異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
漆黒の制服に身を包み、同じく漆黒のターバンを頭に巻いた兵士の1人が崩れ落ちた。腹の辺りは彼の血で真っ赤になっており、そのほぼ中心には人差し指を突っ込めそうなくらいの大きさの穴が開いている。
敵の銃弾に撃たれたのだと理解した頃には、そのテンプル騎士団の兵士は石の床の上に崩れ落ちていた。敵が放つ銃弾が石の床に命中して跳弾を繰り返し、彼の身体の近くを掠めていくのをものともせず、歯を食いしばりながら手放してしまった自分のAK-12へと手を伸ばす。
しかし、あんな状態で戦闘が継続できるわけがない。すかさず数名の兵士が物陰から飛び出して、味方のLMGの射手に援護してもらいながら、その被弾した兵士を物陰へと引っ張っていく。
無事に倒れたピアノの影まで連れ込まれたムジャヒディンのメンバーだった兵士は、味方の治療魔術師(ヒーラー)からの治療を受けているところだった。幸い、5.56mm弾の殺傷力は7.62mm弾と比べると劣る。治療さえ終われば、すぐにあの兵士も復帰してくれるだろう。
安堵しながら、俺は目の前に積み上げられている残骸のバリケードの隅からMP5Kを突き出し、フルオート射撃をぶっ放した。銀の9mm弾は敵が隠れているバリケードの一部を軽く抉った程度だったが、身を乗り出して射撃しようとしていた吸血鬼たちの出鼻を挫くことはできた筈だ。
タクヤとラウラとノエルの3人が無事に敵部隊を突破してくれた後、強力な味方がいなくなってしまったせいでこちらの進撃が停滞するのではないかと危惧していたが―――――――むしろ、彼らが強引に突破してくれたことで敵が混乱し、一時的にだが隙だらけになったのである。相変わらずちょっとした消耗戦になりつつあるが、俺たちはじりじりと進みつつあった。
「チッ、弾切れだ!」
「ケーター、これ使いなさい!」
戦車の中に持ち込んでいたMP5Kのために用意したマガジンを全て使い果たしてしまった俺は、腰のホルスターからハンドガンを引き抜いて応戦しようとしたが、それよりも先にクランが自分のマガジンを俺に渡してくれた。
遠慮なくそれを使わせてもらいつつ、彼女に礼を言う。
「ありがとよ!」
「ふふっ。未来の夫に死なれたら困るのよ♪」
俺もだよ、クラン。未来の妻に死なれたら困る。
だから俺も、全力でお前を守る!
コッキングレバーを引いてから、素早く腰に下げていた手榴弾を取り出す。対吸血鬼用の聖水が入った手榴弾を取り出してから安全ピンを引き抜き、それを思い切り敵のバリケードの向こうへと放り投げる。
様々なサイズの弾丸が駆け回る室内の中を、その弾丸たちと比べればはるかに緩やかに回転しながら、マイペースな手榴弾が飛んで行く。やがてバリケードの縁にバウンドしたその手榴弾はまるで滑り台で遊ぶ子供のようにバリケードの向こうへと滑り落ちていくと、かつん、と石の床に落下する音で、敵兵に手榴弾の襲来を宣告する。
敵兵がヴリシア語で警告を発するよりも先に――――――手榴弾が炸裂し、数名の兵士が衝撃波と聖水に身体を破壊される羽目になった。
聖水を浴びて身体を溶かされている吸血鬼が、身体中から真っ白な煙を噴き上げながら、まるで火達磨になった人間のようにごろごろと床の上を転がる。すでに胸板や顔の皮膚は溶けて筋肉がむき出しになり、かなりグロテスクな姿になっていた。今まで経験した戦闘では様々な状態の死体を見てきたけど、皮膚を溶かされて筋肉を剥き出しにされた死体は見たことがない。
一瞬だけ目を瞑ってから、そいつの頭に銀の9mm弾を撃ち込む。もう既に筋肉まで溶かされ、頭蓋骨の一部と思われる白い何かがむき出しになりかけていたその吸血鬼の兵士は、頭に風穴を開けられると動かなくなった。
「GO! GO!」
今の手榴弾で敵兵が転げ回っているうちに、俺はクランを連れてバリケードを乗り越えた。後方にいる敵兵がG36をセミオートに切り替えて俺たちを狙撃してきたが、俺から見て左側に見えるバリケードの上で、円卓の騎士の1人であるステラがバイポットを展開したRPK-12のフルオート射撃をぶっ放し、すぐにその敵兵たちを黙らせてしまう。
