異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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キメラと吸血鬼の邂逅

 

 

 ホワイト・クロックと呼ばれる巨大な白い時計塔は、帝都サン・クヴァントの象徴である。ヴリシア帝国が建国されたばかりの頃に国内の一流の技術者たちが作り上げた純白の時計塔は、21年前にモリガンの傭兵とレリエル・クロフォードが激突した際に倒壊するまで、一度も破壊されたことはなかった。

 

 復元されたホワイト・クロックも、今のところは倒壊を免れている。周囲の建物が本格的な爆撃で木っ端微塵に倒壊し、降り積もった雪の下で瓦礫の大地を形成しているのに対し、純白の時計塔は灰を含んだ雪でほんの少しばかり黒ずんでいる程度だ。

 

 今のホワイト・クロックは、帝都の象徴である時計塔というよりは、このヴリシアの戦いで散っていった両軍の兵士たちのために建てられた慰霊碑のようにも見える。

 

 その巨大な時計塔の下層部は、火の海と化していた。

 

 その火の海を生み出しているのは兵士たちの放つライフル弾やグレネード弾。時折外で待機している戦車たちが滑腔砲から砲弾を放ち、敵兵たちを粉々にしていく。

 

 刀身に聖水を塗ったバスタードソードで近くにいる吸血鬼の兵士を真っ二つに両断したエミリアは、頭上から何度も響いてくる振動を感じながらちらりと天井を見上げた。この時計塔が倒壊し、復元される前までは観光客たちが長蛇の列を形成していたホワイト・クロックの1階は戦場と化しており、至る所に敵兵や味方の兵士の死体が転がっている。腹に弾丸を撃ち込まれて動けなくなった兵士が味方たちに引きずられて後退していき、こちらの放った弾丸で片腕を吹き飛ばされた吸血鬼の兵士がのたうち回る。

 

 今までに何度も見てきた、地獄だ。

 

 このような地獄の最前線で得物を振るい、仲間たちを鼓舞しながら帰り血まみれになって戦う男の姿は―――――――今はない。

 

 彼がいるのは最上階。吸血鬼の女王であるアリアと対決するために、リディアと共にヘリで最上階へと直接向かったため、ここにリキヤはいないのだ。先ほどから何度も響いてくるあの振動は、最上階で魔王と吸血鬼の女王が激突している音に違いない。

 

 左手に持ったクリス・ヴェクターのフルオート射撃で敵兵を薙ぎ倒しながら、エミリアは更に吸血鬼の兵士たちへと肉薄していく。いきなりバスタードソードを構えながら突っ込んできた女性を目の当たりにした吸血鬼の兵士たちは、いきなり時代遅れとなりつつある剣で攻撃を仕掛けてきた女性に驚いているらしく、目を見開いていた。

 

 この世界ではいまだに剣は現役で、スチームライフルへの更新が進みつつあるオルトバルカ王国騎士団でもいまだに現役の装備として用いられている。しかし、少なくとも現代兵器同士の戦闘では、ただの時代遅れの鉄の塊にすぎない。

 

 相手に接近し、思い切り振り下ろさなければ敵を殺せないのだ。それに対し銃はそもそも接近する必要がないし、照準を合わせてトリガーを引くだけでいい。弾がなくなれば一気に戦闘力は下がってしまうが、こちらの方がはるかにメリットが多いのである。

 

 それゆえに、銃を持つ相手に剣で挑むのはあまりにも非合理的で不利な戦いと言えた。

 

 銃を多用するモリガンの傭兵の1人でありながら、未だにエミリアが剣を手放さないのは、かつて騎士団の1人として戦っていた頃のこだわりである。非合理的としか言いようのない理由だが、彼女にとっては毎朝欠かさずに続けてきた剣の素振りや実戦で身につけた剣術の技術を、剣を捨てて銃を選ぶことによって捨てるわけにはいかなかったのだ。

 

 剣がやがて廃れ、飛び道具が主役になる時代がやって来ることは理解している。だからこそエミリアは、少しばかりそれに逆らってやろうとしたのかもしれない。

 

 バスタードソードを目の前の兵士に突き刺し、そのまま前進。腹を聖水を塗った剣で貫かれた吸血鬼の兵士は絶叫しながらもがくが、身体能力で劣る筈の人間であるエミリアの突進を食い止めることはできなかった。

 

