異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
敵の本拠地は、帝都サン・クヴァントの象徴とされているホワイト・クロックと、オルトバルカ大使館が避難勧告を発する前までは皇帝がいた筈のサン・クヴァント宮殿の二ヵ所である。
距離は近いとはいえ、敵の拠点を1つずつ陥落させれば時間がかかってしまう。戦闘の泥沼化を避け、可能な限り短期間で決着をつけることを想定している連合軍にとって、片方に全ての戦力を投入して攻め落とすよりも両方の拠点を同時に襲撃する方が好ましいのだ。
それに、1つの拠点を陥落させるために全ての兵力を投入すれば数多の兵士や戦車が密集することになり、逆に動きにくくなってしまう。そちらの方がむしろ身動きが取れないうちに敵に反撃されて大損害を被る可能性があるため、参謀であるシンヤ叔父さんは部隊を2つに分けたのだ。
片方は、親父が率いる第一軍。そしてもう片方は、俺が率いる第二軍である。
先ほどの理不尽な爆撃を生き延びた吸血鬼たちが、辛うじて爆風で吹き飛ばされなかった塹壕へと潜り込んで機関銃をこちらへと向けてくる。爆風の熱で溶けた雪と地面が混ざり合った泥で汚れたMG3の銃口がこちらへと向けられた直後、バレルジャケットに覆われた銃身の先端にある銃口をマズルフラッシュの輝きが飾り立てる。凄まじい速さでベルトが機関銃の中へと引きずり込まれていき、空になった薬莢が地面へと落下して鉄琴の音色にも似た金属音を奏でる。
歩兵部隊の先頭を進んでいた俺は、咄嗟に胸板を外殻で覆った。きっと今頃俺の服の内側では肌色の皮膚が姿を消し、まるでドラゴンの外殻をそのまま人体に張り付けたかのような胸板と化しているに違いない。
一般的なドラゴンの外殻を打ち破るには、最低でも6.5mm弾か6.8mm弾が必要と言われている。M16やM4で採用されている5.56mm弾は扱いやすい弾丸であるものの、貫通力や殺傷力は低いため、堅牢な外殻を持つ魔物には効果が薄いのだ。そのためこちらの世界では、むしろ少しでも口径の大きな弾丸が重宝する。
7.62mm弾ならばドラゴンの外殻を当たり前のように貫通できるが―――――――俺の遺伝子に含まれているサラマンダーの外殻は極めて堅牢だ。更に炎を纏うドラゴンであるため、弾丸が外殻に着弾する前に高熱で融解してしまうという。
そのサラマンダーの外殻を受け継いだ俺には、少なくとも外殻を使って降下している間だけは7.62mmは通用しない。
敵の塹壕に設置されたMG3から放たれる7.62mm弾は立て続けに俺の胸板に着弾したけど、まるで分厚い装甲に銃弾が弾かれているような音を何度も奏でながら砕けていく。立て続けに被弾しているというのに倒れない俺を見て危機感を感じたのか、他の機関銃の射手たちも銃口をこっちへと向けてきた。
フィオナちゃんの検査では、この外殻ならば12.7mm弾どころか20mm弾や30mm弾も弾くことができるという。さすがに戦車を撃破するための対戦車ミサイルや戦車砲の砲弾は無理だと思うが、この防御力は本当にありがたい。
本当に身体が撃ち抜かれているんじゃないかという猛烈な衝撃に耐えながら前進しつつ、距離を詰める。他の兵士たちは被弾していないだろうかと思いつつ周囲を見てみると、他の兵士は瓦礫の山を盾にしたり、戦車の後方に隠れて銃弾から身を守っているようだった。中には魔術が得意なのか、土属性の魔術で足元の瓦礫をつなぎ合わせて防壁を作り、それで自分や味方を守っている兵士も見受けられる。