更に彼女の傍らにいるイリナがサイガ12Kを連射し、生き残った敵兵を吹き飛ばしていく。彼女のショットガンは散弾ではなく、フラグ12と呼ばれる炸裂弾を連射できるようにタクヤが改造したらしく、着弾する度に対吸血鬼用の聖水を含んだ爆風を生み出している。
相変わらずイリナは爆発する武器を好んで使っているようだが、接近戦はどうするつもりなのだろうか。
けれども、あの理不尽な爆発で援護してもらえるのは頼もしい。ありがたく利用させてもらうとしよう。
突っ走りながらMP5Kのセレクターレバーをセミオートに切り替え、バリケードの影から頭を出した敵兵を的確に撃ち抜いていく。タンプル搭の地下にある訓練施設で何度もこのような室内戦の訓練を繰り返していたからなのか、俺は屋外での戦いよりもこのような場所での戦いの方が得意だ。
さすがにタクヤみたいな反応速度で対応することはできないが、俺も反応速度には自信がある。シュタージは基本的に舞台裏で行動することが多い部隊だが、このような戦いに投入されることもあるから、射撃訓練を始めとする戦闘訓練は欠かせないのである。
「うおっ!?」
「木村ぁ!」
手榴弾の爆発で混乱していた敵が段々と反撃を再開し始めたため、そろそろ物陰に隠れるべきだろうと思って近くに落下していたでっかいシャンデリアの影に滑り込んだ直後だった。
俺の後ろを付いて来ていた木村の胸元に――――――1発の5.56mm弾弾が、飛び込んだのである。
ぞっとした。前世の世界で生きていた頃から仲の良かった大切な友人が、もしかしたらこんなところで死ぬ羽目になるんじゃないかと思った瞬間、周囲で轟いている銃声が全てかき消されてしまったような気がした。
だが―――――――前世からタフだった木村は胸を撃たれた激痛を堪えると、何事もなかったかのように俺の隣へと滑り込み、呼吸を整え始めた。いつも着用しているガスマスクの下からは脂汗と血が混じった雫が零れ落ち、フィルターから漏れ出る呼吸が彼が感じている激痛がどれだけ強烈なのかを訴えかけている。
「おい、しっかりしろ!」
「だ、大丈夫…………死にませんよ、こんなところで」
素早くポーチの中からエリクサーを取り出し、容器の蓋を強引に取り外してからガスマスクを一旦外して一気に中の液体を飲み干す木村。やがて吸血鬼が傷口を再生するかのように彼の胸元の風穴が塞がっていき、そこから流れ出ていた血痕だけが置き去りにされる。
彼らの持つ再生能力を再現したかのような効果を持つエリクサーで傷口を塞いだ木村は、ポケットの中から端末を取り出すと、「少し待ってくださいね」と言いながら素早く画面をタッチし始めた。
やがて、彼の背中に燃料タンクのようなものが3つも出現したかと思うと―――――――そのタンクから伸びるホースの先に、バイポッドが装着された銃身を持つ銃が姿を現す。
木村が新たに装備した武器は、ソ連で開発された『LPO-50』と呼ばれる火炎放射器だった。第二次世界大戦後に開発されたものであるため、火炎放射器の中では新しい代物である。
とはいえ、火炎放射器が猛威を振るったのは第一次世界大戦と第二次世界大戦である。現代でも使用されることはあるが、当時のように火炎放射器を装備した兵士が敵に向かって使用することは殆どない。
「私が炎で敵の動きを止めます。その隙に前進を」
「はははっ、いいぞ。丸焼きにしてやれ」
「了解(ヤヴォール)」
吸血鬼は彼らの弱点で攻撃されない限り、死ぬことはない。けれども痛覚はしっかりあるらしく、弱点で攻撃されたわけではなくても激痛で苦しむ羽目になる。だから聖水と同じように火炎放射器の炎をぶちまけられれば、先ほどと同じように火達磨になりながらのたうち回る羽目になるという事だ。
木村は火炎瓶もいくつか生産して腰のホルダーに吊るすと、ガスマスクをかぶったまま呼吸を整え――――――シャンデリアの影から飛び出すと同時に、火炎放射器のトリガーを押した!
