異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
がくん、と大きく頭が後方に揺れ、叩き割られた後頭部から脳味噌の一部や頭髪が張り付いたままの皮膚の欠片が吹っ飛ばされていく。一緒に飛び散った深紅の血飛沫が美しい展望台の床を真っ赤に汚し、その汚れた床の上に、自分の流した血で一部に紅い痕が刻み付けられた白いドレスを身に纏った美しい女性が崩れ落ちる。
数分前まで、一緒に紅茶を飲んでいた吸血鬼の女王。彼女の主人であるレリエル・クロフォードの復活を目論む今の吸血鬼の指導者は、俺が放った弾丸によって頭を撃ち抜かれ、展望台の床の上に転がっている。
もし彼女が普通の人間だったのならば、これで終わりだった筈だ。そして彼女が普通の吸血鬼だったのならば、このまま再生することなく死体と化していた筈である。
けれども俺は、まだ銃口を彼女へと向けていた。頭を撃ち抜かれ、頭蓋骨を食い破った1発の銃弾に脳をズタズタにされて、”一時的に”屍になった彼女へとウェブリー・リボルバーの銃口を向けたまま、警戒を続けていた。
すると、ぴくりと彼女の白くて細い手が微かに痙攣し―――――――頭を撃ち抜かれた筈のすらりとした女性が、まるでベッドの上で目を覚まして起き上がろうとしているかのように、ゆっくりと起き上がり始めた。今しがた俺のリボルバーで撃ち抜かれた額の風穴からは未だに鮮血が溢れ出ていたが、やがて垂れ落ちてくる鮮血の量が減り、血痕だけになる。
額の風穴はもう塞がりかけていた。弾丸が抉った頭蓋骨はもう既に肉の中に埋まっていて、その肉も彼女の真っ白な肌へと吞み込まれかけている。やがて再生した真っ白な皮膚同士が結び付き合うと、もう既に弾丸が貫通した筈の場所には全く傷は残されていなかった。
吸血鬼の弱点である銀の弾丸で攻撃したにもかかわらず、これほど素早く再生してしまう。吸血鬼の中には弱点である筈の銀や聖水による攻撃を喰らっても再生してしまう強力な個体がいるが、こいつの主人であったレリエルや、彼から血を何度も与えられていたアリアはその”強力な個体”よりもはるかに強力な吸血鬼である。
当たり前のように太陽の光を浴びながら歩き、銀の弾丸で風穴をあけられても再生してしまう。複数の弱点で同時に攻撃しない限り、この怪物は殺せない。
お気に入りだったのか、真っ白なドレスの至る所に自分の血痕が刻まれたことを知ったアリアはため息をつきながら肩をすくめた。
「汚れちゃったわね」
「可哀そうに」
弁償はしないぞ。
もう一度この女を屍にしようと思ったが、俺がリボルバーのトリガーを引くよりも先にアリアが銃口を向けてきた。すらりとした銃身を持つルガーP08から弾丸が放たれるよりも先に身体を捻り、飛来してきた弾丸を回避する。
彼女の銃に装填されているのはごく普通の9×19mmパラベラム弾。.45ACP弾と共に、最新型の様々なハンドガンの弾薬として使用されている弾丸である。
外殻を使えば簡単に弾けるが、まだ”人間だった頃”の感覚が残っているせいなのか、敵の攻撃を察知すると、外殻で防ぐよりも避けようとしてしまう癖があるらしい。今のは外殻を咄嗟に生成しても間に合ったはずだと思って後悔しつつリボルバーの銃口を向け、もう1発彼女にお見舞いする。
9×19mmパラベラム弾よりも大口径の弾丸が彼女の腹へと喰らい付き、今度は内臓を滅茶苦茶にする。普通の人間であればそのまま崩れ落ちる筈だが、アリアは口の端からほんの少しだけ血を流して歯を食いしばり、こちらを睨みつけながらルガーP08での発砲を続行する。
吸血鬼にも痛覚はある。だから腹をリボルバーの弾丸で撃ち抜かれ、腸をズタズタにされる激痛も感じている筈だ。
けれども彼女は死なない。展望台の窓の外から流れ込んでくる日光を浴び、更に銀の弾丸を喰らっても死んでくれない。
吸血鬼の中には日光を浴びた瞬間に消滅してしまうような奴もいるし、体調を崩したり、身体能力が下がる程度で済む奴もいる。だがアリアの場合は、日光を浴びても身体能力がわずかに下がる程度で済むのだ。