魔術か…………。俺も久しぶりにやってみるかな。
俺やラウラはもう既に属性に変換済みの魔力を体内に持っているため、少なくともその属性の魔術を使う時は詠唱を必要としない。それ以外の魔術も使うことはできるけれど、一度自分の体内の魔力をまた別の属性に変換し直す必要があるため、詠唱が長くなってしまうのだ。
それに俺の魔術は―――――――変なのである。
幼少の頃からこの世界に存在する魔物や魔術に興味を持っていたので、家にあった教本や図鑑をひたすら読んでいたおかげで、成長してから改めて母さんやエリスさんから魔術を教えてもらうよりも先に知識は身につけていた。とはいえ興味を持ったきっかけは、魔物や魔術が存在しない前世の世界で生まれたからなんだけどね。
というわけで小さい頃に何度か練習したんだが―――――――教本通りの魔術を使う事が出来たのは数回だけだった。
教本に乗っている魔術を使うことができずに落胆した幼少の頃を思い出しつつ、突っ走りながら左手を前に突き出す。無意識のうちに左手の手首から先が外殻で覆われていき、鋭い爪の生えたドラゴンの手へと変貌していく。
堅牢な外殻に覆われた手のひらに蒼い炎の球体が生成されたかと思うと、その球体は微かに振動しながら火の粉をまき散らし始めた。
今から使うのは、魔術の習得が容易いと言われている炎属性の魔術の中でも特に簡単な魔術と言われている、ファイアーボールである。ほとんどの魔術師が習得する簡単な魔術の1つで、初心者でもゴブリンを吹き飛ばしてしまうほどの威力がある炎の球体を飛ばすことができると言われている。熟練の魔術師はちょっとした戦車砲並みの破壊力になるらしい。
普通ならば赤い炎の球体が生成される筈なんだが、俺の炎はどういうわけか全部蒼い。
「――――――ファイアーボール!」
生成したファイアーボールを更に加圧して解き放ったが―――――――やっぱり、俺の魔術は変だった。
普通ならば、火の粉をまき散らしながら赤い炎の球体が敵に向かって飛来していく筈だ。そして着弾した瞬間に弾け飛び、喰らう羽目になった運の悪い標的を火達磨にしてしまうのである。でも俺のファイアーボールは、球体ですらなかった。
はっきり言うと、ただの蒼いレーザーである。
加圧を繰り返された蒼い炎の塊は勢いよく放たれ過ぎたせいなのか、球体の状態ではなく、ただの蒼い閃光にしか見えないほどの速さで敵に向かって飛んで行った。まるで小さな流星が誕生したかのように輝きながら飛翔していった俺のファイアーボールは正確にLMGの射手に着弾すると、まるで榴弾のように炸裂し、瞬く間に射手の身体を包み込んだ。
LMGから手を離し、火達磨になった射手が泥の上を転げ回る。絶叫しながら足元の泥で身体の火を消そうとするが、高圧の魔力で生成された俺の炎はそう簡単に消える様子はない。
とはいえ、敵兵は吸血鬼のみ。この炎は弱点ではないため、吸血鬼の身体をいくら焼いても彼らは再生するだろう。
けれどもその射手がLMGから手を離したおかげで、一時的に弾幕が薄くなる。
「タクヤ、何それ!?」
「ファイアーボールだよ!」
「なんか変だよ!?」
今の変なファイアーボールを目の当たりにしたイリナが走りながら叫ぶ。
仕方ないだろ? どういうわけか小さい頃からこんなファイアーボールしか使えないんだよ…………。ちなみに、本気でぶっ放すとロケットランチャーの対人榴弾並みの爆発を起こすらしい。
いくつか教本通りに扱える魔術もあるけれど、どういうわけなのか俺の使える魔術のほとんどはこんな変な魔術ばかりなのだ。でも普通の魔術よりもかなり強力だし、改善する必要はないよね。