第二次世界大戦で活躍した火炎放射器と比べると、”銃”に近い形状のすらりとした銃身から勢い良く炎が吹き上がる。まるで太陽の表面を貫いて姿を現したフレアのような炎の奔流は、無数の火の粉と陽炎を生み出しながら敵の潜むバリケードを飲み込むと、木材ばかりを積み上げていたバリケードを瞬く間に火達磨にし、その周囲に隠れていた吸血鬼たちまで包み込む。
程なく敵の銃声が絶叫に変わり、一気に敵の弾幕が薄くなる。
燃え上がるバリケードの周囲では、やはり火炎放射器で火達磨にされた吸血鬼たちが絶叫しながらのたうち回っているところだった。皮膚と制服はすっかり真っ黒になっており、まるで吸血鬼と言うよりは焼死体が泣き叫びながらのたうち回っているように見える。原形を留めている部位など全く見受けられず、炎に包まれている敵兵は全員真っ黒だった。
火薬の臭いが、肉の焼ける臭いに変わる。
銃弾で撃たれて倒れる味方。たった1人の兵士が放つ火炎に焼かれて、火達磨にされる敵兵。
俺たちが今まで経験してきた戦場と、何も変わっていない。相手が人間ではなくて吸血鬼であったとしても、そこで殺し合いが行われることに変わりはない。
かつて前世の世界に存在した”平和な日本”での日常は、とっくに風化して非日常と化した。今は―――――――少なくとも、こうやって敵と殺し合いを繰り広げる方が”日常”だ。
目の前に死体があって、その向こうに敵兵の生き残りがいる。彼らは味方の仇を討つために俺たちに武器を向けていて、俺たちの話す言語とは違う言語で怒声を発しながら、俺たちを殺そうとする。
だから俺も、殺すことにした。
死にたくないから。
仲間を死なせたくないから。
死ぬなら、歳をとってお爺さんになって死にたいから。
できるならば、子供や孫たちに看取られて死にたい。だからそれを実現するまで、死ぬわけにはいかない。
「弾薬は足りてる!?」
「ナタリアか!」
シャンデリアの影から木村を援護していると、敵が火炎放射器を持つ木村を狙っている隙をついたのか、ナタリアがシャンデリアの影に滑り込んできた。脇には弾薬がたっぷりと入った箱を抱えており、俺が近くに置いておいたMP5Kの空になったマガジンを拾い上げた彼女は、素早くクリップを使ってそれに新しい弾薬を装填し始める。
「すまん、助かる!」
「どういたしまして!」
木村が火炎放射器から放つ炎はバリケードを飲み込み、壁へと燃え移りつつあった。
このままじゃ宮殿が火事になるんじゃないだろうかと思いながら、俺は苦笑いした。
11年前、魔王と吸血鬼の王が死闘を繰り広げた。
数多くの死闘を経験し、次々に強敵を倒して進化していった怪物の王と、かつて一度だけこの世界を支配し、伝説の大天使と死闘を繰り広げた吸血鬼の王。急速に成長した2人の”王”が、ついに激突したのである。
けれどもその激突は、人知れずに行われ―――――――
世界の運命を決めてしまうほどの重大な決戦が行われ、それに親父が勝利していたのを知ったのは、その決戦が終わってから一週間くらいしてからだった。
そう、俺の親父は―――――――あのレリエル・クロフォードを単独で討伐してしまったのである。
あらゆるおとぎ話や絵本の題材にされ、悪役として登場して子供たちを震え上がらせるレリエル・クロフォード。最後は大天使や伝説の勇者が現れて、彼を封印したり倒して世界を平和にするのがお約束だ。