 その兵士を盾にしながら前進したエミリアは、剣の柄から左手を離し、腰のホルダーからクリス・ヴェクターを引き抜く。照準を合わせずにそのまま発砲して弾丸をばら撒きつつ、盾にしていた吸血鬼の兵士を蹴り飛ばした彼女は、まだ刀身に聖水が残っていることを確認してから右へとジャンプした。

 

 まだ刀身に残っている聖水で、付着した吸血鬼の血が煙を上げながら消えていく。

 

「前進!」

 

 味方に向かって叫びつつ、先ほどの連射で空になってしまったクリス・ヴェクターのマガジンを取り外す。予備のマガジンを装着してコッキングレバーを引き、再装填(リロード)を終えた彼女の後方から、AK-12を手にした味方の兵士たちが追い付いてくる。

 

 それを確認したエミリアも、隠れていた石柱の影から飛び出した。先ほどから時代遅れの剣で何人もの吸血鬼を屠っていたため、さすがに敵も警戒し始めたのか、飛び出したばかりのエミリアを先ほどよりも濃密な弾幕が出迎える。

 

 しかしエミリアはそれをものともせずに走りつつ、懐から聖水の入った対吸血鬼手榴弾を取り出すと、被弾するのではないかと思えるほど近くを弾丸が掠めていくにも拘らず、それの安全ピンを引き抜いてから吸血鬼たちへと投げつけていた。

 

 手榴弾が炸裂し、破片や爆風と共に聖水をまき散らす。獰猛な衝撃波に押し出された聖水は水の刃と化し、周囲にいた哀れな吸血鬼たちの肉体を切り裂くと、その傷口から更に彼らの身体を溶かしていった。

 

「あああああああああッ!」

 

 爆風で片足を吹き飛ばされた吸血鬼の兵士が、絶叫しながらのたうち回る。彼を後方へと連れていく筈の味方の兵士も同じく聖水で身体を溶かされる激痛に苦しめられており、身動きが取れない状態だった。

 

 そこに、エミリアの姉であるエリスが率いる歩兵部隊が突撃していく。

 

 姉というよりは、エリスはホムンクルスであるエミリアのオリジナルである。エミリアはほんの少しばかり魔術による調整を受けているため若干容姿が異なる部分はあるが、基本的にこの2人はほぼ同一人物と言ってもいい。

 

 それゆえに、思考は似ている部分が多い。特に戦闘中に、エミリアが敵の隙を作ればエリスはすかさず突撃して、エミリアの思惑通りに大暴れしてくれる。逆にエミリアも、エリスが突撃しやすい状況を作ってくれればすかさず前に出て敵の傷口を広げ、彼女を支援するようにしている。

 

 突撃したエリスが、聖水を塗ったハルバードで次々に吸血鬼を切り裂いていく。斧の部分を思い切り床に叩きつけて一気に2人の吸血鬼を葬ったかと思いきや、そのまま先端部の槍を突き出して目の前の吸血鬼の頭を串刺しにすると、それを引き抜くと同時に、まるでハルバードを思い切り放り投げようとしているかのように回転して、何人もの吸血鬼をハルバードで両断していく。

 

 そしてエリスが攻撃を終えたのを見計らい、今度はエミリアも前進。エリスが両断した吸血鬼の死体を踏みつけながら跳躍し、天井を蹴ってから一気に急降下。まるで急降下爆撃機が爆撃で敵を撃破するかのように急降下したエミリアは、その勢いを乗せた剣戟でアサルトライフルもろとも吸血鬼を両断すると、崩れ落ちる直前の吸血鬼の死体にタックル。後ろにいた吸血鬼の体勢を崩してから、剣の切っ先を床にこすりつけつつ急迫する。

 

 床を掠めた切っ先から火花が散った。

 

「うっ…………!」

 

 吸血鬼がエミリアにG36Cを向けるが―――――――その指へと脳が発した”トリガーを引け”という命令が届くことはなかった。脳からの命令を指が受諾するよりも先に、エミリアが振り払った剣の刀身が兵士の腕にめり込み、命令を伝達する筈だった神経もろとも両断していたからである。

 

 床を掠めた状態から右斜め上へと振り上げられた一撃が吸血鬼の右腕を両断し、吸血鬼の頬に浅い切り傷を刻み付ける。その兵士は目を見開きながらも左手をホルスターに突っ込み、エミリアに一矢報いようとしたようだが、彼女と思考が似通っている”姉”がそんなことを許すわけがない。

 