ファイアーボールを放ち終えた俺の頭の近くを、おそらく12.7mm弾と思われる数発の銃弾が掠めていく。素早く弾丸の飛んできた方を確認しつつ姿勢を低くすると、泥まみれの土嚢袋の向こうにブローニングM2重機関銃が鎮座して、銃口をこちらへと向けているところだった。
外殻で覆っていない状態で被弾したとしても、俺は転生者だからステータスのおかげで何とか持ちこたえられるだろう。けれども、土壇場で俺の一番低いステータスでもある防御を頼りにするのは愚の骨頂だ。それよりも最高のステータスであるスピードを頼りにするべきである。
AK-12のセレクターレバーをセミオートからフルオートに変更し、その射手へと向けてぶっ放す。とはいえドットサイトを覗き込まずに適当にばら撒いたため、命中することはないだろう。とりあえず銃撃で威嚇して重機関銃の連射を一時的に止められればいい。
ちらりと見てみると、やはり重機関銃の射手は咄嗟に頭を下げて今の銃撃を回避したようだった。命中はしなかったけど、ブローニングM2重機関銃の連射はぴたりと止まっている。おかげで仲間があれでミンチにされることはなくなったけど、再び弾幕を張るのは時間の問題だった。
いっそのこと手榴弾でも放り込んでやろうかと思ったその時、何の前触れもなくその射手の首から上が消し飛んだ。ぐらりと揺れた身体が塹壕の中へと崩れ落ちていき、鮮血の混じった泥を生み出していく。
何が起きたのか、俺はすぐに理解した。
歩兵部隊の後方にある瓦礫の山の上に、赤毛の少女がいた。真っ黒な制服に身を包んだ彼女は姿勢を低くして、利き手である左手でしっかりとアンチマテリアルライフルのグリップを握りながら、古めかしいタンジェントサイトを覗き込んでいる。
右手でボルトハンドルを引いた彼女は、次の標的に狙いを定めた。武骨なT字型のマズルブレーキが搭載されたでっかいライフルが敵兵へと向けられた直後、一瞬だけマズルフラッシュが煌き―――――――今度は弾薬を運んでいた吸血鬼の腹に、大人の腕が5本くらいは通過できそうなほど大きな風穴が開いた。
「ラウラ…………!」
「ほら、ラウラがついてる! 行くぞ! 進め進め!!」
重機関銃の凄まじいフルオート射撃を警戒して姿勢を低くしていたイリナの肩を叩きながら叫び、再び駆け出す。
狙撃しているのは、どうやらラウラだけではないらしい。よく見てみると後方にボルトアクション式のスナイパーライフルを装備し、テンプル騎士団の黒い制服の上にマントを纏った狙撃兵たちが片っ端からトリガーを引き、素早くボルトハンドルを引いているのである。
ラウラの教え子たちだった。
テンプル騎士団で採用しているスナイパーライフルは、ロシア製ボルトアクション式スナイパーライフルのSV-98。使用する弾薬は命中精度を考慮し、.338ラプアマグナム弾に変更してある。基本的にスコープとバイポットを装備しているけれど、中には俺と同じく折り畳み式のパームレストを装備したり、銃床の部分に折り畳み式のモノポッドを装備している奴もいる。
彼らは流石にラウラと比べると狙撃を外すこともあるけれど、頼もしい狙撃手たちである。
俺が仕留めようと思っていた吸血鬼の兵士の頭に風穴が開き、ズタズタになった脳の破片と肉片が後ろに吹っ飛んでいく。ラウラの使っている20mm弾だったら頭は吹っ飛んでいてもおかしくはないので、今のは彼女の教え子たちの狙撃だろう。