そのような物語を目にする度に、実際にレリエルと戦った親父はいつも悲しそうな顔をしていた。そしていつも小さな声で、「あいつはこんな男じゃない」と嘆いていたのを今でも覚えている。
俺は実際にあったことはないが―――――――親父の話では、本当に気高い吸血鬼だったという。
サキュバスがステラを残して絶滅し、人類を脅かす恐ろしい種族が吸血鬼のみになった途端、サキュバスの殲滅のために手を組んでいた人類と吸血鬼の同盟関係はすぐに破棄された。第二次世界大戦で枢軸国を打倒するために手を組んだアメリカとソ連が、戦争が終わった瞬間にすぐに敵対したように。
そして、かつてサキュバスたちが煮え湯を飲まされてきたように、今度は吸血鬼たちが虐げられ始めた。世界中で濡れ衣を着せられた吸血鬼たちが人間たちに狩られ、女や子供は連れ去られて奴隷にされたのだ。
虐げられていた吸血鬼たちを救うために立ち上がったのが、吸血鬼たちの中でも強力な吸血鬼の一族であったクロフォード家。当時の当主だったレリエル・クロフォードは武闘派の吸血鬼たちをまとめて人類に反旗を翻し、ついには逆に人類を虐げられるほどにまで形勢を逆転させる。
最終的には人類の絶滅を防ぐために送り込まれた大天使によって封印され、吸血鬼たちは各地で狩られる羽目になったが―――――――現代でも、彼らにとってレリエル・クロフォードは英雄なのである。
俺たちの目の前にいるのは、そのレリエル・クロフォードの息子だ。
「ッ!」
咄嗟に硬化して、外殻でタボールの5.56mm弾を弾き飛ばす。外殻に命中した5.56mm弾はまるで戦車に弾かれた弾丸のようにあっさりと跳弾すると、甲高い音を奏でながらどこかへと飛んで行く。
5.56mm弾どころか7.62mm弾でも、俺の外殻を貫通することは不可能だ。その気になれば30mm弾も防げるみたいだが、さすがに戦車砲から放たれるAPFSDSは防ぎ切れない。戦車の複合装甲すら貫通する砲弾が直撃すれば、いくらキメラでも一撃で木っ端微塵である。
俺もPP-19Bizonを構え、スパイラルマガジンの中の9mm弾をばら撒く。照準器を覗き込んで照準を合わせてから射撃したつもりだったが、ブラドは俺は射撃するタイミングを既に読んでいたのか、ドットサイトを覗き込んでトリガーを引く頃にはもう既に銃口の前にはいなかった。吸血鬼の誇る驚異的な瞬発力と脚力をフル活用し、俺の目の前から姿を消したのだ。
残りのスパイラルマガジンの数を気にしつつ、一旦射撃を中断して後ろへとジャンプする。その直後、頭上から降り注いだ5.56mm弾の雨が深紅のカーペットを穴だらけにする。
一瞬でジャンプし、空中から反撃してきた…………!?
メウンサルバ遺跡やシベリスブルク山脈で戦った、あのやかましい吸血鬼とは明らかに格が違う。あいつは自分の再生能力を頼りにしていたのか攻撃を全く回避しなかったが、こいつは自分の再生能力を最初からあてにしていない。
相手の攻撃は回避し、攻撃している隙にカウンターで反撃する。そしてこちらが隙を見せれば徹底的に攻撃を叩き込む。圧倒的なスピードと驚異的な攻撃力を生かした、攻撃に特化した”本来の吸血鬼の戦い方”だ。
親父の話では、本当に手強い吸血鬼は自分の再生能力をあてにしないという。
「どうした? それでも魔王の息子か?」
「くそったれ…………ッ!」
久しぶりだな、こういう強敵と戦うのは………ッ!