 次の瞬間、エミリアの後方で吸血鬼を蹂躙していたエリスが、その吸血鬼の顔面へと思い切りハルバードを投擲した。聖水を塗られているハルバードは吸血鬼たちの返り血を消滅させる際に発生する白い煙を発しながら飛来すると、雄叫びを上げようとしていた吸血鬼の口の中へと飛び込み、そのまま上顎から上を捥ぎ取ってしまった。

 

 鮮血を噴き上げながら崩れ落ちていく吸血鬼。エミリアはエリスが投擲したハルバードを彼女に投げ返すと、礼を言ってから近くへと接近してきた吸血鬼を斬りつける。

 

「じゃあ、あとでダーリンと3人でイチャイチャしましょっ♪」

 

「はははっ、悪くないな」

 

 それは実現できそうだと思いながら、エミリアは兵士たちを率いて前へと進む。

 

 ホワイト・クロックの守備隊は最早総崩れだ。女王は現在リキヤと一騎討ちの真っ最中であるため身動きが取れない。そのため吸血鬼の兵士たちは、女王に指揮を執ってもらうことができないのだ。

 

 代わりに幹部クラスの吸血鬼が指揮を執っているのだろう。ある程度士気は下がってしまうが、少なくとも部隊が戦意を失うことはない。

 

 最早連合軍と吸血鬼たちの戦力差は比べ物にならなかった。第一軍だけでも3000人の歩兵がいるが、敵の歩兵の数は間違いなく500人を下回る。しかも中にはフィオナが意気揚々とばら撒いた異世界版パンジャンドラムの爆風で負傷したのか、身体に包帯を巻いた負傷兵の姿も見受けられる。血まみれの包帯を身体に巻き付け、銃を持つ手を痙攣させながら必死に抵抗する兵士を目にする度に情けをかけたくなってしまうが、モリガンの傭兵の1人としてそれは許されない。こちらに銃を向けている以上は、確実に葬らなければならないのだ。

 

 たとえその敵が、負傷兵であっても。

 

 頭に包帯を巻いた吸血鬼の身体をクリス・ヴェクターで撃ち抜きながら、エミリアは目を細めた。

 

 今しがた撃ち抜いた吸血鬼は随分と若い姿だった。吸血鬼の寿命は人間よりもはるかに長く、ある程度成長すれば老化も停滞するため長い間若い容姿が維持されるため、容姿で彼らの年齢を予測するのは難しい。しかし今倒した兵士の容姿は、もし人間であったのならば自分の子供たちくらいの年齢であったに違いない。

 

 歯を食いしばりながら軽く頭を振り、心の中から染み出し始めた情けを捨て去る。そのような感情は、この戦場では何の役にも立たない。

 

『て、撤退! 上の階に撤退だ!』

 

『負傷者はどうする!?』

 

『放っておけ! このまま留まっていたら全滅するぞ!』

 

(ふん、負傷者は放置か…………)

 

 この世界の公用語はオルトバルカ語という事になっているが、吸血鬼たちの母語はあくまでもヴリシア語である。そのため、エミリアはこの侵攻作戦が立案された時から少しばかりヴリシア語の勉強をしていた。

 

 敵の言葉を理解できれば、役に立つかもしれないと考えたのである。

 

 さすがに全てを聞き取ることはできなかったが、理解できた単語と敵の動きで、”負傷兵を置き去りにして撤退しようとしている”という事は理解できた。

 

 モリガン・カンパニーやテンプル騎士団では、絶対にやらない事である。どちらも敵には絶対に容赦をすることはないが、味方を置き去りにすることはない。例え敵の猛攻が続いているとしても、負傷した仲間は絶対に連れ帰る。

 

 味方を置き去りにして撤退していく敵に呆れていたその時だった。

 

 逃げ去っていく敵兵たちの向こうから、ゆっくりとこちらにやって来る人影が見えたのである。その人影も負傷兵を放置して去っていく吸血鬼たちに呆れているらしく、彼とぶつかりそうになった吸血鬼を一瞥してからため息をついていた。

 

 おそらくその人物も吸血鬼なのだろう。真っ黒なスーツと真っ赤なネクタイを身につけており、左目には片眼鏡をつけている。

 

(あいつは…………)

 

 徐々に近づいてくる吸血鬼の顔を睨みつけていたエミリアは、はっとした。

 

 撤退していく味方に呆れながらやってきた1人の吸血鬼は、以前に単独でリキヤを暗殺するために劇場へと潜入してきた吸血鬼の顔と同じだったのである。最終的にリキヤがあっさりと撃退してしまったものの、彼らの”プライドが高い”という気質を利用して激昂させようとしても怒りを抑え込んで冷静さを保ったらしく、リキヤは「あいつに心理戦を挑むのは骨が折れそうだ」と評していた吸血鬼だ。