21年前から、アリアは恐ろしい再生能力を持っていた。もしかしたら俺たちが交戦するよりも前からレリエルによって血を与えられていたのかもしれない。ヴリシア帝国で珍しい吸血鬼の奴隷として売られていた彼女は復活したレリエル・クロフォードによって助け出され、あいつの眷属となった。そして奴を討伐するためにヴリシアへとやってきたモリガンの傭兵たちと死闘を繰り広げたのである。
再生能力はレリエルほどではないが、現時点で最もレリエル・クロフォードに近いのは間違いなくこの女だろう。
更に血で真っ赤になったドレスに身を包む彼女が放った9×19mmパラベラム弾が、俺の右肩に喰らい付く。けれどもその一撃は、まるで戦車の装甲に弾かれた銃弾のような甲高い音を奏でながら跳弾すると、展望台の窓ガラスに激突して亀裂を刻み込んだ。
今度は咄嗟に外殻を生成して防いだのである。
俺のステータスならば、ハンドガン用の9mm弾が直撃したとしても皮膚を貫通されることはないだろう。基本的に転生者との戦いでは、攻撃力のステータスが防御力のステータスを上回っていない限り、相手の攻撃を喰らっても致命傷を負うことはなくなるのだ。更に相手の攻撃力よりもはるかに防御力が高い場合は、例え大口径の弾丸を顔面に喰らったとしても無傷で済む場合もある。
転生者が生み出した武器を転生者ではない仲間に渡した場合、その銃の攻撃力はそれを生み出した転生者のステータスによって決まる。例えば俺が端末で生産したハンドガンをエミリアたちに渡して使わせた場合、それはレベルの高い転生者に対しても絶大な殺傷力を発揮するが、まだ未熟な転生者が生産した得物をエミリアたちに使わせれば、レベルの高い転生者を殺すのはほぼ不可能になる。
もし仮にあのルガーP08をアリアに渡した転生者が俺よりもレベルが高かった場合、いくら銃弾の中でも威力の低いハンドガンの弾丸でも致命傷になる場合がある。それゆえに、俺は防御力のステータスにはほとんど頼らない。
外殻で防ぐか、躱すのだ。
すると、アリアは片方のルガーをホルスターの中へと突っ込んだ。代わりに目の前に村彩色の魔法陣を展開すると、そのすぐ前へと自分の右手を突き出す。魔術でも使うつもりなのかと思いつつリボルバーを向けていると、彼女はその魔法陣の中から1本のバスタードソードを召喚した。
刀身はまるで黒曜石で作られているかのように真っ黒で、表面には紫色の古代文字のような複雑な模様が刻み込まれている。闇属性の魔力が充填されているのか、その複雑な模様は何度も点滅を続けているようだった。
あれに斬られるわけにはいかない。
吸血鬼の身体の中には、かなり濃厚な闇属性の魔力がある。その闇属性の魔力を使った攻撃を喰らった場合、傷口を塞ぐためにヒールなどの治療魔術を使ったとしても、その濃厚な闇属性の魔力によって光属性の魔力による治療が阻害されてしまうため、傷口を塞ぐのは不可能になってしまう。
顔をしかめながら、俺はまたリボルバーをぶっ放した。しかしそのバスタードソードを召喚したアリアはその剣でリボルバーの弾丸を弾くと、切っ先を床にこすりつけながら一気に距離を詰めてくる。
すらりとした女性とは思えないほどの腕力で、彼女が強引に剣を振るう。右下から左斜め上へと振り上げられた剣を咄嗟に躱し、至近距離で彼女の脇腹に銀の弾丸を叩き込むが、一瞬だけ歯を食いしばった彼女は俺の顔を見下ろしながら笑った。
「効かないわよ?」
「その割には痛そうだな」
後ろへとジャンプしつつ、シリンダーに残っている弾丸を全てぶっ放す。再装填(リロード)するべきだろうかと思いつつポーチの中のスピードローダーを掴み取ろうとするが、リボルバーよりもアサルトライフルで射撃した方が効果的だと判断した俺は、先ほど座っていた椅子に立てかけておいたAK-12を素早く拾い上げ、安全装置(セーフティ)をすぐに解除。そのままセレクターレバーをフルオートに切り替え、片手でバスタードソードを振るうアリアへと発砲する。