俺が先ほど硬化で弾丸を弾いていたのを見てキメラだと気付いたのか、彼の猛攻に圧倒されている俺をブラドが嘲笑う。
タボールのマガジンが空になったらしいが、ブラドはまだ再装填(リロード)をするつもりがないらしい。イスラエル製のブルパップ式アサルトライフルを背中に背負うと、右手でナイフを引き抜きつつ、左手で腰のホルスターからコルトM1911A1を引き抜く。
あのナイフは、おそらくアメリカ軍で採用されている『M9バヨネット』だろう。M4やM16に銃剣として装着することもできるすらりとしたナイフだ。
俺もPP-19Bizonでブラドを射殺するのを諦め、ナイフとハンドガンで応戦することにした。得物を背中に背負ってPL-14とテルミットナイフを引き抜き、急迫してくるブラドを真正面から迎え撃つ。
ナイフのサイズはこちらの方が上だ。それに、対吸血鬼用に銀の粉末を刀身の内部に仕込んでおり場合によっては黒色火薬で相手にぶちまけることが可能だ。だから殺傷力ではこちらの方が上だが、刀身が長い上に分厚いという事は、スピードで劣るという事である。
それに対して、ブラドのナイフはアメリカ軍が使用するM9バヨネット。こちらよりもすらりとしている上に軽量で扱い易い代物だ。吸血鬼の誇るスピードと攻撃力をフル活用するために選んだのだろう。
白兵戦でも、少しばかり不利かもしれない。
ブラドは身体を少しだけ右に倒すと、右斜め下から左上へと体重を乗せつつナイフを振り上げてきた。得物が軽量だからなのかもしれないが、母さんの剣劇よりも速い気がする。
上半身を後ろに倒して回避しつつ、左手に持ったPL-14をブラドへと向ける。ナイフで反撃してくるだろうと予測していたのか、ブラドはぎょっとしながら回避しようとしたが―――――――上半身を倒そうとして足掻き始めた事には、もう既にマズルフラッシュに押し出された弾丸が、ブラドの眉間を食い破っていた。
がくん、と頭を後ろへ揺らしながら崩れ落ちていくブラド。すると崩れ落ちていく途中で再生を終えたのか、頭を撃ち抜かれた筈のブラドは両足を使って踏ん張り、そのまま起き上がると、至近距離でコルトM1911A1をぶっ放しやがった。
「!」
「お兄ちゃんッ!」
右腕が、弾丸に突き飛ばされる。
外殻が皮膚を覆うよりも先に着弾したコルト・ガバメントの.45ACP弾は猛烈な運動エネルギーを俺の右腕に叩き込むと、皮膚を食い破って筋肉へと突き刺さり、そのまま動かなくなる。
レベルを上げてステータスも強化された筈だったが、皮膚を貫通するほどの威力か…………!
やはり、あまり転生者のステータスはあてにしない方が良さそうだ。こいつに銃を与えた奴はかなりレベルの高い転生者らしい。
「…………これで1回ずつだな」
「ああ…………」
まだ右腕に突き刺さっている.45ACP弾を引き抜いてから、辛うじてテルミットナイフを握り続けている右腕に何度か力を込める。筋肉に弾丸がめり込んでいたんだが、何とか指には力が入るし、大きな支障はなさそうだ。
あいつは1回殺した。だが、あいつはそれだけでは死なない。
複数の弱点で攻撃しなければ、強力な吸血鬼は死なないのだ。
「―――――――タクヤっ!」
「ラウラ!?」
エリクサーで回復するべきだろうかと思いながらブラドを睨みつけていると、後方の巨大な扉の方からラウラの声が聞こえてきた。もうレナを片付けて合流したのだろうか。
彼女にレナの相手を任せてから10分くらいしか経過していないというのに、もうレナを倒したのか? びっくりしながら扉の方を振り向くと、やはり黒いベレー帽をかぶった赤毛の少女が、俺の得物よりもはるかに巨大なボルトアクション式のアンチマテリアルライフルを構え、早くもブラドへと照準を合わせているところだった。
「ふん、スナイパーか」
「その通りッ!」