正確に敵兵の頭を撃ち抜いた教え子たちの技術に驚愕しつつ、獲物を横取りされた悔しさも感じながら、銃口の右側に折り畳んであるスパイク型銃剣を展開した。そろそろテンプル騎士団が最も得意とする白兵戦が始まってもおかしくない頃である。
泥だらけの地面を踏みつけ、瓦礫の上を駆け抜ける。機関銃の銃弾だけでなく、迫撃砲の砲弾の爆風も外殻で防ぎながらフルオート射撃をぶちかます。
とはいえ、やはりドットサイトを覗き込みながらの射撃ではないため当たらない。けれども敵が物陰に隠れて銃撃を中断させた隙に―――――――1発の40mmグレネード弾が、敵の塹壕の中へと飛び込んだ。戦車や装甲車を撃破するための
「さすがイリナ!」
どうやら俺が射撃している間に自分のスコップを引き抜き、内蔵していた迫撃砲で砲撃したらしい。
イリナが装備している近距離武器のスコップは、迫撃砲を内蔵した特別な代物である。先端部を取り外して後端に取り付け、砲口についている蓋を外すことで40mmグレネード弾を発射できる小型の迫撃砲として機能するのだ。
余談だけど、ソ連軍では37mm弾を発射可能な迫撃砲を内蔵したスコップを開発しており、実戦に投入していたという。
「ああ、爆発って最高…………」
舞い上がる泥と火柱を見つめながら1人でうっとりしているイリナ。すぐ傍らに機関銃の銃弾が命中して我に返った彼女は、すぐに今の銃撃をぶっ放してきた敵を発見すると、まるでホルスターからリボルバーを引き抜くガンマンのような速度で腰のホルダーから40mm対人榴弾を引き抜き、片手で照準を合わせてあら、それを砲口の中へとぶち込んだ。
彼女が耳を塞ぎながら迫撃砲から距離をとった直後、迫撃砲の砲口から対人榴弾が凄まじい気負いで飛び出し、雪が降る大空へと舞い上がっていく。やがてその砲弾は空中で緩やかに角度を変えると、そのまま落下を始め―――――――先ほど彼女を狙ったLMGの射手の頭に、正確に落下した。
対人榴弾に直撃してヘルメットを粉砕された敵兵は、そのまま対人榴弾に木っ端微塵にされる羽目になった。ヘルメットを叩き割り、頭蓋骨と脳味噌を叩き潰された敵兵の頭が爆発で膨れ上がった直後に弾け飛び、そのまま焦げた肉片を含んだ爆風が周囲の味方を飲み込む。
彼女には迫撃砲で支援してもらおう。
敵の塹壕へと飛び込んだ俺は、すぐ右隣でMG3を連射していた敵兵の喉元に銀製のスパイク型銃剣を突き立てることにした。敵は慌ててハンドガンを引き抜こうとしていたみたいだが、銃剣を持った敵兵が至近距離にいるのだから間に合うわけがない。
敵兵がこっちにハンドガンを向けるよりも先に、俺は銀の銃剣を喉元へとぶち込んでいた。
「ぎっ―――――――」
喉元に鋭いスパイク型銃剣を突き立てられた敵兵が呻き声を上げながら銃剣を引き抜こうとする。けれども銀製の銃剣を喉元に突き立てられた時点で、そいつはもう助からない。普通の銃剣ならば引き抜いて反撃できるけど、吸血鬼にとって銀は弱点のうちの1つ。銀で傷をつけられれば、もう再生できない。
左手をアサルトライフルから離し、そのままレバーアクションライフルのホルダーへと伸ばす。ソードオフ型に改造したウィンチェスターM1895をホルダーから引き抜いて吸血鬼の心臓へと突き付けると、口から血を吐きながらまだ足掻いていた吸血鬼が顔を青くした。
装填されているのは銀製の7.62×54R弾。心臓に叩き込まれれば、もう終わりだ。
チェック・メイトだよ、吸血鬼(ヴァンパイア)。
容赦なくトリガーを引いた瞬間、1発のライフル弾が吸血鬼の心臓をあっさりと貫いた。大口径の弾丸に心臓をズタズタにされた吸血鬼は銃剣を掴んでいた手から力を抜くと、身体を痙攣させながら崩れ落ちていく。