しかしアリアはバスタードソードを振り上げたまま突っ込んできた。弾丸を何発叩き込まれても死なないからなのか、7.62mm弾が彼女の華奢な腰や腹に風穴を開け、肋骨や内臓を滅茶苦茶にしているというのに、アリアは突っ込んでくる。
ぞっとして後ろへと下がった瞬間、戦いを見守っていたリディアと目が合った。参戦させてくれと言わんばかりに刀の柄を握るリディアに向かって首を振りつつ、フルオート射撃を続行する。
アリアにとって、俺は主人であるレリエルの仇だ。俺をここまで呼び寄せたのは、俺と一対一で戦いたかったからに違いない。
11年前も、俺はこうやってレリエルと一対一で戦った。
それにあくまでも彼女が憎んでいるのはレリエルを殺した俺だ。だからその憎しみを受け止める資格は、俺にしかない。リディアには悪いが、彼女にはそこで見守ってもらうしかないのだ。
フルオート射撃に耐えきったアリアが、ズタズタになった腹や腰を再生させながら剣を振るう。振り落とされたバスタードソードを右へと回避し、床にめり込んだそれが振り上げられるよりも先に空になったマガジンを取り外す。普通の人間なら7.62mm弾を数発叩き込まれるだけで確実に絶命するのだが、アリアはマガジンの中に入っている30発の銀の7.62mm弾を叩き込まれても生きていた。
コッキングレバーを引き、そのままくるりと回転。体重を乗せながら思い切り重傷を彼女の顔面へと叩き込む。
がつん、と銃床がアリアの顔面を直撃し、まるで額に銃弾を叩き込まれたかのようにアリアが仰け反る。その隙に彼女の喉元に銃口を押し付けてトリガーを引くが、エジェクション・ポートから10個目の空の薬莢が排出された瞬間、アリアの華奢な手がAK-12の銃身を掴んだかと思うと、それを左側へと逸らしやがった。
「!」
「さっきから痛いじゃないの」
血を吐きながら笑うアリア。彼女の手を振り払おうとするが、両手に力を込めた瞬間に俺の腹に何かが突き付けられているような気がして、ぞっとしながら下を見下ろした。
彼女が左手に持っていたルガーP08のすらりとした銃身が、俺の腹に押し付けられていたのである。
彼女のように銃身を掴んで逸らしてやろうと思ったが、俺の両手はAK-12のハンドガードとグリップを握っている。間違いなく彼女がトリガーを引く方が早い。ならば外殻を使って銃弾を防ぐべきだろうかと思ったが――――――俺にはまだ、3本目の腕と言える尻尾がある。
キメラになった時に生えてきた尻尾だ。タクヤのように先端部が鋭くなっているわけではないが、こちらもサラマンダーのように堅牢な外殻に覆われている。咄嗟にそれを伸ばしてルガーP08の銃口を逸らそうとしたが――――――銃口が俺の腹から完全に逸れるよりも先に、アリアがトリガーを引きやがった。
皮膚に何かがめり込む感触がする。猛烈な衝撃を感じながら歯を食いしばり、思い切りアリアを蹴飛ばしてから距離をとった。
皮膚を貫通したのか? くそ、あいつに銃を渡した転生者はレベルが高い奴か…………!
傷口を確認する。皮膚は貫通されているが、辛うじて腹筋までは貫通されていないようだった。しかし9mm弾は左側の脇腹の腹筋にめり込んでおり、俺の血で真っ赤に汚れている。
エリクサーを飲もうと思ったが、蹴飛ばされたアリアがルガーP08の再装填(リロード)を終えていたらしく、回復させてくれなかった。
2発目の9mm弾が、AK-12で応戦しようとしていた俺の左足の太腿を直撃する。やはり皮膚を貫通して筋肉へと弾丸が食い込んだせいで身体がぐらりと揺れ、AK-12の照準が台無しになってしまう。闇属性の魔力を含んだ攻撃ではなかったのは幸いだが、このままでは彼女に殺されてしまう。
接近戦に変更するべきだろうか?
何とか体勢を立て直すが、彼女へと照準を合わせようとした頃には、もう既にルガーP08をホルスターに戻したアリアが、闇属性の魔力が充填されたバスタードソードの柄を両手で握りながら距離を詰めているところだった。
「ッ!」
これで斬られるのは拙い!
