異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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キメラVSブラド

 

 

 ナイフを構えたまま姿勢を低くして突進し、ブラドが放つコルト・ガバメントの.45ACP弾の連続射撃を掻い潜る。猛烈なストッピングパワーを誇る弾丸たちがフードの上を掠めていき、後方にある壁の豪華な装飾を滅茶苦茶にしてしまう。

 

 弾丸を掻い潜りながら、俺はあいつが発砲した数を数えていた。ちなみに今しがた俺の弾の上を掠めていった弾丸で6発目になる。

 

 コルトM1911は極めて優秀なハンドガンの1つで、第一次世界大戦や第二次世界大戦で活躍しただけでなく、現代のアメリカ軍でも使用されている銃である。信頼性や汎用性の高さと、使用する.45ACP弾の誇る凄まじいストッピングパワーは最新型のハンドガンにも引けを取ることはないが、ちょっとした欠点がある。

 

 それは――――――弾数だ。

 

 コルト・ガバメントのマガジンには7発まで弾丸を装填することができる。薬室の中にも1発だけ装填できるから、合計で8発だ。最新型のハンドガンの中には10発以上も弾丸を装填できるマガジンを持つ代物もあるため、そのようなハンドガンと比べると、コルト・ガバメントの弾数は少ないのである。

 

 最後の弾丸が俺の頭の上を掠めていったのを確認しつつ、俺は一気に加速。片手に持っている飛び道具が弾切れになっているブラドへと一気に肉薄する。

 

「!」

 

 懐に飛び込んできた俺を睨みつけながら、ブラドはコルト・ガバメントを投げ捨てた。素早くナイフを引き抜いて最初の一撃を受け止め、更に振り下ろした左手のナイフを正確に受け流すが―――――――残念ながら、俺には”もう1本のナイフ”がある。

 

 コートの下に隠していたそれをあらわにすると、一瞬だけブラドの顔が凍り付いた。

 

 あらゆる剣戟や弓矢を弾き飛ばし、無力な人間を嘲笑いながらブレスで焼き尽くす恐ろしいドラゴン。その中でも、戦闘力だけならばエンシェントドラゴンに匹敵すると言われているサラマンダーの外殻に覆われた蒼い尻尾が、まるでチンクエディアの刀身を思わせるような形状の先端部を揺らめかせながら躍り出たのである。

 

 サラマンダーのオスの特徴を受け継いだ俺の尻尾は、外殻に覆われていないラウラの尻尾と違ってしっかりと外殻に覆われており、そのまま振り回すだけでもまるで鋼鉄の鞭のように敵を撲殺できるほどの硬度を持つ。しかもラウラの尻尾よりも長いので、服の下に隠す際は困ってしまうがリーチは長い。

 

 しかも先端部の切っ先にある小さな穴からは、高圧の魔力を噴射することが可能なのである。それゆえに突き刺した状態で高圧の魔力を噴射すれば、この尻尾は疑似的なワスプナイフとして機能する。

 

 サソリの尻尾よりも恐ろしいキメラの尻尾が、3本目のナイフとしてブラドに襲い掛かる。

 

「尻尾か…………ッ!」

 

 同じようにナイフで受け流そうとするブラドだが―――――――腕よりも自由に動かせる尻尾は、より複雑な軌道で攻撃することができる。それゆえに”腕と同じ”対処法では、この攻撃を防ぐことはできない。

 

 唐突に、俺の尻尾がいきなり軌道を変える。頭上から襲来してブラドの脳天を串刺しにするような軌道だったその尻尾はいきなり動きを止めたかと思うと、ぐるりと時計回りに少しばかり回転して角度を変え、ブラドの脇腹を狙う。

 

 ナイフでそれを振り払うブラド。鋭い刃が俺の尻尾を打ち払うが、戦車に匹敵する防御力を持つ外殻で覆われた尻尾には傷すらついていない。

 

 その尻尾をブラドの右の手首に絡みつかせ、俺は彼を思い切り投げ飛ばした。

 

「ぐぅっ!?」

 

 あいつが吹っ飛んでいる隙に次の攻撃を仕掛けるべきだと思ったが、仲間は2人いる。狙撃が得意なラウラと、相手に触れるだけで標的を自殺させることができるノエルである。

 

 俺が追撃するよりも先に、2人が吹っ飛ばされたブラドに追撃する。ノエルのPP-19Bizonから放たれる容赦のない9mm弾の嵐がブラドの片腕にいくつか風穴を開け、回避するために走り出したブラドの両足をラウラの正確な狙撃が吹き飛ばす。

 