レバーアクションライフルをホルダーに戻しつつ、左手をグレネードランチャーのトリガーへと近づけつつ、後方にいる吸血鬼に7.62mm弾のフルオート射撃を叩き込む。エジェクション・ポートから勢いよく薬莢が吐き出されていく度に銃弾が吸血鬼の身体をズタズタにし、引き千切ってしまう。
対人戦では小口径の銃弾の方が好ましいが、魔物との戦いでは7.62mm弾が役に立つ。親父からはそう教わっていたけれど、個人的にはどちらも7.62mm弾で対応できそうな感じがするな。
塹壕から這い上がり、その奥にある神殿へと向かう。豪華な装飾のついたでっかい門は瓦礫の破片と泥を浴びて滅茶苦茶になっており、ヴリシア帝国の皇帝が住んでいる場所とは思えないほど荒廃している。帝都の復興の費用はモリガン・カンパニーが全額負担すると言っていたが、本当にモリガン・カンパニーだけで復興できるのだろうか。貴族の屋敷や高級ホテルがいくつも倒壊しているし、復興に必要な資金は想像できない額になるだろう。
どうやら他の部隊も無事に塹壕を突破したらしく、続々と宮殿に接近しつつあった。殲虎公司(ジェンフーコンスー)から派遣された99式戦車から放たれた銀のキャニスター弾が歩兵をまとめて吹き飛ばし、戦車の後方から飛び出した歩兵たちの95式自動歩槍の一斉射撃で吸血鬼たちが倒れていく。彼らが最も重視しているのは連携らしく、テンプル騎士団やモリガン・カンパニーよりもしっかりと連携が取れている。
『はっはっはぁっ! 同志、一番乗りは我々がもらいますよ!』
「おい、ずるいぞ! ――――――くそ、遅れるな!」
突出している殲虎公司(ジェンフーコンスー)の99式戦車の車長にそう言われた俺は、苦笑いしながら全力疾走を始めた。ちらりと後ろを確認するが、味方の戦車部隊は塹壕を超える途中らしい。
そういえば、イリナはどこだ?
後方で迫撃砲による支援を続けていた筈のイリナを探していると―――――――フラグ12が装填されたサイガ12Kを乱射し、吸血鬼たちを吹き飛ばしまくっているイリナの姿が爆炎の向こうにちらりと見えた。
彼女はこちらを見てからニヤリと微笑み―――――――左手でスコップを引き抜くと、ぐるりと激しく一回転しつつ、銃剣を構えて突っ込んできた吸血鬼たちをまとめてぶん殴って昏倒させる。そしてその吸血鬼の兵士の身体を踏みつけて大きく跳躍すると、擱座していたM2ブラッドレーの砲塔に着地してからまた跳躍し、俺の隣へと戻ってきた。
凄いジャンプ力だな…………。やっぱり、吸血鬼の身体能力は転生者に匹敵するらしい。
「スコップも悪くないよね。これで敵を殴るの大好き♪」
「た、頼もしいな…………」
なんでテンプル騎士団には鈍器が好きな奴が多いんだろうか。剣や槍ならばまだこの世界に普及している武器だから理解できるけど、鉄パイプとかパイプレンチは明らかに武器ではない。どちらかと言うと建物の材料や工具である。
銀の釘を打ち込んだ釘バットを手にしたテンプル騎士団の兵士が、吸血鬼の頭をそれでヘルメットごと叩き割っているのを見た俺は、苦笑いしながら宮殿の方を見た。
すっかり荒廃した宮殿の正門の向こうでは、土嚢袋を積み上げたバリケードが待ち構えている。その後ろにはブローニングM2重機関銃やMG3が設置されており、たっぷりと弾薬の入った弾薬の箱を手にした兵士たちが俺たちを迎え撃つ準備をしている。
敵の戦車部隊はもう壊滅状態。残っているのは敵の歩兵のみ。