 

 あの時とは明らかに威圧感が違う。遥かに格上の魔王を倒すために鍛錬を続けてきたのか、それともあの時は暗殺のために抑え込んでいたのか、今のあの吸血鬼は身に纏う威圧感の格が違う。本当にただの眷属なのかと思ってしまうほどである。

 

 その吸血鬼は広間までやってくると、近くで呻き声を上げていた負傷兵にエリクサーの入った瓶を静かに渡すと、後ろにある通路の入り口をちらりと見てからエミリアを睨みつけた。

 

「――――――久しぶりだな、魔王の妻」

 

 他の吸血鬼たちのようにヴリシア語で話すのではなく、流暢なオルトバルカ語だった。まだ少しだけヴリシア語特有の訛りが残っているものの、はっきりと聞き取れる発音である。

 

 どうやら向こうもエミリアの事を覚えていたらしい。

 

「ああ、久しぶりだ。傷は癒えたか?」

 

「もちろん。まあ、もし仮に癒えていなかったとしても私はここに立ったさ。――――――お前たちを止めるために」

 

 微笑みながらそう言った吸血鬼は、先ほどエリクサーを渡した部下たちがよろつきながらも後ろの通路へと逃げ始めたのを一瞥してから息を吐いた。

 

 エミリアはすぐに、この吸血鬼は他の吸血鬼と比べ物にならないほど手強い相手だという事を理解する。発する威圧感は当然ながら他の吸血鬼とは比べ物にならないが、彼の鋭すぎる眼つきが今まで何度も死闘を経験し、その経験を元に鍛錬を続け、自分の実力を磨き続けてきた男なのだという事を主張している。

 

 吸血鬼としてのプライドを持っているが、必要以上に威張らない。そのプライドを自分の失態で汚さないように、常に己を高め続ける。冷静沈着でストイックな、稀に見る尊敬できるタイプの吸血鬼である。

 

 このような戦士は人間であっても少ないだろう。そういう部分は、夫であるリキヤに似ている。

 

 目の前に立ちはだかった吸血鬼を睨みつけながら、エミリアはこの男と一騎討ちがしてみたいと思い始めた。自分も昔から鍛錬を続け、今まで死闘を何度も経験してきた傭兵である。彼らのような再生能力は持っていないが、鍛錬を続けてきた技術はどちらが上なのか、少しばかり勝負してみたい。

 

 ちらりと後ろを見てみると、エリスは苦笑いしながら肩をすくめていた。姉はエミリアが何を考えているのかもう見切ったらしく、後続の部隊に「あの吸血鬼はエミリアちゃんに任せて、私たちは上に行くわよ」と指示を出している。

 

 静かにバスタードソードの切っ先を吸血鬼へと向けると、その吸血鬼も懐からナイフを取り出した。典型的な吸血鬼であるならば必要以上に装飾のついた派手な武器を好む傾向にあるが、この男はそういう部分でもストイックなのか、彼が取り出したナイフは特に装飾がついていない実用性を重視した小型のナイフだった。

 

 バスタードソードに小さなナイフで挑むつもりなのかと、高を括るつもりはない。相手はそのような得物で生き延びているのだから、それの扱いに精通している。侮ってはならないのだ。

 

「――――――貴様の名は?」

 

「『ヴィクトル・ヨーゼフ・フォン・イシュトヴァーン』だ。お見知りおきを」

 

「分かった」

 

 ヴィクトルがニヤリと笑うと同時に、エミリアも笑った。

 

「――――――――――――エミリア・ハヤカワ、推して参る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 書庫を突破し、少数の兵士が警備していた通路を通り過ぎた先に広がっていたのは、他の部屋や通路よりも派手な装飾や真っ赤なカーペットが埋め尽くす、広大な空間だった。

 

 けれども何度も目にしてきた広い部屋とは明らかに違う。入り口の反対側には、やたらと派手な装飾のついたでっかい椅子が鎮座していて、綺麗な石の床をまるで通路のように覆っている真っ赤なカーペットは最終的にその椅子へと行きついていた。

 

 椅子の周囲には2段か3段くらいの階段のようなちょっとした段差があって、そこに座る物は周囲にいる者たちとはくらいが違うのだという事を強調している。巨大な金塊の中から削り出して作ったようにも見えるその椅子は、この帝国を治める皇帝が腰を下ろすための椅子である。