 しかし、弘人(ブラド)はレリエル・クロフォードの息子。銀の弾丸で手足を捥ぎ取り、身体に風穴を開けた程度では死なない。複数の弱点で同時に攻撃する必要がある。いくら強力な再生能力を持つ個体でも、弱点で攻撃されれば再生速度は鈍る。弱点の種類が増えていく度に再生能力はどんどん鈍化していき、最終的に傷口を塞げなくなる。

 

 メニュー画面を開き、素早くソードオフ型に改造した2丁のウィンチェスターM1895を装備する。モシン・ナガンと同じく7.62×54R弾を使用するので、ハンドガンの弾丸よりもはるかに殺傷力が高いのだ。

 

 両足を再生させながら立ち上がろうとするブラド。彼が動き始めるよりも先に腰に下げている手榴弾を1つ取り出し、安全ピンを引き抜いてから投擲する。

 

 かつん、と床の上に落下したそれを目の当たりにしたブラドが目を見開く。弱点で攻撃しない限り死ぬことはない吸血鬼に、ごく普通の手榴弾ははっきり言って何の意味もない。爆風と破片で敵兵を瞬く間にミンチにしてしまう恐ろしい手榴弾でも、銀や聖水で攻撃できない限り吸血鬼をミンチにすることはできないのだから。

 

 それゆえにブラドは、その手榴弾が普通の手榴弾ではないという事を瞬時に見切った。飛び散る破片を銀に変えたか、それとも炸薬を減らし、その代わりに聖水を注入した対吸血鬼用の手榴弾だと理解したのだろう。

 

 彼が慌てて床の上を転がりつつ姿勢を低くした直後、それが炸裂した。

 

 炸薬を減らして聖水を注入した代物のため、爆発は普通の手榴弾と比べると地味だし、破片が飛ぶ距離も短くなっている。しかも聖水の量もそれほど多いわけではないため、標的と少しでも距離が開いていると飛び出した聖水が爆発の熱で蒸発してしまうという欠点があるものの、ブラドはその聖水と爆風が吸血鬼をミンチにしてしまう範囲から逃れることはできなかったらしい。

 

 部屋の向こうへと何かが飛んで行く。断面から小さな肉片をまき散らし、鮮血を噴き上げて回転しながら吹っ飛んで行ったのは―――――――ブラドの左腕だった。

 

 どうやら爆風で肘から先を捥ぎ取られたらしい。石の床の上では吹っ飛ばされた左腕の断面を押さえながら、呻き声を上げつつ立ち上がろうとするブラドが見える。

 

「ぐあぁぁぁぁ…………ッ! く、くそ、この―――――――キメラ風情がッ!」

 

「黙れよ」

 

 もう、友達じゃない。こいつは敵だ。

 

 左手に持ったウィンチェスターM1895のトリガーを引きながら、俺は弘人と一緒に学校生活を送っていた頃の思い出を捨て始めることにした。

 

 銃身を切り詰めたライフルの猛烈な反動(リコイル)を感じながらスピンコック。くるりと回転した古めかしいレバーアクションライフルからライフル弾の薬莢が飛び出し、内部で次の弾丸が装填される。

 

 その間に右手のレバーアクションライフルも発砲し、それをスピンコックしている隙に左手のライフルで発砲。ナイフを拾い上げて俺の方へと接近してくるブラドをライフル弾の集中砲火で迎え撃つ。

 

 銃身を切り詰めたせいで命中精度はかなり低下しているが、ライフル弾の持つ圧倒的な殺傷力は健在だ。命中すれば吸血鬼と転生者の能力を併せ持つブラドでも動きを止めるに違いない。

 

 とはいえ、あまり連射すればすぐに弾切れになってしまう。このレバーアクションライフルに装填できる弾丸は僅か5発。一般的なリボルバーよりも少ないのだ。しかも装填するためにはループレバーを下げ、上部からクリップで5発の弾丸を装填し、それからループレバーを元の位置に戻さなければならない。

 

 その時、レバーアクションライフルに装着しておいた大型のピープサイトの向こうで、ブラドが仰け反った。

 

 くるりと小さなライフルを回転させながら彼を注視していると、俺の放った弾丸で額を撃ち抜かれたブラドは瞬時にその風穴を塞いで木っ端微塵にされた脳味噌を修復し、突っ走りながら姿勢を低くして、床に転がっていた得物を拾い上げる。

 

 漆黒のブルパップ式のアサルトライフルだ。マガジンはまだついていて、銃身の下にはアメリカ製のグレネードランチャーが搭載されている。ここへとやってきた時にあいつが持っていた、イスラエル製アサルトライフルのTAR-21タボールである。

 

 まだ弾が残っていたのか!?