おそらくあそこを突破した後は室内戦になるだろう。宮殿の庭を制圧した後は、突入する部隊の装備を室内戦に向いた装備に変更した方がいいかもしれない。やはりショットガンやSMG(サブマシンガン)だろうか。
「潰すぞ」
「了解(ダー)♪」
アサルトライフルを腰に下げ、代わりに愛用のテルミット・ナイフを2本引き抜く。今まで数多の転生者を切り刻み、クソ野郎を葬ってきた2本のナイフの刀身は刃以外は真っ黒に染まっていて、普通のナイフのような光沢は全く持ち合わせていない。暗闇に落としてしまったら探すのに時間がかかってしまいそうなほど黒い刀身を持つそれを構え、隣にいるイリナに一瞬だけ目配せしてから―――――――雷属性の魔力を全身に分散させた。
まるで思い切り力を込めた後にその力を抜いてしまったかのような脱力感を感じる。高圧の魔力が一気に体内で減圧されていく感覚は、脱力感とほぼ同じなのだ。
身体の外に微かに漏れた魔力が蒼いスパークとなり、俺の身体の表面を駆け回る。
視力ではラウラの足元にも及ばないが、反射速度での勝負ならば俺の独壇場だ。飛来してくる銃弾すら回避できるほどの反応速度のおかげで接近戦はかなり得意なんだが、時折その反応速度に自分の身体が対応できなくなってしまう事がある。攻撃が見えているのに、身体がそれを回避できるほどのスピードを持ち合わせていないのだ。
そこで、この技を編み出した。
雷属性の魔力を全身に分散させ、身体中の神経への電気信号の伝達速度を極限まで上げたのだ。本来よりも速い速度で身体中の筋肉へと電気信号を伝達することで、この反射速度に身体を強引に適合させるのである。
ただし、これにはタイムリミットがある。普通の電線が耐えきれないほどの超高圧電流を流しているようなものだ。そのためいつまでも発動していれば、俺の神経もズタズタに破壊されてしまう。
それゆえに、発動していられるのはたった30秒だけ。それ以上発動できるかもしれないが、能力を解除した後にもまだ戦闘が続くことを考慮すると、30秒でやめておくのが一番かもしれない。
スパークを纏った俺を目の当たりにした敵兵たちが、機関銃をこっちに向けながら凍り付く。銃口を向けながら怯える吸血鬼たちを一瞥しながら笑い―――――――全力疾走を開始した。
12.7mm弾と7.62mm弾の入り混じった暴風雨が真正面から押し寄せる。被弾しても耐えられるかもしれないが、立て続けに被弾すれば転生者のステータスがある俺でも非常に危険だ。だから外殻で硬化して防いでいるのだが、今は外殻を使わない。
左手のナイフを逆手持ちにし、姿勢を更に低くする。前傾姿勢で弾丸の暴風雨を潜り抜けてナイフを振るい、目の前に迫っていた1発の12.7mm弾を叩き落す。
弾道がよく見える。猛烈な運動エネルギーを纏って飛来する弾丸がどのような弾道を描いて着弾するのかが容易に想像できる。
弾丸の速度”程度”では、今の俺は捉えられない。
「くそ、何だこいつ!? 弾丸が当たらない!?」
「バカ、よく狙え! 突っ込んできてるのはたった1人なんだぞ!?」
そうだ、よく狙え。弾丸を無駄使いするな。
姿勢を低くしたまま右に小さくジャンプし、俺の足を貫こうとしていた7.62mm弾の群れを躱す。続けてさらに姿勢を低くして12.7mm弾の下を掻い潜り、その直後に小さくジャンプ。空中で身体を捻りつつ、7.62mm弾のフルオート射撃を回避する。
全く当たらない。弾丸が貫くのは俺が置き去りにしたスパークだけだ。
でも、距離が近くなるにつれて身体を掠める弾丸が多くなってくる。そろそろ被弾してしまうのではないだろうか。
