持ち込んでいたサッカーボールをドリブルしつつゴールへと肉薄していき、ヴリシア人の兵士たちがドイツ語に語感が似ている言葉で仲間たちに指示を出して守りを固める。

 

 そしてシュートがゴールを外れ、一番若い兵士が塹壕の方へと転がっていくボールを追いかけていった。塹壕の中から泥まみれのボールを引っ張り出したその兵士は、笑顔で仲間たちへとボールを投げ返した。

 

 まるで第一次世界大戦だな。普通なら絶対に見れない光景だよ。

 

 ちなみにテンプル騎士団側のゴールは近くに停車しているエイブラムスで、ヴリシア側のゴールは近くで擱座しているレオパルト2A6だ。車体にボールが当たれば得点が手に入るというルールらしいが、ゴールが大きすぎるんじゃないだろうか? ゴールキーパーは大変だな。

 

「同志タクヤ、パス!」

 

「ありがと!」

 

「タクヤ、頑張れー!」

 

「お兄様、シュートはまだ早いですわよー!」

 

 俺たちのレオパルトの脇では、ラウラやカノンたちがサッカーを観戦しつつ応援している。自分の弟が活躍しているのを見て興奮しているのか、ラウラは容姿が大人びているにも関わらず幼い子供の用に大はしゃぎしている。

 

 ジャンプする度にさ、でかい胸が揺れてるんだよね…………。

 

「あら、ケーター? 何を見てるの?」

 

「あ? 別に―――――――」

 

 すぐ後ろからクランの声が聞こえてきたからなのか、俺はどきりとしつつそう言い返す。はっきりと「滅茶苦茶揺れてるラウラのおっぱいをちらりと見ていた」って言うわけにはいかないからな。

 

 とは言っても、クランは気付いているかもしれない。後ろを振り返ればニヤニヤと笑うクランがちょっかいをかけてくるんだろうなと思いつつ後ろを振り返った俺は―――――――戦車の中からいつの間にか姿を現していた彼女の姿を見て、度肝を抜かれる羽目になる。

 

 サッカーの試合が始まった頃にレオパルトの車体の中へと引っ込んでいったクランの服装は、その時はまだいつもの真っ黒な制服だった。ボタンもしっかりと閉めて制服を着こなす彼女はいつものように大人びていて、指揮官としての威厳も持ち合わせている女傑のようだったんだけど、再び姿を現した彼女は先ほどまでとは全く違う。いたずらが大好きで陽気な、普段のクランだ。

 

 けれども服装がいつも通りじゃない。

 

 なんと―――――――どこで用意したのか、真っ赤なサンタクロースの服に身を包んでいたのである。少し小さめの真っ赤な帽子と胸元が開いた真っ赤な服に身を包んでおり、ズボンではなくミニスカートと黒ニーソを履いている。

 

 寒くないのかと問いかけて話題を逸らそうと思ったけど、無理だった。いたずらが大好きな彼女がサンタクロースの服を用意しているとは思わなかったし、その服が予想以上に似合っているのだ。

 

 数時間前まで車長の席に鎮座し、敵の砲撃にも動じずに指示を出し続けていた女傑がこんな服装をしてくれたことにびっくりしながら、俺は微笑みながら顔を赤くしているクランを見つめてしまう。

 

 そういえば、大学にいた時もこういう格好で部屋にいたことがある。あの時は確かメイド服だったな…………。

 

「ねえ、どう? 私に釘付けになっちゃった?」

 

「クランが可愛すぎてお前しか見えなくなっちゃった」

 

「ふふふっ、Danke(ありがとっ)♪」

 

 彼女を見上げながら顔を赤くしていた俺に抱き着いてくるクラン。そのまま俺の隣に座った彼女に、彼女の分の暖かいコーヒーが入った水筒をそっと手渡す。

 

 そして彼女と一緒に、塹壕に囲まれた大地で繰り広げられるテンプル騎士団とヴリシアの兵士たちのサッカーの試合を観戦するのだった。

 

 

 

 

 

 

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