 

 ぞくりとしながら横へとジャンプした直後、タボールの銃口からマズルフラッシュが溢れ出し、5.56mm弾を凄まじい勢いで連射し始めた。石の床に着弾する音を聞きながら空中で左手のライフルをスピンコックして発砲するが、ブラドはそれをあっさりと左へ移動して回避すると、マガジンの中に残っていたなけなしの弾丸を俺に向かってぶちまけてくる。

 

 もう、あいつの正体が前世の友人”だった”男だからという理由で躊躇することはなくなった。もう、あいつとは絶交しているのだから。だが、躊躇する理由を切り離したとはいえ、相手が強敵であることに限りはない。恐ろしい再生能力と驚異的な身体能力を兼ね備え、更に転生者の能力まで持っている強敵。あいつを殺すにはセオリー通りに複数の弱点で立て続けに攻撃するか、それともキメラの能力に頼るしかない。

 

 俺のレバーアクションライフルが弾切れになったことを悟ったラウラが、得物をアンチマテリアルライフルからSMG(サブマシンガン)に持ち替えて前に出る。彼女に礼を言いながら一旦後ろへと下がって片方のライフルをホルダーに突っ込み、ポーチからクリップで束ねた5発の7.62×54R弾を掴み取ると、ループレバーを下げて上部のハッチから弾丸を装填し、弾丸を束ねていたクリップを外してからループレバーを元の位置に戻す。

 

 もう片方のライフルも同じく再装填(リロード)しながら、ちらりとノエルを一瞥した。

 

 ブラドを確実に殺せる手段を持っているのは、彼女しかいない。彼女のキメラ・アビリティである自殺命令(アポトーシス)は、触れた敵を強制的に自殺させることができるという恐るべき能力である。しかも標的が吸血鬼のように弱点でなければ殺せないような体質であっても、彼女に命令されればわざわざ確実に自殺できる方法を自分で実行するのだ。

 

 例えば吸血鬼に命令を下せば、自分で銀のナイフを探し出し、それを自分の身体に突き立てて自殺してしまうのである。

 

 もしその対象がブラドでも変わらない筈だ。ノエルの自殺命令(アポトーシス)は拒否することができないのだから、ブラドは命令されれば自分で苦手な聖水を飲み込み、日光を浴びながら銀のナイフを自分の心臓に突き立てるに違いない。

 

 セオリー通りに追い詰めるか、俺たちが囮になっている隙にノエルに接近させて自殺命令(アポトーシス)を使わせれば、この勝負には勝利できるだろう。

 

 しかし、ノエルの能力を使うのは難しいかもしれない。

 

 ラウラの放つ9mm弾の弾幕を驚異的な瞬発力と動体視力でひたすら回避し、いつの間にか2丁のコルト・ガバメントを使って反撃しているブラドを見つめながら、俺はそう思った。

 

 ノエルの動きも素早いし、気配を消す技術もシンヤ叔父さんやミラさんから叩き込まれているため、彼女は暗殺向きだ。しかしブラドに忍び寄るのは難しいだろうし、もし仮に堂々と接近しようとしても、あんな瞬発力の相手について行けるわけがない。

 

 俺たちがあいつの足を撃ち抜いて動きを止めれば可能かもしれないが、それでも10秒から20秒程度で完治してしまう。

 

「ノエル、やれるか?」

 

 再装填(リロード)しながら訪ねると、彼女は首を縦に振った。

 

「やる」

 

「分かった。俺とラウラで援護する」

 

 セオリー通りに攻撃しつつ、接近するノエルを支援する。そして彼女の自殺命令(アポトーシス)で―――――――ブラドを殺す。

 

 彼女に向かって首を縦に振り、俺もピープサイトを覗き込む。俺よりも接近戦を苦手とするはずのラウラとブラドの戦闘に参加しようと思ったその時、ラウラの張る弾幕を掻い潜ろうとしているブラドが首に下げている首飾りのようなものが一瞬だけ見えた。

 

 非常に小さい上にそれの持ち主が凄まじいスピードで動き回っているため、それが何だったのかはすぐに判別できなかったが、目の当たりにしたそれの形状と特徴は、俺たちが探し求めている物だった。

 

 傍から見ればごく普通の鍵にしか見えないが、よく見るとそれの表面には鮮血のような紅色の電子機器を思わせる複雑で細かい模様が刻み込まれており、明らかに一般的な鍵よりも異質である。

 

 それは扉を開けるための物ではない。手に入れた者の願いを叶える能力を持つ、ヴィクター・フランケンシュタインが生み出した伝説の『メサイアの天秤』を手に入れるために必要な、3つの鍵の1つ。そう、俺たちが探し求めている最後の天秤の鍵である。

 

 こいつが持っていたのか…………!