せめてあのブローニングM2重機関銃の射手を排除できれば――――――。そう思いながら射手を一瞥したその時、照準器を覗き込みながら俺を狙っていたその射手の首から上が、いきなり消えた。
20mmの銀の弾丸が、射手の首から上を食い破ったのだ。
そんな大口径の弾丸を放てる得物を使っている狙撃手は、彼女しかいない。
後方を見なくても、俺は今の狙撃で援護してくれた狙撃手の正体を理解していた。幼少の頃から常に一緒に過ごしてきたハヤカワ姉弟の片割れが、俺を狙っていた機関銃の射手を排除してくれたのだ。
ラウラが何を考えているかは何となく分かる。幼少の頃から一緒だったおかげで、口調や仕草ですぐに彼女が何を考えているのか察することができるのだ。逆にラウラも、俺の口調や仕草で何を考えているかが分かるという。
続けて、MG3で俺を狙っていた射手の上半身が弾け飛ぶ。貫通した弾丸が後方でアサルトライフルを構えていた敵兵の胴体を貫いたらしく、バラバラになった上半身の破片が宮殿の庭にぶちまけられた。
弾幕が薄くなったおかげで、俺は容易く距離を詰めることができた。
「タクヤ!」
「やれ!」
後方で待機していたイリナが、俺の返事を聞いてから1発のグレネード弾を放つ。それが着弾する筈の地点は、俺がこれから突っ込もうとしているバリケードの向こう側だ。そんなところに着弾すれば俺まで巻き込んでしまうのではないかと思ってしまうが―――――――そのグレネード弾が対人榴弾のように敵兵を殺傷するための砲弾でなければ、問題はない。
グレネード弾が着弾した瞬間、真っ白な煙がグレネード弾から漏れ出した。
そう、あれは対人榴弾ではない。スモークグレネード弾だ。
いくら身体能力が人間よりも優れているとはいえ、スモークのせいで何も見えない状態では彼らの強靭な身体能力は何の役にも立たない。逆に俺やラウラは幼少の頃から狩りを経験しながら育ってきたし、生まれつき聴覚や嗅覚が人間よりもはるかに発達しているから、視力を奪われた程度では何の支障もないのである。
躊躇せずにスモークの中へと飛び込み、吸血鬼たちの制服にこびりついた火薬の臭いを頼りにナイフを振るう。振り下ろしたナイフが肉に食い込み、鎖骨と思われる骨を断った感触を感じながら思い切り押し込むと、すぐ目の前で肩をやられた吸血鬼の断末魔が聞こえてきた。
そのままナイフをめり込ませつつ、くるりと回転して左手のテルミット・ナイフを他の吸血鬼のこめかみに突き立てる。このまま銀の粉末を叩き込んでやろうと思ったけど、もう既に絶命しているようだった。
2人からナイフを引き抜き、絶命した吸血鬼の死体を蹴り飛ばして後ろにいる他の吸血鬼と激突させる。いきなり戦友の死体をぶつけられてよろめいた隙に姿勢を低くしながら突進し、ハンドガンを引き抜こうとしたそいつの腕をナイフで切り裂いてから、顎へとナイフを突き立てる。
顎の骨と舌を貫通したナイフの切っ先が吸血鬼の脳を貫いて即死させる。すぐに引き抜いて次の獲物を狙おうと思ったけれど、もうスモークの中からは吸血鬼たちの気配は感じない。
このままここで戦うことは危険だと判断したのか、吸血鬼たちは宮殿の中へと撤退を始めているようだった。火薬の臭いが遠ざかっていくのを確認しながらスモークの外へと出ると、進撃してきた第二軍を食い止められないと判断したらしく、吸血鬼の兵士たちが宮殿の中へと走っていくのが見えた。
冷たい風が庭へと流れ込み、血と火薬の臭いが染み込んだスモークを吹き飛ばしていく。その中から姿を現した吸血鬼たちの亡骸を見下ろしながら、俺は息を吐いた。