 

 オルトバルカ王国大使館からの避難勧告によって、戦闘が始まるよりも前に皇帝や貴族たちは退去してしまったため、ここにはもう吸血鬼以外は誰もいない筈だ。

 

 だから俺は、その豪華な椅子の上に腰を下ろして俺とノエルを見下ろす黒髪の少年に、容赦なくPP-19Bizonを向けていた。

 

 俺と同じく全体的にすらりとしているが、少女のような容姿をしているというわけではないし、男にしては華奢というわけでもない。むしろすらりとした身体にスマートな筋肉を上手く詰め込んだような体格をしているのが分かる。

 

 前髪の一部のみが金髪で、それ以外は黒髪という変わった色の髪が特徴的な少年は、皇帝が座る筈の椅子の上に腰を下ろし、自分がこの帝国を統べる男だと言わんばかりにこちらを見下ろしている。銃を向けられているというのに怯える様子はないし、むしろこれから自分に牙を剥こうとしている俺たちを嘲笑っているようにも見えてしまう。

 

 腹の立つ少年だが、それほど威張れるほどの実力も兼ね備えているという事は理解できた。

 

「よくここまで来たものだ。2人だけか?」

 

「お前は何者だ? 吸血鬼だよな?」

 

「ふん…………無礼だな。王子に対する礼儀作法すら習わなかったのか?」

 

 習ったっつーの。

 

 ちょっとばかりキレながら、俺は幼少の頃に何度も親父が招待された貴族のパーティーやお茶会にラウラと一緒に同行させられた時の事を思い出していた。おかげでそれなりに貴族と接する時のマナーは身につけたつもりだが、はっきり言うとあの経験は苦痛でしかない。

 

 無礼がないように注意しながら、延々と貴族の自慢話を聞かされるのである。もちろん途中でトイレに行くのは無礼なので我慢しなければならない。

 

 さすがにラウラが家に帰ってから「もう行きたくない」って親父に泣きついた時は、さすがの魔王も次からは俺たちを連れていくことはなくなったが、あの時は辛かった。

 

 だからそういうマナーを知らないわけではない。こんな傲慢な奴にちゃんとしたマナーで接する理由がないだけだ。

 

「名を名乗れ、侵入者」

 

「やかましい、撃つぞ」

 

「ふん…………」

 

 ため息をついたその少年は派手な椅子の上からゆっくりと立ち上がると――――――椅子の後ろに隠していたのか、漆黒のブルパップ式アサルトライフルを取り出した。

 

 少年が手にしているライフルは、イスラエルで開発された『TAR-21タボール』らしい。銃身が短くて軽いため扱い易いのが特徴で、使用する弾薬も命中精度が高い上に反動も小さめの5.56mm弾。魔物を相手にするならば威力不足だけど、対人戦ならば十分な殺傷力を誇る弾薬だ。アメリカのM16や日本の自衛隊が採用している89式自動小銃だけでなく、ドイツのG36などでも使用する弾薬である。

 

 扱い易い上に信頼性も高いため、タボールはブルパップ式アサルトライフルの中でも最強クラスのアサルトライフルと言える。

 

 吸血鬼の少年が手にしているタボールには、どうやら火力の底上げのためにグレネードランチャーが装着されているらしい。照準はチューブタイプのドットサイトのみで、ブースターらしきものは見受けられない。銃口の右側にはライトらしきものが装備されている。

 

「―――――――俺の名は『ブラド・ドラクル・クロフォード』。レリエル・クロフォードの息子だ」

 

「なっ…………!?」

 

 レリエル・クロフォードは伝説の吸血鬼だ。かつて一度だけこの世界を支配した吸血鬼の王であり、21年前にはこの帝都でモリガンの傭兵と死闘を繰り広げた男である。最終的に親父によって討伐されたが、討伐に成功した親父も満身創痍だったという。

 

 今でもマンガや演劇の題材にされるからよく耳にする。特に子供向けの絵本で悪役を演じるのはちょっとした定番になりつつある。

 

 そのレリエル・クロフォードに、子供がいるという話は今まで聞いたことがない。

 

 嘘だという可能性もあるが、もし仮に本当にレリエルの息子だったのならば―――――――俺やラウラのように、父親からあらゆる才能を引き継いでいたとしてもおかしくはない。

 

「…………ははははっ」

 

 面白いじゃないか。

 

 魔王(リキヤ)の息子の相手が、伝説の吸血鬼(レリエル)の息子なのだから…………!

 

 

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