 

 確かに合理的だ。幾重にも鍵をかけて金庫に保管するよりも、圧倒的な力を持つ猛者が肌身離さず持っていた方が、それを手に入れようとする者たちにとっては色々と難しくなる。けれども今の俺たちからすれば、むしろこっちの方がありがたい。

 

 こいつを殺してから、保管されている鍵を探す手間が省けるからな。

 

 ラウラもそれに気づいたらしく、攻撃をことごとく回避するブラドを見つめながらぎょっとしているようだった。

 

 レバーアクションライフルを発砲し、スピンコックを繰り返しながら俺も前に出る。ライフル弾がブラドの肩を掠めて壁の装飾を砕き、黄金の破片を床の上にぶちまける。再装填(リロード)を終えた俺が参戦したことを知ったブラドは、片方のコルト・ガバメントをホルスターの中に戻してから手榴弾を取り出し―――――――安全ピンを抜いてから、それを俺に投げつけてくる!

 

 回避しようと思ったが―――――――俺はその作戦を却下した。

 

 回避するよりも、強引に攻めよう。

 

 身体中を蒼い外殻で覆い、手榴弾の爆風を防御する準備をする。30mm弾ですら貫通できないほどの硬度の外殻なのだから、手榴弾程度で破壊できるわけがない。さすがにC4爆弾で爆破されたら木っ端微塵になっちまうかもしれないが、たった1個の手榴弾から身を守るには十分な防御力である。

 

 これを回避させることで俺が突っ込んでくるまでの時間を稼ごうとしていたらしいが、ブラドの予測通りにはいかない。

 

 逆に突っ込んできた俺にぎょっとしたブラドはコルト・ガバメントをこっちへと向けるが、予想を裏切って突撃してきた敵に銃口を向けてていいのか? お前がさっきまで戦っていた少女は――――――幼少期の段階で親父の狙撃の技術を全て超えた天才スナイパーだぜ?

 

「がっ―――――――」

 

 呻き声が聞こえてくるよりも先に、ブラドの左足の脹脛がアキレス腱もろとも抉れていた。左足に力を入れることができなくなったブラドの身体ががくん、と揺れ、体勢が崩れていく。いくら凄まじい瞬発力を持っていると言っても、片方の足のアキレス腱が20mm弾に被弾したせいで消滅してしまっている状態ではそれを生かすことはできないだろう。

 

 かつてラウラは、ナタリアが俺たちの仲間になる事になったフィエーニュの森の中で、スコープを装備していないアンチマテリアルライフルで正確に2km先にいるトロールのアキレス腱を狙撃したことがある。あの時は標的が大きかったとはいえ、スコープ無しのライフルで2km先から正確にアキレス腱を撃ち抜くのはほぼ不可能だ。

 

 そして今度は、距離が近いとはいえ自分よりもやや身長の高い少年のアキレス腱を撃ち抜いたのである。

 

 凄いな、お姉ちゃん。

 

 ブラドの傷口が蠢く。筋肉繊維の群れが荒れ狂い、弾丸に捥ぎ取られた部位を埋めるために急速に細胞を増殖させて成長し、互いに結び付き合う。そして8割ほど修復が終わった段階で、今度は皮膚の方も再生を始める。

 

 確かに素早い再生だ。彼らはキメラの外殻を羨ましがっているかもしれないが、俺たちからすればその再生能力の方が羨ましい。痛みは感じてしまうとはいえ、仮に頭を吹っ飛ばされたとしても生きていることができるのだから。

 

 彼の再生速度は速いけど、実際に彼の左足が再びブラドの命令を聞くようになるにはまだ少しタイムラグがある。そのタイムラグを活用させてもらおう。

 

 両手にソードオフ型に改造したウィンチェスターM1895を手にしているにもかかわらず、1発も撃たずに突っ走る。ブラドがコルト・ガバメントを乱射して悪足掻きを続けるが、激痛のせいで全然狙いが定まっていないし、命中したとしても外殻を貫通することはできない。命中した弾丸は跳弾する甲高い音を奏でながら吹っ飛んでいくだけだ。

 

 片方のライフルをホルダーに戻し、そのまま突っ走る。大慌てでブラドがメニュー画面を開き、この外殻を貫通できるほどの威力を持つ武器を装備しようとするが―――――――ラウラの容赦のない一撃がメニュー画面をタッチしていた腕を吹っ飛ばしたことで、頓挫してしまう。