振り下ろされた刀身が直撃する筈の右側の肩を外殻で咄嗟に覆う。さすがにサラマンダーの外殻もろとも俺の身体を切り裂くのは不可能だったらしく、まるで石の壁に鉄骨を叩きつけたような金属音を発しながら、真っ黒なバスタードソードが弾かれてしまう。
しかしアリアはそれを想定していたらしく、右手をバスタードソードから離していた。そしてその右手を思い切り握りしめると――――――辛うじてバスタードソードを防いで安堵している俺の胸板に向かって、猛烈なパンチを叩き込みやがった。
先ほど銃弾に被弾したから分かるが、彼女のパンチが俺の身体に叩き込まれた瞬間の衝撃は、銃弾に被弾した時の衝撃よりもはるかに上だった。胸板を貫かれてしまったのではないかと思ってしまうほどの衝撃を感じた瞬間、胸骨に亀裂が入ったような感覚がして、猛烈な激痛が肥大化していく。
華奢な女性のパンチとは思えぬほどの衝撃で吹っ飛ばされ、そのまま展望台の壁に叩きつけられてしまう。起き上がりながら呼吸を整えようとすると、口の中からはかなり濃厚な血の臭いがした。よく見るとコートの襟や胸元の部分には血が付着していて、そこには俺の顎や口から血が滴り落ちている。
自分が血を吐いていたことに気付きながら、笑った。
レリエルとの戦いが終わってから、俺は訓練を続けてきた。何度も実戦を経験して自分の力を磨き続けたつもりだったが――――――アリアは主人を殺された復讐心を抱いたまま、俺を倒すために自分の力を高め続けていたに違いない。
主人を殺した怨敵を仕留め、主人を復活させるために。
彼女の復讐心が、俺の努力を上回ったのだ。
「ねえ、この程度なの? あなた、本当にレリエル様を殺した男?」
「――――――悪かったな」
「え?」
そうだな。こんな無様な戦い方をしてたら、レリエル・クロフォードに失礼だ。
俺を”好敵手”と呼んでくれた偉大な男に、失礼だ。
口元についていた血を拭い去り、血の臭いがする息を吐き出す。
相手がこれほどの力を持っているのならば、もういいだろう。――――――”本気を出しても”。
「正直言うと、本気を出して潰さなければならない相手だというのに少しばかり高を括っていた」
「へえ」
「だから今から―――――――久しぶりに本気を出させてもらう」
俺はこの世界で、最強の転生者と呼ばれている。今までに数多の転生者をこの世界から葬り、転生者以外のクソ野郎も狩り続けてきた。敵が格上ばかりだったおかげでかなり順調にレベルが上がり、ステータスもかなり強化された。
そのせいで色々と不便になった。攻撃力のステータスが上がり過ぎたせいで普通のスプーンを握ったつもりでもそれをへし折ってしまい、防御力のステータスが上がり過ぎたせいで躓いて壁に激突すれば、その壁の方が木っ端微塵になってしまうほどに強化されてしまったのである。
おかげで日常生活にかなり支障が出ているが―――――――アンロックされた”あるスキル”のおかげで、ステータスが5分の1に落ちてしまう代わりに、いつも通りの生活を送れるようになった。
今からそれを解除する。
「――――――王権拘束(マグナ・カルタ)、解除」
この王権拘束(マグナ・カルタ)というスキルは―――――――レベルが”9999”に達した転生者にのみアンロックされるかなり特殊なスキルである。基本的に転生者の能力は自分自身の能力を増幅させたりするものばかりなのだが、このスキルは逆に”全てのステータスを5分の1に下げる”というかなり特殊なものである。
一見すると足枷にしかならないようなスキルだが、さすがに9999に達し、全てのステータスの数値がカンストして”9”の羅列で統一されるほどになると普通に日常生活を送るのは難しくなってしまう。そのため俺にとっては、このスキルは必需品なのだ。
今の俺のレベルは―――――――9999。これが転生者のレベルの上限だ。
攻撃力と防御力とスピードのステータスも、全て9で埋め尽くされている。これが俺の、本当のステータスである。
5分の1にステータスを意図的に低下させた状態では、確かに彼女に失礼だからな。――――――だから、本気で彼女を倒す。こんなところで無様な戦いをしてしまったら、あの世にいるレリエルにも失礼だ。
アリアは俺が本気を出したことを察したらしい。先ほどまでは笑う事が多かったアリアの表情が変わり、目を見開いている。
「いい事を教えてやる。――――――今からの俺は、”5倍”だ」
吸血鬼のクソガキに、魔王の本当の力を見せてやる。