20mm弾がT字型のマズルブレーキがついた銃口から放たれ、ブラドへと向かっていく。ラウラの狙撃はいつも正確で、百発百中が当たり前だったが―――――――ブラドは身体を捻りつつ左へとジャンプしてラウラの狙撃を回避すると、空中でコルト・ガバメントのトリガーを引いて連続射撃。ラウラに.45ACP弾を叩き込もうとする。
ラウラはボルトハンドルを引きながら右へとダッシュ。そしてジャンプして弾丸を回避しながら空中で銃身の長いアンチマテリアルライフルを操り、ブラドを再び狙撃する。
普通の兵士ならば、アンチマテリアルライフルはバイポットを使って狙撃するが、ジャンプしながら狙撃できるのはおそらくキメラの兵士くらいだろう。しかもそんな撃ち方で命中させられるのは、間違いなくラウラだけだ。
案の定、今度の一撃はジャンプ中だったブラドの左足を太腿から捥ぎ取った。彼の太腿に大穴が開いたと思うと、その風穴が徐々に広がっていき、最終的に太腿から下が千切れ飛ぶ。
ざまあみろ。
「ラウラ、さすがにそれじゃ不利だ。こっちを」
狙撃を終えて俺の近くにやってきたラウラに、PPK-12を渡そうと思ってメニュー画面を開いたその時だった。
ラウラの狙撃で左足を捥ぎ取られ、傷口を再生させていたブラドが、俺が開いた蒼いメニュー画面を直視したまま凍り付いたのである。今まで俺たちの事を嘲笑っていた吸血鬼の王子の表情が変わり――――――徐々に、どす黒い憎悪が滲みだす。
そんな憎悪を剥き出しにするなら、もっと早く剥き出しにしていてもいい筈だ。俺はあいつの父親を殺した男の息子なのだから。
なのに、どうして今更剥き出しにする…………?
「その能力…………はっはっはっはっはっ…………。そうか…………よりにもよって、お前が”
「ツヴァイ…………?」
何のことだ? ツヴァイ?
どういう意味だ?
すると、左足の再生を終えたブラドは笑いながらゆっくりと立ち上がり――――――左手を目の前に突き出した。魔術をぶちかますつもりなのかもしれないと思って身構えると、彼の目の前に魔法陣の代わりに、深紅のメニュー画面が姿を現す。
そう、色以外は俺と全く同じデザインの、あらゆる能力や武器を生産できる便利なメニュー画面。
端末を持つ転生者ではなく―――――――生まれた時から、その能力を身につけている俺と同じタイプの転生者………!
バカな!? こいつも転生者なのか!?
「知ってるだろ? 俺と同じタイプの転生者なら………!」
「どういうこと…………?」
ラウラがそう言いながらこっちを振り向いた瞬間、俺は凍り付いた。
俺が前世の世界で死亡し、この世界で生まれ変わった転生者だと知っているのは今のところ親父のみ。俺がタクヤ・ハヤカワとして生まれ変わった転生者だという事は、エリスさんや母さんどころかラウラさえも知らない。
同じタイプの転生者と遭遇してしまったせいで、暴かれてしまうのだ。
俺が、転生者だという事が。
もっと早く言っておけばよかった。拒絶されるのは怖かったけれど、もっと早い段階で告白して認めてもらえばよかった。
すまない、ラウラ。
そうだよ、俺は転生者だ。今まで狩り続けてきたクソ野郎共と同じ転生者なんだよ。
俺はずっと、最愛のお姉ちゃんを騙していたのだ。
「お前が
「!?」
そのニックネームを聞いた瞬間、俺はぞっとした。
ブラドが言ったニックネームは、前世の世界で死亡した水無月永人の愛称だ。しかも俺をそのニックネームで呼んでいた男は、1人しかいない。
確かにそいつも、俺と一緒に死んだ。修学旅行に向かう途中に起きた飛行機事故で、クラスメイト達と一緒に死んだのだ。俺と同じ事故が原因で死亡したのだから、彼もこの世界で生まれ変わっている可能性もある。
けれども、どうして俺に憎悪を向ける?
俺は何もしてないぞ…………?
友達だったじゃないか…………!
姉を騙していた罪と―――――――前世の世界で死んだはずの、親友の憎悪。
その2つを突き付けられながら―――――――俺は、俺に憎悪を向ける親友の名を呼んだ。
「――――――――なんでだよ、弘人(ひろと)ッ!!」