 

「うぐぅっ!?」

 

「ありがと」

 

 もうアキレス腱は再生しているが―――――――俺はすでに、ブラドの懐に飛び込んでいた。

 

「!」

 

「それ、鍵だろ?」

 

 そう言いながら、左手をブラドの首元へと伸ばす。彼は左手に持ったコルト・ガバメントを連射してくるが、外殻に弾かれるだけだった。弾数の少ないコルト・ガバメントはあっという間に弾切れになってしまい、悪足掻きすらできなくなってしまう。

 

 彼が首に下げていた鍵を強引に掴み取ると、ブラドは目を見開いた。

 

 やはりこいつが首に下げていたのは――――――メサイアの天秤の鍵だ。俺たちが探し求めていた最後の1つの鍵を、こいつが持っていたのである。

 

 そのまま鍵だけ引き千切ろうとするが、ハンドガンを投げ捨てたブラドが俺の左手を掴んで抵抗を続ける。人間の頭を容易く握り潰せるほどの握力で左手を握ってくるが、堅牢な外殻を握り潰せるわけがない。むしろ逆に彼の指の骨が折れてしまわないか心配である。

 

「わ、渡してたまるか………それだけは………ッ!」

 

「そうかい」

 

 そう言いながらレバーアクションライフルで頭を撃ち抜いてやろうと思ったが――――――わざわざ7.62×54R弾を消費する必要はないらしい。

 

 もう既に、暗殺者はこいつの背後に回り込んでいたのだから。

 

 俺よりも小さくて細い手が、そっとブラドの肩に触れる。真っ黒なテンプル騎士団の制服に包まれたその手を睨みつけたブラドは、俺を迎え撃っている間に背後に忍び寄っていた暗殺者の存在に気付いてぎょっとしたらしい。

 

 ノエルは、確かに”触れた”。

 

「――――――――死になさい」

 

「なんだと!? ――――――!?」

 

 がくん、とブラドの身体が揺れる。俺の左手を掴んでいたブラドの手から力が抜けていったかと思うと、まるで俺を開放する気になったかのようにその手を離し、俺が向けようとしていたレバーアクションライフルを掴み取る。

 

 俺は抵抗しない。あくまでも、彼の自殺をちょっとだけ手助けしてやるだけだ。ついでに銀の粉末が充填されたテルミットナイフも渡してから、数歩後ろに下がる。

 

「か、身体が………ッ!? なっ、なんだこれは!?」

 

 もう既にブラドの身体は、脳が発する命令を聞き入れることができない。ノエルが発した”自殺しろ”という命令を実行に移し、それをやり遂げることしかできないのだ。

 

 自分の腕が自分の頭にライフルの銃口を突き付け、再生を終えたもう片方の手が銀の刃のナイフを心臓へと突き立てようとしているのを目の当たりにしたブラドの顔が蒼くなる。いきなり言う事をきかなくなった肉体が、自分自身を殺そうとしていることを理解したらしい。

 

 必死に抵抗しようとするが、無駄だ。ノエルの命令を拒むことはできない。

 

 手に入れたばかりのメサイアの天秤の鍵を握り締めながら、俺は踵を返す。

 

 この戦いの目的は鍵を手に入れることだし、絶交したとはいえ前世で俺を救ってくれた男だ。だから、自分よりも年下の少女の命令で自殺するという無様な最期は見ない。

 

 最後に、修学旅行に行く途中で彼と話していたことを思い出してから――――――親友だった男に、別れを告げた。

 

「―――――――じゃあな、弘人」

 

 あばよ、吸血鬼(ヴァンパイア)。

 

 俺が歩き出したと同時に、背後から銃声が聞こえてきた。

 

 その銃声は、俺の後ろにいた少年が散ったことを告げる銃声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 キメラは哺乳類?

 

ナタリア「そういえばサラマンダーって確か爬虫類だったような気がするんだけど、キメラの場合ってどっちなの?」

 

タクヤ「人間と同じだよ。というか、キメラはどんな遺伝子を持っているとしても基本的に人間と同じなんだって」

 

ナタリア「へえ」

 

ラウラ「えへへっ。キメラも”ふにゅう類”なのっ♪」

 

タクヤ「…………ほ、哺乳類じゃないの?」

 

ラウラ「ふにゃー…………間違えちゃった」

 

ナタリア「ふにゅう類はラウラでしょ…………」

 

ステラ「いえ、巨乳類にも分類できるかと」

 

ラウラ「ふにゃっ!?」

 

 完

 

 

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